◆原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

2018年(平成30年)8月31日

原告提出の第56準備書面[924 KB]

【目次】

1 はじめに
2 地震動に影響する項目
3 PS検層
4 試掘抗内弾性波探査
5 反射法地震探査
6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)
7 はぎ取り法
8 単点微動観測
9 地震波干渉法と微動アレイ観測
10 地盤の地震波減衰特性
11 速度構造と破砕帯の関係
12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か
13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について
14 まとめ


被告関電準備書面(17)[6 MB]の第2(地域特性に関する原告らの主張に対する反論)に対して、意見書「大飯発電所の地盤構造について」(赤松純平、甲467[1 MB]、引用文献[1])に基づいて、以下のとおり反論する。

引用文献
[1]赤松純平、大飯発電所の地盤構造について、2018年8月28日.


1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第343537及び44準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(赤松純平元京大助教授作成の意見書、甲357、422)。

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]を提出して、原告の上記主張は、①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されているなどと反論した(7頁、17~18頁)。

以下、各調査毎に、被告関電の主張、原告らの反論、被告関電の再反論などこれまでの議論の要点及び原告らの再々反論を述べる。被告関電は、多くの論点で原告らの反論に具体的な再反論を全くせず、また、いくつかの論点でなした再反論も真摯な再反論とは言えないものであり、いずれも失当である。


2 地震動に影響する項目

原発サイトの地震動は、①震源特性、②経路の伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)の重畳したものである。③の地盤は、地下深部に拡がる均質で硬い基盤岩層(S波速度が約3km/sの地殻上層部、地震基盤と称す)から地表までの地層(岩盤層と土質層)の集まりであり、増幅特性は、地震基盤から伝わってきた地震波が地盤によりどのような影響を受けるかを評価する。大飯サイトでは、後述するように原子炉建屋の立地する岩盤層に解放基盤面を設定して、解放基盤面におけるサイト特性を評価している

 (1)地震波伝播速度

サイト特性は、地盤が堅固で地震波伝播速度が大きければ増幅率は小さく、反対に、堅固でなく伝播速度が小さければ増幅率は大きくなる。このため、地盤の地震波伝播速度が地域特性の重要な調査項目とされている。

 (2)地下構造が成層かつ均質か

また、地盤構造が成層かつ均質か、それとも、地層に断層やずれ、傾き、歪み(褶曲構造)が認められるような不整形地盤であるかは、重要な調査項目である。何故なら、不整形地盤においては、立地地点の場所による違いや地震波の入射方向による違いなどによって、地震動には、増幅率の大幅な増加や震動卓越方向の偏倚などの異常震動が惹起されるからである。新規制基準は、三次元探査を行なって、より正確かつ詳細な地下構造の把握を求めている。

 (3)解放基盤面

基準地震動は、それぞれの原子力発電所において、解放基盤面で評価される。解放基盤面は、「固い岩盤(基盤)が、一定の広がりをもって、その上に地盤や建物がなく、むき出しになっている状態のものとして仮想的に設定される面」である。現実には、解放基盤面は地表面下に設定されており、地表面と解放基盤面との間は比較的やわらかい表層地盤である。解放基盤面とされる基盤岩の拡がり、形状、地震波伝播速度が重要な調査対象となる。

大飯原発の場合、被告関電による模式図(次頁に引用掲載【省略】)に示されるように、解放基盤面は、原子炉格納施設が建てられている基礎地盤に設定されている。従って、原子炉格納施設を直接載せている大飯原発の解放基盤面は、固い岩盤で一定の広がりをもっていなければ困るものである。被告関電は、大飯原発の解放基盤面は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤で一定の広がりをもっていると、頑なに主張している。

しかし、後述のとおり、各種地盤調査結果は、被告関電のこの主張とことごとく整合しない。

被告関電準備書面(3)[17 MB]19頁を引用.【図省略】


3 PS検層

PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、地表または孔中で人為的に震動を発生し(起震器)、受震器で震動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。
原告らは、PS検層の調査結果から、①低速度層が地表付近と深度100m前後付近に認められること、②調査地点(O1-11孔とO1-3孔)で速度構造が異なり、深さ約20m(標高約-20m)までで、S波速度に2倍程度の違いがある(1.17km/sと2.34km/s)、③地表から標高-60mまでの平均のS波速度は、西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていることから、本件地盤には、低速度層が存在し、成層かつ均質とは到底言えないと指摘した(甲422、3~4頁)

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


4 試掘抗内弾性波探査

試掘坑内弾性波探査とは、原子炉敷地に横坑(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破によって人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で震動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で震動を与える坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震波伝播速度を推定する。

被告関電は、屈折法探査の結果として「解放基盤のP波速度(Vp)を4.3km/s、S波速度(Vs)を2.2km/sと評価した(丙196)[19 MB]、12頁)」としているが、原告らは、この探査結果の資料から、3号炉付近ではVp=(4.218±0.814)km/s、Vs=(2.017±0.369)km/s、また4号炉付近ではVp=(4.526±0.498)km/s、Vs=(2.230±0.273)km/sであり、P波S波とも、3号炉側が顕著に低速度であることを指摘した(甲422、4~5頁)。

また、被告関電は、坑間弾性波探査については、「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。(中略)弾性波速度による異方性はほとんど認められない(丙178[11 MB]添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)」と記すのみで、3.0~5.2km/sも大きく変化していることの原因を明らかにしていない。

原告らは、ファン・シューティングのデータを分析し、敷地の場所毎のP波速度分布を図化して、P波速度が西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていること、この速度変化が敷地に拡がる断層破砕帯の走向と分布に極めて高い相関関係にあることを明らかにするとともに、被告関電が3号炉の地震波伝播速度を実際より過大に評価するというごまかしを行なって基準地震動を算定していることを批判した(甲422、6~7頁、20~21頁)。P波速度の分布コンター図と3、4号炉基礎岩盤の破砕帯分布の関係を下図に示す【図省略】。

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】原子炉建屋基礎岩盤の断層破砕帯の分布と坑間弾性波探査によるP波速度分布の相関.

【図】破砕帯は4号炉側(左)に比べ3号炉側で高密度に分布している.

【図】P波速度は西(図の左上)から東に顕著に低下しており、4号炉の炉心下では4.3~4.5km/sであるが、3号炉の炉心下では3.8~4.0km/sである。
甲422、付図42再掲【すべて図省略】


5 反射法地震探査

反射法地震探査とは、地表で起震された地震波が地下の地層境界で反射し、地表に戻ってきた波(反射波)を多数の地震計で測定して、地下構造を探査する方法である。石油探査のために開発・実用化されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

原告らは、深度断面図から層の境界に、傾斜、畝り、破断があり、しかも断層の存在を示唆する回折波が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘し、物理探査学会元会長の芦田譲京大名誉教授の意見書(甲423)を提出して、「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であることを明らかにした(甲422、7~8頁)。
しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)

速度断面図は、反射法地震探査の観測データを屈折法解析によって解析して測線に沿う深さ方向の地震波伝播速度の分布を図化したものである。

原告らは、速度断面図によって、4号炉や3号炉付近で、2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを指摘した(甲422、9頁)。

これに対して、被告関電は、探査測線が道路で表層が柔らかい地盤であることや探査測線が屈曲しているため測定値には誤差が含まれており、速度断面図は信用出来ないかのように主張している(被告関電準備書面(17)[6 MB]、23~24頁)。

しかし、そもそもこの速度断面図は被告関電自身が作成したものである。被告関電も認めるとおり低速度帯は地盤を構成する岩石区分と対応している。すなわち、速度断面図の原子炉建屋付近では、P波速度が1.5km/s以下の部分は、ボーリング資料の岩級区分の未固結地盤およびD級岩が分布する深さに一致している(丙267[18 MB]、42頁)。この部分の図を下に拡大して引用する【省略】。

【図】速度断面図とボーリング資料による岩級区分.

【図】Vp≦1.5km/s(赤、黄)と岩級(未固結、D級岩)とがよく一致している.
丙267[18 MB]、42頁の図を引用、加筆.【すべて図省略】

標高0m付近のD級岩は、PS検層結果からVp=2.04km/s、Vs=0.54km/s(丙178添付書類六、6-1-198頁)と評価されており、標高0mに設定されている解放基盤がVp=4.6km/s、Vs=2.2km/sであるとする被告関電の主張は暴論としか言いようがない。

さらに、4号炉及び3号炉建屋付近の測線は直線状(被告関電準備書面(17)[6 MB]、13頁)であるから屈曲による影響を言う被告関電の主張には理由がない。以上、原子炉敷地付近で2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを示す測定値及び速度断面図を信用できないとするのは恣意的な解釈である。

反射法弾性波探査では、速度断面を作成する過程で速度解析を行い速度の分布が得られるが、被告関電は速度解析結果を公表していない。速度分布を明示して議論すべきである。


7 はぎ取り法

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。地表や各地層の境界に凹凸がある場合、探査記録には凹凸に起因するデータのばらつきがある。そのため、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

被告関電は、「はぎ取り法解析について、表層の軟らかい地盤の影響等を考慮して、やや深部を伝わる平均的な最下層速度の試算を行ない、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sとの結果を得て、被告の設定した一次元の地盤の速度構造モデルと概ね差がない」と言う(準備書面(17)[6 MB]、25頁)。
被告関電は、「解放基盤は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっている」と頑なに主張しているが、標高0mに設定されている解放基盤と表層をはぎ取ったやや深部の最下層とが符合していると言うようである。

はぎ取り法解析は、地表や地層境界に凹凸があっても、地層毎の速度や層厚を明らかにするものである。被告関電の示すはぎ取り法解析の図(走時曲線)は、表層の平均速度はVp=1.1km/s、4号炉及び3号炉敷地付近で表層の層厚が66mあることを示している(甲467[1 MB]、9頁)。次頁に模式図で示すが、地震探査の測線は標高30~40mに設置されているから、層厚が66mである表層は地表面から標高-26~-36mまで続いていることになる。すなわち、はぎ取り法解析の結果は、標高0mに設定された解放基盤表面がVp=1.1km/sの表層の中にあることを示している。解放基盤面の地震波伝播速度は、被告関電が主張するVp=4.6km/sには決してならない。

なお、反射法地震探査屈折法解析による速度断面図によれば、原子炉建屋付近の標高0mの速度値は2km程度であり、標高-30m付近まで2.5km/s以下の速度帯が落ち込んでいるなど、このはぎ取り法の解析結果と整合している。

かかる原告らの主張に対して、被告関電は「原告がはぎ取り法解析の目的やその前提を理解することなく、データを断片的に取り上げて批判している」と再反論しているが、解放基盤の速度値がVp=4.6km/sとならないとの原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】【はぎ取り法解析の結果が示すこと】
被告関電準備書面(3)[17 MB]19頁を引用加筆.【図省略】


8 単点微動観測

単点微動観測とは、車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような微小震動(微動)を観測し、地表面における微動の水平成分のスペクトルを上下成分のスペクトルで除して(H/V)、その形状から主に表層地盤のS波速度や層厚を把握しようとするものである。

被告関電は、「単点微動観測記録を解析した結果、本件発電所の敷地全体にわたってS波速度約2.2km/sの硬質な岩盤が広がり、その上面深度には著しい高低差がない(大きな傾きがない)ことを確認した(準備書面(17)[6 MB]、11頁)」と言い、被告関電の解放基盤に関する主張(Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっているとの主張)が裏付けられたと主張するようである。

これに対して原告らは、下層速度をVs=2.2km/s以外の1.6km/s、1.8km/s、2.0km/sとしてもほぼ同じ結果となることを示して、被告関電の議論は下層(基盤岩層)をVs=2.2km/sと仮定した上での議論であって、基盤岩層がVs=2.2km/sであることは全く担保されないこと、さらに、屈折法解析による速度断面図と30mも齟齬があることを指摘して、単点微動観測の解析結果に疑義を呈した(甲422、10~12頁)。

これに対して被告関電は、上記齟齬を否定できないため、「表層の柔らかい地盤の影響や探査測線が屈曲している部分の影響を受けるため、その影響による誤差が生じることから、単点微動観測結果との比較において、一部の数値が異なるのは当然(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」であるとか、単点微動観測は「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求めるために行なったのではない(準備書面(17)[6 MB]、26頁)」と反論した。

しかし、単点微動観測H/Vの解析において、表層の速度として「軟らかい地盤」の値Vs=472m/s(丙196[19 MB]、31頁)が使われているから、「軟らかい地盤」の厚さ(基盤の深さ)が推定されるのであり、また、齟齬が生じている探査測線は4号炉~1号炉南東側に直線状に延びていて(被告関電準備書面(17)[6 MB]、13頁)測線屈曲の影響は考えられない。さらに、原告らは「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求める」ことが出来ないことを批判しているのではなく、問題は、例えば深さ20mといっている基盤岩層は、Vs=2.2km/sでも1.6km/sでもよく、その速度は区別出来ないということ、従って、「S波速度約2.2km/sの硬質な岩盤の上面深度の分布を把握」したことにはならないと批判しているのである。

被告関電は、問題をスリ違えて反論しているだけで、原告らの指摘に対して具体的な反論を一切していない。


9 地震波干渉法と微動アレイ観測

深部および浅部地盤の速度構造に関する調査として、地震波干渉法と微動アレイ観測がなされている。地震波干渉法は、海の波浪などにより生起するやや長周期の微動(脈動と呼ばれている)を、広い範囲に配置した多数の地震計で長期間計測し、周期毎の速度(位相速度)を明らかにする。微動アレイ観測は、高感度地震計を7箇所に同心円状に設置して微動を観測し、周期毎の位相速度を明らかにする。位相速度は地下構造を反映して分散性(周期による速度の変化)を示す。すなわち、地震波速度が深さと共に増加するような地盤では、周期が長くなるほど位相速度は大きくなる。これら観測された位相速度から地盤の速度構造を推定する解析が逆解析(インバージョン解析)である。逆解析は1次元の水平成層構造を仮定して、層の厚さと地震波伝播速度を推定する。この調査解析では、①観測データから求めた位相速度に含まれる誤差の評価、②位相速度から逆解析により求めた構造モデルの妥当性の吟味が重要である。

 (1)水平成層構造と見なせるとの主張

被告関電は、地震波干渉法と微動アレイ観測による位相速度を逆解析した結果、本件原発敷地の地下構造は、水平成層構造とみなしてモデル化できると主張する(準備書面(17)[6 MB]、16~17頁)。

しかし、もともと位相速度の逆解析は、水平成層構造を仮定した解析法である。水平成層構造であるかどうかは判らないが、仮に水平成層構造であるとしたら、どのような構造になるかを検討するものである。逆解析の結果は、水平成層構造であることを示すものではない。被告関電は、逆解析による速度構造モデルが構造の不均質を評価出来ないことにあえて触れずに、ごまかそうとしている。

 (2)「深くなるについて地震波速度が単調増加する」との主張

原告らは、観測された位相速度には山谷があり、周期と共に単調に増加しているのではないので、地下に低速度層が挟在していることが示唆されるにも拘わらず、被告関電は速度が深さ方向に単調に増加することを前提に速度構造モデルを推定していると批判した(甲422、12頁)。これに対して、被告関電は「地表から地下深部に深くなっていくにしたがって周囲の岩石は圧密度が増し、より硬くなる(準備書面(17)[6 MB]、20頁)」と「丙198[17 MB]」を証拠として反論した。ところで、被告関電が証拠とした「丙198[17 MB]」は、国立研究開発法人防災科学技術研究所がホームページにあげたJ-SHIS(ハザード・ステーション)の用語集であり、S波速度が300m/s~700m/s程度以上の工学的基盤(土質~軟岩)の極めて一般的な事項を説明するものである。被告関電は、本件地盤では、位相速度が単調に増加していない事実、PS検層により低速度層が観測されている事実などを無視して、地震波速度の単調増加モデルを作成したことについて答えていない。被告関電自身の調査結果である地盤構造の特徴を無視して、用語集に記載されるような一般論を述べるだけでは、原告らの指摘への反論には到底なり得ない。

 (3)「0.5km/sの表層を取り除いた」との主張

原告らは、逆解析の結果による本件地盤の速度構造モデルには、Vs=0.5km/sの表層が厚さ80mも存在するのに、被告関電はこれが存在しないものとして基準地震動評価モデルを作成していると批判した(甲422、13頁)。これに対して、被告関電は、原子炉建屋は軟らかい表層地盤にではなく、硬い解放基盤表面に設置されていると反論した(準備書面(17)[6 MB]、20~22頁)。

しかし、表層地盤表面の平均標高(微動観測点7箇所の標高の平均値)は約43.5mであり、層厚80mの表層地盤を取り除けば、標高-36.5mまで取り除くことになる(甲467[1 MB]甲467、2~4頁)。被告関電は、表層を取り除いたVs=2.2km/sの第2層を解放基盤としているが、その上面の標高は-36.5m、すなわち標高0mの原子炉建屋は解放基盤から36.5mも浮いて、Vs=0.5km/sの表層内に設置されていることになる。このように、逆解析の結果は、原子炉建屋が立地する解放基盤は、被告関電が頑なに主張するような、Vs=2.2km/s、Vp=4.6km/sの硬い岩盤が広がっているものではないことを示している。

なお、このような齟齬をきたしたのは、PS検層、試掘坑弾性波探査、屈折法解析などによって低速度の岩盤層の存在が示された結果を無視して、逆解析におけるモデルで第1層をVs=0.5km/s、第2層をVs=2.2km/sとジャンプさせたためである。

インバージョンモデルから表層を取り除いた基準地震動評価モデルの標高【図省略】
▼:地震計位置、赤字は各観測点の標高、表層地盤表面の標高は平均43.5mVs=0.5km/sの表層(層厚80m)を取り除くと、Vs=2.2km/sの解放基盤面は標高-36.5mとなる.被告関電準備書面(17)[6 MB]の図表6(22頁)を引用して加筆.


10 地盤の地震波減衰特性

地盤の増幅特性(サイト特性)は、地盤の速度構造による振幅増幅(速度と密度の積が小さい地層では振幅は増大、地層内の共振現象など)と、地盤を通過する際の波動エネルギーの吸収・逸散などによる振幅減衰とが関係する。地震波が震源から原子炉施設の立地する基礎岩盤まで伝播する際の減衰機構は以下の3つである。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波面が空間的に拡がるために波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、岩石内部の摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。岩盤内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱減衰の大きさは、不均質構造の大きさと波長との関係に依存するので、波の周波数に依存して変化する。内部減衰と散乱減衰の大きさはQ値(または減衰定数h、h=1/2Q)で表す。Q値が大きい(hの小さい)媒質ほど減衰しにくい関係にある。

被告関電が、地盤の不均質構造を考慮したうえで、減衰定数h(=1/2Q)を地下180mまで3%(丙179[4 MB]、18~27頁)、それ以深を0.5%(丙179[4 MB]、57頁)としたのに対して、原告らは、Q値は周波数に依存するのに周波数と無関係の一定値であるとの主張がなされていること、測定精度が極度に悪いことなどの問題点を指摘した(甲422、18~20頁)。

しかし、被告関電は、これら指摘に対して、以下に示すように具体的な反論を一切していない。

180m以浅のQ値を、不均質構造を考慮したと言いながら、周波数に依存しない定数としたことについては何の説明もない。

180m以深を0.5%とする点について、被告関電は、「地下180mより浅いところと比べて急激に減衰が小さくなるようなデータは特段得られていないところ、保守的に0.5%と設定している(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」と述べているが、データを開示しないため、0.5%が保守的であるのかないのか判断できない。被告関電は、これについてのデータを開示しなければならない。

中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、500m/s<Vs<3000m/s(大飯サイトの地盤に相当)のQ値は解析例が少ないので、Vs>3000m/s(リソスフェアー:地殻および上部マントル最上部に相当)のQ値を保守的に使うことを推奨しており(中央防災会議、・東海地震に関する専門調査会、強震動評価のための試算)、この設定方針を採用すべきである。

被告関電は、「このような被告の評価については、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査において、その適合性が確認されている(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」と述べて、具体的な説明を避けている。


11 速度構造と破砕帯の関係

破砕帯とは、岩盤が割り砕かれて、多くの隙間を持つようになった地層のことである。本件原発敷地には多数の破砕帯がある。福島原発事故後、これら破砕帯の活動性、すなわち活断層としての危険性の観点から調査議論がなされた。
しかし同時に、破砕帯は周囲の地盤に比べて軟弱であるから、地震動への影響を地震動特性として検討しなければならない。

原告らは、試掘坑坑間弾性波探査(ファン・シューティング)のデータの解析結果から、地震波伝播速度の分布図を作成し、本件原子炉敷地の地震波伝播速度が、被告関電が主張するより大幅に低いこと、西から東に向けて伝播速度が系統的に低下すること、そしてこれら速度の地域性は、破砕帯の走向と分布密度とに起因することを指摘した(甲422、20~21頁)。

被告関電は、原告らのこの指摘に、具体的な反論を一切していない。被告関電は、試掘坑弾性波探査の結果については、準備書面(17)において、坑道に沿う屈折法探査結果について述べるのみで、場所による速度変化がより明瞭に現われる坑間弾性波探査結果については何も述べず、また、原子炉建屋直下の基盤に断層破砕帯が密に分布していることについても全く黙秘している。


12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]において「被告による調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に批判するものである(7頁)」と批判した。しかし、前節までに述べたように、被告の調査・評価結果の全て、すなわち、PS検層、試掘抗弾性波探査、反射法地震探査、屈折法解析、はぎ取り法解析などの調査結果が、本件地盤が成層かつ均質ではなく場所による違いのあること、基準地震動を評価する解放基盤の地震波速度が、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sではないことを示している。被告関電の提示した個別の独立した調査データが、共通して特徴的な不均質で低速度の地盤構造を示しているのである。しかもその特徴が全く独立して行われた地質調査によって明らかにされている断層破砕帯の分布に起因しているのである。原告らの恣意的批判という再批判は当たらない。

逆に、被告関電は「調査・評価結果を個別に取り上げて」判断しており、相互の関連性を総合的に判断した評価を行っていない。

 (1)反射法地震探査の深度断面図と基準地震動評価のための地盤モデル

被告関電は、反射法地震探査の深度断面図を示して「地下500m位までは反射面が確認され(丙196[10 MB]、51頁、56頁)」と解釈している。

一方、基準地震動評価のための地盤モデルは、微動アレイ観測と地震波干渉法によるレーリー波の位相速度の逆解析によって得た多層の速度構造である。

この地盤モデルは、500m位の深さまで、速度境界が深さ180m、370m、510mにあって、P波速度はその境界を越える毎に4.6km/sから0.1km/s、0.1km/s、0.2km/s増えるとされている(丙196[10 MB]、108頁)。しかし、高々2%程度(深さ510mの境界では4%)の速度の増加で、深度断面図に見られるような明瞭な反射が現われるとされているが疑問がある。反射法地震探査では、深度断面図を作成する過程で、速度解析が行われ、反射面に至るP波速度が求められている。この速度は公開されていないが、反射面を形成した層の速度は、地盤モデルの4.6km/s、4.7km/s、4.8km/s・・・などに整合しているのであろうか。反射法地震探査と微動アレイ観測という全く異なる調査方法による結果を統一して解釈すべきであるが、被告関電は個別に説明するのみである。

 (2)試掘坑内弾性波探査による地震波速度の異方性

被告関電は、試掘坑内弾性波探査結果によって地震波速度の異方性(伝播方向の違いによる速度の違い)の有無を次のように報告している。「試掘坑内の平均速度法(坑間弾性波探査のこと)による弾性波試験結果は、第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。一方、互いに直交する坑道沿いの屈折波法弾性波速度の測定結果では、NW-SE方向のP波速度は3.5km/s~5.0km/s、平均4.7km/s、S波速度は1.8km/s~2.5km/s、平均2.3km/s、NE-SW方向のP波速度は3.0km/s~5.3km/s、平均4.5km/s、S波速度は1.3km/s~2.8km/s、平均2.1km/sであり、弾性波速度による異方性はほとんど認められない(大飯発電所3、4号機の地震等に係る新基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(65)平成28年2月23日、関電提出資料:大飯3、4号炉設置許可基準規制等への適合性について(地盤)、甲468[270 KB]、159頁)」。被告関電は、坑間探査結果については異方性を検討せず、NW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査結果のみを比較して異方性はないと云っている。

原告らは、上記の坑間弾性波探査の結果から、波の伝播方向とP波速度(1,378データ)の関係を求めた(甲467、4~8頁)。次頁の図(左)はP波速度の方位10°毎の平均値である。破砕帯の分布図と並べて示した。原子炉建屋付近では、平均のP波速度は、南北方向が大きく、東西方向が小さい。違いは1割以上であり、異方性の方位は断層破砕帯の走向に関係している。P波速度は、断層破砕帯の走向方向で大きく、横切る方向で小さい。

被告関電は、この異方性が相殺されるNW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査のみのデータによって異方性はないと云っているのである。屈折法探査の結果だけでなく坑間弾性波探査の結果も比較検討すべきである。被告関電は、各種資料の統一的解釈を怠っているというより、調査資料を恣意的に解釈し、恣意的に無視している。

【図】P波速度の異方性と断層破砕帯の走向方位
円形グラフで地震波の伝播方位とP波速度(km/s)を示す
南北方向(破砕帯走向方向):約4.5km/s、東西方向(破砕帯を横切る方向):約3.9km/s【図省略】


13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]において「被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などと随所で反論した(例えば、19、24、25頁など)。この主張は、「高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会が,安全性に関する具体的審査基準を制定するとともに,当該基準への適合性について,科学的・専門技術的知見から十分な審査を行うこととしている(名古屋高裁金沢支部・控訴審判決、平成30年7月4日)」という判断と軌を一にしている。以下に、規制委員会の「科学的・専門技術的知見からの十分な審査」に疑念を生ずる事例を挙げる。

 (1)反射法弾性波探査における回折波が議論されていないこと、速度解析結果が開示されていないこと

被告関電は、大飯サイトにおける反射法地震探査の結果を、第59回審査会合(平成25年12月18日)で報告している。この会合ではA測線の反射のパターンが弱くなることの議論はある(原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合第59回議事録、平成25年12月18日、原子力規制委員会、甲469[584 KB]、43頁)が、反射法地震探査の専門家である元物理探査学会理事田村八洲夫氏や同学会元会長の芦田譲京大名誉教授が、深度断面に指摘した断層構造を示唆する回折波については、この会合だけでなく以後の審査会合においても全く議論がない。また、被告関電は、速度断面を作成する過程で行われる速度解析の結果を開示していないが、このことは不問にされ、屈折法解析による速度構造のみが議論されている(同[584 KB]、44頁)。

 (2)試掘坑弾性波探査・坑間弾性波探査結果の等閑視

被告関電は、原子炉建屋の立地する基盤岩層は、試掘坑弾性波探査の屈折法探査結果からVp=4.3km/s、Vs=2.2km/s、坑間弾性波探査からVp=4.3km/sと評価し、また、これらのデータから速度の異方性はないとしている(丙178[11 MB] 添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)。

屈折法探査の結果は、第21回審査会合(平成25年9月18日)で説明されているが、この資料は原子炉建設前の大飯3、4号機設置許可申請書の再掲である(資料1-1大飯発電所地下構造の把握について、甲470[941 KB]、2~6頁)。

坑間弾性波探査の結果は審査会合では審議されておらず、平成28年2月23日に開催された事業者ヒアリング(65)において「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である(大飯3,4号炉設置許可基準規則等への適合性について(地盤)、平成28年2月23日、関電、甲468[270 KB]、159頁)」と説明されたようである。同日の議事録には「関西電力から、平成25年7月8日に申請のあった大飯発電所3、4号機設置変更許可申請のうち、地盤(敷地の地質・地質構造並びに基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価)、地震動評価、津波影響評価、火山影響評価について説明があった。これに対し、原子力規制庁は、引き続き確認することとした」との要旨が記載されているのみで、坑間弾性波探査の結果が審議されたのかどうかは不明である。

事業者ヒアリング(65)当日の添付書類六(丙178)には、「第5.110図試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)結果図」が105~108頁に示されており、この図から一目瞭然で、原子炉建屋付近のP波速度が、場所によってまた伝播方向によって変化していること、すなわち基盤構造が不均質であることが判る。
規制委員会はこの図を審議しなかったのであろうか。

坑間弾性波探査は、屈折法探査と同時期の原子炉建設前に実施されたものである。被告関電は、平成25年9月18日の第21回審査会合では、屈折法探査の結果についてのみ説明し、構造の不均質性が明瞭な坑間弾性波探査の結果は資料に挙げていない(資料1-2大飯発電所の地下構造把握について、資料1-2同(データ集)、甲471[110 KB])。そして、平成28年2月23日の事業者ヒアリング(65)において膨大な添付資料の中に4枚の図を付して「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%」と記載するのみである(甲468、159頁)。公開されている規制委員会審査会合の議事録には、坑間弾性波探査の結果が審議されたという記録は見つからない。

 (3)断層破砕帯による速度構造の不均質と震動特性への影響

被告関電は、第78回審査会合(平成26年2月5日)において、原子炉建屋直下の断層破砕帯の幅と長さの関係を踏まえた破砕帯の特性について説明している(資料2-1、大飯発電所内敷地破砕帯の評価について、関電、甲472[1 MB]、19~24頁)。原子炉建屋付近および直下に存在する断層破砕帯は、その活動性の評価および原子炉建屋など構造物の支持基盤としての力学的特性が調査の対象となったが、基準地震動を評価するうえで重要な速度構造を不均質にさせる作用、不均質地盤構造による地震時の震動特性への影響は全く考慮されていない。すでに述べたように、被告関電のデータから、破砕帯の存在によって速度の場所による変化、速度の異方性などが生じていると判断されるが、規制委員会はこのことを等閑視したのであろうか。

 (4)地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度

被告関電は、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析によって地盤モデルを構築した。観測波形から推定された位相速度には、測定誤差が含まれている。観測位相速度には誤差の範囲が明示されなければならず、これを元に逆解析結果の信頼性が評価される。ところが、被告関電が提示した観測位相速度には、誤差限界の表示がない。これから求まった地盤モデルも信頼限界が不明である。すなわち、信頼性の限界が不明な地盤モデルによって基準地震動が評価されている。このことを規制委員会は認めたのであろうか。

位相速度の逆解析から求めた地盤速度構造は、反射法地震探査で得られた反射深度断面と整合しなければばらないが、規制委員会は両者を比較して審議したのであろうか、審査会合の議事録にはその記事が見つからない。

微細なことであるが、逆解析においてVpを変数として扱っているか、VsはVpとは独立か、それともVpとVsとは何らかの関係があるのかが質疑され、被告関電は「一応Vp、Vsを独立で考えている」と返答している(平成26年3月12日第92回審査会合議事録、甲473、72~73頁)。しかし、これはウソである。各層のVpとVsとは変数ではなく固定された定数として前もって与えられており、層厚だけを逆解析により求めたことが、先の審査会合で示されている(第89回審査会合、資料3大飯発電所地盤モデルの評価について、平成26年3月5日、関電、甲474[1 MB]、106頁)。原告らは、このウソの説明では納得できない。

 (5)新規制基準への適合性

原子力規制委員会は、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月)」を定め(甲475[953 KB])、地震動評価のガイドラインを示している。
ここでは次の3項目について規制委員会の審査に疑問を呈する:ア三次元地下構造モデルについて、イ地震観測記録による構造モデルの検証について、ウ地盤構造モデルの不確かさについて。

  ア 三次元地下構造モデルについて

審査ガイド(丙27)には「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)、微動アレイ探査、重力探査、深層ボーリング、二次元あるいは三次元の適切な物理探査(反射法・屈折法地震探査)等のデータに基づき、ジョイントインバージョン解析手法など客観的・合理的な手段によってモデルが評価されていることを確認する。なお、地下構造の評価の過程において、地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き、三次元的な地下構造により検討されていることを確認する(6頁)」と記載され、三次元地下構造モデルで基準地震動を評価すべきであると規定されている。「地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き」という但し書きがあるため、電力事業者は3次元構造探査を逃れようとするようである。しかし、新規制基準が執行(平成25年7月8日)される直前の第4回評価会合(平成25年5月10日)において「成層かつ均質な場合だと思って三次元的に調査をしないということではなくて、三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築することを意図している」と、3次元構造を詳しく把握したうえでモデル化をすることを要求しているのであると委員会委員は被告関電に説明をしている(議事録、甲475[953 KB]、4~6頁)。被告関電が実施した調査は全て、大飯サイトの基礎地盤が不整形であることを示している。
規制委員会は当初、「三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築すること」を要求したはずである。新規制基準に適合するためには、3次元の探査を実施する必要がある。

  イ 地震観測記録による構造モデルの検証について

審査ガイド(丙28[13 MB])は、「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)・・・・によってモデルが評価されていることを確認する(6頁)」と、地震観測記録によってモデルの妥当性を検証することを求めている。

これを受けて、被告関電は、第21回審査会合(平成25年9月18日)において、地下構造把握のための追加調査計画として「地表面での地震観測を平成25年9月中旬から、鉛直アレイ地震観測を平成26年2月から、また、大深度地震観測を平成27年度から実施するとの計画(資料1-1 大飯発電所地下構造の把握について、甲470[941 KB]、27頁)」を提出した。しかし、これまで規制委員会の審査会合で、地震観測結果の公表や説明は皆無である。

被告関電は、第206回審査会合(平成27年3月13日)において、大深度地震計設置の取り組み状況を説明している。資料には「当初計画地点については、掘削中に坑内の崩落が発生するなど、大深度地震計の設置に不適当な地盤と判断した。地震計の設置位置を見直し、新たな候補地点(鯨谷付近)に設置する。見直し位置で工事着手済み。今後、地震観測を早期に開始するため、行程の前倒しに取り組む。(工期:約3年間)(資料3-4大飯発電所地震動評価について、平成27年3月13日、関電、甲476[674 KB]、185頁)」とある。当初計画地点は3号炉の南南東方向(マムシ谷)であり、新たな候補地点は4号炉の西側である。原子炉建屋が立地する基礎地盤では、これまで述べたように地震波速度が西から東に系統的に低下するが、より東に位置する地震計設置孔が崩落する事故が生じている。これについて審査会合での議論は皆無である。

平成27年3月時点で工期3年とあるから、平成30年3月頃からは大深度地震観測も行われているはずである。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの妥当性を地震観測記録によって検討した結果を審査すべきである。

  ウ 地盤構造モデルの不確かさについて

審査ガイド(丙28[13 MB])には、「地震動評価においては、震源特性(震源モデル)、伝播特性(地殻・上部マントル構造)、サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して、分析が適切になされていることを確認する(6~7頁)」と定められている。

被告関電は、震源モデルについて不確かさを考慮した(準備書面(3)[17 MB]、98~104頁)と言うだけで、伝播特性とサイト特性に関しては、全く考慮していない。サイト特性に関しては、基準地震動評価のための地盤構造モデルは、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析に基づいて作成されている。本書面で詳しく説明したように、観測位相速度に含まれる誤差の評価は全くなされていない。位相速度の逆解析においては、恣意的な初期モデルによる計算、さらに計算結果の恣意的な改変が行われ、モデルに含まれる不確しかさの検討は一切行われていない。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの不確かさが適切になされているか審査すべきである。


14 まとめ

本準備書面では、被告関電が準備書面(17)[6 MB]で主張した「原告の反論は①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などの反論に再反論した。被告関電は、原告の多くの反論に口をつぐんで一切再反論せず、またいくつかした再反論も事実を曲げ、観測データを恣意的に評価し、新規制基準の要求に違背している。

以上、本件地域特性を検討しても、硬質な成層均質な地盤が広がっていて平均像を超える地震動が起きないなどとは到底言う事ができない。

以上