◆関電と原発 memo No.20–原発の運転差止裁判

◆3.11福島第一原発事故以前には,1973年から始まった伊方裁判(1992年に最高裁で敗訴)など,多くの原発運転差止裁判がありましたが,2勝33敗に終わっています。

◆勝訴した2件も,その後の控訴審,上告審ですべて敗訴。その意味で,福島第一原発事故は,裁判所にも責任があると言えます。

◆勝訴したのは,2003年のもんじゅ訴訟(名古屋高裁金沢支部の差戻控訴審)で初の設置許可無効判決,2006年の志賀原発2号機訴訟(金沢地裁,井戸謙一裁判長)で初の運転差止判決,この2件のみでした。

3.11以前の脱原発裁判 ★ 2勝33敗

・3・11前には原告勝訴の判決は,二つだけ(他に原告適格で勝訴判決が一つ)。
・2勝33敗で,ほとんどが敗訴。
・勝訴した2件も,その後の控訴審,上告審ですべて敗訴。

・参考図書
→岩波新書『原発訴訟』海渡雄一(かいとゆういち)。(¥886)
→産経新聞出版『法服の王国 小説 裁判官』黒木(くろきりょう)。(上下各¥1944)(文庫版で上下各¥1188)
…裁判官は「憲法と良心のみに従う」ことが原則なのに…。

3.11以前の脱原発訴訟 ★おもな経過と事件

3.11以後の脱原発裁判 ★ 8勝22敗

◆3.11以降はさすがに流れは変わり,これまで(~2020年3月)で8勝22敗となっています。とりわけ,2014年の大飯原発差止訴訟での勝訴(福井地裁,樋口英明裁判長)は,判決内容も素晴らしいものでした。

◆最新の勝訴は,2020年1月,伊方原発について広島高裁が運転禁止の仮処分決定を出しています。電力会社にとっては,一つの裁判で負けるだけで,他の裁判でいくら勝っても,重大な司法リスクをひきずることになります。

◆関電の原発については,京都地裁の他,大阪地裁,大津地裁,名古屋地裁で審理が続いています。「裁判官をして市民に顔を向かせるのは,絶えることなく裁判所にとどけられる市民の声」(井戸謙一弁護士)という言葉をかみしめて,市民運動を大きくしていきましょう。

3.11以後の8件の勝訴

(1) 2014年5月21日。大飯本訴,勝訴

 福井地裁(樋口英明裁判長)において,大飯原発3,4号機の運転を差し止め。生存権を基礎とする人格権(憲法13条,25条)が最高の価値をもっているとし,この権利からすれば,経済活動で原発を動かす権利は「劣位」だと断罪。

(2) 2015年4月14日。高浜原発仮処分決定!

 福井地裁(樋口英明裁判長)において,高浜原発3,4号機の運転を認めない仮処分の決定。

(3) 2015年5月18日。関電の仮処分執行停止申し立て却下

 高浜原発3,4号機運転差止仮処分決定に対し,関電が執行停止を申し立てをした件について,福井地裁(林潤裁判長)は却下の決定。

(4) 2016年3月9日。大津地裁,高浜原発3,4号機差止仮処分認める!

大津地裁(山本善彦裁判長)は関西電力高浜原発3,4号機の運転差止仮処分を認める決定。

(5) 2016年7月12日。大津地裁,仮処分異議審の判断

 関西電力高浜原発3,4号機(福井県高浜町)の運転差し止めを命じた2016年3月9日の大津地裁の仮処分決定を不服として,関電が取り消しを求めて申し立てた異議について,同地裁(山本善彦裁判長)は12日,退ける決定。

(6) 2017年12月13日。伊方広島仮処分即時抗告審決定

 広島高等裁判所第2部( 野々上友之裁判長)は,伊方原発即時抗告の申し立てを認め,2018年9月30日まで伊方原発3号機の運転を禁じた。

(7) 2018年3月22日,広島高裁,四電の執行停止の申立を却下

 広島高裁が四国電力伊方原子力発電所の運転を差し止めた2017年12月13日の決定に対して,四国電力が異議申立と執行停止を求めていたところ,2018年3月22日,広島高裁第2部(三木昌之裁判長)は四国電力の執行停止の申立を却下。

(8) 2020年1月17日 伊方原発で,広島高裁が運転を許さず!!

 伊方原発3号機の運転差止を求めて,2017年3月3日山口地裁岩国支部に山口県住民が申し立てた仮処分事件は,2019年3月15日に却下決定となり,3月29日に即時抗告,広島高裁で争われることに。2019年9月11日第1回審尋期日を経て,2020年1月17日原告勝訴の決定(森一岳裁判長)。原発の近くに活断層がある可能性を否定できないにもかかわらず「四国電は十分な調査をせず,原子力規制委員会も稼働は問題ないと判断した」と指摘。阿蘇山についても「一定程度の噴火を想定すべきだ」として,その場合でも火山灰などの量は四国電の想定の約3~5倍に上ると判断し「四国電の想定は過小だ」と結論付けた。運転差し止めの期間について,山口地裁岩国支部で係争中の差し止め訴訟の判決言い渡しまで(この判決の期日は未定)とした。