◆原告第67準備書面
第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること

原告第67準備書面
-被告関西電力関西電力準備書面(22)に対する反論等-

2019年11月22日

目次

第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること

1 断層破砕帯が存在することについては争いがないこと
2 断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと
3 断層破砕帯の存在は考慮されておらずその影響も検討されていないこと
4 岩質が堅硬であるとの被告関西電力の主張について


第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること


 1 断層破砕帯が存在することについては争いがないこと

上記でも述べたとおり,大飯原発敷地には15本の破砕帯が存在する(次頁に丙45[17 MB]・40頁・図2を引用)《図省略》。

被告関西電力がこれらの破砕帯について調査・検討を行ったのは,これらが将来活動する可能性のある断層であるか否かという観点のみであり,これらが地震動に与える影響という観点からは何ら検討を行っていない(原告第56準備書面・16頁以下)。そして準備書面22[4 MB]では断層破砕帯に一切触れていない。

そこで,この点について敷衍する。

 2 断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと

  (1)新規制基準によっても断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと

基準地震動ガイドは,応答スペクトルに基づく地震動評価において,敷地周辺の地下構造に基づく地震波の伝播特性(サイト特性)の影響を考慮して応答スペクトルを適切に評価することを求め【基準地震動ガイドⅠ 3.3.1(1)②1)】,また,断層モデルを用いた手法による地震動評価においても,地下構造データが適切に取得されていること,地層の傾斜,断層,褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地下構造モデルの設定においては,地震発生層の上端深さ,地震基盤・解放基盤の位置や形状,地下構造の三次元的不整形性,地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されていることを求めている【基準地震動ガイドⅠ 3.3.2(4)⑤】。

そうすると,「敷地周辺の地下構造」の一である断層破砕帯が地震動に与える影響(サイト特性)についても考慮しなければならず,地層の傾斜等の地質構造や地下構造の三次元的不整形性等も適切に考慮しなければならない。

  (2)材料力学的観点からも断層破砕帯の適切な考慮が必須であること

日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」(甲506[873 KB])にあるとおり,「岩盤は大小様々の不連続面(地質学的分離面)を含んだ複雑な構造体で」(445頁)あり,大飯原発敷地も例外ではない。むしろ,第2・5項P波速度コンター図及び被告関西電力の「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六 地盤構造に関する図面[11 MB],6-3-128頁)との主張から,大飯原発敷地の岩盤が均質でないことは明らかであること,「高角度傾斜の節理が発達している」こと(被告関西電力準備書面22[4 MB]・12頁),多数の破砕帯が存在することから,同敷地の岩盤は不連続性の大きい岩盤である。

そして,日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」(甲506[873 KB])は,「不連続性岩盤の力学挙動が信頼し得る制度で予測・評価できるためには,不連続面の分布性状及び力学特性が明らかにされているとともに,それら不連続面の影響を合理的に評価し得る力学モデルが確立されねばならない」(445頁)とする。地震動も岩盤に力が加わった結果であるから,ある地点における地震動を信頼し得る制度で予測・評価できるためには地盤の不連続面の力学挙動を予測・評価する必要があるのであることとなり,そのためには,上記のとおり,不連続面の分布性状等を明らかにすることが必須なのである。

断層破砕帯の分布性状等によって岩盤の力学挙動は変わる。新規制基準によっても断層破砕帯の存在が地震動に与える影響を考慮すべきであるという結論は,こうした材料力学的観点からも裏付けることができる。

 3 断層破砕帯の存在は考慮されておらずその影響も検討されていないこと

  (1)そもそも断層破砕帯が地震動に与える影響を全く検討していないこと

上記のとおり,被告関西電力は,断層破砕帯が活断層であるか否かの観点でのみ検討しており,サイト特性としての観点,すなわち断層破砕帯の存在による構造変化,シームの規模や分布様式などが地震時の震動性状に及ぼす影響は全く検討されていない。

よって,被告関西電力は,新規制基準が求める断層破砕帯についての考慮を行っていない。

  (2)地下構造を適切に把握・考慮していないこと

   ア CM級が広く分布しており堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているのではないという前提に立っていないこと
上記のとおり,被告関西電力は,大飯原発敷地の岩盤の大部分はCH級であると見せかけるように丙28・14頁,同196・11頁の図を引用しているが,実際には1/3以上が「多少軟質化しており,岩質も多少軟らかくなっている」(丙307[2 MB]・101頁)CM級であり,孔によっては半分以上を占めているのであって,堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているとは認められない。被告関西電力はこの事実を等閑視しており,むしろ恣意的に歪めているのである。

   イ 低速度層の存在する深さが場所によって異なっており平坦かつ成層な構造ではないこと
★第2・3項・(3)で明らかにしたとおり,RQDは深さ方向に数~数十mの幅で増減しており,かつボーリング孔の位置によってRQDの小さい層の深さが異なっている。深さ25mごとの平均値を内挿して得たコンター図を次頁に再掲する《図省略》。

上図の赤色の部分はRQDの値が小さく,P波速度は低くなる。図のとおり低速度層が存在しているが,ボーリング孔によって深さ分布は一様ではない。例えばRQDが25%以下の区間は,4号炉西側のNo.1159孔でEL-10~-70m、直下のNo.1157孔でEL-0~-13m、-70~-90m、-125~-145m、-265~-285m、3号炉西側のNo.1155孔でEL-20~-70m、直下のNo.1158孔では部分的に25%を僅かに越える場所があるがEL-30~-130m、-200~-230m、東側のNo.1162孔でEl0~-80mなどの深さにあり、RQDの小さい層の深さが異なっているのである。共通した深さでRQDが著しく低下するような地層は形成されていない。これは、断層破砕帯がシームを伴って髙角度で沈み込み、それぞれのボーリング孔とは異なる深さで斜交しているためと解するのが合理的であり,反対にいえば平坦な成層構造とは認められない。

被告関西電力はこのような地下構造を把握していないか,あるいは恣意的に等閑視しており,当然それが地震時の震動性状に及ぼす影響も全く検討していない。

  (3)断層破砕帯が地震動に与える影響

被告関西電力が「RQDが小さい深度及び孔径が大きい深度,つまり割れ目が多く,地質的に脆弱な深度においてVpと密度の低下が確認された」と述べ,断層破砕帯が存在しRQDが小さい層は低速度層であると認めているように,RQDの小さい岩盤は堅硬ではなく,低速度層であるために,地震動を増幅させることになる。

だからこそ新規制基準も,地質構造や地下構造等を適切に把握しなければならないとしているのである。

  (4)被告関西電力の策定した基準地震動は新規制基準にも悖ること

それにもかかわらず,以上のとおり被告関西電力は,大飯原発敷地は堅硬でないのに恣意的に評価を歪め,地震動に大きな影響を与える断層破砕帯が高角度で沈み込んでいるにもかかわらずこれを等閑視し,地盤は堅硬であるなどと主張しているのであって,新規制基準を前提にしたとしてもサイト特性や地質構造,地下構造を適切に評価しているとは認められない。

よって,被告関西電力の策定した基準地震動は新規制基準にも悖るものであって,信頼性がないこともまた明らかである。

 4 岩質が堅硬であるとの被告関西電力の主張について

被告関西電力はボーリングコア等によって岩質が堅硬であること等が確認されたと主張しているが,新規制基準は敷地周辺の地下構造に基づく地震波のサイト特性の影響を考慮するように,あるいは地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されることを求めているのであるから,岩質が堅硬であることを確認したのみでは同基準を充たしたことにはならない。上記のとおり,「地盤の力学挙動は…岩石が示すそれとは本質的に異なる」(日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」 甲506[873 KB])のであるから,サイト特性の影響等を考慮するためには断層破砕帯が地震動に及ぼす影響を考慮しなければならないのである。

よって,岩質が堅硬であることを確認したとしてもサイト特性その他新規制基準の要求する要素を考慮したことにはならず,被告関西電力の主張には理由がない。

以 上