裁判資料」カテゴリーアーカイブ

◆原告第24準備書面
第1 全体を通じて

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について- 目次

2016年(平成28年)9月12日

第1 全体を通じて

被告は、発生し得る地震の規模、地震動の大きさ、原発の重要施設の耐震性や想定される津波の高さ等については、原告の主張・立証に対して、独自の視点で反論をしている。しかし、それとて、東日本大震災後の今日、客観性、妥当性を欠くものであることは、すでに原告が主張・立証し、今後もする通りである。

しかし、一方で、被告関西電力は、原告が主張・立証した下記の諸点については、ほとんど、まともな反論をしていないのが現状である。

すなわち、まず、被告関西電力は、原告が指摘している新規制基準の根本的な問題点に対して何ら反論できない。被告関西電力は、「新規制基準」が完全無欠の基準だとでも主張するつもりなのだろうか。

また、被告関西電力の反論は、そのほとんどが、大飯原発の重要施設が地震・津波に耐えられるから重大事故がおこらない、という点に収斂しているところ、大飯原発が全体として地震に耐えられることすら反論できていない。水素爆轟の危険の防止、という、「新規制基準」で定められている点を大飯原発3、4号機がクリアできていない点について何ら反論できないのは異常である。それどころか、実際に大飯原発や被告関西電力の他の加圧水型の原発で、過去に重大事故につながりかねない想定外の事故が多発していることにも反論できない。これらの事故は、大地震など外からの力が加わったときこそ発生しやすいのに、である。

その先の、住民、その財産の放射能汚染、放射線被ばくの危険性、自治体の策定する避難計画の実現可能性に至っては、全くといって良いほど反論していない。

また、自然再生エネルギーなどが普及し、我が国の電力供給の上で、原発が必要ないという厳然たる事実についても、被告関西電力は何も反論していないに等しい。

原告の主張の要旨と、それに対する被告関西電力の対応の状況は、添付の表にまとめたとおりであるが、その要旨は第2以下で述べるとおりである。

◆原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について-
目次

原告第24準備書面
-被告関西電力が反論していない原告の主張について-

原告第24準備書面[596 KB]

2016年(平成28年)9月12日

目次

第1 全体を通じて

第2 規制基準の合理性等

1 原告第1準備書面との関係
2 原告第5準備書面との関係
3 原告第7準備書面―立地審査指針―との関係

第3 実際に重大事故が起きた場合の放射線被ばくや避難等の点

1 原告第3準備書面との関係
2 原告第6準備書面との関係
3 原告第12準備書面との関係
4 原告第8,17,19,22準備書面との関係

第4 原発のぜい弱性等

1 原告第9準備書面との関係
2 原告第10準備書面との関係
3 原告第20準備書面関係

第5 原告第13準備書面(自然再生エネルギーの拡大)との関係

(原告の主張と被告関電の反論の対比表)
※準備書面(PDF)の12ページ以降に掲載されています。そちらをご覧ください。

◆原告第23準備書面
第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

1 基準地震動の不合理性を具体的に指摘した島崎邦彦氏

既に原告第16準備書面29頁以下において、島崎邦彦氏の「活断層の長さから推定する地震モーメント」を引用して主張・立証したところではあるが、とりわけ重要な部分でもあり、やや敷衍して述べる。

島崎邦彦氏は、日本を代表する地震学者であるというだけでなく、平成26年9月に退任するまで原子力規制委員会における地震関係分野担当の委員として、大飯原発をはじめとした数多くの原発の基準地震動の審査実務にたずさわった経験があり、被告等原子力事業者が言うところの「詳細な調査等」がどのようなものであるかを熟知している人物である。その島崎氏が、入倉・三宅(2001)の式による地震モーメントの過小評価のおそれについて、ひいては大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価となっているおそれについて指摘していることの意義は極めて大きい。

本年6月、規制委員会は、度重なる同氏の指摘を受けてようやく地震動を再計算したが、7月13日、別の式を使った再計算の結果でも基準地震動の範囲内に収まっているとして一旦は幕引きを図ろうとした。然るに当該計算過程に問題があるとの指摘を島崎氏から受けるや、今度は、同月27日、別の式を用いて計算した内容について「非現実的な結果になった」ことを、また別の式についても「今まで使ったことがない」ことを理由として基準地震動の見直しを否定した。しかし、問題のある計算過程を用い、あるいは見直しを行わない理由を変遷させ、計算結果を「非現実的」と決めつけること自体が「安全神話」に立脚したものに他ならず、再稼働の結論ありきの姿勢に他ならない。

2 活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難

まず同氏は、地震モーメントを活断層の長さから予測する場合、過小評価となる可能性があり注意が必要であるとする。これは、予測には震源断層の長さ(あるいは面積)と地震モーメントとの関係式が使われるが、地震発生前に使用できるのは活断層の情報であって、震源断層のものではないため、過小評価の可能性があるからである。

実際に活断層の長さが想定されたものよりも長かった場合として兵庫県南部地震や熊本地震の例があることは既に述べたとおりであり、活断層の大部分が地中を走るものである以上、事前の調査に大きな限界のあることは自明であろう。とりわけ大飯原子力発電所周辺に散在する活断層は海中にもあり、基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であり、実際の長さが被告関西電力の想定よりも長いことは十分にあり得ることである。活断層の長さが8キロ程度違うだけで地震の規模が2倍になることは既に述べたが、これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

また、大飯原子力発電所の南西に存在する上林川断層の東端が被告関西電力の主張するとおり県境付近であるのか、大飯原子力発電所の南南東に存在する熊川断層の西端はどうなのか、何の保障もない。熊本地震などで実際に目の当たりになったように実際の活断層の長さはより長い可能性が十分にあり、そうだとするとそれぞれの断層をそのまま延長させていけば大飯原子力発電所ないしその周辺にまで至る可能性もある。これらの活断層が実際には大飯原子力発電所の直下を走る可能性も全く否定できないのである。

このように活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難である。そのことは兵庫県南部地震や熊本地震によって実証されている。そうである以上、島崎邦彦氏が指摘するように過小評価となる危険性は十分に存在するのである。

3 入倉・三宅の式(2001)を用いた場合の過小評価の危険性

(1) 活断層の長さから地震モーメントを算出する計算式

日本の陸域及びその周辺の地殻内浅発地震(M7程度以上)について(いわゆる内陸型地震について)、断層長L(m)と地震モーメントMo(Nm)との関係式を平易な形で表現すれば次のようになる。

ただし<4>の入倉・三宅の式では垂直な断層が想定されており、断層の傾斜角を60度とした場合には係数が1.09から1.45へと変化する。

<1> 武村(1998)
Mo=4.37×1010×L2

<2> Yamanaka&Shimazaki(1999)
Mo=3.80×1010×L2

<3> 地震調査委(2006)
Mo=3.35×1010×L1.95

<4> 入倉・三宅(2001)
Mo=1.09×1010×L2

(2) 入倉・三宅の式は他の式と比べ1/3~1/4の過小評価となる

入倉・三宅の式(<4>)と他の式との差異は顕著で、同じ断層の長さを想定した場合でも係数の差によって3~4倍もの差が地震モーメントに現れてくることになる。入倉・三宅の式は、それ自体として、地震モーメントを他の式に比べて過小に算出する式なのである。その要因の一つは、入倉・三宅の式が北米中心の地震データを基にしているためであり(甲280[9 MB]「若狭ネット161号」7頁脚注7)、それをそのまま日本における地震に当てはめることには無理があるからである。もう一つは無論、活断層の長さや震源断層の不均質性などの測地データを事前に確実なものとして把握することが不可能だからであり、そのような測地データの限界によって入倉・三宅の式が過小評価となってしまうことは、入倉孝次郎氏も認めるところである(同7頁、入倉孝次郎研究所ホームページ)。このような、地震の規模を過小に評価することが明らかな式を原子力発電所の耐震性に関して用いることは極めて不適切という他ない。

そして、これを実際の地震について活断層の長さを用いた場合の地震モーメントの予測値と実際に活断層で発生した地震の地震モーメントの観測値とを1891年濃尾地震、1930年北伊豆地震、2011年4月11日福島県浜通りの地震で比較し、さらに1943年鳥取地震、1945年三河地震、1995年兵庫県南部地震で検討したところ、原子力発電所における強震動予測において断層面積の推定に使用されている入倉・三宅の式(2001年 Mo〔地震モーメントNm〕=1.09×1010×L〔断層長m〕2)を用いると、地震モーメントが過小評価される傾向が明確に裏付けられた(甲230[782 KB])。

図《図省略》は、地震モーメント実測値と推定値を単位1018Nmで表したものであり、OBS=観測地、T=<1>式、YS=<2>式、ERC=<3>式、IM=<4>式である(甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。図のように、<4>入倉・三宅の式によって予測される地震モーメントは、実際の観測値よりも1/3~1/4となっているものが多い。この値は、<1>~<3>の式と係数が3~4倍程度異なっていることと完全に整合している。

他の式によって予測される地震モーメントは実際の観測値にかなり近いものになるのに対し、<4>入倉・三宅の式の場合、その係数の差により、実際の観測値よりも1/3~1/4となる傾向があるのである。当然、地震モーメントが過小評価されれば発生するであろう地震動も過小な予測となる。

4 大飯原子力発電所にも妥当すること

被告関西電力の策定する基準地震動は入倉・三宅の式(2001年)に基づいているのであるから、地震モーメントが実際の観測値よりも1/3~1/4もの過小評価となっており、その結果、基準地震動自体も過小評価となっているおそれが十分に認められるのである。

しかも、島崎邦彦氏が入倉・三宅の式を適用するにあたって仮定した条件は、地震発生層の厚さを14キロ、断層傾斜角を(西日本の断層で標準的なケースである)垂直としており、傾斜角を60度とした場合には係数を1.09から1.45とするというものであるが(甲230[782 KB]甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)、被告関西電力が設定するFO-A~FO-B~熊川断層の条件は、地震発生層の厚さを15キロ、断層傾斜角を基本的には垂直とし、「不確かさを考慮する」として75度とするというものであり、双方の条件はほぼ同じであるから、島崎氏の指摘は大飯原子力発電所における基準地震動についても妥当する。島崎氏自身がそのことを言明しているところであり(甲282[42 KB]「陳述書」)、入倉・三宅の式の考案者である入倉孝次郎氏自身も、同式を「地震の揺れの予測に使う場合には、断層面が垂直に近いと地震規模が小さくなる可能性はある」(甲283[77 KB]「毎日新聞記事」)と述べていることとも整合する。大飯原子力発電所のように断層面が垂直に近い条件設定下では、式の考案者自身が過小評価となる危険を指摘しているということになる。

よって被告関西電力が設定した基準地震動は、地震モーメントを実際に起こり得る規模よりも1/3~1/4も過小評価した上で算出されたものなのであって、低きに失する不合理なものであることは明白である。

5 島崎邦彦氏の指摘は基準地震動がいかに矮小な知見に基づくものかを示すものでもある

また、島崎氏の指摘に関連してもう1つ重要なのは、被告関西電力の設定する基準地震動が過小評価となっている具体的な可能性が、その設定後に示されたという点である。

原告第18準備書面29頁以下で述べたとおり、原子力発電所の新規制基準適合性に関する審査会合は現在もなお継続して開かれており、議論が続けられている。その議論の中で本件発電所(大飯原発)における地震や津波の想定は随時見直され、それに対する被告関西電力の対応も随時変化し、指摘を受けるごとに個別に対応するということが続いているのであり、「原子力規制委員会による審査」はなお途上であることが明らかである。
これは、基準地震動を設定した際に被告関西電力が用いた「知見」が、あくまでもその時点でのものにすぎず、その後随時更新され見直されるべきものである以上当然のことである。島崎氏の指摘も被告関西電力の設定した基準地震動が前提とする知見には限界があり、そのことを考慮して再計算すべきとするものであるが、これは、かかる原告らの主張を正に裏付けるものとなった。

被告関西電力の設定する基準地震動は限界ある狭い知見に基づいて策定されたものにすぎず、そもそもなんら信用できるようなものではないのである。

以 上

◆原告第23準備書面
第1 熊本地震を受けて

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて- 目次

2016年(平成28年)9月8日

第1 熊本地震を受けて

1 M7クラスの地震が連続して発生したこと

熊本地震では、2016年4月14日に気象庁マグニチュード(Mj)6.5、震度7の地震(震源の深さ11キロ)が、同月16日には同7.3、震度7の地震(震源の深さ12キロ)が相次いで発生し、その後も余震が震度1から6まで無数に観測され、震度6強が2回、震度6弱が3回、震度5強が4回、震度5弱が8回、震度4が95回も観測されている(気象庁震度データベースより)。

内陸型(活断層型)地震でマグニチュード6.5以上の地震の後にさらに大きな地震が発生するのは、地震の観測が日本において開始された1885年以降で初めてのケースであり、また一連の地震活動において震度7が2回観測されるのも初めてのことであった。そのため気象庁自身が「今までの経験則から外れている地震」であると述べており、そのことを理由として、気象庁は通常規模の大きい地震の後には余震の発生確率を発表しているが、本地震では発表を取りやめるほどであった。かかる気象庁の見解は、これまで地震学において得られている知見が、いかにわずかな期間の観測記録に基づく、いかに不十分な知見でしかなかったことを如実に示すものである。

このように短期間に間にM7クラスの地震が連続して発生することを想定していた地震学者はおらず、当然、我が国における耐震基準もそのような事態を想定していなかった。だからこそ熊本地震では、1度目の地震では倒壊を免れた建物が2度目の地震によって相次いで倒壊し、人々に甚大な被害を与えるに至ったのである。翻って原子力発電所における耐震基準も、このようなM7前後の大規模な地震が連続して発生した場合のことを想定してものとはなっていない。これは、熊本地震が起こるまで誰一人としてそのような事態を想定していなかった以上当然のことである。原発を含む建物の耐震基準は、耐震構造等にダメージのない状態で発生した大規模な地震に対して耐えられるかどうかという観点から設定されているが、本件のように、1度目の大規模な地震で耐震構造等にダメージが入った状態でさらに2度目の大規模地震にまで耐えられるかどうかという観点は全く考慮されていない。だからこそ熊本地震で多くの建物が1度目の地震を耐え抜きながら2度目の地震によって倒壊してしまったのであるが、原発において連続して大規模な地震が発生した場合、果たして2度目の地震に耐えられるであろうか。そのような保障はまったくない。そして、熊本地震において「今までの経験則から外れている地震」が観測された以上、今後大飯原発等の原子力発電所において「それまでの経験則から外れている地震」が発生する可能性は誰にも否定できないのである。むしろ、2011年の東北地方太平洋沖地震も「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震であったが、日本で地震の観測が始まってから100年余りの間にそのような地震が繰り返し発生しているということは、今後100年余りの間にもそのような「それまでの経験則から外れている」ような大規模な地震が繰り返し発生してしまう可能性が高いことを意味している。

熊本地震は、地震学の知見がいかに矮小なものにすぎないか、今後も経験則から外れるような地震が発生する可能性がいかに高いかを示すものであると同時に、原子力発電所を含むこれまでの耐震基準が全く想定していなかった連続地震の発生の可能性を示すものとして極めて重要である。被告関西電力の主張についても、いかに矮小な地震学の知見に基づくものにすぎないか、経験則から外れるような地震が発生する可能性をいかに過小評価しているかが熊本地震によって明らかにされ、同時に、連続地震の発生の可能性という点に全く留意していないという致命的な欠点をも詳らかにされたのである。

2 M7クラスの地震の予知・予測は不可能であること

政府の地震調査委員会が作成した大地震の発生確率を示す予測地図によれば、熊本地震が発生する前の1月1日時点では、熊本市で震度6弱以上が発生する確率は7・6%であり、47都道府県で低い方から16番目、高い方から数えれば32番目であった(ちなみに京都市の確率は13%)。しかし、実際に大規模地震が発生したのは熊本だったのである。このことは、大規模地震の予知・予測が不可能であることを示している。

また、地震の前兆を示す異常地殻変動等も熊本地震について事前に全く報告されていなかった。これは、1995年1月17日の兵庫県南部地震と同じである。このことからも、大規模地震の予知・予測は不可能であることが分かる。

3 活断層の長さを調査によって明らかにすることは不可能であること

(1) 予測による活断層の長さと実際の活断層の長さとの間には乖離がある

熊本地震は内陸型地震であり、当該地域に存在する活断層が活動したことによって発生したものである。M7.3の地震を引き起こした活断層は布田川断層帯の東端の区間であり、その長さは元来約19キロとされてきたが、国土地理院の測地データに基づく暫定値では、今回の熊本地震で活動した部分はさらに8キロ程度長い約27キロであった。

その後、纐纈一起東大地震研教授らの手による強震・遠地・測地データのジョイントインバージョンによる震源断層モデル(下図)《図省略》では、断層長54キロ、断層幅16.5キロで、傾斜角75度の断層面を設定したモデルが、強震・遠地・測地データを一番よく説明できるとしている。この纐纈教授らの震源断層モデルは、2016年5月13日に発表された地震調査推進本部・地震調査委員会の「2016年熊本地震の評価」の報告にも採用されており、現段階で最も信頼性の高い震源パラメータである。図のなかで、黒太線が既知の活断層であり、青四角が実際に動いた部分である(すべり分布は赤色が大きく、青色が小さい)。この図からも、既知の活断層と実際に動いた部分とは一致しておらず、既知の活断層の延長線上に長く延びていることが確認できる。

このように、事前の活断層の長さに関する調査が限界のあるものであり、実際の震源断層の長さとは大きな乖離があることが明らかになったのである。

このように実際には事前に想定されていなかった長さの活断層が動いたという事例として、1995年1月17日に発生した兵庫県南部地震を挙げることもできる。M7.3であった同地震は震源領域の長さ50km超、深さ約5~18kmの断層面が一度に破壊して起こったものであるが、事前には短い断層の存在が何本か知られていたにすぎない。同地震においてこれほど長い活断層が動くとは想定されていなかったのである。初の近代都市における直下型地震であり甚大な被害を及ぼした兵庫県南部地震も、活断層の長さを事前に調査して明らかにすることは不可能であり、予測される長さと実際の長さとの間には乖離があることを明確に示している。

こうした地震発生前に予測される活断層の情報と実際の活断層の情報との間には乖離があり、地震の規模を活断層の長さから予測する場合に過小評価となる可能性があることは、元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏も指摘するところである(甲230[782 KB]甲278[842 KB]「活断層の長さから推定する地震モーメント」)。活断層は基本的に地中に存在するものであるから、その長さを事前に明らかにすることには自ずから限界があるのであり、いかに不確実な予測にすぎないかはこれまでの地震によって、あるいは元原子力規制委員会委員長代理であった島崎邦彦氏によって明確となっているのである。

(2) 活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である

既に原告準備書面2・脚注27で述べたところであるが、活断層の長さは地震の規模を決定づける極めて重要な要素である。例えば、断層の長さ(L)とマグニチュード(M)の関係について松田(1975)の経験式によればlogL=0.6M-2.9と表される。そのため上記熊本地震の場合を例にとれば、<1>活断層の長さ19キロを用いるとM=約7.0となり、<2>国土地理院による測地的震源断層の長さから求められた27キロを用いるとM=7.2、<3>強震・遠地・測地のジョイントインバージョンから求められた震源断層の長さ54キロを用いるとM=7.7となる。さらに、マグニチュード(M)と地震エネルギー(E)との関係についてグーテンベルグ・リヒターの半理論・半実験式logE=4.8+1.5Mを用いてEを求めれば、<1>が1.7×10の15乗、<2>が4.3×10の15乗、<3>が24.0×10の15乗となる。

つまり、既存の活断層から予想される①の地震エネルギー(E)に比べて、現段階で最も信頼性の高い纐纈教授らによる震源パラメータを用いて計算すると、地震エネルギー(E)は13倍以上にもなるのである。このように、実際の震源断層モデルから求められた放出エネルギー(E)が、既存の活断層から予測される地震の放出エネルギーに比べて極めて大きかったことが今回の熊本地震の教訓の一つである。

(3) 大飯原子力発電所周辺の活断層も過小評価の可能性は十分にある

そして、若狭湾周辺地域にも断層・活断層が多数存在し、特に基準地震動を策定する際の対象であるFO-B・FO-A断層は海中を走っている。地中にある活断層すら事前の調査が困難なのであるから、海底を走る活断層の調査がなお一層困難であることは明白であろう。これらの断層の長さが想定よりも長かった場合、基準地震動は直ちに過小評価となるのである。

4 熊本地震で「階級4」の長周期地震動が観測されていること

(1) 長周期地震動による被害の可能性

熊本地震において、防災科学技術研究所の強震観測網であるK- NET・KiK-netによれば、益城観測点KMMH16の地表 面における最大加速度は、M6.5の前震では3成分合計値1580ガル、上下動で1399ガルを記録した。さらに、M7.3の本震では3成分合計値1362ガルを記録した。

このような大きな地震加速度が観測されたのは、この地域が火山性の軟弱地盤であることも考慮しなければならない。益城観測点周辺の地盤では火山堆積物が厚く表層を覆っていて、S波速度が2kmを越えるのは深さ230m以深である。これに対して、大飯原子力発電所の敷地はS波速度が基盤直下から2.2kmを超えており、固い地盤にあると言われている。柔らかい地盤上の地点では、固い岩盤上の地点に比べて表層で大きな揺れ(地震動)が数倍程度増幅される可能性も考えられる。そうなると、熊本地震の経験から、大飯原子力発電所でクリフエッジを上回る地震動に襲われる可能性が高いとは言えなくなるが、熊本地震の経験として、一つ注目すべき点がある。

それは、気象庁が2011年東北地方太平洋沖地震のあと、「長周期地震動階級」の導入を検討してきたが、2013年3月28日に「長周期地震動に関する観測情報(試行)」を公開して以来、最上階級の「階級4」が、今回の一連の熊本地震で、2016年4月15日のM6.4の地震と同年4月16日のM7.3の地震の際に熊本地方で初観測されたことである。熊本のM6.4とM7.3の地震の際に「階級4」の長周期地震動が観測されたということは、大飯原子力発電所近傍のM7.
8の想定地震でも被告関西電力は、大飯原子力発電所の長周期地震動への対策を講じておかなければならない。

(2) 地震動が大きくなりがちな若狭湾地域の地域特性

川瀬博京大防災研教授らは一連の熊本地震について、防災科学技術研究所の強震観測網(K-NET、KIK-net)、および気象庁のJMA震度計ネットワークによって観測された強震データをもとに、4月14日のM6.5の前震、16日のM7.3の本震およびそれらの余震である23の地震(M=4.5~6.4)の震源特性を求めている(川瀬・仲野:スペクトル分離で求めた震源特性とサイト特性、およびその考察、2016)。それによると、得られた応力降下量Δσは、M6.5の前震が2.21MPa、M7.3の本震が1.77MPaであり、「これらの応力降下量レベルは過去の15年間に発生した内陸地震のM6クラスの地震としてはほぼ下限値のラインに近く、決して地震として特異に硬い地震(短周期を多く放出した地震)とは言えないことがわかった。」と述べ、さらに、短周期レベルについて、「今回の地震の短周期レベルは過去のM6以上クラスのそれのほぼ下限値となっており、2011年の福島県浜通りの地震に比べても小さめとなっている・・」と記して、熊本地震は「柔らかい地震」であったことを指摘している。

既に原告準備書面16で述べたところであるが、甲234[1 MB]「1985年若狭湾沿岸で発生した地震(敦賀での震度3の弱震)による大飯原子力発電所1号機の自動停止について」によれば、若狭湾地 域においては、地震における応力降下量が大きくなるという地域特性がある。応力降下量が大きくなるということは、当然、地震動が大きくなるということになる。若狭湾地域においては、他地域で発生する同規模の地震に比べ短周期レベルが大きい、すなわち、応力降下量が大きいという地域的特性がある。言い換えると、若狭湾地域では「硬い地震」が発生する傾向にある。熊本地震のように「柔らかい地震」によっても大きい加速度値が観測され、甚大な被害が発生した。若狭湾から延びるFO-A~FO-B~熊川断層を震源断層とする「硬い地震」が起これば、熊本地震より極めて大きな震源加速度短周期レベルが発生し、基準地震動を大きく越える可能性が高い。被告関西電力は、地域特性を考慮すれば策定した基準地震動は信用できると繰り返し主張するが、逆に短周期の地震動レベルが大きくなるような地域特性があるとの指摘は等閑としている。

5 地震動にはバラつきが大きいこと

(1) 熊本地震によってバラつきの大きさが実証された

基準地震動が地震動の「標準的・平均的な姿」を基礎としており、「バラつき」や「不確かさ」を最大限考慮することが必要であるにもかかわらず、大飯原子力発電所においてはそれが適切に行われていないことは既に原告第16準備書面において述べたところであるが、そのバラつきの大きさが熊本地震においても確認された。

すなわち、長沢啓行大阪府立大学名誉教授によると、熊本地震の前震の益城観測点の地下地震観測記録(南北方向237ガル)(M6.5、等価震源距離約13km)を2倍することで推定されるはぎとり波応答スペクトル(約470ガル)は、川内原発の市来断層帯市来区間(M7.2、等価値震源距離14.29km)の耐専スペクトル(内陸補正なし)(約460ガル)とほぼ等しい(甲279[3 MB]「若狭ネット」第160号19~22頁)。つまり、M6.5であった熊本地震の前震でM7.2と同等以上の地震動が観測されたということであり、それだけバラつきが大きいということを示している。また、上記のように熊本地震では、はぎとり波の応答スペクトル(約470ガル)がM7.3の耐専スペクトル(約460ガル)を超えており、耐専スペクトルが過小であることが客観的に明らかである上、断層モデルに至っては過小な耐専スペクトルに対してすら1/2~1/3にすぎず、大幅な過小評価となっている(甲279[3 MB]「若佐ネット160号」2頁)。
そしてこれらの点は、原子力規制庁も認めざるを得ない部分である(甲280[9 MB]「若狭ネット161号」3頁)。

M6を超えるような規模の地震が大飯原発近傍で生じた場合、距離減衰式その他の強震動予測手法のバラつきを十分に考えておかなければ、基準地震動を大きく上回る地震動が本件原発を襲う事態は、現実に生じ得る。そしてこのように地震動にバラつきが大きいことは、原告準備書面16で述べたところであり、熊本地震によってかかる原告らの主張が裏付けられた形となった。このようなバラつきを適切に考慮すれば、基準地震動は過小評価という他ない。さらに後述の島崎意見によっても、大飯原子力発電所の基準地震動が過小評価であることが示されている。

(2) 「偶然的不確定性」を低減することはできない

そもそも地震動のバラつきには、種々の知見の亢進と調査の結果によって理論的には低減することができる「認識論的不確定性」と、いくら手を尽くしても低減できない「偶然的不確定性」があり、後者としては、あらかじめ想定することが困難である震源特性における震源メカニズムや破壊伝播方向、伝播経路における触媒の不均質性、サイト特性における地盤の不整形性や入射角などによる地震動の強さの違いなどが挙げられる(甲279[3 MB]「若狭ネット160号」12頁以下、甲281[1 MB]「距離減衰式における地震間のばらつきを偶然的・認識論的不確定性に分離する試み」)。上述の活断層の本当の長さについてももちろん、あらかじめ想定することが困難な要素の一つである。

そもそも前者の認識論的不確定性によるバラつきをゼロにすることは不可能である(知見が日々更新されていることは既に述べたとおり)が、その点を措くとしても、低減不可能な偶然的不確定性による地震内のバラつきの大きさは「平均値+標準偏差」が平均値の1.75倍になる大きさということになる。これに認識論的不確定性によるバラつきの大きさを加味すれば、概ね平均値の約2倍程度のバラつきを最低限考慮しなければならない。この2倍という値は、原告らが主張してきた「倍半分」の考え方と共通するものであり、極めて正当である。

◆原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて-
目次

原告第23準備書面
-熊本地震及び島崎邦彦氏の指摘などを踏まえて-

原告団第23準備書面[534 KB]

2016年(平成28年)9月8日

目次

第1 熊本地震を受けて

1 M7クラスの地震が連続して発生したこと
2 M7クラスの地震の予知・予測は不可能であること
3 活断層の長さを調査によって明らかにすることは不可能であること
4 熊本地震で「階級4」の長周期地震動が観測されていること
5 地震動にはバラつきが大きいこと

第2 島崎邦彦元原子力規制委員会委員長代理の指摘を踏まえて

1 基準地震動の不合理性を具体的に指摘した島崎邦彦氏
2 活断層の長さを事前の調査によって明らかにすることは極めて困難
3 入倉・三宅の式(2001)を用いた場合の過小評価の危険性
4 大飯原子力発電所にも妥当すること
5 島崎邦彦氏の指摘は基準地震動がいかに矮小な知見に基づくものかを示すものでもある

◆第11回口頭弁論 原告提出の書証

甲第255~276号証 (第20、第21準備書面関連)
甲第277号証 (原告第22準備書面関連)

証拠説明書 甲第255~276号証[279 KB] (第20、第21準備書面関連)
2016年5月16日

  • 甲第255号証[487 KB]
    基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第256号証[1 MB]
    発電用原子炉設置変更許可申請書(添付書類八)(関西電力)
  • 甲第257号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    ~113ページ[18 MB]
    114ページ~最終[10 MB]
    大飯3号炉及び4号炉 耐震設計の基本方針(第61回原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合)(関西電力)
  • 甲第258号証[9 MB]
    関西電力(株)大飯発電所3号機及び4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査書(原子力安全・保安院)
  • 甲第259号証[3 MB]
    大飯3号炉及び4号炉保安電源設備について(関西電力)
  • 甲第260号証[1 MB]
    非常用取水設備(滝谷紘一)
  • 甲第261号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    添付資料[15 MB](1~79/139)
    補足資料[14 MB](80~139/139)
    大飯発電所3、4号機の新規制基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(170)の添付資料(関西電力)
  • 甲第262号証[324 KB]
    大飯3号炉及び4号炉 共用に関する設計上の考慮について(関西電力)
  • 甲第263号証[101 KB]
    「発電用軽水型原子炉の新規制基準に関する検討チーム」について(原子力規制委員会)
  • 甲第264号証[6 MB]
    商業用原子力発電炉に係る新規制基準(一般財団法人高度情報科学技術研究機構)
  • 甲第265号証[61 KB]
    表1 (甲264の引用文書)(原子力規制委員会)
  • 甲第266号証[113 KB]
    実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策および格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド(原子力規制委員会)
  • 甲第267号証[336 KB]
    「シビアアクシデント対策の要求事項(個別対応別の主な設備等について)(案)」の網羅性について改訂版(発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームの事務局)
  • 甲第268号証[539 KB]
    発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チーム第7回会合議事録
    (発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームの事務局)
  • 甲第269号証[6 MB]
    非常用炉心冷却装置等の例(PWR)(電気事業連合会)
  • 甲第270号証[100 KB]
    原子炉格納容器スプレイ設備(PWR)系統説明図(原子力規制委員会)
  • 甲第271号証[2 MB]
    大飯発電所の安全対策トピックス2015特別号VOL.13(関西電力)
  • 甲第272号証[405 KB]
    大飯発電所3号炉及び4号炉 基準適合性のうち試験、検査可能性について(関西電力)
  • 甲第273号証[8 MB]
    大飯3号炉および4号炉、設置許可基準規則等への適合性について(重大事故等防止技術的能力)(関西電力)
  • 甲第274号証[110 KB]
    大飯原発運転差止判決における科学の問題(纐纈一起)
  • 甲第275号証[2 MB]
    関西電力(株)大飯発電所3号機および4号機の安全性に関する総合的評価(一次評価)に関する審査書(原子力安全・保安院)
  • 甲第276号証
    ※20MBを超えるため分割しています。
    1ページ~70ページ[14 MB]
    71ページ~139ページ[13 MB]
    福岡高裁決定書(福岡高等裁判所宮崎支部)

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証拠説明書 甲第277号証[62 KB] (原告第22準備書面関連)
2016年5月16日

  • 甲第277号証
    綾部市地域防災計画(綾部市防災会議)

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◆第11回口頭弁論 意見陳述 要旨

意見陳述書

私は、齋藤信吾と申します。
1950年生まれの66歳です。綾部市味方町に住んでいます。

味方町は大飯原発からは約40kmの市外地の東に位置しています。一人住まいです。綾部市防災会議は、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」を平成25年3月に発表しています。この、計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域の範囲を大飯原発発電所から32.5kmとしています。私が住む味方町は、原発から約40km離れているため、綾部市計画では、原子力災害対策を重点的に実施すべき地域に含まれていません。しかし、このような距離で単純に重点的な地域とそうでない地域をわけることには非常に怒りを覚えます。

私が原発訴訟に参加したのは、原発は絶対安全といって国民を欺き、情報を隠し、また誰も責任をとらない事が許せなかった事と、私が生まれ育った田園都市・綾部が放射線で汚染されて住み続ける事が出来なくなるような事態は阻止しなければならぬと思ったからです。今日は、2つの点についてお話しさせていただきます。

一つ目は、水の問題です。
私は、味方町を流れる由良川沿いで生活していますが、対岸の斜め向かいに綾部市の浄水場が設置されています。美山町には由良川ダム・大野ダムがあります。その下流の京丹波町には和知ダムがあります。由良川ダムは、大飯原発から40km圏内に位置しています。仮に大飯原発で事故が起き、由良川ダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、私たち味方町に住む者も含め、京都府北部全体の住民が飲料水を確保することができなくなってしまいます。

綾部市防災会議は、平成28年3月、「綾部市地域防災計画―原子力災害対策編―」に新しい項目を設けました。新しい避難計画では、「飲食物の出荷制限、摂取制限等」という項目が追加されています。しかし、この項目では、「市は、飲食物の出荷制限、摂取制限等を行った場合における、住民への飲食物の供給体制をあらかじめ定めておくおものとする」とされているだけで、何ら具体的な対策は書かれていません。原発事故が起きると私たちの飲料水はどうなってしまうのでしょうか。

二つ目は、避難の問題です。
私は、大飯原発で過酷事故が起きた時は、避難を決断すると思います。

しかし、私自身は、視覚障害5級の障害者です。右目は全く見えません。左目はめがねをかけて矯正しても0.2以下の視力です。当然、自動車を所有していませんし、通常の移動手段は、「自転車」です。仮に地震などにより、道路を通ることが出来なくなった場合、避難は不可能です。単身者ですので、同乗を頼める家族はいません。同乗させていただける知人がいれば避難できますが、緊急時に頼めるかはわかりません。自転車では、非常時用の持ち出しグッズも軽量のものしかのせることはできません。
私のように障害があるものにとっては、交通渋滞などは別にして、そもそも一刻も早く避難すること自体が大変なのです。ここ数年は、夜や暗い場所での移動が困難となっています。夜間に避難することを考えるとぞっとします。

私の仲間のことについてもお話しさせていただきます。
私は、綾部市身体障害者協会と公益社団法人京都府視覚障害者協会の二つの団体に所属しています。視覚障害者協会では副会長を務めています。

この団体は、現在1200人余りの会員とおよそ40の賛助団体が加盟しています。「独りぼっちの視覚障害者をなくそう」を合い言葉に、障害があっても安全で豊かに暮らせるバリアフリー社会の実現をめざして活動しています。会員の仲間の中には、全盲で全く見えない方もいます。原発事故が起きた際に、どうやって避難したらいいのでしょうか。福島での「逃げ遅れた人々」や避難所でやっかいもの扱いされた事例を聞いたこともあり、とても不安に思っています。熊本の地震では避難所に入ると迷惑を掛けるからと入所を諦めた障害者のニュースもありました。

また、私は、綾部市身体障害者協会では、事務局長を務めています。
綾部市身体障害者協会は昭和28年に発足し、学習会をしたり、研修旅行をしたり、街頭での活動をしたりしています。現在の会員数は約90人です。会員の中には、重度の身体障害を持っている方もいます。日常生活でも、自宅から最寄りのバス停にいくまでが、大変というという人もいます。

綾部市計画では、災害時に要援護者について十分配慮すると書かれていますが、私のような視覚障害者がどうやって避難するのか。重度の障害を持った者はどうやって避難するのか。

障害の内容に応じた具体的な避難方法は全く記載されていません。今年3月に新しくなった綾部市避難計画では、第6要配慮者への配慮という項目が新設されています。しかし、この項目は「十分配慮する」とだけ書かれているだけで、問題点は全く解決していません。

新しい綾部市避難計画では、要配慮者等が避難に時間を要する場合においては、綾部市奥上林公民館に放射線防護対策工事を実施するとしています。
しかし、避難することのできない重度の障害をもっているものは、公民館に移動することも困難なのです。結局、避難計画自体が、全く意味のないものです。

今年3月に、大飯・高浜原発に近い、君王山から古屋一帯が『京都丹波高原国定公園』に指定されたばかりです。君王山には、綾部でただ一つの国宝である二王門もあります。
過酷事故がおこれば、仕事を含めた生活基盤全体が根こそぎ奪われてしまいます。私は緑豊かな故郷を失いたくありません。
原発事故が起きた場合に、非力な者は避難することもできません。裁判所におかれましては、何人からも生命と健康を無理矢理剥奪されることはないという社会正義を基とした判決をお願いします。

以上

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◆原告第22準備書面
-綾部市避難計画の問題点について-

原告第22準備書面
-綾部市避難計画の問題点について-

原告第22準備書面[140 KB]

2016年(平成28年)5月13日

 

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面では綾部市における避難計画の問題点について追加の主張を行う。

第1 綾部市地域防災計画の問題点について

 1 飲料水について

原告第6準備書面において、大野ダム、和知ダム、由良川ダムは、大飯原発から35km~40km圏内に位置し、これらのダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、京都府北部全体において、飲料水の確保が極めて困難になる旨主張した。

平成28年3月、綾部市防災会議は、綾部市地域防災計画原子力災害対策編を改定した(以下「平成28年3月綾部市原子力災害対策」という(甲277号証))。平成25年綾部市原子力災害対策(甲79号証)では、第3編緊急事態応急対策の項に、「第6章飲食物の出荷制限、摂取制限等」が定められていた。

平成28年3月綾部市原子力災害対策では、第2編原子力災害事前対策の項に新たな項目として、「飲食物の出荷制限、摂取制限等」(同第8章)が加えられた。

しかし、同章では、

「第1 飲食物の出荷制限、摂取制限に関する体制整備
市は、国、京都府及び関係機関と協議し、飲食物の出荷制限、摂取制限に関する体制をあらかじめ定めておくものとする。
第2 飲食物の出荷制限、摂取制限等を行った場合の住民への供給体制の確保
市は、飲食物の出荷制限、摂取制限等を行った場合における、住民への飲食物の供給体制をあらかじめ定めておくものとする。」

とされているだけで、何ら具体的な対策は記載されていない。
このように、改定された避難計画でさえも、飲料水の確保について具体的な記載をすることができていないのであり、由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、京都府北部全体において、飲料水の確保が極めて困難となる。

 2 避難について

  (1)「第6要配慮者への配慮」の新設

平成28年3月綾部市原子力災害対策では、「第3編緊急事態応急対策第4章避難、屋内退避等の防護措置」の項に「第6要配慮者への配慮」という項目を新設した。

しかし、同項は、「災害時に要援護者について十分配慮する」と記載するのみで、要配慮者ごとの具体的な内容が記載されておらず、全く対策となっていない。

  (2)「第6要配慮者への配慮」の問題点

「要配慮者」とは(高齢者、障害者、外国人、乳幼児、妊産婦、傷病者、入院患者等をいう(平成28年3月綾部市原子力災害対策16頁参照)。
例えば、障害者には、視覚障害者や身体障害者もおり、障害の程度も異なる。

視覚障害の場合や重度の身体障害者の場合、車を運転することはできず、自家用車で避難することができないため、家族などの援助が必要であるが、単身者の場合その援助も得ることができず、避難することができない事態となる。

平成28年3月綾部市原子力対策では、「要配慮者等が避難に時間を要する場合においては、綾部市奥上林公民館に放射線防護対策工事を実施する」と定められている。

しかし、放射性防護対策工事の具体的中身が明らかとなっていないだけでなく、そもそも避難することのできない重度の障害をもっているものは、公民館に移動することも困難である。

第2 結論

このように、平成28年3月綾部市原子力対策は、具体的な事態や個々の避難者の個別事情を想定して作成されていないのであり、避難計画としては、全く対策となっていないのである。

以上

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◆原告第21準備書面
第2 川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について

 原告第21準備書面 目次

第2 川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について

福岡高裁宮崎支部は、平成28年4月6日、川内原発稼働等停止等差止仮処分申立却下決定に対する即時抗告について、これを棄却した(以下「高裁決定」という。)。
高裁決定の不当な点は多岐にわたるが、以下では主要な点について取り上げ、述べることとする。

 1 司法審査の在り方について

  (1)高裁決定の内容

まず、高裁決定は、人格権に基づく原子炉施設の運転差止仮処分命令に関する司法審査の在り方について、以下のとおり判断した。

まず、差止請求の要件となる具体的な危険の判断について、「地震、津波や火山の噴火といった自然現象の予測における科学的、技術的手法には必然的に限界が存するものであって、少なくとも現時点においてその限界が克服されたとは言い難い状況にあることは公知の事実であり、最新の科学的技術的知見を踏まえた予測を行ったとしても、当該予測を超える事象が発生する危険(リスク)は残る。」「そのようなリスクを許容するか否か、許容するとしてどの限度まで許容するかは、社会通念を基準として判断するほかないというべきである。」「そうであるとすれば、人格権に基づく妨害予防請求としての発電用原子炉施設の運転等の差止請求においても、当該発電用原子炉施設が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するか、換言すれば、どの程度の危険性であれば容認するかという観点、すなわち社会通念を基準として判断するほかないというべきである」とした(甲276[14 MB]・59頁)。

そして、福島第一原発事故後の原子力基本法及び原子炉等規制法の改正によって、原子炉等規制法は、最新の科学的技術的知見を踏まえて合理的に予測される規模の自然災害を想定した発電用原子炉施設の安全性の確保を求めるものと解され」、「このような本件改正後の原子炉等規制法の規制の在り方には、我が国の自然災害に対する発電用原子炉施設等の安全性についての社会通念が反映されているということができる」とした。そのうえで、「発電用原子炉施設の安全性が確保されないときにもたらされる災害がいかに重大かつ深刻なものであるとしても、抗告人らが主張するような発電用原子炉施設について最新の科学的、技術的知見を踏まえた合理的予測を超えた水準での絶対的な安全性に準じる安全性の確保を求めることが社会通念となっているということはできず、」「およそあらゆる自然災害についてその発生可能性が零ないし限りなく零に近くならない限り安全性確保の上でこれを想定すべきであるとの社会通念が確立しているということもできない」とした(同[14 MB]・65頁)。

また、裁判所による具体的危険の判断についての審理判断について、「原子力規制委員会において用いられている具体的な審査基準の設定に不合理な点がないか否か、及び当該発電用原子炉施設が当該具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点がないか否かないしその調査審議及び判断の過程に看過しがたい過誤、欠落がないか否かという観点から行われることになるが、これは、裁判制度に内在する制約というべきである。」とした(甲276[14 MB]・69頁)。

  (2)原子炉施設による事故は万に一つも発生させてはならないこと

上記のように高裁決定は、発電用原子炉施設が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の水準のものであれば容認するかという社会通念を基準として判断するべきとした。

しかしながら、福島第一原発事故は、当時の安全基準からすると「想定外」の事象に見舞われた結果発生したものであるところ、高裁決定はこのような想定外の事故が起こりうるということを無視し、原子力規制委員会において策定された審査基準を無批判に追従するという新たな安全神話に基づいた判断であり不当である。

そして、原子炉施設における事故は、ひとたび発生すれば、生命身体に回復しがたい深刻な被害を発生し、放射能によって汚染された環境は長期間にわたり生活できない状況になることは福島第一原発事故によって明らかな事実なった。

そうである以上、原子炉施設における事故は、万に一つも発生させてはならないものであるというべきであり、このような判断については社会通念というあいまいな基準ではなく、客観的な具体的危険発生の有無によって判断すべきである。

そして、当該具体的危険発生の有無については、発電用原子炉施設において過酷事故を絶対に起こしてはならないという絶対的な安全性に準じる極めて高度な安全性を前提として、重大な災害、過酷事故が万が一にも起こらないようにするための高度な安全性に欠ける点があるか否かについて、客観的に判断すべきものである。

また、仮に、社会通念上で判断するとしても、福島第一原発事故を体験した我が国においては、原子力発電の廃止を求める者は当然のことであるが、容認する者であっても、稼働にあたって二度と福島第一原発事故のような過酷事故は発生させてはならないとの考えは有しているのであり、万が一にも過酷事故は発生させてはならないとの考えは社会通念となっているものといえる。

そうであるにもかかわらず、高裁決定は、あたかも現在の政府が推進する原子力規制委員会による安全基準の内容がすなわち社会通念であるかのように判断したうえで、そのような判断の仕方が司法制度の内在的な制約であるとしている。しかし、結局のところ、高裁決定は、行政機関から独立して法的判断を行い、人権を擁護するという司法機関の役割を放棄してしまっているにすぎない。
以上から、高裁決定の司法審査の在り方は不当であり認められない。

 2 地震に起因する本件原子炉施設の事故の可能性

次に、高裁決定は、地震に起因する原子炉施設の事故の可能性について、概ね以下のとおり判断した。

  (1)基準地震動について

高裁決定は、応答スペクトルに基づく手法につき、地震動想定に用いる経験式が有するばらつきも考慮されている必要があると認め、断層の長さから地震規模を求める松田式にばらつきがあるとしながら、地域的特性を踏まえた地震動評価であることなどを理由に、過小評価となっているということもできないとしている(甲276[14 MB]・94頁ないし99頁)。

しかしながら、ばらつきがあることを認めるのであれば、このばらつきを前提とした万全の対策を求めるべきであるところ、これをせずとも過小評価とならないとすることは著しく不合理な判断である。

地震は、いまだ未確定な事実が多く、ばらつきがあることを前提に最大限の安全性を考慮しなければならないことは、高裁決定直後に発生した熊本地震が当初、14日に発生したマグニチュード6.5 の地震が本震で、その後に発生するものは余震であり地震の規模で上回るとは想定されていなかったにもかかわらず、16日になってマグニチュード7.3 の地震が発生したため、気象庁は14日のものを前震、16日のものを本震と修正していることからも明らかであり、予期せぬ事態は常に起こりうることを前提としなければならない。

また、震源を特定せず策定する地震動(Ss-2)について、震源を特定して策定する地震動(Ss-1)を補完するものとして位置づけられているとしている点については、原決定がSs-2につき、「付加的・補完的な位置付けとして理解することは相当ではない」とした点をさらに後退させるものであり、不当な判断であると言わざるを得ない。

  (2)深層防護について

深層防護の考え方について、新規制基準には第5層(防災対策)の深層防護の観点からの明示的な規定は見当たらない、としたうえで、原子力防災対策については、原子力事業者が第一次的な責務を負うものの、国の関係省庁等及び関係地方公共団体との連携協力がそれぞれの責務の円滑な遂行にとって不可欠となることから、原子力規制委員会にはその専門的、科学的な観点から関与させることとしたものであると解される。もとより、防災対策を発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とするか否かは、立法政策に属する事柄であるところ、このような立法政策が不合理であるということはできない、とした(甲276[13 MB]・170頁)。

しかしながら、第5層の防災対策が規定されず立法政策と新規制基準から除外することは、結局のところ事故が発生した場合に備えた対策がなくとも発電用原子炉を稼働させることができることを容認したものであり、許されない。事故に備えた対応までを万全に整備したうえでなければ審査基準を満たさないという発想こそが社会通念であるといえ、これを無視した判断は、高裁決定のいう「社会通念」が結局のところ政府の意向であるということが露見されたといえる。

 3 避難計画の実効性について

  (1)高裁決定の内容

高裁決定は、避難計画の実効性について、まず、原子力災害対策に関する法令の規定からすれば、原子力災害の発生の防止及び拡大の防止等についての原子力事業者は第一次的な責務を負うものの、当該原子力事業所において必要な措置を講ずることが前提とされており、当該原子力事業所周辺住民の生命または身体を原子力災害から保護するための避難等を含むいわゆるオフサイトの災害対策は、市町村、都道府県及び国が担うものとされ、避難計画の作成および非難の勧告または指示を含めて、基本的に市町村の責務とされている。これらのオフサイトの災害対策については、発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象とされていない、としたうえで、以上のような現行法制度において、避難計画が全く存在しないか又は存在しないのと同視し得るにもかかわらずあえて当該発電用原子炉施設を運転等するような場合でない限り、当該避難計画が合理性ないし実効性を欠くものであるとしても、その一事をもって直ちに、当該発電用原子炉施設が安全性に欠けるところがあるとして、違法な侵害行為のおそれがあるということはできないとした。

そいて、本件避難計画等は、実効性等に問題点を指摘することが出来るとしても周辺住民の避難計画が存在しないのと同視しうるということはできないから、違法な侵害行為のおそれがあるということはできない、とした(甲276[13 MB]・270頁)。

  (2)住民の生命・身体の安全を軽視した判断であること

上述のとおり、避難計画の策定は、住民の生命・身体の安全を図るうえで不可欠の要素であるところ、高裁決定は、これを発電用原子炉の設置、運転等に関する規制の対象としないことを肯定したうえで、現行法制度では避難計画が全く存在しないか、これと同視できる程度の計画である場合でなければ発電用原子炉の安全性に欠けるところがあるとはいえないとしており、生命・身体の安全を著しく軽視した不当な内容であるということができる。
発電用原子炉において、ひとたび過酷事故が発生した場合には、その被害は甚大であり、付近住民を適切に避難させなければ、多くの生命・身体に著しい被害を与えることになりかねない。そうである以上、避難計画については、現行法制度において誰が実施主体であるかにかかわらず、適切に策定されていなければならないところ、これを全く度外視し、政府の判断をそのまま肯定した高裁決定は許されない。

 4 結論

以上のとおり、高裁決定は、司法審査の在り方において政府の判断に迎合してしまったため、その後の具体的判断において形式的な審査しかせず、周辺住民の生命・身体の安全を見捨てるという司法機関の役割を放棄するものであって許されるものではない。

以上

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◆原告第21準備書面
第1 3.9大津地裁仮処分決定の意義について

 原告第21準備書面 目次

第1 3.9大津地裁仮処分決定の意義について
 ―国と電力会社が進める再稼働の流れに見直しを迫る―

 1、福島第一原発事故後の原発訴訟の流れ

ア 福井地裁大飯原発差し止め判決 平成26年5月21日   差し止め
イ 福井地裁高浜原発差し止め仮処分 平成27年4月14日   差し止め
ウ 鹿児島地裁川内原発差し止め仮処分 平成27年4月22日 差し止めを認めず
エ 福井地裁高浜原発仮処分異議 平成27年12月24日 差し止めを認めず
オ 大津地裁高浜原発差し止め仮処分 平成28年3月9日 差し止め
カ 福岡高裁宮崎支部(ウの抗告審) 平成28年4月6日 差し止めを認めず

 2、大津地裁仮処分決定の意議

以下本項において、大津地裁仮処分決定の持つ意義について述べる。

 ア 現に稼働中の原発を差し止めた初めての司法判断

  1.  この大津地裁の差し止め決定に対し、関経連副会長角和夫は「憤りを超えて怒りを覚えます。なぜ一地裁の裁判官によって、国のエネルギー政策に支障をきたすことが起こるのか。こういうことができないよう、速やかな法改正をのぞむ。」
  2.  同会長森詳介は「値下げができなくなったことが関西経済に与える影響は小さくないと考えており、一日も早く不当な決定を取り消していただかなければならない。」
  3.  同副会長佐藤広士は「電気料金の高止まりは企業経営に大きな影響を及ぼす。」と述べたと伝えられている。
  4.  現在この国において、福島第一原発事故を踏まえた真っ当なエネルギー政策と言えるものが存在するかどうか甚だ疑わしいが、原発差し止め事件は、福島第一原発事故後は、事故によって生ずる途方もない人権侵害の危険性が問題となっており、国のエネルギー政策の当否を問うものではない。原発の安全性の立証ができなかった電力会社や財界が、国のエネルギー政策を錦の御旗にして、人権侵害の危険性を顧みないことは、到底許されない。国のエネルギー政策が住民の人権に優先するものでないことは言うまでもないことである。関経連関係者の発言は、この裁判の本質を理解しないもので、誠にお粗末なものという外ない。
    また、地裁裁判官の判断は、裁判官の独立に基づいて行われているものである。そして、裁判官の独立は、地裁、高裁、最高裁の裁判官に等しく保障されており、裁判官の権限が、上に行くほど大きくなるものでは無い。関経連関係者の「一地裁の裁判官によって」という発言は、裁判所を行政官僚組織や会社組織と同じように捉えているようであるが、近代法における裁判所の組織原理を全く理解していないもので、不見識極まるものと言わねばならない。日本を代表する経済団体の代表的地位にある者がこのような不見識な発言を行うことは、誠に嘆かわしい。
  5.  電気料金の値下げができなくなった、電気料金が高止まりになった、というのは、福島第一原発事故の教訓を無視して原発再稼働にしがみついている自らの行為を全く省みない発言である。原発が止まっているにもかかわらず、被告関西電力は黒字となっている。電気料金の値下げ、高止まりの問題は、大津地裁が高浜原発再稼働を差し止めたために生じたというのはミスリードであり、被告関西電力の経営姿勢によるものと考えるべきであろう。それはともかくとして、財界、業界の反応はあまりにも冷静さを欠く短絡的なものである。電力事業者も財界も、原発事故がもたらす破滅的な事態をわがこととして受け止めて、冷静に考えるべきであろう。

 イ 大津地裁の判断は、立地県外の住民の訴え、立地県外の裁判所の初めての判断で、画期的なものである。
原発再稼動に対する同意権は、従来立地自治体に限られていたが、今回の決定によって、立地自治体以外の、原発事故によって甚大な被害を受ける危険性のある住民の訴えによって再稼動を阻止できることになった。人格権に基づく差止の法理からすれば当然の帰結であるが、原発再稼動の従前の仕組みを根底から変える機能を持つものであって、その意義は極めて大きいものがある。

 3、大津地裁決定の内容

 ア、判断枠組み
福井地裁異議審決定の判断枠組みについては、女川原発事件を担当した塚原朋一元裁判官が、強く批判していることを、前回の準備書面において指摘したが、塚原元裁判官は、枠組みについての具体的な説示文言のよって来る思想、姿勢について、福井地裁異議審裁判官を借り物による判断でないかとして批判したのであった。福井地裁異議審決定に対し、大津地裁決定は、「基本的に伊方最高裁判決の枠組みを採用しながら、電力会社が立証すべきこととして、新規制基準に適合しているとされたことだけでなく、「福島第一原発事故の後、原子力規制行政がどのように変化し、その結果、本件各原発の設計や運転のための規制が具体的にどのように強化され、関西電力がこの要請にどのように応えたか」を付加した。これは、福島第一原発事故によって露わになった原発の問題点が解消されるのでない限り、再稼動は認められないとする多くの人々の思いに通じるものといえるだろう。」(井戸謙一「司法の力で原発再稼動を止める」(世界2016年5月号153頁以下))。ここでは、大津地裁は福島第一原発事故に正面から向き合い、借り物でない思想、姿勢によって高浜原発再稼動事件について挑んでいることがわかるのである。

 イ、過酷事故対策における考え方

  1.  福島第一原子力発電所事故の原因究明は、建屋内での調査が進んでおらず、今なお道半ばの状況であり、本件の主張及び疎明の状況を照らせば、津波を主たる原因として特定し得たとしてよいのかも不明である。その災禍の甚大さに真摯に向き合い、二度と同様の事故発生を防ぐとの見地から安全確保対策を講ずるには、原因究明を徹底的に行うことが不可欠である。この点についての債務者の主張及び疎明は未だ不十分な状態にあるにもかかわらず、この点に意を払わないのであれば、そしてこのような姿勢が、債務者ひいては原子力規制委員会の姿勢であるとするならば、そもそも新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚えるものといわざるを得ない。
  2.  地球温暖化に伴い、地球全体の気象に経験したことのない変動が多発するようになってきた現状を踏まえ、また、有史以来の人類の記憶や記録にある事項は、人類が生存し得る温暖で平穏なわずかな時間の限られた経験にすぎないことを考えるとき、災害が起こる度に「想定を超える」災害であったと繰り返されてきた過ちに真摯に向き合うならば、十二分の余裕をもった基準とすることを念頭に置き、常に、他に考慮しなければならない要素ないし危険性を見落としている可能性があるとの立場に立ち、対策の見落としにより過酷事故が生じたとしても、致命的な状態に陥らないようにすることができるとの思想に立って、新規制基準を策定すべきものと考える。□債務者の保全段階における主張及び疎明の程度では、□新規制基準及び本件各原発に係る設置変更許可が、直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない。(下線は原告ら代理人。以下同じ)
  3.  電源確保
    新規制基準に基づく審査の過程を検討してみると、過酷事故発生に備えて、債務者は、安全上重要な構築物、系統及び機器の安全機能を確保するため非常用所内電源系を設け、その電力の供給が停止することのないようにする設計を持ち、外部電源が完全に喪失した場合に、発電所の保安を確保し、安全に停止するために必要な電力を供給するため、ディーゼル発電機を用意することとし、これを原子炉補助建屋内のそれぞれ独立した部屋に2台備えることとしている。またそのための燃料を7日分、燃料油貯油そうを設けて貯蔵するとしたり、直流電源設備として蓄電池を置いたり、代替電源設備として空冷式非常発電装置、電源車等を設けることとしたことが認められる。また、原子力規制委員会の審査においては、これらの設置に加え、これらが稼動するための準備に必要な時間、人員、稼動する時間等について審査し、要求事項に適合していると審査した。ほかにも、過酷事故に対処するために必要なパラメータを計測することが困難となった場合において、当該パラメータを推定するための有効な情報を把握するための設備や手順を設けたり、原子炉制御室及びその居住性等について検討しており、これらからすれば、相当の対応策を準備しているとはいえる。しかし、ディーゼル発電機の起動失敗例は少なくなく、空冷式非常用発電装置の耐震性能を認めるに足りる資料はなく、また、電源車等の可動式電源については、地震動の影響を受けることが明らかである。非常時の備えにおいてどこまでも完全であることを求めることは不可能であるとしても、また、原子力規制委員会の判断において意見公募手続が踏まれているとしても、このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたといってよいか、躊躇せざるを得ない。

 ウ、使用済み燃料ピットの危険性
使用済み燃料の危険性に対応する基準として新規制基準が一応合理的であることについて、債務者は主張及び疎明を尽くすべきである。また、その上で、新規制基準の下でも、使用済み燃料ピットについては、冠水することにより崩壊熱の除去が可能であると考えられるが、基準地震動により使用済み燃料ピット自体が一部でも損壊し、冷却水が漏れ、減少することになった場合には、その減少速度を超える速度で冷却水を注入し続けなければならない必要性に迫られることになる。現時点で、使用済み燃料ピットの崩壊時の漏水速度を検討した資料であるとか、冷却水の注入速度が崩壊時の漏水速度との関係で十分であると認めるに足りる資料は提出されていない。

 エ、関電及び規制委員会の基準地震動についての考え方批判

  1.  一般的批判
    債務者は、債務者の調査の中から、本件各原発付近の既知の活断層の15個のうち、FO-A~FO-B~熊川断層及び上林川断層を最も危険なものとして取り上げ、かつこれらの断層については、その評価において、原子力規制委員会における審査の過程を踏まえ、連動の可能性を高めに、又は断層の長さを長めに設定したとする。しかしながら、債務者の調査が海底を含む周辺領域全てにおいて徹底的に行われたわけではなく(地質内部の調査を外部から徹底的に行ったと評価することは難しい。)、それが、現段階の科学技術力では最大限の調査であったとすれば、その調査の結果によっても、断層が連動して動く可能性を否定できず、あるいは末端を確定的に定められなかったのであるから、このような評価(連動想定、長め想定)をしたからといって、安全余裕をとったといえるものではない。また、海底にあるFO-B断層の西端が、債務者主張の地点で終了していることについては、(原子力規制委員会に対してはともかくとしても)当裁判所に十分な資料は提供されていない。債務者は、当裁判所の審理の終了直前である平成28年1月になって、疎明資料を提供するものの、この資料によっても、上記の事情(西端の終了地点)は不明であるといわざるを得ない。
  2.  松田式批判
    債務者は、このように選定された断層の長さに基づいて、その地震力を想定するものとして、応対スペクトルの策定の前提として、松田式を選択している。松田式が地震規模の想定に有益であることは当裁判所も否定するものではないが、松田式の基となったのはわずか14地震であるから、このサンプル量の少なさからすると、科学的に異論のない公式と考えることはできず、不確定要素を多分に有するものの現段階においては一つの拠り所とし得る資料とみるべきものである。したがって、新規制基準が松田式を基に置きながらより安全側に検討するものであるとしても、それだけでは不合理な点がないとはいえないのであり、相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明をすべきところ、松田式が想定される地震力のおおむね最大を与えるものであると認めるに十分な資料はない。
  3.  耐専式批判
    債務者は、応答スペクトルの策定過程において耐専式を用い、近年の内陸地殻内地震に関して、耐専スペクトルと実際の観測記録の乖離は、それぞれの地震の特性によるものであると主張するが、そのような乖離が存在するのであれば、耐専式の与える応答スペクトルが予測される応答スペクトルの最大値に近いものであることを裏付けることができているのか、疑問が残るところである。なお、債務者は、耐専スペクトルの算出に当たっては、基本ケースのみならず、「傾斜角75°ケース」、「アスペリティー塊ケース」、「アスペリティー塊・横長ケース」を検討しているが、各ケースの応答スペクトルはかなり似通っており(債務者主張書面(1)63頁図表23、債務者主張書面(8)49頁図表28)、ケースを異ならせることによりどの程度の安全余裕が形成されたかを明らかにし得ていない。債務者の検討結果によれば、最大加速度(水平)については、基準地震動Ss-1の700ガルが最大であったというのであるから、FO-A~FO-B~熊川断層の三連動(傾斜角75°ケース)の応答スペクトルを超えるところが想定すべき最大の応答のスペクトルということになるが、以上の疑問点を考慮すると、基準地震動Ss-1の水平加速度700ガルをもって十分な基準地震動としてよいか、十分な主張及び疎明がされたということはできない。
  4.  断層モデル批判
    断層モデルを用いた手法による地震動評価結果を踏まえた基準地震動については、債務者は、結果的に、応答スペクトルに基づく基準地震動を超えるものは得られなかったとしているが、債務者のいう、地震という一つの物理現象についての「最も確からしい姿」(乙16・53頁)とは、起こり得る地震のどの程度の状況を含むものであるのかを明らかにしていないし、起こり得る地震の標準的・平均的な姿よりも大きくなるような地域性が存する可能性を示すデータは特段得られていないとの主張に至っては、断層モデルにおいて前提となるパラメータが、本件各原発の敷地付近と全く同じであることを意味するとは考えられず、採用することはできない。ここで債務者のいう「最も確からしい姿」や「平均的な姿」という言葉の趣旨や、債務者の主張する地域性の内容について、その平均性を裏付けるに足りる資料は、見当たらない。
  5.  震源を特定しない地震動批判
    震源を特定せず策定する地震動については、債務者は、平成16年に観測された北海道留萌支庁南部地震の記録等に基づき、基準地震動Ss-6及びSs-7として策定し、この基準地震動Ss-6(鉛直、485ガル)が結果的に最大の基準地震動(鉛直)となっている。債務者の主張によれば、これは、「地表地震断層が出現しない可能性がある地震について、断層破壊領域が地震発生層の内部に留まり、国内においてどこでも発生すると考えられる地震で、震源の位置も規模も分からない地震として地震学的検討から全国共通に考慮すべき地震」を設定して応答スペクトルを策定したとする。このような地震動についてそもそも予測計算できるとすることが科学的知見として相当であるかはともかくとして、これらの計算についても、債務者による本件各原発の敷地付近の地盤調査が、最先端の地震学的・地質学的知見に基づくものであることを前提とするものであるし、原子力規制委員会での検討結果がこの調査の完全性を担保するものであるともいえないところ、当裁判所に対し、この点に関する十分な資料は提供されていない。

 オ、津波に対する安全性能について
新規制基準の下、特に具体的に問題とすべきは、□西暦1586年の天正地震に関する事項の記載された古文書に若狭に大津波が押し寄せ多くの人が死亡した旨の記載がある□ように、この地震の震源が海底であったか否かである点であるが、確かに、これが確実に海底であったとまでは考えるべき資料はない。しかしながら、海岸から500mほど内陸で津波堆積物を確認したとの報告もみられ、債務者が行った津波堆積物調査や、ボーリング調査の結果よって、大規模な津波が発生したとは考えられないとまでいってよいか、疑問なしとしない。

 カ、避難計画を規制基準に入れよ、それは国の信義則上の義務である。

  1.  本件各原発の近隣地方公共団体においては、地域防災計画を策定し、過酷事故が生じた場合の避難経路を定めたり、広域避難のあり方を検討しているところである。これらは、債務者の義務として直接に問われるべき義務ではないものの、福島第一原子力発電所事故を経験した我が国民は、事故発生時に影響の及ぶ範囲の圧倒的な広さとその避難に大きな混乱が生じたことを知悉している。安全確保対策としてその不安に応えるためにも、地方公共団体個々によるよりは、国家主導での具体的で可視的な避難計画が早急に策定されることが必要であり、この避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれるばかりか、それ以上に、過酷事故を経た現時点においては、そのような基準を策定すべきは信義則上の義務が国家には発生しているといってもよい。このような状況を踏まえるならば、債務者には、万一の事故発生時の責任は誰が負うのか明瞭にするとともに、新規制基準を満たせば十分とするだけでなく、その外延を構成する避難計画を含んだ安全確保対策にも意を払う必要があり、その点に不合理な点がないかを相当な根拠、資料に基づき主張及び疎明する必要があるものと思料する。
    しかるに、保全の段階においては、同主張及び疎明は尽されていない。

 4、大津地裁決定の影響

 ア、上記のいずれの点についても、大津地裁決定は委曲を尽くし、説得的である。特に新規制基準では規定されず、地方自治体に丸投げされていた避難計画策定が国の信義則上の義務であるとされたことの重要性はどれだけ強調しても強調しすぎることはない。川内原発再稼動に同意した地方自治体の長が、「住民は新幹線で避難すればよい」としていたが、4月14日以降の熊本地震において、新幹線は避難に全く役に立たないことが白日の下に明らかとなった。新幹線避難を提言した地方自治体の避難計画は無責任の極みというべきものである。このような地方自治体に避難計画を丸投げし、新規制基準でなんらの規制をしようとしない規制委員会の考え方は厳しく批判されるべきである。住民の生命、安全を無視すること甚しいものがある。大津地裁決定は、避難計画策定を規制基準としない新規制基準を不合理と判断しているが、熊本地震は、この指摘の正しさを、極めて不幸な形ではあるが裏付けたのである。したがって、これからの原発差し止めの裁判においては、避難計画策定の合理、不合理の問題は、原発の危険性の判断において、絶対に避けて通ることができないものとなった。この点でも大津地裁決定には大きな意義があるのである。なお、大津地裁裁判官が、今回、最高裁から福井地裁に送りこまれた3名の裁判官が下した福井地裁異議審決定の判断をあっさりと覆したことの意義は極めて大きい。なによりも、大津地裁決定は、福島第一原発事故と正面から向き合っている。その点において、福井地裁異議審決定を含む差し止めを否定した鹿児島地裁、福岡高裁宮崎支部決定と決定的な違いがあり、その違いが差し止めについての結論をわけた分水嶺と言うべきであろう。願わくは、本法廷においても、福島第一原発事故に正面から向き合い、再び途方もない人権侵害を絶対に許さない判断を心から望むものである。

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