◆原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

2018年(平成30年)8月29日

原告提出の第54準備書面

【目次】

1 書面の趣旨

2 違法性
(1)規制権限不行使が違法となる要件
(2)法律の趣旨、目的
(3)規制権限の性質
(4)裁量権の収縮
(5)被侵害利益
(6)本件における国賠の要件

3 規制権限を行使すべき事象
(1)地震
(2)津波-詳細は第14準備書面参照
(3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述
(4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

4 結論



1 書面の趣旨

本書面は、東京電力福島第一原発事故における下級審判決(平成30年3月15日京都地裁判決(甲464、以下、「京都地判」という)、同月16日東京地裁判決(甲465)、以下、「東京地判」という)の判断枠組み等をふまえ、原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性を明確化することを目的とするものである。

2 違法性

 (1)規制権限不行使が違法となる要件

国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁、最高裁平成13年(オ)第1194号、第1196号、同年(受)第1172号、第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照)。

 (2)法律の趣旨、目的

  ア 福島第一原発事故を契機とした法改正

2011(平成23)年3月12日の福島第一原発事故を契機に明らかになった原子力に関する行政の不備を是正するため、2012(平成24)年6月27日、国は、「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉基法」という)」を改正した。
炉規法の主要な改正として、電気事業法の原子力発電所に対する安全規制(工事計画認可、使用前検査等)が、原子炉等規制法に一元化された。また、同法の目的、許可等の基準から「原子力の開発及び利用の計画的な遂行」を削除し、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を目的規定に追加した[1]

[1] 炉規法は、4段階に分けて施行された(2012(平成24)年9月19日、2013(平成25)年4月1日、同年7月8日、同年12月18日)、原告第5準備書面にて詳述

  イ 改正前の規制権限

改正前の法体系のもとでは、すでに稼働中の原子炉に対する規制が、電気事業法40条の技術基準適合命令を根拠とするか、原子炉等規制法を根拠とするかに関して議論があった。この点、京都地判においては、経済産業大臣は、基本設計部分または詳細設計部分を問わず、電気事業法40条の技術基準適合命令を行使して一時停止する権限を有していたのみならず、(原子炉に設計部分の変更を求める必要が生じた場合には)「炉規法に基づく設置許可を取り消すか、明文上の規定はないものの、取消権限の分量的一部として、原子炉の運転の一部停止を命じることができる」と判示し、電気事業法及び炉規法を根拠とした原子炉の一部停止権限を肯定した。

そして、電気事業法は、電気使用者の利益保護と電気事業の健全な発達を図ることだけでなく、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全確保と環境の保全を図ることを目的としている。また、(改正前)炉規法は、核燃料物質や原子炉の利用による災害を防止して、公共の安全を図るために、原子炉の設置等に対する必要な規制を行うことを目的としている。そして、いずれの法律も、公共の安全確保を目的の一つとしており、事業用の電気工作物や原子炉の各性質や、電気事業法や炉規法の具体的規定(電気事業法39条2項1号「人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること」、炉規法1条、24条1項4号「災害の防止」等)も踏まえると、いずれの法律も、公共の安全として、施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護することを目的にしており、施設周辺の住民等の利益は反射的利益などでは到底ないことになり、実用発電用原子炉には、このようないずれの法律の趣旨も及んでいると解すべきである(甲464-102)。

  ウ 改正後の規制権限

(改正後)炉規法第43条3の23は、発電用原子炉施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合に加え、原子炉等規制法44条の3の6第1項4号の設置許可基準に適合していない場合にも、発電用原子炉設置者に対して、使用停止等処分を行うことができる旨規定された。

同法の目的規定には、「もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と明示されている。

  エ 小括

以上より、改正前の法体系においても、改正後の法体系においても、電気事業法及び炉規法は、「施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護」を目的としている。

 (3)規制権限の性質

  ア 原発事故の重大性、影響

前記のとおり、経済産業大臣の権限は、原子炉の利用等による災害を防止して公共の安全を確保する目的であるところ、放射性物質の性質からして、被害が広範囲かつ継続的に生じる可能性を包含しているのである(原告第3準備書面にて詳述)。

このように一度生じれば、原子炉施設だけでなく、その周囲の多数の住民の生命、身体及び財産等に対して、取り返しのつかない甚大な被害が継続して生じる可能性があることからすれば、公共の安全を確保するためには、万が一にも原子力災害が生じないように、経済産業大臣は常に原子炉施設の安全性を確かめ、少しでもその安全性に疑念が生じる可能性があるならば、事業者に対して規制権限等を行使することが法の目的に合致するし、行使することが期待されているといえる。この点で、過去、権限行使の違法性が争われた事案(クロロキン訴訟最高裁判決、筑豊じん肺最高裁判決、水俣病関西訴訟最高裁判決及び大阪泉南アズベスト訴訟最高裁判決の各事案と比較しても、原子力発電事故は一瞬にして発生し得る実害の大きさから規制機関に権限行使が期待される事件類型ということができる(甲464-103)。

  イ 住民の期待可能性

また、一般的に、規制権限行使については、事業者に対して一定の制約を生じるものであるから、その行使にあたっては慎重に行使すべき場合もあると考えられる。

しかし、前記のとおり、原子炉施設は高い安全性が求められているところ、経済産業大臣に規制権限が与えられている趣旨は、事業者が利益追求のために安全性をないがしろにするようなことがあった場合に、規制権限を行使することによって、原子力災害を防止して公共の安全性を確保することにある。原子炉施設の安全性については、権限の行使の判断にあたって高い専門技術性を要求されることから(伊方原発訴訟最高裁判決参照)、経済産業大臣に対して規制権限が付与されているものであり、経済産業大臣の権限行使以外の方法によって安全性を確保することが困難であって、同権限によってしか是正することとができないものである。

他方、原子炉施設周辺の住民のように何らの専門技術的知見を持たない一般人が、専門技術的知見を有しており、かつ知見を収集することが可能である経済産業大臣の権限行使を期待し、それしか期待できないとするのも当然のことといえる。

 (4)裁量権の収縮

  ア 原子炉に求められる安全性の程度

ここで、東京地判においては、原子力発電所に求められる安全性の具体的な程度として、「原子力安全委員会安全目標専門部会が、発電用原子炉施設の性能目標を、炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下」[2]とする要件を課していること、国際的にも同程度の安全性が求められていることを「十分に斟酌すること」が必要であるとしている。

この、性能目標(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下とすること)は、福島第一原発事故後においても、新規制の指標とする旨が議論されている(甲466-安全目標と新規制基準について)。

すなわち、原子力発電所に求められる安全性とは、比喩的な表現(「万が一」)ではなく、具体的に「炉心損傷確率が1万年に一度」以下であることが求められているものであり、司法審査においても当然にこの規範が妥当するものである。

[2] 【甲466】安全目標は、定性的目標と、その具体的水準を示す定量的目標で構成されるとされ、以下が提示される。

  • 定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべき
  • 定量的目標:原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる、施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクは、年あたり100万分の1程度を超えないように抑制されるべき さらに、施設が安全目標に適合しているかを判断する目安となる水準として、性能目標案が提示される。
  • 炉心損傷頻度(CDF:CoreDamageFrequency):10-4/年程度
  • 格納容器機能喪失頻度(CFF:ContainmentFailureFrequency):10-5/年程度

  イ 規制権限行使の方法

福島第一原子力発電事故は、日本の原子力発電所には事故が生じないという言説(「安全神話」)を打ち砕いた。今日においては、重大な原発事故は生じうるということを前提として、規制権限の行使の方法が問義されなくてはならない。

そして、上記電気事業法、及び、炉規法の趣旨、目的、事故による損害の重大性、並びに、住民の期待可能性に鑑みると、経済産業大臣の規制権限は、原子力発電所立地近隣住民の生命、身体及び財産の安全の確保を目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されるべきものである(前掲最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決、平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。

  ウ 小括

以上より、原子力発電所に関する、経済産業大臣の権限行使は、万が一(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下)にも事故が発生しないように、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されなくてはいけない。

 (5)被侵害利益

  ア 人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)

後述する通り、大飯原発には、運転を停止すべき差し迫った具体的危険が存する状況にある。

原発(原子炉施設)を運転しうる状況に置くことは、原告らが常にいつ生命・身体・健康等に甚大な被害が発生するかわからない差し迫った具体的危険性のもとでの生活を強いるものであり、原告らが生命、身体、健康を維持し、快適な生活を営む権利、すなわち、人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)を侵害するものである。(訴状より)

  イ 水俣病お待たせ賃判決

上記憲法上の利益がいかなる状況で侵害されるかを具体的に説明する。

この点、参考となるのは、水俣病おまたせ賃判決(最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決、民集45巻4号653頁、判時1385号3頁、判タ757号84頁)である。同判決は、「本件において……〔上記の〕利益が法的保護の対象になり得るとしても、処分庁の侵害行為とされるものは不処分ないし処分遅延という状態の不作為であるから、これが申請者に対する不法行為として成立するためには、その前提として処分庁に作為義務が存在することが必要である。……また、作為義務のある場合の不作為であっても、その作為義務の類型、内容との関連において、その不作為が内心の静穏な感情に対する介入として、社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価されない限り、不法行為の成立を認めることができない」と判示した。

これは、行政処分の発動を促したにもかかわらず、早期に処分がなされないことが「申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益」「内心の静穏な感情を害されない利益」の侵害として、不法行為が成立する旨明示したものである。

本件に即して言えば、原告らは、大飯原子力発電所の具体的危険性を示しているのであるから、行政庁はすみやかに規制権限を行使して原子炉を停止すべきであった(作為義務の存在)のに、これを行わないため、原告らの内心の静穏な感情を害しており、これが不法行為を構成するのである。

  ウ 判例の要件

判例は

 ①処分庁に作為義務が存在すること
 ②社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価

という2つの要件を提示している。

②は具体的には「一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。」として、「不当に長時間にわた」る処分の不行使が要件と判示されている。

  エ ②の要件が不要であること

ここで、水俣病事件は申請者の認定に関する不安定な地位が問題となった。

他方、原子力発電所に関する本件においては、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)と同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであるから、「不当に長時間に渡る」行政処分の不行使という要件は不要である。

 (6)本件における国賠の要件

以上より、本件で国賠が認められる要件としては、具体的危険の発生=行政庁の作為義務の発生に尽きるものである。

以下、これまで原告が主張してきた、大飯原子力発電所の具体的危険性について端的に整理する。


3 規制権限を行使すべき事象

 (1)地震

  ア 基準地震動を上回る地震動

基準地震動を上回る地震動が発生する危険性のあることは、以下のとおり、客観的かつ合理的な科学的知見に基づいて既に明らかである。

そもそも、過去基準地震動を上回る地震が各地の原発で繰り返し発生していることは当事者間に争いがなく、東日本大震災に関する国会事故調報告書でもそのことが指摘されている(原告準備書面216)。これに対して被告らは各原発の地盤特性を指摘し、本件原発には妥当しないと主張するのであるが、そのような地盤特性が事前にすべて詳らかになるものでないことは明らかであるし、ばらつきなども適切に考慮されていないのであるから、本件原発において基準地震動を上回る地震動が過去同様に発生する危険があるという点に対する的確な反論とはなり得ない。

そしてその後も科学的知見は集積を続けている。平成28年の熊本地震ではM7クラスの地震が連続して発生するという「今までの経験則から外れている地震」が発生し、動いた活断層は既知のものよりも8キロ程度長いものであった。事前に知れたる活断層の長さと実際の長さとは大きな乖離があることが、平成7年の兵庫県南部地震に続き、改めて明らかになり、島崎氏や纐纈教授が指摘するように活断層の長さを事前に明らかにすることが不可能であることが裏付けられた。また、島崎氏らの指摘により、基準地震動の算出に用いられる入倉・三宅の式に過小評価の危険のあることが明らかとなっていたが、熊本地震の観測データからもそのことが裏付けられている(原告準備書面23ほか)。

①震源特性、②伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)という重要な考慮要素のうち、①②については実際には適切に考慮しておらず、③についてもその存在が否定し得なくなっている。被告関電は、敷地の解放基盤としてVs=2.2km/sの堅固で一様な岩があると主張しているが、その具体的根拠は示されておらず、調査結果の隠蔽やデータ解釈の誤認あるいは恣意的な作為により地盤がモデル化されてしまっている。また、データからは地盤に低速度帯の存在が示唆されるが、根拠が示されておらず、調査も極めても不十分である。このようにモデルを使って恣意的に評価された基準地震動は過小評価である(原告準備書面353744)。

  イ 基準地震動以下の地震

基準地震動を上回る地震動が発生する可能性については上記のとおり科学的知見が集積しているのであるが、そもそも、基準地震動以下の地震動であっても重大事故が発生する可能性はもちろんあり、そのことについての科学的知見も存在している。東日本大震災では地震により全外部電源が喪失しているが、本件原発でも地震によりすべての送電線(耐震Cクラス)が損傷するなどして同様の事態に陥る危険性がある。同様に耐震Cクラスでしかない非常用取水設備が損傷した場合にも、原子炉の冷却機能が喪失して炉心損傷に至る恐れがある。イベントツリーに基づく事故対策は現実の過酷状況下では非現実的であり(原告準備書面10)、外部電源や非常用取水設備の損傷の場合も同様である(原告準備書面20)。

 (2)津波―詳細は第14準備書面参照

ア 大飯原子力発電所が津波に対して安全であるとする被告関西電力の主張は、新規制基準に基づき過去の津波の調査、地震やその他の要因による津波水位の算定等を行い、基準津波を策定し、当該基準津波に対して施設の安全性を確認したということを根拠とする。
そうすると、新規制基準自体に合理性がない場合はもちろん、過去の津波調査に誤りや不十分さがある場合、地震やその他の要因による津波水位の算定に誤りや不十分さがある場合、もしくは重畳津波の検討に誤りや不十分さがある場合、被告関西電力が策定した基準津波そのものが不合理であるということになるし、基準津波を超過する津波に対して安全裕度がない場合には安全上重要な設備が浸水する危険性があり、炉心損傷の具体的危険があると結論されることになる。

イ しかし、第1に被告関西電力は、必要な事項(活断層、古津波)について十分な検討をしていない。
第2に、「津波評価技術」に代表される現代の津波予測はせいぜい「倍半分」程度の精度しかない。ここで、関西電力の想定の1.5倍とすれば、押し波により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室が浸水することになる。引き波に至っては、すでに海水ポンプの取水可能域を下回る結果が出ている。被告関西電力は、被告関西電力準備書面(2)29頁にて、「貯水堰」の設置にて引波対策を行うとするが、「貯水堰」からの取水により冷却機能を保持できる時間は僅かに6分間であり(甲211-205)、十分な安全裕度がない。
第3に、福井県は、独自の試算により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室敷地付近の浸水を予測している。ここで、規制される関西電力が提示する予測結果よりも、福井県による予測結果のほうが中立的であることは言うまでもない。現に、関西電力は、不可解なことに、福井県が最も大きい影響を与えると判断した「若狭海丘列付近断層」を評価していなかった。

以上より、大飯原発は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険性を有する。

 (3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述―

福島第1原発事故においては、福島第1原発の第1号機、第3号機、及び、第4号機のコンクリート建屋が水素爆発により破損した。原子力発電所の重大事故時に炉心の核燃料が高温化すると、燃料被覆管の材料成分であるジルコニウムが水と化学反応を起こし水素が発生する。加圧水型原発では格納容器内の雰囲気は空気であるために、仮にその水素が格納容器内に流出して雰囲気中の水素濃度が高まれば水素爆発を起こして格納容器が大規模破損する危険がある。

そこで、新規制基準は水素爆発防止のために、事故時の格納容器内水素濃度の規制を行い、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」において、格納容器内の水素濃度最大値を13%以下にすることを定めた。他方、被告関西電力は、大飯原発3、4号機の水素濃度最大値約12.8%として設置変更許可を申請した。

しかし、関西電力の申請内容は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で定めた溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による水素の発生を適切に考慮していない。これを審査ガイドに従って厳格な条件により解析すれば規制基準の13%を超える結果が生じる。
したがって、大飯原発3、4号機は、新規制基準の要件を充たさない。
本件訴訟の要件に置き換えれば重大事故時の格納容器水素爆発の具体的危険がある。

 (4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

原子力発電所は大量の放射性物質を内蔵している。従って放射性物質の放出から公衆の安全を守るため、原子炉施設の基本的な安全設計が問題となるだけでなく(深層防護の1~3層)、放射性物質が大量に放出される重大事故への対策(同第4層:過酷事故対策)及び放射性物質の影響を緩和するための周辺住民らの避難計画等(同第5層)が、それそ゛れ独立して確保されねばならない。これらに加え、原子力発電所の立地は、確実に放射性物質の放出から公衆の安全が守られるよう、人が居住していないか、あるいは人口密集地から離れ、周辺の人口密度が低いことを要請される。

上記を要件化したものが、いわゆる「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」(昭和39年5月27日原子力委員会決定以下「立地審査指針」という)である。

立地審査指針は、昭和39年5月27日以降、原子炉の設置審査において適用されてきたが、平成25年7月の新規制基準には、公衆の被曝量を基準とする立地審査指針は含まれず、審査指針として運用されない方針が採用された。すなわち、現在、公衆の被爆量を基準とする立地審査指針は、既設炉の審査基準とされていない。

しかし、原子力規制委員会が、新規制基準から立地審査を排斥したことには合理的な理由がない。そして、大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」によれば、むしろ、福島第一原発を参照した場合、大飯原発は旧立地審査指針をみたさないことが明らかになった。


4 結論

先の述べたとおり、原子力発電所は、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)が認識されると同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであり、本件で国賠が認められる要件は、「具体的危険の発生」(=行政庁の作為義務の発生)に尽きるものである。

そして、本書面「3」で述べたとおり、大飯原子力発電所の具体的危険性は多数指摘できる。これらは、平成23年3月11日の福島第一原発事故後、旧規制基準の不備が明らかになり、また科学的知見の刷新されたことにより、認識されるに至ったものと言える。

したがって、遅くとも、本訴訟提起時には原告らに損害が発生していたものである。

以上