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◆原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

原告第54準備書面
(原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性)

2018年(平成30年)8月29日

原告提出の第54準備書面[294 KB]

【目次】

1 書面の趣旨

2 違法性
(1)規制権限不行使が違法となる要件
(2)法律の趣旨、目的
(3)規制権限の性質
(4)裁量権の収縮
(5)被侵害利益
(6)本件における国賠の要件

3 規制権限を行使すべき事象
(1)地震
(2)津波-詳細は第14準備書面参照
(3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述
(4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

4 結論



1 書面の趣旨

本書面は、東京電力福島第一原発事故における下級審判決(平成30年3月15日京都地裁判決(甲464[14 MB]、以下、「京都地判」という)、同月16日東京地裁判決(甲465)、以下、「東京地判」という)の判断枠組み等をふまえ、原子力発電所に関する訴訟における国賠法の要件該当性を明確化することを目的とするものである。

2 違法性

 (1)規制権限不行使が違法となる要件

国又は公共団体の公務員による規制権限の不行使は、その権限を定めた法令の趣旨、目的や、その権限の性質等に照らし、具体的事情の下において、その不行使が許容される限度を逸脱して著しく合理性を欠くと認められるときは、その不行使により被害を受けた者との関係において、国家賠償法1条1項の適用上違法となるものと解するのが相当である(最高裁平成13年(受)第1760号同16年4月27日第三小法廷判決・民集58巻4号1032頁、最高裁平成13年(オ)第1194号、第1196号、同年(受)第1172号、第1174号同16年10月15日第二小法廷判決・民集58巻7号1802頁参照)。

 (2)法律の趣旨、目的

  ア 福島第一原発事故を契機とした法改正

2011(平成23)年3月12日の福島第一原発事故を契機に明らかになった原子力に関する行政の不備を是正するため、2012(平成24)年6月27日、国は、「原子力基本法」、「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下「炉基法」という)」を改正した。
炉規法の主要な改正として、電気事業法の原子力発電所に対する安全規制(工事計画認可、使用前検査等)が、原子炉等規制法に一元化された。また、同法の目的、許可等の基準から「原子力の開発及び利用の計画的な遂行」を削除し、「国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全」を目的規定に追加した[1]

[1] 炉規法は、4段階に分けて施行された(2012(平成24)年9月19日、2013(平成25)年4月1日、同年7月8日、同年12月18日)、原告第5準備書面にて詳述

  イ 改正前の規制権限

改正前の法体系のもとでは、すでに稼働中の原子炉に対する規制が、電気事業法40条の技術基準適合命令を根拠とするか、原子炉等規制法を根拠とするかに関して議論があった。この点、京都地判においては、経済産業大臣は、基本設計部分または詳細設計部分を問わず、電気事業法40条の技術基準適合命令を行使して一時停止する権限を有していたのみならず、(原子炉に設計部分の変更を求める必要が生じた場合には)「炉規法に基づく設置許可を取り消すか、明文上の規定はないものの、取消権限の分量的一部として、原子炉の運転の一部停止を命じることができる」と判示し、電気事業法及び炉規法を根拠とした原子炉の一部停止権限を肯定した。

そして、電気事業法は、電気使用者の利益保護と電気事業の健全な発達を図ることだけでなく、電気工作物の工事、維持及び運用を規制することによって、公共の安全確保と環境の保全を図ることを目的としている。また、(改正前)炉規法は、核燃料物質や原子炉の利用による災害を防止して、公共の安全を図るために、原子炉の設置等に対する必要な規制を行うことを目的としている。そして、いずれの法律も、公共の安全確保を目的の一つとしており、事業用の電気工作物や原子炉の各性質や、電気事業法や炉規法の具体的規定(電気事業法39条2項1号「人体に危害を及ぼし、又は物件に損傷を与えないようにすること」、炉規法1条、24条1項4号「災害の防止」等)も踏まえると、いずれの法律も、公共の安全として、施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護することを目的にしており、施設周辺の住民等の利益は反射的利益などでは到底ないことになり、実用発電用原子炉には、このようないずれの法律の趣旨も及んでいると解すべきである(甲464[14 MB]-102)。

  ウ 改正後の規制権限

(改正後)炉規法第43条3の23は、発電用原子炉施設の規制基準に関し、工事計画認可、使用前検査等に係る技術基準に適合していない場合に加え、原子炉等規制法44条の3の6第1項4号の設置許可基準に適合していない場合にも、発電用原子炉設置者に対して、使用停止等処分を行うことができる旨規定された。

同法の目的規定には、「もつて国民の生命、健康及び財産の保護、環境の保全並びに我が国の安全保障に資することを目的とする」と明示されている。

  エ 小括

以上より、改正前の法体系においても、改正後の法体系においても、電気事業法及び炉規法は、「施設周辺の住民を中心とした生命、身体、財産等の具体的利益を保護」を目的としている。

 (3)規制権限の性質

  ア 原発事故の重大性、影響

前記のとおり、経済産業大臣の権限は、原子炉の利用等による災害を防止して公共の安全を確保する目的であるところ、放射性物質の性質からして、被害が広範囲かつ継続的に生じる可能性を包含しているのである(原告第3準備書面にて詳述)。

このように一度生じれば、原子炉施設だけでなく、その周囲の多数の住民の生命、身体及び財産等に対して、取り返しのつかない甚大な被害が継続して生じる可能性があることからすれば、公共の安全を確保するためには、万が一にも原子力災害が生じないように、経済産業大臣は常に原子炉施設の安全性を確かめ、少しでもその安全性に疑念が生じる可能性があるならば、事業者に対して規制権限等を行使することが法の目的に合致するし、行使することが期待されているといえる。この点で、過去、権限行使の違法性が争われた事案(クロロキン訴訟最高裁判決、筑豊じん肺最高裁判決、水俣病関西訴訟最高裁判決及び大阪泉南アズベスト訴訟最高裁判決の各事案と比較しても、原子力発電事故は一瞬にして発生し得る実害の大きさから規制機関に権限行使が期待される事件類型ということができる(甲464[14 MB]-103)。

  イ 住民の期待可能性

また、一般的に、規制権限行使については、事業者に対して一定の制約を生じるものであるから、その行使にあたっては慎重に行使すべき場合もあると考えられる。

しかし、前記のとおり、原子炉施設は高い安全性が求められているところ、経済産業大臣に規制権限が与えられている趣旨は、事業者が利益追求のために安全性をないがしろにするようなことがあった場合に、規制権限を行使することによって、原子力災害を防止して公共の安全性を確保することにある。原子炉施設の安全性については、権限の行使の判断にあたって高い専門技術性を要求されることから(伊方原発訴訟最高裁判決参照)、経済産業大臣に対して規制権限が付与されているものであり、経済産業大臣の権限行使以外の方法によって安全性を確保することが困難であって、同権限によってしか是正することとができないものである。

他方、原子炉施設周辺の住民のように何らの専門技術的知見を持たない一般人が、専門技術的知見を有しており、かつ知見を収集することが可能である経済産業大臣の権限行使を期待し、それしか期待できないとするのも当然のことといえる。

 (4)裁量権の収縮

  ア 原子炉に求められる安全性の程度

ここで、東京地判においては、原子力発電所に求められる安全性の具体的な程度として、「原子力安全委員会安全目標専門部会が、発電用原子炉施設の性能目標を、炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下」[2]とする要件を課していること、国際的にも同程度の安全性が求められていることを「十分に斟酌すること」が必要であるとしている。

この、性能目標(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下とすること)は、福島第一原発事故後においても、新規制の指標とする旨が議論されている(甲466-安全目標と新規制基準について)。

すなわち、原子力発電所に求められる安全性とは、比喩的な表現(「万が一」)ではなく、具体的に「炉心損傷確率が1万年に一度」以下であることが求められているものであり、司法審査においても当然にこの規範が妥当するものである。

[2] 【甲466[124 KB]】安全目標は、定性的目標と、その具体的水準を示す定量的目標で構成されるとされ、以下が提示される。

  • 定性的目標:原子力利用活動に伴って放射線の放射や放射性物質の放散により公衆の健康被害が発生する可能性は、公衆の日常生活に伴う健康リスクを有意には増加させない水準に抑制されるべき
  • 定量的目標:原子力施設の事故に起因する放射線被ばくによる、施設の敷地境界付近の公衆の個人の平均急性死亡リスクは、年あたり100万分の1程度を超えないように抑制されるべき さらに、施設が安全目標に適合しているかを判断する目安となる水準として、性能目標案が提示される。
  • 炉心損傷頻度(CDF:CoreDamageFrequency):10-4/年程度
  • 格納容器機能喪失頻度(CFF:ContainmentFailureFrequency):10-5/年程度

  イ 規制権限行使の方法

福島第一原子力発電事故は、日本の原子力発電所には事故が生じないという言説(「安全神話」)を打ち砕いた。今日においては、重大な原発事故は生じうるということを前提として、規制権限の行使の方法が問義されなくてはならない。

そして、上記電気事業法、及び、炉規法の趣旨、目的、事故による損害の重大性、並びに、住民の期待可能性に鑑みると、経済産業大臣の規制権限は、原子力発電所立地近隣住民の生命、身体及び財産の安全の確保を目的として、できる限り速やかに、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されるべきものである(前掲最高裁平成16年4月27日第三小法廷判決、平成26年10月9日第一小法廷判決参照)。

  ウ 小括

以上より、原子力発電所に関する、経済産業大臣の権限行使は、万が一(炉心損傷確率を1万年に一度、格納容器機能喪失頻度を10万年に一度以下)にも事故が発生しないように、技術の進歩や最新の知見等に即して、適時にかつ適切に行使されなくてはいけない。

 (5)被侵害利益

  ア 人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)

後述する通り、大飯原発には、運転を停止すべき差し迫った具体的危険が存する状況にある。

原発(原子炉施設)を運転しうる状況に置くことは、原告らが常にいつ生命・身体・健康等に甚大な被害が発生するかわからない差し迫った具体的危険性のもとでの生活を強いるものであり、原告らが生命、身体、健康を維持し、快適な生活を営む権利、すなわち、人格権(憲法13条)、生存権(憲法25条)、平和的生存権(憲法前文)を侵害するものである。(訴状より)

  イ 水俣病お待たせ賃判決

上記憲法上の利益がいかなる状況で侵害されるかを具体的に説明する。

この点、参考となるのは、水俣病おまたせ賃判決(最高裁平成3年4月26日第二小法廷判決、民集45巻4号653頁、判時1385号3頁、判タ757号84頁)である。同判決は、「本件において……〔上記の〕利益が法的保護の対象になり得るとしても、処分庁の侵害行為とされるものは不処分ないし処分遅延という状態の不作為であるから、これが申請者に対する不法行為として成立するためには、その前提として処分庁に作為義務が存在することが必要である。……また、作為義務のある場合の不作為であっても、その作為義務の類型、内容との関連において、その不作為が内心の静穏な感情に対する介入として、社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価されない限り、不法行為の成立を認めることができない」と判示した。

これは、行政処分の発動を促したにもかかわらず、早期に処分がなされないことが「申請者の焦燥、不安の気持を抱かされないという利益」「内心の静穏な感情を害されない利益」の侵害として、不法行為が成立する旨明示したものである。

本件に即して言えば、原告らは、大飯原子力発電所の具体的危険性を示しているのであるから、行政庁はすみやかに規制権限を行使して原子炉を停止すべきであった(作為義務の存在)のに、これを行わないため、原告らの内心の静穏な感情を害しており、これが不法行為を構成するのである。

  ウ 判例の要件

判例は

 ①処分庁に作為義務が存在すること
 ②社会的に許容し得る態様、程度を超え、全体としてそれが法的利益を侵害した違法なものと評価

という2つの要件を提示している。

②は具体的には「一般に、処分庁が認定申請を相当期間内に処分すべきは当然であり、これにつき不当に長期間にわたって処分がされない場合には、早期の処分を期待していた申請者が不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害されるに至るであろうことは容易に予測できることであるから、処分庁には、こうした結果を回避すべき条理上の作為義務があるということができる。」として、「不当に長時間にわた」る処分の不行使が要件と判示されている。

  エ ②の要件が不要であること

ここで、水俣病事件は申請者の認定に関する不安定な地位が問題となった。

他方、原子力発電所に関する本件においては、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)と同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであるから、「不当に長時間に渡る」行政処分の不行使という要件は不要である。

 (6)本件における国賠の要件

以上より、本件で国賠が認められる要件としては、具体的危険の発生=行政庁の作為義務の発生に尽きるものである。

以下、これまで原告が主張してきた、大飯原子力発電所の具体的危険性について端的に整理する。


3 規制権限を行使すべき事象

 (1)地震

  ア 基準地震動を上回る地震動

基準地震動を上回る地震動が発生する危険性のあることは、以下のとおり、客観的かつ合理的な科学的知見に基づいて既に明らかである。

そもそも、過去基準地震動を上回る地震が各地の原発で繰り返し発生していることは当事者間に争いがなく、東日本大震災に関する国会事故調報告書でもそのことが指摘されている(原告準備書面216)。これに対して被告らは各原発の地盤特性を指摘し、本件原発には妥当しないと主張するのであるが、そのような地盤特性が事前にすべて詳らかになるものでないことは明らかであるし、ばらつきなども適切に考慮されていないのであるから、本件原発において基準地震動を上回る地震動が過去同様に発生する危険があるという点に対する的確な反論とはなり得ない。

そしてその後も科学的知見は集積を続けている。平成28年の熊本地震ではM7クラスの地震が連続して発生するという「今までの経験則から外れている地震」が発生し、動いた活断層は既知のものよりも8キロ程度長いものであった。事前に知れたる活断層の長さと実際の長さとは大きな乖離があることが、平成7年の兵庫県南部地震に続き、改めて明らかになり、島崎氏や纐纈教授が指摘するように活断層の長さを事前に明らかにすることが不可能であることが裏付けられた。また、島崎氏らの指摘により、基準地震動の算出に用いられる入倉・三宅の式に過小評価の危険のあることが明らかとなっていたが、熊本地震の観測データからもそのことが裏付けられている(原告準備書面23ほか)。

①震源特性、②伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)という重要な考慮要素のうち、①②については実際には適切に考慮しておらず、③についてもその存在が否定し得なくなっている。被告関電は、敷地の解放基盤としてVs=2.2km/sの堅固で一様な岩があると主張しているが、その具体的根拠は示されておらず、調査結果の隠蔽やデータ解釈の誤認あるいは恣意的な作為により地盤がモデル化されてしまっている。また、データからは地盤に低速度帯の存在が示唆されるが、根拠が示されておらず、調査も極めても不十分である。このようにモデルを使って恣意的に評価された基準地震動は過小評価である(原告準備書面353744)。

  イ 基準地震動以下の地震

基準地震動を上回る地震動が発生する可能性については上記のとおり科学的知見が集積しているのであるが、そもそも、基準地震動以下の地震動であっても重大事故が発生する可能性はもちろんあり、そのことについての科学的知見も存在している。東日本大震災では地震により全外部電源が喪失しているが、本件原発でも地震によりすべての送電線(耐震Cクラス)が損傷するなどして同様の事態に陥る危険性がある。同様に耐震Cクラスでしかない非常用取水設備が損傷した場合にも、原子炉の冷却機能が喪失して炉心損傷に至る恐れがある。イベントツリーに基づく事故対策は現実の過酷状況下では非現実的であり(原告準備書面10)、外部電源や非常用取水設備の損傷の場合も同様である(原告準備書面20)。

 (2)津波―詳細は第14準備書面参照

ア 大飯原子力発電所が津波に対して安全であるとする被告関西電力の主張は、新規制基準に基づき過去の津波の調査、地震やその他の要因による津波水位の算定等を行い、基準津波を策定し、当該基準津波に対して施設の安全性を確認したということを根拠とする。
そうすると、新規制基準自体に合理性がない場合はもちろん、過去の津波調査に誤りや不十分さがある場合、地震やその他の要因による津波水位の算定に誤りや不十分さがある場合、もしくは重畳津波の検討に誤りや不十分さがある場合、被告関西電力が策定した基準津波そのものが不合理であるということになるし、基準津波を超過する津波に対して安全裕度がない場合には安全上重要な設備が浸水する危険性があり、炉心損傷の具体的危険があると結論されることになる。

イ しかし、第1に被告関西電力は、必要な事項(活断層、古津波)について十分な検討をしていない。
第2に、「津波評価技術」に代表される現代の津波予測はせいぜい「倍半分」程度の精度しかない。ここで、関西電力の想定の1.5倍とすれば、押し波により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室が浸水することになる。引き波に至っては、すでに海水ポンプの取水可能域を下回る結果が出ている。被告関西電力は、被告関西電力準備書面(2)[12 MB]29頁にて、「貯水堰」の設置にて引波対策を行うとするが、「貯水堰」からの取水により冷却機能を保持できる時間は僅かに6分間であり(甲211-205)、十分な安全裕度がない。
第3に、福井県は、独自の試算により大飯原発3、4号炉の海水ポンプ室敷地付近の浸水を予測している。ここで、規制される関西電力が提示する予測結果よりも、福井県による予測結果のほうが中立的であることは言うまでもない。現に、関西電力は、不可解なことに、福井県が最も大きい影響を与えると判断した「若狭海丘列付近断層」を評価していなかった。

以上より、大飯原発は津波に対して脆弱であり、津波による炉心損傷の具体的危険性を有する。

 (3)水素爆轟規制―第9準備書面に詳述―

福島第1原発事故においては、福島第1原発の第1号機、第3号機、及び、第4号機のコンクリート建屋が水素爆発により破損した。原子力発電所の重大事故時に炉心の核燃料が高温化すると、燃料被覆管の材料成分であるジルコニウムが水と化学反応を起こし水素が発生する。加圧水型原発では格納容器内の雰囲気は空気であるために、仮にその水素が格納容器内に流出して雰囲気中の水素濃度が高まれば水素爆発を起こして格納容器が大規模破損する危険がある。

そこで、新規制基準は水素爆発防止のために、事故時の格納容器内水素濃度の規制を行い、「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」において、格納容器内の水素濃度最大値を13%以下にすることを定めた。他方、被告関西電力は、大飯原発3、4号機の水素濃度最大値約12.8%として設置変更許可を申請した。

しかし、関西電力の申請内容は、「実用発電用原子炉に係る炉心損傷防止対策及び格納容器破損防止対策の有効性評価に関する審査ガイド」で定めた溶融炉心・コンクリート相互作用(MCCI)による水素の発生を適切に考慮していない。これを審査ガイドに従って厳格な条件により解析すれば規制基準の13%を超える結果が生じる。
したがって、大飯原発3、4号機は、新規制基準の要件を充たさない。
本件訴訟の要件に置き換えれば重大事故時の格納容器水素爆発の具体的危険がある。

 (4)旧立地審査指針の離隔要件をみたさないこと―第7準備書面に詳述

原子力発電所は大量の放射性物質を内蔵している。従って放射性物質の放出から公衆の安全を守るため、原子炉施設の基本的な安全設計が問題となるだけでなく(深層防護の1~3層)、放射性物質が大量に放出される重大事故への対策(同第4層:過酷事故対策)及び放射性物質の影響を緩和するための周辺住民らの避難計画等(同第5層)が、それそ゛れ独立して確保されねばならない。これらに加え、原子力発電所の立地は、確実に放射性物質の放出から公衆の安全が守られるよう、人が居住していないか、あるいは人口密集地から離れ、周辺の人口密度が低いことを要請される。

上記を要件化したものが、いわゆる「原子炉立地審査指針及びその摘要に関する判断の目安について」(昭和39年5月27日原子力委員会決定以下「立地審査指針」という)である。

立地審査指針は、昭和39年5月27日以降、原子炉の設置審査において適用されてきたが、平成25年7月の新規制基準には、公衆の被曝量を基準とする立地審査指針は含まれず、審査指針として運用されない方針が採用された。すなわち、現在、公衆の被爆量を基準とする立地審査指針は、既設炉の審査基準とされていない。

しかし、原子力規制委員会が、新規制基準から立地審査を排斥したことには合理的な理由がない。そして、大飯原子力発電所における放射性物質の「拡散シミュレーション」によれば、むしろ、福島第一原発を参照した場合、大飯原発は旧立地審査指針をみたさないことが明らかになった。


4 結論

先の述べたとおり、原子力発電所は、一旦事故が起これば即時に近隣住民に甚大な被害を与える。そして、日本の法体系においては、原子力発電所の稼働に避難計画の策定は要件となっておらず、各自治体の避難計画は十分なものとは言い難い。

とすれば、当該原子力発電所における具体的危険の発生(=規制庁の作為義務の発生)が認識されると同時に、原告らは「不安感、焦燥感を抱かされ内心の静穏な感情を害される」に至るのであり、本件で国賠が認められる要件は、「具体的危険の発生」(=行政庁の作為義務の発生)に尽きるものである。

そして、本書面「3」で述べたとおり、大飯原子力発電所の具体的危険性は多数指摘できる。これらは、平成23年3月11日の福島第一原発事故後、旧規制基準の不備が明らかになり、また科学的知見の刷新されたことにより、認識されるに至ったものと言える。

したがって、遅くとも、本訴訟提起時には原告らに損害が発生していたものである。

以上

◆第20回口頭弁論 原告提出の書証

甲第440~446号証(第51準備書面関係)
甲第447~449号証(第52準備書面関係)
甲第450~462号証(第53準備書面関係)

※ 書証データ(PDFファイル)がないものは、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



★証拠説明書 甲第440~446号証(第51準備書面関係)
(2018年 月 日)

甲第440号証[961 KB]

甲第441号証[2 MB]

甲第442号証[3 MB]

甲第443号証[826 KB]

甲第444号証[454 KB]

甲第445号証[1 MB]

甲第446号証[222 KB]

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証拠説明書 甲第447~449号証[182 KB](第52準備書面関係)
(2018年6月5日)

甲第447号証[6 MB]
「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する『科学的特性マ ップ』を公表します」との文書、及び「科学的特性マップ公表用サイト」との文書(弁護士 岩佐英夫)

・甲第448号証
「原発再稼働? どうする 放射性廃棄物」と題する本(一般社団法人・京都自治体問題研究所)

・甲第449号証
「日本列島では原発も『地層処分』も不可能という地質学的根拠」と題する本(土居和己)

ページトップ

証拠説明書 甲第450~462号証[175 KB](第53準備書面関係)
(2018年6月1日)

甲第450号証[1 MB]
県内1605人に避難長期化 直接死上回る_東日本大震災(福島民報)

甲第451号証[308 KB]
東日本大震災における震災関連死の死者数(復興庁)

甲第452号証[91 KB]
毎日新聞 東京夕刊8頁(毎日新聞)

甲第453号証[2 MB]
福島第1原発10キロ圏内で10遺体発見(AFPBB NEWS)

甲第454号証[1 MB]
世界に問う事故の「無念」 浪江消防団描いたアニメ仏で上映_ふくしま便り(東京新聞)

甲第455号証[2 MB]
地震情報2011年3月11日(日本気象協会)

甲第456号証[231 KB]
気象庁震度階級関連解説表(気象庁)

甲第457号証[2 MB]
死期早める 高齢者施設せんだん(双葉)36人死亡 体調悪化、心労重なり(福島民報)

甲第458号証[1 MB]
双葉病院事件の真相 当事者医師、語る 医療維新の医療コラム(医師 杉山健志、橋本佳子(m3.com編集長))

甲第459号証[757 KB]
東京地裁判例平成28年8月10日(双葉病院 失踪事案)(東京地裁)

甲第460号証[270 KB]
東京地裁判例平成28年5月25日(双葉病院 避難中死亡事案)(東京地裁)

甲第461号証[842 KB]
避難で移動平均7回 復興庁、県内35人を分析 最多は16回(福島民報)

甲第462号証[951 KB]
南相馬の5高齢者施設入所者 避難後、死亡率2.7倍に(福島民報)

甲第463号証[1 MB]
死亡率震災前の2・4倍 特養施設などで増える(福島民報)

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◆原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

2018年(平成30年)5月28日

原告第53準備書面[586 KB]

目 次

第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

第3 避難過程での死者の発生
1 高齢者施設「せんだん」の例
2 双葉病院の例
3 全体的な状況

第4 まとめ



 第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

政府は、「震災関連死の死者」とは、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義している。福島県の主要な地方紙である福島民報では、丸括弧をつけて「原発事故関連死」という用語も併記している。

2013年12月の時点で、「震災関連死」の数は、福島県の1605名(202万9000人)に対し、宮城県878名(234万8000人)、岩手県428名(133万人)であった。かっこ内は平成22年度の国勢調査時点での各県の人口を示す。人口比で考えても、福島県の震災関連死の率が突出していることがわかる(甲450[1 MB])。

平成29年9月30日の段階では、岩手県464名、宮城県926名、福島県2202名で、2202名のうち1984名が65歳以上の高齢者であった。
震災とは別に福島第一原発の事故が起きた福島県だけ、震災関連死の伸びが続いているのであり、ここに原発事故関連死という名前をつける事情が現れている(甲451[308 KB])。

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 第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

避難地域では、2011年3月11日の地震発生直後から避難が始まり、行方不明者等の捜索が打ち切られている。それでも、津波で行方不明になった者については、捜索できないまま避難するしかなかった旨の報道がされている。これらの行方不明者の捜索が再開されたのは概ね4月14日以降である(甲452[91 KB])。多数の遺体が発見されている(甲453[2 MB])。

一方、なかなか表に出てくる事情ではないが、地震でがれきに埋もれた人々を救出できずに避難せざるを得なかった証言もある(甲454[1 MB])。引用した新聞記事にもあるが、この件は、後に物語化されている。

分団長だった高野仁久さん(54)は単身で捜索に行き、がれきの下から助けを求める声をいくつも聞いた。対策本部に戻り、「機材を持って救出に行こう」と提案するが、二次災害を恐れた町長らに止められる。この翌朝、約十キロ離れた原発が爆発し、全町避難となった。

東日本大震災の本震による原発事故の避難地域の震度は以下の通りである(甲455[2 MB])。

震度6強 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町
震度6弱 川俣町、田村市、広野町、川内村、飯舘村、南相馬市

一方、気象庁によると、震度6弱で倒れる建物が出始め、震度6強だと倒れるものが多くなる(甲456[231 KB])。1981年の「新耐震基準」施行前に建設された建物にその傾向が顕著である。

あまりに凄惨な事態であることから、証言が公表されるとは限らないが、上記の記事のように建物の下敷きになった者を見殺しにしての避難の暗数は相当あると予想される。

原発の過酷事故が大地震の際に起こるのであれば、避難を強いられる近隣の地域で、このような避難による見殺しが起きるのは必然である。

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 第3 避難過程での死者の発生

  1 高齢者施設「せんだん」の例(甲457[2 MB]

双葉町にある高齢者施設「せんだん」は、福島第一原発から3.5キロメートルの場所に位置しており、2011年3月12日に全員避難の指示が出た。

そこで、88人の入所者が5つのルートに分かれて避難した(下図参照)【図省略】。88人は、当初、受け入れ先が決まらず転々とした。疲労や心労、体育館や公共施設などの寒さ、不慣れな固く冷たい食べ物、薬の不足など急激な環境変化で持病を悪化させ、衰弱も進んだ。このため19日までに別の高齢者施設、病院、近親者宅に振り分けられた。

88人のうち67人が福島市、伊達市、会津美里町、栃木県の16施設に移ったが、このうち28人が、病気や体調を悪化させて死亡した。

8人は福島市、郡山市、二本松市、栃木県の病院に入院し、3人が死亡した。家族に引き取られた13人のうち5人も死亡した。

亡くなった36人(女性25人、男性11人)のうち、避難から約半年で亡くなったのは半数の18人。さらに昨年12月までに18人が死亡している。死因の多くは肺炎や老衰などだった。

避難計画がいかに整備されても、高齢者が過酷な状況での避難を強いられることに代わりはなく、その過程で多数の死亡者が発生するのは避けがたい。

  2 双葉病院の例(甲458[1 MB]

双葉病院は、福島第一原発から約4.5kmの場所にある350床の精神病院である。福島県の沿岸部の浜通り地域では最大規模の精神病院だ。当時の常勤医は7人。震災当時の入院患者は338人であり、その約4割は高齢者で、寝たきりの患者も多かった上、高カロリー輸液の患者が20人以上、経管栄養の患者も30人以上いた。また、同じ法人が運営する介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」(定員100人)が病院から約300mの場所にあり、一体的に運営していた。

双葉病院は、原発事故後、上記338人について、3月12日の第一陣、3月14日の第二陣(34人)、3月15日の第三陣(90人)の3回にわたり避難を余儀なくされた。
院内での死亡は、13日夜から14日未明までに3人、14日から15日に死亡したと推定されるのが1人であった。また、歩行可能な認知症の患者が1人行方不明になり、のちに失踪宣告されている。

一方、福島第一原発1号機のベント成功確認が3月12日の14時30分、同機の水素爆発が同日15時36分。同3号機の水蒸気爆発が3月14日11時01分、同2号機同4号機の水素爆発が3月15日6時14分。2号機の損傷は4号機と連動している可能性があり、同日午前11時25分には露内の圧力が低下していた。したがって、上記避難は、救出する側の関係機関、病院の職員、患者たちが濃厚に放射線に被曝しながらのものであった。 双葉病院の患者については、行方不明になった上記患者について訴訟になり判決が出されている(甲459[757 KB] 東京地判平成28年8月10日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、3月15日に外部から救助に来た者が病棟出口を開放した後、行方が分からなくなったものであり、保護責任者である病院側の民事責任は逃れられないとしても、人員確保すらできない状態で原発が爆発し、原発の爆発音がとどろき、放射性物質が大量に放出される極限状態のなかで、外部からもたらされた事情で、徘徊、行方不明に至ったものであり、防止はきわめて困難だったと思われる。

判決文によると、当該患者の行方不明が判明したのは避難が完了した後の3月末になってのことであり、同時に、他の入院患者1名の行方不明も判明し、この患者は、双葉病院内で遺体(前述の4名の遺体のうち一人と思われる)で発見された。

また、さらに、避難途中になくなった患者1名についても訴訟になり判決が出されている(甲460[270 KB] 東京地判平成28年5月25日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、第二陣の避難中、バス内で10時間にわたり水分補給も栄養補給もなかったため、脱水と栄養不足で死亡した。

  3 全体的な状況

復興庁は、震災後2年以内に死亡した福島第一原発事故の避難地域の高齢者35人について死因の調査を行った。それによると、避難の移動回数は平均7回で、中には16回という人もいた。一時帰宅の際に自治体の手続きで長時間待たされて体調を崩し、死に至ったケースもあった。死亡原因(複数回答)は7割超の25人が「避難所生活などによる肉体、精神的疲労」、約4割の13人が「避難所などへの移動に伴う疲労」、2割の7人が「病院の機能停止による初期治療の遅れなど」だった(甲461[842 KB])。

また、南相馬市が行った調査では、福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた南相馬市の5カ所の高齢者施設で、入所者の原発事故後約1年間の死亡率が、過去5年間の死亡率と比べて約2・7倍に上った。死亡率は大きな施設の方が高かった(甲462[951 KB])。

2013年3月に福島県がおこなった調査では、福島第一原発事故で避難を強いられた県内の特別養護老人ホームや介護老人保健施設など34高齢者施設の事故当時の入所者1766人のうち、1月1日現在で約30%の520人が死亡したことがわかった。震災後8ヶ月の死亡率は、震災前の2.4倍になった(甲463[1 MB])。

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 第4 まとめ

このように、震災直後、避難の過程、避難後の生活環境などにより、たくさんの人が死亡した結果、第1で述べた大量の震災関連死(原発事故関連死)が発生したのである。

机上の空論で避難計画をどのように整備しても、一度、原発に過酷事故が発生し、避難を強いられることになれば、たくさんの人々の命が奪われるのは、火を見るより明らかである。特に、原発が爆発し、放射性物質が大量に放出される中での避難は、戦場からの退避にも比肩すべきものであり、健常者であっても、一般的な訓練で馴致できるものではないだろう。

そして、我が国の新規制基準は、すでに過酷事故の発生を想定したものになっている。

結局、大飯原発が過酷事故を起こせば、直接的に大量の放射線被曝がなくても、それを避けるために、多数の人が亡くなるのは必然なのである。多数の人の生存権と比較できる原発の利益など観念し得ないし、百歩譲って仮にするとしても、すでに経済合理性すら失われていることはすでに述べた。

大飯原発は運転を差し止めして、廃炉にするほかないのである。

以上

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◆原告第52準備書面
第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

一、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分に関する日本政府の処理計画
二、地震列島日本における地層処分の非現実性
三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻
四、日本学術会議の警告


第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

 一、「高レベル放射性廃棄物」に関する日本政府の処理計画

1、いわゆる「核のゴミ」には「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」とがあるが、「高レベル放射性廃棄物」についての日本政府の処理計画は、ガラス固化体にしたうえで深さ300m以上の深さの岩盤の中に埋めるとしている。

2、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する関係閣僚会議の確認を経て、2017年7月28日、原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、国土の約65%が「好ましい」とする「科学的特性マップ」(甲447[6 MB])を公表し、今後、マップを活用した説明会を全国各地で行い、処分場立地に向けた調査を複数の自治体に申し入れたいとしている。

3、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を2002年から公募してきたが、住民の反対が強く、未だ、受け入れた自治体はない。このため安倍政権は、「科学的有望地」を示して自治体に「申し入れる」など「国が前面にたって取り組む」ことを、「エネルギー基本計画」(2014年)と「最終処分基本方針」(15年)で決定した。その具体化の第一歩が、「科学的有望地」を示す「科学的特性マップ」である。

4、しかしながら、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関しては、以下に述べる通り、多くの問題を抱えており、全く見通しがたっていない(甲449土井和己著「日本列島では原発の『地層処分』も不可能という地質学的根拠」合同出版2014年10月10日第1刷 頁。以下、同著を引用する場合、単に「土井」という)。

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 二、地震列島日本における地層処分の非現実性

  1、先ず前提問題として確認しておかなければならいことは、甲449「土井」4頁表①が示すように、核ゴミに含まれる核分裂生成物には、半減期が例えばジルコニウム242は150万年、プルトニウムは37万年というように、極めて長期に及ぶものがある。高レベル放射性廃棄物については、少なくとも、人体に影響がないレベルまで低下するまでに10万年も要するという現実がある。この隔離管理期間は、原子力開発が始まった当初は約1万年とされていたが、放射線の人に与える影響に不明な点が多いことなどから、近年では安全側の考えをとって10万年とする関係者が多い(甲449「土井」5頁)。

  2、「10万年単位で保存」の意味

しかしながら、「10万年単位で保存」というが、逆に、10万年前はネアンデルタール人が活躍した時代であったことを想起すれば、「10万年単位の保存」が、想像を絶する長期の保存であるということを容易に理解できるであろう。

10万年後の日本がどうなっているかは、地震・火山活動を考えるだけでも想像もつかないのである。地震がいつどこで発生するか予知することは不可能ということが地震学の現在の到達点である。また地震とも関連が深い火山噴火の予知も事実上不可能であることは、2018年の草津白根山の連続した噴火でも明らかである(同火山の今回の噴火場所は、当初噴火の時は監視対象外であった)。

いまから10万年後に世界一の地震多発列島の日本列島がどうなっているか、人類が存在しているか否かについてさえ、誰も確実なことを言えないのである。日本で記録されているマグニュチュード(M)8(ないし、M8と推定されている)の巨大地震の実情は甲 「土井」71頁の表⑥の通りである(表⑥は、M8以上と推測されている地震を取り上げているため、M7.9と推定されている1923年9月1日の関東大震災すら含んでいない)。

  3、処分場立地の条件

(1)「化学的特性マップ」は、地層処分場の立地は、「地質環境の長期安定性を確保できる場所を選定できる」という前提にたっている。

同特性マップが、火山・活断層の近傍や石油・石炭など鉱物資源がある地域を、地下深部の長期安定性や将来の掘削可能性という観点から「好ましくない」としているのもそのためである。

(2)地層処分のために、「高レベル放射性廃棄物」は放射能の漏洩を防ぐために、ガラス固化体にしてオーバーパックや緩衝剤(これを「人口バリア」と呼んでいる。)に包まれて埋設される計画になっている。しかしながら、「人工バリア」は、地下水の中では腐食し放射能が漏れだすおそれがある。

(3)従って、「地下水の中では腐食し放射能が漏れだす」を前提にしたうえで、「天然バリア」として地下深く埋設するのが地層処分である。仮に地下水が出ても地表に到達するのを遅らせるという考え方に基づいて地層処分は計画されている。

(4)従って、地下水が流れやすい断層が近くにあってはならず、火山が近くにあってもダメである。鉱山など将来、地下深部を採掘することが予想される場所は論外である。地層の隆起・浸食が大きい所や地温が高い所も避けなければならない。

(5)従って、地層処分が安全であると言えるためには、地層処分のためのトンネルが掘られる対象岩石の安定性と、その地層処分の穴に地下水を近づけないこととが、必要条件である。

  4、日本の地質的特徴は、上記の必要条件を満たさない

(1)先ず第1に、本訴訟でも繰り返し指摘したように、日本列島は世界の地震発生の約1割が集中する世界1の地震多発列島であり、「地質環境の長期安定性の確保」など不可能である。

(2)世界的レベルで比較しても、日本は年間降水量が多い(甲449「土井」86頁「表⑧」)。しかも、(3)で述べるような日本の地質的条件もあり、深いところでも地下水が多い。

(3)日本の地質は「新生代」の岩石が多く、硬堅さにおいても、透水性においても、中生代や古生代の岩石に比べて劣るのである(甲449「土井」80頁「表⑦」及び地質年代表を参照されたい)。

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 三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻

1、欧米でも地層処分が想定されているが、ユーラシア大陸と日本とでは地層の安定性が大きく異なる。

2、しかしながら、その欧州でも、ドイツは地下の岩塩層のトンネルで保存なら安全と想定していたが、実際には、塩水びたしになってしまい、見通しが立っていない。

3、フィンランドでは巨大な岩の塊からできた島に掘った穴に核のゴミを保存する計画を立てたが、実際には岩にひび割れがあって、水が地上にあがってくること、即ち、放射能が地上に放出される危険性があることが判明している。


 四、日本学術会議の警告

日本学術会議は、地層処分について「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対して、現在の科学的知識と技術的能力では限界があることを明確に自覚する必要がある」と2012年9月に警告している。この警告を真摯(しんし)に受け止めるべきである。

以上

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◆原告第52準備書面
第3 破綻した「核燃料サイクル」について

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第3 破綻した「核燃料サイクル」について

はじめに
一、「核燃料サイクル」の仕組み
二、再処理工場の危険性
三、再処理工場は、操業開始の目途がたたず
四、再処理工場で大量放出される放射性物質
五、「再処理」で放射性廃棄物は逆に増える
六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
七、危険なプルサーマル計画


第3 破綻した「核燃料サイクル」について

 はじめに

「核燃料サイクル」の本質は、危険性に満ちており、且つ放射性物質の再生産に過ぎないという点である(甲448「研究所」20頁)。

 一、「核燃料サイクル」の仕組み

1、「核燃料サイクル」とは、天然ウランをほとんど産出しない日本において核燃料の「安定供給」のために、使用済み核燃料の再利用をめざす原子力政策である。

2、「核燃料サイクル」の仕組(甲448「研究所」20頁)
原発の燃料中に含まれるウラン238が中性子を取り込んで、自然界には存在しないプルトニウムが生成される。「核燃料サイクル」は、このプルトニウムを大量に生産し核燃料として使用する仕組みである。しかしながらプルトニウムは、先述のように(「第1、3項」)、最も恐ろしい放射性物質のひとつである。

「核燃料サイクル」をわかりやすく図示すると、下記「図1」(甲448「研究所」20頁)の通りである【図省略】。

「図1」の左側が「軽水炉サイクル」であり、いわゆる「プルサーマル」である。

「図1」の右側は、高速増殖炉「もんじゅ」が破綻したにもかかわらず、国がなお将来めざそうとしている「高速増殖炉サイクル」である。

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 二、「再処理工場」の危険性(甲448「研究所」26頁~)

1、再処理工場では、使用済み核燃料を化学的に処理する。また、前提として念頭におかなければならないことは、核燃料は使用済みであっても核分裂物質であり、危険な放射性物質であるという点である。

2、こうした危険な使用済み核燃料を原料として化学処理する「再処理工場」は、次のような三重の事故を起こす危険性があり、危険きわまりない施設である。即ち、

(1)、核施設として臨界(核分裂連鎖反応)事故を起こす危険性
(2)、放射性物質を漏洩し被爆事故を起こす危険性
(3)、化学工場としての性質上、火災・爆発事故などを起こす危険性
である。

3、再処理工場の工程では、次々と危険な物質が生産される(甲448「研究所」27頁 図2参照)【図省略】

(1)「使用済み核燃料」の再処理は、次のような過程を経る。
1)、使用済み核燃料棒を剪断して高温の硝酸で溶かし、ウランやプルトニウム等さまざまな核分裂生成物(「死の灰」)の混ざった溶液ができる。この工程では、使用済み核燃料棒の鞘のジルコニウム合金の火災や溶液過熱の危険があり、臨界事故の危険もある。

2)、上記1)の溶液に有機溶媒を加えて、ウランとプルトニウムを死の灰から分離して抽出する。この工程では、硝酸と有機溶媒が混ざることで極めて爆発性の高い化学物質が生じる。これは摂氏130度を超えると爆発し、アメリカやロシアでは、そうした事故が発生している。水素爆発・臨界事故の危険もあり、放射性物質が漏れる危険も高くなる。
「死の灰」は濃縮され、ステンレス容器にいれてガラスと混ぜて固められて「ガラス固化体」となる。「ガラス固化体」は、人が近づくと即死するほど強力な放射線と熱を出す危険なものである。

3)、ウラン溶液から硝酸成分を抜く「脱硝」工程を経て、酸化ウランの粉末にする。

4)、一方、プルトニウム溶液は、ウラン溶液と1対1の割合で混ぜてから加熱して脱硝し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)の粉末にする。この工程では、過熱事故や、超危険なプルトニウムが漏れる危険がある。

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 三、「再処理工場」は、操業開始の目途がたたず

  1、「東海再処理施設」

研究開発用に日本原子力開発機構が茨城県東海村に建設した「東海再処理施設」は1981年操業開始したが、度重なる事故・トラブルを起こした。1997年に低レベル廃棄物のアスファルト固化施設の火災・爆発で3年間運転休止した。2006年3月にその事故処理を終えたが、2014年9月に事実上の廃止となった(甲448「研究所」26頁左側)。

  2、「六ヶ所村再処理工場」の実情

(1)、他方、商業用としての青森県「六ヶ所村再処理工場」は、日本原燃株式会社が、1993年から建設に着手した。しかしながら、同工場は、再処理後の高レベル放射性廃棄物をガラス固化する工程の深刻な不具合をはじめ、遠心分離機の故障など度重なる技術的困難に直面し、いまだに本格稼働にいたっていない。これまで操業開始を22回も延期し、2014年10月に完成時期を2016年3月に遅らせた(2「研究所」26頁)。さらに、2018年に入って、再び完成時期は延期された。こうして「六ヶ所村再処理工場」は、これまで「試運転」程度に少し動いただけで、本格稼働は全くしていない。

(2)同再処理工場の建設費については、当初は1997年完成予定で7600億円と見込まれていた。しかしながら(1)で述べたように、完成時期は22回にわたり延期され、それに伴い建設費は2兆1900億円に膨らんでいる。さらに、福島原発事故後の新規制基準への対応のために、3兆円を超える可能性も指摘されている(2018年4月 日弁連シンポジウム「核燃料サイクル問題を考える」)

(3)、仮に同「再処理工場」が完成したとしても、その再処理の過程には、多くの問題が存在することは、上記で述べた通りである。

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 四、再処理工場で大量放出される放射性物質
(「第3、二、3」に掲記した甲448「研究所」27頁本文及び図2を参照)

  1、気体状放射性物質を大気中に放出

「使用済み核燃料棒」を、さや(被覆管)ごとぶつ切りにする時、原子炉内の核分裂で発生し被覆管に閉じ込められていたクリプトン、トリチウム、ヨウ素、炭素などの気体状放射性物質が、六ヶ所再処理工場の場合は高さ150mの巨大な排気塔から全て大気中に放出される。トリチウムの場合、原発の放出量の180倍も放出する。

  2、放射性物質の混じった廃液を海中に投棄

各工程の廃液には、トリチウム、ヨウ素、コバルト、ストロンチウム、セシウム、そして回収できなかったプルトニウムなど、あらゆる種類の放射性物質が混じっている。この廃液が、六ヶ所村再処理工場の沖合3km・深さ44mの海洋放出菅口から海に捨てられるのである。

 五、「再処理」で放射性廃棄物は「減る」のではなく、逆に増える

1、「ガラス固化体」にすれば、外見上「かさ」は小さくなるが、同時に膨大な量の低レベル放射性廃棄物が発生する。六ヶ所村の再処理工場では、原子炉での使用済み核燃料に比べて約7倍の廃棄物の発生が見込まれている。上記四の空と海への日常的な垂れ流しも含めると、もともとの使用済み核燃料に比べて約200倍もの廃棄物を生み出すと指摘されている(甲448「研究所」27頁右側)。

2、このように、再処理を行った場合、新たに膨大な放射性廃棄物を生み出すのである。また既に述べたように再処理過程において大事故を起こす危険が高く、ひとたび大事故が起きれば、放射性物質の被害は日本全体に及ぶ危険性がある。

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 六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
(甲448「研究所」28~29頁)

1、高速増殖炉計画については、欧米各国で深刻な事故が相次いだ。1987年にイギリスで蒸気発生器のナトリウム中を通る細管が40本も破断して大爆発を起こした。フランスの「スーパーフェニックス」もナトリウム漏れ事故を繰り返し、1998年に廃止された。危険性の高さと費用の莫大さから、欧米各国は高速増殖炉の開発を断念している。

2、日本では1985年に福井県敦賀市に実用二段階前の「もんじゅ」が作られた。しかしながら、「もんじゅ」も運転開始後すぐに約640kgという大量のナトリウム漏れを起こし、事故隠ぺいまで行い不信を拡大した。2010年5月にようやく再開したが3カ月後に長さ約12m・重さ約3.3トンの炉内中継装置を原子炉容器内に落下させる前代未聞の事故を起こし、再び停止した。20年経過しても220日しか稼働実績がない。「もんじゅ」を扱う「日本原子力研究開発機構」の安全軽視も改善されず、2012年11月に1万件を超える機器の点検漏れが発覚し、2013年5月、原子力規制委員会が運転停止命令を出した。

3、また、「もんじゅ」運転停止中も、維持費に1日に国費5500万円も食い潰しており、膨大な無駄遣いである。

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 七、危険なプルサーマル計画(甲448「研究所」20頁~)

  1、プルサーマル運転とは

ウランとプルトニウムとを混ぜた燃料(MOX燃料)を軽水炉原子炉で燃料として利用する仕組みである(前記8頁「第3、一、2」の「図1」参照)。

MOX燃料は本来、「高速増殖炉」で使用する予定であったが、高速増殖炉「もんじゅ」のトラブル続きで行き詰まり、MOX燃料が使えない状態が長年続き、放置するとプルトニウムが溜まり続け、国際社会から核兵器への転用の疑惑を招くことになる。これを回避するために、その場しのぎで始めたのが“プルサーマル計画”である。

  2、プルサーマル計画の危険性(甲448「研究所」15頁 右側)

(1)、燃料が均一でなく、燃え方のムラが起こり、高温のホットスポットができ、燃料棒が破損しやすくなる。

(2)、プルトニウムはウラン235よりも核分裂を起こしやすく、制御棒の効果が低下する。

(3)、高い燃焼度で出力変化も急激になり、冷却機能の悪化も起きやすく、不安定で暴走の危険が高まる。

(4)、プルトニウムによりアルファ線放出が多くなり、燃料棒内で生じる気体が増える(アルファ線がヘリウムに変化)。その結果、燃料棒内の圧力が高まり、燃料棒破損やピンホールなどで、放射性物質が冷却水に漏れる危険が増大する。

(5)、MOX燃料は、ウラン燃料より融点が数十度低下し、且つ燃料棒内の被覆管と燃料との間にたまる気体のために、熱伝導率が低下し燃料溶融を防止する制御の余裕が減少してしまう。即ち、暴走の危険性が高まる。

(6)、「MOX燃料として再利用」といっても、結局、最終的には、前述のように危険な「核ゴミ」を増加させるだけである。

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◆原告第52準備書面
第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール

一、満杯になりつつある燃料プール
二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について
三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について


第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール
(甲448「研究所」22頁 図1)


 一、満杯になりつつある燃料プール

1、2014年3月末現在、全国の原発が保管する使用済み核燃料の合計は14,330トンU(金属ウランに換算した場合の重さ)達し、これに六ヶ所村再処理工場の保管分を加えると約17,000トンUになり、使用済み核燃料の貯蔵プールの余裕がなくなりつつある。

2、各原発の使用済み核燃料の貯蔵量と、あと何年で各貯蔵プールが満杯になるかを経産省資料に基づきグラフにしたのが下記の図1(甲448 「研究所」22頁)である【図省略】。この図1は、経産省資料に基づいており一律に16ヶ月ごとに燃料交換をする前提で残り満杯になるまでの年数を計算している。但し、各原発の核燃料交換の現実の交換実績は16ヶ月より短い。従って、それに基づいて計算した東京新聞資料では、経産省資料に基づく残り年数より短くなっている。

3、甲448「研究所」23頁で指摘しているように、使用済み核燃料の貯蔵プールが満杯に近づきつつある大きな要因は、再処理工場の操業の目途が立っていないことである。
即ち、政府の計画では、使用済み核燃料を、貯蔵プールで3~5年間冷却をした後に「再処理工場」に送るはずであった。

ところが、青森県六ヶ所再処理工場はトラブル続きで、いまだに本格稼働ができていない。そのため、同再処理工場の使用済み核燃料プール(貯蔵能力は3000トンU)では既に2951トンUも貯蔵されており、もう受け入れる余地がほとんどなくなってきている。そのため、各地の原発の使用済み核燃料がどんどん溜まってきてしまったのである。

4、こうした「核ゴミ」については、当然のことながら、発生させた電力会社や国の責任において最後まで管理する責任がある。

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 二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について

1、国や電事連は、貯蔵プールが満杯になりつつあることに対する当座しのぎの対策として、「リラッキング」で、当初予定の容量より詰め込んで満杯になるのを先延ばしにしようとしている。

2、本来、使用済み核燃料棒を貯蔵プールに保存する場合は、臨界状態(核分裂連鎖反応)になるのを防止するために必要な一定の間隔をおいた格子状の桝目の中に挿入する。

ところが、「リラッキング」とは、貯蔵プールの貯蔵可能量を増やすために、桝目の間隔を縮小することで、貯蔵可能量を増大させることである。

3、しかしながら、「リラッキング」は、使用済み核燃料棒の相互間隔を縮小することであり、使用済み核燃料が臨界状態になる危険性が増大する(甲448「研究所」23頁)。まさに、姑息な当座しのぎの危険な対策に過ぎないと言わざるを得ない。

4、各電力会社は、貯蔵プールの「リラッキング」でも追いつかないため、次の対策として「リサイクル燃料備蓄センター」(「使用済み燃料中間貯蔵施設」とも呼ばれている)構想を練っている。被告関電は候補地として、京都府宮津市の粟田半島の「宮津エネルギー研究所」、又は京都府舞鶴市の大浦半島を検討中のようであるが、地元の反対も予想され、具体化はしていない。

上記の「宮津エネルギー研究所」は、もともと、関電が以前、京都府久美浜町に計画した原発計画が地元をはじめ京都府民の大きな反対で挫折し、最終的に宮津市に火力発電所として建設した施設である。同施設は現在、「長期計画停止中」(=事実上の廃止)である。

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 三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について

1、たしかに、使用済み核燃料を水冷式の貯蔵プールで数年間保存すれば発熱量が下がり、空冷による保管が可能になる。

2、しかしながら、先ず注意を喚起したい点は、「空冷式」で保管できるといっても、「使用済み核燃料貯蔵プール」が空になるわけでは決してないという点である。
貯蔵プールに保管中の「使用済み核燃料」の一部を取り出して「空冷式」保管に移したとしても、原発が運転を継続している限り、16ヶ月毎(現実には、もっと短い間隔で)核燃料の交換が行われ、「使用済み核燃料貯蔵プール」自体は満杯に近い状態が続くのであり、決して「満杯状態」が解消されるわけではないのである。

3、しかも「空冷式」での保管は、少なくとも30年ないし50年間という長期にわたり「中間貯蔵施設」に貯蔵し、さらに、最終的には「再処理」することが大前提である。この中間貯蔵をするために使用済み核燃料を詰め込む「キャスク」自体の安全性についても、4項末尾で指摘するような危険がある。

そもそも、「第3、三」で後述するように、中間貯蔵後の「再処理工場」の完成は全く目途すら立っていない。

4、青森県むつ市に、東京電力及び日本原電の共同出資で、国内初の「使用済み核燃料中間貯蔵施設」である「リサイクル燃料備蓄センター」を建設し、2016年10月操業を予定していた(甲448「研究所」24頁)。

他方、同「中間貯蔵施設」の「基本的安全機能の保障」は50年とされている(甲448「研究所」25頁下段右)。「中間貯蔵施設」での貯蔵が終了後は、「再処理施設」に送って再処理することになる。しかしながら、その「再処理施設」の耐用年数は30年に過ぎず、50年後には「再処理施設」の耐用年数を超過してしまっている。

この対策として、第二再処理工場建設を模索している。しかしながら第二再処理工場建設については、検討の目途さえ立っていない(甲448「研究所」25頁下段左)。再処理の目途が立たなくなれば、「中間貯蔵施設」での「一時的保管」が、事実上「永久保管」にならざるを得ない。

「キャスク」は50年以上も経過すれば劣化し放射性物質が漏れたり、あるいは臨界に達する危険もある。

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◆原告第52準備書面
はじめに 第1 使用済み核燃料自体の危険性

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

はじめに
第1 使用済み核燃料自体の危険性



はじめに:本準備書面の簡潔なまとめ

1、先ず、「第1」で述べるように、「使用済み核燃料」自体が極めて危険な放射性物質であることを認識することが重要である。

2、「使用済み核燃料」を「再処理」する過程において、「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」が生成される。仮に現時点で、即時原発運転をゼロにしたとしても、既に存在する放射性廃棄物、とりわけ高レベル放射性廃棄物の安全な処理の目途は全くたっていない。

3、国や電気事業連合会(以下「電事連」という)が、核燃料の「安定供給」のためとして推進してきた「核燃料サイクル」(使用済み核燃料の再利用をめざす原子力政策)は、破綻している。国や電事連が核燃料サイクルの要として位置付けていた高速増殖炉計画は破綻し、同サイクルに不可欠な再処理工場も「★第3」で述べるように、問題山積で操業の目途が立っていない。

4、それなのに、原発の再稼働・新増設をさらに進めることは、処理の見通しすら全く立っていない核のゴミを、今後もさらに増やし続けることになる。これは、「放射性核のゴミ」という危険かつ重い負担のさらなる増大を、将来世代に押し付けることにほかならない。

5、解決の見通しすら立たない危険な核ゴミをこれ以上増やし続ける原発再稼働・新増設は直ちに中止すべきである。原発稼働ゼロのときでさえ、国民の節電努力で電力不足は発生しなかった。ましてや、日本の自然再生エネルギーの潜在資源の豊かさは環境省も認めていることは、原告第13準備書面でも既に指摘した通りである。

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第1 使用済み核燃料自体の危険性

(甲448「原発再稼働?どうする 放射性廃棄物―新規制基準の検証―」《以下、同書を引用する場合「研究所」という》21頁上段)

1、原発の危険性の根源は、いうまでもなく放射能をもった核燃料を使用する点にある。しかしながら実は、「使用済み核燃料」自体も極めて危険であることに、まず注意する必要がある。

2、即ち、原発稼働中の核分裂反応により生成するヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90等の「核分裂生成物」も極めて危険な放射性物質である。これらの「核分裂生成物」の放射能は、原発運転のもともとの燃料である濃縮ウランよりはるかに強く、生命に危険なので「死の灰」と呼ばれている。

3、また、原発運転の過程では、上記の「核分裂生成物」とは別に、ウラン燃料に混在している核分裂しにくい「ウラン238」が中性子を取り込んでプルトニウムに変化する。プルトニウムは最も恐ろしい放射性物質のひとつであり、わずか100万分の1グラムの微粒子を肺に吸い込めば、ほぼ間違いなしに肺がんになるといわれるほどである。また同様の過程でアメリシウムやキュウリウムなどの超ウラン元素も生成されるが、プルトニウムと同様に、これらも恐ろしい放射性物質である。

4、こうして原子炉で1年間核分裂反応を続けた後の使用済み核燃料の放射能の強さは、使用前のウラン燃料の約1億倍にもなるのである。

5、使用済み核燃料貯蔵プールの脆弱性・危険性

1)上記のように、もともと危険な「使用済み核燃料」を貯蔵しているのが、「使用済み核燃料貯蔵プール」である。

2)原子炉本体は、放射性物質を厳重に隔離するために、「原子炉建屋」の中に「格納容器」と「圧力容器」の二重構造になっている。それでも、福島のような重大事故が発生した。

3)しかしながら「使用済み核燃料貯蔵プール」は、原子炉のような隔離壁は一切なく、むき出しのままの水の中に使用済み核燃料棒を貯蔵して水冷しているに過ぎない。もし巨大地震や津波が「使用済み核燃料貯蔵プール」を直撃した場合には、原子炉以上に重大事故につながる危険性は容易に推認可能である。

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◆原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-
目次

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

第52準備書面[788 KB]

目 次

はじめに:本準備書面の簡潔なまとめ

第1 使用済み核燃料自体の危険性

第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール
一、満杯になりつつある燃料プール
二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について
三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について

第3 破綻した「核燃料サイクル」について
はじめに
一、「核燃料サイクル」の仕組み
二、再処理工場の危険性
三、再処理工場は、操業開始の目途がたたず
四、再処理工場で大量放出される放射性物質
五、「再処理」で放射性廃棄物は逆に増える
六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
七、危険なプルサーマル計画

第4 「高レベル放射性廃棄物」のに関する『科学的特性マップ』の批判
一、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分に関する日本政府の処理計画
二、地震列島日本における地層処分の非現実性
三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻
四、日本学術会議の警告

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◆原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

2018年(平成30年)6月8日

原告第51準備書面[411 KB]

【目次】

1 はじめに
2 スリーマイル島の原発事故の後処理
3 日本原電東海発電所の廃炉作業
4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)
5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)



1 はじめに

 (1) 原告らは、平成25年5月25日付第12準備書面の中で、福島第1原発の廃炉の困難性について大雑把な素描をした。原発問題を取り上げるとき、廃炉の危険性,困難性への言及は避けて通れないからであるが、素描にとどまったのは、福島事故後2年くらいしか経っていない段階で、廃炉の見通しについてあれこれ論評し、短絡的に結論を出すのは相当でないと思料したからである。

それから5年。はたして福島第1原発の廃炉作業は進捗したであろうか。結論的に言えば、毎日5000人ないし6000人の人たちが懸命に作業をしているにもかかわらず、廃炉ロードマップに示された作業は遅々として進んでいないと言うのが現実の姿である。
確かに4号機の核燃料の取り出し、移転など廃炉に必要な作業工程を終了させた一部の進捗面があるものの、廃炉全体を通じていえば、いろいろ困難な壁が次から次へといくつも出てきて、暗闇の中を手探りで進むような作業となっている。

 (2) 廃炉の危険性、困難性

廃炉は、高濃度の放射能に汚染された原子力発電所の原子炉、格納容器及び建屋その他のガレキなどをきれいに撤去し、その区域を放射能のない安全な場所によみがえらせることにある。どんな原発でも、停止・閉鎖には廃炉作業が不可欠なのである。

しかし、一般的に言えば、廃炉は、まず高濃度の放射線に汚染されている核燃料棒を安全に取り出し、保管する必要があり、次にやはり高濃度に汚染されている建屋や原子炉の解体がそれに続く。放射線の飛散や吸引を無視するわけにはいかないから、廃炉は慎重の上にも慎重な作業が求められ、困難を極めざるをえない。

次に、解体が終了したとき新たな問題が発生する。ほかでもなく解体された建屋・原子炉の廃棄物の最終処分場の問題である。わが国には,「トイレなきマンション」を建てたのと同じだと峻烈な批判がなされているように,使用済み燃料棒や放射線物質に汚染された廃棄物の最終処分場がつくられていない。どこで、どういう方法で保存し、どう最終的に処分するのか。それが現実に決まらなければ,廃炉すらできないのであるが、我が国にはそれがない。それにもかかわらずどんどん原発をつくり、稼働して核燃料やゴミを大量に排出している。これをどうするのかが大問題なのである。

要するに,原発という魔物をいったん生誕させたら,これを死なすことも自由にできなくなってしまうのである。

次項にこうした廃炉作業の困難性と悪戦苦闘ぶりを、福島第1原発事故に先行したアメリカ・スリーマイル島の原発事故と日本原子力発電(株)の東海発電所の廃炉作業を取り上げて具体的に述べることとする。

その前チェルノブイリで取られた石棺方式について述べておく。

 (3) 石棺方式の否定

石棺方式とは、原発爆発により一部破損した建屋、原子炉その他関連施設全体を大きなコンクリートかステンレスですっぽり覆ってしまって、放射性物質を100年程度はそのまま閉じ込めてしまうやり方がある。チェルノブイリ原発ではこの方法を採った。つい最近(2018年)コンクリート製の覆いの消耗が激しくなってきたので、ステンレス制の大型屋根と交換された。これは放射線を除去して被災地をよみがえらせる作業ではなく、一定期間密閉して放射線の自然減衰を待つと言うものである。密閉していると言っても、放射線汚染地という評価は100年なら100年は続くであろうから、暫定的な封じ込めであって問題の根本的な解決にはならない。従って福島県や地元自治体も住民も石棺方法には猛反対である。廃炉を進める東電及び国も現実の廃炉を目指している。

 (4) 廃炉のためにしなければならないことは、福島第一原発の状況から見て大きく分けて3つあると言われている。

1つは、汚染水対策。

2つめは燃料(デブリ)の取り出し。

そして3つめが解体・片付け(廃止措置)である。いずれも高濃度の放射性物質によって汚染されているから、作業は困難を極める。

以下に、福島第一原発ではこの3つの課題がどのように進んでいるか、進んでないとしたら、その原因がどこにあるのか、そしてその解決のためには何が必要になって来ているかを明らかにしていく。

 (4) 原告らの思い

念のために断っておきたいのは、原告らは福島第1原発の速やかな廃炉を期待し、強く望んでいる。それなくしては、福島県住民の安全と健康を確保できないから、帰還はもとより不可能であり、従って被災地の復興も復旧も半永久的にありえないからである。だが、ひとたび事故を起こした福島第一原発の廃炉過程がいかに危険極まりない困難な作業であるかを事実に即してリアルに記述していくことは、原発の安全性神話から人々を覚醒させ、原発停止の必要性を理解する上で是非とも必要なことであると思料する。

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2 スリーマイル島の原発事故の後処理

 (1) スリーマイル島=TMI(Three Mile Island)の原発事故は、デジタル大辞泉によると、「1979年3月28日、米国のペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所2号機で発生した大規模な原子炉事故。営業運転中に発生した給水ポンプの故障を発端とし、運転員が非常用炉心冷却装置(ECCS)を手動で停止するなどの誤操作が重なって、冷却材喪失事故に発展し、炉心溶融を起こした。放射性物質の一部が環境に放出され、近隣住民が避難したが、被曝線量は平均0.01ミリシーベルト、最大でも1ミリシーベルトで、放射線障害は起きていないとされる。原発事故の度合いを示す国際原子力事象評価尺度でレベル5に分類される」と説明されている。

 (2) スリーマイル島原発事故は、全世界に衝撃を与えたが、それから32年後の2011年に起きた福島第1原発に比べると、爆発の規模ははるかに小さかった。外部に放出された放射線量も長期の避難住民が出なかったほどにすくなかった。

2号機の廃炉は、1979年に決定された。スリーマイル島原発では、事故の規模も小さく、燃料棒の冠水もすぐさま回復されたので、原子炉の中にデブリは出来ていないだろうと推測されたが、案に相違して100トンのデブリが存在していた。

デブリについて第12準備書面で述べた説明は部分的であり、不正確であったので、ここで改めて述べておく。デブリ、あるいは燃料デブリとは、原子炉の事故によって溶け落ちた核燃料が原子炉のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものである。スリーマイル島原発ではその硬さは鉄の棒をも全く寄せ付けなかったと言われている。

スリーマイル島原発事故では、原子炉の真上に作業台を設置し、そこに特殊ドリル(デブリを掘削し、取り出す)操作用機械を設置した。そこから水中に特殊ドリルを入れて掘削・取り出し作業を行った。しかし水の中は、大量の微生物が発生していて視界がさえぎられ、作業は困難を極めたといわれている。

核燃料すなわちデブリの取り出しを開始したのが、事故後6年目からであったが、完了したのがそれからさらに5年後の1990年であった。

この燃料棒取り出し作業を指揮したウイリアム・オースチン氏は、NHKスペシャル番組「廃炉への道」(2014年)の取材を受けて、「スリーマイル島の場合のデブリは原子炉の中に存在したが、フクシマの場合は圧力容器の底をすり抜け、格納器の底に落ちている。しかも原子炉上部から水中30メートルの距離である。そんな深さに真上から水の中に工具を入れてデブリを取り出すことは非常に困難である」。「私たちと比較にならならないほどの困難です。日本に立ちはだかる困難さは想像出来ないほどです」と語っている。「困難さを想像できない」とは、殆ど不可能だと言っているのに均しい。

 (3) 2号機の原子炉内のデブリ取り出しは終了したが、直ちに廃炉手続きに入るのではなくて、1号機の廃炉を待って同時に廃炉する計画で待機となった。だが、所有会社の経営困難により1号機も2号機も予定より早く廃炉に入ることにしたとのことである。

3 日本原電東海発電所の廃炉作業

 (1) 日本原子力発電株式会社(以下、日本原電と略称する)東海発電所は、第12準備書面で紹介したように、日本で初めての商業用原子炉発電所として1966年7月に営業運転を開始した。それから福島第1原発事故までの45年間に52基の原発が日本列島を覆い尽くし、日本を原発大国に変化させた。

先駆的役割を果たした東海発電所は、原子炉や熱交換器の大きさに比べて出力が小さいこと、 燃料コストや発電単価が割高であること等から1998年3月31日をもって運転を停止し、わが国で初めての廃炉作業に入った。原発事故による廃炉でないという意味で「ふつうの廃炉」と呼ばれることがあるのは、前述したとおりである。

しかし、普通の廃炉でも、放射線との戦いになることは変わりないので、放射線の高い部分である原子炉領域の解体は非常な危険性、困難性が伴う。それで原子力領域は放射能を減衰させるため、安全貯蔵状態にしておく(2001年から18年間)。2019年度からいよいよ原子力領域の解体撤去工事にかかる。これに7年の年月をかけ、建屋全体の撤去工事等が完了する予定は2024年から2025年とされている。何かトラブルが発生したときはこの帰還予測がさらに遅れることはもちろんである。

運転停止から廃炉が完了するまでは約30年である。

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4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)

 (1) 汚染水の発生

本件福島第一原発の4基の原子炉の中に、今も、上から水を入れ続けなければならない。そうなれば当然放射線による汚染水が増量してしまうが、しかし福島第一原発ではそれが不可避である。その理由について、前掲の「廃炉図鑑」は次のように説明している。「事故直後、津波の影響で非常用電源も含めた電源設備が水没し、1~4号機すべての電源が止まりました。その結果、燃料を水で冷却するシステムが使用できなくなり、原子炉の中の燃料が高温になって、燃料自体が溶け出しました。できたのがデブリと呼ばれるかたまりです。これは原子炉の中の『圧力容器』という金属でできた容器の底を溶かして突き抜けました。燃料デブリを冷やさないとさらに発熱して周りのものを溶かし、放射性物質も発生してコントロールができなくなります。被害を拡大させないためにはこれを水で冷やさなければならない。そこで原子炉の中や『使用済み燃料プール』と呼ばれる使い終わった燃料やこれから使う新しい燃料が入っているプールを冷やすため、原子炉建屋に水を入れようという作業が始まりました」(甲第445号証[1 MB]92頁)。

また、福島第一原発の山側から海側に向かって地下水が流れており、それが高線量の放射性物質によって汚染された建屋の下を通るので、毎日400トンという汚染水が発生した。これをそのまま海に流すわけにはいかないので、その処理が急がれた。

 (2) 汚染水処理の「成果」

それで、事故直後は水をヘリコプターで吊して運んできて原子炉の上からかけたり、消防ポンプとホースを利用して水を注いだり等の応急的な対応をしてきた。

しかし、そうして原子炉の中に注いだ水が建屋の外に漏れ出ているのが分かったため、これを防止する下記のシステムや施設などを設置したりして、ある程度「落ち着いた状態になった」と言われている(前掲「廃炉図鑑」甲第445号[1 MB]90頁以下)。

 ア 汚染水を循環させるシステムを確立した。
応急処置的にプロセス建屋の地下の部屋に止水工事をして汚染水を貯めることにし、やがて金属製の貯蔵タンクを大量に用意をして、そこに貯めていく。さらに貯蔵タンクにすべての水を流すのではなく、一部を再び建屋に戻し燃料冷却のために使用することで汚染水発生量を減らすシステムができた。

 イ 汚染水から放射性物質を取り除く、巨大な汚染水処理システムをつくった。
循環冷却が安定したとしても、汚染水の循環であるから、循環している間に原子炉建屋の汚染源に触れ続けると汚染濃度が高まって危険度が増すので、汚染水循環過程でこれを浄化させていく巨大システムをつくった。

 ウ ALPS(多核種除去設備)、モバイル型ストロンチウム除去装置での浄化処理を開始した。
ALPSの導入以前は汚染水の中のセシウムしか除去できなかったものが、ALPSの導入によって62種類の核種、放射性物質を取り除くことができるようになった。

 エ 凍土壁を設置した
原子炉建屋の中に毎日300m3の地下水が流入していたが、平成27年(2015年)ころになって地下水バイパスやサブドレンの汲み上げなどによって150m3に減らすことができた。それ以上に減らすにはどうしたらよいか。それで考えられ、実行されたのが凍土遮水壁(以下、単に凍土壁という)である。

凍土壁は、原子炉建屋に1~4号機を囲むように約1500本の管を1メートル間隔で地下30メートルまで打ち込み(全長約1.5km)、そこに氷点下30度の液体を循環させて凍土の壁をつくり、原子炉建屋に地下水が流れ込むのを防ぎ、汚染水の発生を抑える方法である。平成29年冬にはほぼ完成した。しかし、凍土壁による汚染水発生量の低減効果は1日約80トンにとどまる(甲第446号[222 KB]=2018.3.8付京都新聞夕刊)。

 (3) 今後の課題

平成29年6月策定の廃炉汚染水対策関係閣僚会議による「福島第一原発の廃止措置に向けた中長期ロードマップ」(甲第442号証[3 MB]。以下これを改訂廃炉ロードマップという)は、汚染源を取り除く、汚染源に水を近づけない、汚染水を漏らさないの3つの観点から予防的・重層的な対策を講じるとしている。

そこに掲げられた改良点は随時追求されて行くべきであろう。

しかし、次の2点はどうしても指摘せざるを得ない。決してめでたし、めでたしではないのである。

 ア 1つは、凍土壁の費用対効果である。凍土壁の構築には国費345億円が投じられた。その上今後も凍結の維持に年間10数億円がかかると言われている。廃炉まであと40年かかるとすれば、4000億円もの国費が投入されることになるのである。それだけの国費を注ぎ込んでも、当初掲げた「凍土壁構築後は、遮水壁内には外部からの地下水流入が殆ど無くなる」という目標にもかかわらず、一日80トンの汚染水しか減量できない(逆に言えば汚染水の発生は一日約150トン程度になる)という結果には落胆を禁じ得ない(原子力規制委員会はもともと凍土壁の効果に懐疑的であった)。

前記改訂廃炉ロードマップは、「2020年内に、‥‥汚染水発生量全体を管理して、その総量を150m3/一日程度に抑制する」という目標が掲げられているが、凍土壁のどこから地下水が入り込むのか具体的場所を突き止めてこの目標を実現させることこそが急務である。

 イ 2つめ貯蔵汚染水の処理の問題である。
トリチウムを含んだ汚染水は前述したように金属製タンクに貯蔵され、福島第一原発の敷地に並べられている。しかし、後2、3年で並べるスペースもなくなる言われている。ではどうするのか。

直ちには何の改善策もないのである!

根本的には核燃料や廃棄物の中間貯蔵施設や最終処分場を持たないで原発開発を進めてきた、いわゆる「トイレ無き原発」推進政策が破綻しつつあるのである。

一部には、希釈して海に流出させれば良い、海が希釈してくれると言う意見もあるようだが、希釈の可否の問題ではない。たとえ何年か年中年か先には希釈されるとしても、放射線汚染水が流された海で獲れた魚を誰が食べるのか。そんなことをすれば福島県の漁業は壊滅する。漁業関係者は死活問題に追い込まれる。住民の健康と安全の確保、地元の復興、復旧のための廃炉と言う目的がいつの間にか変質し、住民の生活を奪い、死に追いやるような方針を絶対に許してはらない。

このジレンマを解決しない限り、廃炉は決して実現しないのである。

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5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)

 (1) 1~4号機の内部状況

爆発を起こした1号機ないし4号機の原子炉の状況は現在(2018年3月11日時点を指す。以下、同じ)どうなっているだろうか。それがよく分からない。何故なら原子炉内の放射線量が高くて近づけないから、内部の状況をよく把握出来ないのである。それが分からなければ、デブリの安全な取り出しについて対策を立てようがないから、その詳細な状況の把握が不可欠である。以下にそれを素描する。

 ア 4号機の状況について
まず4号機は前述したように、5号機、6号機とともに定期検査のために発電を止めて、原子炉内から燃料棒を取り出し、使用済み燃料プールに保管していた。4号機の爆発は何らかの原因によって発生した水素(3号機から発生した水素が回り込んだという説には疑問が呈されている―甲3号証=国会事故調報告書160頁)が爆発し、4階、5階部分を吹き飛ばしたものであって、原子炉内の燃料棒が爆発したものではなかった。それゆえ、4号機原子炉内にはデブリは発生していない。しかも懸念された燃料プール内に水が満たされていたので、燃料棒の爆発と放射能拡散の危険はひとまず収まり、その廃炉作業は「ふつうの廃炉」と同じように進めることができている。

4号機の燃料プールに貯蔵されていた核燃料棒は1535体であった。これを取り出して安全な場所に移転する作業が2013年11月18日から開始された。細心で慎重な作業が約1年続けられた結果、2014年12月22日までで無事終了した。

ただし、原子炉内にはその後も水が満たされている。燃料棒はないが、放射線に汚染された構造物等が原子炉内に残置されており、これを冷却するためである。この高汚染水の処理が今後の課題となっている。

 イ 1号機ないし3号機の状況について

  1.  これに対し、メルトダウンした1号機ないし3号機の原子炉は、放射線量が高く、人が近づけない。それで次次と作業用ロボットを製作し、それを遠隔操作して、原子炉内の状況を把握しようとしてきた。しかし、その結果分かったことは必要な情報のごく一部のみであって、大部分は失敗の連続であった。
  2.  1号機の燃料プールには使用済み核燃料が392体、2号機には615体、3号機には566体保管されている。合計1573体である。
    3号機の566体は強い放射線を出す使用済み燃料と未使用燃料を合わせた数字であるが、これらの燃料棒の取り出し・移転は、燃料デブリをはじめとする今後の廃炉作業を安全に進めるために必要であるので、2014年から開始する予定であった。しかし、東電は3度にわたり、開始を延期してきた。平成29年9月の改訂廃炉ロードマップ(甲第442号証[3 MB])では、2018年中頃を目途に取り出しを開始するとされている。屋上に燃料取り出し用のカバーが設置されて、そのための準備が進んでいる。
    1号機、2号機の使用済み核燃料の取り出し・移転について政府が策定した廃炉工程ロードマップ(1次=甲193第号証)では、燃料取り出し・移転の開始は「2020年目途」とされていたが、それが3年遅れとなり、2023年となった。4号機の核燃料棒の移転は前述のように1年有余の年数を要したが、これと比べると、例えば1号機などはオペレーテイングフロアのガレキの散乱が激しく、これを整理し片付けながらの作業を余儀なくされるので、4号機よりもはるかに多くの時間を要することが予想される。
  3.  1号機ないし3号機の原子炉内部は本件爆発事故当時運転中であったため、燃料棒は高熱によって溶融し、デブリ化した。この燃料デブリの取り出しが廃炉の成否を握る最大の難関である。しかし、前述したように、1号機ないし3号機の内部状況は必死の努力にもかかわらず未だ殆どつかめていない。理由は繰り返し述べてきたように放射線量が極めて高く、人が近づけないためである。それでロボットを製作し、これを遠隔操作して線量や内部のデブリの状況を知ろうしてきたわけであるが、その結果分かったことはごく一部であって、まだまだ全容解明にはほど遠い状況にある。
    放射線量についてロボットから送られてきた情報によると、2号機の原子炉外で原子炉を支える基礎の部分で531シーベルトの放射能が存在していることが分かった。これは人間が1分間浴びたら即死亡するというほどの異常値である。そんな高い放射線量が原子炉外に存在する理由について誰も見当もつかないという状況である。
    2018年3月7日付朝日新聞によると、放射線量は1号機で1.5~12シーベルト/h(2017年5月調査)、2号機で7~42シーベルト/h(2018年1月調査)と報じている。

以上、要約的に言えば、原子炉内の状況については少しずつ分かってきた面があるものの、全体的に言えば未だ何もかもがボヤッ-としか見えない深い霧の中にあると言っても過言ではない。その点について改訂廃炉ロードマップでは、「燃料デブリに関する情報や燃料デブリ取り出しに必要な技術開発等が未だ限定的であることから、現時点で燃料デブリ取り出しを検討するには未だ不確実性が大きいことに留意し、‥‥不断の見直しを行う」と記述されている。要するに、今得られている情報からは、確信が持てる廃炉方針が具体的に定まらないということである。

 (2) デブリ取り出し作業の困難性

 ア 平成29年9月の改訂廃炉ロードマップでは、燃料デブリ取り出しに関する方針として、“ステップバイステップのアプローチ”とか、“廃炉作業全体(準備工事、取り出し工事、搬出・処理・保管及び後片付け)の最適化”とか、“複数の工法の組み合わせの必要性”とかなどについて言及しているが、これはもはやロードマップではなく、デブリ取り出し作業に着手・推進する側の心構えを述べたものに過ぎないというべきであろう。廃炉推進に関わる人たちの緊張感や必死さは伝わってくるけれども、具体的な廃炉作業工程について言及するところがないのである。

 イ デブリ取り出しの方法は、冠水工法と気中工法がある。福島第一原発の1号機ないし3号機にはすでに原子炉内に流入された水が満たされていたので、冠水工法によってデブリの取り出しが行われるという前提で進められてきた。水は、冷却効果の外に放射線を遮蔽する効力、さらにダスト飛散の防止効果を持っているので、冠水工法によれば放射性物質からの安全は確保されるという感覚で進んできた。

しかし、1号機ないし3号機の原子炉は小さな穴がたくさん開いており、水は外部に流れて貯まらない。その穴を防ぐべくコンクリート(いろいろな物質との化合を加えてのことであるが)を水と同時に流し込む実験をしたところ、水の流失は一応止まったとのことである。だが、その止水は実際に恒常的な安定性を有するのかは誰にも分からない。それが保障されなければ、工業化は難しい。

また、格納容器の底部に存在するデブリを冠水工法で取り出そうとすれば、オペレーテイングフロアから水中約10ないし30メートルの深さまで工具を吊り下げて入れて、遠隔操作をする必要がある。このような遠隔操作がはたして可能かどうか。可能としても非能率この上ないことは誰しも認めるであろう。

それで、改訂廃炉ロードマップでは、気中工法に軸足を置くとして、「現時点では冠水工法は技術的難度が高いため、より実現性の高い気中工法に軸足を置いて今後の取り組みを進めることとする」と結論づけている。

と同時に、格納容器の底に存在するデブリは上から出なく、横から取り出すことを先行させる。

しかし、気中工法の欠陥は、取り出し中のデブリから多量の放射性物質が飛散すること、それを防止しにくいことである。日本中どこの家屋解体でも多量の粉塵が飛散されることは常識であるが、本件の場合の粉塵は放射性物質によって汚染されているから、飛散を完全に遮断しなければならないが、その方法は未だ定まっていない。

 ウ 廃炉の最終目標は当然1号機ないし4号機の建屋解体、そのガレキ等の後始末まですることであるとしたら、放射性物質で汚染された廃棄物が相当量出てくるのは必定である。それをどこへ運搬し、どこで処分するのか。それが未だに具体的に決まっていない。改訂廃炉ロードマップではデブリ取り出し後の第3期で決定するとして先送りしているが、改めて述べるまでもなく、それが決まらなければ、デブリの取り出しなどには着手できないのである。

 エ それにもかかわらず、廃炉ロードマップでは、デブリ取り出し方法について2019年度までに確定し、2021年から初号機におけるデブリ取り出しを開始するとしている。

1号機ないし3号機の原子炉内外の状況について殆ど把握出来ていない2018年度時点に立って予測してみても、あと1年でデブリ取り出し方法を決められるはずがない。ロードマップは早晩改訂されることは確実である。こう頻繁に改訂を繰り返すのでは、ロードマップの名に値しない。

正直言って、現時点でのデブリ取りだしはあれこれ模索しているという以上の域を出ない。マスコミも「燃料デブリ 調べるほど多難」(2019年3月7日付朝日新聞朝刊=甲第440号証[961 KB])、「廃炉 遠い道のり」(前同日付毎日新聞朝刊=甲第441号証[2 MB])などとやや絶望的な見出しをつけて、デブり取り出しが遠い将来の課題となっていることを嘆じて報じている。

東電の社員は、“我々は世界中どこでも経験したことがないような非常に困難な作業を遂行しているのであって、次世代までしっかりと引き継いでいきたい”と胸を張る。その心意気を敢えて否定する気はないけれども、そう言うならその前に本件福島第一原発の事故は天災ではなく、平成14年から18年にかけて津波の長期評価等から知り得た15メートル以上の津波が襲来する可能性を無視して何の対策も取らなかった被告東電と、適切な改善指導をしなかった国の責任であることを忘れてはなるまい。東電と国の責任は原発避難賠償訴訟で各地の判決(今日までの判決として前橋地裁平成29年3月17判決、福島地裁平成29年10月10日判決、京都地裁平成30年3月16日判決及び平成30年3月16日東京地裁判決)が明確に断じているところである。こんな大事故の収束作業を世界中どこでも経験したことがないという以前に、こんな大事故を起こした国は世界中どこにもないこと(チェルノブイリは例外であるが)に深く思いを致すべきである。

 (3) 廃炉の期間

計画通りうまくいって、仮に2021年からデブリの取り出しを開始することができたとしても、完了するのに何年かかるのだろうか。誰も予測もできない。実際やってみなければ分からないのである。

改訂廃炉マップは、デブリ取りだし開始から30年ないし40年という期間を挙げている。その年月を知って誰もがあまりの遠さに嘆息する。しかし、嘆息しながら何となくそれくらいの期間をかければ何とかなるだろうと思ってはいないか。そこが味噌だが、科学的にその保証はどこにもなく、ええ加減な感覚で言ってるに過ぎないのである。それが証拠には、30年~40年とひとくくりで言うが、その10年の差は何の違いがあってもたらされるのか、おそらく誰も答えられないであろう。
問題の先送りをしてごまかしているだけではないのかと言わざるを得ない。

 (4) ドイツの決断

ドイツは我が国と同じように原発大国であったが、福島第一原発事故の後大きく舵を切り、原発廃絶を国会で決議した。すでに2011年中に8基、2015年6月に1基が閉鎖された。現在(2018年現在)、9基の発電炉が稼働しているが、2022年までにすべての原発を停止・閉鎖する予定である。

ドイツを全原発廃炉に踏み切らせた理由は何か。それは、日本のような科学技術先進の国であっても大規模な爆発事故が発生したことを重視し、人間が扱う以上原発事故は避けられないとして原発ゼロ国家へ転身したのである。

ドイツは福島第1原発事故から貴重な教訓をくみ取り、迷うことなく原発ゼロに踏み切った。ドイツは日本を教訓にした。今度は我々がドイツを教訓にして原発ゼロを実現さなければならないのである。

以上

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◆第19回口頭弁論 意見陳述

2018年3月27日

口頭弁論要旨

小西洋一

私は京都府舞鶴市に住み、小学校教員をしている小西洋一と申します。

2011年3月11日、東日本で発生した大地震と大津波、そして福島第一原発の事故は、私が働いている舞鶴の学校現場の状況も大きく変えました。

【放射能被害から子どもたちを守れるのか】

京都府と舞鶴市の原子力防災計画が策定されましたが、実効性には疑問が多すぎます。原子力事故が発生した場合、とりあえず屋内退避が指示されています。屋内にいる場合は、急いで玄関で服などに着いた放射能を振り払い、屋内に避難するように指示されています。屋内への退避で放射能被爆をまぬがれることはできません。

昨年、市民からの強い要望もあって、安定ヨウ素剤の備蓄が舞鶴市内の6箇所から避難場所の32箇所に広げられました。本校でも約6000人分の安定ヨウ素剤が備蓄されています。また、福知山、綾部などの6箇所の中継避難場所にも備蓄されることになりました。安定ヨウ素材を放射線にさらされた直後、またはできるだけ早く24時間以内に服用すれば、甲状腺への放射性ヨウ素の集積を90%減らすことが出来ると言われており、甲状腺ガンから子どもたちを守るために大変有効です。しかし、原発事故や避難で混乱している時に、ヨウ素剤の服用の判断、指示を誰がするのか、判断された場合に児童・生徒全員に的確な配布と服用が出来るのか。それも訓練とシュミレーションが必要となっています。市の防災計画では、市民の避難集結場所は公共施設とともに多くの小・中・高の学校施設が指定されています。市内にある全校児童200人足らずのある小学校には、校区内の市民3千人の避難者が想定されていますが、市の職員の配置は3人だけです。3人で三千人の対応は無理です。

【保護者への引渡しはできるのか】

授業中に避難指示が出た場合は、児童・生徒は保護者へ引き渡し、避難することが前提になっています。仮に原発事故が起こった場合、舞鶴市内が原発事故と避難で混乱する中で、短時間でスムーズに全児童・生徒を保護者へ引き渡すことができるとはとても思えません。台風の襲来による一斉帰宅、保護者への引渡しを何回か経験しましたが、600人規模の学校でも2時に学校メールや電話連絡を入れて、保護者への引渡しが最後の一人まで完全に終了するまで4時間はかかります。それは、舞鶴市内が安定している場合です。時間がかかればかかるほど、その間にも放射能の汚染に子どもたちはさらされるということになります。

【子どもたちには何も罪はないのに】

震災後、京都府に、福島から避難した児童が転入してきました。その児童の転入先では、事前に転校の事情をくわしく丁寧に指導し、児童を迎え入れました。

児童の転入からまもなく、トラブルが起こり、お互いが口喧嘩になった時に、他の児童が転入してきた児童に向かって「お前なんか、福島の津波で死んだら良かったんや」と叫び、叫んだ児童には、そのことの意味を指導し、保護者へも連絡して再度指導してもらった例があります。

マスコミなどの報道によれば原発事故により避難した児童が「放射能がうつる。」「賠償金をよこせ。」などいわれのないいじめに遭っていることが報告されています。原発事故さえなければ、こんな悲しい思いをすることはなかったのに。子どもたちには何の罪もありません。避難先でいわれのないいじめや嫌がらせを受けている子どもたちの心情を考えると不憫で仕方がありません。今だに原発災害の避難者は7万人を超えています。

避難した児童は、いじめに遭う以外にも、なかなか、新しい環境になじめないこともあります。転校先の児童に嫌われないように気を遣ったり、意地悪されないよう目立たないようにしたり、転校先の児童に負けないように自分を大きく見せてつっぱたり・・・。児童一人一人によって様々な対応があるだろうと思います。

突然の大地震と津波、そして福島第一原発の過酷事故によって、生まれ育ったふる里を追われ、家族もバラバラにされ、仲の良かった友達とも別れて、見知らぬ土地への転居や学校への転校を余儀なくされた児童の緊張や不安、ストレスは私達の想像を遥かに超えています。

地震や津波は天災ですから避けることはできません。しかし、原発の事故は人災です。「想定外」などという言葉で責任を逃れることが出来るでしょうか。

未来を生きる子どもたちに放射能の心配のない日本を残すこと。これは、地震列島と言われるこの国に51基もの原発を作らせてきた私たち世代の責任ではないでしょうか。原発は、再稼働せずすべて廃炉に。

京都地裁の英断を心からお願いいたします。

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