投稿者「meisei」のアーカイブ

◆原発に関わる最近の出来事(6月中旬)

【2018年6月22日,京都キンカンで配付。】

人類の手に負えない原発の即時全廃を!

東電、福島第2原発廃炉検討を表明

◆6月14日、東京電力ホールディングスの小早川智明社長は、福島第2原発の全4基の廃炉を検討すると表明しました。正式決定すれば、福島県内の全原発10基が廃炉になります。福島第2原発には、1982年、1984年、1985年、1987年に運転開始した定格出力110万kwの原発(沸騰水型軽水炉)4基があります。2011年3月11日の東日本大震災では、3本の送電系統のうち2本を失い、その後の津波で残留熱除去系(緊急炉心冷却装置ECCSの一つ)を含む原子炉冷却機能を喪失して、原子炉緊急事態宣言が発令されましたが、炉心溶融は免れました。

◆廃炉には、約30年と約2800憶円を要するとされていますが、国内で実際に商業原発の廃炉を完了した経験はなく、廃炉で生ずる多量の放射性廃棄物の処分や作業員の確保など難題が山積で、期間、費用ともに膨れ上がる可能性があります。なお、今回の表明では、廃炉の具体的な道筋は示さず、実現の目途はたっていません。

汚染水の海洋放出、高放射線地域への避難者の帰還、柏崎刈羽原発再稼働を推進したい東電の思惑を許してはなりません

◆福島県の内堀知事は、2014年10月の知事選で福島の全原発廃炉を公約に掲げ、当選後は、第2原発の早期廃炉を求めていました。しかし、東電は、「国のエネルギー政策などを勘案して、総合的に判断する」、「福島第1原発廃炉の後方支援に必要」などと主張して、廃炉表明を先延ばしにし、事故後7年を過ぎた今、やっと廃炉を表明したのです。

◆この廃炉表明は、地元の要請に応えたかのように見せかけてはいますが、実は、原発事故の当事者・東電の都合で決めているのです。

◆都合の1つは、トリチウムを含む福島第1原発の汚染水の海洋放出です。海洋放出に反対する漁民などの説得に、知事や関係者の協力を得たいためです。今の時期に原発全基廃炉を決定して、今秋の県知事選で再選を目指す内堀知事の成果にして、東電の意向に対する知事の理解を得たいためです。この時期の廃炉表明の裏には、きわめて利己的な思惑があります。

◆都合の第2は、「第2原発が再稼働して、再び事故が起こるかも知れない」とする不安を払拭(ふっしょく)して、高放射線地域への避難者の帰還を迫るためです。

◆都合の第3は、「新規制基準」をクリヤーして再稼働させるには膨大な時間と経費がかかる福島第2原発を廃炉にして、東電が経営再建の柱と主張する柏崎刈羽原発の再稼働に力を集中するためです。今月10日の新潟県知事選の結果も、東電は、柏崎刈羽原発再稼働への追い風と考えているのです。

東海村再処理工場、廃止へ

◆6月13日、原子力規制委員会(規制委)は定例会合で、使用済み核燃料からプルトニウムなどを取り出す国内初の再処理工場・日本原子力研究開発機構(原子力機構)「東海再処理施設」の廃止措置計画を認可しました。計画では、最もリスクが懸念される高レベル放射性廃液について、2028年度末までにガラス固化処理を終えるとしています。廃止作業には約70年を要し、国費約1兆円が投入されます。

◆東海再処理施設は1977年に、原発の使用済み核燃料からウランやプルトニウムを取り出す再処理を開始して、これまでに1140トンの使用済み核燃料を処理し、原子力機構は4643キログラム[金属プルトニウム換算(実際の形態は、硝酸プルトニウムや酸化プルトニウム)]のプルトニウムを保有しています(4114キログラムを東海の再処理施設、燃料加工施設で保管、529キログラムを「常陽」、「もんじゅ」、「臨界実験装置」などで保管)。

◆東海再処理施設は老朽化し、また、福島原発事故を踏まえた「新規制基準」に適合するためには、安全対策工事に多額の費用を要することなどから、2014年に廃止が決まり、原子力機構は昨年6月、規制委に廃止措置計画の認可を申請していました。

◆計画では、廃止対象は約30施設です。ガラス固化処理に優先して取り組む一方、分離精製工場など主要4施設の除染などに先行着手し、低レベル放射性廃棄物は2023年度半ば以降に処理を開始するとしています。

◆同機構は、当面10年間で約2170億円をかけて安全対策やガラス固化処理を行い、その後、計約7700億円をかけて施設の解体、放射性廃棄物の処理などを行うとしています。これらの費用の大半は、国費で賄われます。

◆規制委の会合では、更田(ふけた)委員長が「当面の関心は、ガラス固化処理がきちんと終了するかどうかだ。放射性廃棄物の貯蔵の実態についてもつまびらかにしてほしい」と要望しました。

◆後継施設となる日本原燃の再処理工場(青森県六ケ所村)は、2009年の完成予定が24回延期され、費用も当初の7600億円から、2兆9500億円(2017年7月)に膨れ上がっています。現在の完成予定は2021年度上半期で、規制委の安全審査は大詰めを迎えていますが、危険極まりない再処理工場の運転は問題山積です。

◆なお、「東海再処理施設」は、1997年3月11日、再処理後に残る低レベル放射性廃液をアスファルトと一緒に固めて処理する施設で爆発事故を起こし、「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故と併せて、当時の運営主体だった「動力炉・核燃料開発事業団」(動燃)の組織改編のきっかけになりました。

「核燃料サイクル」の失敗を反省もせずに、
70年という長期の廃止作業を行おうとする
政府、規制委、原子力機構

◆今までに、枚挙の暇がないほどの重大トラブルを起こした「原子力ムラ」の中枢・旧動燃と統合した原子力機構が、70年という長期にわたって安全に作業を進めることができるか否かは大きな課題です。

70年の長期の間には、想定外の天変地変の可能性があり、政治、経済、社会の変動も起こります。それに対応した対策を念頭に置いて、強い放射線を出す液体や固体などが大量にある再処理工場の廃止計画が立てられているとは、到底考えられません。

◆まず、施設に貯蔵されているおよそ360立方メートルの高レベルの放射性廃液についてです。安全上のリスクを下げるために廃液はガラスと一緒に固めて処理する作業(ガラス固化)が以前から進められていますが、過去に何度もトラブルを起こし運転を停止していて、およそ12年半かかるとする工程が順調に進むかどうかは課題です。また、ガラス固化した高レベル放射性物質の安全保管の困難さも指摘されています。なお、東海の施設には、現在でもガラス固化体約270本があります。

◆さらに、通常、施設の廃止作業は、運用が終わってから行われますが、東海村にある再処理施設は再処理の途中で廃止作業が進められることへの不安です。これについて、規制委の更田委員長は「異例といってもいいかもしれない」と述べていて、同じように核燃料が原子炉に入ったまま廃炉の作業が進められる「もんじゅ」と併せて規制庁に監視チームを設けて安全を徹底するとしていますが、規制委が「新規制基準」適合とした原発の多くが再稼働時にトラブルを起こした事実からしても、規制委の監視は無責任この上ないことは明らかです。

◆次に、使用済み核燃料を再処理する際、核燃料を細かく切った後に残る金属の廃材の保管です。この廃材は、強い放射線を出すため、放射性廃棄物として金属製の容器に入れて保管していますが、容器を後から取り出すことを考慮せずにプールに沈めていて、約800個の容器などがプールの中で山積みになっています。プールには、クレーンなど遠隔操作で容器を取り出す装置を新たに整備する必要があり、原子力機構は、およそ10年後から取り出し作業を始めるとしています。

◆さらに、これらの廃材や、廃液をガラスで固めた高レベル放射性廃棄物(ガラス固化体)の処分場の建設は見通しが立っていません。また、再処理工場の廃止に伴って、約7万1千トンの低レベル放射性廃棄物の発生も推定されていますが、その処分先も未定です。
(ここまでは、6月13日のNHKニュースを参照しました。)

◆以上のように、廃止の困難さだけを見ても、再処理工場を動かしてはならないことは明らかです。

玄海原発4号機再稼働

◆6月13日、九州電力(九電)は、佐賀県の玄海原発4号機(1997年運転開始;加圧水型;118万kw)を6年半ぶりに再稼働させました。原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」とする「新規制基準」に適合したことを拠り所にして再稼働した原発は、これで5原発9基になりました。九電では、川内原発1,2号機と玄海原発3号機(1994年運転開始;加圧水型;118万kw;2009年よりプルサーマル運転;本年3月23日再稼働)に次いで4基となりました。

◆玄海4号機は、5月24日に再稼働するとされていましたが、1次冷却水を循環させるポンプでトラブル(循環ポンプの流量が2倍になった)が発生して、点検や部品交換のため延期されていました。一方、3月に再稼働された3号機は、再稼働1週間後に、2次系配管に空いた穴からの蒸気漏れがあり、発送電を一時中止しています。

これらのトラブルは、原発の部品や配管の摩耗、腐食、減肉が相当進んでいることを示し、また、電力会社の安全対策が極めていい加減で、原発の「新規制基準」適合性を審査しながら、トラブルの兆候を見抜けなかった規制委の審査が「手抜き」であることを物語っています。ここでのトラブルは軽微なものかもしれませんが、このトラブルの中には、腐食、減肉、脆化など、重大事故につながるものがあります。さらに、度重なるトラブルで危機感がマヒして、重大事故の兆候を見落とす可能性もあります。

◆玄海原発には、廃炉になった1号機(1975年運転開始;加圧水型;55.9万kw;2015年廃炉決定)、2021年に運転開始から40年を迎える2号機(1981年運転開始;加圧水型;55.9万kw;定期点検中)もあります。2号機は、2020年3月までに運転延長を申請しなければ、原発運転40年の制限により廃炉が決定されます。「新規制基準」に適合させるには多額の安全対策費を要する上に、出力が小さいため、この原発の廃炉が決定される可能性は大きいと言えます。老朽玄海2号機の廃炉を勝ち取りましょう。

新電力への切り替え家庭、10%超え

◆6月18日、経産省は、今年3月末までに新電力に切り替えた家庭が約622万件となり、10%を超えたと発表しました。

◆新電力は、大口電力消費者が電力購入先を選べるようにした規制緩和(大口向け電力小売り自由化:2000年)と家庭向け小売り電力の購入先も選べるようにした規制緩和(電力全面自由化:2016年4月)に伴って新規参入した電力会社です。通信やガスなどの異業種も多く、2018年3月末で約500社にのぼります。

◆新電力への切り替えは、都市部が中心ですが、地方にも広がっています。旧来の電力会社管内の切り替え率を多い順に示すと、次のようになります。

①東京電力(13.9%)、②関西電力(13.1%)、③北海道電力(10.0%)、④中部電力(7.5%)、⑤九州電力(6.5%)、⑥東北電力(4.4%)、⑦四国電力(4.3%)、⑧北陸電力(3.0%)、⑨中国電力(2.9%)、⑩沖縄電力(0.0%)

◆家庭向け電力販売が最多の新電力は東京ガスで、KDDI、大阪ガスが続きました。

原発電力から脱したいとする電力消費者の意向を反映して、新電力への切り替えが進んでいると考えられますが、肝心なことは「まずは節電」です。節電によって、電力は原発なしでも十分足りることを示しましょう!

また、原発がダメなら「再生可能エネルギー」という考えは止めましょう。例えば、メガソーラーは、自然破壊エネルギーで、決して「再生可能エネルギー」ではありません。山林や農地に建設されたメガソーラーは、植物が利用していた太陽光エネルギーを人間が奪って使う施設です。太陽光は降り注いでいますが、人が電気エネルギーに変換して使用したら、「再生」できず、植物の生育を妨げるのです。

原発は止められても、地震は止められません!
原発重大事故を繰り返さないために原発即時全廃を!

◆6月18日午前8時前、大阪府北部を震源とするM6.1、最大震度6弱の地震が発生し、4人が亡くなられ、300人以上が負傷されました。この地震は、1923年に観測を始めて以来、最大の地震です。被災された方には、心よりお見舞い申し上げます。

◆この地震の震源地のやや南と一昨年の熊本・大分大地震の震源地は中央構造線と呼ばれる日本最大級の断層で結ばれていて、途中には伊方原発があります。中央構造線を南西に延長すれば川内原発、北西に延長すれば玄海原発があります。今回の震源地・大阪府北部の北北東には若狭の原発群があります。この地震は、南海トラフ大地震の予兆であると多くが指摘しています。南海トラフ大地震が発生すれば、原発重大事故は避けられません。

今回の大地震、熊本・大分大地震(2016年)、東日本大地震(2011年)、阪神・淡路大地震(1995年)は、何れも予知できませんでした。日本のような地震大国では、どこでも、大地震が発生する可能性がありますが、現代科学では、それを止めることはもちろん、予知することすらできないのです。

一方、原発は人が動かしているのですから、明日にでも止めることができます。重大事故の前に、原発を全廃しましょう!

原発全廃こそが「原子力防災」です。


高浜原発4号機の再々稼働を許すな!

高浜原発4号機は5月18日、3号機は8月3日に定期検査に入り、4号機については8月下旬から9月初旬に再稼働されようとしています。定期点検入りの高浜原発をそのまま廃炉に追い込みましょう!

老朽高浜原発1,2号機、美浜原発3号機を廃炉に!

40年を超えた標記原発が危険極まりないことは言を待ちません。老朽原発の安全対策費は高騰を続けていますから、廃炉実現の可能性は大です。廃炉実現のために、断固とした大衆運動や裁判闘争を高揚させましょう!


2018年6月22日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆寄稿 原発立地を歩いて

【2018年6月15日,京都キンカンで配付。】

寄稿

原発立地を歩いて

若狭の原発を考える会・橋田 秀美

◆約4年弱の若狭で行った原発反対行動において、私が見たこと、聞いたこと、そして感じたことなどを中心に披露させていただきたいと思います。1955年、兵庫県の但馬地方に農家の娘として生まれ、高校卒業後、京都の郵便局に就職、定年の2年前に退職、退職後、市民運動に関わるようになった私の経験です。

「おもしろそうだな」から入ったこの運動

◆現地に活動拠点を置き、現地にこだわった反原発活動をする「若狭の原発を考える会」に共感し、「原発立地の住民は原発とどう向き合っていらっしゃるか」、「原発立地で原発との関わりの深い皆さんに原発を拒否していただくにはどうすればよいか」、「原発立地・若狭の住民と原発重大事故では被害地にもなる原発電力消費地・関西の住民との連帯した反原発運動をどう構築したらよいか」などを考えることは「おもしろそうだな」と思い、脱原発、反原発を現地で訴える行動に参加しました。

アメーバデモで原発立地の声を感じる

◆まず、「若狭の原発を考える会」の代表的な行動・アメーバデモで聞いた住民の方たちの声を紹介します。

◆(アメーバデモとは; 関西や福井から原発立地の若狭や周辺の舞鶴、高島に集まり、3~4人が一組になり、徒歩で、鳴り物を鳴らしながら、また、「反原発」の旗を掲げ、肩にかけたスピーカーで呼びかけながら、チラシを若狭の全ての集落の、隅から隅まで配り歩く行動です。通常は2~3グループですが、時には全国からの応援も得て数十グループにもなります。お会いする住民からはできるだけお話をうかがうようにしています。)

◆美浜の畑で仕事の手を止めて、「原発は怖い。よう知ってるんや」と、悲しそうな顔でおっしゃる女性がいました。もう原発はここにある、どうしようもないというあきらめか、はたまた、原発を許してしまった後悔や怒りか・・・、そんな風に思えて胸が詰まりました。

◆スピーカーで「原発反対」を訴えたところ、高浜の畑の老人たちから「おまえら、原発の電気を使ってるやろ!」と罵声(ばせい)を浴びました、こんなことはめったににないので、少しへこみました。

◆おおい町大島の男性に「わしらを責めに来たのか」と言われ、複雑な心境になりました。

◆高浜商店街で店先を掃いている女性にチラシを渡して「原発に反対しています」というと、「若い人は都会の大学に行って、そこで就職するから誰も帰って来ない。私らもう死ぬだけだからいいんや」と、そこに別の女性が話しに加わってこられ「いいや、私は福島の事故を見て考え方が変わった。やっぱり原発はあかん」と3人で原発論議になった。帰り際「あんた、よう声かけてくれたなぁ。しゃべれてよかったわ。」とおっしゃった。

◆「反原発」の旗や、スピーカーを鳴らしながら歩いていると会釈する中、高校生や、手を振る小学生がいます。あまり都会ではない光景に心が安らぎます。

◆かつて原発労働者だったという老人は、「わしら放射能の怖さなんか何にも教えられなかった。胸につけた線量計がピーピーなり出すけど、そこら中で鳴っているから誰のが鳴っているかもわからず、仕事をしていた」とリアルな話に驚いた。仲間は70代で多くが亡くなったとおっしゃった。

◆名田庄での長い立ち話。「住民はみんな反対なのに町長や議員は何で賛成するのか分からない」とのこと。

◆この他にも、アメーバデモの参加者は、計1,000人以上の方々と直接お話を聞きましたが、80~90%が原発反対あるいは原発に疑問を持っておられることが分かりました。原発立地でも、脱原発・反原発の隠れた声が多数であることを実感しています。

◆以上のような、いろんな声に教えられ、また、励まされてきました。身体は疲れるけど、気持ちは何もしんどくない、楽しいと感じるようになりました。

◆都市部の人にこの話をすると「へえー。チラシ配って『ありがとう』って言われるの、いいなー」と興味を示されます。このことは、2月25.26日の若狭湾岸一斉チラシ配布(拡大アメーバデモ)に参加された皆さんも実感されました。この行動には、全国から延べ220人の方が参加されましたが、1日目の夜の交流会でも「若狭の人は温かい。ほとんどの人から『ありがとう』、『ごくろうさん』と言われた。都会でチラシ配っても『ありがとう』なんて言われたことがない。来て良かった」との感激の言葉が多数聞かれました。現地の人たちに、反原発をアピールするだけでなく、運動する側の人たちに、現地で行動する意義、喜びを感じてもらえたという意味では本当によい企画だったと思いました。

原発立地に近い立地外住民の思い

◆2018年5月8日の中日新聞朝刊に、小浜湾を挟んで5 km離れた対岸の集落・小浜市内外海(うちとみ)地区での大飯原発再稼働についての世論調査の結果が掲載されました。ほぼ半数が再稼働に反対し、8割以上が廃炉を求めていることが分かりました。私達はその地域にも行ってみました。大飯原発は陸地からは見えないと思っていましたが、泊という地区からは見えました。最初にお話しした人からは、いきなり「原発を動かす政府が悪い」と怒りの言葉でした。出会う人がほとんど「原発反対」とおっしゃいます。原発が目と鼻の先にあり、もし事故がおきたら真っ先に被害を被る。小浜市は原発を拒否したのに、そんな理不尽さも感じ取れました。

(注:小浜市内外海地区の一部は、大飯原発から5 km圏すなわち事故時にすぐ避難が必要な「予防防護措置区域(PAZ)」にありながら、小浜市は原発の立地自治体ではないため、地元同意の手続きから外れています。)

原発立地も変わりつつあります

◆私たちは、高浜で、美浜で、おおいで集会や講演会、デモをしてきました。その集会やデモに現地の人が参加して欲しいという気持ちはもちろんあります。しかし、それはなかなかできないことだというのも分かっています。しかし、私達が現地で声を上げ、行動することで「声をあげていいんだ」、「反対って言っていいんだ」と思う人が増えていっているのは確かだと思います。なにかあったときに、この人たちはきっと立ち上がってくれると信じ期待しています。

◆一昨年の12月18日高浜原発の地元中の地元・音海地区が「40年超え原発運転延長反対」の決議を上げました。地域には「高浜原発運転延長反対」の立て看板がたち、今やのぼりまで立っています。これにあわてふためいたのは関電でした。関電はこの音海対策のために対策本部を設け、人員を配置し懐柔策に乗り出しました。地区の新年会に出席したいと言いだし、一升瓶をぶら下げて来たそうです。この事実から分かることは、やはり、地元から反対の声が上がるということが一番怖いのです。

◆昨年12月3日おおい町で反原発集会とデモをしたとき、「こうして外から来て原発反対運動をしてくれるのはありがたい。こういう運動がなかったら若狭で原発重大事故が起こっていたかもしれない」という住民の方がおられました。私はハッとしました。

◆3.11福島原発事故という大きな犠牲の下、全国で起こった「反原発」の大衆運動や裁判闘争が、電力会社に安全対策を迫ることとなり、事故を防ぐことに繋がっているのです。反対行動が無ければ、多額のお金を要する安全対策などせず、老朽原発を含む原発を次々に動かし、重大事故の確率は格段に高くなっていたでしょう。社会の不条理に無関心であること、声を上げず、行動に表さないことは、無自覚のうちの国策、体制擁護であり、自分を含む多くの人も危険に追い込むことになるのだと改めて考えさせられました。

私にとって昨年は激動の一年でした:少し変わりました

◆昨年、私は、国策に抗(あらが)ういろんな現地に行き、深く考えさせられる経験をしました。

◆私は子供の頃、農業を手伝わされました。そのころは遊びたいし、「土まみれになるしいやだなぁ」と思ったこともありますが、今は農業を経験したことが自分の生き方に大きく影響を与えていると思うようになりました。

◆成田空港建設ではすさまじい農地収奪が行われたということですが、三里塚でお目にかかった、農地を売らずに守り続けている農民が畑で働く姿はなんとも懐かしく、気高くさえ思えて、とても感動しました。「何億とお金を積まれても、土地は売らん。俺たちは1本100円の大根を作り消費者に喜んでもらう方が幸せだ」、そう言って今も続く空港会社や国からの不当な弾圧や嫌がらせに抗って、闘っておられます。

◆岩国の米軍基地も訪れました。今住んでいる京都の北部・京丹後に米軍Xバンドレーダー基地ができ、そこにも基地反対行動に行くようになり、そのつながりで「岩国に行ってみたい」と思ったのです。

◆愛宕山という山が削られて平らになり、そこに作られた米軍高級将校用住宅が建ち並んでいました。1軒が7、8千万円するそうです。建設費、家賃も光熱費も思いやり予算=私達の税金です。米軍用の大きな野球スタジアムもありました。このスタジアムは、私達の税金で立てられたものですが、米軍は「市民も使用してもいいよ」と言っているそうです。現物を見るとほんとに腹が立ちます。この怒りが行動の原動力になります。

◆上関原発建設に反対し続けている祝島(いわいしま)には、岩国の帰りに寄りました。上関原発建設予定地の真向かいにある島です。島民の9割が原発建設に反対しています。「あんな巨大な建物を見て暮らすのはいやだ」、「主要産業である漁業にとって、海が汚されたら生きていけない」、「もし事故が起こったら、こんな離島からどうして逃げるのか」、そんな思いで反対し続けています。非暴力で座り込んで住民は拒否してきたそうです。1割の人が金に目がくらみ、住民を裏切りましたが、未だ闘いは続いています。

◆こうして考えると、お目にかかった農民や漁民の方々には、自然の中で土と共に生きる、海の幸をいただいて生きる、これが人間としての生き方であり、将来にわたっての幸せであるという堅い信念があるのだと思います。だから、農地を手放してはいけない、原発で土や海を汚されたら人間は生きてはいけないことをよく知っていらっしゃいます。祝島の人たちは顔がみんなとてつもなく明るかった。それに比べると、若狭の原発立地の人の顔はどこか暗いものを感じます。それはもう原発があるからという諦めからくるものかもしれないし、原発を許してしまった怒りや後悔なのかもしれません。

◆しかし、先日、湾を挟んで高浜原発の対岸にあり、原発から4~5km の鎌倉という地区を訪れたとき、ハッとさせられたことがありました。高台の小さな集落ですが、棚田と畑が見事な景観を作り出しています。少し腰の曲がった老年の女性がにこにこしながら歩いてこられたので、挨拶して「原発反対のチラシです。読んでいただけますか」と手渡しました。すると、「まあ、ごくろうさん。そこの小さな田んぼと畑を一人でままごとのようにやっているんよ。でもこれで十分生きていけるから満足」とおっしゃったのです。私は、本当の豊かさとはこういうことではないかと思いました。そして、なんと人間らしい生き方かと感服しました。

◆私は、三里塚の農地や働く農民の方たちを見て、命をかけて守ってこられたこの畑を原発事故などで汚してなるものかと思い、祝島で、活き活きと海と共に暮らすこの人たちの暮らしを原発などで失わせてはいけないと思い、高浜町鎌倉の「ままごとのような小さい田んぼと畑で生きていける」とおっしゃった人の暮らしを守りたいと強く思いました。

◆そして、地道に労働争議を闘っているユニオンの方達との出会いもありました。原発事故は職場を奪います。福島原発事故は、大きな犠牲を持って私達にそれを教えてくれました。働く場を失い、復興のめども立たず、事故後4年目くらいから自ら命を絶つ人が増えました。新たな職もなかなか見つからず、家族は疲弊して離散してしまう例もたくさんありました。この責任を誰もとっていないことにほんとうに怒りが込み上げます。

おわりに

◆私のつたない経験と深い思いを書いてみました。最後に、以下を訴えます。

◆困難をいとわず、おもしろい企画を打ち出し、楽しく参加できる反原発運動を展開しましょう。

◆市民運動をしている方はほとんどが退職世代です。若い人が運動に参加しないと嘆く人がいますが、時間だけはある私達・年金世代が活き活きと活動する姿を見せればそれでいいと思っています。

◆現地に行きましょう。自分の目で見て感じたら人は変わります。私は現地行動で育てられたと思います。現地に通いながらいろんなことを発見し、学びました。

◆経済至上主義で壊されてしまった現状から、人間らしい生き方、人間が大事にされる社会を取り返さなければならないと思います。どのような社会が人間らしく生きられる社会なのか、どうしたらそんな社会が創れるのか、一人一人が考え、行動しましょう。

お読みいただき、ありがとうございました。


新潟県知事選挙では、
惜しくも野党共闘候補が敗れましたが、
この悔しさをバネに
さらに大きな原発全廃運動を構築しましょう!

◆6月10日投開票された新潟県知事選挙は激戦でしたが、野党が一丸となって推薦した候補は僅差で、与党系候補に敗れました。しかし、原発に関しては、新潟県民のNO の声は大きく、この選挙では、与党系候補ですら、前知事が進めた安全性検証を継続するとして、再稼働に慎重な姿勢を示さざるを得なかったのです。また、選挙中だけでなく当選後も、柏崎刈羽原発の再稼働の是非について、出直し知事選で県民に判断を仰ぐ可能性を強調しています。(任期中は原発を動かさないことを宣言したことになります。)

◆さらに大きく、全国的な再稼働阻止の大衆行動や原発運転差し止めの裁判闘争を構築し、原発全廃を実現しましょう!


2018年6月15日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆これまでの口頭弁論(第1~20回)のまとめ

①[2013年]

・第1回口頭弁論(2013年7月2日)

◆竹本修三・原告団長が「地震国日本で原発稼働は無理」と陳述。
◆原告の福島敦子さん(福島県南相馬市からの避難者)ほかの陳述。福島さんは「こどもを守ることに必死な,懸命な母親たちをどうか救ってください。こどもたちに少しでも明るい未来をどうか託してあげてください。私たち国民一人ひとりの切実な声に,どうか耳を傾けてください。大飯原発の再稼働は,現在の日本では必要ないと断罪してください。もう,私たち避難者のような体験をする人を万が一にも出してはいけないからです。司法が健全であることを信じています。日本国民は,憲法により守られていることを信じています。」と訴えました。

・第2回口頭弁論(2013年12月3日)

◆原告で,聖護院門跡の宮城泰年・門主が意見陳述。「大飯原発運転を差し止めることは,地球とそこに生きる私たち人間を含めすべての生物の安全を守ることです」と述べ,宗教者として原子力と共存することはできないこと,とりわけ日本には自然への崇拝,山岳信仰があり,本山修験宗の総本山として,山岳自然を修行道場としてきたこと,そこは多様な生物の共生と命の循環によってみんなが生きているからこそ尊い世界であり,ここに大飯原発3号機を 24 時間フル稼働させると1日で広島型原爆3発分の死の灰がつくられる,この処置のしようのないものを地中に埋めても地殻変動で出てこないとは考えられない,こんなどうしようもないものを生みだす原子力発電所の稼働は絶対認められないと,訴えました。

②[2014年]

・第3回口頭弁論(2014年2月19日)

◆原告の宮本憲一・元滋賀大学学長・大阪市立大学名誉教授(環境経済学)が意見陳述。「福島原発災害は史上最悪の公害。福島のこの原発災害は,2市7町3村の15万人を超える住民が放射能公害によってふるさとを追われた。足尾鉱毒事件以来最悪の公害。事故の全貌が把握できず,原因究明も終わらない,その対策の汚染水防止や除染作業もめどがたたない,経済的救済もはじまったばかり,大飯原発の運転再開は環境政策予防の原則から許されない」と述べました。

・第4回口頭弁論(2014年5月21日)

◆裁判官の交代に伴う弁論の更新。
◆竹本修三・原告団長と福島敦子さん(福島県南相馬市からの避難者)が再陳述。

・第5回口頭弁論(2014年9月30日)

◆原告の意見陳述は萩原ゆきみさん(郡山市からの避難者)と,都市計画の観点から広原盛明さん(京都府立大学元学長)。
◆萩原さんは「3.11当時福島県郡山市に在住,事故後このままでは,福島は見捨てられる,放射能にやられてしまうかも・・そんな恐怖感にも襲われ 事故の1ヶ月後 生命が危ないと夫を残し,京都へ母と子で避難。外部と内部被爆で体力が極端になくなったと」訴えました。「今でも,毎日のようにあらゆる所で福島を思い出し胸が苦しくなります。町並みを見ても,山梔子や金木犀の香りをかいでも,望郷の念はつのるばかりです。私たちは,原発事故の9年前に,夢のマイホームを建てました。両家の両親と同居を夢見てアレルゲンを抑えた建材で造った思い出深い,愛しい家を手放すのは身を切られるように辛かったです。」
◆広原さんは,2014年発表の「国土のグランドデザイン2050・・国土の長期展望」に巨大災害,原発災害に関する項目が一切ない,政府のこれらの軽視を端的に表している。このことは,原発災害については国が将来展望を描くことができない存在だということを示している。原発が「日本国土の喉元深く突き刺さった骨」であり政府は,その骨を抜くことができなくなった状態なんだ。・・私は国民の生命,身体と財産を守るために,司法が英断をもって日本の全原発の再稼働を中止することを期待している」。

③[2015年]

・第6回口頭弁論(2015年1月29日)

◆原告の意見陳述は,高浜原発から15キロに住んでいる三澤正之さん(京都府舞鶴市在住)。「避難計画が,現実に機能するとは,とても思えません。まして複合災害となれば,さらなる大混乱が考えられます。また,福島第一原発の原因究明が行われず,今なお事故が収束せず,福島県で12万人が避難している福島の現実を見れば,一旦事故が起きれば,いつ戻れるのか分からず,戻れたとしても子どもの事を考えると一緒に住めるかどうか,そして,生活基盤は失われ,仕事がなくなったとき家のローンは,これからの生活はと考えると不安は山ほどあります。」

・第7回口頭弁論(2015年5月28日)

◆原告の意見陳述は,菅(かん)野(の)千景さん(福島市からの避難者)。「2011年8月末私は二人の娘を連れて,放射能の汚染を避ける為に福島県福島市から京都へ避難しました。私は仕事を辞めてしまいましたが,夫は仕事を直ぐには辞められず1人福島に残る事になりました。引越しの荷造りをする時も,「なんでこんな事をしなければならないんだべね,誰のせいだべ,誰が悪いんだべ」と,こみ上げてくる思いに潰されそうになり,泣きながら置いてくる荷物と運び出す荷物を分けていました。」…「出発の日,夫に見送られ郡山から京都府の運行する高速バスに乗りました。普段泣いたことのない夫は顔がくしゃくしゃになるほど泣き,子ども達もバスの中でしゃくりあげて泣きながら京都へ向かいました。京都へ来てから私達は毎日電話で話しました。子ども達は「お父さん大好きだよ,無理しないでね」と父親を気遣いました。」

・第8回口頭弁論(2015年10月20日)

◆関西電力の主張に対して弁護団から反論。被告関電の主張は,新規制基準に合致する旨の主張である。しかし,同基準は安全基準ではない。原子力規制委員会の委員長田中俊一は,「原子力規制委員会の審査は安全審査ではなくて,基準の適合性の審査であり,基準の適合性は見ているが,安全だということは言わない」「基準をクリアしてもなお残るリスクというのは,現段階でリスクの低減化には努めてきたが,一般論として技術であるから,人事で全部尽くしている,対策も尽くしているとは言い切れない。自然災害についても,重大事故対策についても,不確さが伴うので,基準に適合したからといって,ゼロリスクではない」と述べている。従って,被告関電が同基準へ適合すると主張しても,本件発電所が安全であると論証したことにはならない。被告関電は,大飯原発に近い「FO-A断層,FO-B断層,熊川断層」と共役断層をなす上林川断層について,その南西端(京都府内)は不明瞭であるとして,断層の存在を明確に否定できる福知山付近まで延長して評価する。しかし,北東端(福井県側)については,延長の検討すらしていない。
◆被告関電が想定する地震の規模についての見積もりが甘すぎるという点を,竹本修三・原告団長が分かりやすく解説。

④[2016年]

・第9回口頭弁論(2016年1月13日)

◆原告の意見陳述は,阪本みさ子さん。大飯原発から20キロ地点の東舞鶴に居住。「舞鶴市全体で住民避難のための協定を結んでいる事業者の保有台数の合計は,バス71台 ワゴン車2台 タクシー121台で,全部が一度に動けても3500人を運べるだけです。少なめに見ても20回の往復をしないと市民全員を運べません。その間,放射能を浴び続けることになるのでしょうか。全員を運ぶのに何日掛かるのでしょうか。線量が高い中,ドライバーの確保はできるのでしょうか。」
◆弁護団からは,新規制基準の基準地震動の「標準・平均値」は矛盾に満ちていることを主張。原発の基準地震動は,既往地震の平均像を基に想定されており,著しい過小評価である。

・第10回口頭弁論(2016年3月15日)

◆原告の意見陳述は,林(はやし) 森(もり)一(かず)さん。京都市左京区久(く)多(た)に生家。久多は大飯原発から約34km。「この5年の間に2回,左京区役所・下鴨警察署・左京消防署・久多の関係団体をあげての避難訓練を実施。しかし,避難訓練の結果,私の不安は増大しました。5つの町内住人全てに避難の連絡,車での避難所集合が100%出来るのか,出来たとしてそこから先の避難移動はどうなるのか」と,大きな不安を述べました
◆弁護団からは,避難困難性の敷衍(京都市左京区久多について)のほか,2015年12月24日の福井地裁異議審決定[福井地裁(林潤 裁判長)が大飯原発3,4号機及び高浜原発3,4号機運転差止仮処分について,仮処分決定を取り消し,住民側の仮処分の申立てを却下]の問題点を準備書面として提出。

・第11回口頭弁論(2016年5月16日)

◆原告の意見陳述は,大飯原発から約40kmの綾部市に住む斎藤信吾さん。由良川の水の問題,避難の問題を訴えました。「自動車を所有していませんし,通常の移動手段は,「自転車」です。仮に地震などにより,道路を通ることが出来なくなった場合,避難は不可能です。単身者ですので,同乗を頼める家族はいません。同乗させていただける知人がいれば避難できますが,緊急時に頼めるかはわかりません。自転車では,非常時用の持ち出しグッズも軽量のものしかのせることはできません。私のように障害があるものにとっては,交通渋滞などは別にして,そもそも一刻も早く避難すること自体が大変なのです。ここ数年は,夜や暗い場所での移動が困難となっています。夜間に避難することを考えるとぞっとします。」
◆弁護団からは,基準地震動以下の地震動でも大飯原発やその電源が損傷し,過酷事故に陥る可能性があること,大津地裁の高浜原発差し止めを命じる仮処分決定(2016年3月)の意義を主張しました。とくに後者は,出口治男・弁護団長が,最近の関経連関係者が語った「一地方の裁判官が勝手に原発を止めるな」のコメントを,人権の上にエネルギー政策があるのかのような不見識さだと,強く批判しました。

・第12回口頭弁論(2016年9月14日)

◆原告の意見陳述は,避難計画の問題点について栢(かや)下(した)壽(ひさし)さん(京都府南丹市)。避難計画は実効性が全く無いこと,地域の実情を把握していないことのほか,「美山町には希少生物の宝庫京都大学芦生研究林もあり,京都府指定希少野生生物25種の半数近くが生息する,西日本でも有数の自然環境に恵まれた地域である美山町を私は,誇りに思っています。仮に原発事故が起きれば,世界に誇るべき美山町の自然が失われてしまいます」と訴えました。
◆弁護団からは,被告関西電力が反論していない原告の主張について指摘しました。

・第13回口頭弁論(2016年11月28日)

◆原告の意見陳述は,池田豊さん(京都自治体問題研究所),吉田真理子さん(京都府宮津市)。
◆池田さんは,大飯原発,隣接する高浜原発をめぐる原子力防災訓練について,住民避難に関連した初動の重要性と問題点,並びにその第一線で直接避難の判断と住民の誘導をしなければならない地方自治体と自治体職員の問題について,福島の原発立地自治体での調査も踏まえて話しました。
◆吉田さんは,宮津市が2016年3月に改定した避難計画と,自分が2015年に参加した避難訓練について,問題点を指摘し,「宮津市は,日本三景天橋立を擁し,年間260万人の観光客が訪れる観光地です。海には水産資源が豊富で漁業や水産業がさかんです。農業も地元の産物がたくさんあり自然豊かな恵まれたところです。多くの高齢者は,動ける間は庭で野菜や果物を育てて,子や孫にやるのを楽しみに暮らしています。この自然を放射能で汚染されれば,賠償などできるものではありません。いくらお金を出されても謝罪していただいてもこの素晴らしい暮らしは返ってはきません。先日も先祖代々の土地を奪われ,いまだ戻れない福島県浪江町の方の話を聴きましたが,全く同じになることは明らかです。」とし,「宮津市民の宝ものである豊かな自然,住民の命と当たり前の暮らしを守るため,原子力発電の運転を差し止めてほしい」と訴えました。
◆弁護団からは,高浜原発広域避難訓練から明らかになった問題点,宮津市避難計画の問題点について,などを主張しました。

⑤[2017年]

・第14回口頭弁論(2017年2月13日)

◆原告の意見陳述は,福島県から避難してきた宇野朗(さえ)子(こ)さん(現在は京都府木津川市在住)。「3月11日の夜11時頃,政府災害対策本部の情報を目にし,メルトダウンの危険性が高いと判断,避難を決めました。友人が,オムツや衣類,食料,水等を車に積みこみ,眠り始めていた子どもたちを起こして車に乗せました。真夜中に出発しました。雪のちらつく,静かな夜でした。南へ向かう国道は,地震で陥没しており不通,東北自動車道も通行止めで,私たちは西の山を越えることにしました。山は吹雪でした。真っ白な視界の中を,私たちは一睡もせず必死に車を走らせました。翌朝,会津の知人宅で休憩をとり,埼玉で被災していた夫がレンタカーで合流,私たちはそこから家族3人で避難を続けました。新潟に向かう途中で,一号機の爆発を知りました。はりつめていた糸が切れるように,私は声をあげて泣きました。新潟空港でレンタカーを乗り捨て,キャンセルのでた飛行機に飛び乗り伊丹空港へ。大阪からは新幹線で12日の深夜に広島に到着し,13日午後,山口県宇部市にある夫の実家に到着しました」と,過酷な避難体験を語りました。
◆弁護団から①コスト的に成り立たない原発事業,②世界各国における原発産業の状況,③原発御三家の東芝,三菱重工,日立,④原発は産業発展の妨げ,⑤裁判官にのぞむこと,などを主張。
◆「裁判官にのぞむこと」では,「現在の技術は,人間社会と自然環境に対して致命的かつ不可逆的な損害を齎す原発に代わる,安全なエネルギー,再生可能エネルギーの創出に成功し始めている。いまや時代は,原発を廃棄し,再生可能エネルギーによる社会の構築を図ることを求めていると言って過言ではない。本件を担当する裁判官に対しては,この時代の要求を見据えて,本件に正面から取り組んでもらいたい。元最高裁判事,故中村治朗氏が述べるように,本件は,「究極的には自己の採る見解の正否を歴史の審判にかけざるを得ない」問題の一つと言ってよいと思われるが,本件においてこそ,裁判官は,社会的葛藤の舞台において,社会的価値の実現のために積極的に機能し,自ら傍観者ではなくプレーヤーとしてプレーに参加することが求められていると確信するものである。」と主張した。

・第15回口頭弁論(2017年5月9日)

◆裁判官の交代に伴う弁論の更新で,竹本修三・原告団長,福島敦子さん(福島県南相馬市からの避難者)が再々陳述。
◆世話人の赤松純平さんが,大飯原発の地盤特性や地域特性について意見を陳述。

・第16回口頭弁論(2017年7月21日)

◆原告の意見陳述は,市川章人さん(京都自治体問題研究所)で,避難の問題について。「2015年の原子力災害対策指針の改悪で不安は一層増しました。それは,避難よりも屋内退避を強調し,さらにUPZ以遠の地域で当初予定していた放射性プルーム対策としてヨウ素剤を服用する区域PPAを廃止し,ヨウ素剤配布はやめ屋内退避で十分としたからです。」と述べました。
◆弁護団からは,上林川断層(FO-A断層,FO-B断層,熊川断層の共役断層)について,前回に続いて大飯原発の地盤特性や地域特性について(被告関電は大飯原発の地盤特性を把握していないこと),京都市原子力災害避難計画の問題点について,主張。

・第17回口頭弁論(2017年11月1日)

◆原告の意見陳述は,松本美津男さん(京都市左京区,京都障害児者の生活と権利を守る連絡会[京障連])。実際に避難訓練したり,震災の経験者から聞いた話から避難の問題について陳述しました。「私の防災訓練の体験からも障害者は大きな災害が起これば避難所にも行けないケースが続出すると考えられます。」
◆弁護団からは,原発事故の際のヒューマンエラーおよび,原発裁判に関する原子力規制委員会の「考え方」に対する反論を行いました。

⑥[2018年]

・第18回口頭弁論(2018年1月16日)

◆原告の意見陳述は,高瀬光代さん(兵庫県)が,阪神淡路大震災のときの避難所に関連して原発事故の際の避難について述べました。「関西電力が大飯原発を再稼働するというのであれば,もし,事故が起きたらどうするかについて,なぜもっと責任を持たないのでしょうか。「災害対策基本法」は自然災害での自治体の責任が言われています。原発事故は,企業災害ですから原因企業が責任を持たねばならないのではないのでしょうか。避難を余儀なくされた方々に対しては,少なくともそれまでの生活と同等の生活環境を用意してしかるべきではないのでしょうか。」
◆弁護団からは,大飯原発の地盤特性について主張。関電は「ほぼ均質な地盤」であるとか,「浅部構造に特異な構造がない」と主張していますが,今回,「そういうことは到底言えない」ことを明らかにしました。関電の地震伝播速度の評価が著しく過大で,そのため地震動が著しく過小に評価されているのであって,「特異な構造は認められない」との評価の誤りを強く批判しました。関電の評価は明らかに誤りです。
◆被告関電は,基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で,地域特性を十分に把握できており,その地域特性に照らせば,基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張しています。しかし,主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず,それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査がなされないままです。また実施された調査結果が,科学技術を冒涜する所作以外の何物でもないと批判されるべきほどに,基準地震動が小さくなるよう歪めて評価されています。

・第19回口頭弁論(2018年3月27日)

◆原告の意見陳述は,小西洋一さん(京都府舞鶴市)が,現職の小学校の先生として意見陳述を行い,子供を放射能被害から守る困難さや,避難先での子供のいじめ問題等も紹介しました。全校生徒200人足らずの小学校には,市の職員配置はたった3人。でも校区内の避難想定者は3000人とのこと。子どもたちに放射能の心配のない日本を残すため原発の廃炉をと訴えました。
◆弁護団は,関電が日本海では巨大地震による大津波を警戒する必要はないとしている点に対して,竹本修三原告団長が1026年に島根県益田地方を襲った万寿(まんじゅ)津波のメカニズムを解明して,関電の津波対策の見直しを主張しました。伝承されている20mこえの津波の到来には信用性があり,関電の津波対策の不十分さを指摘しました。

・第20回口頭弁論(2018年6月5日)

◆この回は,原告の意見陳述なし。
◆弁護団からは,原発事故関連死の状況について,福島県の震災関連死の率が突出していること,行方不明者を見殺しにての避難強いられたこと,避難過程での死者の発生を述べ,過酷事故時の避難は,戦場からの退避にも比肩すべきであると主張。福島第一原発の廃炉の困難性については汚染水対策,デブリの取り出しについて,解決が困難な問題点を指摘しました。核ゴミ問題について,核燃料サイクルや高レベル放射性廃棄物の10万年単位での保存の虚構などを述べました。

◆6/5の第20回口頭弁論の報告
 ~救援新聞より

  • 救援新聞 京都版No.1336 2018年6月15日
    橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

原発は差し止め廃炉しかない

大飯原発差止京都訴訟第20回口頭弁論

  • 大飯原発差止訴訟の第20回口頭弁論が、6月5日京都地裁(第6民事部・藤岡昌弘裁判長)101号法廷で開かれました。今回も原告席や傍聴席(88席)は満席。原告弁護団の3人が準備書面の要旨を陳述しました(下記要旨)。
  • 次回の裁判は、9月4日(火)午後2時から。

「廃炉の困難性について」川中 宏 弁護士

  • 福島第一原発の事故から7年がたつが、廃炉作業は遅々として進んでいない。原子炉や建屋が高濃度の放射能汚染のなかにあるからで、チェルノブイリの廃炉作業を見れば、その困難性が明らかだ。チェルノブイリでは、関連施設全体を、コンクリートやステンレスでおおう、石棺方式をとっているが、これは一定期間密閉して放射能の自然減衰を待つ方式、根本解決にはならない。
  • スリーマイル島の事故は、福島に比べればはるかに小規模な事故だが、それでも原子炉内に100トンのデブリが存在していた。このデブリ取り出しに11年を要した。福島の場合はこれとは比較にならないほど困難だと取り出しのスリーマイル島の指揮者は証言している。
  • 福島では原子炉に水を入れ続けなければならず、その汚染水対策として汚染水循環システム、除去装置での浄化、そして凍土壁をつくったが、維持費用年間10億円といわれ、効果に疑問が出ている。1号機から4号機の内部がどうなっているかよくわからない。2号機の外で531シーベルトのスポットがあるなど高放射線量で人の手が入りにくい。これからデブリを取り出すことになるが、この放射性物質で汚染された廃棄物をどこへ運搬し、どこで処分するのかいまだ具体的に決まっていない。2021年からデブリ取り出し、それから30年40年との廃炉マップを示してはいるが、問題を先送りしてごまかしているのではないか。
  • ドイツの場合は、わが国と全く逆。原発大国であったのが、福島の事故から国会で原発廃絶を決議、2022年までにすべての原発を停止・閉鎖する。日本のような科学技術大国で原発事故が起こったのだから、原発事故が避けられないとみて、原発ゼロ国家への転身をはかった。今度はわが国がドイツを教訓に原発ゼロをめざさなければならない。

「核のゴミ問題について」岩佐 英夫 弁護士

  • 原発の危険性の根源は放射性物質の核燃使用にある。その使用済み核燃料も極めて危険な放射性物質だ。原発稼働で生成する「核分裂生成物」は、原発運転の元々の燃料の濃縮ウランよりはるかに強く命に危険なもの「死の灰」と呼ばれる。この生成物とは別に、ウラン燃料に混在している「ウラン238が中性子を取り込んでプルトニウムに変化する。プルトニウムは、わずか100万分の1グラムを肺に吸い込んだだけで肺がんになるといわれる。1年間核分裂反応を続けた使用済み核燃料の放射能の強さは、使用前のウラン燃料の約1億倍になる。これら使用済み燃料棒は貯槽プールにむき出しのまま置かれている。津波がここに直撃すれば重大事故になる危険がある。
  • 2014年3月末現在、全国の原発の使用済み核燃料は1万4千330トンU(金属ウランに換算した重量)、六ケ所村の分を加えると、1万7千トンに達し、使用済み燃料プールも満杯に近づきつつある。使用済み燃料の再処理操業もめどが立ってない。姑息にも、国や事業体は燃料棒を収めるマスの感覚を狭める「リラッキング」でしのごうとしている。危険を増大するだけだ。中間貯蔵後の再処理工場のめどすら立っていない。「中間貯蔵施設」での「一時保管」が永久保管にならざるを得ない。
  • 日本政府の処理計画はガラス固体化したうえで深さ300メートルの地下に埋めるとしているが、処分地などこれも見通しが立っていない。しかもこの廃棄物が人体に影響なくなるのは10万年といわれ、今から10万年前はネアンデルタール人と共存していた時代で、10万年後がどうなるかわからない。それまでに火山、地震などで異変が起こる。地層処分は世界的にも破たんしている。核のゴミをこれ以上増やし、危険を将来世代に押し付けることは許されない。原発再稼働、新増設はただちに中止すべきだ。

「原発事故の関連死について」渡辺 輝人 弁護士

  • 福島第一原発事故に関連して亡くなった人は、福島県の1千605人(人口202万9千人)に対し、宮城県878人(234万8千人)、岩手県428人(133万人)。福島県の関連死が突出している。昨年9月時点で福島県は2千202人に達した。多くは65歳以上の高齢者が亡くなっている。
  • 原発事故が起こった時、がれきの下に埋められるなど行方不明者が多くいたが、原発事故の汚染で捜索が打ち切られ見殺しにされた人もいた。「がれきの下から助けを求める声をいくつも聞いた」との証言もある。病院に入院中に体調を崩して亡くなるケースも多い。数字もそれを示ししている。
  • 大飯原発は過酷事故を起こせば、直接大量の放射線被ばくがなくても、それを避けるために、移動の負担などで多くの人が亡くなるのが必然である。大飯原発は運転を差し止め、廃炉にするほかない。

◆原発に関わる最近の出来事

【2018年10月9日,京都キンカンで配付。】

人類の手に負えない原発の即時全廃を!

「エネルギー基本計画(改定案)」公表

-脱原発の民意を蹂躙し、原発に固執する計画-

◆経済産業省は5月16日、総合資源エネルギー調査会の基本政策分科会で、国のエネルギー政策の指針となる「エネルギー基本計画」の改定案をとりまとめました。パブコメを求めた後、今夏に閣議決定するといわれています。

◆この計画では、再生可能エネルギーを「主力電源化」する方針を新たに打ち出す一方で、原発については、「依存度は可能な限り低減していく」としつつも、「重要なベースロード電源」とする従来の方針(2015年7月に策定)を維持して、2030年度時点の発電電力量に占める原発の比率を20~22%とする目標は据え置きました。

◆この目標の達成のためには、30基以上の原発が必要となり、運転開始後40年を越える老朽原発の稼働も必要になります。しかし、全老朽原発の稼働を延長したとしても、これらの原発の多くが2050年までに60年越えで廃炉になるため、2050年に稼働中なのは20基に満たないことになります。したがって、中長期で一定の原発活用を見込むのであれば、新増設や建て替えは避けて通れないことになりますが、この基本計画では世論の批判を恐れて、その議論は避けています。

◆なお、今回の計画では、2015年12月に採択された地球温暖化対策の国際的枠組み「パリ協定」を踏まえ、2050年を見据えた長期のエネルギー戦略を新たに盛り込んでいます。再生エネルギーや原発、火力に加え、水素や蓄電池など次世代技術も含めた「あらゆる選択肢の可能性を追求する」と強調しましたが、将来の技術進歩やエネルギー情勢を正確に予測するのは困難として、電源構成の具体的な目標設定は見送っています

◆今回の改定案では、2030年度の発電電力の電源別構成比の目標を次のように定めています。
(比較のために、2015年度および震災前の2010年度の電源構成も併せて示します。)

  • 2030年度(計画)…… LNG27%、石炭26%、再生可能エネルギー22~24%、原子力20~22%、石油3%
  • 2015年度(現状)…… LNG40%、石炭32%、再生可能エネルギー15%、原子力1%、石油12%
  • 2010年度(震災前)… LNG29%、石炭26%、再生可能エネルギー10%、原子力25%、石油10%

問題なのは、「原発依存度は可能な限り低減する」としながら、「原発ゼロ」を目指さないことです。

◆福島原発事故は、多くの人の命を奪い、故郷を奪い、職場を奪い、農地を奪い、海を奪い去りました。事故から7年たった今でも、5万人以上が避難生活を強いられ、事故炉廃炉の見通しも立たず、汚染水が垂れ流され続けています。そのような中でも、政府は、避難された人々に、除染が進んだとするには程遠く、高放射線でインフラも整備されていない故郷への帰還を強要しています。

◆原発は、事故の多さ、事故被害の深刻さだけでなく、使用済み燃料の処理や保管の困難さなど、あらゆる視点から、人類の手に負える装置ではありません。一方、福島事故以降の経験によって、原発は無くても何の支障もないことが実証されました。したがって、原発を運転する必要性は全く見出せません。不要な原発を稼働させて、事故のリスクに怯える必要は全くないのです。そのため、最近のほとんどの世論調査でも、原発反対は賛成の2倍以上となっています。脱原発、反原発が多数の願いであり、民意であることを示しています。

原発は不要なのですから、「原発ゼロ」は可能で、当然のことです。
なぜ、危険極まりない原発とCO2排出量の多い石炭を「ベースロード電源」にするのでしょう?

◆それは、
①使用済み核燃料や事故による損失を度外視すれば、安上がりな原発電力、熱量当たりの単価が化石燃料の中で最も低い石炭での発電によって、電力会社や大企業を儲けさせるためであり、
②原発輸出によって、原発産業に暴利を与えるためであり、
③戦争になり、石油や天然ガスの輸入が途絶えたときの基盤電源を、国内で調達できる原発電力、石炭火力電力で確保するためであり、また、
④核兵器の原料プルトニウムを生産するためです。

◆すなわち、この「エネルギー基本計画」は「巨大資本に奉仕する国造り、戦争出来る国造り」のための計画です。

原発推進の策動を許してはなりません。

◆今回の「エネルギー基本計画」の改定案の公表に関して、原発を推進してきた自治体の首長らは不信感を述べ、原発の建て替えや新設を促すかのような発言をしています。民意を蹂躙する原発推進の策動は、断固として拒否しましょう。

◆高浜原発立地の高浜町の野瀬豊町長は5月31日の会見で「(原発を)やめるなら、やめるで、はっきりしてほしい」と国に注文し、エネルギー基本計画の改定案には原発の建て替えなどが盛り込まれず、中長期的な原子力政策を明らかにしない国に不信感を示しています。改定案では、2030年度の目標とする原発の電源構成を従来通り20~22%に据え置いていますが、目標達成に必要とされる新増設などを先送りしており、野瀬町長は原発を軸とした町内産業の将来を念頭に「(現状のままでは)出口戦略を考えざるを得ない」と指摘しています。

◆総合資源エネルギー調査会の委員でもある西川一誠福井県知事は、「原子力も再生エネルギーもはっきりしない。国民に分かりづらく、各エネルギーへの信頼が低下しかねない」として16日の会議で計画案を批判しています。

◆上関原発(山口県上関町)建設計画への影響について、上関町内の推進派団体でつくる「上関町まちづくり連絡協議会」の古泉直紀事務局長は、改定案が原発の新増設に踏み込まなかったことに関して、「原子力の電源構成を維持していくならば、いずれ新増設が議論されていくのではないか」と分析し、「町は高齢化による人口減少で厳しい。原発建設は一つの選択肢だ」と語りました。一方、予定地対岸の祝島の「上関原発を建てさせない島民の会」の清水敏保代表は「(新増設の不明記は)予想通り。反対派、推進派とも原発は見通しが立たないということで一緒に町づくりに取り組んでいくところだ。計画が白紙撤回されるまで反対を訴える」と強調しています。なお、予定地の公有水面埋め立て免許は来年7月に期限を迎えます。基本計画が原案通りに閣議決定されれば、県は、原発の新増設についての国の方針が不透明なまま、免許延長の可否を判断することになりかねません。村岡嗣政山口県知事は、免許の延長については「中国電力の申請を踏まえて対処する」と述べるにとどめ、基本計画が許可に影響するかどうかについては明言を避けました。

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政府が旗を振るも、
原発輸出計画からの撤退相次ぐ

トルコの原発新設計画から伊藤忠は離脱、三菱重工業は参画も実現は疑問

◆三菱重工、伊藤忠などと日本政府が、トルコ北部の黒海沿岸シノップで、2023年稼働を目指して進めていた原発4基の建設計画から伊藤忠が離脱することが、4月23日、明らかになりました。計画当初(2013年)4基で2.1兆円程度とされていた総事業費が、三菱重工が主体となって行った調査で、2倍以上に膨らむことが判明したためです。政府は、事業費の増加を受けて、トルコ政府に資金面での負担を求めていますが、交渉は平行線をたどっています。伊藤忠が離脱すれば、事業費を負担する企業が減り、事業の実現性はさらに厳しくなります。

東芝、米原発新設から撤退

◆東芝は5月31日、米テキサス州での原発新設計画の取り止めを発表しました。子会社であったウエスチングハウスが昨年3月に経営破綻したのを機に、海外での原発新設から撤退する方針に転じていました。東芝本社は、2009年にテキサス州で原発2基を受注していましたが、電力価格の下落や、福島原発事故後の安全基準の強化に伴う建設費の高騰で採算が取れなくなって撤退を余儀なくされたのです(投じた862憶円は損失として計上済み)。

◆東芝は、英国でも、子会社が原発3基の新設計画を進めていましたが、これも撤退に向け、すでに損失450億円を計上しています。子会社は、韓国電力公社に売却するといわれています。東芝は、今後、新設に比べてリスクの少ない、部品の輸出(ウクライナなどへ)に力を入れるといわれています。

日立製作所が英国で進める原発建設計画にも暗雲

◆日立は、英西部のアングルシー島に、2020年半ばの運転を目指して、原発2基を建設する計画を進めています。しかし、安全基準が厳しくなったことで、当初、1.5兆~2兆円とされていた総事業費は、3兆円程度に高騰しています。目算の狂った日立は、公的支援がなければ事業の継続は困難と判断して、5月3日、中西宏明会長(経団連会長)がメイ首相に、撤退もちらつかせながら直談判して、総額3兆円の中の2兆円を英政府と英金融機関から直接融資する案を引き出しています。残りの1兆円分は、日立、日本の政府系金融機関と電力会社、英政府と現地企業がそれぞれ3000憶円を出資する形で賄う計画ですが、工事遅延などで、巨額損失が発生すれば、深刻な影響が出かねないだけに、思惑通りに日本企業が参画するかどうかは見通せません。

◆また、英議会には過度な支援への反対意見も根強く、一度事故が起これば住民の多くが島に取り残され、美しい自然も失いかねないアングルシー島住民や英消費者の大きな反発もあります。(なお、アングルシー島住民は、5月下旬に福島県を視察し、事故も収束していないのに原発を輸出しようとする日本の姿勢を強く批判しています。)

◆さらに、日英両政府が、原発の新設に絡む債務を保証するために、税金が使われる可能性があることへの両国民の反発もあります。したがって、安倍首相と親しい中西会長を擁する日立は、英原発事業を成長戦略の柱であるインフラ輸出の目玉に据えたい安倍政権の強い期待を感じながらも、慎重な最終判断をせざるを得なくなっています。

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フランスが高速炉計画の縮小を検討

◆日本がフランスとの共同研究を進める高速炉実証炉*「ASTRID(アストリッド)」(2023年に着工し、2030年代の運転開始を目論む)について、フランス政府が、計画の縮小を検討していることを日本側に伝えました(5月31日報道)。開発費の高騰が理由で、出力規模を当初予定の60万キロワットから10万~20万キロワットに縮小する案を検討しています。

◆高速増殖炉原型炉「もんじゅ」の廃炉を決めた日本は、アストリッド計画を当面の高速炉開発の柱にしたい考えでしたが、計画が縮小されれば、日本の高速炉開発計画も、抜本的見直しを迫られることになります。出力規模を大幅に縮小すれば、将来の商用化に必要な実証データが得られなくなる可能性もあります。
(*「実証炉」は「原型炉」より一つ進んだ原子炉で、実用化(商業炉)の一歩手前と位置付けられているもの。)

◆なお、以下は、日本政府が高速炉に固執する理由です。

①原発で出た使用済み燃料全量を再処理して、取り出したプルトニウムでMOX 燃料を再利用する核燃料サイクルを維持するためです。MOXを燃料とする「高速炉」は核燃料サイクル実現の要なのです。(しかし、液体ナトリウムを使う高速炉は技術的に不可能に近く、再処理工場運転も困難を極めることは、すでに実証されています。)

②制御しやすい原爆を作るためには、質量数239のプルトニウムの純度が高いプルトニウムが必要ですが、普通の原発(熱中性子炉)では高純度プルトニウムを得られず、高速炉が必要になります。すなわち、高性能原爆を得るために高速炉が必要なのです

稼働わずか250日の「もんじゅ」に
経費1兆1313億円

◆会計検査院は、5月11日、廃炉が決定している「もんじゅ」に関する検査結果を公表しました。概略は次のようなものですが、現代科学・技術では手に負えず、原発の中でも最も危険な高速増殖炉を、多くの反対意見を踏みにじって運転した政府や科学者(原子力ムラ)の責任については言及していません。

①「保守管理の不備が廃炉につながった」と総括。
②約半世紀にわたり、研究開発に少なくとも1兆1313憶円を投入。
③稼働日数は250日。研究の達成度は16%。
④廃炉費用は国が試算した3750億円を超える可能性。

安倍政権は、それでも高速炉開発を継続しようとしています。「もんじゅ」廃炉で手綱をゆるめることなく、「核燃料サイクル」からの完全撤退を求めましょう!

[注]以前、2011年にも会計検査院はもんじゅにメスを入れていますが、そのときはもんじゅ関連施設として「RETF(リサイクル機器試験施設)」の費用835億円をれて計算していました。今回、なぜかこの費用が入っていません。また、固定資産税は96年度~98年度のものは含まれていません。96年度は70億円を敦賀市が課税したと報道されています。3年分で200億円近くになるとみられています。そうすると、実態は1兆2300億円を超えるものとみられます。

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7原発12基中央制御室ダクト腐食、穴も

◆原子力規制委員会は、島根原発2号機の中央制御室ダクトに腐食による穴(最大で横約100 cm、縦約30 cm)が複数見つかった(2016年12月)ことを受けて行った全国の原発の空調排気系ダクトに関する調査結果を発表しました(5月23日)。ダクトに穴が開いていると、原発事故時に放射性物質が中央制御室に流入し、運転員が被曝する可能性があります。ダクトは鉄や亜鉛メッキ鋼でできています。腐食の原因は、結露、雨水の侵入、塩分の付着です。

◆腐食や穴が確認された原発は、女川原発3号機、東海第2原発、福島第1原発6号機、柏崎刈羽原発3、4、5、7号機、浜岡原発3~5号機、志賀原発1号機、島根原発1号機です。柏崎刈羽原発3号機の穴は横約5 cm、縦約13 cmで、3、7号機では穴や亀裂が計9ヵ所みつかっています。

このように多数の腐食や穴が一挙に見つかった事実は、原発施設の老朽化が深刻であり、原発稼働にお墨付きを与える規制委の調査・検査が、これまで、極めていい加減であったことを物語っています。

新設島根原発3号機の稼働を許すな!

◆日本で唯一の都道府県庁所在地に立地する原発。1号機は2015年に廃炉が決定したものの、建設中の3号機(沸騰水型:福島事故以前に建屋、設備はほぼ完成)の稼働審査が原子力規制委員会に申請されようとしています。この原発が稼働すれば、原発新増設に道を開くことになります。

原発が新増設されなければ、最悪でも、2049年には原発ゼロになります。原発新増設を許してはなりません!

高浜原発4号機の再々稼働を許すな!

◆高浜原発4号機は5月18日、3号機は8月3日に定期検査に入り、4号機については8月下旬から9月初旬に再稼働されようとしています。定期点検入りの高浜原発をそのまま廃炉に追い込みましょう!

老朽高浜原発1,2号機、美浜原発3号機を廃炉に!

◆40年を超えた標記原発が危険極まりないことは、言を待ちません。老朽原発の安全対策費は高騰を続けていますから、廃炉実現の可能性は大です。廃炉実現のために、断固とした大衆運動や裁判闘争を高揚させましょう!

新潟県知事選挙、池田候補に勝利を!

◆6月10日投開票の新潟県知事選挙が戦われています。人類の手に負えない原発の再稼働を許さず、嘘と欺瞞の上に大企業のみに奉仕し、戦争できる国づくりを進める安倍政権を打倒するために、池田千賀子候補を勝利させなければなりません。全国から熱いエールを送りましょう!

2018年6月8日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆第6回原告団総会のお知らせ

  • 京都地裁における大飯原発差止訴訟は,すべての原発を止めるための第一歩です!
  • 3,323人が 原告となっていて,裁判傍聴は 原告以外も 多くの市民が参加しています。
  • 市民の願い,弁護団の熱意,研究者の知恵を結集し 脱原発を実現しましょう。

(「原告団総会の報告」→こちら。)

【日時,場所】

  • 7月 22日(日)13:30~
  • ハートピア京都(京都市営地下鉄 烏丸線「丸太町」下車すぐ上)→こちら
  • 参加費…無料(会場にてカンパをお願いします)

【おもな内容】

  • 記念講演と講師…「地震予知連会長に聞く日本の地震予知の現状」
    平原和朗(ひらはら・かずろう)さん
    [講師の紹介]
    ・2005年京都大学大学院理学研究科教授。専門は地震学。2018年3月末退職。名誉教授。
    ・2012年から,地震予知連絡会の会長。
    ・2011年3 月11 日に発生した東北地方太平洋沖地震に関してその当時の日本地震学会の会長として「なぜ予知できなかったのか」との思いを語っています。(朝日新聞 2011.8.17)
  • 弁護団より…福山和人 弁護士,特別報告「京都府政と脱原発」
  • 弁護団より…大飯原発差止訴訟の経過や今後の見通しなど。出口治男 弁護団長,渡辺輝人 弁護団事務局長。
  • 原告団世話人会より…吉田明生 原告団事務局長。

◆第20回口頭弁論 原告提出の書証

甲第440~446号証(第51準備書面関係)
甲第447~449号証(第52準備書面関係)
甲第450~462号証(第53準備書面関係)

※ 書証データ(PDFファイル)がないものは、原告団の事務局の方にお問い合わせください。



★証拠説明書 甲第440~446号証(第51準備書面関係)
(2018年 月 日)

甲第440号証[961 KB]

甲第441号証[2 MB]

甲第442号証[3 MB]

甲第443号証[826 KB]

甲第444号証[454 KB]

甲第445号証[1 MB]

甲第446号証[222 KB]

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証拠説明書 甲第447~449号証[182 KB](第52準備書面関係)
(2018年6月5日)

甲第447号証[6 MB]
「高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する『科学的特性マ ップ』を公表します」との文書、及び「科学的特性マップ公表用サイト」との文書(弁護士 岩佐英夫)

・甲第448号証
「原発再稼働? どうする 放射性廃棄物」と題する本(一般社団法人・京都自治体問題研究所)

・甲第449号証
「日本列島では原発も『地層処分』も不可能という地質学的根拠」と題する本(土居和己)

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証拠説明書 甲第450~462号証[175 KB](第53準備書面関係)
(2018年6月1日)

甲第450号証[1 MB]
県内1605人に避難長期化 直接死上回る_東日本大震災(福島民報)

甲第451号証[308 KB]
東日本大震災における震災関連死の死者数(復興庁)

甲第452号証[91 KB]
毎日新聞 東京夕刊8頁(毎日新聞)

甲第453号証[2 MB]
福島第1原発10キロ圏内で10遺体発見(AFPBB NEWS)

甲第454号証[1 MB]
世界に問う事故の「無念」 浪江消防団描いたアニメ仏で上映_ふくしま便り(東京新聞)

甲第455号証[2 MB]
地震情報2011年3月11日(日本気象協会)

甲第456号証[231 KB]
気象庁震度階級関連解説表(気象庁)

甲第457号証[2 MB]
死期早める 高齢者施設せんだん(双葉)36人死亡 体調悪化、心労重なり(福島民報)

甲第458号証[1 MB]
双葉病院事件の真相 当事者医師、語る 医療維新の医療コラム(医師 杉山健志、橋本佳子(m3.com編集長))

甲第459号証[757 KB]
東京地裁判例平成28年8月10日(双葉病院 失踪事案)(東京地裁)

甲第460号証[270 KB]
東京地裁判例平成28年5月25日(双葉病院 避難中死亡事案)(東京地裁)

甲第461号証[842 KB]
避難で移動平均7回 復興庁、県内35人を分析 最多は16回(福島民報)

甲第462号証[951 KB]
南相馬の5高齢者施設入所者 避難後、死亡率2.7倍に(福島民報)

甲第463号証[1 MB]
死亡率震災前の2・4倍 特養施設などで増える(福島民報)

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◆原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

原告第53準備書面
―原発事故関連死の状況について―

2018年(平成30年)5月28日

原告第53準備書面[586 KB]

目 次

第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

第3 避難過程での死者の発生
1 高齢者施設「せんだん」の例
2 双葉病院の例
3 全体的な状況

第4 まとめ



 第1 福島第一原発事故の原発事故関連死の発生状況

政府は、「震災関連死の死者」とは、「東日本大震災による負傷の悪化等により亡くなられた方で、災害弔慰金の支給等に関する法律に基づき、当該災害弔慰金の支給対象となった方」と定義している。福島県の主要な地方紙である福島民報では、丸括弧をつけて「原発事故関連死」という用語も併記している。

2013年12月の時点で、「震災関連死」の数は、福島県の1605名(202万9000人)に対し、宮城県878名(234万8000人)、岩手県428名(133万人)であった。かっこ内は平成22年度の国勢調査時点での各県の人口を示す。人口比で考えても、福島県の震災関連死の率が突出していることがわかる(甲450[1 MB])。

平成29年9月30日の段階では、岩手県464名、宮城県926名、福島県2202名で、2202名のうち1984名が65歳以上の高齢者であった。
震災とは別に福島第一原発の事故が起きた福島県だけ、震災関連死の伸びが続いているのであり、ここに原発事故関連死という名前をつける事情が現れている(甲451[308 KB])。

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 第2 行方不明者を見殺しにしての避難を強いられたこと

避難地域では、2011年3月11日の地震発生直後から避難が始まり、行方不明者等の捜索が打ち切られている。それでも、津波で行方不明になった者については、捜索できないまま避難するしかなかった旨の報道がされている。これらの行方不明者の捜索が再開されたのは概ね4月14日以降である(甲452[91 KB])。多数の遺体が発見されている(甲453[2 MB])。

一方、なかなか表に出てくる事情ではないが、地震でがれきに埋もれた人々を救出できずに避難せざるを得なかった証言もある(甲454[1 MB])。引用した新聞記事にもあるが、この件は、後に物語化されている。

分団長だった高野仁久さん(54)は単身で捜索に行き、がれきの下から助けを求める声をいくつも聞いた。対策本部に戻り、「機材を持って救出に行こう」と提案するが、二次災害を恐れた町長らに止められる。この翌朝、約十キロ離れた原発が爆発し、全町避難となった。

東日本大震災の本震による原発事故の避難地域の震度は以下の通りである(甲455[2 MB])。

震度6強 楢葉町、富岡町、大熊町、双葉町、浪江町
震度6弱 川俣町、田村市、広野町、川内村、飯舘村、南相馬市

一方、気象庁によると、震度6弱で倒れる建物が出始め、震度6強だと倒れるものが多くなる(甲456[231 KB])。1981年の「新耐震基準」施行前に建設された建物にその傾向が顕著である。

あまりに凄惨な事態であることから、証言が公表されるとは限らないが、上記の記事のように建物の下敷きになった者を見殺しにしての避難の暗数は相当あると予想される。

原発の過酷事故が大地震の際に起こるのであれば、避難を強いられる近隣の地域で、このような避難による見殺しが起きるのは必然である。

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 第3 避難過程での死者の発生

  1 高齢者施設「せんだん」の例(甲457[2 MB]

双葉町にある高齢者施設「せんだん」は、福島第一原発から3.5キロメートルの場所に位置しており、2011年3月12日に全員避難の指示が出た。

そこで、88人の入所者が5つのルートに分かれて避難した(下図参照)【図省略】。88人は、当初、受け入れ先が決まらず転々とした。疲労や心労、体育館や公共施設などの寒さ、不慣れな固く冷たい食べ物、薬の不足など急激な環境変化で持病を悪化させ、衰弱も進んだ。このため19日までに別の高齢者施設、病院、近親者宅に振り分けられた。

88人のうち67人が福島市、伊達市、会津美里町、栃木県の16施設に移ったが、このうち28人が、病気や体調を悪化させて死亡した。

8人は福島市、郡山市、二本松市、栃木県の病院に入院し、3人が死亡した。家族に引き取られた13人のうち5人も死亡した。

亡くなった36人(女性25人、男性11人)のうち、避難から約半年で亡くなったのは半数の18人。さらに昨年12月までに18人が死亡している。死因の多くは肺炎や老衰などだった。

避難計画がいかに整備されても、高齢者が過酷な状況での避難を強いられることに代わりはなく、その過程で多数の死亡者が発生するのは避けがたい。

  2 双葉病院の例(甲458[1 MB]

双葉病院は、福島第一原発から約4.5kmの場所にある350床の精神病院である。福島県の沿岸部の浜通り地域では最大規模の精神病院だ。当時の常勤医は7人。震災当時の入院患者は338人であり、その約4割は高齢者で、寝たきりの患者も多かった上、高カロリー輸液の患者が20人以上、経管栄養の患者も30人以上いた。また、同じ法人が運営する介護老人保健施設「ドーヴィル双葉」(定員100人)が病院から約300mの場所にあり、一体的に運営していた。

双葉病院は、原発事故後、上記338人について、3月12日の第一陣、3月14日の第二陣(34人)、3月15日の第三陣(90人)の3回にわたり避難を余儀なくされた。
院内での死亡は、13日夜から14日未明までに3人、14日から15日に死亡したと推定されるのが1人であった。また、歩行可能な認知症の患者が1人行方不明になり、のちに失踪宣告されている。

一方、福島第一原発1号機のベント成功確認が3月12日の14時30分、同機の水素爆発が同日15時36分。同3号機の水蒸気爆発が3月14日11時01分、同2号機同4号機の水素爆発が3月15日6時14分。2号機の損傷は4号機と連動している可能性があり、同日午前11時25分には露内の圧力が低下していた。したがって、上記避難は、救出する側の関係機関、病院の職員、患者たちが濃厚に放射線に被曝しながらのものであった。 双葉病院の患者については、行方不明になった上記患者について訴訟になり判決が出されている(甲459[757 KB] 東京地判平成28年8月10日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、3月15日に外部から救助に来た者が病棟出口を開放した後、行方が分からなくなったものであり、保護責任者である病院側の民事責任は逃れられないとしても、人員確保すらできない状態で原発が爆発し、原発の爆発音がとどろき、放射性物質が大量に放出される極限状態のなかで、外部からもたらされた事情で、徘徊、行方不明に至ったものであり、防止はきわめて困難だったと思われる。

判決文によると、当該患者の行方不明が判明したのは避難が完了した後の3月末になってのことであり、同時に、他の入院患者1名の行方不明も判明し、この患者は、双葉病院内で遺体(前述の4名の遺体のうち一人と思われる)で発見された。

また、さらに、避難途中になくなった患者1名についても訴訟になり判決が出されている(甲460[270 KB] 東京地判平成28年5月25日)。判決により認定された事実によると、当該患者は、第二陣の避難中、バス内で10時間にわたり水分補給も栄養補給もなかったため、脱水と栄養不足で死亡した。

  3 全体的な状況

復興庁は、震災後2年以内に死亡した福島第一原発事故の避難地域の高齢者35人について死因の調査を行った。それによると、避難の移動回数は平均7回で、中には16回という人もいた。一時帰宅の際に自治体の手続きで長時間待たされて体調を崩し、死に至ったケースもあった。死亡原因(複数回答)は7割超の25人が「避難所生活などによる肉体、精神的疲労」、約4割の13人が「避難所などへの移動に伴う疲労」、2割の7人が「病院の機能停止による初期治療の遅れなど」だった(甲461[842 KB])。

また、南相馬市が行った調査では、福島第一原発事故に伴い避難を余儀なくされた南相馬市の5カ所の高齢者施設で、入所者の原発事故後約1年間の死亡率が、過去5年間の死亡率と比べて約2・7倍に上った。死亡率は大きな施設の方が高かった(甲462[951 KB])。

2013年3月に福島県がおこなった調査では、福島第一原発事故で避難を強いられた県内の特別養護老人ホームや介護老人保健施設など34高齢者施設の事故当時の入所者1766人のうち、1月1日現在で約30%の520人が死亡したことがわかった。震災後8ヶ月の死亡率は、震災前の2.4倍になった(甲463[1 MB])。

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 第4 まとめ

このように、震災直後、避難の過程、避難後の生活環境などにより、たくさんの人が死亡した結果、第1で述べた大量の震災関連死(原発事故関連死)が発生したのである。

机上の空論で避難計画をどのように整備しても、一度、原発に過酷事故が発生し、避難を強いられることになれば、たくさんの人々の命が奪われるのは、火を見るより明らかである。特に、原発が爆発し、放射性物質が大量に放出される中での避難は、戦場からの退避にも比肩すべきものであり、健常者であっても、一般的な訓練で馴致できるものではないだろう。

そして、我が国の新規制基準は、すでに過酷事故の発生を想定したものになっている。

結局、大飯原発が過酷事故を起こせば、直接的に大量の放射線被曝がなくても、それを避けるために、多数の人が亡くなるのは必然なのである。多数の人の生存権と比較できる原発の利益など観念し得ないし、百歩譲って仮にするとしても、すでに経済合理性すら失われていることはすでに述べた。

大飯原発は運転を差し止めして、廃炉にするほかないのである。

以上

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◆原告第52準備書面
第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

一、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分に関する日本政府の処理計画
二、地震列島日本における地層処分の非現実性
三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻
四、日本学術会議の警告


第4 高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関する「科学的特性マップ」批判

 一、「高レベル放射性廃棄物」に関する日本政府の処理計画

1、いわゆる「核のゴミ」には「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」とがあるが、「高レベル放射性廃棄物」についての日本政府の処理計画は、ガラス固化体にしたうえで深さ300m以上の深さの岩盤の中に埋めるとしている。

2、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分に関する関係閣僚会議の確認を経て、2017年7月28日、原発の使用済み燃料から出る高レベル放射性廃棄物の最終処分場について、国土の約65%が「好ましい」とする「科学的特性マップ」(甲447[6 MB])を公表し、今後、マップを活用した説明会を全国各地で行い、処分場立地に向けた調査を複数の自治体に申し入れたいとしている。

3、政府は、高レベル放射性廃棄物の最終処分場を2002年から公募してきたが、住民の反対が強く、未だ、受け入れた自治体はない。このため安倍政権は、「科学的有望地」を示して自治体に「申し入れる」など「国が前面にたって取り組む」ことを、「エネルギー基本計画」(2014年)と「最終処分基本方針」(15年)で決定した。その具体化の第一歩が、「科学的有望地」を示す「科学的特性マップ」である。

4、しかしながら、高レベル放射性廃棄物の最終処分場に関しては、以下に述べる通り、多くの問題を抱えており、全く見通しがたっていない(甲449土井和己著「日本列島では原発の『地層処分』も不可能という地質学的根拠」合同出版2014年10月10日第1刷 頁。以下、同著を引用する場合、単に「土井」という)。

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 二、地震列島日本における地層処分の非現実性

  1、先ず前提問題として確認しておかなければならいことは、甲449「土井」4頁表①が示すように、核ゴミに含まれる核分裂生成物には、半減期が例えばジルコニウム242は150万年、プルトニウムは37万年というように、極めて長期に及ぶものがある。高レベル放射性廃棄物については、少なくとも、人体に影響がないレベルまで低下するまでに10万年も要するという現実がある。この隔離管理期間は、原子力開発が始まった当初は約1万年とされていたが、放射線の人に与える影響に不明な点が多いことなどから、近年では安全側の考えをとって10万年とする関係者が多い(甲449「土井」5頁)。

  2、「10万年単位で保存」の意味

しかしながら、「10万年単位で保存」というが、逆に、10万年前はネアンデルタール人が活躍した時代であったことを想起すれば、「10万年単位の保存」が、想像を絶する長期の保存であるということを容易に理解できるであろう。

10万年後の日本がどうなっているかは、地震・火山活動を考えるだけでも想像もつかないのである。地震がいつどこで発生するか予知することは不可能ということが地震学の現在の到達点である。また地震とも関連が深い火山噴火の予知も事実上不可能であることは、2018年の草津白根山の連続した噴火でも明らかである(同火山の今回の噴火場所は、当初噴火の時は監視対象外であった)。

いまから10万年後に世界一の地震多発列島の日本列島がどうなっているか、人類が存在しているか否かについてさえ、誰も確実なことを言えないのである。日本で記録されているマグニュチュード(M)8(ないし、M8と推定されている)の巨大地震の実情は甲 「土井」71頁の表⑥の通りである(表⑥は、M8以上と推測されている地震を取り上げているため、M7.9と推定されている1923年9月1日の関東大震災すら含んでいない)。

  3、処分場立地の条件

(1)「化学的特性マップ」は、地層処分場の立地は、「地質環境の長期安定性を確保できる場所を選定できる」という前提にたっている。

同特性マップが、火山・活断層の近傍や石油・石炭など鉱物資源がある地域を、地下深部の長期安定性や将来の掘削可能性という観点から「好ましくない」としているのもそのためである。

(2)地層処分のために、「高レベル放射性廃棄物」は放射能の漏洩を防ぐために、ガラス固化体にしてオーバーパックや緩衝剤(これを「人口バリア」と呼んでいる。)に包まれて埋設される計画になっている。しかしながら、「人工バリア」は、地下水の中では腐食し放射能が漏れだすおそれがある。

(3)従って、「地下水の中では腐食し放射能が漏れだす」を前提にしたうえで、「天然バリア」として地下深く埋設するのが地層処分である。仮に地下水が出ても地表に到達するのを遅らせるという考え方に基づいて地層処分は計画されている。

(4)従って、地下水が流れやすい断層が近くにあってはならず、火山が近くにあってもダメである。鉱山など将来、地下深部を採掘することが予想される場所は論外である。地層の隆起・浸食が大きい所や地温が高い所も避けなければならない。

(5)従って、地層処分が安全であると言えるためには、地層処分のためのトンネルが掘られる対象岩石の安定性と、その地層処分の穴に地下水を近づけないこととが、必要条件である。

  4、日本の地質的特徴は、上記の必要条件を満たさない

(1)先ず第1に、本訴訟でも繰り返し指摘したように、日本列島は世界の地震発生の約1割が集中する世界1の地震多発列島であり、「地質環境の長期安定性の確保」など不可能である。

(2)世界的レベルで比較しても、日本は年間降水量が多い(甲449「土井」86頁「表⑧」)。しかも、(3)で述べるような日本の地質的条件もあり、深いところでも地下水が多い。

(3)日本の地質は「新生代」の岩石が多く、硬堅さにおいても、透水性においても、中生代や古生代の岩石に比べて劣るのである(甲449「土井」80頁「表⑦」及び地質年代表を参照されたい)。

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 三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻

1、欧米でも地層処分が想定されているが、ユーラシア大陸と日本とでは地層の安定性が大きく異なる。

2、しかしながら、その欧州でも、ドイツは地下の岩塩層のトンネルで保存なら安全と想定していたが、実際には、塩水びたしになってしまい、見通しが立っていない。

3、フィンランドでは巨大な岩の塊からできた島に掘った穴に核のゴミを保存する計画を立てたが、実際には岩にひび割れがあって、水が地上にあがってくること、即ち、放射能が地上に放出される危険性があることが判明している。


 四、日本学術会議の警告

日本学術会議は、地層処分について「万年単位に及ぶ超長期にわたって安定した地層を確認することに対して、現在の科学的知識と技術的能力では限界があることを明確に自覚する必要がある」と2012年9月に警告している。この警告を真摯(しんし)に受け止めるべきである。

以上

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◆原告第52準備書面
第3 破綻した「核燃料サイクル」について

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第3 破綻した「核燃料サイクル」について

はじめに
一、「核燃料サイクル」の仕組み
二、再処理工場の危険性
三、再処理工場は、操業開始の目途がたたず
四、再処理工場で大量放出される放射性物質
五、「再処理」で放射性廃棄物は逆に増える
六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
七、危険なプルサーマル計画


第3 破綻した「核燃料サイクル」について

 はじめに

「核燃料サイクル」の本質は、危険性に満ちており、且つ放射性物質の再生産に過ぎないという点である(甲448「研究所」20頁)。

 一、「核燃料サイクル」の仕組み

1、「核燃料サイクル」とは、天然ウランをほとんど産出しない日本において核燃料の「安定供給」のために、使用済み核燃料の再利用をめざす原子力政策である。

2、「核燃料サイクル」の仕組(甲448「研究所」20頁)
原発の燃料中に含まれるウラン238が中性子を取り込んで、自然界には存在しないプルトニウムが生成される。「核燃料サイクル」は、このプルトニウムを大量に生産し核燃料として使用する仕組みである。しかしながらプルトニウムは、先述のように(「第1、3項」)、最も恐ろしい放射性物質のひとつである。

「核燃料サイクル」をわかりやすく図示すると、下記「図1」(甲448「研究所」20頁)の通りである【図省略】。

「図1」の左側が「軽水炉サイクル」であり、いわゆる「プルサーマル」である。

「図1」の右側は、高速増殖炉「もんじゅ」が破綻したにもかかわらず、国がなお将来めざそうとしている「高速増殖炉サイクル」である。

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 二、「再処理工場」の危険性(甲448「研究所」26頁~)

1、再処理工場では、使用済み核燃料を化学的に処理する。また、前提として念頭におかなければならないことは、核燃料は使用済みであっても核分裂物質であり、危険な放射性物質であるという点である。

2、こうした危険な使用済み核燃料を原料として化学処理する「再処理工場」は、次のような三重の事故を起こす危険性があり、危険きわまりない施設である。即ち、

(1)、核施設として臨界(核分裂連鎖反応)事故を起こす危険性
(2)、放射性物質を漏洩し被爆事故を起こす危険性
(3)、化学工場としての性質上、火災・爆発事故などを起こす危険性
である。

3、再処理工場の工程では、次々と危険な物質が生産される(甲448「研究所」27頁 図2参照)【図省略】

(1)「使用済み核燃料」の再処理は、次のような過程を経る。
1)、使用済み核燃料棒を剪断して高温の硝酸で溶かし、ウランやプルトニウム等さまざまな核分裂生成物(「死の灰」)の混ざった溶液ができる。この工程では、使用済み核燃料棒の鞘のジルコニウム合金の火災や溶液過熱の危険があり、臨界事故の危険もある。

2)、上記1)の溶液に有機溶媒を加えて、ウランとプルトニウムを死の灰から分離して抽出する。この工程では、硝酸と有機溶媒が混ざることで極めて爆発性の高い化学物質が生じる。これは摂氏130度を超えると爆発し、アメリカやロシアでは、そうした事故が発生している。水素爆発・臨界事故の危険もあり、放射性物質が漏れる危険も高くなる。
「死の灰」は濃縮され、ステンレス容器にいれてガラスと混ぜて固められて「ガラス固化体」となる。「ガラス固化体」は、人が近づくと即死するほど強力な放射線と熱を出す危険なものである。

3)、ウラン溶液から硝酸成分を抜く「脱硝」工程を経て、酸化ウランの粉末にする。

4)、一方、プルトニウム溶液は、ウラン溶液と1対1の割合で混ぜてから加熱して脱硝し、ウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX燃料)の粉末にする。この工程では、過熱事故や、超危険なプルトニウムが漏れる危険がある。

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 三、「再処理工場」は、操業開始の目途がたたず

  1、「東海再処理施設」

研究開発用に日本原子力開発機構が茨城県東海村に建設した「東海再処理施設」は1981年操業開始したが、度重なる事故・トラブルを起こした。1997年に低レベル廃棄物のアスファルト固化施設の火災・爆発で3年間運転休止した。2006年3月にその事故処理を終えたが、2014年9月に事実上の廃止となった(甲448「研究所」26頁左側)。

  2、「六ヶ所村再処理工場」の実情

(1)、他方、商業用としての青森県「六ヶ所村再処理工場」は、日本原燃株式会社が、1993年から建設に着手した。しかしながら、同工場は、再処理後の高レベル放射性廃棄物をガラス固化する工程の深刻な不具合をはじめ、遠心分離機の故障など度重なる技術的困難に直面し、いまだに本格稼働にいたっていない。これまで操業開始を22回も延期し、2014年10月に完成時期を2016年3月に遅らせた(2「研究所」26頁)。さらに、2018年に入って、再び完成時期は延期された。こうして「六ヶ所村再処理工場」は、これまで「試運転」程度に少し動いただけで、本格稼働は全くしていない。

(2)同再処理工場の建設費については、当初は1997年完成予定で7600億円と見込まれていた。しかしながら(1)で述べたように、完成時期は22回にわたり延期され、それに伴い建設費は2兆1900億円に膨らんでいる。さらに、福島原発事故後の新規制基準への対応のために、3兆円を超える可能性も指摘されている(2018年4月 日弁連シンポジウム「核燃料サイクル問題を考える」)

(3)、仮に同「再処理工場」が完成したとしても、その再処理の過程には、多くの問題が存在することは、上記で述べた通りである。

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 四、再処理工場で大量放出される放射性物質
(「第3、二、3」に掲記した甲448「研究所」27頁本文及び図2を参照)

  1、気体状放射性物質を大気中に放出

「使用済み核燃料棒」を、さや(被覆管)ごとぶつ切りにする時、原子炉内の核分裂で発生し被覆管に閉じ込められていたクリプトン、トリチウム、ヨウ素、炭素などの気体状放射性物質が、六ヶ所再処理工場の場合は高さ150mの巨大な排気塔から全て大気中に放出される。トリチウムの場合、原発の放出量の180倍も放出する。

  2、放射性物質の混じった廃液を海中に投棄

各工程の廃液には、トリチウム、ヨウ素、コバルト、ストロンチウム、セシウム、そして回収できなかったプルトニウムなど、あらゆる種類の放射性物質が混じっている。この廃液が、六ヶ所村再処理工場の沖合3km・深さ44mの海洋放出菅口から海に捨てられるのである。

 五、「再処理」で放射性廃棄物は「減る」のではなく、逆に増える

1、「ガラス固化体」にすれば、外見上「かさ」は小さくなるが、同時に膨大な量の低レベル放射性廃棄物が発生する。六ヶ所村の再処理工場では、原子炉での使用済み核燃料に比べて約7倍の廃棄物の発生が見込まれている。上記四の空と海への日常的な垂れ流しも含めると、もともとの使用済み核燃料に比べて約200倍もの廃棄物を生み出すと指摘されている(甲448「研究所」27頁右側)。

2、このように、再処理を行った場合、新たに膨大な放射性廃棄物を生み出すのである。また既に述べたように再処理過程において大事故を起こす危険が高く、ひとたび大事故が起きれば、放射性物質の被害は日本全体に及ぶ危険性がある。

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 六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
(甲448「研究所」28~29頁)

1、高速増殖炉計画については、欧米各国で深刻な事故が相次いだ。1987年にイギリスで蒸気発生器のナトリウム中を通る細管が40本も破断して大爆発を起こした。フランスの「スーパーフェニックス」もナトリウム漏れ事故を繰り返し、1998年に廃止された。危険性の高さと費用の莫大さから、欧米各国は高速増殖炉の開発を断念している。

2、日本では1985年に福井県敦賀市に実用二段階前の「もんじゅ」が作られた。しかしながら、「もんじゅ」も運転開始後すぐに約640kgという大量のナトリウム漏れを起こし、事故隠ぺいまで行い不信を拡大した。2010年5月にようやく再開したが3カ月後に長さ約12m・重さ約3.3トンの炉内中継装置を原子炉容器内に落下させる前代未聞の事故を起こし、再び停止した。20年経過しても220日しか稼働実績がない。「もんじゅ」を扱う「日本原子力研究開発機構」の安全軽視も改善されず、2012年11月に1万件を超える機器の点検漏れが発覚し、2013年5月、原子力規制委員会が運転停止命令を出した。

3、また、「もんじゅ」運転停止中も、維持費に1日に国費5500万円も食い潰しており、膨大な無駄遣いである。

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 七、危険なプルサーマル計画(甲448「研究所」20頁~)

  1、プルサーマル運転とは

ウランとプルトニウムとを混ぜた燃料(MOX燃料)を軽水炉原子炉で燃料として利用する仕組みである(前記8頁「第3、一、2」の「図1」参照)。

MOX燃料は本来、「高速増殖炉」で使用する予定であったが、高速増殖炉「もんじゅ」のトラブル続きで行き詰まり、MOX燃料が使えない状態が長年続き、放置するとプルトニウムが溜まり続け、国際社会から核兵器への転用の疑惑を招くことになる。これを回避するために、その場しのぎで始めたのが“プルサーマル計画”である。

  2、プルサーマル計画の危険性(甲448「研究所」15頁 右側)

(1)、燃料が均一でなく、燃え方のムラが起こり、高温のホットスポットができ、燃料棒が破損しやすくなる。

(2)、プルトニウムはウラン235よりも核分裂を起こしやすく、制御棒の効果が低下する。

(3)、高い燃焼度で出力変化も急激になり、冷却機能の悪化も起きやすく、不安定で暴走の危険が高まる。

(4)、プルトニウムによりアルファ線放出が多くなり、燃料棒内で生じる気体が増える(アルファ線がヘリウムに変化)。その結果、燃料棒内の圧力が高まり、燃料棒破損やピンホールなどで、放射性物質が冷却水に漏れる危険が増大する。

(5)、MOX燃料は、ウラン燃料より融点が数十度低下し、且つ燃料棒内の被覆管と燃料との間にたまる気体のために、熱伝導率が低下し燃料溶融を防止する制御の余裕が減少してしまう。即ち、暴走の危険性が高まる。

(6)、「MOX燃料として再利用」といっても、結局、最終的には、前述のように危険な「核ゴミ」を増加させるだけである。

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