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◆原告第52準備書面
第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール

一、満杯になりつつある燃料プール
二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について
三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について


第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール
(甲448「研究所」22頁 図1)


 一、満杯になりつつある燃料プール

1、2014年3月末現在、全国の原発が保管する使用済み核燃料の合計は14,330トンU(金属ウランに換算した場合の重さ)達し、これに六ヶ所村再処理工場の保管分を加えると約17,000トンUになり、使用済み核燃料の貯蔵プールの余裕がなくなりつつある。

2、各原発の使用済み核燃料の貯蔵量と、あと何年で各貯蔵プールが満杯になるかを経産省資料に基づきグラフにしたのが下記の図1(甲448 「研究所」22頁)である【図省略】。この図1は、経産省資料に基づいており一律に16ヶ月ごとに燃料交換をする前提で残り満杯になるまでの年数を計算している。但し、各原発の核燃料交換の現実の交換実績は16ヶ月より短い。従って、それに基づいて計算した東京新聞資料では、経産省資料に基づく残り年数より短くなっている。

3、甲448「研究所」23頁で指摘しているように、使用済み核燃料の貯蔵プールが満杯に近づきつつある大きな要因は、再処理工場の操業の目途が立っていないことである。
即ち、政府の計画では、使用済み核燃料を、貯蔵プールで3~5年間冷却をした後に「再処理工場」に送るはずであった。

ところが、青森県六ヶ所再処理工場はトラブル続きで、いまだに本格稼働ができていない。そのため、同再処理工場の使用済み核燃料プール(貯蔵能力は3000トンU)では既に2951トンUも貯蔵されており、もう受け入れる余地がほとんどなくなってきている。そのため、各地の原発の使用済み核燃料がどんどん溜まってきてしまったのである。

4、こうした「核ゴミ」については、当然のことながら、発生させた電力会社や国の責任において最後まで管理する責任がある。

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 二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について

1、国や電事連は、貯蔵プールが満杯になりつつあることに対する当座しのぎの対策として、「リラッキング」で、当初予定の容量より詰め込んで満杯になるのを先延ばしにしようとしている。

2、本来、使用済み核燃料棒を貯蔵プールに保存する場合は、臨界状態(核分裂連鎖反応)になるのを防止するために必要な一定の間隔をおいた格子状の桝目の中に挿入する。

ところが、「リラッキング」とは、貯蔵プールの貯蔵可能量を増やすために、桝目の間隔を縮小することで、貯蔵可能量を増大させることである。

3、しかしながら、「リラッキング」は、使用済み核燃料棒の相互間隔を縮小することであり、使用済み核燃料が臨界状態になる危険性が増大する(甲448「研究所」23頁)。まさに、姑息な当座しのぎの危険な対策に過ぎないと言わざるを得ない。

4、各電力会社は、貯蔵プールの「リラッキング」でも追いつかないため、次の対策として「リサイクル燃料備蓄センター」(「使用済み燃料中間貯蔵施設」とも呼ばれている)構想を練っている。被告関電は候補地として、京都府宮津市の粟田半島の「宮津エネルギー研究所」、又は京都府舞鶴市の大浦半島を検討中のようであるが、地元の反対も予想され、具体化はしていない。

上記の「宮津エネルギー研究所」は、もともと、関電が以前、京都府久美浜町に計画した原発計画が地元をはじめ京都府民の大きな反対で挫折し、最終的に宮津市に火力発電所として建設した施設である。同施設は現在、「長期計画停止中」(=事実上の廃止)である。

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 三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について

1、たしかに、使用済み核燃料を水冷式の貯蔵プールで数年間保存すれば発熱量が下がり、空冷による保管が可能になる。

2、しかしながら、先ず注意を喚起したい点は、「空冷式」で保管できるといっても、「使用済み核燃料貯蔵プール」が空になるわけでは決してないという点である。
貯蔵プールに保管中の「使用済み核燃料」の一部を取り出して「空冷式」保管に移したとしても、原発が運転を継続している限り、16ヶ月毎(現実には、もっと短い間隔で)核燃料の交換が行われ、「使用済み核燃料貯蔵プール」自体は満杯に近い状態が続くのであり、決して「満杯状態」が解消されるわけではないのである。

3、しかも「空冷式」での保管は、少なくとも30年ないし50年間という長期にわたり「中間貯蔵施設」に貯蔵し、さらに、最終的には「再処理」することが大前提である。この中間貯蔵をするために使用済み核燃料を詰め込む「キャスク」自体の安全性についても、4項末尾で指摘するような危険がある。

そもそも、「第3、三」で後述するように、中間貯蔵後の「再処理工場」の完成は全く目途すら立っていない。

4、青森県むつ市に、東京電力及び日本原電の共同出資で、国内初の「使用済み核燃料中間貯蔵施設」である「リサイクル燃料備蓄センター」を建設し、2016年10月操業を予定していた(甲448「研究所」24頁)。

他方、同「中間貯蔵施設」の「基本的安全機能の保障」は50年とされている(甲448「研究所」25頁下段右)。「中間貯蔵施設」での貯蔵が終了後は、「再処理施設」に送って再処理することになる。しかしながら、その「再処理施設」の耐用年数は30年に過ぎず、50年後には「再処理施設」の耐用年数を超過してしまっている。

この対策として、第二再処理工場建設を模索している。しかしながら第二再処理工場建設については、検討の目途さえ立っていない(甲448「研究所」25頁下段左)。再処理の目途が立たなくなれば、「中間貯蔵施設」での「一時的保管」が、事実上「永久保管」にならざるを得ない。

「キャスク」は50年以上も経過すれば劣化し放射性物質が漏れたり、あるいは臨界に達する危険もある。

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◆原告第52準備書面
はじめに 第1 使用済み核燃料自体の危険性

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

目 次

はじめに
第1 使用済み核燃料自体の危険性



はじめに:本準備書面の簡潔なまとめ

1、先ず、「第1」で述べるように、「使用済み核燃料」自体が極めて危険な放射性物質であることを認識することが重要である。

2、「使用済み核燃料」を「再処理」する過程において、「高レベル放射性廃棄物」と「低レベル放射性廃棄物」が生成される。仮に現時点で、即時原発運転をゼロにしたとしても、既に存在する放射性廃棄物、とりわけ高レベル放射性廃棄物の安全な処理の目途は全くたっていない。

3、国や電気事業連合会(以下「電事連」という)が、核燃料の「安定供給」のためとして推進してきた「核燃料サイクル」(使用済み核燃料の再利用をめざす原子力政策)は、破綻している。国や電事連が核燃料サイクルの要として位置付けていた高速増殖炉計画は破綻し、同サイクルに不可欠な再処理工場も「★第3」で述べるように、問題山積で操業の目途が立っていない。

4、それなのに、原発の再稼働・新増設をさらに進めることは、処理の見通しすら全く立っていない核のゴミを、今後もさらに増やし続けることになる。これは、「放射性核のゴミ」という危険かつ重い負担のさらなる増大を、将来世代に押し付けることにほかならない。

5、解決の見通しすら立たない危険な核ゴミをこれ以上増やし続ける原発再稼働・新増設は直ちに中止すべきである。原発稼働ゼロのときでさえ、国民の節電努力で電力不足は発生しなかった。ましてや、日本の自然再生エネルギーの潜在資源の豊かさは環境省も認めていることは、原告第13準備書面でも既に指摘した通りである。

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第1 使用済み核燃料自体の危険性

(甲448「原発再稼働?どうする 放射性廃棄物―新規制基準の検証―」《以下、同書を引用する場合「研究所」という》21頁上段)

1、原発の危険性の根源は、いうまでもなく放射能をもった核燃料を使用する点にある。しかしながら実は、「使用済み核燃料」自体も極めて危険であることに、まず注意する必要がある。

2、即ち、原発稼働中の核分裂反応により生成するヨウ素131・セシウム137・ストロンチウム90等の「核分裂生成物」も極めて危険な放射性物質である。これらの「核分裂生成物」の放射能は、原発運転のもともとの燃料である濃縮ウランよりはるかに強く、生命に危険なので「死の灰」と呼ばれている。

3、また、原発運転の過程では、上記の「核分裂生成物」とは別に、ウラン燃料に混在している核分裂しにくい「ウラン238」が中性子を取り込んでプルトニウムに変化する。プルトニウムは最も恐ろしい放射性物質のひとつであり、わずか100万分の1グラムの微粒子を肺に吸い込めば、ほぼ間違いなしに肺がんになるといわれるほどである。また同様の過程でアメリシウムやキュウリウムなどの超ウラン元素も生成されるが、プルトニウムと同様に、これらも恐ろしい放射性物質である。

4、こうして原子炉で1年間核分裂反応を続けた後の使用済み核燃料の放射能の強さは、使用前のウラン燃料の約1億倍にもなるのである。

5、使用済み核燃料貯蔵プールの脆弱性・危険性

1)上記のように、もともと危険な「使用済み核燃料」を貯蔵しているのが、「使用済み核燃料貯蔵プール」である。

2)原子炉本体は、放射性物質を厳重に隔離するために、「原子炉建屋」の中に「格納容器」と「圧力容器」の二重構造になっている。それでも、福島のような重大事故が発生した。

3)しかしながら「使用済み核燃料貯蔵プール」は、原子炉のような隔離壁は一切なく、むき出しのままの水の中に使用済み核燃料棒を貯蔵して水冷しているに過ぎない。もし巨大地震や津波が「使用済み核燃料貯蔵プール」を直撃した場合には、原子炉以上に重大事故につながる危険性は容易に推認可能である。

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◆原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-
目次

原告第52準備書面
-核ゴミ問題について-

2018年(平成30年)5月30日

第52準備書面[788 KB]

目 次

はじめに:本準備書面の簡潔なまとめ

第1 使用済み核燃料自体の危険性

第2 満杯になりつつある使用済み核燃料貯蔵プール
一、満杯になりつつある燃料プール
二、姑息で危険性を増す「リラッキング対策」について
三、関電の「空冷式にするから大丈夫」との弁解について

第3 破綻した「核燃料サイクル」について
はじめに
一、「核燃料サイクル」の仕組み
二、再処理工場の危険性
三、再処理工場は、操業開始の目途がたたず
四、再処理工場で大量放出される放射性物質
五、「再処理」で放射性廃棄物は逆に増える
六、実態でも理論でも破綻した高速増殖炉
七、危険なプルサーマル計画

第4 「高レベル放射性廃棄物」のに関する『科学的特性マップ』の批判
一、「高レベル放射性廃棄物」の最終処分に関する日本政府の処理計画
二、地震列島日本における地層処分の非現実性
三、「高レベル放射性廃棄物」の「地層処分」は既に世界的に破綻
四、日本学術会議の警告

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◆原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

原告第51準備書面
―廃炉の困難性について―

2018年(平成30年)6月8日

原告第51準備書面[411 KB]

【目次】

1 はじめに
2 スリーマイル島の原発事故の後処理
3 日本原電東海発電所の廃炉作業
4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)
5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)



1 はじめに

 (1) 原告らは、平成25年5月25日付第12準備書面の中で、福島第1原発の廃炉の困難性について大雑把な素描をした。原発問題を取り上げるとき、廃炉の危険性,困難性への言及は避けて通れないからであるが、素描にとどまったのは、福島事故後2年くらいしか経っていない段階で、廃炉の見通しについてあれこれ論評し、短絡的に結論を出すのは相当でないと思料したからである。

それから5年。はたして福島第1原発の廃炉作業は進捗したであろうか。結論的に言えば、毎日5000人ないし6000人の人たちが懸命に作業をしているにもかかわらず、廃炉ロードマップに示された作業は遅々として進んでいないと言うのが現実の姿である。
確かに4号機の核燃料の取り出し、移転など廃炉に必要な作業工程を終了させた一部の進捗面があるものの、廃炉全体を通じていえば、いろいろ困難な壁が次から次へといくつも出てきて、暗闇の中を手探りで進むような作業となっている。

 (2) 廃炉の危険性、困難性

廃炉は、高濃度の放射能に汚染された原子力発電所の原子炉、格納容器及び建屋その他のガレキなどをきれいに撤去し、その区域を放射能のない安全な場所によみがえらせることにある。どんな原発でも、停止・閉鎖には廃炉作業が不可欠なのである。

しかし、一般的に言えば、廃炉は、まず高濃度の放射線に汚染されている核燃料棒を安全に取り出し、保管する必要があり、次にやはり高濃度に汚染されている建屋や原子炉の解体がそれに続く。放射線の飛散や吸引を無視するわけにはいかないから、廃炉は慎重の上にも慎重な作業が求められ、困難を極めざるをえない。

次に、解体が終了したとき新たな問題が発生する。ほかでもなく解体された建屋・原子炉の廃棄物の最終処分場の問題である。わが国には,「トイレなきマンション」を建てたのと同じだと峻烈な批判がなされているように,使用済み燃料棒や放射線物質に汚染された廃棄物の最終処分場がつくられていない。どこで、どういう方法で保存し、どう最終的に処分するのか。それが現実に決まらなければ,廃炉すらできないのであるが、我が国にはそれがない。それにもかかわらずどんどん原発をつくり、稼働して核燃料やゴミを大量に排出している。これをどうするのかが大問題なのである。

要するに,原発という魔物をいったん生誕させたら,これを死なすことも自由にできなくなってしまうのである。

次項にこうした廃炉作業の困難性と悪戦苦闘ぶりを、福島第1原発事故に先行したアメリカ・スリーマイル島の原発事故と日本原子力発電(株)の東海発電所の廃炉作業を取り上げて具体的に述べることとする。

その前チェルノブイリで取られた石棺方式について述べておく。

 (3) 石棺方式の否定

石棺方式とは、原発爆発により一部破損した建屋、原子炉その他関連施設全体を大きなコンクリートかステンレスですっぽり覆ってしまって、放射性物質を100年程度はそのまま閉じ込めてしまうやり方がある。チェルノブイリ原発ではこの方法を採った。つい最近(2018年)コンクリート製の覆いの消耗が激しくなってきたので、ステンレス制の大型屋根と交換された。これは放射線を除去して被災地をよみがえらせる作業ではなく、一定期間密閉して放射線の自然減衰を待つと言うものである。密閉していると言っても、放射線汚染地という評価は100年なら100年は続くであろうから、暫定的な封じ込めであって問題の根本的な解決にはならない。従って福島県や地元自治体も住民も石棺方法には猛反対である。廃炉を進める東電及び国も現実の廃炉を目指している。

 (4) 廃炉のためにしなければならないことは、福島第一原発の状況から見て大きく分けて3つあると言われている。

1つは、汚染水対策。

2つめは燃料(デブリ)の取り出し。

そして3つめが解体・片付け(廃止措置)である。いずれも高濃度の放射性物質によって汚染されているから、作業は困難を極める。

以下に、福島第一原発ではこの3つの課題がどのように進んでいるか、進んでないとしたら、その原因がどこにあるのか、そしてその解決のためには何が必要になって来ているかを明らかにしていく。

 (4) 原告らの思い

念のために断っておきたいのは、原告らは福島第1原発の速やかな廃炉を期待し、強く望んでいる。それなくしては、福島県住民の安全と健康を確保できないから、帰還はもとより不可能であり、従って被災地の復興も復旧も半永久的にありえないからである。だが、ひとたび事故を起こした福島第一原発の廃炉過程がいかに危険極まりない困難な作業であるかを事実に即してリアルに記述していくことは、原発の安全性神話から人々を覚醒させ、原発停止の必要性を理解する上で是非とも必要なことであると思料する。

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2 スリーマイル島の原発事故の後処理

 (1) スリーマイル島=TMI(Three Mile Island)の原発事故は、デジタル大辞泉によると、「1979年3月28日、米国のペンシルベニア州スリーマイル島原子力発電所2号機で発生した大規模な原子炉事故。営業運転中に発生した給水ポンプの故障を発端とし、運転員が非常用炉心冷却装置(ECCS)を手動で停止するなどの誤操作が重なって、冷却材喪失事故に発展し、炉心溶融を起こした。放射性物質の一部が環境に放出され、近隣住民が避難したが、被曝線量は平均0.01ミリシーベルト、最大でも1ミリシーベルトで、放射線障害は起きていないとされる。原発事故の度合いを示す国際原子力事象評価尺度でレベル5に分類される」と説明されている。

 (2) スリーマイル島原発事故は、全世界に衝撃を与えたが、それから32年後の2011年に起きた福島第1原発に比べると、爆発の規模ははるかに小さかった。外部に放出された放射線量も長期の避難住民が出なかったほどにすくなかった。

2号機の廃炉は、1979年に決定された。スリーマイル島原発では、事故の規模も小さく、燃料棒の冠水もすぐさま回復されたので、原子炉の中にデブリは出来ていないだろうと推測されたが、案に相違して100トンのデブリが存在していた。

デブリについて第12準備書面で述べた説明は部分的であり、不正確であったので、ここで改めて述べておく。デブリ、あるいは燃料デブリとは、原子炉の事故によって溶け落ちた核燃料が原子炉のコンクリートや金属と混ざり合い、冷えて固まったものである。スリーマイル島原発ではその硬さは鉄の棒をも全く寄せ付けなかったと言われている。

スリーマイル島原発事故では、原子炉の真上に作業台を設置し、そこに特殊ドリル(デブリを掘削し、取り出す)操作用機械を設置した。そこから水中に特殊ドリルを入れて掘削・取り出し作業を行った。しかし水の中は、大量の微生物が発生していて視界がさえぎられ、作業は困難を極めたといわれている。

核燃料すなわちデブリの取り出しを開始したのが、事故後6年目からであったが、完了したのがそれからさらに5年後の1990年であった。

この燃料棒取り出し作業を指揮したウイリアム・オースチン氏は、NHKスペシャル番組「廃炉への道」(2014年)の取材を受けて、「スリーマイル島の場合のデブリは原子炉の中に存在したが、フクシマの場合は圧力容器の底をすり抜け、格納器の底に落ちている。しかも原子炉上部から水中30メートルの距離である。そんな深さに真上から水の中に工具を入れてデブリを取り出すことは非常に困難である」。「私たちと比較にならならないほどの困難です。日本に立ちはだかる困難さは想像出来ないほどです」と語っている。「困難さを想像できない」とは、殆ど不可能だと言っているのに均しい。

 (3) 2号機の原子炉内のデブリ取り出しは終了したが、直ちに廃炉手続きに入るのではなくて、1号機の廃炉を待って同時に廃炉する計画で待機となった。だが、所有会社の経営困難により1号機も2号機も予定より早く廃炉に入ることにしたとのことである。

3 日本原電東海発電所の廃炉作業

 (1) 日本原子力発電株式会社(以下、日本原電と略称する)東海発電所は、第12準備書面で紹介したように、日本で初めての商業用原子炉発電所として1966年7月に営業運転を開始した。それから福島第1原発事故までの45年間に52基の原発が日本列島を覆い尽くし、日本を原発大国に変化させた。

先駆的役割を果たした東海発電所は、原子炉や熱交換器の大きさに比べて出力が小さいこと、 燃料コストや発電単価が割高であること等から1998年3月31日をもって運転を停止し、わが国で初めての廃炉作業に入った。原発事故による廃炉でないという意味で「ふつうの廃炉」と呼ばれることがあるのは、前述したとおりである。

しかし、普通の廃炉でも、放射線との戦いになることは変わりないので、放射線の高い部分である原子炉領域の解体は非常な危険性、困難性が伴う。それで原子力領域は放射能を減衰させるため、安全貯蔵状態にしておく(2001年から18年間)。2019年度からいよいよ原子力領域の解体撤去工事にかかる。これに7年の年月をかけ、建屋全体の撤去工事等が完了する予定は2024年から2025年とされている。何かトラブルが発生したときはこの帰還予測がさらに遅れることはもちろんである。

運転停止から廃炉が完了するまでは約30年である。

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4 福島第1原発の廃炉(その1汚染水対策)

 (1) 汚染水の発生

本件福島第一原発の4基の原子炉の中に、今も、上から水を入れ続けなければならない。そうなれば当然放射線による汚染水が増量してしまうが、しかし福島第一原発ではそれが不可避である。その理由について、前掲の「廃炉図鑑」は次のように説明している。「事故直後、津波の影響で非常用電源も含めた電源設備が水没し、1~4号機すべての電源が止まりました。その結果、燃料を水で冷却するシステムが使用できなくなり、原子炉の中の燃料が高温になって、燃料自体が溶け出しました。できたのがデブリと呼ばれるかたまりです。これは原子炉の中の『圧力容器』という金属でできた容器の底を溶かして突き抜けました。燃料デブリを冷やさないとさらに発熱して周りのものを溶かし、放射性物質も発生してコントロールができなくなります。被害を拡大させないためにはこれを水で冷やさなければならない。そこで原子炉の中や『使用済み燃料プール』と呼ばれる使い終わった燃料やこれから使う新しい燃料が入っているプールを冷やすため、原子炉建屋に水を入れようという作業が始まりました」(甲第445号証[1 MB]92頁)。

また、福島第一原発の山側から海側に向かって地下水が流れており、それが高線量の放射性物質によって汚染された建屋の下を通るので、毎日400トンという汚染水が発生した。これをそのまま海に流すわけにはいかないので、その処理が急がれた。

 (2) 汚染水処理の「成果」

それで、事故直後は水をヘリコプターで吊して運んできて原子炉の上からかけたり、消防ポンプとホースを利用して水を注いだり等の応急的な対応をしてきた。

しかし、そうして原子炉の中に注いだ水が建屋の外に漏れ出ているのが分かったため、これを防止する下記のシステムや施設などを設置したりして、ある程度「落ち着いた状態になった」と言われている(前掲「廃炉図鑑」甲第445号[1 MB]90頁以下)。

 ア 汚染水を循環させるシステムを確立した。
応急処置的にプロセス建屋の地下の部屋に止水工事をして汚染水を貯めることにし、やがて金属製の貯蔵タンクを大量に用意をして、そこに貯めていく。さらに貯蔵タンクにすべての水を流すのではなく、一部を再び建屋に戻し燃料冷却のために使用することで汚染水発生量を減らすシステムができた。

 イ 汚染水から放射性物質を取り除く、巨大な汚染水処理システムをつくった。
循環冷却が安定したとしても、汚染水の循環であるから、循環している間に原子炉建屋の汚染源に触れ続けると汚染濃度が高まって危険度が増すので、汚染水循環過程でこれを浄化させていく巨大システムをつくった。

 ウ ALPS(多核種除去設備)、モバイル型ストロンチウム除去装置での浄化処理を開始した。
ALPSの導入以前は汚染水の中のセシウムしか除去できなかったものが、ALPSの導入によって62種類の核種、放射性物質を取り除くことができるようになった。

 エ 凍土壁を設置した
原子炉建屋の中に毎日300m3の地下水が流入していたが、平成27年(2015年)ころになって地下水バイパスやサブドレンの汲み上げなどによって150m3に減らすことができた。それ以上に減らすにはどうしたらよいか。それで考えられ、実行されたのが凍土遮水壁(以下、単に凍土壁という)である。

凍土壁は、原子炉建屋に1~4号機を囲むように約1500本の管を1メートル間隔で地下30メートルまで打ち込み(全長約1.5km)、そこに氷点下30度の液体を循環させて凍土の壁をつくり、原子炉建屋に地下水が流れ込むのを防ぎ、汚染水の発生を抑える方法である。平成29年冬にはほぼ完成した。しかし、凍土壁による汚染水発生量の低減効果は1日約80トンにとどまる(甲第446号[222 KB]=2018.3.8付京都新聞夕刊)。

 (3) 今後の課題

平成29年6月策定の廃炉汚染水対策関係閣僚会議による「福島第一原発の廃止措置に向けた中長期ロードマップ」(甲第442号証[3 MB]。以下これを改訂廃炉ロードマップという)は、汚染源を取り除く、汚染源に水を近づけない、汚染水を漏らさないの3つの観点から予防的・重層的な対策を講じるとしている。

そこに掲げられた改良点は随時追求されて行くべきであろう。

しかし、次の2点はどうしても指摘せざるを得ない。決してめでたし、めでたしではないのである。

 ア 1つは、凍土壁の費用対効果である。凍土壁の構築には国費345億円が投じられた。その上今後も凍結の維持に年間10数億円がかかると言われている。廃炉まであと40年かかるとすれば、4000億円もの国費が投入されることになるのである。それだけの国費を注ぎ込んでも、当初掲げた「凍土壁構築後は、遮水壁内には外部からの地下水流入が殆ど無くなる」という目標にもかかわらず、一日80トンの汚染水しか減量できない(逆に言えば汚染水の発生は一日約150トン程度になる)という結果には落胆を禁じ得ない(原子力規制委員会はもともと凍土壁の効果に懐疑的であった)。

前記改訂廃炉ロードマップは、「2020年内に、‥‥汚染水発生量全体を管理して、その総量を150m3/一日程度に抑制する」という目標が掲げられているが、凍土壁のどこから地下水が入り込むのか具体的場所を突き止めてこの目標を実現させることこそが急務である。

 イ 2つめ貯蔵汚染水の処理の問題である。
トリチウムを含んだ汚染水は前述したように金属製タンクに貯蔵され、福島第一原発の敷地に並べられている。しかし、後2、3年で並べるスペースもなくなる言われている。ではどうするのか。

直ちには何の改善策もないのである!

根本的には核燃料や廃棄物の中間貯蔵施設や最終処分場を持たないで原発開発を進めてきた、いわゆる「トイレ無き原発」推進政策が破綻しつつあるのである。

一部には、希釈して海に流出させれば良い、海が希釈してくれると言う意見もあるようだが、希釈の可否の問題ではない。たとえ何年か年中年か先には希釈されるとしても、放射線汚染水が流された海で獲れた魚を誰が食べるのか。そんなことをすれば福島県の漁業は壊滅する。漁業関係者は死活問題に追い込まれる。住民の健康と安全の確保、地元の復興、復旧のための廃炉と言う目的がいつの間にか変質し、住民の生活を奪い、死に追いやるような方針を絶対に許してはらない。

このジレンマを解決しない限り、廃炉は決して実現しないのである。

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5 福島第1原発の廃炉(その2デブリの取り出し)

 (1) 1~4号機の内部状況

爆発を起こした1号機ないし4号機の原子炉の状況は現在(2018年3月11日時点を指す。以下、同じ)どうなっているだろうか。それがよく分からない。何故なら原子炉内の放射線量が高くて近づけないから、内部の状況をよく把握出来ないのである。それが分からなければ、デブリの安全な取り出しについて対策を立てようがないから、その詳細な状況の把握が不可欠である。以下にそれを素描する。

 ア 4号機の状況について
まず4号機は前述したように、5号機、6号機とともに定期検査のために発電を止めて、原子炉内から燃料棒を取り出し、使用済み燃料プールに保管していた。4号機の爆発は何らかの原因によって発生した水素(3号機から発生した水素が回り込んだという説には疑問が呈されている―甲3号証=国会事故調報告書160頁)が爆発し、4階、5階部分を吹き飛ばしたものであって、原子炉内の燃料棒が爆発したものではなかった。それゆえ、4号機原子炉内にはデブリは発生していない。しかも懸念された燃料プール内に水が満たされていたので、燃料棒の爆発と放射能拡散の危険はひとまず収まり、その廃炉作業は「ふつうの廃炉」と同じように進めることができている。

4号機の燃料プールに貯蔵されていた核燃料棒は1535体であった。これを取り出して安全な場所に移転する作業が2013年11月18日から開始された。細心で慎重な作業が約1年続けられた結果、2014年12月22日までで無事終了した。

ただし、原子炉内にはその後も水が満たされている。燃料棒はないが、放射線に汚染された構造物等が原子炉内に残置されており、これを冷却するためである。この高汚染水の処理が今後の課題となっている。

 イ 1号機ないし3号機の状況について

  1.  これに対し、メルトダウンした1号機ないし3号機の原子炉は、放射線量が高く、人が近づけない。それで次次と作業用ロボットを製作し、それを遠隔操作して、原子炉内の状況を把握しようとしてきた。しかし、その結果分かったことは必要な情報のごく一部のみであって、大部分は失敗の連続であった。
  2.  1号機の燃料プールには使用済み核燃料が392体、2号機には615体、3号機には566体保管されている。合計1573体である。
    3号機の566体は強い放射線を出す使用済み燃料と未使用燃料を合わせた数字であるが、これらの燃料棒の取り出し・移転は、燃料デブリをはじめとする今後の廃炉作業を安全に進めるために必要であるので、2014年から開始する予定であった。しかし、東電は3度にわたり、開始を延期してきた。平成29年9月の改訂廃炉ロードマップ(甲第442号証[3 MB])では、2018年中頃を目途に取り出しを開始するとされている。屋上に燃料取り出し用のカバーが設置されて、そのための準備が進んでいる。
    1号機、2号機の使用済み核燃料の取り出し・移転について政府が策定した廃炉工程ロードマップ(1次=甲193第号証)では、燃料取り出し・移転の開始は「2020年目途」とされていたが、それが3年遅れとなり、2023年となった。4号機の核燃料棒の移転は前述のように1年有余の年数を要したが、これと比べると、例えば1号機などはオペレーテイングフロアのガレキの散乱が激しく、これを整理し片付けながらの作業を余儀なくされるので、4号機よりもはるかに多くの時間を要することが予想される。
  3.  1号機ないし3号機の原子炉内部は本件爆発事故当時運転中であったため、燃料棒は高熱によって溶融し、デブリ化した。この燃料デブリの取り出しが廃炉の成否を握る最大の難関である。しかし、前述したように、1号機ないし3号機の内部状況は必死の努力にもかかわらず未だ殆どつかめていない。理由は繰り返し述べてきたように放射線量が極めて高く、人が近づけないためである。それでロボットを製作し、これを遠隔操作して線量や内部のデブリの状況を知ろうしてきたわけであるが、その結果分かったことはごく一部であって、まだまだ全容解明にはほど遠い状況にある。
    放射線量についてロボットから送られてきた情報によると、2号機の原子炉外で原子炉を支える基礎の部分で531シーベルトの放射能が存在していることが分かった。これは人間が1分間浴びたら即死亡するというほどの異常値である。そんな高い放射線量が原子炉外に存在する理由について誰も見当もつかないという状況である。
    2018年3月7日付朝日新聞によると、放射線量は1号機で1.5~12シーベルト/h(2017年5月調査)、2号機で7~42シーベルト/h(2018年1月調査)と報じている。

以上、要約的に言えば、原子炉内の状況については少しずつ分かってきた面があるものの、全体的に言えば未だ何もかもがボヤッ-としか見えない深い霧の中にあると言っても過言ではない。その点について改訂廃炉ロードマップでは、「燃料デブリに関する情報や燃料デブリ取り出しに必要な技術開発等が未だ限定的であることから、現時点で燃料デブリ取り出しを検討するには未だ不確実性が大きいことに留意し、‥‥不断の見直しを行う」と記述されている。要するに、今得られている情報からは、確信が持てる廃炉方針が具体的に定まらないということである。

 (2) デブリ取り出し作業の困難性

 ア 平成29年9月の改訂廃炉ロードマップでは、燃料デブリ取り出しに関する方針として、“ステップバイステップのアプローチ”とか、“廃炉作業全体(準備工事、取り出し工事、搬出・処理・保管及び後片付け)の最適化”とか、“複数の工法の組み合わせの必要性”とかなどについて言及しているが、これはもはやロードマップではなく、デブリ取り出し作業に着手・推進する側の心構えを述べたものに過ぎないというべきであろう。廃炉推進に関わる人たちの緊張感や必死さは伝わってくるけれども、具体的な廃炉作業工程について言及するところがないのである。

 イ デブリ取り出しの方法は、冠水工法と気中工法がある。福島第一原発の1号機ないし3号機にはすでに原子炉内に流入された水が満たされていたので、冠水工法によってデブリの取り出しが行われるという前提で進められてきた。水は、冷却効果の外に放射線を遮蔽する効力、さらにダスト飛散の防止効果を持っているので、冠水工法によれば放射性物質からの安全は確保されるという感覚で進んできた。

しかし、1号機ないし3号機の原子炉は小さな穴がたくさん開いており、水は外部に流れて貯まらない。その穴を防ぐべくコンクリート(いろいろな物質との化合を加えてのことであるが)を水と同時に流し込む実験をしたところ、水の流失は一応止まったとのことである。だが、その止水は実際に恒常的な安定性を有するのかは誰にも分からない。それが保障されなければ、工業化は難しい。

また、格納容器の底部に存在するデブリを冠水工法で取り出そうとすれば、オペレーテイングフロアから水中約10ないし30メートルの深さまで工具を吊り下げて入れて、遠隔操作をする必要がある。このような遠隔操作がはたして可能かどうか。可能としても非能率この上ないことは誰しも認めるであろう。

それで、改訂廃炉ロードマップでは、気中工法に軸足を置くとして、「現時点では冠水工法は技術的難度が高いため、より実現性の高い気中工法に軸足を置いて今後の取り組みを進めることとする」と結論づけている。

と同時に、格納容器の底に存在するデブリは上から出なく、横から取り出すことを先行させる。

しかし、気中工法の欠陥は、取り出し中のデブリから多量の放射性物質が飛散すること、それを防止しにくいことである。日本中どこの家屋解体でも多量の粉塵が飛散されることは常識であるが、本件の場合の粉塵は放射性物質によって汚染されているから、飛散を完全に遮断しなければならないが、その方法は未だ定まっていない。

 ウ 廃炉の最終目標は当然1号機ないし4号機の建屋解体、そのガレキ等の後始末まですることであるとしたら、放射性物質で汚染された廃棄物が相当量出てくるのは必定である。それをどこへ運搬し、どこで処分するのか。それが未だに具体的に決まっていない。改訂廃炉ロードマップではデブリ取り出し後の第3期で決定するとして先送りしているが、改めて述べるまでもなく、それが決まらなければ、デブリの取り出しなどには着手できないのである。

 エ それにもかかわらず、廃炉ロードマップでは、デブリ取り出し方法について2019年度までに確定し、2021年から初号機におけるデブリ取り出しを開始するとしている。

1号機ないし3号機の原子炉内外の状況について殆ど把握出来ていない2018年度時点に立って予測してみても、あと1年でデブリ取り出し方法を決められるはずがない。ロードマップは早晩改訂されることは確実である。こう頻繁に改訂を繰り返すのでは、ロードマップの名に値しない。

正直言って、現時点でのデブリ取りだしはあれこれ模索しているという以上の域を出ない。マスコミも「燃料デブリ 調べるほど多難」(2019年3月7日付朝日新聞朝刊=甲第440号証[961 KB])、「廃炉 遠い道のり」(前同日付毎日新聞朝刊=甲第441号証[2 MB])などとやや絶望的な見出しをつけて、デブり取り出しが遠い将来の課題となっていることを嘆じて報じている。

東電の社員は、“我々は世界中どこでも経験したことがないような非常に困難な作業を遂行しているのであって、次世代までしっかりと引き継いでいきたい”と胸を張る。その心意気を敢えて否定する気はないけれども、そう言うならその前に本件福島第一原発の事故は天災ではなく、平成14年から18年にかけて津波の長期評価等から知り得た15メートル以上の津波が襲来する可能性を無視して何の対策も取らなかった被告東電と、適切な改善指導をしなかった国の責任であることを忘れてはなるまい。東電と国の責任は原発避難賠償訴訟で各地の判決(今日までの判決として前橋地裁平成29年3月17判決、福島地裁平成29年10月10日判決、京都地裁平成30年3月16日判決及び平成30年3月16日東京地裁判決)が明確に断じているところである。こんな大事故の収束作業を世界中どこでも経験したことがないという以前に、こんな大事故を起こした国は世界中どこにもないこと(チェルノブイリは例外であるが)に深く思いを致すべきである。

 (3) 廃炉の期間

計画通りうまくいって、仮に2021年からデブリの取り出しを開始することができたとしても、完了するのに何年かかるのだろうか。誰も予測もできない。実際やってみなければ分からないのである。

改訂廃炉マップは、デブリ取りだし開始から30年ないし40年という期間を挙げている。その年月を知って誰もがあまりの遠さに嘆息する。しかし、嘆息しながら何となくそれくらいの期間をかければ何とかなるだろうと思ってはいないか。そこが味噌だが、科学的にその保証はどこにもなく、ええ加減な感覚で言ってるに過ぎないのである。それが証拠には、30年~40年とひとくくりで言うが、その10年の差は何の違いがあってもたらされるのか、おそらく誰も答えられないであろう。
問題の先送りをしてごまかしているだけではないのかと言わざるを得ない。

 (4) ドイツの決断

ドイツは我が国と同じように原発大国であったが、福島第一原発事故の後大きく舵を切り、原発廃絶を国会で決議した。すでに2011年中に8基、2015年6月に1基が閉鎖された。現在(2018年現在)、9基の発電炉が稼働しているが、2022年までにすべての原発を停止・閉鎖する予定である。

ドイツを全原発廃炉に踏み切らせた理由は何か。それは、日本のような科学技術先進の国であっても大規模な爆発事故が発生したことを重視し、人間が扱う以上原発事故は避けられないとして原発ゼロ国家へ転身したのである。

ドイツは福島第1原発事故から貴重な教訓をくみ取り、迷うことなく原発ゼロに踏み切った。ドイツは日本を教訓にした。今度は我々がドイツを教訓にして原発ゼロを実現さなければならないのである。

以上

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◆第20回口頭弁論の報告

第20回口頭弁論にご参加の皆さまは,たいへんご苦労様でした。

今回,準備不足のため,予定していた原告の意見陳述はできませんでした。申しわけございませんでした。
弁護団からは,原発事故関連死の状況について,福島県の震災関連死の率が突出していること,行方不明者を見殺しにての避難強いられたこと,避難過程での死者の発生を述べ,過酷事故時の避難は,戦場からの退避にも比肩すべきであると主張しました。福島第一原発の廃炉の困難性については汚染水対策,デブリの取り出しについて,解決が困難な問題点を指摘しました。核のゴミ問題について,核燃料サイクルや高レベル放射性廃棄物の10万年単位での保存の虚構などを述べました。

・開廷前の恒例のデモは,51名とにぎやかでした。
・傍聴席は抽選となり,模擬法廷には,14名の参加がありました。
・クリアファイル,缶バッジ,書籍などの販売もご協力いただきました。
・閉廷後の報告集会は満席となり,カンパは会場で報告したとおりで,感謝いたします。

・今回,核廃棄物,震災関連死,廃炉問題が取り上げられたのは,たいへん良かったと思う,と言う感想が寄せられています。また,「福井から原発をなくす裁判の会」の事務局の人が原告席で参加され,報告集会では,7/4の名古屋高裁金沢支部の判決に関して報告されたのは,タイミングがピッタリでした。

 

以上,概略のご報告まで。

 

 

◆5月22日に行った関電との話し合いの記録

関電側;広報担当者ほか2名。
使い捨て時代を考える会;3名。

今回は以下の質問書を提出し、話し合いました。
質問書
……………………………………………………………………………
1.大飯原発4号機を5月9日に再稼動させたことに、強く抗議します。安全は確保できているという根拠はどこにあるのですか。再稼動直後に、蒸気発生器の水位の低下を知らせる警報が鳴り、出力の上昇操作を中断したと報道されていますが、原因は何だったのですか?再稼動を急ぐあまり十分な備えを怠っているのではないでしょうか。再稼動を急ぐ理由はどこにあるのでしょうか。

2.原子力規制委員会が九州電力川内原発1号機について、テロ対策等の拠点となる「特定事故等対処施設」の工事を認可したと報じられました。高浜原発、大飯原発に関する特定施設の設置計画について、設置予定年度、予算を示してください。その完成を待たずに再稼動させるのは安全軽視ではないのでしょうか。

3.使用済み核燃料の処理についての、技術的、経費的な目途は立っているのですか。また、中間貯蔵施設を福井県外に作るということで、候補地を2018年に示すとのことですが、具体案はあるのですか。

4.大飯1、2号機の廃炉が決定されました。廃炉費用は現在の見積もりでは総額1160億円で、時間がかかればもっと費用がかかるとの見解でした。どの原子炉もいつかは必ず廃炉になります。廃炉費用さえきちんと計算できないまま、原発建設・運転を進めてきたことに、道義的責任はないとお考えでしょうか。また廃炉費用は託送料金に上乗せするとのことですが、見通しのないまま原発を建設・運転し、廃炉にするという道すじで、膨れた費用を消費者の負担にすることは、企業としてあまりにも無責任ではないでしょうか。

5.日本原電東海第2原発について、再稼動・運転延長には立地自治体以外の5市町村の事前了解を必要とするという安全協定がむすばれました。貴社の原発に関しても京都府・滋賀県の市町村と同様の協定を結ぶ必要があると考えますが、どのような見解をお持ちでしょうか。

6.電力自由化によって、貴社から他社へ切り替えた消費者は、4月末で155万件に上るとのことです。大飯原発再稼動、高浜原発再稼動で契約離れが加速していますが、そのことについてどうお考えですか。消費者は原発に依存しない電力会社を望んでいるのです。このことについてどのような見解をお持ちでしょうか。

以 上
……………………………………………………………………………
話し合いの内容(Q;こちら側の発言 A;関電の発言)

A (質問1について) 前に言った事の繰り返しだが「止める、冷やす、閉じ込める」で安全を確保する。運転員の教育など安全性向上対策を京都府などの地域協議会で説明しているし、規制委員会の審査を受けてやっている。総合負荷運転があり安全最優先でやっていく。

大飯4号機の警報のことは、5月10日17:38に起きた。中央制御室に警報が鳴り、運転員が1秒で止めた。水位の変動によるものだが、なぜ大きく変動したか、原因は突き止めていない。計器(水位計)に異常はなく、作業によって揺らぎが起きたか?

Q 原因が分からないのは不安だ。止めて原因を調べるのが常識ではないか。1秒警報が鳴った(実は作業員が警報をすぐ止めた)ことはたいしたことではないと思えるかもしれないが、いったん警報を止めて、次にスイッチを入れ、警報が鳴らなかったから安全、というのが怖い。事故は小さなものから大きく広がるものだ。なぜ運転を止めないのか。
A 出力の上昇操作を止めて検査した。

Q 原子炉は止めていないのか?
A 止めていない。

Q 原因不明なのに大丈夫だと判断したということが不安だ。異常があったら、全て止めるのが常識ではないか。計器に異常がなくても他に異常があったから警報が鳴ったのではないか。水位計はどの程度の異常で警報が鳴るのか。多少の揺らぎでもなるのか。そうならしょっちゅう鳴ることにならないか。
A 一時的に水位が低下したのだと思う。

Q 一般的に水位が変わる理由は何が考えられるか。
A 作業に伴って水位が変わったりする。

Q 計器に異常がないとはどうやって判断したのか。
A 実際の水位と水位計を見て判断した。警報が鳴った時についてはいろいろなルールがある。警報の一部がなっただけで軽微なものだった。

Q 計器に問題がないならほかに問題があるということだ。今はわずかなことだからと運転を続けているが、そういうことが大きな事故になる。原因の説明がないと市民の不安はきつい。
Q 玄海でもトラブルが続いて起きている。チェックができていない。今回、安易に動かしたのではないか。そのまま動かして大丈夫なのか疑問だ。水位変動したのにどの位変動したのかわかっていない。
Q 警報は頻繁に鳴るのか。
A 頻繁にはならない。警報にルールがあって、3つ鳴るとどうだとか、1つだと偶発的だとかいうことがある。国に報告しているし、勝手に動かしたりはしていない。

Q 原因が究明できていないのに動かしているのか。
A 今回は根本的原因があったわけではないので…。

Q 危険な施設だから止めて調べるべきではないか。安全第一と矛盾している。
Q 高浜原発を定期検査で止めるので大飯を動かしたのか。
A そういうわけではない。

Q 経営的に厳しいから動かすのか。
A 安全最優先で動かしている。

Q ぜひ安全は最優先してもらいたいが、そうしていないことがつらい。美浜再稼動も経営のためか。
Q トラブルが起きたら信用を失う。企業的に安定経営をねらうなら、いまは増収増益だから本来止めるべきなのではないか。なぜ再稼動を急ぐのか。
A 増収増益とは我々は切り離している。経営のためでなく、安全確認できたら動かしている。

Q 経営のためでもなく、電気が足りていないわけでもないのに動かすとは?!危険な橋をなぜ渡るのか。なぜ再稼動するのか。
A 日本の電源のあり方で、国でS+3Eとしている。原発をやめて火力にすると価格が上る。再生エネルギーは不安定。エネルギーミックスがベストだというのが国の方針にある。

Q その考え方はマスコミでの評判も悪い。原子力が安くないことはもう分かっている。政府も責任が取れないし、電力会社も責任は取れないだろう。採算が取れないのに見切り発車している。政府は無理な数字を出している。
Q 関電は7基を動かそうとしているが、多すぎるのではないか。中国でも再エネを進め投資しているのに、日本はなぜ原発にこだわるのか。
A いろんな電源をミックスすべきというのは会社の考えだ。

Q なぜそこまで危険を冒すのか。
A 40年越えのものも機器の取り換えをやっている。

Q 運転延長はとにかく危険だ。当初は20~30年が常識だった。今の技術は進んでいるが40年前に設計されたものを長期間使わないでおいて動かすのは大丈夫と言えるのか。
Q 海外ではコアキャッチャーをつけてやっているが、日本ではつけていない。原発は採算が取れないのになぜやるのか。
A 経産省の資料では海外は原発を残していく方向となっているが。

Q それは違う。日立もイギリスの原発から撤退しようとしている。建設費が高騰しているせいで、最後は税金で払うことになる。
Q 福島原発では津波が来ないと思い込んでいた。警報が鳴ったという小さなトラブルを軽く受け止めるか、重く受け止めるか。電力計画を政府が言っているから…というのは軽く考えている。
Q 安全第一でやっていくというが、どうしても2基は動かしていたいのか。
A 今回は、たまたま止まった。

Q 裁判で1日止めると数億円の損害と関電は言っていた。そういうことも関係しているのか。
Q 原発だからこのようなことを言わなくてはならない。他の電源に代えてもらいたい。
A 会社としては3Eで,経済の観点から…

Q 福島事故を受けても関電は何ら変わっていない。事故が心配だから他の電源に代えてもらいたいという市民の意見を上層部に伝えてもらいたい。
Q 計器がおかしくないなら、水位が変動しているはずだ。揺れの幅を考えて設計しているのだから、それを超えたら警報が鳴る。その原因を調べるのは当たり前のことではないか。運転を始めたばかりだから、今なら止めるのは楽だ。いったん止めて徹底的に調べるのが安全第一ではないのか。とにかく警報の原因を調べてもらいたい。
A そろそろ時間なので…

Q (質問5に関して)関電は原発を使っているという理由で他社に切り替えた人は多い。高浜原発が再稼動したときに関電をやめた人が増えた。原発をやめたら関電に戻るという人もたくさんいる。ぜひやめてもらいたい。
Q 水位変動のデータがあればもらいたい。
A あれば次回に。


今回は大飯原発4号機再稼動直後に警報が鳴ったことについて質した。水位が下がって警報が鳴ったが、計器(水位計)に異常はなく、なぜ警報が鳴ったのか原因不明だそうだ。原因不明なのに動かし続けるとは!!!

◆5月中旬以降に若狭で配布するチラシ

【2018年5月中旬以降に若狭でのアメーバデモで配付。】

大飯原発3、4号機の再稼働は許してしまいましたが、

反原発運動はますます重要になっています

◆福島原発事故から7年になりますが、この事故は、原発が重大事故を起こせば、人の命と尊厳を奪い、職場を奪い、農地を奪い、海を奪い、生活基盤を奪い去ることを、大きな犠牲の上に教えました。原発重大事故は、人が人間らしく生きる権利を根底から奪い去るのです。

◆一方、福島事故以降の経験によって、原発は無くても何の支障もないことが実証されました。原発は動いていなくても、電気は十分足りていました。そのため、脱原発、反原発は圧倒的な民意となっています。それでも、関西電力(関電)は、3月14日、5月9日に大飯原発3、4号機を再稼働させました。脱原発、反原発の民意を蹂躙し、脱原発に向かう世界の潮流に逆らうものです。

私たちは、全力で大飯原発再稼働に抗議しました

◆私たちは、この原発再稼働の暴挙を座視してはいませんでした。オール福井反原発連絡会、ふるさとを守る高浜・おおいの会、若狭の原発を考える会の呼びかけで昨年8月に結成された「大飯原発うごかすな!実行委員会」は、10月15日、4月22日に、それぞれ600名、700名の参加を得て、「関電包囲全国集会」と御堂筋デモを貫徹し、関電に原発再稼働阻止の決意を示し、市民や内外からの観光客に原発全廃を訴えました。

◆また、12月3日には500人の参加を得て、「おおい町現地全国集会」と町内デモを行い、おおい町の方々に原発再稼働反対行動への決起を訴えました。2月25、26日には、延べ220名の参加を得て、若狭湾岸一斉チラシ配布(通称拡大アメーバデモ)を実施し、5万枚以上のチラシを配布しました。

◆さらに、大飯原発3、4号機が再稼働されようとした3月13日(100名参加)、14日(70名参加)、5月9日(100名参加)には、おおい町現地でのデモと原発ゲート前での集会を行い、断固として再稼働に抗議しました。

大飯原発再稼働でもトラブルが発生しました

◆5月9日に再稼働した大飯原発4号機では、10日早速、蒸気発生器の水位計が異常を検知したことを示す警報が鳴り、出力上昇が中断されたと報道されています。関電は、蒸気発生器(2次系)の水位は規定値内であり、水位計に問題はなかったとして、出力上昇を再開しました。

◆しかし、関電の説明では、問題がなく正常な水位計が、水位に異常がないのに、警報を発したことになります。警報が鳴った理由は不明で、何かが隠されているとしか考えられません。
これで、福島事故以来再稼動した5原発(川内、高浜、伊方、玄海、大飯)の全てが再稼動前後にトラブルを起こしたことになります。トラブル率100%です。

◆2015年8月に再稼働した川内原発1号機は、再稼働10日後に復水器冷却細管破損を起こし、高浜原発4号機は、再稼働準備中の1昨年2月20日,1次冷却系・脱塩塔周辺で水漏れを起こし、2月29日には、発電機と送電設備を接続した途端(とたん)に警報が鳴り響き、原子炉が緊急停止しました。

◆さらに、伊方原発3号機は、再稼働準備中の1昨年7月17日、1次冷却水系ポンプで水漏れを起こしました。去る3月23日に再稼働した玄海原発3号機は、再稼働1週間後の3月30日に、脱気装置からの蒸気漏れを起こしました。配管に直径1.3 cmの穴が開いていたそうです。

◆何れも、重大事故に繋がりかねない深刻なトラブルです。なお、関電の関連企業は、1昨年3月以降、運搬中の鉄塔工事用の資材1トン近くをヘリコプターから落下させる事故を3度も起こしています。また、昨年1月20日には、長さ112メートルのクレーンを2号機の使用済み燃料プール建屋の上に倒壊させました。予測できる程度の強風で倒れたのです。信じられない幼稚な事故です。

◆このように、再稼働を進める全ての電力会社がトラブルを起こしているという事実は、
①原発の点検・保守や安全維持の困難さを示唆し、
②配管の腐食や減肉(げんにく:厚みの減少)、部品の摩耗などが進んでいることを示しています。また、
③傲慢で安全性を軽視することに慣れ切り、緊張感に欠けた電力会社が原発を運転する能力・資格を有していないことを実証しています。さらに、
④規制委員会が適合とした全ての原発が再稼働前後にトラブルを起こした事実は、原発の再稼働にお墨付きを与えた新規制基準が極めていい加減な基準であり、規制委員会の審査が無責任極まりないことを物語っています。

大飯原発の再稼働は許したものの、反原発運動の意義は大きいと考えます

◆大飯原発の再稼働を許したことは本当に残念なことですが、私たちの運動に限らず、各地で毎年行われている福島事故を忘れない3.11集会、全国で毎週行われている脱原発金曜行動などの反原発運動には、次のような意義があると考えられます。

◆第1に、現地での行動は、原発再稼働に抗議するだけでなく、表にはでていないものの、若狭などの原発立地に広範に存在する「原発は嫌だ」の声に呼応し、連帯するものです。

◆第2に、反原発の闘いが、老朽原発を廃炉に追い込んでいます。脱原発、反原発の圧倒的な民意に後押しされた大衆運動のために、傲慢な電力会社と言えども、原発を動かそうとするとき、多額の費用を要する安全対策を施さざるを得なくなり、安全対策費のかさむ老朽原発の廃炉を決意せざるを得なくなっています。昨年末からでも老朽大飯原発1、2号機、伊方原発2号機の廃炉が決定しました。これで、福島事故以降に廃炉が決定した商業原発は9機になりました。

◆第3に、脱原発、反原発の大衆運動は、原発重大事故を防いでいるとも言えます。大衆運動がなければ、電力会社は多額の費用を要する安全対策もせずに、老朽原発を含む原発を次々に動かし、重大事故の確率は格段に高くなっていたでしょう。

◆第4に、脱原発、反原発の大衆運動は、国内だけでなく世界にも拡がり、世界的に安全対策費を高騰させ、原発産業を成り立たなくさせています。東芝が破綻し、伊藤忠商事がトルコの原発建設計画から撤退すると報道されています(4月25日)。

◆第5に、反原発の大きな声が、裁判闘争を後押しし、司法を動かしています。福井地裁、大津地裁、広島高裁での原発運転差し止め決定など司法での勝利も、福島原発事故後、格段に多くなっています。

◆以上のように、反原発の大衆運動は、老朽原発廃炉、原発からの企業の撤退、裁判闘争の勝利に貢献していると言えます。

大飯原発3、4号機即時廃止、高浜原発3、4号機の再々稼働反対、
老朽高浜原発1、2号機、老朽美浜原発3号機の再稼働阻止の行動を
さらに大きくしましょう!

◆前述のように、反原発の大衆運動は、原発重大事故の確率を下げることには貢献していますが、完全に原発事故を避けるには、原発全廃しかありません。さらに大きな原発全廃運動を構築しましょう!

①大飯原発3,4号機は再稼働されたとは言え、大衆運動が高揚し、裁判闘争にも勝利すれば止めることができます。粘り強い原発全廃運動が肝要です。

②昨年再稼働された高浜原発4号機、3号機は、5月、8月に定期点検に入り、その2~3か月後に再々稼働されると報道されています。いい加減な定期点検で安全が保たれるものではありません。再々稼働阻止の行動に立ちましょう!
なお、高浜原発3、4号機は、とくに危険なMOX燃料プルサーマル炉です(裏面【1】をご参照ください)。

③高浜原発1、2号機(1974年11月、1975年11月営業運転開始)、美浜原発3号機(1976年3月営業運転開始)は、運転開始後40年を大幅に超えた老朽原発ですが、関電は、高浜原発1、2号機を2019年10月以降に、美浜原発3号機を2020年3月以降に再稼働させようとしています。全国の老朽原発の再稼働への道を開こうとするものです。

◆原発は、老朽になるほどトラブル率が急増します。圧力容器の脆化(ぜいか:金属などが軟らかさを失い、硬く、もろくなること:)、配管の腐食、配線被覆の老化、資料の散逸など、問題点は山積です(下記【2】をご参照ください)。

◆福島原発事故後、老朽大飯原発1、2号機、伊方原発2号機を含め、福島原発を除いても、9機の廃炉がすでに決定しています。膨大な安全対策費を要する老朽原発再稼働は阻止できる可能性があります。原発の40年越え運転を阻止し、原発新設を阻止すれば、最悪でも2049年には国内の原発はゼロになります。老朽原発再稼働阻止の闘いに今すぐ起ちましょう!

【1】MOX燃料の危険性は、ウラン燃料より格段に高い

◆通常の原発では、燃料としてウラン酸化物を用いています。この燃料のウランは、天然にあるウラン(ウラン235約0.7%、ウラン238約99.3%を含む)とは異なり、核分裂し易いウラン235を2~5%(通常約4%)になるように濃縮したものです。

◆一方、MOX 燃料は、ウラン238とプルトニウム(239が主体)の混合酸化物 (Mixed Oxide;MOX) であり、プルトニウムの含有量は4~9%です。MOX燃料は、原子炉で使い終えた核燃料を溶解して、燃え残ったウランや新たにできたプルトニウムなどを分離抽出して(再処理して)つくります。すなわち、MOX燃料の製造には、危険極まりない再処理が不可欠です。

◆プルサーマル発電とは、プルトニウムを一般的な原子炉で燃す発電方法のことであり、MOXを燃料としています。プルサーマル発電において、原子炉内の燃料の1/3程度をMOX燃料、残りをウラン燃料とした場合、発電量全体に占めるプルトニウムによる発電量は平均50%強となります。高浜3、4号機に装荷されたMOX燃料は、各々24体(全157体中)、4体(全157体中)です。

◆高浜3、4号機のような既存原発のプルサーマル化では、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉のウラン燃料の一部をMOX燃料で置き換えて運転するので、技術的な課題が多くなります。なお、原子力規制委員会の新規制基準適合審査における重大事故対策の有効性評価の解析対象は、ウラン炉心のみであり、MOX炉心については何ら評価されていません。

重大事故の確率が高い理由の例

◆プルトニウムの核分裂では、酸素と結合し難い白金族元素が生成し易いので、プルトニウム酸化物中でプルトニウムと結合していた酸素が遊離しますが、遊離した酸素が被覆管を腐食します。また、プルトニウムはα粒子を放出し易い元素ですが、α粒子はヘリウムガスになりますので、燃料棒内の圧力が高くなり、被覆管を破損させる可能性が高くなります。

◆当初はMOX燃料中のウラン、プルトニウムを均質に混合していても、核分裂によって高温になった燃料中では、不均質化(プルトニウムスポットの生成)が起こりやすいため、燃料の健全性が失われます。

◆ウラン燃料と比べて、MOX燃料では燃焼中に核燃料の高次化(ウランより重い元素が生成すること)がより速く進みます。とくに、中性子を吸収しやすいアメリシウム等が生成され易いため、高次化が進んだ燃料を含む原子炉では、運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下します。

使用済みMOX燃料の発熱量は、ウラン燃料に比べて下がり難い。核分裂によってMOX燃料から生じる元素(死の灰)の種類は、ウラン燃料から生じるものとは異なりますから、使用済み核燃料の放射線量や発熱量の減衰速度も異なります。
使用済みMOX燃料の発熱量は下がり難いため、長期にわたって(使用済みウラン燃料の4倍以上)プール内で水冷保管しなければ、空冷保管が可能な状態にはなりません。取り出し後50年~300年の使用済みMOX燃料の発熱量は、使用済みウラン燃料の発熱量の3~5倍です。MOX燃料は、その意味でも、極めて厄介な核燃料です。

【2】原発の危険度は、老朽化に伴い急激に増加(理由の例)

◆原発は事故の確率が高い装置ですが、老朽化すると、さらに重大事故の確率が急増します。例えば、原発の圧力容器、配管等は長期に亘って高温、高圧、高放射線にさらされているため、脆化(下記注をご参照下さい)、腐食が進んでいます。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化は深刻です。配管の減肉や腐食、電気配線の老朽化も問題です。

【注】老朽原発圧力容器の脆性破壊 鉄のような金属は、ある程度の軟らかさを持っていますが、高温で中性子などの放射線にさらされると、温度を下げたとき硬化しやすくなり、脆(もろ)くなります(脆化といいます)。脆くなると、ガラスのように、高温から急冷したとき破壊されやすくなります。原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で放射線にさらされていて、運転時間と共に脆くなる温度(脆性遷移温度)が上昇します。例えば、初期には‐18℃で脆化していた鋼鉄も、34年間炉内に置くと98℃で、40年を超えると100℃以上で脆化するようになり、脆くなります。したがって、老朽原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が破裂する危険があります。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化は著しいと言われています。

【参考】若狭にも原発反対の声は多い

◆中日新聞2018年5月8日朝刊に、小浜湾を挟んで5 km 離れた対岸の集落・小浜市内外海(うちとみ)地区での世論調査の結果が掲載されていました。

小浜の5キロ圏住民、反対が多数 大飯4号機再稼働

◆新聞記事→こちらで読むことができます。

2018年5月発行

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆6/5の第20回口頭弁論のお知らせ

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大飯原発差止訴訟[京都地裁]の原告の皆さまへ
次回 6/5(火)の裁判期日のお知らせ
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第20回口頭弁論について

6/5(火)14:00より,京都地方裁判所において開かれます。
多くの皆さまにご参加いただきますよう,ご案内します。

次回の法廷の概略…次の通りです。

(1)原告の意見陳述…京丹後市の西川政治さん(丹後ふるさと病院)「病院における原子力防災」について。

(2)弁護団から(予定)
①福島第一原発の廃炉作業について。
②国家賠償上の違法責任について。
③原発事故関連死について


6/5の裁判に参加する方法…以下,三つの方法があります。

[1] 原告席…法廷の中で柵の内側に,原告として入ります。被告の正面になります。

・原告団が氏名を裁判所に通知します。希望される場合は★5月27日(日)★までに電話,FAX,葉書などで末尾記載の事務局宛ご連絡ください。
・E-Mailでの応募と合わせて先着順とし,定数に達するまで募集します。
・合計35名ほどの原告が参加できますので,先着順で定数に達するまで募集します。

【注意】2017年に原告申込をされた方(=第六次原告)も,原告席に入ることができます。

[2] 傍聴席…法廷の中で柵の外側。88席あり,そこに入るには,裁判所が抽選を行います。

・13:20~13:35の間に,京都地裁正面玄関前で,抽選リストバンドが配布されます。
・13:35からの抽選,傍聴券の配布は,地裁の北側正面玄関前となります。
・傍聴席は,原告でない方も,誰でも抽選によって参加することができます。
・傍聴席に入ることができなかった場合は,下記の模擬法廷にご参加ください。

★傍聴におこしください★ 最近の口頭弁論では,関電の関係者と思われる傍聴希望者が20名ほど来ていて,抽選の結果,10数名が傍聴席に入っています。関電の社員に私たち原告の主張を聞いてもらうのは良いことですが,原告の皆さん,脱原発を願う支援の皆さんの傍聴機会がなくなるのは困ります。3/27の傍聴席は,脱原発の声で埋めたいと思います。原告席に参加されない場合でも,ぜひ傍聴にご参加ください。

[3] 模擬法廷…弁護団が用意します(法廷と同じ14:00開始)。

そこに参加するには,
・京都地裁の構内の南東角にある「京都弁護士会館・地階大ホール」へ,直接おこしください。
・法廷よりもわかりやすく,弁護団が解説します。
・事前に提出されている被告(国や関電)側の書面があれば,その解説も行います。


報告集会の開催

・法廷の終了後(15:00頃から)「京都弁護士会館・地階大ホール」にて報告集会を開催します。
・裁判に関するご質問なども,弁護団から説明いたします。


開廷前のデモ

・市民に脱原発を訴えるため,従来通り,12:10 までに京都弁護士会館前(京都地裁構内の南東角)に集合して裁判所周辺のデモを行います。多くの皆さまが参加されるよう,訴えます。
・出発は12:15 です。30分程度で終わる予定です。
・デモ後に,裁判所の傍聴席の抽選に応募することができます。


◆反原発運動はますます重要

【2018年5月11日,京都キンカンで配付。】

大飯原発3、4号機の再稼働は許してしまいましたが、

反原発運動はますます重要になっています

5月9日、おおい町内デモと原発前集会に100人
ご参加、ご支援ありがとうございました。

◆関西電力(関電)は、3月14日、5月9日に大飯原発3、4号機を再稼働させました。脱原発、反原発の民意を蹂躙し、脱原発に向かう世界の潮流に逆らうものです。

◆私たちは、この暴挙を座視してはいませんでした。オール福井反原発連絡会、ふるさとを守る高浜・おおいの会、若狭の原発を考える会の呼びかけで昨年結成された「大飯原発うごかすな!実行委員会」は、10月15日、4月22日に、それぞれ600名、700名の参加を得て、「関電包囲全国集会」と御堂筋デモを貫徹し、関電に原発再稼働阻止の決意を叩きつけ、市民や内外からの観光客に原発全廃を訴えました。

◆また、12月3日には、おおい町現地全国集会と町内デモを500人の参加を得て闘い、2月25、26日には、延べ220名の参加を得て、若狭湾岸一斉チラシ配布(拡大アメーバデモ)を貫徹し、5万枚以上のチラシを配布しました。

◆さらに、大飯原発3、4号機再稼働阻止のために、3月13日(100名参加)、14日(70名参加)、5月9日(100名参加)に、おおい町現地でのデモと原発ゲート前抗議闘争を果敢に闘いました。


毎日新聞(2018-05-19)


京都新聞(2018-05-19)

大飯原発3、4号機の再稼働は許したものの、
反原発運動の意義は大きい!

大飯原発の再稼働を許したことは本当に悔しいことですが、上記ような運動に限らず、各地での福島事故忘れない3.11集会、毎週行われている脱原発金曜行動などの大衆行動には、次のような意義があると考えられます。

◆第1に、現地での行動は、原発再稼働に抗議するだけでなく、表にはでていないものの、若狭に広範に存在する「原発は嫌だ」の声に呼応し、連帯するものです。

◆第2に、反原発の闘いが、老朽原発を廃炉に追い込んでいます。脱原発、反原発の圧倒的な民意に後押しされた大衆行動のために、傲慢な電力会社と言えども、原発を動かそうとするとき、多額の費用を要する安全対策を施さざるを得なくなり、安全対策費のかさむ老朽原発の廃炉を決意せざるを得なくなっています。昨年末からでも老朽大飯原発1、2号機、伊方原発2号機の廃炉が決定しました。これで、福島事故以降に廃炉が決定した商業原発は9機になりました。

◆第3に、脱原発、反原発の大衆運動は、原発重大事故を防いでいるとも言えます。大衆運動がなければ、電力会社は多額の費用を要する安全対策もせずに、老朽原発を含む原発を次々に動かし、重大事故の確率は格段に高くなっていたでしょう。

◆第4に、脱原発、反原発の大衆運動は、国内だけでなく世界にも拡がり、世界的に安全対策費を高騰させ、原発産業を成り立たなくさせています。東芝が破綻し、伊藤忠商事がトルコの原発建設計画から撤退すると報道されています(4月25日)。

◆第5に、反原発の大きな声が、裁判闘争を後押しし、司法を動かしています。福井地裁、大津地裁、広島高裁での原発運転差止め決定など司法での勝利も、福島原発事故後、格段に多くなっています。

◆以上のように、反原発の大衆運動は、老朽原発廃炉、原発からの企業の撤退、裁判闘争の勝利に貢献していると言えます。

大飯原発3、4号機の再稼働は許してしまいましたが、
脱原発、反原発の闘いの手綱を緩めてはなりません!

大飯原発3、4号機即時廃止、
高浜原発4、3号機の再々稼働反対、
老朽高浜原発1.2号機、
老朽美浜原発3号機の
再稼働阻止の行動を強化しよう!

◆前述のように、反原発の大衆運動は、原発重大事故の確率を下げることには貢献していますが、完全に原発事故を避けるには、原発全廃しかありません。さらに大きな原発全廃運動を構築しましょう!

◆①大飯原発3,4号機は再稼働されたとは言え、大衆運動が高揚し、裁判闘争にも勝利すれば止めることができます。粘り強い原発全廃運動が肝要です。

◆②昨年再稼働された高浜原発4号機、3号機は、来る5月、8月に定期点検入りし、その2~3か月後に再々稼働されると報道されています。いい加減な定期点検で安全が保たれるものではありません。断固とした再々稼働阻止の行動に立ちましょう!

◆③高浜原発1、2号機(1974年11月、1975年11月営業運転開始)、美浜原発3号機(1976年3月営業運転開始)は、運転開始後40年を大幅に超えた老原発ですが、関電は、高浜原発1、2号機を2019年10月以降に、美浜原発3号機を2020年3月以降に再稼働させようとしています。全国の老朽原発の再稼働への道を開こうとするものです。

◆原発は、老朽になるほどトラブル率が急増します。圧力容器の脆化(ぜいか;もろくなること)、配管の腐食、配線被覆の老化、資料の散逸など、問題点は山積です。

◆すでに、老朽大飯原発1,2号機、伊方原発2号機を含め、福島原発事故後、福島原発を除いて9機の廃炉が決定しています。膨大な安全対策費を要する老朽原発再稼働は、阻止できる可能性があります。老朽原発の40年越え運転を阻止し、原発新設を阻止すれば、最悪でも2049年には国内の原発はゼロになります。

◆老朽原発再稼働阻止の闘いに今すぐ起ちましょう!

【参考】

中日新聞2018年5月8日朝刊に、小浜湾を挟んで5 km 離れた対岸の集落・小浜市内外海地区での世論調査結果が掲載されていました。ここに転載して、紹介します。こちら

2018年5月11日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆第19回口頭弁論の報告

3/27(火),京都地裁,大飯原発差止訴訟の第19回口頭弁論。開廷前の恒例裁判所周辺デモは,55名の参加。裁判所周辺のしだれ桜が咲き始めていて,春の雰囲気いっぱいでした。

法廷の原告席は30数名の原告と10数名の弁護団ですし詰め状態。傍聴席の応募もたくさんあって抽選になりました。傍聴席にあたらなかった方は,すみませんでしたm(_ _)m

弁護団は,関電が日本海では巨大地震による大津波を警戒する必要はないとしている点に対して,竹本修三原告団長(京大名誉教授)が1026年に島根県益田地方を襲った万寿(まんじゅ)津波のメカニズムを解明して,関電の津波対策の見直しを主張しました。伝承されている20mこえの津波の到来には信用性があり,関電の津波対策の不十分さを指摘しました。

また,大飯原発などの避難計画についても不十分さを指摘しました。舞鶴市の小学校の先生が意見陳述を行い,子供を放射能被害から守る困難さや避難先での子供のいじめ問題等も紹介しました。全校生徒200人足らずの小学校には,市の職員配置はたった3人。でも校区内の避難想定者は3000人とのこと。子どもたちに放射能の心配のない日本を残すため原発の廃炉をと訴えました。

閉廷後,弁護士会館で報告集会。多くのご参加,ありがとうございました。再稼働が進む関電の原発に対して,法廷闘争そして市民運動をいっそう大きくしていきたいと思います。

なお,今日,第六次原告53名の追加提訴を行い,これまでの原告総数は,3323名となりました。原告募集はこれで終了します。

【これまでの概略】

京都地裁の大飯原発差止訴訟は,関電の設定する基準地震動への疑問と,事故が起こった際の避難困難性について,着々と主張を積み重ねています。

被告関西電力は,基準地震動策定が「平均像」であることを認めた上で,地域特性を十分に把握できており,基準地震動を超える地震発生の可能性は否定できると主張しています。しかし,主張をするばかりで保有している根拠資料すら提出せず,それどころか原発の地域特性の調査として当然になすべき重要な調査がなされないままです。また実施された調査結果は「科学技術を冒涜する所作」(つまり改ざんです)以外の何物でもないと言えるほどに,基準地震動が小さくなるよう歪めて評価していることを明らかにしました。

また,昨年末,関西電力が経済的合理性から老朽大飯原発1・2号機の廃炉決定をしたことは,私たちの勝利といえます。安全対策費が膨大になり,ペイしなくなったのです。

私たちは,原発の科学的技術的な課題(安全性),倫理的問題(将来への核のゴミつけ回し,電力多消費型社会への批判)を追及しつつ,経済合理性からみても原発が産業として成立しないことなどを追及しています。