投稿者「meisei」のアーカイブ

◆1月30日に行った関電との話し合いの記録

関電側;広報担当者ほか2名。
使い捨て時代を考える会;4名。

今回は以下の質問書を提出し、話し合いました。
質問書
……………………………………………………………………………
<ol>
<li>大飯原発3号機、4号機について、神戸製鋼のデータ改ざんにより再稼動を遅らすとのことですが、神戸製鋼の製品をどこに使っているのですか。どのような調査をしているのですか。再稼動はいつを予定されていますか。なぜ再稼動を急ぐのかご説明ください。福井地裁で2014年5月に運転差し止めを命じる判決が出ていますが、その事をどう評価されますか。</li>
<li>神戸製鋼の製品は高浜原発3号機、4号機にも使われているとのことですが、きちんと調査はしましたか。外部の第三者機関による調査をされていますか。稼働させたまま調査している事に不安を感じますが、安全性はどうやって確認できているのですか。</li>
<li>大飯1、2号機の廃炉が決定されました。大変喜ばしいことと評価します。廃炉の理由は安全対策費がかかるという理由ですが、その費用はどのぐらいと見積もられたのでしょうか。廃炉費用はどのぐらいかかりますか。廃炉費用を電力料金に上乗せするということも聞きますが、廃炉費用さえきちんと計算しないままで、どうして原発建設・運転を進めて来たのか、その事に道義的責任はないとお考えでしょうか。</li>
<li>使用済み核燃料の処理についての、技術的、経費的なめどは立っているのですか。また、中間貯蔵施設を福井県外に作るということで、候補地を2018年に示すとのことですが、具体案があるのですか。</li>
<li>&gt;電力自由化によって、貴社から他社へ切り替えた消費者は、12月末で120万軒に上るとのことです。顧客離れに歯止めをかけるために原発を動かし、値下げをするそうですが、命の安全よりお金を優先する経営姿勢と見えます。消費者は原発に依存しない電力会社を望んでいることをもっと真摯に考えていただけないでしょうか。</li>
</ol>
以 上
……………………………………………………………………………
話し合いの内容
(Q;こちら側の発言  A;関電の発言)

A(質問1について)高浜3、4号機と大飯3、4号機について、神戸製鋼工場に立ち入り調査を進めている 。安全上重要な部位、原子炉圧力容器、一次系配管に神鋼製の納入があったが、不適切な行為に関わる部品は使われていなかった。

Q 不安が残る。信頼が失われている。どんな調査をしたのか。
A 建設当時の記録が残っているので、メーカーの記録を特定していき、溶接の記録も見に行ったところ神鋼の部品が出てきた。

Q それ以外は何処に使われているか。
A 燃料集合体には使われていなかった。安全対策工事に使われているか確認中だ。大飯3号は調査が完了し、大飯4号は調査中だ。高浜3号ももうすぐ完了する。

Q 高浜は動かしながら調査をしているのか。止めて調査をするのが常識ではないか。
A 弊社のスタンスとしては、安全上問題なく運転できているから安全であるということで止めないで調査している。

Q「運転できているから安全」とは詭弁ではないか。事故はどうやって起きるか考えると、対策をしているうちはまだいいが、気が付かないまま進んで起きるのが事故だ。素朴に不信感を持つ。技術論的に問題がある。

Q 残っている書類で、どうだったかという調査で、テストピースで調べるなどはしていないのではないか。調査そのものも不徹底だし不十分だ。
A できあがった設備をばらしては、なかなかできない。

Q 放射能汚染しているからだろう。技術的に力がある人が調べないといけないが、そういう人を配置できないだろう。
Q 運転できているから安全で大丈夫とは、希望的バイアスがかかっている。市民の思いとかけ離れている。
Q 福島の事故でも津波に対して6mで充分とやってきた。社内でも13mという意見があったという。大丈夫だろうということに問題あった。もう一歩慎重に考えてというのは心配し過ぎだろうか。
A おっしゃることはわかる。

Q 第3者機関の調査はしているのか。
A していない。第3者機関としては規制委員会がそれにあたる。大飯3,4号は使用前検査をしているので動かせない。非常に厳しくチェックしている。そういう意味では第3者機関の調査を受けている。

Q 神鋼製品が圧力容器に使われているが。
A(神鋼が)大きい会社だから使う。

Q 小さな破綻でも命取りになる。信用できない会社のものを使ったということも命取りだ。
Q 大飯3号だけが調査を完了したのか。
A そうだ。原子炉容器、一次系配管などはすべて完了した。

Q 質問3について聞きたい。前回廃炉ということは社内では出ていないと言っていたが、直後に廃炉が報じられた。
A 本当に社内では出ていなかった。

Q 安全対策に費用がかかると報じられていたが。
A 廃炉は安全対策費が高いからと報道されたが、それが理由ではない。技術的な問題だ。大飯1,2号機はアイスコンデンサ方式という国内唯一のプラントで、格納容器が小さい。安全対策で壁の補強が必要で、壁を補強すると容器内が狭くなり、緊急時に内部で作業が出来なくなるなど技術面の問題がある。新たな設備を設置することが必要になる。資金面ではなくあくまで技術面での問題があって廃炉になった。

Q 廃炉の費用はいくらか。
A 廃炉にしなかった場合については計算していない。廃炉にしたときは大飯1,2号機で総額1160億円だ。今見積もれる費用で、今後時間がかかるのでどうなるかわからない。

Q 廃炉の技術は確立していない。もっと費用は膨らむ。
A やるしかない。電気料金に入ってくるので、値上げするのかということだが、託送料で回収していく。

Q 関電は重荷をしょっている。原発が重い足かせになっている。手際よく廃炉にしてもらいたいが、電力料金に跳ね返ることも問題だ。
Q 原発から早く撤退してもらいたい。技術の問題というが結局費用の問題ではないか。社内内部でも議論してもらいたい。
Q 関電の安全対策費に8300億円かかっているが、大飯1,2号の廃炉費用を引き当てている。引き当てが過小ではないか。
A 総額フィックスではないので…。

Q 背景にコストの問題がある。原発を進めるのが重荷になっていることを社内でも疑問視する声があると聞いている。
A 廃炉はあくまで技術面でのことだ。

Q 20年運転して、どれだけ経済的メリットがあるのか計算しているのか。経営陣は無能としか思えない。
Q とにかく安全第一に。自暴自棄になっているのではないか。立ち止まって、姑息な託送料金などでなく、きっちり対応してもらいたい。なにしろ関電がシェアでは圧倒的なのだから。安定供給は社会的使命だから原発に頼らないでやってもらいたい。
(ここまでで時間切れ)

★「廃炉は安全対策費が理由ではなく技術面の理由」と、ちょっと苦しい説明。対応が穏やかな担当者だけに、いよいよ行き詰っているんじゃないかと勘繰ってしまう。質問4と5は時間切れで今回は返答を聞いていない。また次回という約束を交わして終了。

◆1/16の第18回口頭弁論の報告
 ~救援新聞より

  • 救援新聞 京都版No.1325 2018年2月5日
    橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

科学・司法の倫理が問われている

大飯原発差止京都訴訟第17回口頭弁論

  • 大飯原発差止京都訴訟の第18回口頭弁論が、1月16日、京都地裁(第6民事部・藤岡昌弘裁判長)101号法廷で開かれました。法廷には、原告や弁護団、支援の傍聴者など総勢120人余りが詰めかけ、原告代理人の渡辺輝人弁護士(弁護団事務局長)の第42準備書面(原発以外で政府が地震の予測不可能性を前提に最大規模の災害対策をしている問題を主張)、森田基彦弁護士が第43準備書面(「基準値振動は過小評価」として、地震学者・島崎邦彦氏や防災専門家の藤原広行氏などの証言を引き、大飯原発の基準値振動は過小評価の批判)、井関佳法弁護士は第44準備書面(「地域特性の補充」とのタイトルで、関電が表層のみの調査で地域特性が把握されていない上に大飯原発を建てた危険性を主張)について要旨を順次述べました。
  • つづいて、原告の高瀬光代さんが次のように(要旨)陳述しました。
    23年前、私は、神戸で阪神淡路大震災を体験した。当時、中学校で理科の教師をしていた。その経験から断言できるのは、学校は避難所とすべきでないということ。生活機能もプライバシーまったくない、弱者には最悪の環境。関西広域連合が策定したガイドラインでは、原発事故の避難が見込まれる25万人の避難先に多くの学校が指定されている。避難者はとても耐えがたいのではないか。原発事故が起きたら、私有財産も、移動の自由も、健康で文化的生活も、何故制限されなければならないのか。憲法は停止してしまうのか。関電が大飯原発を再稼働するというなら、事故が起きたらこれらの問題をどうするか、責任をもたなければならない。避難を余儀なくされた方々に、それまでと同等の生活環境を用意してしかるべきではないか。それができないなら稼働すべきではなない。
    【全文は→こちら
  • この後、出口治男弁護団長が、本裁判で根本から問われているのは、科学技術や司法判断にたずさわるものの倫理である、として、老朽化した大飯原発1、2号機の廃炉が決定したものの使用済み核燃料の処分地も決まっていないこと、関電がデータ無視、隠蔽、改ざん、ねつ造、技術からの逸脱などやってはならないことをやっていること、などを指摘。裁判所は慧眼(けいがん)をもってこれらを判断していただきたい、まさに司法も倫理を問われていると迫りました。
    【全文は→こちら
  • 次回第19回口頭弁論は、3月27日(火)午後2時から、101号法廷で。

◆第18回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

高瀬光代

私は、高瀬光代と申します。

明日はちょうど1月17日、23年前、阪神淡路大震災がおこった日です。

当時、私は、神戸市東灘区にある神戸市立本山南中学校に勤務していました。本日は、私が体験した避難所の状況から考えたことについて陳述させていただきます。

阪神淡路大震災がおこり、私が勤務していた中学校は、避難所と指定されました。指定が解除されたのは、8月ですが、避難所指定された8か月間を見て、私は、学校は、生活の場所・学校本来の役割の両面から、避難所とすべきではないと考えます。

まず、生活の場所としての機能が全くないと言うことです。プライバシーが全く保障されません。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名のかたが避難してこられ、学校はどこも、グランドも、普通教室も、体育館も、人が溢れていました。そのような所で何日かでも暮らせるでしょうか。結局、女子生徒は数日の間にいなくなりました。あまり、大きい声では言われなかったと思いますが、プライバシーのない避難所は、とても、女子生徒の生活の場にはなれませんでした。親御さんは早々に安全な所を探して移って行きました。多くの方は体育館に、足の踏み場もないほど詰め込まれた状態でした。高齢者には特に苛酷でした。床は硬く、とても寒く、体調を崩す方も多かったと思います。大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行しました。

学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当です。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないと思いますが、原発事故のために避難を余儀なくされた方々を迎える場所として、学校の体育館は適当と言えるでしょうか。

阪神淡路大震災のおこったのはちょうど受験準備のまっただ中でした。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などは行われました。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれました。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であると思います。

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っています。それによると、多くの学校が避難所として指定されています。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所でしょうか。私は、阪神淡路大震災で瓦礫の山になってしまった阪神間から、大阪に行ったときの違和感を忘れることができません。子どもたちが日常生活を送っている学校でたとえ短期間であっても生活せざるをえないというのは、とても耐えがたいのではないでしょうか。

避難計画を見ますと、全く学校を避難所に指定していない自治体がいくつかありました。神戸市では、市民に対しての防災計画での避難所には学校を指定していますが、原発による避難者に対しては学校を指定していません。それは、学校本来の役割に配慮したためのようです。しかし、やはり、体育館などが多く指定されていて、これは、先に述べた理由により、再考を促したいと思います。

私は、原発事故が起きた場合の避難所についていろいろ考えていて、大きい疑問を持つようになりました。なぜ、事故が起きたら、個人の私有財産を奪われなくてはいけないのでしょうか?なぜ、移動の自由が制限されなくてはいけないのでしょうか?なぜ、健康で文化的な生活が奪われなくてはならないのでしょうか?日本国憲法は原発事故が起きたら停止してしまうのでしょうか?

関西電力が大飯原発を再稼働するというのであれば、もし、事故が起きたらどうするかについて、なぜもっと責任を持たないのでしょうか。「災害対策基本法」は自然災害での自治体の責任が言われています。原発事故は、企業災害ですから原因企業が責任を持たねばならないのではないのでしょうか。避難を余儀なくされた方々に対しては、少なくともそれまでの生活と同等の生活環境を用意してしかるべきではないのでしょうか。それができないなら、稼働すべきでないと考えます。

以上

ページトップへ

◆原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

原告第46準備書面
大飯原発1・2号機の廃炉決定について

2018(平成30)年1月15日

原告第46準備書面[290 KB]

 新聞報道によれば、2017年12月22日、被告関西電力は、大飯原発1・2号機の廃炉を決定したとのことである。この2つの原発は営業運転を始めて約38年を経ており、運転期限は2019年迄の、老朽原発である。老朽化した原発が内包する危険性に対しては、市民科学者として原発問題に取り組んできた高木仁三郎が、阪神大震災後の原子力関係者の不誠実な対応を批判し、1995年「日本物理学会誌」に「核施設と非常事態」という論文を発表して、老朽化した原発の危険性を指摘している。

福島第一原発事故後、原発をめぐる政治、経済、社会、国際的潮流は激変し、原発の運転を維持するコストに対する見方も著しく厳しくなった。

このような老朽原発が内包する危険性と、激変した全体的な環境の下における原発運転の経済性を総合的に考えると、被告関西電力の大飯原発1・2号機の廃炉は、冷静に見れば避けられない判断であったと考えられる。脱原発の動きは、世界的にもわが国においても大きい潮流になっている中、今回の被告関西電力の廃炉決定は、それに掉さすものである。

しかし、今回の廃炉決定は廃炉のほんの始まりにすぎない。現実に廃炉となる迄には長い時間を要する。その間、当該原発は、原子力の持つ危険性を内に蔵した状態が続く。当面の問題としても、使用済み燃料処理の問題が立ちはだかる。使用済み燃料プールは、使用済み燃料が全て搬出される迄、冷却を続けなければならない。その間プール隔壁の安全性を十全に保たなければならない。廃炉となり、電気を生み出さない無用の長物と化した施設に対して、被告関西電力は、きちんとした安全対策を講ずるであろうか。経済性に合わないとして廃した原発に対して、本当に安全のために必要な費用を注ぎ込んでいくであろうか。電気を生み出す3・4号機の維持管理に意を払うあまり、1・2号機の安全対策はおろそかになるのではないか。また使用済み燃料の保管場所や保管方法をどうするのか。さらに最終処分をどこでどのようにして実施するのか。最近の新聞報道では、被告関西電力は、使用済み燃料の中間貯蔵場所として青森県むつ市を候補としたが、むつ市長は、この被告関西電力の一方的な発表に対して強く拒絶の意を表明している。まして最終処分場については、全く決定される見通しが立たない状況にある。したがって、大飯原発1・2号機の使用済み燃料の危険性を内包したまま、廃炉の具体化を進めざるを得ないのである。稼働しなくなった施設の朽廃は急激に進むことは容易に予想される。被告関西電力は、大飯原発1・2号機の、廃炉決定後の、廃炉に向けての全工程を関係諸機関のみならず、当該原発によって危険にさらされる可能性のある原告らを含む全ての住民に対して、可及的速やかに明らかにする義務、少なくとも責務がある。原告らは、被告関西電力に対して、大飯原発1・2号機の廃炉に向けての全工程の内容を明らかにすることを求める。その内容の開示は、原告らに対する当該原発の危険性を判断する上での必要不可欠な事項というべきだからである。

ページトップへ

 原告らは、第44準備書面において、被告関西電力が提出した丙28に対して、厳しい批判を展開した。被告関西電力は、大飯原発3・4号機の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査を懈怠しているばかりか、実施された調査結果において、科学技術の見地からして、許されないデータ無視、あるいはそれらを著しく歪めたことを行っていると批判した。

さきに挙げた高木仁三郎は、「原発事故はなぜくりかえすのか」(岩波新書2000年12月20日発行)において原発現場における隠蔽・改ざん・捏造について取り上げている。同書において、著者は、1991年以降2000年までの間の「主な隠蔽・改ざん・捏造」を一覧表として揚げている。そして、高木は、改ざん・捏造と技術者・技術の関係について、要旨以下のように考察している。「改ざんは技術にとってはあってはならないことで、技術からの逸脱である。データのその後の解釈については、人によってはねじ曲げて解釈することがあったとしても、最初に観測した生の数字を書き換えるということは、それをやってしまったら技術というものが存在しなくなる、いわば基礎の破壊である。だから、改ざんが行われるようになってきたということは、それによって安全性が損なわれるというレベルのことにとどまらず、それ以前に技術者の基本的な倫理というものが問われる、最も根本的な問題である。社会的な正義を云々する以前の問題なのだ。観測したことに忠実である、自然の現象に忠実である、それが科学技術の基本だから、技術の倫理の基本にもその忠実さがなければならない。上記の諸事例の発生は、この技術の倫理の基本が崩れてしまったことを示しているのではないか」と。また、「捏造は、隠蔽と違って、技術者としては本質的にあるまじきことを行っている。もはや技術なし、技術者なしといっていいのではないか。技術というのは、自分で実際に計算した数字や実験的に確かめた数値に基づいて事を運んでいく。それを勝手に別の数値にすりかえてしまうようなことをやって平気である。これは技術の倫理、技術の公的性格という観点からは、到底許される行為ではない。その根本が全く台なしになってしまっている。そういう意味では、もはや技術なし、技術者なしといわれるような状況が1990年代半ばくらいから多発している」とも述べている。

そして、「こういうことがなぜ多発するのか」という問いを立て、それについて次のように答える。「技術を担当する個人が自分の仕事の公的な性格を見失っているということ、自己に対する検証のなさということ、自己に課すべき倫理規範を持っていないということ、さらにはアカウンタビリティが欠如しているということ、これらのことからして、隠蔽、改ざん、捏造等の嘆かわしい状況が生じている。少なくとも昔から科学者や技術者が持っていると考えられていた職業倫理が今は欠如してしまっている。データの改ざんや捏造は、科学と技術の前提を全くおろそかにするところに発している」のだと。

手厳しい批判であるが、数多くの隠蔽、改ざん、捏造の事例を前にすると、強い説得力を持つ主張である。丙28に対して原告らは、厳しい批判を展開し、その内容について信用性がないことを述べているが、その信用性を判断する上では、上記の高木の分析は極めて有用であると考える。裁判所に対しては、炯眼を以って、乙28の信用性の判断をして頂くことを強く望むものである。

ページトップへ

 技術者・科学者の倫理について論じたこととの関係で、原発訴訟における司法関係者の倫理についても触れなければ、倫理を真に自己のものとして受け止めていないのではないかとの批判を免れないので、以下、この点について本準備書面の最後に述べておきたい。

原発事故は巨大な人権侵害をもたらす。このことは、チェルノブイリ原発、福島第一原発の事故を経験したいま、それを否定することは誰もできない。このような人権侵害の事件が法廷に持ち込まれた場合、司法関係者はそれに対してどのように立ち向かうべきであろうか。この点を考える上で、次のことが参考とされよう。

アール・ウォレンは、1953年、アイゼンハワー大統領によって、カリフォルニア州知事から米国連邦最高裁長官に任命された。そして、この任にある時期、ウォレン・コートは、白人と黒人の分離教育は違憲と断じたブラウン対教育委員会事件、貧困者は、全ての重罪事件で、公費により弁護人を付されなければならないとされる契機となったギデオン事件、それを嚆矢とする一連の刑事司法改革判決等を生み出した。平等主義への強い志向、少数者保護についての積極的態度、米国社会の最も困難な問題である人種問題の解決に、行政部や立法部ではなく、司法部がまずイニシアティブをとったのであった。ウォレン長官は、退任直後、「ウォレン・コートは余りに早く進みすぎはしなかっただろうか」との問いに次のように答えた。「われわれは、われわれがいかに早く進むべきかについては何もいうことはない。われわれはわれわれのところへくるケースとともに進むのである。そしてケースが人間の自由の問題を持って、われわれのところにくるときには、われわれは弁論を聞き判決をするか、あるいはこれを放置して、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせるか、どちらかである。わが国においては、概していえば後者は余りに長くなされすぎたのである。」

このウォレン長官の見解は、原発をめぐるわが国の司法において深く心に止めるべきものと考える。原発について、わが国の司法は、実質的に司法判断を回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代が解決するのにまかせてきた。福島第一原発は巨大かつ悲惨な事故を起こした。これは、司法が原発についての司法判断を実質的に回避して放置し、社会の底にうずもれさせ将来の世代にそのつけを回してきたからではないか。司法にも責任はないのか。これがこの訴訟に関係する全ての者に対して問いかけられていることと思われるのである。

女川原発事件の裁判長であった塚原朋一は、2011年3月11日、福島の原発が津波に襲われたとのニュースを聞いて、とっさに「女川、大丈夫か」と思ったという。そして次のように述べている。「一般的に裁判官は、ある判決を言い渡したとたんに、その問題への関心が薄れていく。二審判決が出ても、ざっと目を通すくらい。」しかし「わたしにとって、女川原発訴訟だけはそうはいきません」と付け加える。「この訴訟については、当時の自分に責任があるかどうかという問題を超えて・・・・・いや、責任があると思っても責任の負いようはありません。そうではなくて、これからも社会状況の変化を見届ける。社会に対してメッセージを出すべきものがあれば、こうして語る。自分の出した判決は正しかったのか、正しくなかったのかと考え続ける。そして、正しくないと結論づけたら反省する。遅すぎるかもしれませんが、そうするしかありません。法律家として一生背負っていく問題だろうと思っています」と。塚原にとっては「女川原発訴訟」だけは、その出した結論に対して、他の事件と異なり、「法律家として一生背負っていく問題」だと言う。そのとおりである。裁判官が原発の稼働を容認すれば、原発は数十年間にわたって稼働を続け、廃炉となってもなお危険を内包し続け、使用済み燃料の処理に至っては途方もない期間地球に負荷をかけ続ける。ある裁判官が原発の稼働を容認した場合、それを容認した裁判官は、その原発ともはや離れることができない。その意味で、「法律家として一生背負っていく問題」である。そのように考えてくると、司法関係者の責任の重さを改めて痛感せざるを得ない。規制委員会の適合性判断は、規制基準適合の判断にすぎず、安全を保証するものではない、と規制委員会委員長は繰り返し言明している。政府は、規制基準適合の判断は安全を保証すると、文字どおり議論を「捏造」しているが、安全性の判断を規制委員会はしていないのだから、その判断は最終的には司法が行うしかない。そして、その場合における司法関係者の責任は、当該原発が稼働し、廃炉しても存在するかぎりつきまとい続ける。裁判官を含む司法関係者の責任は、原発訴訟においては、格別に重いものがある。その責任を背負って原発裁判に関わることが倫理であるというべきであるだろう。

ページトップへ

 司法関係者の責任を考える上で、次の事例を挙げておきたい。周知のように、戦前治安維持法は暴威をふるい、戦争を遂行する上で重要な役割を果した。治安維持法は1925年に制定され、その後何回か改正されたが、1930年代後半に治安維持法を適用して摘発された宗教取締りにおいて、裁判所は特高警察・思想検察の作り上げた路線をそのままなぞったのである。治安維持法研究の第一人者である奥平康弘は次のように述べている(「治安維持法小史」1977年10月、岩波現代文庫所収)。「どの宗教団体についてもいえることだが、これらに治安維持法を適用させるのは、無茶なことであった。第一、かりにこれら団体の関係者が「国体変革」を意図したとしても、かれらの「革命」は、かつて治安維持法が問題とした日本共産党のそれと、よかれあしかれレベルがちがう。前者は、当局が認容するように「暴力革命」ではなくて「意識革命」であるにすぎない。宗教上の観念の世界の問題である。第二の問題も、大きい困難を包蔵していた。それぞれの団体が「国体改革」を目的とした「結社」の態をなしているかどうかである。

常識からみて、非常にはっきりしていることは、もともと治安維持法は、この種の宗教統制のために利用されることを念頭において作られていないことである。したがってたとえば、宗教上の観念の世界における「世直り」(天理本道)、「立替え、立直し」(大本教)、「ハルマゲドンの戦い」(燈台社)などの革命・変革の思想や、そのような宗教上の教義に応じた組織と活動には、治安維持法を適用することはできないと断言するのを、裁判所に期待したとしても、それはけっして、無理難題を期待することではなかったはずである。しかるに実際には、かず多くの類似宗教取締り事件のなかで、既述の大本教事件第二審の裁判所と、本書では詳しく言及できないが、のちの浅見仙作事件の大審院判決(1945年6月)のような例外をのぞき、裁判所は特高警察や思想検察のいうなりにしたがって、善良かつ真摯な宗教人に苛酷な刑を科して、あやしむところがなかった。」。裁判所は、特高警察、思想検察の走狗となったといって過言ではない。そのような体制維持のために強大な権力を行使し、戦争遂行の支柱のひとつとなったことは否定できない歴史的事実であり、その責任は重い。当時の裁判官の大勢は、特高警察、思想検察の走狗であった。その大勢に逆らって、裁判官としての職責を果したものは殆どいなかった。そのことが、事実として戦争遂行に対する加担となった。いま、原発訴訟をめぐる状況は、大きな岐路を迎えている。規制委員会の適合性判断を無批判になぞる裁判か、安全性(危険性)の判断を、裁判官として良心、倫理にしたがって行う裁判か。原発裁判はそのせめぎ合いの中にある。大勢に安住または埋没して司法自身の判断を放棄し、規制委員会の判断をなぞる司法は、歴史の審判に耐えることはできないだろうし、自己の判断を「一生背負っていく」こともできないと思われる。さきに技術者の倫理について指摘したが、その問題は、直ちに司法関係者の倫理の問題となってはね返ってくるということを肝に銘じて本裁判に関わっていきたいものである。

以上

ページトップへ

◆1/16の第18回口頭弁論の報告

1/16(火)の大飯原発差止訴訟[京都地裁]第18回口頭弁論の報告です。
(期日前の傍聴の呼びかけ 「1/16は傍聴席を脱原発の声でいっぱいに!」→こちらへ。)

傍聴席の応募はかなり多くて,抽選になりました。前回と同様に関電関係と思われる集団もちょっとした数になっていました。

恒例の開廷前のデモは,好天と気温に恵まれて38名となり,1月としては盛況でした。

報告集会は100人をこえ,京都弁護士会館・地階大ホールが満席になりました (^o^)

・報告集会のカンパ…6万円を超えました。深く感謝します。
・缶バッジとクリアファイルなどのご協力ありがとうございました。

以下は,全体的な感想です。
—————
◆第18回口頭弁論は,原告席,傍聴席ともすべてうまり,熱気のある法廷になりました。年末年始を挟んでいて,参加者数には少し心配もありましたが,原告の皆さまのこの裁判にかける熱意が現れていました。地盤特性について関電の調査の欠陥を指摘した主張は,赤松先生の詳細なデータ点検,出口団長の主張とあいまって,説得力がありました。

◆私たち京都地裁の大飯原発差止訴訟は,関電の設定する基準地震動への疑問と,事故が起こった際の避難困難性について,着々と主張を積み重ねています。

◆とくに大飯原発の地盤特性について,関電は「ほぼ均質な地盤」であるとか,「浅部構造に特異な構造がない」と主張していますが,今回,「そういうことは到底言えない」ことを明らかにしました。関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で,そのため地震動が著しく過小に評価されているのであって,「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判しました。関電の評価は明らかに誤りです。

◆被告関電は,基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で,地域特性を十分に把握できており,その地域特性に照らせば,基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張しています。しかし,主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず,それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査がなされないままです。また実施された調査結果が,科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに,基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されています。

◆それを容認し追認している規制委員会も同様に批判されなければならない。そして,大飯原発は,地震に対して極めて危険だと言わなければならないのです。

(上記の主張は裁判所には書面で提出していますが,原告団Webへの掲載は現在,作業中です。しばらくお待ちください m(_ _)m
■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□■
◆次回口頭弁論は,★3月27日★(火)14:00~です。引き続き,原告席での参加,傍聴席で参加をお願いします。
■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□■

◆第六次[追加]原告を募集中…メールでも可

2017年中をめどに第六次[追加]の追加原告を募集しています。

  • 原告への参加申込方法…メールでの申し込みくわしい説明こちらへ。
  • 提訴以来の原告の増加 →こちらへ。
  • 裁判についてのQ&A →こちらへ。
  • 大飯原発差止訴訟 呼びかけ人 →こちらへ。
  • 京都脱原発弁護団 →こちらへ。

◆原発に頼らない社会を!

【2018年1月26日,京都キンカンで配付。】

原発はなくても何の支障もない

◆原発は、事故の多さ、事故被害の深刻さ、使用済み燃料の保管や処理の困難さなど、あらゆる視点から、人類の手におえる装置ではありません。一方、福島事故以降の経験によって、原発はなくても何の支障もないことが実証されています。そのため、ほとんどの世論調査でも、原発反対は賛成の2倍以上となっています。また、昨年末には、広島高裁が伊方原発3号機運転差止めを決定し、関電が老朽大飯原発1、2号機の廃炉を決断せざるを得なくなりました。これらは、福島原発事故の大惨事の尊い犠牲を踏まえて形成された脱原発、反原発の圧倒的民意を反映したものであり、脱原発、反原発の粘り強い闘いの成果です。

◆それでも関電は、前原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と繰り返す“新規制基準”への適合を拠り所にして、高浜原発3,4号機を再稼働させました。また、来る3月、5月には、大飯原発3,4号機の再稼働を企て、「原発銀座・若狭」の復活を狙っています。関電の利益のために、人の命と尊厳をないがしろにするものです。許されるものではありません。

◆ところで、私たちは、若狭やその周辺地域で、長期にわたって毎月2回・4日間のチラシ配布(アメーバデモ)、集会・デモ、原発ゲート前行動を展開し、住民の多くからご意見をうかがってきました。その中でも、「原発はいやだ」の声が圧倒的に多数であり、原発推進の声はほとんど聞かれていません。原発立地でも、表立ってはいないものの、脱原発、反原発が民意なのです。この民意が、顕在化すれば、原発を止めることができます。

◆ここでは、脱原発、反原発の声をさらに大きくするために、原発が地域の振興に障害であること、原発はなくても何の支障もないことを再確認したいと考えます。

【1】原発は地域を豊かにするか?

◆原発は、原発導入まで地域を支えてきた産業のほとんどを消滅させている。加えて、原発による繁栄はせいぜい50年で、一旦ことあれば、原発は「死神」である。また、せっかく原発マネーでハコモノを作っても、過疎化が進む原発立地には使う人がいなくなっている。その上、原発マネーがなくなったら、ハコモノの維持費もなくなる。その意味で、窪川原発反対運動での島岡幹夫さんの次の発言(1980年)は、傾聴に値する。「窪川町には農業と畜産で80億円、林業で30億円、加工産業は150億円近い収入があった。四国有数の食糧生産地なのに、たかだか20~30億円の税収に目がくらみ、耐用年数10年程度の原発のために2000年続いてきた農業を捨てるのは愚の骨頂。」

◆以下は、山崎隆敏著『なぜ「原発で若狭の振興」は失敗したのか』(白馬社)、第2章「原発で地域は振興できたのか?」の概要である。若狭の地域振興にとって、原発が桎梏(しっこく;手かせ足かせ)となっていることは明らかである。
(なお、以下、「嶺南」とは「若狭」とほぼ同義で、福井県南部の若狭湾沿岸の地域を指し、原発立地の高浜町、おおい町、美浜町、敦賀市、原発のない小浜市、若狭町が含まれる。「嶺南」とは、福井県の敦賀市以西の市町。南越前町以北は「嶺北」)

1.伸びない嶺南の製造品出荷額と雇用

◆1965年から2001年の36年間での福井県内の市町の製造品出荷額の伸びは、原発のない市町では13~88倍であったが、原発立地市町では5~11倍にとどまった。2001年度の敦賀市の製造業従事者は、人口が似ていて原発のない武生市、鯖江市の3分の1程度で、原発立地では雇用が伸びていないことを示す。

◆1967年から2013年の46年間での嶺南全体の製造品出荷額の伸びは4.4倍で、嶺北全体の伸び(9.2倍)の半分以下である。なお、1967年の一人当たりの出荷額は、嶺南で33万円で、嶺北で28.9万円であり、嶺南は貧しさゆえに原発を導入したという説は当を得ない。2013年の一人当たりの出荷額は、嶺南で143万円、嶺北で247.6万円と逆転している。

2.伸び悩む嶺南の観光

◆観光客の年間入込(いりこみ)数(受入数)は、1968年からの40年間で、嶺北では約2.5倍と大幅に増加したが、嶺北では約1.15倍と微増であった。なお、1968年の人口一人当たりの年間観光客入込数は、嶺北で12人、嶺南で35人であり、嶺南は美しい海岸と古刹寺社などの名所旧跡を有する人気の観光地であったことを示す。

◆嶺南の原発のない三方町(2005年に合併で若狭町になる)の2012年の年間観光客入込数は、1971年に比べて12%増で、原発立地の高浜町は48%減、美浜町は46%減であった。原発立地である大飯町は、良好な海水浴場がなかったために、1971年には高浜町や美浜町の1割に満たなかった年間観光客入込数を、2012年には高浜町や美浜町に匹敵するまでに増やしている。ポスト原発を見越した努力の成果であろう。

3.「双子の町」・美浜町と若狭町の比較

◆同じ三方郡内で、原発を持つ美浜町と持たない若狭町(2005年、旧三方町と旧上中町が合併)の経済活動を比較すれば、原発に依存し自助努力を怠った美浜町と原発に依存できない財政運営・地域振興を図った若狭町の差は歴然である。

◆1965年の美浜町の年間製造品出荷額は3.7億円で、三方町の2億円、上中町の3億円と大差はなかったが、2004年には美浜町は約10倍の38億円になったのに対し、三方町は約105倍の212億円、上中町は約113倍の346億円と伸び率に大差が出た。

◆年間商品販売額、1964年には、美浜町が8.29億円、上中町が5.28億円であったが、2004年には、美浜町が114.53億円、上中町が123.52億円となり、人口(美浜町;11023人、上中町;8288人)が少ない上中町に美浜町は追い抜かれた。

◆年間観光客入込数は、1971年以降、美浜町が常にリードしてきたが、2000年を境に逆転し、2001年には美浜町101万人、三方町106万人となった。なお、合併してからの若狭町には通年型の集客力があり、原発のない街の健闘と努力が伺える。

【2】原発と自治体財政

◆原発は電源三法交付金、核燃料税交付金などの補助金や固定資産税などによって地方自治体財政を膨張させたが、次に問題点を指摘する電源三法交付金のように、原発に関わる財政補助には、様々な弊害があるから、「地域全体の経済や自治体経済に役立っている」とは言い難い。(注)電源三法;オイルショック直後の1974年、火力発電以外の電源(とくに原発)の開発のために制定された電源開発促進税法、電源開発促進対策特別会計法、発電用施設周辺地域整備法。

1.電源三法交付金の問題点

① 依存性;地域が交付金に依存して自律性を失する。それまで地域を支えてきた産業は、ほとんど消えている。

② 時限性;恒久的ではない。・原発による繁栄は30~40年、一旦ことあれば、原発は「死神」。原発マネーがなくなったら、せっかく作ったハコモノや施設の維持費も出ない。

③ 目的限定性;その利用目的に柔軟性がない。ハコモノや施設の建設が中心。地域が過疎化し、老齢化すると、ハコモノや施設を作っても使う人がいなくなる。

2.原発立地の福井県と原発を拒否した徳島県の比較

(山崎隆敏氏の前掲著書、第3章「原発と自治体財政」より)

◆福井県と徳島県は人口、財政規模が類似している。2012年の福井県、徳島県の人口はそれぞれ約82万人、約81万人。2012年の福井県の一般会計歳入総額は4618億円、県税収入は926億円、国庫支出金は670億円、地方交付税交付金は1316億円であり、徳島県の一般会計歳入総額は4721億円、県税収入は695億円、国庫支出金は569億円、地方交付税交付金1528億円である。福井県の県税収入のうちの120億円は電力会社からの法人県民税、法人事業税、核燃料税の合計で、国庫支出金のうちの84億円は電源三法交付金であり、合計204億円がいわゆる「原発マネー」で、徳島県には入らない収入である。

◆福井県の県税収入、国庫支出金、地方交付税交付金の合計は2912億円で、徳島県の2792億円より120億円多いに過ぎない。徳島県には「原発マネー」はないけれども、地方交付税交付金を福井県より212億円多くもらっているのである。このことがもっと顕著なのは2010年で、福井県の県税収入、国庫支出金、地方交付税交付金の合計は2856億円(187億円の「原発マネー」を含む)で、徳島県の2854億円よりわずかに2億円多いに過ぎない。徳島県が地方交付税交付金を福井県より219億円多くもらった結果である。なお、「原発マネー」の多くは、原発がなければ必要がない避難道路の建設や放射線監視などの費用として消えている。原発はなくても、徳島県は福井県と大差のない財政運営をしている。また、県の借金残高(2007年度)は、福井県が7990億円(県民1人当り93万円)で、徳島県の6330億円(県民1人当り78万円)より多い。

【3】原発は農山漁村の魅力を失わせる

◆今、若者、ファミリー世代の農山漁村への移住希望が増え、30代女性の多くが「農山漁村での子育て」を志向しているといわれている。実際、都市から農山漁村への移住者は、2009年から2014年の5年間で4倍に増加したと報告されている。20~30代が中心で、女性の割合が上昇している。Iターンが多いが、これがUターンを刺激している。移住者は、いわゆる6次産業[農業、漁業(1次産業)+産物の加工(2次産業)+産地直送販売(3次産業)]を生業(なりわい)とする場合が多い。日本の食糧消費額74兆円であるが国内食用農水産物生産額は9兆円に過ぎず(現在自給率12%)、差の65兆円が6次産業の経済規模である。1%の移住者がいれば、地域が維持される。

◆上記のように、農山漁村の魅力は再発見されつつあるが、原発に依存する市町村がその対象とされ難い。

【4】原発はなくても大丈夫

1.多量エネルギーは本当に必要か

◆人類が1日当り使用するエネルギーの量は、火も使わず、動物に近い生活をしていた時代(数10万年前)には約2000キロカロリー(kcal)であった。ところが、現在は日本で160,000 kcal、米国で280,000 kcalである。こんなに多量のエネルギーを浪費しても良いものであろうか?

◆人口一人当たりのエネルギー消費量は、日本では原発が商業運転を始めた1965年からの10年間で約4倍に増加し、韓国でも20年遅れて同様な増加を見せ、中国では現在、増加の途上にある。人類史上、10年間でエネルギー使用量が4倍にも急増したことはない。この事態に、人類は、文化的、精神的に、また、地球環境との共存の視点から、真に対応できているのであろうか?

2.エネルギー使用量(要求量)を減らすことは可能か?

◆以下のように考えれば、可能であることは明らかである。ただし、人類が麻薬依存症のように、いつまでもエネルギー依存、便利さ要求を拡大し続ければその限りでない。「欲を少なくし、足るを知り、質素でも心豊かな生活を求める」価値観への転換も重要である。

・エネルギーの開発より今の 1/10 のエネルギーで働く装置の開発を!

◆近年の科学技術は、省エネルギー機器の開発を可能にしている。例えば、1948年に発見されたトランジスターは、真空管とは比較のしようもないないほど小さな電力で真空管と同じ機能を発揮する。もし、真空管で携帯電話を働かせようとすれば、ナイヤガラ瀑布の水を全て使っても、発熱を冷却しきれないであろう。また、近年普及が進んでいるLEDは。蛍光灯の1/10の電力で、蛍光灯と同等の明るさを与える。さらに、軽くて丈夫な素材(炭素繊維、軽金属、有機材料)の開発も進み、軽量で燃費の少ない車、航空機の製造を可能にしている。

◆原発に費やす人材、資金、時間を省エネ機器の開発に回せば、エネルギー使用量の削減は可能になろう。

・貴重な資源とエネルギーの投棄を見直そう!

◆50年前には、少なくとも田舎では、ゴミ収集車は来なかったが、現在は、膨大な量のゴミが焼却され、埋め立てられている。現在、日本での食べ残し食料は、1日800万食と言われる。一方、明治以来、水洗便所の普及率が文明の尺度と勘違いされ、水洗トイレによってし尿が垂流されている。しかし、ごみ、食べ残し食料、し尿は、貴重な資源である。

◆とくに、し尿は、臭いと寄生虫がなければ、立派な肥料(窒素、リン酸源)である(リンは、細胞膜を構成するなど、生体に不可欠の成分であるから肥料として植物に与える)。今、世界のリン鉱石が枯渇しかかっている。し尿の垂れ流しを止めて有効利用しなければならない。

・修理より買った方が安い社会構造の見直しを!

◆現在、修理を依頼しても、「修理できない」、「買い替えた方が安い」と断られることが大抵である。そのため、ゴミとして廃棄される。エネルギーの無駄使いでもある。

・エネルギー投入型生産の見直しを!

◆戦前までのように、人力を主体とし、化学肥料、農薬を使わない農業をやれば、現在の1/10 程度のエネルギーで米や野菜を生産できるという。難点も多々あろうが、見直すこともできると考えられる。

3.少し待てばエネルギー増産は不要になる

◆現在は増加している世界の人口は50年以内に減少に転じ、エネルギー使用量も減少する。一方、省エネ機器の開発、水力・火力・その他の発電法の効率化と新発電法の開発、大容量蓄電法の開発なども進み、エネルギー生産を減少させても何の支障もない時代が到来すると予想される。ましてや、負の側面しか持たない原発など不要となり、原発を利用した過去を後悔することになろう。なお、原発はなくても、そのような時代を待つに十分なエネルギー源は十分存在する。石油は200年、石炭は1000年以上現在のペースで使い続けても枯渇しないといわれている。太陽光、風力、波動、地熱、天然ガス、メタンハイドレート、オイルシェールなどもある。

福島原発事故以降の経験は、原発はなくても電気は足りること、節電は大きな困難もなく実行できることを実証しました。また、覚悟して備えていれば停電も怖くないことも体験しました。人類の手におえない原発を動かす必要はありません。


2月25日(日)~26日(月)
大飯原発うごかすな!
若狭湾岸一斉チラシ配布(拡大アメーバデモ)

関電原子力事業本部へのデモと申し入れ、原子力規制事務所への申し入れ

主催:大飯原発うごかすな!実行委員会

呼びかけ:オール福井反原発連絡会、若狭の原発を考える会、ふるさと守る高浜・おおいの会

連絡先:木原(090-1965-7102:若狭の原発を考える会)、宮下(090-2741—7128:原子力発電に反対する福井県民会議)
ご参加、ご支援、カンパをお願いします。
(カンパ郵便振込先;加入者名:若狭の原発を考える会;口座記号・番号:00930‐9‐313644:お振込みにあたっては、通信欄に「若狭湾岸一斉チラシ配りへのカンパ」とお書きください。


2018年1月26日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆第18回口頭弁論 原告提出の書証

甲第381号証(第42準備書面関係)
甲第382~421号証(第43準備書面関係)
甲第422~426号証(第44準備書面関係)
甲第427~428号証(第45準備書面関係)

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



証拠説明書 甲第381号証[96 KB](第42準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第381号証
南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応のあり方について(報告)(中央防災会議防災対策実行会議南海トラフ沿いの地震観測・評価に基づく防災対応検討ワーキンググループ)

証拠説明書 甲第382~421号証[311 KB](第43準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第382号証
第11回口頭弁論調書(名古屋高等裁判所金沢支部)

・甲第383号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(地震調査研究推進本部 地震調査委員会)

・甲第384号証
地震本部ホームページ「全国地震動予測地図2016年版」(同上)

・甲第385号証
震源断層を特定した地震動の強震動予測手法(「レシピ」)(同上)

・甲第386-1号証
発電用軽水型原子炉施設の地震・津波に関わる新安全設計基準に関する検討チーム 第3回会合 議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第386-2号証
震基3-4「(骨子素案)発電用軽水型原子炉施設の地震及び津波に関わる新安全設計審査基準」(抜粋)(同上)

・甲第387号証
東洋経済オンライン「大飯原発『基準地震動評価』が批判されるワケ島崎氏の指摘を規制委は否定したが…」(岡田広行記者)

・甲第388号証
日本地震学会平成28年秋季大会予稿S15-06『震源断層を特定した地震の強震動予測手法』と熊本地震(纐纈一起)

・甲第389号証
中国新聞記事(中国新聞)

・甲第390号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会の概要について(原子力規制庁)

・甲第391号証
平成28年度原子力規制委員会第16回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第392号証
大飯発電所の地震動の試算結果について(原子力規制庁)

・甲第393号証
平成28年度原子力規制委員会第20回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第394号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第395号証
手紙(島崎邦彦)

・甲第396号証
「大倉・三宅式の問題」(同上)

・甲第397号証
島崎前原子力規制委員会委員長代理との面会について(原子力規制庁)

・甲第398号証
平成28年度原子力規制委員会第23回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第399号証
原子力規制委員会記者会見録(同上)

・甲第400号証
NHK「かぶん」ブログ「大飯原発の従来の地震想定見直さず 改めて決定」(NHK)

・甲第401号証
平成28年度原子力規制委員会第22回会議議事録(抜粋)(原子力規制委員会)

・甲第402号証
「大飯発電所 地震動評価について」(抜粋)(被告関西電力)

・甲第403号証
「島崎邦彦氏の問題提起と2016年6月改訂新レシピは原発基準地震動の根本改定を求めている」(長沢啓行大阪府立大学名誉教授)

・甲第404号証
「科学」2016年7月号(抜粋)(島崎邦彦)

・甲第405号証
「2016年4月14日・16日熊本地震の震源過程」(纐纈一起 小林広明 三宅弘恵)

・甲第406号証
「そもそも総研」「そもそも熊本地震の後,原発は大丈夫なのだろうか?」の報告書(弁護士甫守一樹)

・甲第407号証
大飯原発「地震動,再計算を」元委員が規制委に要請(毎日新聞)

・甲第408号証
全国地震動予測地図2016年版 地図編 141頁「震源断層を特定した地震動予測地図」(推本地震調査委員会)

・甲第409号証
全国地震動予測地図2016年版 付録1 補足解説(抜粋)(同上)

・甲第410号証
「『耐震設計審査指針改訂に伴う中国電力株式会社島根原子力発電所1,2号機新耐震安全性に係る中間報告の評価について』に対する見解」(抜粋)(原子力安全委員会)

・甲第411号証
「<原発・基準地震動>使用回避の計算法,継続の規制委に異議」(毎日新聞)

・甲第412号証
強152参考資料5 「レシピ」の一部記述表現について(案)(地震本部事務局)

・甲第413号証
ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究総括成果報告書(抜粋)(独立行政法人防災科学技術研究所)

・甲第414号証
柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉 敷地周辺陸域の地質・地質構造について(抜粋)(東京電力ホールディングス株式会社)

・甲第415号証
(原子力発電所)資料4-2-2 柏崎刈羽原子力発電所6号炉及び7号炉敷地周辺海域の地質・地質構造について(抜粋)(同上)

・甲第416号証
日本地震工学論文集第15巻第2号 「断層極近傍のための理論地震動シミュレーション法を用いた断層表層領域破壊時の地震動推定」(山田雅行 羽田浩二 今井隆太 藤原広行)

・甲第417号証
「科学」Vol.86 No.8 「2016年熊本地震を教訓とする活断層防災の課題と提言」(鈴木康弘 渡辺満久 中田高)

・甲第418号証
日本地球惑星科学連合2017年大会予稿 SCG70-P03 「疑似点震源モデルを用いた2016年熊本地震本震の強震動シミュレーションとその改良」(長坂陽介 野津厚)

・甲第419号証
地震調査研究推進本部地震調査委員会第153回強震動評価部会議事次第(地震本部)

・甲第420-1号証
事務連絡(尋問事項)(函館地方裁判所)

・甲第420-2号証
質問回答書(藤原広行)

・甲第421号証
大分合同新聞「活断層と揺れ予測熊本地震の教訓強さ、過小評価の恐れ」(大分合同新聞)

ページトップへ

証拠説明書 甲第422~426号証[133 KB](第44準備書面関係)
(2018年1月12日)

甲第422号証[484 KB]甲第422号証付図[5 MB]
「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」(赤松純平元京大助教授)

甲第423号証[154 KB]
意見書(芦田襄京大名誉教授)

・甲第424号証
原子力発電所問題についての意見書(石井吉徳東大名誉教授)

・甲第425号証
基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

・甲第426号証
敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド(抄本)(原子力規制委員会)

証拠説明書 甲第427~428号証[91 KB](第45準備書面関係)
(2018年1月12日)

・甲第427号証
関西広域連合(関西広域連合広域防災局)

・甲第428号証
口頭弁論要旨(原告高瀬光代)

ページトップへ

◆原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

2018年(平成30年)1月12日

原告第45準備書面[147 KB]

原告第45準備書面
―避難困難性の敷衍(避難所の問題点について)―

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では阪神淡路大震災を体験した原告高瀬光代の体験をもとに学校を避難所として避難困難性に関する個別事情について述べる。

第1. 学校を避難所とすることの問題点

1995年1月17日、阪神淡路大震災がおこったさい原告高瀬が勤務していた中学校が、避難所と指定され、8ヶ月後に指定が解除された。しかし、学校は、生活の場所としての機能が全くないため、下記の問題が発生した。

第一に、プライバシーが全く保障されていない。当時学校周辺は木造住宅のみならず、鉄筋のマンションも傾いたり、倒壊したりしたため、直後には約3000名が高瀬の勤務していた学校に避難してきた。このため、グランド、普通教室、体育館等学校中に人が溢れていた。プライバシーの保障されない空間であるため、結局、女子生徒は数日の間にいなくなった。また、体育館の床は硬く、とても寒く、高齢者には特に苛酷な状況であった。このため、多くの者が体調を崩し、大勢が密集して暮らしていたため、インフルエンザが流行した。

以上のとおり、学校の体育館は、夏は暑く、冬は寒く、床は硬く、生活の場所としては全く不適当である。自然災害などで危急の場合には地域住民の避難所にすることはやむを得ないが、原発事故のために避難を余儀なくされた者を迎える場所として、学校の体育館は不適当である。

第2. 学校の本来の役割

阪神淡路大震災が、おこったのは1995年1月17日であり、ちょうど受験準備のまっただ中であった。地域住民が被災し、校舎も被災し、生徒も教員も被災した中でも、全県一斉に行われる高校受験や、全国一斉に行われる大学受験などが行われた。一人一人の生徒にとっては一生を左右する重要なことであり、困難な中で必死に取り組まれた。生徒にとっては、学校生活のどの時期も一生に一度の、取り返しのつかない大切な時間であり、学習権の保障は学校の重要な責務であり、学校を避難場所とすることは、子どもたちの学習権に対する侵害である。

第3. 「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」について(甲427号証)

関西広域連合が、平成26年に策定した「原子力災害に係わる広域避難ガイドライン」によれば、原発事故が起きた場合に、避難が見込まれる25万人について受け入れ調整を行っており、多くの学校が避難所として指定されている。突然の原発事故により、僅かの所持品しか持ち出せず、住み慣れた家を離れて避難せざるを得ない方々を迎える場所として、学校は適当な場所ではない。避難場所として不適切な学校を避難場所として指定するのではなく、原発自体を廃炉にするべきである。

以上

ページトップへ

◆原告ら第44準備書面
地域特性の補充

原告ら第44準備書面
地域特性の補充

2018年(平成30年)1月12日

原告第44準備書面[2 MB]

目 次

1 はじめに
2 PS検層
3 試掘坑弾性波探査
4 反射法地震探査について
5 単点微動観測
6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率
7 速度構造と破砕帯の関係
8 調査が表層部にとどまること
9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと
10 まとめ


以下の丙号証へのリンク(文中で茶色で表示)は、次のとおり。
・丙第28号証…3分割、こちら[13 MB] ほか連番
・丙第178号証…27分割、こちら[15 MB] ほか連番
・丙第179号証…7分割、こちら[4 MB] ほか連番
・丙第196号証…4分割、こちら[19 MB] ほか連番



1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第35及び37準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。
即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(甲357、意見書「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点 -地盤の速度構造(地盤モデル)について-」赤松純平)。

被告関電は、原告らのこの指摘に反論しないままであるが、原告らは、赤松純平元京大助教授作成の意見書「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」[1](甲422)にもとづき、以下のとおり主張を補充する。

[1]

甲357「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点―地盤の速度構造(地盤モデル)-」2017年4月17日付 略称『赤松意見書(第1次)』 被告関電の丙28「大飯発電所の基準地震動について(平成27年1月)」を検討批判した意見書。
甲422「大飯発電所基準地震動策定における問題点―地盤構造モデルについて―」2018年1月8日付 略称『赤松意見書(バージョンアップ版)』 丙28の他、平成29年11月1日弁論期日で取調べられた以下の被告関電提出証拠を検討批判した意見書。
丙178「大飯発電所発電用原子炉設置許可申請書(3、4号炉完本)」(平成29年5月作成)の添付資料六「変更に係る発電用原子炉施設の場所に関する気象、地盤、水理、地震、社会環境等の状況に関する説明」
丙179「大飯発電所地震動評価について(平成28年2月19日)」
丙196「大飯発電所の地盤モデルの評価について(平成26年3月5日)」

ページトップへ

2 PS検層

(1)PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、人為的に震動を起こし(起震器)、受震器で振動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。

(2)被告関電は、4号炉と3号炉敷地におけるPS検層結果から「ほぼ均質な地盤と考えられ」、「敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」と主張している。これに対して、原告らは第35準備書面で、低速度層が、地表付近と深度100m前後付近に認められ、「ほぼ均質な地盤」と言えないこと、②PS検層は4号炉と3号炉の敷地のデータが示されているが、2号炉と1号炉の敷地のデータが示されていないが、2号炉と1号炉の敷地は、4号炉と3号炉の敷地と比べて、さらに地震波伝播速度が低いと考えられ、不開示は問題であることを指摘して批判した。

(3)地盤が均質でない
地盤が均質でないことについて補充する。

PS検層結果を分析すると、①O1-11孔とO1-3孔とでは速度構造が異なる、②低速度層が挟在する、③深度60mまでで1.17~2.44km/sと地震波伝播速度に2倍以上の違いがあることから、「ほぼ均質な地盤」であるとか、「浅部構造に特異な構造がない」とは到底言えない。

図2【図省略】

(4)低速度帯が東に拡がる
西から東に向けて地震波伝播速度が低くなっていることが、PS検層からも明らかであるので、補充する。

4号炉と3号炉の敷地の4つのボーリング孔の深度60mまでで観測された地震波伝播速度(Vs)は、下記の図に書き込んだとおり、西側で高く東側で低いことが明らかである。

図1【図省略】

ページトップへ


3 試掘坑弾性波探査

 (1)試掘抗弾性波探査とは

「試掘坑弾性波探査とは、原子炉敷地に横穴(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破や起震器などで人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で振動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で振動を与える試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震伝播速度を推定する」ものである(原告ら第35準備書面p6)。

 (2)原告らのこれまでの主張

原告らは、第35準備書面で、屈折法探査において、被告関電が「大飯発電所の基準地震動について」(丙28)で、本件原子炉敷地の地震伝達速度を過大に評価することで、地震動を過小に評価していることを明らかにして批判した(「大飯発電所の基準地震動の策定における問題点」甲357)。

地震伝播速度を実際より大きく評価して地震動を小さく見せようとしている【表省略】

 (3)試掘坑内坑間弾性波探査(ファン・シューティング)

ファン・シューティングの結果を踏まえて批判を補充する。

丙28は、試掘坑弾性波探査について、屈折法探査の結果だけを掲載しておりファン・シューティングの結果を掲載していなかった。そのため、原告ら第35準備書面はこの屈折法探査結果だけを分析して批判した。ファン・シューティングの結果が、丙178の添付資料六の第3.5.114図として掲載されていることから、これに基づく批判を補充する。

起震器の設置場所は以下の図の扇の要箇所である。

図5 【図省略】

図6(1)がファン・シューティングの結果図であり(4つのうちの一つ)、起震器から放射状に描かれた線と試掘坑の交点に受震器が設置されており、放射状に描かれた線の中途の円弧状の空白部分に描かれている折れ線グラフが各放射状に描かれた線で測定された地震波速度である(km/s)。

図6(1)【図省略】

4つのファン・シューティングに記録されている全ての観測データから、一本ずつ速度を読み取って、場所毎に平均して地震波速度を算出して図化したものを以下に引用する。

図10【図省略】

被告関電は、上記のとおり、P波について、地震伝播速度を4.6km/sとして地震動を評価している。しかし、3号炉の敷地の過半は地震伝播速度の平均が4km/sを下回っており、平均速度が3.7km/sの地盤が拡がっている。

さらに、これら速度値は平均値であり、実際には3.7km/sを下回る速度値が少なからず観測されている。

図7【図省略】

被告関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で、そのため地震動が著しく過小に評価されている。

上記のとおり、4号炉と3号炉敷地の地盤の地震波速度は、西から東方向に急激に低下し、さらに3号炉直下に東から低速度帯が延びている。3号炉の東には、2号炉、1号炉の敷地が続いているが、反射法地震探査が実施されず、観測データが明らかにされていないままである。上記のとおり、この問題は放置することが許されない。

以上、ファン・シューティングの結果は、第35準備書面で指摘した原告らの主張の正しいことを一層明瞭にした。

ページトップへ


4 反射法地震探査について

 (1)反射法地震探査

反射法地震探査とは、起震した地震波の地下の不均質構造による反射波を多数の地震計で測定して地下構造を探査する方法である。石油探査のために研究開発実用されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

 (2)被告関電の主張

被告関電は、反射法地震探査について、「500m位まで反射面が確認され、その範囲内では特異な構造は認められない」と主張している。

 (3)原告らのこれまでの主張

これに対して、原告らは、第35準備書面で(1)通例、深度断面に記載されるはずの速度値が記載されていないこと、(2)深度断面図からは層境界の不連続部分が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘して、被告の評価が誤っていることを批判した。

 (4)深度断面図の速度値の非開示

被告関電は、深度断面毎の速度値を、その後も開示していない。被告関電は深度断面毎の速度値を持っているのであり、改めてその開示を強く求める。

 (5)深度断面図の評価について補充する。

原告らは、深度断面図の読解(評価)について、芦田譲京都大学名誉教授に意見を求めた。芦田名誉教授は、物理探査学会の会長を務めた反射法物理探査の権威である。芦田名誉教授は「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であるとの意見であった(甲423)。芦田名誉教授の意見を踏まえて、改めて、被告関電の「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判する。

図11【図省略】

 (6)3次元探査が必用であることについて補充する。

同じく物理探査学会の元会長である石井吉徳東大名誉教授(甲424)と、芦田名誉教授は、被告関電が、反射法地震探査に関して、2次元探査に終始し3次元探査を実施していない問題点を指摘した。芦田名誉供述は、以下のとおり述べている。

「地盤調査の技術は、石油探査の必要等から発達してきました。反射法地震探査は石油探査の現場では、以前は二次元調査をしていましたが、1975年頃から三次元調査が用いられるようになり、最近では三次元調査が一般になっております。二次元探査は、震源と受振器を線上に並べて地下断面を得ますが、これでは地下の地層状況を正確に把握することができません。一方、三次元探査では、多数の震源と受振器を面的に配置します。このデータを計算機により映像化することにより、医療分野で用いられているCTスキャン映像のように、恰も地下に潜っているかのような仮想現実(Virtual Reality)として地下構造を立体的に捉えることができます。例えれば、二次元探査はレントゲン写真、三次元探査はCTスキャンのようなものです。

二次元探査の場合、受振したデータには直下から反射して戻ってくるデータの外に、直下でない周囲から反射して戻ってくるデータが含まれています。それらを全て直下からのデータとして把握するため、不正確、場合によっては誤って把握してしまうことがあります。これに対して三次元探査の場合、地層の境界や断層の位置、角度、傾斜、落差や連続性等をビジュアル化し、且つ正確に捉えることができます。したがって、二次元探査では抽出しえなかった複雑な地下構造まで抽出することができます」

芦田名誉教授が指摘するとおり「原子力発電所のような重要な施設の場合・・・地下構造を高精度な手法で調査をし、より正確な地下情報に基づいて、地下構造形態や断層の詳細を把握して議論すべき」ことは当然である。

この点、新規制基準も「最先端の調査手法」を用いるべきことと、「地下構造が成層かつ均質」でない限り「地盤モデルの設定にあたっては、解放基盤面の位置や不整形性も含めた三次元地盤構造の設定が適切である」と定めている(甲425:「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」(7.2.1(1)(2))、甲426:「敷地内及び敷地周辺の地質・地質構造調査に係る審査ガイド」(はじめに5、5.1(4)))。本件地盤が「成層かつ均質」でないことは上記のとおりである。

原告らは、被告関電に対し、「特異な構造は認められない」という誤った主張を改めること、新規制基準に従って原則どおり反射法地震探査の三次元探査を直ちに実施すること、そしてその結果を当法廷に提出することを強く求めるものである。

 (7)速度断面図

速度断面図について新たに補充する。

・速度断面図は、反射法地震探査の屈折法解析によって明らかになる地震波伝播速度を図化したものである。

層毎に地震伝播速度が異なるところ、起震器の発する地震波は、第1層を通って受震器に到達するものもあれば、その下の第2層を通って受震器に到達するものもある。起震器に近い受震器には第1層だけを通る直接波が最初に到達する、しかし、一般的には浅い層ほど地震伝播速度が遅いため、ある程度遠くの受震器には地震伝播速度が第1層より速い第2層を通る屈折波の方が早く到達する。受震器までの距離と到達時間を分析することで、層の厚さや地震伝播速度を解析することができる。

速度断面図は、このようにして解析された地下の地震伝播速度を図化したものである。

図13【図省略】

被告関電は、この速度断面図について「屈折法解析結果より、表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる。」と主張している。

しかし、速度断面図を拡大して見れば明らかであるが、4号炉と3号炉付近では、2.5km/sの低速度層が標高-30mの深さまで沈み込んでいる。
「低速度帯の顕著な落ち込み等の特異な構造はなく、地下構造は水平方向に連続的である」とは到底言えない。

また、解放基盤表面とされる標高0m付近の地震波伝播速度は2.0km/sに過ぎない。
被告関電は、地震動評価のための地盤モデルを4.6km/sとしているが、実際の弾性波速度はその半分以下で、非常に低い。上記被告関電の評価は著しく過大で明らかに誤りである。

 (8)はぎ取り法

はぎ取り法について新たに補充する。

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。屈折法解析は、概ね水平な多層構造を想定するが、実際には地表にも地層境界にも凹凸によるばらつきがある。そのため、屈折法地震探査では、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

図14【図省略】

被告関電は、はぎ取り法による解析の結果、「やや深部を伝わる誤差の少ない平均的な最下層速度」が、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sであったと主張している。

しかし、はぎ取り法の結果は(図14)、Vp=4.5km/s層の上面の深さは120mであり、標高に換算すると-80~-90m、その深さまでの表層の平均P波速度が1.9km/sに過ぎないことを示している。表層のP波速度は非常に低い。これは、屈折法による速度断面図の分析結果と一致している。被告関電の「最下層速度がVs=4.5km/s」という上記主張は、はぎ取り法の解析結果を歪めて評価するものである。

また、A測線の測定位置は、ボーリング孔O1-3に近接しているところ、PS検層の結果、O1-3孔においては標高-60mまでVs=1.17~1.92km/sと低い地震伝播速度が観測されている。また、4号炉と3号炉の敷地が東に向かって地震伝播速度が顕著に低くなり深く沈み込んでいることが明らかになっている。
はぎ取り法の解析結果も、PS検層の結果と一致して、この事実を明らかにしている。

ページトップへ


5 単点微動観測

(1)単点微動観測について、新たに主張を補充する(被告関電の主張に対する批判)。車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような小さな振動のことを微動と言う。地表面における微動のうち水平成分(水平成分を水平スペクトルとも言う)を上下成分で除すと(H/V),主に表層地盤のS波速度や層厚などの構造が把握できるとされている。

(2)被告関電は、単点微動観測結果(H/Vスペクトル)から、解放基盤深度が推定でき、解放基盤相当の上面深度は概ねEL(東京湾平均海水面)-25m~+65m程度で、敷地全体にわたって著しい高低差がないことが確認された、従って、三次元探査は不要だと主張している(上記4(6)p9)。

(3)しかし、H/Vスペクトルから、下層(基盤岩層)の速度値を精度良く求めることは不可能である。

①被告関電は、上層(堆積層など)Vs=472m/s、下層Vs=2.2km/sとして上層の厚さを求め解放基盤の深度としているが、下層がVs=1.6km/sとしても同様の深度分布が得られる(図17)。

図17【図省略】

②被告関電がH/Vスペクトルから得られるとする深度分布は、反射法地震探査屈折法解析の速度断面図と30m近くの違いがある(図19)。被告関電のH/Vスペクトルから解放基盤深度が推定できるとする主張は、反射法地震探査屈折法解析結果(観測データ)と矛盾しており誤りである。

図19【図省略】

以上、単点微動探査結果は「成層かつ均質」であることを示しておらず、上述のとおり三次元探査の実施が必要なのである。

ページトップへ


6 地盤の地震波減衰構造と地震波増幅率

地震波減衰について原告ら主張を補充する。

(1)地震波減衰 地震波は地殻内を伝播することで減衰する。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。地殻内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱は、不均質構造の大きさと波長の関係に規定される。

内部減衰と散乱減衰によりQ値が定まる。Q値が大きい媒質ほど減衰しにくい関係にある。

(2)原告らは、第35準備書面で、被告関電がQ=50f1.1を用いていること(丙28 p42)に対して、①上記式を用いる根拠が示されていないこと、②地域性を考慮したのか否か明らかでないことを批判した。

(3)被告関電は、本件地盤の減衰特性について、「敷地のPS検層結果から、速度構造の不均質性と減衰定数の関係に着目して不均質強度を評価した結果から減衰定数は3%程度と考えられる。敷地内でのQ値測定を実施した結果、減衰定数は3%程度以上となっている。→浅部の減衰定数を3%とする」と主張している(減衰定数:h=1/(2Q))。

(4)しかし、①上記のとおり速度構造の不均質性と減衰定数の関係は、散乱減衰に関する問題で、減衰の大きさは、散乱体(不均質)の大きさと波長の関係によって決せられ、波長即ち周波数に依存する。ところが、被告関電の上記主張は、周波数とは関係なく一般的にh=3%としており、地震波動理論に矛盾すする。②また被告関電は、敷地内でQ値を測定したと主張し、振幅分布図を示して、その傾きからh=3%が説明できるとする。しかし、振幅分布図を子細に検討しても、P波S波はいずれも深度によって一様に減衰しておらず、むしろ増加する区間が存在する。敷地内でのQ値観測結果からh=3%が導けたとの被告関電主張の信頼性は大変低い。

図38【図省略】

さらに被告関電は、180mまではh=3%、それ以深3kmまではh=0.5%とも主張するが、その根拠については何の説明もなされていない。

地盤構造モデルにおけるQ値の設定は、現在のところ確定した評価方法がない。そのため、例えば、中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、「500m/s<Vs<3000m/sのQ値の解析例が少ないので、Vs>3000m/sの場合の平均的なQ値であるQ=100×f0.7を用いる」として高周波域で減衰が小さく、地震動が大きくなる「安全サイド」の値を用いている。中央防災会議の考えに従う減衰構造モデルと被告関電モデルの増幅特性を比較すると、10Hz以上の周波数帯域での増幅率が被告関電モデルは中央防災会議モデルの半分程度になる(図38)。被告関電は、減衰定数を大きく設定して、基準地震動を過小評価している。

図39【図省略】

ページトップへ


7 速度構造と破砕帯の関係

以上、本件敷地は、西から東に系統的に速度が低下し、さらに3,4号炉建屋付近では低速度層が深く沈み込んでいることが明らかになった。これは、地質構造調査で明らかになっている破砕帯の分布に起因しているものと考えられる。被告関電は、この関係に目を向けようとしていない。

敷地内には、F-6破砕帯をはじめ、主要な15本の破砕帯が深さ200m以上にわたって確認されており(図39、図42)、それに付随して規模の小さい破砕帯が数多く存在する(図40)。特に、4号炉基礎岩盤に比べ3号炉基礎岩盤においてこれらの破砕帯が密に分布しており(図40、41)、3号炉側でP波速度が大きく低下しているという速度の場所による違いは、破砕帯の分布に大きく依存していることが明瞭に読み取ることができる。被告関電及び原子力規制委員会は、敷地内の破砕帯(断層)について、活動性評価のほかに、破砕帯が及ぼす地盤速度構造への影響を評価していない。地質学や地形学の知見が基準地震動策定のための地盤モデル構造に生かされていない。

図40【図省略】

図41【図省略】

図42【図省略】

図43【図省略】

ページトップへ


8 調査が表層部にとどまること

原告らは、第37準備書面で、2007年新潟県中越沖地震について、地震の前には、訴外東京電力が同原発は「揺れの少ない強固な岩盤上に建て」られており、「軟らかい地盤」「に比べ1/2から1/3程度」の揺れにとどまるなどと説明していたこと、ところが基準地震動の4倍の1699ガルの「想定外」の地震動が起きたこと、そのことについて訴外東京電力が、地下4~6kmの深部地盤に傾きがありそれによって波が集中したとか(約2倍)、地下2kmに褶曲構造があって地震波が1~4号機に集中したとかの(約2倍)後付け説明をしていること、しかしその説明が実証されているわけではなく仮設の域を出ないことを指摘した。いずれにせよ、地下4~6kmの深部地盤、地下2kmの敷地地盤に原因が求められた。

ところで、大飯原発の地盤特性については、反射法地震探査で陸域で地下500m位まで、海域では地下2~300mまでしか把握されていない。地震波干渉法による調査が地下4kmまで行われたとされているが、地下3kmから18kmにあるとされる震源断層の調査としては著しく不十分である上、地震波干渉法は、地震計間の地盤が平行な成層構造であると仮定して解析するもので、地下の褶曲や地層の傾斜、凹凸などは全て平均化されているから、地下4kmまでの不整形・不均質を調査したことにはならない。さらにそもそも地震波干渉法の調査からは、地震波を増幅させる低速度帯の存在が示唆されることについてすでに第35準備書面で述べたとおりである。

この点、島崎邦彦東京大学名誉教授が、①の震源特性に関して、被告関西電力の地盤調査が表層部にとどまっていて極めて不十分であると、次のように証言した(甲382「島崎証人調書」23頁)。

 「見て頂きたいのは、その右側のこれは詳細な活断層調査の中なんですけど、下の方にズレがあるところで断層が見えると思うんですけど、この深さは200~300メートルにすぎません。詳細な活断層の調査っていうのをやっていても、実はほとんど表層にすぎないんですね。ところがこの発電所では、地震発生層の厚さが、一番浅いところで3キロメートル、一番深いところで15キロメートルだといってます。だから3000メートルから15000メートルのところに震源断層が存在しているはずだ。それを僅か200メートルの調査で、どう詳細なものが分かるのでしょう。わかり得ませんね。だけどこれを詳細な活断層の調査と言っているわけです。」

島崎証人は、被告関西電力が地震発生層が地表から3kmから15kmの深さのところにあり、その範囲内に震源断層があることを認めているにも関わらず、活断層調査をしているのは200~300メートルという表層にすぎず、被告関西電力の地盤調査は極めて不十分だと指摘している。

ところで、深部地下構造地質調査はできる。地下20㎞あるいは30㎞に達する大規模な地下地質構造調査が現に行われている。ひずみ集中帯プロジェクトによる日本海東縁のひずみ集中帯における地下構造探査や(中核機関は独立行政法人防災科学技術研究所)大都市大震災軽減化特別プロジェクトの大規模地殻構造調査研究である(文部科学省)。例えば「ひずみ集中帯の重点的調査観測・研究プロジェクトの総括成果報告書」(甲413)によると、各調査によって新潟県から秋田県にかけての一部領域における深部地下構造のイメージングが行われ、地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の存在が明らかになっているのである。

東京電力も、平成10年度国内石油・天然ガス基盤調査陸上基礎物理探査「西山・中央油帯」の地震探査記録や昭和44年度天然ガス基礎調査基礎物理炭鉱「長岡平野」の地震探査記録を適合性審査資料で引用し、地下数km~6km程度の地下構造を示している(甲414,415)。

調査は可能なのに、被告関電は実施していない。費用を出し惜んでいるとの誹りを免れない。

ページトップへ

9 被告関電は主張を裏付ける根拠資料を提出しておらず主張立証責任を果たしていないこと

平成29年12月13日、四国電力の設置する伊方原発3号炉は地震や火山に対する安全性が確保されていないとして周辺住民らがその運転の差し止めを求めた仮処分申立事件の抗告審において、広島高裁は、運転差し止めを認めなかった原決定を破棄し、決定後9か月余りの期間に限ってではあるが、同原発の運転を差し止める決定を下した。高裁レベルで原発の運転の差し止めを命じた初の判断として極めて意義のある決定であるが、その中で広島高裁は、主張立証責任に関し、「発電用原子炉を設置する事業者は、原子炉施設に関する上記審査(注:原子炉規制法に基づく原子力規制委員会の審査)を経ることを義務付けられた者としてその安全性についての十分な知見を有しているはずである。このことと、前記の原発事故の特質(注:発電用原子炉施設の安全性が確保されないときは、人の生命・身体や環境に対して深刻な災害を引き起こすおそれがあること)に鑑みると・・・当該発電用原子炉施設の設置運転の主体である被告事業者の側において、まず、「当該発電用原子炉施設の設置運転によって放射性物質が周辺環境に放出され、その放射線被曝により当該施設の周辺に居住等する者がその生命、身体に直接的かつ重大な被害を受ける具体的危険が存在しないこと」(以下「具体的危険の不存在①」という。)について、相当の根拠資料に基づき主張立証する必要があり、被告事業者がこの主張立証を尽くさない場合には、具体的危険の存在が事実上推定されるなどとして(175~178頁)、事業者側が主張立証責任を果たしたというためには相当の根拠資料を示すことが必要であると判示した。

これは極めて当然の判断である。そして被告関電は、「相当の根拠資料」を何ら示していない。すなわち、例えば、被告関電は①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をそもそも行っていないのであるから、これのみでも「相当の根拠資料」が示されていないことは明白であり、主張立証責任を果たしていないことは疑いないが、③地盤の増幅特性(サイト特性)についても、PS検層について2号炉と1号炉のデータを示しておらず、反射法地盤探査についても深度断面ごとの速度値を開示していないのであるから、「相当の根拠資料」が示されていないことに変わりはないのである。また、反射法地盤探査に関して2次元探査しか行っておらず3次元探査が可能であるのにこれをあえて実施しておらず、当然その結果を示していないし(単点微動観測に関しても同様)、地盤調査も地下10km程度ないしそれ以深の範囲の断層の調査を行うことは可能であるにもかかわらず意図的にこれらを行わず、もちろんその結果を示していないのである。

よって、上記広島高裁決定に照らして被告関電が主張立証を行っていないことは明白であるから、それらを採用する余地はない。

ページトップへ

10 まとめ

被告関電は、基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で、地域特性を十分に把握できており、その地域特性に照らせば、基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張している。しかし、主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず、それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査が懈怠されたままである。また実施された調査結果が、科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに、基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されている。

それを容認し追認している規制委員会も同様に批判されなければならない。

以上、本件原発は、地震に対して極めて危険だと言わなければならない。

以上

ページトップへ