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◆原告第24準備書面
第4 原発のぜい弱性等

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について- 目次

2016年(平成28年)9月12日

第4 原発のぜい弱性等

1 原告第9準備書面との関係

原告の主張は以下の通りである。

  1.  新規制基準は水素爆発防止のために、事故時の格納容器内水素濃度の規制を行い、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」において、格納容器内の水素濃度最大値を13%以下にすることを定めた。
  2.  被告関西電力は、大飯原発3、4号機の水素濃度最大値約12.8%として設置変更許可を申請した。しかし、関西電力の申請内容は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で定めた溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による水素の発生を適切に考慮していない。
  3.  審査ガイドに従って厳格な条件により解析すれば規制基準の13%を超える結果が生じる。したがって、大飯原発3、4号機は、新規制基準の要件を充たさない。
  4.  結論:重大事故時の格納容器水素爆発の具体的危険がある。

かかる原告の主張に対し、被告関電は認否・反論をしていない。

2 原告第10準備書面との関係

大飯原発や他の被告関電の加圧水型原発、また、大飯原発と同様、三菱重工業が重要な部品を作成した海外の加圧水型原発では、過去に以下の事故が実際に発生しており、これらはいずれも想定外の事故であった。そして、これらの事故はいずれも、巨大地震発生時に加わる力に連動して発生し、重大事故につながる可能性がある。

 燃料集合体からの放射性物質漏洩事故

(1) 燃料集合体2体から、漏れを確認(2010年2月1日)

(2) 4号炉で燃料集合体漏えい(2008年8月19日)

(3) 2号炉で燃料集合体漏えいに(2009年8月31日)

(4) 燃料集合体漏えい(2004年2月25日)

 1次冷却材漏出事故

(1) 1次冷却材ポンプから水漏れ(2007年9月3日)

(2) 1号炉で、余熱除去ポンプ空気抜き弁から1次冷却水漏れ(2005年9月20日)

(3) 1次冷却材から水漏れ(2005年1月9日)

(4) 原子炉格納容器内に1次冷却水漏れ(2005年3月7日)

(5) 2号炉で、湿分分離加熱器空気抜き管から蒸気漏れ(2007年12月15日)

(6) 3号炉の原子炉容器出口管台溶接部に割れが確認された(2008年4月17日)資料<10>

(7) 3号炉で原子炉容器上蓋から1次冷却水漏れ。管台溶接部に割れ(2004年5月5日)

 大飯原発と同型の他の被告関電の加圧水型原子力発電所等における主要な事故

(1) 関西電力・美浜2号機の二次冷却水の伝熱管破断(1991年2月9日)

(2) 関西電力・美浜3号機原子炉で一次冷却水漏れの事故があったことが発覚(2002年11月)

(3) 関西電力美浜3号機の二次冷却水噴出事故(2004年8月9日)
この事故では死者が出ている。

(4) サン・オノフレ原子力発電所の蒸気発生器の伝熱細管破断事故
2012年1月には、アメリカ合衆国の「サウス・カリフォルニア・エジソン社」(以下、「SCE」と略称)経営のサン・オノフレ(San Onofre)原発で1号機の蒸気発生器の伝熱配管が損耗して水漏れが発生し、且つ放射能汚染水漏れも発生するという事故が発生した。日本の三菱重工製の蒸気発生器の配管の欠陥が原因であったところ、大飯原発も同社製であること。

これらの主張に対し、被告関西電力は反論していない。

3 原告第20準備書面関係

原告の主張は以下の通りである。

  1.  大飯原子力発電所の(1)外部電源、及び、(2)非常用取水設備は耐震Sクラスに分類されていない。したがって、基準地震動未満の地震により破損する可能性が高い。
  2.  非常用取水設備が地震により損傷すれば、最終排熱のための海水の汲み上げが不可能となる。この場合、原子炉補機冷却海水設備への海水供給による熱交換が所定通りにはできなくなり、原子炉補機冷却水の温度が異常に上昇し、崩壊熱除去設備による原子炉の崩壊熱除去機能が喪失し、その結果、炉心損傷に至る。
  3.  大飯原発は、最終排熱機能喪失に備え、「大飯3号機および4号機の取水口から復水ピットまでの距離は約1400mであり、約60本のホースを接続して敷設するとされている。」が、1系統しかない上に、余震が続く中では実現困難な作業である。
  4.  結論:基準地震動未満の地震でも、炉心溶融の具体的危険がある。

かかる原告の主張に対し、被告関電は認否・反論をしていない。

◆原告第24準備書面
第3 実際に重大事故が起きた場合の放射線被ばくや避難等の点

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について- 目次

2016年(平成28年)9月12日

第3 実際に重大事故が起きた場合の放射線被ばくや避難等の点

1 原告第3準備書面との関係

原子力発電(原発)の仕組み、ひとたび原発事故が起これば放射性核種が外界に拡散して人体に多大な影響を及ぼすことを指摘した。そして、実際の原発事故であるチェルノブイリ事故における人体被害の実相を告発した。また、我が国における放射線被ばく線量規制基準が政策的に緩和され、放射性物質による環境汚染そのものを規制する立法等が行われていない事実等を告発した。

しかし、被告関電は、放射性物質による影響を防止するための安全策を講じていると述べるのみで、具体的な認否反論を行おうとしない。

2 原告第6準備書面との関係

多重防護の考え方からすれば、原発における重大事故発生の可能性とは別個独立に、万全な避難計画を策定する必要があり、実際、アメリカやイギリスでは避難計画の策定が原発の許認可要件となっている。実際に福島第一原発の事故が起きた以上、原発における重大事故発生の可能性と、重大事故が発生した際の避難可能性は、別個独立の危険性の要件と考えるべきである。しかし、日本では、そうなっておらず、かつ、各自治体が策定した避難計画は様々な点で実現困難である。

ひとたび重大事故が発生すれば、近畿の広範な範囲で、住民が大量の放射線被ばくをする具体的な危険性があることは、滋賀県、兵庫県、京都府が算定、公表した各種のシミュレーション結果からも明らかである。
また、その際、琵琶湖等の水源が汚染されると、滋賀県のみならず、京都府、大阪府、兵庫県など広範な地域で水道水が高濃度に汚染される可能性がある。この点、東日本大震災の際、千葉県北西部では、実際に摂取制限すべきレベルの水道水を100万人単位の住民が無警告のまま飲用していた可能性が高い。琵琶湖が汚染された場合、影響が最も大きい可能性があるのは他ならぬ京都市である。

これらの諸点について被告関電は反論していない。

3 原告第12準備書面との関係

福島原発事故では、未だ、避難生活を余儀なくされているものがおり、コミュニテイの崩壊、格差等、深刻な被害を生み、被害が更に生み出されて続けていること、原発事故の被害が収束していないことは明かであり、その被害が甚大であることを、各種調査をもとに明らかにしてきた。

放射性物質による環境汚染の状況も深刻であり、原発関連死も日増しに増加している。国は、除染について進んでいるような錯覚を起こさせる動きをとっているが、除染には、限界があり、除染には限界があることは明かである。また、福島原発事故は、廃炉の点をとっても、廃炉は困難な点が各種あり、この点をとっても福島原発事故の被害の甚大性が明らかである。理の道筋がたっていないもとで、廃炉の困難性は明かである。

このように福島原発事故が甚大な被害を生み出し続けていることは享かであり、再び福島原発事故のような惨事が起こることのないよう大飯原発の稼働は決して許されないのである。

現在においては、原子力発電を行えば行うほど高レベル放射性廃棄物が増えていく状況であり、高レベル廃棄物を安全適切に処理する方法が全く見つかっていないこと、放射性廃棄物を長期間安全に保管し、人体等に影響を及ぼさないように完全にコントロールする方策も見つかっていない。従って、大飯原発の稼働は決して許されないのである。

これらの点について、被告関電は何ら認否・反論や主張をしていない。

4 原告第8171922準備書面との関係

原告らは、原告第6書面において避難計画の重要性を主張すると共に、福島原発事故を経てなお、避難計画には、多くの重大な問題点があることを指摘した。それらの問題点を、大飯原発より30キロ圏内である舞鶴市、綾部市、京都市左京区久多の例をもとに、具体的に指摘した。

これらの点について被告関電は何ら認否・反論をしていない。

◆原告第24準備書面
第2 規制基準の合理性等

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について- 目次

2016年(平成28年)9月12日

第2 規制基準の合理性等

1 原告第1準備書面との関係

国会事故調報告が指摘するとおり、日本は、訴訟リスク回避のため、世界標準である5層の深層防護に基づく法規制を行っておらず、新規制基準においても第5層が未整備のままである。

また、大飯原発3・4号機は、新規制基準策定前に政治判断で強引に稼働され、事実上の事前審査で新規制基準を満たしていない点が認められたにもかかわらず、稼働を停止しなかったという大きな問題がある。

かかる原告の主張に対し、被告関電は認否・反論をしていない。

2 原告第5準備書面との関係

国会事故調は、福島事故は人災であり、訴訟リスクにより知見の反映を判断するという本末転倒な規制の抜本的な見直しが必要と指摘している。

しかしながら、現行の規制組織も独立性・透明性に問題がある。また、新規制基準も、立地審査指針を除外している、単一故障の仮定が見直されず、外部電源に関する重要分類及び対審重要分類が変更されていない、重大事故対策が不十分、深層防護の第5層の避難計画が義務づけられていない、安全上重要な系統設備の多重性などの世界基準に到達していないという問題がある。

司法は、新規制基準の適合性の可否という観点にとらわれず、福井地裁のように市民の安全の視点から独自に判断すべきであり、それが福島第一原発事故後に求められるあり方である。

かかる原告の主張に対し、被告関電は認否・反論をしていない。

3 原告第7準備書面―立地審査指針―との関係

原告の主張の概要は以下の通りである。

  1.  「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」(昭和39年5月27日原子力委員会決定以下「立地審査指針」という)は,昭和39年5月27日以降,原子炉の設置審査において適用されてきた。立地審査指針の目的は、重大事故,仮想事故が起こり,それに起因する放射性物質が漏出したとしても,原子炉から一定の距離を非居住区域とすることにより,公衆の被曝を予防することにあり、事故前は、実務上国際基準である100mSvを基準として運用されてきた。この基準は、IAEA,及び米国においても採用されている。
  2.  平成24年12月、原子力規制庁が福島第一原発規模の事故を仮定して、放射性物質の拡散シュミレーションを行った結果、大飯原発では,放射性物質が南北方向に拡散し,陸側では,実効線量が100mSvとなる距離が,最大32.5km地点となる試算結果が報告された。したがって、かつての立地審査指針を厳格に適用すれば、大飯原発に敷地に立地できないことが明らかになった。
  3.  しかしながら、平成24年11月14日付原子力規制委員会記者会見において,田中委員長は,立地審査指針を100mSv基準に改正した上,再稼働の要件とする旨述べていたにもかかわらず,平成25年7月の新規制基準には,公衆の被曝量を基準とする立地審査指針は含まれず,審査指針として運用されない方針が採用された。すなわち,現在,公衆の被爆量を基準とする立地審査指針は,既設炉の審査基準とされていない。立地審査指針を採用しないことの問題点は、(1)代替措置たる「フィルタ・ベント」が放射性物質を完全に除去できないこと、その結果(2)シビアアクシデント時に住民を放射線被曝の危険を放置することである。すなわち、立地審査を行わない新規制基準は、公衆の被ばく限度の観点から審査を行っておらず、原発立地地域付近住民を被曝の危険に晒したまま放置しているものと評価できる。

以上の原告の主張に対し被告関電は反論を行っていない。

◆原告第24準備書面
第1 全体を通じて

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について- 目次

2016年(平成28年)9月12日

第1 全体を通じて

被告は、発生し得る地震の規模、地震動の大きさ、原発の重要施設の耐震性や想定される津波の高さ等については、原告の主張・立証に対して、独自の視点で反論をしている。しかし、それとて、東日本大震災後の今日、客観性、妥当性を欠くものであることは、すでに原告が主張・立証し、今後もする通りである。

しかし、一方で、被告関西電力は、原告が主張・立証した下記の諸点については、ほとんど、まともな反論をしていないのが現状である。

すなわち、まず、被告関西電力は、原告が指摘している新規制基準の根本的な問題点に対して何ら反論できない。被告関西電力は、「新規制基準」が完全無欠の基準だとでも主張するつもりなのだろうか。

また、被告関西電力の反論は、そのほとんどが、大飯原発の重要施設が地震・津波に耐えられるから重大事故がおこらない、という点に収斂しているところ、大飯原発が全体として地震に耐えられることすら反論できていない。水素爆轟の危険の防止、という、「新規制基準」で定められている点を大飯原発3、4号機がクリアできていない点について何ら反論できないのは異常である。それどころか、実際に大飯原発や被告関西電力の他の加圧水型の原発で、過去に重大事故につながりかねない想定外の事故が多発していることにも反論できない。これらの事故は、大地震など外からの力が加わったときこそ発生しやすいのに、である。

その先の、住民、その財産の放射能汚染、放射線被ばくの危険性、自治体の策定する避難計画の実現可能性に至っては、全くといって良いほど反論していない。

また、自然再生エネルギーなどが普及し、我が国の電力供給の上で、原発が必要ないという厳然たる事実についても、被告関西電力は何も反論していないに等しい。

原告の主張の要旨と、それに対する被告関西電力の対応の状況は、添付の表にまとめたとおりであるが、その要旨は第2以下で述べるとおりである。

◆原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について-
目次

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について-

原告第24準備書面[596 KB]

2016年(平成28年)9月12日

目次

第1 全体を通じて

第2 規制基準の合理性等

1 原告第1準備書面との関係
2 原告第5準備書面との関係
3 原告第7準備書面―立地審査指針―との関係

第3 実際に重大事故が起きた場合の放射線被ばくや避難等の点

1 原告第3準備書面との関係
2 原告第6準備書面との関係
3 原告第12準備書面との関係
4 原告第8,17,19,22準備書面との関係

第4 原発のぜい弱性等

1 原告第9準備書面との関係
2 原告第10準備書面との関係
3 原告第20準備書面関係

第5 原告第13準備書面(自然再生エネルギーの拡大)との関係

(原告の主張と被告関電の反論の対比表)
※準備書面(PDF)の12ページ以降に掲載されています。そちらをご覧ください。

◆原告第23準備書面
第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

1 基準地震動の不合理性を具体的に指摘した島崎邦彦氏

既に原告第16準備書面29頁以下において、島崎邦彦氏の「活断層の長さから推定する地震モーメント」を引用して主張・立証したところではあるが、とりわけ重要な部分でもあり、やや敷衍して述べる。

島崎邦彦氏は、日本を代表する地震学者であるというだけでなく、平成26年9月に退任するまで原子力規制委員会における地震関係分野担当の委員として、大飯原発をはじめとした数多くの原発の基準地震動の審査実務にたずさわった経験があり、被告等原子力事業者が言うところの「詳細な調査等」がどのようなものであるかを熟知している人物である。その島崎氏が、入倉・三宅(2001)の式による地震モーメントの過小評価のおそれについて、ひいては大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価となっているおそれについて指摘していることの意義は極めて大きい。

本年6月、規制委員会は、度重なる同氏の指摘を受けてようやく地震動を再計算したが、7月13日、別の式を使った再計算の結果でも基準地震動の範囲内に収まっているとして一旦は幕引きを図ろうとした。然るに当該計算過程に問題があるとの指摘を島崎氏から受けるや、今度は、同月27日、別の式を用いて計算した内容について「非現実的な結果になった」ことを、また別の式についても「今まで使ったことがない」ことを理由として基準地震動の見直しを否定した。しかし、問題のある計算過程を用い、あるいは見直しを行わない理由を変遷させ、計算結果を「非現実的」と決めつけること自体が「安全神話」に立脚したものに他ならず、再稼働の結論ありきの姿勢に他ならない。

2 活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難

まず同氏は、地震モーメントを活断層の長さから予測する場合、過小評価となる可能性があり注意が必要であるとする。これは、予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため、過小評価の可能性があるからである。

実際に活断層の長さが想定されたものよりも長かった場合として兵庫県南部地震や熊本地震の例があることは既に述べたとおりであり、活断層の大部分が地中を走るものである以上、事前の調査に大きな限界のあることは自明であろう。とりわけ大飯原子力発電所周辺に散在する活断層は海中にもあり、基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であり、実際の長さが被告関西電力の想定よりも長いことは十分にあり得ることである。活断層の長さが8キロ程度違うだけで地震の規模が2倍になることは既に述べたが、これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

また、大飯原子力発電所の南西に存在する上林川断層の東端が被告関西電力の主張するとおり県境付近であるのか、大飯原子力発電所の南南東に存在する熊川断層の西端はどうなのか、何の保障もない。熊本地震などで実際に目の当たりになったように実際の活断層の長さはより長い可能性が十分にあり、そうだとするとそれぞれの断層をそのまま延長させていけば大飯原子力発電所ないしその周辺にまで至る可能性もある。これらの活断層が実際には大飯原子力発電所の直下を走る可能性も全く否定できないのである。

このように活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難である。そのことは兵庫県南部地震や熊本地震によって実証されている。そうである以上、島崎邦彦氏が指摘するように過小評価となる危険性は十分に存在するのである。

3 入倉・三宅の式(2001)を用いた場合の過小評価の危険性

(1) 活断層の長さから地震モーメントを算出する計算式

日本の陸域及びその周辺の地殻内浅発地震(M7程度以上)について(いわゆる内陸型地震について)、断層長L(m)と地震モーメントMo(Nm)との関係式を平易な形で表現すれば次のようになる。

ただし<4>の入倉・三宅の式では垂直な断層が想定されており、断層の傾斜角を60度とした場合には係数が1.09から1.45へと変化する。

<1> 武村(1998)
Mo=4.37×1010×L2

<2> Yamanaka&Shimazaki(1999)
Mo=3.80×1010×L2

<3> 地震調査委(2006)
Mo=3.35×1010×L1.95

<4> 入倉・三宅(2001)
Mo=1.09×1010×L2

(2) 入倉・三宅の式は他の式と比べ1/3~1/4の過小評価となる

入倉・三宅の式(<4>)と他の式との差異は顕著で、同じ断層の長さを想定した場合でも係数の差によって3~4倍もの差が地震モーメントに現れてくることになる。入倉・三宅の式は、それ自体として、地震モーメントを他の式に比べて過小に算出する式なのである。その要因の一つは、入倉・三宅の式が北米中心の地震データを基にしているためであり(甲280[9 MB]「若狭ネット161号」7頁脚注7)、それをそのまま日本における地震に当てはめることには無理があるからである。もう一つは無論、活断層の長さや震源断層の不均質性などの測地データを事前に確実なものとして把握することが不可能だからであり、そのような測地データの限界によって入倉・三宅の式が過小評価となってしまうことは、入倉孝次郎氏も認めるところである(同7頁、入倉孝次郎研究所ホームページ)。このような、地震の規模を過小に評価することが明らかな式を原子力発電所の耐震性に関して用いることは極めて不適切という他ない。

そして、これを実際の地震について活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1995年兵庫県南部地震で検討したところ、原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると、地震モーメントが過小評価される傾向が明確に裏付けられた(甲230[782 KB])。

図《図省略》は、地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり、OBS=観測地、T=<1>式、YS=<2>式、ERC=<3>式、IM=<4>式である(甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。図のように、<4>入倉・三宅の式によって予測される地震モーメントは、実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多い。この値は、<1>~<3>の式と係数が3~4倍程度異なっていることと完全に整合している。

他の式によって予測される地震モーメントは実際の観測値にかなり近いものになるのに対し、<4>入倉・三宅の式の場合、その係数の差により、実際の観測値よりも1/3~1/4となる傾向があるのである。当然、地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

4 大飯原子力発電所にも妥当すること

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから、地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており、その結果、基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

しかも、島崎邦彦氏が入倉・三宅の式を適用するにあたって仮定した条件は、地震発生層の厚さを14キロ、断層傾斜角を(西日本の断層で標準的なケースである)垂直としており、傾斜角を60度とした場合には係数を1.09から1.45とするというものであるが(甲230[782 KB]甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)、被告関西電力が設定するFO-A~FO-B~熊川断層の条件は、地震発生層の厚さを15キロ、断層傾斜角を基本的には垂直とし、「不確かさを考慮する」として75度とするというものであり、双方の条件はほぼ同じであるから、島崎氏の指摘は大飯原子力発電所における基準地震動についても妥当する。島崎氏自身がそのことを言明しているところであり(甲282[42 KB]「陳述書」)、入倉・三宅の式の考案者である入倉孝次郎氏自身も、同式を「地震の揺れの予測に使う場合には、断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性はある」(甲283[77 KB]「毎日新聞記事」)と述べていることとも整合する。大飯原子力発電所のように断層面が垂直に近い条件設定下では、式の考案者自身が過小評価となる危険を指摘しているということになる。

よって被告関西電力が設定した基準地震動は、地震モーメントを実際に起こり得る規模よりも1/3~1/4も過小評価した上で算出されたものなのであって、低きに失する不合理なものであることは明白である。

5 島崎邦彦氏の指摘は基準地震動がいかに矮小な知見に基づくものかを示すものでもある

また、島崎氏の指摘に関連してもう1つ重要なのは、被告関西電力の設定する基準地震動が過小評価となっている具体的な可能性が、その設定後に示されたという点である。

原告第18準備書面29頁以下で述べたとおり、原子力発電所の新規制基準適合性に関する審査会合は現在もなお継続して開かれており、議論が続けられている。その議論の中で本件発電所(大飯原発)における地震や津波の想定は随時見直され、それに対する被告関西電力の対応も随時変化し、指摘を受けるごとに個別に対応するということが続いているのであり、「原子力規制委員会による審査」はなお途上であることが明らかである。
これは、基準地震動を設定した際に被告関西電力が用いた「知見」が、あくまでもその時点でのものにすぎず、その後随時更新され見直されるべきものである以上当然のことである。島崎氏の指摘も被告関西電力の設定した基準地震動が前提とする知見には限界があり、そのことを考慮して再計算すべきとするものであるが、これは、かかる原告らの主張を正に裏付けるものとなった。

被告関西電力の設定する基準地震動は限界ある狭い知見に基づいて策定されたものにすぎず、そもそもなんら信用できるようなものではないのである。

以 上

◆原告第23準備書面
第1 熊本地震を受けて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第1 熊本地震を受けて

1 M7クラスの地震が連続して発生したこと

熊本地震では、2016年4月14日に気象庁マグニチュード(Mj)6.5、震度7の地震(震源の深さ11キロ)が、同月16日には同7.3、震度7の地震(震源の深さ12キロ)が相次いで発生し、その後も余震が震度1から6まで無数に観測され、震度6強が2回、震度6弱が3回、震度5強が4回、震度5弱が8回、震度4が95回も観測されている(気象庁震度データベースより)。

内陸型(活断層型)地震でマグニチュード6.5以上の地震の後にさらに大きな地震が発生するのは、地震の観測が日本において開始された1885年以降で初めてのケースであり、また一連の地震活動において震度7が2回観測されるのも初めてのことであった。そのため気象庁自身が「今までの経験則から外れている地震」であると述べており、そのことを理由として、気象庁は通常規模の大きい地震の後には余震の発生確率を発表しているが、本地震では発表を取りやめるほどであった。かかる気象庁の見解は、これまで地震学において得られている知見が、いかにわずかな期間の観測記録に基づく、いかに不十分な知見でしかなかったことを如実に示すものである。

このように短期間に間にM7クラスの地震が連続して発生することを想定していた地震学者はおらず、当然、我が国における耐震基準もそのような事態を想定していなかった。だからこそ熊本地震では、1度目の地震では倒壊を免れた建物が2度目の地震によって相次いで倒壊し、人々に甚大な被害を与えるに至ったのである。翻って原子力発電所における耐震基準も、このようなM7前後の大規模な地震が連続して発生した場合のことを想定してものとはなっていない。これは、熊本地震が起こるまで誰一人としてそのような事態を想定していなかった以上当然のことである。原発を含む建物の耐震基準は、耐震構造等にダメージのない状態で発生した大規模な地震に対して耐えられるかどうかという観点から設定されているが、本件のように、1度目の大規模な地震で耐震構造等にダメージが入った状態でさらに2度目の大規模地震にまで耐えられるかどうかという観点は全く考慮されていない。だからこそ熊本地震で多くの建物が1度目の地震を耐え抜きながら2度目の地震によって倒壊してしまったのであるが、原発において連続して大規模な地震が発生した場合、果たして2度目の地震に耐えられるであろうか。そのような保障はまったくない。そして、熊本地震において「今までの経験則から外れている地震」が観測された以上、今後大飯原発等の原子力発電所において「それまでの経験則から外れている地震」が発生する可能性は誰にも否定できないのである。むしろ、2011年の東北地方太平洋沖地震も「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震であったが、日本で地震の観測が始まってから100年余りの間にそのような地震が繰り返し発生しているということは、今後100年余りの間にもそのような「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震が繰り返し発生してしまう可能性が高いことを意味している。

熊本地震は、地震学の知見がいかに矮小なものにすぎないか、今後も経験則から外れるような地震が発生する可能性がいかに高いかを示すものであると同時に、原子力発電所を含むこれまでの耐震基準が全く想定していなかった連続地震の発生の可能性を示すものとして極めて重要である。被告関西電力の主張についても、いかに矮小な地震学の知見に基づくものにすぎないか、経験則から外れるような地震が発生する可能性をいかに過小評価しているかが熊本地震によって明らかにされ、同時に、連続地震の発生の可能性という点に全く留意していないという致命的な欠点をも詳らかにされたのである。

2 M7クラスの地震の予知・予測は不可能であること

政府の地震調査委員会が作成した大地震の発生確率を示す予測地図によれば、熊本地震が発生する前の1月1日時点では、熊本市で震度6弱以上が発生する確率は7・6%であり、47都道府県で低い方から16番目、高い方から数えれば32番目であった(ちなみに京都市の確率は13%)。しかし、実際に大規模地震が発生したのは熊本だったのである。このことは、大規模地震の予知・予測が不可能であることを示している。

また、地震の前兆を示す異常地殻変動等も熊本地震について事前に全く報告されていなかった。これは、1995年1月17日の兵庫県南部地震と同じである。このことからも、大規模地震の予知・予測は不可能であることが分かる。

3 活断層の長さを調査によって明らかにすることは不可能であること

(1) 予測による活断層の長さと実際の活断層の長さとの間には乖離がある

熊本地震は内陸型地震であり、当該地域に存在する活断層が活動したことによって発生したものである。M7.3の地震を引き起こした活断層は布田川断層帯の東端の区間であり、その長さは元来約19キロとされてきたが、国土地理院の測地データに基づく暫定値では、今回の熊本地震で活動した部分はさらに8キロ程度長い約27キロであった。

その後、纐纈一起東大地震研教授らの手による強震・遠地・測地データのジョイントインバージョンによる震源断層モデル(下図)《図省略》では、断層長54キロ、断層幅16.5キロで、傾斜角75度の断層面を設定したモデルが、強震・遠地・測地データを一番よく説明できるとしている。この纐纈教授らの震源断層モデルは、2016年5月13日に発表された地震調査推進本部・地震調査委員会の「2016年熊本地震の評価」の報告にも採用されており、現段階で最も信頼性の高い震源パラメータである。図のなかで、黒太線が既知の活断層であり、青四角が実際に動いた部分である(すべり分布は赤色が大きく、青色が小さい)。この図からも、既知の活断層と実際に動いた部分とは一致しておらず、既知の活断層の延長線上に長く延びていることが確認できる。

このように、事前の活断層の長さに関する調査が限界のあるものであり、実際の震源断層の長さとは大きな乖離があることが明らかになったのである。

このように実際には事前に想定されていなかった長さの活断層が動いたという事例として、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震を挙げることもできる。M7.3であった同地震は震源領域の長さ50km超、深さ約5~18kmの断層面が一度に破壊して起こったものであるが、事前には短い断層の存在が何本か知られていたにすぎない。同地震においてこれほど長い活断層が動くとは想定されていなかったのである。初の近代都市における直下型地震であり甚大な被害を及ぼした兵庫県南部地震も、活断層の長さを事前に調査して明らかにすることは不可能であり、予測される長さと実際の長さとの間には乖離があることを明確に示している。

こうした地震発生前に予測される活断層の情報と実際の活断層の情報との間には乖離があり、地震の規模を活断層の長さから予測する場合に過小評価となる可能性があることは、元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏も指摘するところである(甲230[782 KB]甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。活断層は基本的に地中に存在するものであるから、その長さを事前に明らかにすることには自ずから限界があるのであり、いかに不確実な予測にすぎないかはこれまでの地震によって、あるいは元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏によって明確となっているのである。

(2) 活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である

既に原告準備書面2・脚注27で述べたところであるが、活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である。例えば、断層の長さ(L)とマグニチュード(M)の関係について松田(1975)の経験式によればlogL=0.6M-2.9と表される。そのため上記熊本地震の場合を例にとれば、<1>活断層の長さ19キロを用いるとM=約7.0となり、<2>国土地理院による測地的震源断層の長さから求められた27キロを用いるとM=7.2、<3>強震・遠地・測地のジョイントインバージョンから求められた震源断層の長さ54キロを用いるとM=7.7となる。さらに、マグニチュード(M)と地震エネルギー(E)との関係についてグーテンベルグ・リヒターの半理論・半実験式logE=4.8+1.5Mを用いてEを求めれば、<1>が1.7×10の15乗、<2>が4.3×10の15乗、<3>が24.0×10の15乗となる。

つまり、既存の活断層から予想される①の地震エネルギー(E)に比べて、現段階で最も信頼性の高い纐纈教授らによる震源パラメータを用いて計算すると、地震エネルギー(E)は13倍以上にもなるのである。このように、実際の震源断層モデルから求められた放出エネルギー(E)が、既存の活断層から予測される地震の放出エネルギーに比べて極めて大きかったことが今回の熊本地震の教訓の一つである。

(3) 大飯原子力発電所周辺の活断層も過小評価の可能性は十分にある

そして、若狭湾周辺地域にも断層・活断層が多数存在し、特に基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であろう。これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

4 熊本地震で「階級4」の長周期地震動が観測されていること

(1) 長周期地震動による被害の可能性

熊本地震において、防災科学技術研究所の強震観測網であるK- NET・KiK-netによれば、益城観測点KMMH16の地表 面における最大加速度は、M6.5の前震では3成分合計値1580ガル、上下動で1399ガルを記録した。さらに、M7.3の本震では3成分合計値1362ガルを記録した。

このような大きな地震加速度が観測されたのは、この地域が火山性の軟弱地盤であることも考慮しなければならない。益城観測点周辺の地盤では火山堆積物が厚く表層を覆っていて、S波速度が2kmを越えるのは深さ230m以深である。これに対して、大飯原子力発電所の敷地はS波速度が基盤直下から2.2kmを超えており、固い地盤にあると言われている。柔らかい地盤上の地点では、固い岩盤上の地点に比べて表層で大きな揺れ(地震動)が数倍程度増幅される可能性も考えられる。そうなると、熊本地震の経験から、大飯原子力発電所でクリフエッジを上回る地震動に襲われる可能性が高いとは言えなくなるが、熊本地震の経験として、一つ注目すべき点がある。

それは、気象庁が2011年東北地方太平洋沖地震のあと、「長周期地震動階級」の導入を検討してきたが、2013年3月28日に「長周期地震動に関する観測情報(試行)」を公開して以来、最上階級の「階級4」が、今回の一連の熊本地震で、2016年4月15日のM6.4の地震と同年4月16日のM7.3の地震の際に熊本地方で初観測されたことである。熊本のM6.4とM7.3の地震の際に「階級4」の長周期地震動が観測されたということは、大飯原子力発電所近傍のM7.
8の想定地震でも被告関西電力は、大飯原子力発電所の長周期地震動への対策を講じておかなければならない。

(2) 地震動が大きくなりがちな若狭湾地域の地域特性

川瀬博京大防災研教授らは一連の熊本地震について、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KIK-net)、および気象庁のJMA震度計ネットワークによって観測された強震データをもとに、4月14日のM6.5の前震、16日のM7.3の本震およびそれらの余震である23の地震(M=4.5~6.4)の震源特性を求めている(川瀬・仲野:スペクトル分離で求めた震源特性とサイト特性、およびその考察、2016)。それによると、得られた応力降下量Δσは、M6.5の前震が2.21MPa、M7.3の本震が1.77MPaであり、「これらの応力降下量レベルは過去の15年間に発生した内陸地震のM6クラスの地震としてはほぼ下限値のラインに近く、決して地震として特異に硬い地震(短周期を多く放出した地震)とは言えないことがわかった。」と述べ、さらに、短周期レベルについて、「今回の地震の短周期レベルは過去のM6以上クラスのそれのほぼ下限値となっており、2011年の福島県浜通りの地震に比べても小さめとなっている・・」と記して、熊本地震は「柔らかい地震」であったことを指摘している。

既に原告準備書面16で述べたところであるが、甲234[1 MB]「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」によれば、若狭湾地 域においては、地震における応力降下量が大きくなるという地域特性がある。応力降下量が大きくなるということは、当然、地震動が大きくなるということになる。若狭湾地域においては、他地域で発生する同規模の地震に比べ短周期レベルが大きい、すなわち、応力降下量が大きいという地域的特性がある。言い換えると、若狭湾地域では「硬い地震」が発生する傾向にある。熊本地震のように「柔らかい地震」によっても大きい加速度値が観測され、甚大な被害が発生した。若狭湾から延びるFO-A~FO-B~熊川断層を震源断層とする「硬い地震」が起これば、熊本地震より極めて大きな震源加速度短周期レベルが発生し、基準地震動を大きく越える可能性が高い。被告関西電力は、地域特性を考慮すれば策定した基準地震動は信用できると繰り返し主張するが、逆に短周期の地震動レベルが大きくなるような地域特性があるとの指摘は等閑としている。

5 地震動にはバラつきが大きいこと

(1) 熊本地震によってバラつきの大きさが実証された

基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としており、「バラつき」や「不確かさ」を最大限考慮することが必要であるにもかかわらず、大飯原子力発電所においてはそれが適切に行われていないことは既に原告第16準備書面において述べたところであるが、そのバラつきの大きさが熊本地震においても確認された。

すなわち、長沢啓行大阪府立大学名誉教授によると、熊本地震の前震の益城観測点の地下地震観測記録(南北方向237ガル)(M6.5、等価震源距離約13km)を2倍することで推定されるはぎとり波応答スペクトル(約470ガル)は、川内原発の市来断層帯市来区間(M7.2、等価値震源距離14.29km)の耐専スペクトル(内陸補正なし)(約460ガル)とほぼ等しい(甲279[3 MB]「若狭ネット」第160号19~22頁)。つまり、M6.5であった熊本地震の前震でM7.2と同等以上の地震動が観測されたということであり、それだけバラつきが大きいということを示している。また、上記のように熊本地震では、はぎとり波の応答スペクトル(約470ガル)がM7.3の耐専スペクトル(約460ガル)を超えており、耐専スペクトルが過小であることが客観的に明らかである上、断層モデルに至っては過小な耐専スペクトルに対してすら1/2~1/3にすぎず、大幅な過小評価となっている(甲279[3 MB]「若佐ネット160号」2頁)。
そしてこれらの点は、原子力規制庁も認めざるを得ない部分である(甲280[9 MB]「若狭ネット161号」3頁)。

M6を超えるような規模の地震が大飯原発近傍で生じた場合、距離減衰式その他の強震動予測手法のバラつきを十分に考えておかなければ、基準地震動を大きく上回る地震動が本件原発を襲う事態は、現実に生じ得る。そしてこのように地震動にバラつきが大きいことは、原告準備書面16で述べたところであり、熊本地震によってかかる原告らの主張が裏付けられた形となった。このようなバラつきを適切に考慮すれば、基準地震動は過小評価という他ない。さらに後述の島崎意見によっても、大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価であることが示されている。

(2) 「偶然的不確定性」を低減することはできない

そもそも地震動のバラつきには、種々の知見の亢進と調査の結果によって理論的には低減することができる「認識論的不確定性」と、いくら手を尽くしても低減できない「偶然的不確定性」があり、後者としては、あらかじめ想定することが困難である震源特性における震源メカニズムや破壊伝播方向、伝播経路における触媒の不均質性、サイト特性における地盤の不整形性や入射角などによる地震動の強さの違いなどが挙げられる(甲279[3 MB]「若狭ネット160号」12頁以下、甲281[1 MB]「距離減衰式における地震間のばらつきを偶然的・認識論的不確定性に分離する試み」)。上述の活断層の本当の長さについてももちろん、あらかじめ想定することが困難な要素の一つである。

そもそも前者の認識論的不確定性によるバラつきをゼロにすることは不可能である(知見が日々更新されていることは既に述べたとおり)が、その点を措くとしても、低減不可能な偶然的不確定性による地震内のバラつきの大きさは「平均値+標準偏差」が平均値の1.75倍になる大きさということになる。これに認識論的不確定性によるバラつきの大きさを加味すれば、概ね平均値の約2倍程度のバラつきを最低限考慮しなければならない。この2倍という値は、原告らが主張してきた「倍半分」の考え方と共通するものであり、極めて正当である。

◆原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて-
目次

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて-

原告団第23準備書面[534 KB]

2016年(平成28年)9月8日

目次

第1 熊本地震を受けて

1 M7クラスの地震が連続して発生したこと
2 M7クラスの地震の予知・予測は不可能であること
3 活断層の長さを調査によって明らかにすることは不可能であること
4 熊本地震で「階級4」の長周期地震動が観測されていること
5 地震動にはバラつきが大きいこと

第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

1 基準地震動の不合理性を具体的に指摘した島崎邦彦氏
2 活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難
3 入倉・三宅の式(2001)を用いた場合の過小評価の危険性
4 大飯原子力発電所にも妥当すること
5 島崎邦彦氏の指摘は基準地震動がいかに矮小な知見に基づくものかを示すものでもある

◆第11回口頭弁論 原告提出の書証

甲第255~276号証 (第20、第21準備書面関連)
甲第277号証 (原告第22準備書面関連)

証拠説明書 甲第255~276号証[279 KB] (第20、第21準備書面関連)
2016年5月16日

  • 甲第255号証[487 KB]
    基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第256号証[1 MB]
    発電用原子炉設置変更許可申請書(添付書類八)(関西電力)
  • 甲第257号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    ~113ページ[18 MB]
    114ページ~最終[10 MB]
    大飯3号炉及び4号炉 耐震設計の基本方針(第61回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合)(関西電力)
  • 甲第258号証[9 MB]
    関西電力(株)大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査書(原子力安全・保安院)
  • 甲第259号証[3 MB]
    大飯3号炉及び4号炉保安電源設備について(関西電力)
  • 甲第260号証[1 MB]
    非常用取水設備(滝谷紘一)
  • 甲第261号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    添付資料[15 MB](1~79/139)
    補足資料[14 MB](80~139/139)
    大飯発電所3、4号機の新規制基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(170)の添付資料(関西電力)
  • 甲第262号証[324 KB]
    大飯3号炉及び4号炉 共用に関する設計上の考慮について(関西電力)
  • 甲第263号証[101 KB]
    「発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム」について(原子力規制委員会)
  • 甲第264号証[6 MB]
    商業用原子力発電炉に係る新規制基準(一般財団法人高度情報科学技術研究機構)
  • 甲第265号証[61 KB]
    表1 (甲264の引用文書)(原子力規制委員会)
  • 甲第266号証[113 KB]
    実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策および格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第267号証[336 KB]
    「シビアアクシデント対策の要求事項(個別対応別の主な設備等について)(案)」の網羅性について改訂版(発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームの事務局)
  • 甲第268号証[539 KB]
    発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第7回会合議事録
    (発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームの事務局)
  • 甲第269号証[6 MB]
    非常用炉心冷却装置等の例(PWR)(電気事業連合会)
  • 甲第270号証[100 KB]
    原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統説明図(原子力規制委員会)
  • 甲第271号証[2 MB]
    大飯発電所の安全対策トピックス2015特別号VOL.13(関西電力)
  • 甲第272号証[405 KB]
    大飯発電所3号炉及び4号炉 基準適合性のうち試験、検査可能性について(関西電力)
  • 甲第273号証[8 MB]
    大飯3号炉および4号炉、設置許可基準規則等への適合性について(重大事故等防止技術的能力)(関西電力)
  • 甲第274号証[110 KB]
    大飯原発運転差止判決における科学の問題(纐纈一起)
  • 甲第275号証[2 MB]
    関西電力(株)大飯発電所3号機および4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査書(原子力安全・保安院)
  • 甲第276号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    1ページ~70ページ[14 MB]
    71ページ~139ページ[13 MB]
    福岡高裁決定書(福岡高等裁判所宮崎支部)

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証拠説明書 甲第277号証[62 KB] (原告第22準備書面関連)
2016年5月16日

  • 甲第277号証
    綾部市地域防災計画(綾部市防災会議)

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◆第11回口頭弁論 意見陳述 要旨

意見陳述書

私は、齋藤信吾と申します。
1950年生まれの66歳です。綾部市味方町に住んでいます。

味方町は大飯原発からは約40kmの市外地の東に位置しています。一人住まいです。綾部市防災会議は、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」を平成25年3月に発表しています。この、計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域の範囲を大飯原発発電所から32.5kmとしています。私が住む味方町は、原発から約40km離れているため、綾部市計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域に含まれていません。しかし、このような距離で単純に重点的な地域とそうでない地域をわけることには非常に怒りを覚えます。

私が原発訴訟に参加したのは、原発は絶対安全といって国民を欺き、情報を隠し、また誰も責任をとらない事が許せなかった事と、私が生まれ育った田園都市・綾部が放射線で汚染されて住み続ける事が出来なくなるような事態は阻止しなければならぬと思ったからです。今日は、2つの点についてお話しさせていただきます。

一つ目は、水の問題です。
私は、味方町を流れる由良川沿いで生活していますが、対岸の斜め向かいに綾部市の浄水場が設置されています。美山町には由良川ダム・大野ダムがあります。その下流の京丹波町には和知ダムがあります。由良川ダムは、大飯原発から40km圏内に位置しています。仮に大飯原発で事故が起き、由良川ダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、私たち味方町に住む者も含め、京都府北部全体の住民が飲料水を確保することができなくなってしまいます。

綾部市防災会議は、平成28年3月、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」に新しい項目を設けました。新しい避難計画では、「飲食物の出荷制限、摂取制限等」という項目が追加されています。しかし、この項目では、「市は、飲食物の出荷制限、摂取制限等を行った場合における、住民への飲食物の供給体制をあらかじめ定めておくおものとする」とされているだけで、何ら具体的な対策は書かれていません。原発事故が起きると私たちの飲料水はどうなってしまうのでしょうか。

二つ目は、避難の問題です。
私は、大飯原発で過酷事故が起きた時は、避難を決断すると思います。

しかし、私自身は、視覚障害5級の障害者です。右目は全く見えません。左目はめがねをかけて矯正しても0.2以下の視力です。当然、自動車を所有していませんし、通常の移動手段は、「自転車」です。仮に地震などにより、道路を通ることが出来なくなった場合、避難は不可能です。単身者ですので、同乗を頼める家族はいません。同乗させていただける知人がいれば避難できますが、緊急時に頼めるかはわかりません。自転車では、非常時用の持ち出しグッズも軽量のものしかのせることはできません。
私のように障害があるものにとっては、交通渋滞などは別にして、そもそも一刻も早く避難すること自体が大変なのです。ここ数年は、夜や暗い場所での移動が困難となっています。夜間に避難することを考えるとぞっとします。

私の仲間のことについてもお話しさせていただきます。
私は、綾部市身体障害者協会と公益社団法人京都府視覚障害者協会の二つの団体に所属しています。視覚障害者協会では副会長を務めています。

この団体は、現在1200人余りの会員とおよそ40の賛助団体が加盟しています。「独りぼっちの視覚障害者をなくそう」を合い言葉に、障害があっても安全で豊かに暮らせるバリアフリー社会の実現をめざして活動しています。会員の仲間の中には、全盲で全く見えない方もいます。原発事故が起きた際に、どうやって避難したらいいのでしょうか。福島での「逃げ遅れた人々」や避難所でやっかいもの扱いされた事例を聞いたこともあり、とても不安に思っています。熊本の地震では避難所に入ると迷惑を掛けるからと入所を諦めた障害者のニュースもありました。

また、私は、綾部市身体障害者協会では、事務局長を務めています。
綾部市身体障害者協会は昭和28年に発足し、学習会をしたり、研修旅行をしたり、街頭での活動をしたりしています。現在の会員数は約90人です。会員の中には、重度の身体障害を持っている方もいます。日常生活でも、自宅から最寄りのバス停にいくまでが、大変というという人もいます。

綾部市計画では、災害時に要援護者について十分配慮すると書かれていますが、私のような視覚障害者がどうやって避難するのか。重度の障害を持った者はどうやって避難するのか。

障害の内容に応じた具体的な避難方法は全く記載されていません。今年3月に新しくなった綾部市避難計画では、第6要配慮者への配慮という項目が新設されています。しかし、この項目は「十分配慮する」とだけ書かれているだけで、問題点は全く解決していません。

新しい綾部市避難計画では、要配慮者等が避難に時間を要する場合においては、綾部市奥上林公民館に放射線防護対策工事を実施するとしています。
しかし、避難することのできない重度の障害をもっているものは、公民館に移動することも困難なのです。結局、避難計画自体が、全く意味のないものです。

今年3月に、大飯・高浜原発に近い、君王山から古屋一帯が『京都丹波高原国定公園』に指定されたばかりです。君王山には、綾部でただ一つの国宝である二王門もあります。
過酷事故がおこれば、仕事を含めた生活基盤全体が根こそぎ奪われてしまいます。私は緑豊かな故郷を失いたくありません。
原発事故が起きた場合に、非力な者は避難することもできません。裁判所におかれましては、何人からも生命と健康を無理矢理剥奪されることはないという社会正義を基とした判決をお願いします。

以上

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