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◆原告第7準備書面
-立地審査指針について-
目次

原告第7準備書面
-立地審査指針について-

2015年(平成27年)1月23日

第7準備書面[1,019 KB]

第1 はじめに

第2 立地審査の概要
1 立地審査指針の内容
2 立地評価とは
3 立地審査の実態

第3 福島第一原発を前提とした場合のシミュレーション
1 福島第一原発事故の積算線量
2 大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」

第4 立地審査指針の問題点

第5 新規制基準から立地審査指針が捨て去られた経緯
1 原子力規制委員会の当初の方針
2 新規制基準策定時の議論
3 小括

第6 立地審査において,離隔要件についての審査を行わないことの問題点
1 離隔要件を捨て去ったことにより,シビアアクシデント時に住民を被曝の危険にさらすことになる―再稼働を容認するための,規制の著しい改悪,住民の安全の無視
2 フィルタ・ベントの限界
3 海外の規制
4 離隔要件とシビアアクシデント対策は独立して対策されなければならない
5 発電用軽水型原子炉の新安全基準に関する検討チームにおける議論の問題

第7 立地審査を行わない理由は,福島事故を仮定すると原子力発電所の立地が出来なくなるからである

第8 結語

◆第5回口頭弁論 原告提出の書証

甲第61~67号証(原告第5準備書面関係)
甲第68~92号証(原告第4、第6準備書面関連)

※このサイトでは下記書証データ(PDFファイル)は保存していませんので、原告団の事務局の方にお問い合わせください。


証拠説明書 甲第61〜67号証[64 KB](原告第5準備書面関係)
2014年(平成26年)9月26日

  • 甲第61号証
    新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会第2回議事録(新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会)
  • 甲第62号証
    朝日新聞記事平成26年7月5日(朝日新聞)
  • 甲第63号証
    原子力規制委員会記者会見録平成24年11月14日(原子力規制委員会)
  • 甲第64号証
    原子力規制委員会記者会見録平成26年7月16日(原子力規制員会)
  • 甲第65号証
    原発ゼロ社会への道(原子力市民委員会)
  • 甲第66号証
    原子力緊急事態に対する準備と対応に関する国際動向調査及び防災指針における課題の検討(日本原子力研究開発機構)
  • 甲第67号証
    原子力規制委員会議事録平成26年5月21日(原子力規制委員会)

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証拠説明書 甲第68~92号証[102 KB](原告第4、第6準備書面関連)
2014年(平成26年)9月26日

  • 甲第68号証
    原発事故?その時どこへ-避難計画の検証-(京都自治体問題研究所)
  • 甲第69号証
    新聞記事(しんぶん赤旗)平成24年6月15日(日本共産党中央委員会)
  • 甲第70号証
    新聞記事「大飯原発オフサイトセンターの移転計画延期 予算認められず」平成25年1月30日(産経新聞社)
  • 甲第71号証
    原発避難計画の検証(上岡直見)
  • 甲第72号証
    福島第一原子力発電所事故による原子力災害被災自治体等調査結果(全国原子力発電所所在市町村協議会・原子力災害 検討ワーキンググループ)
  • 甲第73号証
    新聞記事「津波被害、避難車の渋滞で拡大 「車で逃げるな」」平成23年5月1日(共同通信社)
  • 甲第74号証
    新聞記事「もんじゅ データ送信ストップ 台風で断線か」平成25年9月17日(東京新聞社)
  • 甲第75号証
    おおい町地域防災計画 原子力防災編(おおい町防災会議)
  • 甲第76号証
    高浜町地域防災計画 原子力防災編(高浜町防災会議)
  • 甲第77号証
    舞鶴市原子力災害住民避難計画(舞鶴市防災会議)
  • 甲第78号証
    宮津市原子力災害住民避難計画(宮津市防災会議)
  • 甲第79号証
    綾部市地域防災計画(綾部市防災会議)
  • 甲第80号証
    原子力災害時の避難に関する暫定措置(福井県)
  • 甲第81号証
    新規制基準における原子力発電所の設置許可(設置変更許可)要件に関する意見書(日本弁護士連合会)
  • 甲第82号証
    新聞記事「<もんじゅ>台風18号の土砂崩れで孤立 データ送信も停止」平成25年9月16日(毎日新聞)
  • 甲第83号証
    新聞記事「避難計画、4割が未整備 原発30キロ圏首長アンケート」平成26年3月11日(朝日新聞)
  • 甲第84号証
    「資料7」と題する書面(京都府)
  • 甲第85号証
    SPEEDIによる放射性物質拡散予測結果について(同上)
  • 甲第86号証
    (抄)「拡散シミュレーションの試算結果(修正版)」P31~33(原子力規制庁)
  • 甲第87号証
    放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について(原子力規制庁)
  • 甲第88号証
    放射性物質拡散シミュレーション(県内全域)の結果について(兵庫県)
  • 甲第89号証
    (抄)「琵琶湖流域における放射性物質拡散影響予測(最終報告)」p55~72(滋賀県)
  • 甲第90号証
    新聞記事「都が乳児のいる家庭に水配付へ 水道水から放射性ヨウ素」平成23年3月24日(朝日新聞)
  • 甲第91号証
    福井地判平成26年5月21日(福井地方裁判所)
  • 甲第92号証
    政府事故調 中間・最終報告書(国)

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◆原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-
目次

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-

2014年(平成26年)9月24日

第6準備書面[14 MB]

第1 避難計画の重要性    
1 避難計画の法的な位置づけ
2 現行法のオフサイト緊急時計画について
3 小括

第2 大飯原発で過酷事故が起きたときに発生する被害
1 大飯原発等が福島第一原発並みの過酷事故を起こしたときの放射性物質拡散予測
2 水道水の汚染
3 小括

第3 避難計画の問題点
1 はじめに
2.区域設定
3.情報伝達の方法
4.各原発周辺自治体における避難計画の問題点
5 迅速な放射性物質対策が可能な環境が整備されていないこと
6 結論

(別紙)防災計画概要

◆原告第6準備書面
(別紙) 防災計画概要

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-  目次

(別紙) 防災計画概要

(1)平成25年8月おおい町防災会議修正「おおい町地域防災計画 原子力防災編」(甲75)

 避難対象地域の住民避難は、おおい町の指示により、次のとおり行うものとされている。

ア 自家用車による避難が可能な住民は、自家用車による避難を行うものとする。この場合、町は、避難対象地域の住民に対し、交通誘導整理を行っている警察官等の指示に必ず従うよう、周知するものとする。
 また、町は、自家用車による避難を行う住民について、次の手段により避難状況を把握するものとする。

イ 自家用車以外での避難
 (ア) 自家用車による避難をしない住民は、町が定める場所から、県又は町が確保した避難用のバスによる避難を行うものとする。
 なお、避難に当たっては、あらかじめ定めた一時集合施設に集合し、県又は町が確保した避難用のバス若しくは応急出動した自衛隊車両による避難を行うものとする。
 (イ) 自衛隊車両等により避難した住民は、町が定める場所から、県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。
 なお、避難に当たっては、避難車両中継所から県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。
 (ウ) 県が自衛隊、海上保安庁等に要請し、応急出動した船舶又はヘリコプターにより避難を行う住民は、県又は町があらかじめ指定した避難先近辺の港湾又はヘリポートまで移動し、その後、県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。
 なお、避難に当たっては、県又は町があらかじめ指定した半島部の港湾又は漁港若しくは臨時ヘリポートから、船舶、ヘリコプター等で、あらかじめ指定した避難先近辺の港湾又はヘリポートまで移動し、その後、県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ定めた避難先へ避難するものとする。
 (エ) 災害時要援護者の避難手段
  あ 学校の生徒等が在校時においては、県又は町が確保した避難用のバス若しくは応急出動した自衛隊車両によりあらかじめ定めた避難先に避難を行うものとする。
  い 在宅の要介護高齢者・障害者等については、家族、地域等の協力により自家用車による避難を行うものとする。
 また、介助が必要な災害時要援護者については、県が要請し確保した消防機関の救急車、福祉車両等によりあらかじめ定めた福祉避難所に搬送するものとする。この場合、必要に応じ、県は、自衛隊、海上保安庁等に対し車両、船舶、ヘリコプター等による搬送を要請するものとする。
  う 病院の入院患者及び社会福祉施設の入所者は、県又は町が確保した避難用のバスによる避難を行うものとする。
 また、介助が必要な入院患者・入所者については、県が要請し確保した消防機関の救急車、福祉車両等によりあらかじめ定めた医療機関又は福祉避難所に搬送するものとする。この場合、必要に応じ、県は、自衛隊、海上保安庁等に対し車両、船舶、ヘリコプター等による搬送を要請するものとする。

(2)平成25年8月高浜町防災会議作成「高浜町地域防災計画 原子力防災編」(甲76)

ア 自家用車による避難が可能な住民は、自家用車による避難を行うものとする。この場合、町は、避難対象地域の住民に対し、交通誘導整理を行っている警察官等の指示に必ず従うよう、周知するものとする。

イ 自家用車以外での避難
 (ア) 自家用車による避難をしない住民は、町が定める場所から、県又は町が確保した避難用のバスによる避難を行うものとする。なお、避難に当たっては、あらかじめ定めた一時集合施設に集合し、県又は町が確保した避難用のバス若しくは応急出勤した自衛隊車両による避難を行うものとする。
 (イ) 自衛隊車両等により避難した住民は、町が定める場所から、県又は町が確保した避難用のバスによる、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。なお、避難に当たっては、避難車両中継所から県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。
 (ウ) 県が自衛隊、海上保安庁等に要請し、応急出勤した船舶又はヘリコプターにより避難を行う住民は、県又は町があらかじめ指定した避難先近辺の港湾又はヘリポートまで移動し、その後、県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ指定した避難先へ避難するものとする。なお、避難に当たっては、県又は町があらかじめ指定した半島部の港湾又は漁港若しくは臨時ヘリポートから、船舶、ヘリコプター等で、あらかじめ指定した避難先近辺の港湾又はヘリポートまで移動し、その後、県又は町が確保した避難用のバスにより、あらかじめ定めた避難先へ避難するものとする。

ウ 災害時要援護者の避難手段
 (ア) 学校の生徒等が在校時においては、県又は町が確保した避難用のバス若しくは応急出動した自衛隊車両によりあらかじめ定めた避難先に避難を行うものとする。
 (イ) 在宅の要介護高齢者・障害者等について、家族、地域等の協力により自家用車による避難を行うものとする。また、介助が必要な災害時要援護者については、県が要請し確保した消防機関の救急車、福祉車両等によりあらかじめ定めた福祉避難所に搬送するものとする。この場合、必要に応じ、県は、自衛隊、海上保安庁等に対し車両、船舶、ヘリコプター等による搬送を要請するものとする。
 (ウ) 病院の入院患者及び社会福祉施設の入所者は、県又は町が確保した避難用のバスによる避難を行うものとする。又、介助が必要な入院患者・入所者について、県が要請し確保した消防機関の救急車、福祉車両等によりあらかじめ定めた医療機関又は福祉避難所に搬送するものとする。この場合、必要に応じ、県は、自衛隊、海上保安庁等に対し車両、船舶、ヘリコプター等による搬送を要請するものとする。

(3)平成25年3月舞鶴市防災会議作成「舞鶴市原子力災害住民避難計画」(甲77)

ア バス、自家用車等による避難方法とする。

イ 自家用車の避難については、原則、災害時要援護者の避難及び家族や隣近所などの乗り合わせとする。

ウ 避難時集結場所への移動には、状況に応じて、バスやタクシー、自家用車も活用する。

エ 状況に応じて、船舶、鉄道等の交通手段の活用も考慮し、応援要請する。

オ 交通渋滞等の混乱を緩和するため、発電所からの距離に応じて、コミュニティ単位(自治会等)で避難時集結場所へ段階的に集結し、避難することとする。

カ 在宅の災害時要援護者への対応
 (ア) 可能な限り自家用車での避難に努めることとし、乗り合わせ等により避難時集結場所で避難カードを提出した上で、避難先へ向かう。
 (イ) 自家用車での避難がどうしても困難な場合は、次により避難する。
  (1) 車いす利用者や寝たきりの人は、主にリフト車又はストレチャー車で搬送
  (2) 人工呼吸器装着者又は在宅酸素療法を受け緊急搬送を要する人は、救急車で搬送
  (3) 上記のほか、貨物車両等を利用した応急的な寝台車両で搬送
   ※京都府等との連携により、可能な限り車両を確保する。

(4)平成25年2月宮津市防災会議作成「宮津市原子力災害住民避難計画」(甲78)

ア 避難のための移動手段は、自家用車(可能な限り乗り合わせ対応)を基本とする。また、その補足手段として、京都府、近隣バス事業者等と連携して、可能な限りのバスを確保する。

イ 自家用車での対応が困難な要援護者等については、次に掲げる交通手段を活用する。これらの交通手段の確保については、京都府との連携のもと、関係機関及び関係事業所等へ協力を要請する。
  ○リフト車 ○ストレッチャー車 ○救急車等

ウ その他必要に応じて、京都府及び関係機関等と連携して、次の交通手段を確保する。  ○鉄道 ○自衛隊ヘリコプター ○船舶

エ 上記の移動手段ができない場合には、徒歩による避難も考慮する。

(5)平成25年3月綾部市防災会議作成「綾部市地域防災計画」(甲79)

  具体的な避難手段は挙げられていない。

以上

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◆原告第6準備書面
第3 避難計画の問題点

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-  目次

第3 避難計画の問題点

1 はじめに

 福島第一原発事故により、原発事故を防ぐことはできないこと及び事故により甚大な被害が発生することが明らかになった。
 このことを考慮すれば、事故後の段階である第5層すなわち放射性物質が外部環境に放出されることによる放射線の影響を緩和するため、オフサイト(発電所外)での緊急時対応を準備するという措置を行うことは原発稼働の最低条件であると言わざるを得ない。具体的には、原子力発電所を稼働させるためには、安全対策としての第5層として、放射性物質が外部環境に放出される事態が生じた場合について、住民の生命・身体に危険が及ぶ地域において、的確・迅速な情報に基づいた現実的な避難方法が定められており、迅速な放射性物質対策が可能な環境が整備されていることが最低でも必要である。
 しかし、本書面第2にも述べたとおり、大飯原発で過酷事故が起こった場合、大飯原発立地自治体のみならず広範囲に放射性物質は拡散し、被害を生じさせる。そうであるにもかかわらず、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合に住民の生命・身体に危険が及ぶ地域において、的確・迅速な情報に基づいた現実的な避難方法は定められておらず、迅速な放射性物質対策が可能な環境は整備されていない。そして、そもそも、我が国において、第5層の整備を行うことは不可能である。下記、詳述する。

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2.区域設定

 原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」(平成25年9月5日全部改正)によると、防護措置が必要な区域については、PAZ(予防的防護措置を準備する区域、Precautionary Action Zone、急速に進展する事故においても放射線被ばくによる確定的影響等を回避するため、先述のEALに応じて、即時避難を実施する等、放射性物質の環境への放出前の段階から予防的に防護措置を準備する区域)、UPZ(緊急時防護措置を準備する区域、Urgent Protective Action Planning Zone、確率的影響のリスクを最小限に抑えるため、先述のEAL、OILに基づき、緊急時防護措置を準備する区域)、PPA(プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域、Plume Protection Planning Area、UPZ外においても、プルーム通過時には放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被ばく等の影響もあることが想定される地域)の3つの区域設定がなされている。PAZについては「原子力施設から概ね半径5㎞」、UPZについては「原子力施設から概ね半径30㎞」とされており、同心円状の範囲で区域設定がなされている。
 しかし、重点的に防災計画を進める地域を半径30㎞に限定することには以下の問題点がある(甲68)。

  1. 想定基準・算出方法
     規制庁は、シュミレーションの際の放射線物質の放出量は福島第一原発事故と同等を想定し、加えて原発の出力に比例した量の放出も考慮して算出したシュミレーションに基づき半径30㎞の区域設定を行っている。しかし、福島第一原発事故では放射性物質は一部しか放出されていないし、冷却プールに保管している使用済み核燃料からの放射性物質の拡散はなかったのである。放出量は想定された最悪の事態ではなかった。実際の想定においては福島第一原発事故より以上の放射性物質が放出されることを想定してシュミレーションを行うべきである。したがって、規制庁による算定基準・算出方法は楽観的に過ぎ、不十分である。
  2. 拡散状況
     規制庁は、過去のある1年間の風速や風向きのデータを用いて、原発からの方位や距離別にどの程度の汚染濃度の可能性があるのかをSPEEDIなどのシュミレーションで推定したことに基づき、半径30㎞の区域設定を行っている。しかし、規制庁はこの推定の際に、風向きの出現頻度が少ない方位での3%のデータを切り捨てる方式(97%方式)で計算した。ちなみに、大飯原発においてその方式で計算すると、小浜市方面では大飯原発のすぐ近くの対岸で被ばくゼロという不当な結果が生じることとなる。したがって、規制庁は100%方式でなく不当な結果を生じる97%方式で計算しているのであるから、過少評価していることとなる。実際に、福島原発事故においては、福島第1原発から北西に約40キロメートル(村役場までの距離)に位置する福島県飯館村から高い濃度の放射性物質が検出されていることからすれば(国道399号沿いの地点は70時間の累積が3.734ミリシーベルト)、高濃度の放射性物質が半径30キロ以上遠方に拡散することは明らかである。
  3. 避難計画作成の基準にする被ばく線量
     規制庁は、IAEA基準の「最初の7日間の被ばく線量合計で100mmシーベルトに達する範囲」を参照して、半径30㎞の区域設定を行っている。しかし、従前公衆の被ばく限度が年間1mmシーベルトとされているのであるから、これを原則すべきである。実際に、チェルノブイリ原発事故では、年間5mmシーベルト以上が避難義務ゾーンであり、年間1~5mmシーベルトが避難の権利ゾーン(移住希望者には住宅・食等を保障)であった。規制庁は、内部被ばくを無視しており、年間1mmシーベルトの原則をないがしろにしている点で適切な被ばく線量に基づいた基準づくりをしていない。

 したがって、重点的に防災計画を進める地域を半径30㎞に限定することが妥当でないことは明らかである。加えて、福島原発事故及びチェルノブイリ事故における放射線の拡散状況をみれば、放射線が同心円状に拡散するわけではないことは明らかであるから、放射線の影響を同心円状に捉えること自体も、不当に放射線の影響が及ぶ範囲を狭めるおそれがあり、区域設定の方法として不合理であるといえる。
 また、PPAについては、30㎞の範囲外であってもその周辺を中心に防護措置が必要となる場合があることを認めながらも、「PPAの具体的な範囲及び必要とされる防護措置の実施の判断の考え方については、今後、原子力規制委員会において、国際的議論の経過を踏まえつつ検討し、本指針に記載する。」としており、現時点で何ら具体的な範囲が定められておらず、放射線の影響を具体化できていない。
 以上のとおり、原子力規制委員会の「原子力災害対策指針」による区域設定は機械的にすぎ、かつ不十分である。

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3.情報伝達の方法

 原子力災害が生じた場合には、通報義務の課された事業者が、国の原子力災害対策本部(本部長:内閣総理大臣)に対し通報し、同本部は国の原子力現地災害対策本部(本部長:環境省政務)に同情報を伝える。同本部は、都道府県現地本部、都道府県災対本部及び市町村災対本部と共に原子力災害合同対策協議会を組織する。原子力災害対策特別措置法12条により内閣総理大臣が指定するオフサイトセンター(緊急事態応急対策等拠点施設)は、原子力災害が発生した場合に、現地において、国の原子力災害現地対策本部や地方公共団体の災害対策本部等が原子力災害合同対策協議会を組織し、情報を共有しながら、連携のとれた原子力災害対策を講じていくための拠点となる。同オフサイトセンターが、住民に対し避難指示を行い、広報を行う(原子力対策指針・原子力災害対策特別措置法に基づく緊急事態応急対策等拠点施設等に関する内閣府令)。
 しかし、大飯発電所のオフサイトセンター(福井県大飯原子力防災センター)は、大飯発電所から約7キロメートル離れた、おおい町内の海岸沿いに位置する。具体的には、敷地は海に接しており、護岸から施設までは100メートル足らず、海抜はわずか2メートルの場所に位置している。
 おおい町が作成したハザードマップにおいては、オフサイトセンターの位置する地域は津波襲来時の浸水地域であり、防波堤のかさ上げは予定されていない。同オフサイトセンターの非常時の電源は、本館に隣接する建屋に設置されたディーゼル発電機1基であり、発電機と建屋は防水措置が取られていないため、排気口から水が入ると使用できなくなる。また、オフサイトセンターの敷地自体が、大飯原発3、4号機の建設残土を使用した埋め立て地であり、埋め立て当初から地盤が安定しない場所であったため、地震による液状化現象が生じた場合、護岸の崩壊・地盤沈下が生じる可能性が高い。実際、同敷地周辺には既に地盤に隆起や道路のひび割れが生じている。また、施設の空調設備には放射性物質の流入を防ぐ空気浄化フィルターが設置されていない(甲69)。
 また、上記オフサイトセンターの移転計画についても、政府の平成25年度予算案で移転費用が計上されず、延期となった。政府予算案では、原子力規制委員会の概算要求のうち、原子力発電施設等緊急時安全対策交付金137億円が計上されたが、移転費用13億5800万円は「優先順位が低い」とし、盛り込まれなかった。福井県自体は、同センターの津波想定を高さ1.5メートルと見直したほか、おおい町には概算要求で事前説明がなく、同町は「移転の必要はない」としていた(甲70)。
 東日本大震災では、海抜8メートルに位置した宮城県女川町の東北電力女川原発のオフサイトセンターに津波が押し寄せ、当時の大友稔所長や避難してきた住民らが犠牲になっている。東京電力福島第一原発事故では、同原発から5キロメートルの場所に位置する大熊町のオフサイトセンターにフィルターがなかったために屋内の放射線量が高くなり、福島原発事故の4日後に同センターを放棄して福島市まで撤退せざるをえなくなったということも発生している(甲69)。
 これらのことを考慮すれば、大飯原発のオフサイトセンターについては、災害時に機能を失う可能性が非常に高い。
 また、SPEEDI自体、電源がなくなった場合、放出された放射線の種類・量を把握できず、放射性物質の拡散状況などの適切なデータ解析ができないものである。さらに、そもそもSPEEDIはあくまでもシュミレーションにすぎないのであるから、SPEEDIがあるからといって物質の拡散状況が確実に把握できるというわけではない。
 そして、そもそも国や事業者が迅速・的確な情報を伝達すること自体、何ら担保のないものである。
したがって、上記情報伝達方法では住民が迅速的確な情報を得られる確実性が全くないことは明らかである。

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4.各原発周辺自治体における避難計画の問題点

 大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合に住民の生命・身体に危険が及ぶ地域(おおい町、高浜町、舞鶴市、宮津市、綾部市)における防災計画の概要は別紙のとおりである。

 (1)迅速的確な情報伝達の非確実性

 上記大飯発電所周辺地域は、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合、住民の生命・身体に危険が及ぶ地域であるにもかかわらず、避難について、関西電力及び国からの情報を待つ体制にある。すなわち、地域の防災計画は、県や市町村が国・関西電力のもつ正確な情報を迅速に受け取ることができるという前提で計画されている。しかし上記のとおり、避難指示の前提となる区域設定が不合理であり、かつ福島原発事故では停電により情報発信そのものが十分できなくなったり処理能力を超えてメール等の送受信ができなくなったことにより、迅速的確な情報伝達は行われなかったことを考慮すると、上記前提自体が覆される可能性が高い。

 (2)避難手段について

 綾部市は、そもそも具体的な避難手段を定めていない。
 綾部市以外の上記地域は、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合、自家用車・県又は町が確保した避難用のバス・自衛隊、海上保安庁等に要請して応急出動してもらう車両・船舶・ヘリコプターにより避難するとして、防災計画において一応は避難手段を定めてはいるものの、下記のとおり問題がある。

  ア 自家用車による避難

 大飯原発で深刻な事故が発生した場合,周辺住民は,自家用車での避難が中心となり,自家用車を持たない者等については,バス等での移動が行われることとなる。

   (ア)地震・津波等による道路・橋の遮断

 東日本大震災では、地震ないし津波により、道路本体・路面の崩落2カ所、道路本体の大規模クラック13カ所、路面の陥没23カ所、2センチ以上の段差174カ所(最大100センチ)、橋梁支承部の損傷3橋5支承、橋梁ジョイント部の損傷46橋56カ所、ICの被害が生じ、仙台東部道路・仙台港北IC・名取ICは津波の影響により利用できない状態となり、東北道岩槻ICについては橋梁支承部が損傷し、常盤道山元ICでは路面へのクラックが多数発生した(平成23年3月18日付東日本高速道路株式会社プレスリリース)。
 また、国土交通省道路局直轄の国道についても、69区間が東日本大震災により影響を受け、事故から1年経った平成24年2月3日になって初めてすべての通行止めが解消された。
 以上からすれば、そもそも自家用車で避難しようにも、地震・津波により、道路自体が遮断・通行不能となる蓋然性が高い。積雪などの季節的特殊性の考慮も必要となる。したがって、上記地域における避難計画が複合災害を想定していない不十分なものであることは明らかである。

   (イ)渋滞(甲71、甲80)

 避難が必要となった場合,周辺住民は一斉に自家用車を運転して,避難場所に向かうことになるが,大飯原発周辺の主要な道路は,国道27号線しかない。そして国道27号線は片側1車線の道路であるため,大飯原発周辺の住民が一斉に避難のために自家用車を運転して,国道27号線に入ってくれば,渋滞が発生することは確実である。
 渋滞の発生については様々なメカニズムがあるが,一点確実にいえることは,その道路の許容量を超える自動車が流入すれば,必ず渋滞が発生するということである。
 渋滞が発生した後も次々と国道27号線や避難所に自動車が流入してくるのであり,原発に近い場所に住んでいる住民ほど,渋滞の最後方に付くことになるため,避難場所になかなか到着できず,被爆の危険にさらされることになる。
 実際,大飯原発で深刻な事故が発生した場合に,周辺30㎞圏内の住民が30㎞圏内から退避するのに必要な時間は15時間30分であると試算されている。
 この点,福井県においては,まず原発周辺5㎞圏内の住民を先に避難させ,その後にそれ以外の地域の住民を避難させるという段階的避難についてのシミュレーションを行っている。
 これによると,おおい町から避難先の敦賀市まで行くのに,優先的に避難する5㎞圏内の住民については2時間40分で到達し,その他の周辺住民については,7時間20分かけて,避難先の敦賀市に到達するという試算が出ている。なお,渋滞等何もない場合に,おおい町役場から敦賀市役所まで行くのに2時間程度かかる。
 仮に一斉避難した場合には,10㎞圏内の住民が10㎞圏外に出るのに5時間10分,20㎞圏外に出るのが6時間10分,30㎞圏外に出るのが7時間10分,避難先に到着するのに7時間40分かかるという試算が出ている。
 福井県の試算はあくまで何のトラブルも発生せずに順調に避難が進んだ場合のものであり,実際にこの時間で避難が完了するとは到底考えられない。
 まず,段階的避難については,5㎞圏外の住民が,指示どおりに5㎞圏内の住民が避難しきるまで待ち続けると想定することは人間心理を考えても,到底ありえない。また,地震等で道路の各所で陥没していたりする可能性は十分あり,このような悪条件の道路で想定どおりの避難は難しい。その他,季節によっては,積雪等の可能性のある地域であり,気象条件により,避難の完了が大きく遅れることは十分に想定できる。さらに,ガソリン切れ,故障等により,道路に車両が放置されたりすると,さらに避難の完了に時間がかかる。
 一斉避難の場合は,福井県の想定でも10㎞圏外に全ての住民が出るまでに5時間10分かかるとされており,福島第一原発同様渋滞が発生し,避難に非常に時間がかかることが当然の前提となっているのである。そして、その間避難者は大量の放射性物質にさらされることになり、大量の被ばくをする。そして、汚染地域の避難行動が汚染物質を拡散させるということからも、被ばくをすることなく避難することの困難性は明らかである。

   (ウ)避難受入先に駐車可能な車両台数が少ないこと

 福井県及び京都府における平成25年3月末時点における自家用車の台数と人口は、下記のとおりである(一般財団法人自動車検査登録情報協会作成の平成25年9月12日データ及び総務省作成の平成25年3月31日住民基本台帳年齢別人口(都道府県別)(総計))。

  • 福井県 台数49万1026台  人口810,552人
  • 京都府 台数97万7603台 人口2,587,129人

 上記地域における平成25年3月31日時点の人口は以下のとおりである(総務省作成の平成25年3月31日住民基本台帳年齢別人口(市区町村別)(総計))。

  • 大飯郡おおい町  8,742人
  • 高浜町     10,999人
  • 舞鶴市     87,909人
  • 宮津市     20,064人
  • 綾部市     36,052人

  上記の人数が自家用車で一度に避難した場合、避難受入先にすべての車両を駐車させることは不可能である。とすれば、住民は、駐車可能な受け入れ先を探して限られたガソリンの中で移動しつづけるか、車を路上に放置するしかない。車が路上に放置された場合、渋滞を生み出し、道路を通行不可能にし、自家用車による避難を不可能にする。

   (エ)福島原発事故における避難実態

 現に、全国原子力発電所所在市町村協議会・原子力災害 検討ワーキンググループ平成24年3月作成の「福島第一原子力発電所事故による原子力災害被災自治体等調査結果」(甲72)によると、渋滞状況として、「双葉町 ・国道114号線を使用し避難するよう住民広報したが、避難道路は大渋滞した。 ・通常、1時間かからないところで、5時間かかったという情報があった。」「大熊町 ・避難ルートは、国道288号線を利用したが、幅員が狭く、他町村からの避難 車両も流入したため、大渋滞した。 ・往復1時間程度のところで3時間かかった。」「楢葉町 ・通常20~30分で行けるところで、約4時間かかった。 ・国道6号は3~4箇所で陥没があり、通行不能であった。」「富岡町 ・川内村に向かう道は一本しかなく、避難道路は大渋滞した。・通常30分のところ、3時間以上かかった。」「南相馬市 ・ガソリンスタンドの給油待ちなどで渋滞が発生していた。 」「浪江町 ・避難に使用できる道は国道114号線しかなく、交通が集中し、通常30~40分のところ、3~4時間かかった。・避難道路としては、国道6号線、114号線、288号線があったが、国道6号線は陥没して通れず、福島第一原子力発電所に近づく288号線は使えない。結局、避難に使用できる道路が、国道114号線一本しかなかった。・結果、大渋滞となり避難者がばらばらになってしまった。」と報告されている。
 そのほか、上記調査結果では、楢葉町で「ガソリンがないので、移動(避難)するのに苦労した。」「自家用車避難に伴い、道路の渋滞、燃料の枯渇による車両の放置、避難先での受入場所(駐車場)の不足など、これまで想定していない状況が発生した。」と報告されている。これらの問題を解決するために、自家用車避難を想定した交通シミュレーションを実施し、自家用車避難も想定した計画の策定を検討するとともに、迅速に自家用車避難をするために必要な避難道路の早急な整備、避難先の駐車場等の確保等が求められるが、これらに関しては上記地域防災計画では何ら定められていない。
 また、東北大の今村文彦教授(津波工学)は「渋滞を招くので、津波避難はできるだけ車を使わないのが原則。日ごろから渋滞が起きやすい地点などを把握しておくことが望ましい」と述べる(甲73)。
 実際に、福島第一原発事故では、自家用車で避難する際に津波の被害に遭ったり、地震や津波による港湾や道路といった交通インフラや製油所や油槽所といった石油製品の供給施設が破壊されたことによって供給量不足による深刻なガソリン不足が発生した。
 ガソリンスタンドでは給油を待つ自動車の長蛇の列が発生し、ガソリンを確保するために多くの時間と労力を費やさなければならなくなった。ガソリン不足は、渋滞を生み出すだけではなく、そもそも住民の移動及び救援・復旧活動のための移動自体を困難にしたのである。
 避難の際に道路が通行不能になった場合避難自体、不可能となり、通行不能とならずとも、長蛇の渋滞が生じ、自家用車による避難が困難になることは容易に想定できる。

   (オ)小括

 以上のとおり、上記(ア)~(ウ)は、相互に関連して、自家用車による避難を困難にする。
 したがって、自家用車による避難が非現実的であることは明らかである。
  
  イ バスによる避難

 福井県の人口(平成25年3月末時点)で810,552人であるのに対し、福井県の全事業者のバス車両保有台数は平成26年7月末現在で933台数にすぎず、京都府の人口(平成25年3月末時点)が2,587,129人であるのに対し、京都府の全事業者のバス車両保有台数は平成26年7月末現在で2,487台であり、人口に対し、バスの台数は圧倒的に不足している(平成26年7月末における「都道府県別認証登録事業所が保有する車両台数の占有率)。舞鶴市においては、市内12業者と災害時輸送協定を締結してはいるもののその合計乗車定員は約3500人(バス71台、タクシー121台、ワゴン車2台)に過ぎず、避難中継所と避難先をピストン輸送するにしても対象人口約8万8000人に対する避難手段としては明らかに不足しているし、運転手をそもそも確保できない可能性も高い。
 また、渋滞、道路損壊の状況が生じれば、遠方のバスの利用が困難となることは容易に想定できる。
 したがって、バスによる上記地域の全住民の避難が不可能であることはいうまでもない。

  ウ 自衛隊、海上保安庁等保有の車両等による避難

 さらに、自衛隊、海上保安庁等が保有する車両、船舶、ヘリコプター等についても、その数が限られていること、他地域への救助・安全対策に使用するためすべての台数を上記地域の住民の避難に利用することはできないことを考慮すれば、上記地域の全住民の避難には不十分である。

  エ 人的資源について

 加えて、自治体職員の人的不足から、避難に関する作業を自治体職員がすべて担うことは不可能であることは明らかであり、結局は自治組織ないし住民個人の判断に任せられる部分が多い。そもそも、地震・津波自体により被災し、連絡・指示を行う人がいなくなる蓋然性が極めて高い。
 したがって、上記地域の防災計画における避難方法は非現実的である。

  オ 要援護者への対応について

   (ア)上記地域の防災計画

 上記地域の防災計画では、要援護者についても自家用車、リフト車、ストレッチャー車、救急車、福祉車両等、鉄道・ヘリコプター・船舶による避難を想定している。しかし、福島原発事故による要援護者の場合と同様、台数及び道路の遮断・渋滞等の問題が生じることは当然であり、(1)避難区域が広範囲に及び、種種編住民も避難手段を必要としたため、交通インフラがひっ迫し、活用できる避難手段が限定されることは明らかである。また、(2)避難区域が広範囲に及び患者が長距離、長時間の避難を強いられることも明らかである。さらに、(3)要援護者への対応については、あくまでも要援護者周囲の住民の善意に任せられる部分が多く存在する。
 したがって、要援護者についての対応としては不十分であると言わざるを得ない。

   (イ)福島原発事故

 実際に、福島原発事故において、要援護者の避難は困難を極め、多数の要援護者が生命・身体の危険にさらされた。
 福島原発事故当時、福島第一原発から20km圏内には、大熊町、双葉町、富岡町、浪江町、南相馬市の5市町に7つの病院が存在した。県立大野病院(大熊町)、双葉病院(同)、双葉厚生病院(双葉町)が5km圏内に、今村病院(富岡町)、西病院(浪江町)が10km圏内に、市立小高病院(南相馬市)、小高赤坂病院(同)が20km圏内にある。事故当時これらの7つの病院には合計約850人の患者が入院していた。そのうち約400人が人工透析や痰の吸引を定期的に必要とするなどの重篤な症状を持つ、又はいわゆる寝たきりの状態にある患者・要援護者であった。
 本事故によって避難指示が発令された際、これらの病院の入院患者は近隣の住民や自治体から取り残され、それぞれの病院が独力で避難手段や受け入れ先の確保を行わなくてはならなかった(甲3 国会事故調 報告書【参考資料4.2.3-1】参照)。

 図4.2.3-1 20km圏内の病院の概要〈図省略〉

 国会事故調査委員会の調査によると、平成23(2011)年3月末までの死亡者数は7つの病院及び介護老人保健施設の合計で少なくとも60人に上った。「震災後の避難前の時点」から「別の病院への移送完了」までに死亡した入院患者数は、双葉病院38人、双葉厚生病院4人、今村病院3人、西病院3人であった。また、双葉病院の系列の介護老人保健施設の入所者は同病院の患者と一緒に避難したが、そのうち10人が死亡している。なお、死亡者の半数以上が65歳以上の高齢者である。平成23(2011)年3月末までに40人の死亡者が発生した双葉病院は、医療設備のある避難先や避難手段の確保が比較的遅かった上に入院患者数も多く、本事故による避難において最も過酷な環境におかれたといえる。
 要援護者が過酷な状況に陥った要因として、(1)避難区域が広範囲に及び、種種編住民も避難手段を必要としたため、交通インフラがひっ迫し、活用できる避難手段が限定されたこと、(2)避難区域が広範囲に及んだため患者が長距離、長時間の避難を強いられたこと、(3)放射線による被害を避けるために短期間で避難先を確保することが求められ、十分な医療設備のない避難所に一時避難してしまう事態があったということが挙げられる。(1)については、重篤患者の場合は自家用車やバスでは身体への負担が大きくなってしまうことから、重篤患者の移送においては救急車や自衛隊のヘリなど、医療機器が搭載できることや身体への負担の少ないことを満たす避難手段が必要であり、多数の重篤患者を移送することは困難であった。(2)については、避難区域が広範囲に及んだことにより、長時間の移動で要援護者が体力を失い、死亡者が出る事態となった。(3)については、避難区域内の病院は、放射性物質による被ばく被害を極小化させるために、移送先の医療機関を決める余裕もなく日案することを余儀なくされ、重篤患者を医療設備のない体育館等へ一時避難させなくてはならなかった。

   (ウ)小括

 以上のとおり、要援護者が安全に避難することは困難であることは明らかであり、上記地域の防災計画でその避難方法が定められておらず、要援護者への対応として不十分であると言わざるを得ない。

  カ まとめ

 以上のことを考慮すると、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合に住民の生命・身体に危険が及ぶ地域において、的確・迅速な情報に基づいた現実的な避難方法は定められていないことは明らかである。

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5 迅速な放射性物質対策が可能な環境が整備されていないこと

 そもそも、大飯発電所は、周囲を山・海に囲まれた場所に位置し、大飯発電所への道路は県道241号線のみである。
 平成25年9月16日午前2時半ころ、台風18号により、高速増殖炉「もんじゅ」につながる一本道(県道141号線)のトンネルの前後2か所で土砂崩れと倒木があり、外部からもんじゅとの行き来ができなくなり、同日午前3時前、もんじゅと原子力規制庁を結ぶ緊急時対策支援システム用の光ケーブルが破損し、原子炉の状況を伝送するシステムが一時停止した(甲74、82)。
 大飯発電所への道も県道241号線しかないこと、周囲や山に囲まれていることからすれば、大飯発電所についても災害時にもんじゅと同様に孤立する事態が生じることは容易に想定できる。
 とすれば、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出されるような事態が生じた場合に、大飯発電所までの道が遮断されることにより、迅速な放射性物質対策ができなくなる蓋然性が高い。
 したがって、大飯原発周辺地域において、迅速な放射性物質対策が可能な環境は整備されていない。

6 結論

 すなわち、大飯発電所周辺の地域は、大飯発電所から放射性物質が外部環境に放出された場合に住民の生命・身体に危険が及ぶ地域であるにもかかわらず当該地域において、的確な情報に基づいた現実的な避難方法は定められておらず、かつ、大飯発電所の立地場所を考慮すれば迅速な放射性物質対策が可能な環境は整備されていないと言わざるを得ない。とすれば、第5層すなわち放射性物質が外部環境に放出されることによる放射線の影響を緩和するため、オフサイト(発電所外)での緊急時対応を準備するという措置はなされておらず、IAEAの安全基準すら満たされていないのである。

以上

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◆原告第6準備書面
第2 大飯原発で過酷事故が起きたときに発生する被害

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-  目次

第2 大飯原発で過酷事故が起きたときに発生する被害

1 大飯原発等が福島第一原発並みの過酷事故を起こしたときの放射性物質拡散予測

 (1)「実効線量」「甲状腺等価線量」「ベクレル」について

 事故を想定する際の想定被ばく量については、全身の外部被ばく・内部被ばくの被ばく量を問題とする「実効線量」と、甲状腺に集積される放射性ヨウ素による甲状腺の短期集中的な被ばく量を問題とする「甲状腺等価線量」がある。単位はいずれもSv(シーベルト)が使用される。
 実効線量については、IAEA(国際原子力機関)が「7日間で100mSv超」を住民避難の判断基準としている。
 甲状腺等価線量については、IAEA(国際原子力機関)が「7日間で50mSv超」をヨウ素剤の予防服用を行う判断基準としている。
 一方、「ベクレル」とは、もの(例えば水)に含まれる放射性物質の崩壊数に関するものであり、「放射性物質が1秒間に崩壊する原子の個数(放射能)」を単位とする。IAEAが飲料水等の摂取制限の基準として定めたOIL6では、セシウム137について200Bq/L、ヨウ素131について300Bq/Lとされる。一方、厚生労働省は「水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について」で、水道水中の放射性物質の管理目標値を、放射性セシウム10Bq/kgと設定しており、IAEAよりはるかに低い数値を設定している。

 (2)京都府が公表した国のSEEPIの予測(甲状腺等価線量、実効線量)(甲84、85)

 京都府は、後述の滋賀県、兵庫県と異なり、現状では大飯原発において過酷事故が発生した際の放射性物質の拡散予測を行っていない。まず、この点は行政として怠慢であり、これ自体が大飯原発の具体的な危険性であることは指摘せざるを得ない。
 一方、京都府は、すでに訴状で述べたとおり、大飯原発と同様に京都府に近接した場所にある高浜原発について、国に対して、SPEEDIによる過酷事故時の放射能影響予測の試算を要請し、その試算結果の提供を受けた。そして、2012(平成24)年3月23日に開催された京都府防災会議において、高浜原発の過酷事故を想定したSPEEDIによる放射性物質拡散予測結果を資料として公開した。
 京都府が公開した高浜原子力発電所の事故を想定したSPEEDIによる放射性物質拡散予測結果は、気象庁小浜観測所の気象データから「月別の出現頻度の高い風向及び平均風速」を算出し、風向から「最も近似する24時間」として特定の日時を抽出してシミュレーションがなされたものである。
 そして、このシミュレーション結果によれば、ヨウ素吸入による甲状腺等価線量(24時間の積算値)において、京都府内に影響が及ぶ月及び地域は以下のとおりである。

 月  自治体 ヨウ素吸入による甲状腺等価線量
(24時間の積算値)
 2月  舞鶴市・綾部市
 京丹波町・南丹市・亀岡市
 500ミリシーベルト
 50ミリシーベルト
 3月  綾部市・南丹市・亀岡市・京都市右京区
 京都市北区・京都市左京区・京丹波町
 50ミリシーベルト
 5ミリシーベルト
 5月  舞鶴市
 宮津市・伊根町・京丹後市
 与謝野町
 500ミリシーベルト
 50ミリシーベルト
 5ミリシーベルト
 9月  舞鶴市
 伊根町
 500ミリシーベルト
 5ミリシーベルト

 (2011年2月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年3月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年5月のシミュレーション)〈図省略〉

 (2011年9月のシミュレーション)〈図省略〉

 舞鶴市や綾部市は放射性物資の放出開始から24時間以内に、500mSvを超える猛烈な汚染に見舞われるのである。また、京都市右京区までがヨウ素剤の予防服用を行うレベル(50mSv)に達することが分かる。甲状腺等価線量500mSvは、この調査)時点での(改訂前の京都府の「京都府地域防災計画」)において退避をする指標とされていた数値でもある。
 また、同様に、セシウム137外部被ばくによる実効線量(24時間の積算値)において、京都府内に影響が及ぶ月及び地域は以下のとおりである。

 自治体  セシウム外部被ばくによる実効線量
 (24時間の積算値)
 2月  舞鶴市・綾部市
 京丹波町・南丹市・亀岡市
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 3月  綾部市・南丹市
 京都市右京区・京都市北区
 京都市左京区・亀岡市
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト
 5月  舞鶴市
 宮津市・伊根町・京丹後市
 与謝野町
 0.027ミリシーベルト
 0.0027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト
 9月  舞鶴市
 伊根町
 0.027ミリシーベルト
 0.00027ミリシーベルト

 今後、京都府が、より詳細な調査を行えば、セシウムについても、より深刻な結果となることは十分にあり得るだろう。

 (3)国(原子力規制委員会)が2012年10月に公表した拡散予測(実効線量)(甲86、87)

 2012(平成24)年10月24日、原子力規制委員会は、日本国内の全ての原子力発電所について、シビアアクシデント時の放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果を公表した。
 同拡散シミュレーションは、年間の気象パターンや風向きなどのデータから、放射性物質の拡散の傾向を計算するMACCS2という評価手法を用いており、各サイトにおける年間の気象データ(8760時間分の大気安定度、風向、風速、降雨量)から、放射性物質が拡散する方位、距離を計算し、そのなかで、拡散距離が最も遠隔となる方位(16方位区分)において、外部・内部の被ばく経路の合計で実効線量が7日間で100mSv(IAEAにおいて避難が必要とすべき線量基準に準拠)に達する確率が、気象指針(原子力安全委員会決定(昭和57年1月))に示された97%に達する距離を試算している。
 試算にあたっての初期条件としては、(1)放出量及び時点については、東京電力福島第一原子力発電所事故における同原発1~3号機の3基分の総放出量(日本国政府がIAEAへ報告した放出量(ヨウ素131とセシウム137の合計をヨウ素換算して77万テラベクレルとなる多様な核種の放出を想定))が一度に放出したと仮定し、さらに、これをもとに各発電所ごとの出力比に応じた放射性物質量が一度に放出したと仮定している。また、(2)放出継続時間については、放出量が最も多かった同原発2号機の放出継続時間(10時間)、(3)放出高さは、地表面近傍の濃度が大きくなる0m(地上放出)と仮定し、(4)被ばく推定値については、外部被ばく及び内部被ばくの両方を考慮するものとなっている。
 このシミュレーションについては原子力規制委員会自身が「放射性物質の拡散シミュレーションの試算結果について」(平成24年10月)(甲87)において、下記の通り、その限界を述べている。

  • 地形情報を考慮しておらず、気象条件についても放出地点におけるある一方向に継続的に拡散すると仮定していること。
  • シミュレーションの結果は個別具体的な放射性物質の拡散予測を表しているのではなく、年間を通じた気象条件などを踏まえた総体としての拡散の傾向を表したものであること。
  • 初期条件の設定(放射性物質の放出シナリオ、気象条件、シミュレーションの前提条件等)や評価手法により解析結果は大きく異なること。
  • 各サイトで実測した1年分の気象データ8760時間(365日×24時間)を用いているため、すべての気象条件をカバーできるものではなく、また今後の事故発生時の予測をしたものでもない。

 この拡散シミュレーションによれば、大飯原発(サイト出力に対応した放射性物質量の試算)においては、大飯原発から南方32.2キロメートルの南丹市内の地点までが、7日間で100mSvの実効線量に達すると試算された。これはIAEAの基準において避難をすべきとされる線量である。

 このシミュレーションからすれば、風向き次第では、舞鶴市をはじめとする京都府下の各自治体も同じような放射性物質による汚染に見舞われる可能性が充分にあるということになろう。このような広範囲が避難対象になる事態は非常に深刻と言わねばならない。
 また、上記のようにこのシミュレーションでは、出現頻度の低い3%の気象は切り捨てており、これを切り捨てなかった場合は7日間で100mSvの範囲は大飯原発から南方63.5kmまで広がる(甲68p6)。これは京都市を超え向日市までいたる距離である。

 (4)兵庫県が2014年4月24日に公表した放射性物質拡散予測調査の結果(甲状腺等価線量、実効線量)(甲88)

 この調査は、まず2009年の1年間の気候を前提にして、大飯原発、高浜原発において福島第一原発並みの事故が発生した場合に、2009年1月1日午前0時からの6時間から始めて、1時間ずつ後にずらした8760ケースについて、兵庫県下の621メッシュ(4km四方)について、被ばく線量計算を行い、それぞれ最大のものを採用した数値である。
 その上で、その日時において、各原発で福島第一原発事故並みの放射性物質(ヨウ素131、セシウム131、セシウム134の放出)があった場合(ただし福島第一原発に比べた各原発の出力に比例させて放出量を調整している)の影響を調査したものである。
 その結果(甲状腺等価線量について7日間の積算被ばく線量を推計)は、したに示す図、表〈省略〉の通りとなり、IAEAの基準においてヨウ素剤の予備的服用の対象となる50mSvを超える地域が多数にのぼる可能性があることが分かった。このような広汎な地域の多数な住民に対して、ヨウ素剤を配付して服用させるのは困難至極というべきであろう。

 (5)滋賀県が2014年1月24日に公表した琵琶湖の汚染予測調査の結果(ベクレル)(甲89)

 この調査は、福島第一原子力発電所事故に、滋賀県が策定した放射性物質の拡散モデルを適用し、琵琶湖へのセシウム137と、ヨウ素131沈着量の予測を行ったものである。具体的な条件としては、大飯原発または美浜原発から、2011年3月15日(福島第一原発の事故において最も排出量の多かった日)の24時間の放射性物質排出量が排出された場合をシミュレーションし、琵琶湖流域に最も影響が大きいと考えられる日を抽出したものである。
 この結果、セシウムについて、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、IAEAが飲料水の摂取制限の基準であるOIL6(経口摂取による被ばく影響を防止するため、飲食物の摂取を制限する際の基準。セシウム137について飲料水で200Bq/Lとされる)を超過する面積比率が事故直後には最大20%程度(北湖)となり、またこうした水域が長い場合で10日間前後残る可能性が示された。
 また、ヨウ素については、琵琶湖表層の浄水処理前の原水について、同様の分析をしたところ、OIL6を超過する面積比率が事故直後に北湖で最大30%程度、南湖で最大40%程度となる事例が見られ、北湖では10日間程度で、南湖では7日間程度はその状態が続く可能性があることが判明した。
 なお、この調査では専ら琵琶湖の汚染に焦点が当てられているが、同時に、人間の居住地域を含む土地の汚染が発生することは言うまでも無い。

  <琵琶湖表層水におけるセシウム137の平均値>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるセシウム137の面積比率>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるヨウ素131の平均値>〈図省略〉

  <琵琶湖表層水におけるヨウ素131の面積比率>〈図省略〉

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2 水道水の汚染

 (1)福島第一原発事故の際の東京、千葉での水道水汚染の発生

  ア 東京都について

 実際、福島第一原子力発電所の事故に際しては、東京都の金町浄水場(福島第一原子力発電所から約210km)において、2011年3月22日にヨウ素131が乳児の摂取制限値である100Bq/Lを超えたため、東京都から、金町浄水場を含む利根川水系から取水して飲み水としている東京23区の全域と武蔵野、三鷹、町田、多摩、稲城の5市で計約489万世帯に対して、乳児に水道水を飲ませないよう、呼びかけが出された(甲90 2011年3月24日付朝日新聞)。金町浄水場におけるヨウ素131の検出状況は以下の通りである(後述千葉県柏市水道部ホームページより)。

 日付  ヨウ素131(Bq/Kg)
 2011年3月22日  210
 2011年3月23日  190
 2011年3月24日  79
 2011年3月25日  51
 2011年3月26日  34

 幸いにして、短期間で制限値超過の状態は終了したが、関西を含む日本中で、ペットボトルの飲料水が入手しづらくなるなどの現象が起きたことは記憶に新しいことである(公知の事実)。
 なお、東京都が金町浄水場の水道水の検査をしたのはこれが初めてであり、それ以前に検査をしたことはなかった。すなわち、東京都民(とくに金町浄水場の水を飲料水としている足立区、葛飾区、江戸川区、荒川区(一分)、台東区(一分)、墨田区、江東区、北区(一分)は、福島第一原発において放射性物質の漏出が始まった3月12日以降、3月22日以前に、IAEAが定める摂取制限レベル(ヨウ素131については300Bq/L(ただし乳児は100Bq/L)、セシウムについては200Bq/L)を超える水道水を知らない間に飲んでいた可能性は否定できない。

  <東京都の取水状況>〈図省略〉
  東京都水道局ホームページより
 https://www.waterworks.metro.tokyo.jp/water/jigyo/syokai/02.html

 東京都においては、東京都健康安全センター(東京都新宿区百人町所在)においても、2011年3月18日以降、同所の水道水に含まれる放射性物質の検査が開始された(それより前は行われていない)。東京都新宿区の水道水は、上記図を見て明らかなように、荒川水系の朝霞浄水場(福島第一原発から約240km)の水を主に使用しており、金町浄水場の水は使用していないが、下記のような検査結果となった。

 東京都健康安全センター(東京都新宿区百人町)内水道蛇口からの放射性物質の検出状況
 http://monitoring.tokyo-eiken.go.jp/mon_water_data.html

採水日 ヨウ素131
Bq/kg
放射性セシウム134
Bq/kg
放射性セシウム137
Bq/kg
2011/3/18  1.5  ND(不検出) ND(不検出) 
2011/3/19  2.9  0.15  0.21 
2011/3/20  2.9  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/3/21  5.3  0.23  0.22 
2011/3/22  19  0.34  0.31 
2011/3/23  26  0.62  0.87 
2011/3/24  26  1.4 
2011/3/25  32  0.93  1.2 
2011/3/26  37  0.78 
2011/3/27  20  0.47  0.73 
2011/3/28  9.8  0.26  0.56 
2011/3/29  5.6  ND(不検出)  0.51 
2011/3/30  5.1  0.26  0.64 
2011/3/31  3.4  0.35  0.53 
2011/4/1  2.1  ND(不検出)  0.45 
2011/4/2  ND(不検出)  0.45 
2011/4/3  2.9  0.21  0.29 
2011/4/3  2.9  0.21  0.29 
2011/4/4  3.8  0.32  0.27 
2011/4/5  2.6  0.32 0.32 
2011/4/6  1.6  0.29  0.21 
2011/4/7  1.4  0.32  0.28 
2011/4/8  0.89  0.24  0.24 
2011/4/9  ND(不検出)  0.26 
2011/4/10  0.71  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/4/11  0.6  ND(不検出)  0.27 
2011/4/12  0.57  ND(不検出)  ND(不検出) 
2011/4/13  0.41  ND(不検出)  0.26 
(参考)水道水の
管理目標値※1 
  10
(参考)
原子力安全委員会が
定めた飲食物摂取制限に
関する指標※2 
300    200

・水道の蛇口から毎日採取し、ゲルマニウム半導体核種分析装置を用いて分析しています。
・降雨の場合は、数値が上がることがあります。
・測定データの表示桁数を国にあわせて2桁としました。

※1 厚生労働省では、「水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について」で、水道水中の放射性物質の管理目標値を、放射性セシウム10Bq/kgと設定。
厚生労働省、水道水中の放射性物質に係る管理目標値の設定等について(平成24年3月5日)
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000018ndf.html
※2 原子力安全委員会が「原子力施設等の防災対策について」で、飲食物の摂取制限に関する指標(飲料水)を示しています。指標は、放射性ヨウ素(代表核種ヨウ素131)が300Bq/kg以上、放射性セシウムが200Bq/kg以上。
原子力安全委員会、原子力施設等の防災対策について(昭和55年6月、平成22年最終改訂)
 http://www.nsr.go.jp/archive/nsc/anzen/sonota/houkoku/bousai220823.pdf

 イ 千葉県北西部について

 金町浄水場と同様の事態は同じ江戸川から取水している千葉県側の浄水場でも起こっていた。すなわち、北千葉浄水場(千葉県流山市流山市桐ヶ谷字和田130番地所在。福島第一原発から約200km)、栗山浄水場(千葉県松戸市栗山198所在。福島第一原発から約210km)、ちば野菊の里浄水場(千葉県松戸市栗山478-1所在。福島第一原発から約210km)でも下記のようにヨウ素131について、制限値超の水準となっていたのである。特に3月22日は、事後的な検査による補正値ながら、336ベクレルもの放射性ヨウ素が検出されており、IAEAの基準に照らしても、飲料水とは不適格な状態となっていたのである。
 なお、これらの浄水場において、検査が始まったのは金町浄水場の検査結果公表を受けた2011年3月23日以降のことであり、流山浄水場の3月22日の試料を事後的に検査したのを除き、それより前には検査結果が存在しない。それ以前に千葉県北西部(野田市、松戸市、柏市、市川市、我孫子市、鎌ヶ谷市等の住民)の住民がIAEAの基準を超える放射性ヨウ素を含んだ水道水を飲んでいた可能性は否定できない。

 江戸川沿いの浄水場でのヨウ素131の検出状況
  千葉県柏市水道部ホームページより
  http://suido.city.kashiwa.lg.jp/0000000074.shtml

     北千葉広域
  水道企業団
  東京都水道局            千葉県水道局 
 2011年   流山浄水場   金町浄水場   栗山浄水場   ちば野菊の里
  浄水場
 3月22日  ※336  210  測定せず  測定せず
 3月23日  110  190  180  220
 3月24日  測定せず  79  76  90
 3月25日  33  51  45  55
 3月26日  14  34  32  45
 3月27日  測定せず  不検出  測定せず  22
 3月28日  不検出  不検出  8.5  12
 3月29日  不検出  不検出  11  9.6
 3月30日  不検出  不検出  不検出  8.4
 3月31日  不検出  不検出  6.1  不検出
 4月1日  不検出  不検出  6.4  不検出
 4月2日  不検出  不検出  8.4  9.5
 4月3日  不検出  不検出  不検出  不検出
 4月4日  不検出  不検出  不検出  5.8

 ※北千葉広域水道企業団の3月22日採水分の測定値は336ベクレル/キログラム(減衰を補正した数値)だったが、これは八千代市の測定結果を受け、保管してあった試料を3月28日に検査機関に持ち込み、3月29日に結果が出たもの。

  <千葉県北西部の取水状況>〈図省略〉
 千葉県水道局ホームページの「県営水道配水系統図」より
 http://www.pref.chiba.lg.jp/suidou/jousui/shisetsu/kuriyama.html

 このように、福島第一原発から200km以上離れた浄水場でも、現に飲料水としては不適切な状態に実際になってし、調査結果がないだけで、福島第一原発の事故直後(特に放射性物質の放出が最も深刻であった3月15日)にはもっと深刻な汚染があった可能性も否定できないのである。
  そして、このように水道水が高濃度に汚染された浄水場がある位置は、福島第一原発からの距離が比較的遠いにもかかわらず、部分的に放射性物質が大量に降り注いだいわゆる「ホットスポット」の位置とほぼ一致している。

  <各浄水場の位置と放射性セシウムの沈着状況の関係>〈図省略〉
元図は「文部科学省による、岩手県、静岡県、長野県、山梨県、岐阜県及び富山県の航空機モニタリングの測定結果、並びに天然各種の影響をより考慮した、これまでの航空機モニタリング結果の改定について(平成23年11月11日 文部科学省)」より
 原子力規制委員会ホームページより
 http://radioactivity.nsr.go.jp/ja/contents/5000/4899/24/1910_111112.pdf

 (2)大飯原発の過酷事故により水質汚染が発生する可能性

  先述第2の1(5)で述べたとおり、滋賀県が行った放射性物質拡散予測では琵琶湖の汚染に焦点を当てており、放射性セシウムとの関係で、南湖では7日にわたって飲料水に適さないレベルとなる。そして、これは福島第一原発の事故を前提とした数値であり、想定可能な最大限のものではない。
  その場合、滋賀県全域で飲料水の確保が非常に困難となる。
  また、このような飲料水の原水となる水の汚染という事態は、日吉ダム(桂川水系)、畑川ダム(高屋川、由良川水系)、大野ダム(由良川水系)でも起きうる。大飯原発からの距離を考えれば、これらのダムの方がさらに深刻な被害となる可能性もある。以下詳細に述べる。

 (3)汚染が予想される淀川水系の河川とそこからの取水の状況

 ア 淀川水系の各主要河川とダムの概要

  (ア)全体像

 淀川水系の主要な河川の全体像は下記の通りである。

    <淀川水系の主要な河川等>〈図省略〉
  国土交通省HPより
  http://www.mlit.go.jp/river/toukei_chousa/kasen/jiten/nihon_kawa/86060/86060-4_ex.html

  (イ)桂川

 淀川の支川である桂川はその源を丹波高原佐々里峠に発し、亀岡盆地、保津峡を抜け嵐山にて京都盆地へ流れ込み、京都府・大阪市境付近で宇治川、木津川と共に淀川へと合流する流域面積1,100平方km、幹川流路延長114kmの一級河川である。
 桂川上流の主要なダムとして日吉ダムがある。大飯原発から日吉ダムまでの距離は約45kmである。
 大飯原発で過酷事故が発生すれば、日吉ダムやその上流、またはその下流の桂川水系が、琵琶湖と同様に、放射性物質によって汚染される可能性は十分にある。

  <淀川水系の主要なダム等>〈図省略〉
 国土交通省「淀川わいわいネット」HPより
 http://www.kkr.mlit.go.jp/yodoto/yynet/dam/dam.html

  (ウ)木津川

 淀川の支川である木津川はその源を三重、奈良の県境を南北に走る布引山脈に発し、笠置、加茂を経て山城盆地を貫通し、京都府・大阪市境付近で宇治川、桂川と共に淀川へと合流する流域面積1,596平方km、幹川流路延長99kmの一級河川である。
 木津川水系の主要なダムとして、高山ダム、布目ダムなどがある。大飯原発から高山ダムまでは約95kmである。布目ダムも大飯原発からは約100kmである。
 大飯原発で過酷事故が発生すれば、高山ダム、布目ダムやその上流、またはその下流の木津川水系が、琵琶湖と同様に、放射性物質によって汚染される可能性は十分にある。

  (エ)宇治川

 琵琶湖を源とする淀川は、その上流部では瀬田川、中流部では宇治川と呼ばれる。宇治川は京都府・大阪府境界付近で桂川、木津川と合流した後は淀川となる大阪湾に注ぐ一級河川である。
 大飯原発で過酷事故が起これば、琵琶湖そのものが非常に高いレベルで汚染される可能性があることはすでに第2の1(5)で述べたところである。

 イ 淀川水系からの取水状況

  (ア)京都市

 京都市は、滋賀県大津市の浜大津駅及び三井寺付近の琵琶湖湖畔にある琵琶湖第一疎水、琵琶湖第二疎水から直接水を取水しており、これを市内の広い範囲で飲料水としている。宇治川を経由しないのである。疎水から取水した水は、市営地下鉄東西線蹴上駅(九条山)にある蹴上浄水場で浄水され飲料水とされる。琵琶湖が放射性物質で汚染された場合に、滋賀県と並んで飲料水の確保について最も困難な状況に陥るのは京都市である。

  <京都市の取水状況>〈図省略〉
  京都市下水道局ホームページより
  http://www.city.kyoto.lg.jp/suido/page/0000007153.html

  (イ) 京都府下の南部の各自治体

 京都府は府として地方公営企業たる「京都府営水道」の事業を行っており、桂川(渡月橋のやや上流で取水)、宇治川(天ヶ瀬ダムの下流。平等院鳳凰堂のやや上流で取水)、木津川(国道24号線の泉大橋のやや下流で取水)する水について水利権を取得し、それぞれ、乙訓浄水場、宇治浄水場、木津浄水場で浄水した上、京都市以南(京都市は含まず)の南部の各自治体の水道事業に水利権を分配する形で水を売却している。
 上記のように、桂川水系、宇治川水系、木津川水系で放射性物質の汚染が発生したり、または、乙訓浄水場、宇治浄水場、木津浄水場が直接的に放射性物質に汚染されれば、京都府南部の住民は飲料水の確保が極めて困難になる。

  <京都府南部の自治体の取水状況>〈図省略〉
  京都府ホームページより
  http://www.pref.kyoto.jp/koei/suidou_10.html

  (ウ) 大阪市

 大阪市は大阪府とは別に水利権を取得し、三河川が合流した後の淀川から市内の浄水場(大阪市東淀川区)、庭窪浄水場(守口市)、豊野浄水場(寝屋川市)を通じて市内全域に水道水を供給している。淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪市でも、飲料水の確保が非常に困難となるのである。

  <大阪市の取水状況>〈図省略〉
  大阪市水道局ホームページより
  http://www.city.osaka.lg.jp/suido/page/0000014782.html

 (エ) 大阪府下のすべての自治体

 大阪市以外の大阪府下のすべての自治体は「大阪広域水道事業団」を結成し、同事業団が水利権を確保して、府下の淀川の村野浄水場(枚方市)、庭窪浄水場(守口市)、三島浄水場(摂津市)を通じて、大阪市以外の府下全域に水道水を供給している。淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪府下全域で、飲料水の確保が非常に困難となる。

  <大阪広域水道事業団の概要>〈図省略〉
  大阪広域水道事業団ホームページより
  http://www.wsa-osaka.jp/jigyougaiyou/kurashi-no-mizu/

  <大阪広域水道事業団の取水状況>〈図省略〉
  大阪広域水道事業団ホームページより
  http://www.wsa-osaka.jp/jigyougaiyou/sousui/sousuikanri.html

 (オ) 兵庫県下の自治体

 神戸市、尼崎市、芦屋市、西宮市は「阪神水道事業団」を結成して水利権を取得し、大阪府下の淀川の大道取水場、淀川取水場で取水した水を各自治体の浄水場を経て飲料水としている。これらの自治体も、淀川の上流やこれらの浄水場が放射性物質で汚染されれば、大阪府下全域で、飲料水の確保が非常に困難となる。

  <阪神水道事業団の取水状況>〈図省略〉
   阪神水道事業団ホームページより
   http://www.hansui.org/institution

 (カ) 奈良市

 奈良市は、水道水の多くを、木津川水系の布目川、白砂川、木津川から取水し、国道24号線の泉大橋のやや上流の奈良市営木津浄水場、東大寺の北東方向にある緑が丘浄水場を経て飲料水としている。
 木津川及びその上流の布目ダム、白砂川等が放射性物質で汚染されれば、奈良市内でも、飲料水の確保は非常に困難となる。

  <奈良市の取水状況>〈図省略〉
  奈良市企業局ホームページより
  http://www.h2o.nara.nara.jp/introduce_154.html

 ウ 汚染が予想される由良川水系の河川・ダムと京都府北部の自治体の取水状況

 由良川は、その源を京都・滋賀・福井の府県境三国岳に発し、北桑田の山間部を流れ、高屋川、上林川等を合わせ綾部を貫流し、さらに福知山に出て土師川を合わせ、北流して舞鶴市及び宮津市において日本海に注ぐ、幹川流路延長146km,、流域面積880平方kmの一級河川である。その流域は、京都府・兵庫県にまたがり、丹波・丹後地方における社会・経済の基盤をなす。
 主なダムとして大野ダム、和知ダム、由良川ダムなどがあり、いずれも大飯原発からは35~40km程度の距離しかない。
 これらのダムや由良川水系が放射性物質によって汚染されれば、京都府北部全体において、飲料水の確保が極めて困難となる。

  <京都府北部の取水状況>〈図省略〉
 国土交通省近畿地方整備局のホームページ中の「由良川河川整備計画」より
 http://www.kkr.mlit.go.jp/river/kasen/yuragawa.html

 結局、大飯原発で過酷事故が発生すれば、関西の三大都市圏全域や京都府北部(福井県の若狭地方は言うまでもない)で、長期間にわたって水道水を飲めない可能性が十分にある。これは、規模から言って、他地域からの給水車の出動やペットボトル飲料水で対応できる範囲をはるかに超えている。その際、住民が飲料水を確保できずに死に至るか、高濃度に放射能汚染された水を飲むか、という絶望的な選択を迫られる可能性すら否定できないのである。

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3 小括

 上記のように、ひとたび大飯原発で過酷事故が発生すれば、近畿一円の大気、地面、水面について、ともに甚大な被害が予想される。
 一方、これらの想定被害の前提となる各シミュレーションに共通した問題として、あくまで福島第一原発並みの過酷事故が起きたときの予測にすぎない。しかし、福島第一原発の事故が、あり得た最大限の事故ではないことはたとえば政府事故調査委員会報告書(甲91)でも下記のように言及されている(285~286ページ)。

  3月22日、菅総理は、仮に福島第一原発事故につき最悪のケースが重なるとどのような影響があるかを知るために、原子力委員会委員長である近藤駿介氏(以下「近藤氏」という。)に対し、福島第一原発事故の今後の最悪事態の想定とその対策を検討するよう依頼した。近藤氏は、3月15日の4号機原子炉建屋爆発を契機として、既に同日から事故状況が更に悪化した場合の対応策について検討していたが、菅総理の前記検討依頼は、原子力委員会としての本来の所掌を越えるものであることから、近藤氏が個人としてこれを引き受け、検討することとした。その上で、近藤氏は、個人名で、「福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描」(以下「素描」という。)を作成し、同月25日、素描を細野補佐官へ提出した。素描は、作業員の総退避、1号機から3号機の原子炉格納容器破損に伴う放射性物質の放出、1号機から4号機の使用済燃料プールの燃料破損に伴う放射性物質の放出といった仮定的事実の下でどのような事態が生ずるかを検討し、その事態の下で、1986(昭和61)年に発生したチェルノブイリ原子力発電所事故の際に採用された避難の基準に基づいて避難措置を講じた場合、どの地域がその対象となるかを想定しており、前記仮定的事実の下では、「避難を求めるべき地域」が福島第一原発から170km以遠にまで及ぶことや、年間線量が自然放射線レベルを大幅に超えるため、「移転することを希望する人々にはそれを認めるべき地域」が250km以遠にも及ぶことを説明している。

 このように、実際にはさらに甚大な被害が発生する可能性も大いにあったのである。そうであるにも関わらず、上記に紹介した各シミュレーションが、いずれも、福島第一原発事故並みの事故を前提として行っているのは、そもそも、想定が過小に過ぎるといわざるを得ない。
 そして、一度放射性物質が降り注げば、除染が極めて困難であることは、現実の福島県の現状を見ても明らかである。放射性物質に汚染された地域は、放射線に晒され続け、そこに居住すれば、放射線の外部被ばくを受けるのみならず、大気、汚染された食物、水を摂取し続けることで内部被曝を被り続けるのである。

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◆原告第6準備書面
第1 避難計画の重要性

原告第6準備書面
-避難計画の不備・実現困難性、想定被害-  目次

第1 避難計画の重要性

1 避難計画の法的な位置づけ

 (1)国際的な位置づけ-避難方法の確立はIAEA深層防護5層目にあたる

 世界的には、原子力発電所の設置・運転と、緊急時計画の策定とは、連携が取られている。例えば、IAEA[1](International Atomic Energy Agency・国際原子力機関)の策定する基準の一つである、原子力発電所の安全:設計(Safety of Nuclear Power Plants:Design.NS-R-1、SSR-2/1)においては、深層防護(より高い安全性を求めるために、仮にいくつかの安全対策が機能しなくなっても、全体として適切に機能するような多層的な防護策を構成すべきという考え方)の第5層として、事故により放出される放射性物質による放射線の影響を緩和することが求められ、そのために、十分な装備を備えた緊急時管理センターの整備と原子力発電サイト及びサイト外の緊急事態に対応する緊急時計画と緊急時手順の整備が必要とされている。
 すなわち、IAEA基準では、設計段階で、第5層の防護として、事故時の放射性物質による放射線の影響を緩和する緊急時計画を定め、それが実行可能であることが確認されなければならないとされているのである。

[1] IAEAは、原子力の平和的利用を促進するとともに、原子力が平和的利用から軍事的利用に転用されることを防止することを目的して、1957年、国連傘下の自治機関として設置された機関である。(平和的利用とは、非軍事的利用をさす)
IAEAの権限として、「原子力の研究、開発及び実用化を奨励し、援助する。」ことが上げられていることからも明らかな通り、原子力発電を促進する機関であることに留意されたい。外務省HPより(http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/atom/iaea/iaea_g.html)

 (2)(緊急時計画の策定が許認可要件となっている国

 実際に、米国、及び英国では、避難計画の策定が許認可要件とされている。
(甲66:「原子力緊急事態に対する準備と対応に関する国際動向調査及び防災指針における課題の検討」

  ア 米国

 緊急時計画は、許認可発給条件の一つとなっており、建設許可申請時に提出する予備安全解析書(PSAR)には予備的な計画が、また、運転認可申請時に提出する最終安全解析書(FSAR)には最終的な計画が必要となる。
 そして、放射能が放出される緊急事故時に十分な防護措置が取られる保証があるとNRC(Nuclear Regulatory Commission・原子力規制委員会)が判断しなければ、原発の運転が許可されず、十分な緊急時計画を許可条件としている。
 このように、米国においては、妥当で実行可能な緊急時計画の策定が原子力発電施設の運転許可条件になっており、IAEAの要求する5層目の防護が規制基準とされているのである。
 実際に、米国ニューヨーク州ロングアイランドにあるショーラム原子力発電所は、自治体や住民が同意できる実効性のある緊急時計画を策定できず、最終的には商業運転を行う前に廃炉が決定された。(甲81:2014年6月20日付け日本弁護士連合会「新規制基準における原子力発電所の設置許可(設置変更許可)要件に関する意見書」)

  イ 英国

 英国では、1959年に示された最初の原子力施設法(NIA)において、原子力施設での緊急事態に対する準備の重要性が既に認識されており、その後、1965年の修正NIA法で原子力施設の許認可条件(LC)の中で緊急時計画を策定することが規定されている。

 (3)避難計画の不備は司法審査の対象となること

 他方、後述の通り、日本では、避難計画策定についての根拠法はあるが、規制対象という扱いではない。従って、設置自治体の避難計画と、原子炉施設の稼働の可否には何ら連携がない。
 しかしながら、第4準備書面で述べたとおり、人格権に基づく差止訴訟においては、行政の規制対象となっていない事象であっても、住民らの生命、身体、財産に「具体的危険」が及ぶ事象は、裁判所の判断対象となる。従って、本書面で問題とする「避難計画の不備」についても、司法審査の対象となる。
 以下、現行法の仕組みを概観し、問題点を指摘する。

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2 現行法のオフサイト緊急時計画について

 (1)日本の避難計画に関する法令

 日本における防災計画の作成等は、災害対策基本法に規定されており、中央防災会議が政府の防災対策に関する基本的な計画として防災基本計画を作成している。
 またJCO臨界事故後、原子力災害対策特別措置法が制定された。同法は、災害対策基本法を補足する関係にある。防災基本計画に基づき、指定行政機関及び指定公共機関は防災業務計画を、地方公共団体は地域防災計画の作成を義務づけられる(法39条)。
 福島第一原子力発電所事故や原子力規制委員会の設置等の組織の変更を受け、原子力防災体制が改定された。原子力防災に係る考え方や戦略は、福島第一原子力発電所事故の教訓と IAEA 等の国際的な基準等を取り入れた「原子力災害対策指針」の考え方を反映したものとなった、とされる。

 (2)震災対策基本法、原子力災害対策特別措置法の問題点

 しかし、災害対策基本法、及び、原子力災害対策特別措置法には以下の問題点が指摘されている。

  1. 法によれば、「地域防災計画」は自治体の責務とされている。しかし、「地域防災計画」のマニュアルである原子力災害対策指針は、「検討すべき項目」の羅列でしかなく、具体的な方策が明示されていない。そのため、各自治体が適切な地域防災計画を策定することが困難である。(甲71 「原発の避難計画の検証」上岡47頁)
  2. 実施主体である地方自治体が「計画」を策定できない非現実的な内容[2]である。実際に平成26年3月11日時点で4割の自治体が未策定である(甲83:朝日新聞記事)
  3. 原子力災害対策指針は、最終項の「結び」にて、「地方公共団体の取組状況や防災訓練の結果等を踏まえ継続的な改定を進めていくものである。」ことを明言している。すなわち、同指針が暫定的なもの、言い換えれば「未完成のもの」であることを自ら明らかにしているのである。
  4. 既に述べたように、日本では避難計画の策定は許認可要件とされていないため、実効性がない。実際に、多くの自治体が、合理的な避難計画を策定していないにもかかわらず、既存原子炉の稼働認可される可能性があるという問題点がある。

[2] 原子力施設近隣の非居住区域を画する「立地審査」の未施行も、避難計画策定が困難なことの理由の1つである。

3 小括

 本書面では、以下、各自治体のシュミレーションをもとに原発立地自治体のみでなく、非常に広範囲の市民が被曝の危険に曝されることについて述べる。また、原発周辺自治体で十分な避難計画が策定されておらず、大飯原発において、IAEA深層防護5層の整備すらなされていないことを述べる。

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◆原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について-
目次

2014年(平成26年)9月24日

第5準備書面[4 MB]

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について-

目次

第1 はじめに

第2 原子力法規制に対する国会事故調査報告書の提言
 1 規制組織と事業者の問題~「虜」の構造
 2 従来の原子力法規制の問題点
 3 規制組織の改革と原子力法規制の抜本的見直しの必要

第3 現在の規制組織、原子力法規制
 1 福島第一原発事故前
 2 現在の法体系
 3 法律⇒政令⇒規則⇒内規

第4 規制組織及び原子力法規制の問題点
 1 規制組織の独立性・透明性への疑問
 2 原子力法規制の問題

第5 新規制基準の問題点
1 立地審査指針を適用しないこと
2 安全設計審査に関する基準の不合理性

第6 本書面のまとめ

(別紙1)福島第一原発事故前の法規制 ※省略
(別紙2)改正後の規制機関相互の関係 ※省略

◆原告第5準備書面
第1 はじめに

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第1 はじめに

 福島第一原発事故後、被告国は、原子力法規制を修正した。これには、法体系の見直しと規制組織体制の見直しが含まれる。
 平成24年9月には、旧規制機関にかわり、新規制機関として原子力規制委員会が発足し、法改正をふまえて、新規制基準(後述)を策定し、既存原子炉施設の再稼働審査がなされることとなった。
 しかしながら、この新規制基準は、本来福島第一原発事故をふまえて必要とされる審査基準が設定されていない。そればかりか、旧審査基準で採用されていた「立地審査指針」が、いつのまにか排除されたという経緯がある(甲61:平成25年度第2回新潟県原子力発電所の安全管理に関する技術委員会議事録)。
 本来審査対象とすべき事項を審査しないまま原子炉を再稼働するということは、福島第一原発事故の結果明らかとなった既存原子炉施設に内在する「具体的な危険」を存置することに他ならない。
 本書面では、新規制基準及び新規制機関の概要を示すとともに、現在指摘されている、新規制基準の欠陥を述べる。

◆原告第5準備書面
第2 原子力法規制に対する国会事故調査報告書の提言

原告第5準備書面
-新規制基準の瑕疵について- 目次

第2 原子力法規制に対する国会事故調査報告書の提言

 国会事故調査委員会は、福島第一原発事故の9か月後、衆参両院の全会一致で議決され誕生した独立調査機関であり、6か月の調査活動の後、報告書を作成した。国会事故調の報告は多岐にわたるが、本項では、規制組織及び原子力法規制に関する事項をとりあげる。

1 規制組織と事業者の問題~「虜」の構造

 国会事故調は、福島第一原発事故は、自然災害ではなく人災であると繰り返し指摘している。
 すなわち、事業者である東電については、「警鐘がならされたとしても、発生可能性の科学的根拠を口実として対策を先送りしてきた。その意味で、東電の訴訟リスクマネジメントの考え方には根本的な欠陥があった」(甲3「国会事故調」5.1 451頁)とし、第一義的に原発の安全に責任をもつべき事業者が、その責任を果たしていなかったとする。
 また、事業者を規制すべき行政当局については、「電事連側の提案する規制モデルを丸のみにし、訴訟上のリスクを軽減する方向で東電と共闘する姿勢は、規制当局としての体を成しておらず、行政側に看過できない不作為があったものと評せざるを得ない」(同5.1 451頁)としている。
 そして、両者の関係につき、「日本の原子力業界における電気事業者と規制当局との関係は、必要な独立性及び透明性が確保されることなく、まさに『虜(とりこ)』の構造といえる状態であり、安全文化とは相容れない実態が明らかとなった」(同5.2 464頁)と結論づけているのである。

2 従来の原子力法規制の問題点

 国会事故調は、福島原発事故発生当時の原子力法規制の問題点として、具体的に以下の点を指摘している。
 そもそも従来の日本の原子力規制は、「原子力利用の促進を第一義的な目的」(同6.1 531頁)としており、市民の生命、身体の安全を目的としてこなかった。しかも、事故が起こっても対症療法的な対策しか行われず、「諸外国で取り入れられている安全の考え方に遅れた陳腐化したもの」(同6.1.2 1) a 532頁 )となっていたのである。具体的には、原告準備書面1でも主張したとおり、日本では、諸外国で取り入れられていた深層防護の考え方すら不十分であり、第4層においては、「外部事象も考慮したシビアアクシデント対策が十分な検討を経ないまま、事業者の自主性に任され」(同c)、第5層においても、「日本の原子力法制においては、原子炉の安全性の確保と防災対策は、関係しないものととらえられてきた」(同)のである。
  この原因としては、やはり規制組織の不作為、すなわち「訴訟提起の可能性の有無によって法規制に技術的知見等を反映するかどうかを決めると言った、本末転倒な判断」(同6.1.2 1)b 533頁)に問題があったとされる。

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3 規制組織の改革と原子力法規制の抜本的見直しの必要

 以上のような現状を踏まえ、国会事故調は、「提言」として、新しい規制組織の要件(提言5)と原子力法規制の見直し(提言7)を挙げる。

 (1) 新しい規制組織の要件

 国会事故調が提言する新しい規制組織の要件は、(1)高い独立性、(2)透明性、(3)専門能力と職務への責任感、(4)一元化、(5)自立性である。特に(1)高い独立性については、「虜」の関係への反省を踏まえたものであり、政府内の推進組織からの独立性、事業者からの独立性、政治からの独立性の3つが具体的にあげられている。もっとも、国会事故調が指摘する要件は、正常な規制組織のありかたとして極めて当然のものであろう。

 (2) 原子力法規制の見直し

 原子力法規制についても、抜本的に見直し、市民の生命・身体の安全を第一とする法体系へと再構築することが必要であるとする(同6.1.3 1 536頁)
 具体的な改正点としては、大きく、不適正な安全審査指針類の見直しと、原災法の再構築の2つがあげられている。
 このうち安全審査指針類については、(1)複合災害による多重故障の想定、(2)1989(平成元年)に改訂された原子炉立地審査及びその適用に関する判断のめやすについて(以下「立地審査指針」という。)の見直し、(3)長時間にわたる全交流電源喪失への対応の3点が明示的に列挙されている(同6.1.3 2 537頁)。

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