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◆福井地裁判決をめぐる新聞各社の論説

以下、大飯原発差止訴訟の弁護団の浅野則明弁護士が、Facebookに投稿された内容を転載します。
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大飯原発差し止め判決(福井地裁)についての社説を比較してみた。
朝日、毎日、京都は、概ね司法の役割を果たした画期的な判決として高く評価している。しかし、読売だけは、不合理な推論が導く不当な判決であるとこき下ろしている。

<朝日新聞>
・東京電力福島第一原発事故の教訓を最大限にくみ取った司法判断だ。電力業者と国は重く受け止めなければならない。・原発は専門性が高く、過去の訴訟では裁判所は事業者や国の判断を追認しがちだった。事故を機に、法の番人としての原点に立ち返ったと言えよう。高く評価したい。
・事業者や国、規制委は、判決が投げかけた疑問に正面から答えるべきだ。上級審での逆転をあてに、無視を決め込むようなことは許されない。

<毎日新聞>
・住民の安全を最優先した司法判断として画期的だ。
・司法判断を無視し、政府が再稼働を認めれば世論の反発を招くだろう。
・いったん原発事故が起これば、多数の住民の生命を脅かす。判決が「万が一の場合にも放射性物質の危険から国民を守るべく万全の措置を取らなければならない」と電力事業者側に強く求めたことも納得できる。
・安倍政権は、震災を忘れたかのように、なし崩し的に運転再開しないよう慎重な判断をすべきだ。

<京都新聞>
・原発の安全性は何ものにも優先されねばらない。そんな当然の感覚を反映した判決と言える。
・福島事故から3年余。政治が再稼働容認へ傾斜する中だけに、画期的な司法判断を評価したい。
・関電は判決を真摯に受け止めるべきだが、言い渡しの法廷に関電関係者が誰も出席していなかったのは理解に苦しむ。・原発は電気を生み出す一手段にすぎないのに、いったん大事故を起こせば大勢の生活基盤と人生を根底から覆してしまう。それほどのリスクを私たちは抱えきれるのであろうか。-判決の問いかけを重く受け止めたい。

<読売新聞>
・「ゼロリスク」に囚われた、あまりに不合理な判決である。
・昨年7月に施行された原発の新たな規制基準を無視し、科学的知見にも乏しい。
・判決がどれほどの規模の地震が起きるかは「仮設」であり、いくら大きな地震を想定しても、それを「超える地震が来ないという確たる根拠はない」と強調した点も、理解しがたい。
・非現実的な考え方に基づけば、安全対策も講じようがない。
・(大阪高裁が)規制委の安全審査が続いていることを考慮し、「その結論の前に裁判所が差し止めの必要性を認めるのは相当でない」という理由からだ。常識的な判断である。
・(伊方原発最高裁判決は)原発の審査に関し、司法の役割は抑制的であるべきだとした妥当な判決だった。福井地裁判決が最高裁の判例の趣旨に反するのは明らかである。

◆大飯原発運転差止訴訟第4回口頭弁論に出廷して

日本科学者会議京都支部の支部ニュース (2014年6月号)

 福井地裁が「大飯発電所の3号機と4号機の原子炉を運転してはならない」とする判決を下した同じ5月21日(水)の午後2時、京都地裁大法廷において標記裁判の第4回口頭弁論が行われました。今回の特徴は、担当判事3名が全員交代したことです。そのため、第1回(2,013年7月2日)の口頭弁論と同じ内容の陳述が同じ口述人により行われました。新たに登場した裁判長は女性で、熱心に陳述に耳を傾けていました。これまでも全く陳述をしてこなかった被告側は、当然、述べるものは何もなく、次回を9月30日午後2時の開廷として、法廷は約1時間で終わりました。
 今回の法廷では、原告側が原告34名と弁護士10数名の出廷に対して被告側は15名でした。また、これまで同様、傍聴席はほぼ満席でしたが、記者席は、第1回10席が、第2回(2013年12月3日)9席、第3回(2014年2月19日)5席と減少し、今回の第4回は3席しかありませんでした。記者席は事前通告制らしく、いつも満席です。
 傍聴券抽選漏れの人も加わって、毎回の裁判の後、裁判所敷地内にある弁護士会館で開かれている報告集会では、冒頭に午後3時開廷の福井地裁での勝利判決の紹介が行われ、会場から大きな拍手とどよめきが起こりました。そのせいで、会場には、NHK京都支局が取材のカメラを持ち込み、弁護団長や原告団長の発言や会場からの発言の様子を撮影していました。夜のニュースで放映されたのをご覧になった方も多いと思います。報告会の途中で中島晃弁護士と竹本修三原告団長が、夜に開かれる福井の報告集会に向けて、連帯の挨拶を伝えに出発しました。福井地裁判決と同じ勝利判決を勝ち取るべく、年内に3000人の原告団達成を目指して奮闘することを誓い合って散会しました。

(大飯原発差止訴訟京都脱原発訴訟原告団世話人、日本科学者会議京都支部 幹事 富田道男)

◆原発再稼働差し止め判決に歓声
 第4回口頭弁論・報告集会

大飯原発差止京都訴訟第4回口頭弁論・報告集会

橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

救援新聞 京都版No.1211 2014年6月5日[366 KB](PDFファイル 365KB)
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 福井県の大飯原発の差し止めと賠償を求めて京都などの原告1963人が関西電力と国を相手に起こした訴訟の第4回口頭弁論が京都地裁 (第6民事部合議A係・堀内照美裁判長) 101号法廷で開かれ、弁護団・原告団、支援の傍聴者120人余りがぎっしり席を埋めた法廷では、裁判官の交代に伴う更新手続きが行われました。原告や、弁護団が新任の裁判官に、訴訟にあたっての意見陳述や準備書面の趣旨説明で危険な大飯原発の差し止めを訴えました。

 弁論終了後京都弁護士会館で開かれた報告集会では、冒頭、この日福井地裁 (樋口英明裁判長) で出された大飯原発の再稼働差し止めを命ずる勝訴判決が報告されると、会場は大きな拍手と歓声に包まれました。ニュース映像も映し出され、喜びに沸く裁判所前には「司法は生きている」の横断幕も。出口治男弁護団長は、記者団の質問に答えて、自ら裁判官を務めてきた経験からもこういう住民勝訴の判決は大変難しいと思っていたが、司法が住民の命と暮らしに向き合い、憲法が保障した人権を生かそうとの判断に立ったもの、私たちも未来をみすえて原発のない社会へ行政の政策転換をもとめてこの裁判でもたたかう、と述べました。

 この日の弁論では、最初に竹本修三原告団長(固体地球物理学・京都大学名誉教授)が意見陳述。竹本団長は、要旨次のように訴えました。「世界地図の0.25パーセントの狭い日本で世界の地震の20パーセントが起こっている。ここに50基もの原発が存在することが異常。しかも海溝型巨大地震が2030年代終わりに南海トラフ沿いで起こることも予測される。原子力規制委員会は、大飯原発敷地内を活断層の有無だけにしぼって結論を出しているが、これはむなしい議論だ。兵庫県南部地震のように過去の地震は活断層から離れたところでも発生している。地震の予知も確立していない。使用済み放射性廃棄物の処分問題も解決していない。福島第一原発の事故は、震災・津波・人災の複合災で、どの原発も同じような危険性をはらんでいることをしっかり認識していただき、子や孫の代に負債を残さないために、脱原発に向かって進んでいただきたい」
 
 つづいて原告弁護団の渡辺輝人弁護士が立ち、事故は起こらないという安全神話によりかかって対策をとってこなかった、電気事業体や行政の怠慢を批判。また、裁判所もこれにくみしてきたことを指摘。福島第一原発の1号機、3号機の爆発した動画、写真も流しながら、危険性を明らかにしました。さらに、三上侑貴弁護士が、避難の状況とその後、現在の状況について陳述。海洋汚染の画像や図を示し、被ばく検査を受けた実態を述べました。また、畠中孝司弁護士は、無人化した双葉町のアーケードの写真 (「原子力明るい未来のエネルギー」の文字がみえる) などを映し、「福島第一原発の事故は地域コミュニティを破壊し、正常な家族生活すら破壊しており、放射能汚染の危険がある限りその回復は望めません」と被害の甚大さを説きました。

 福島県南相馬市から二人の子どもを連れて京都に避難してきた原告の福島敦子さんは、自宅に帰った際持ち帰った庭の土です、とビンの土を高く掲げ、「1平方メートル当たり93万ベクレルありました。チェルノブイリなら移住必要地域に当たるレベルです。ここがチェルノブイリなら母たちは移住しているはずであります」と述べ、「裁判長、こどもを守ることに必死な、懸命な母親たちをどうか救ってやってください」と迫りました。

 原告弁護団の大河原壽貴弁護士は、原発の根源的危険性、としてとりわけ放射線被曝が人体に与える影響について簡明に解説。人体への被害が非常に深刻なものであるのに、放射線被曝から住民の生命・身体を守るための法定規制がきわめてズサンであることを指摘し、司法の果たすべき役割の重大さを強調しました。最後に森田基彦弁護士が原告第1準備書面の骨子について陳述。「大飯原発は必要な安全対策を備えていない」問題点を指摘しました。

 次回の第5回口頭弁論は、9月30日(火)午後2時から、101号法廷で。

「原発いらない」のデモも

 弁論に先立ち、午後0時10分過ぎには、弁護団・原告など50人が裁判所周辺をデモ行進しました。横断幕やノボリ、プレートをかかげ、「大飯は危険」「原発いらない」「子どもを守ろう」などと声を合わせ、太鼓などの鳴りものも交えて裁判所職員や市民にアピールしました。

6月7日に原告団総会

 原告団の総会は、6月7日(土)午後1時30分から、京都駅前のキャンパスプラザ京都で開催されます。なお、12時30分からは塩小路公園に集合し、関電京都支店前などへのデモ行進と市民アピールを計画しています。ご参加を。

◆福井地裁判決の意義と
 全国弁護団連絡会のアピール

【拡散自由】
 脱原発弁護団全国連絡会の共同代表である河合弘之弁護士と海渡雄一弁護士が、今回の大飯差し止め判決の解説と意見を述べておられます。
 ご自由に拡散してくださいとのことで、転載いたします。

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2014年5月23日
大飯原発3、4号機運転差止訴訟福井地裁判決の意義と
全国弁護団連絡会としての今後の行動提起

共同代表 河合 弘之
同      海渡 雄一

第1 経緯
福井地裁は、5月21日、関西電力に対し、大飯原発3、4号機の運転差止めを命じる判決を言い渡した。
この判決は、福島第一原発事故後の正式訴訟の判決としては初めての判決であるが、我々はこれに勝訴することができた。
判決内容は、以下に詳しく説明するとおり、司法が原発の抱える本質的な危険性を深く認識し、差し止めの結論を導いたものであり、これからの脱原発訴訟に大きな影響を与える画期的な内容となった。
判決の理論的な立場と差し止めと理由とするところを概観する。

第2 判決の内容
1 人格権
 人格権は憲法上の権利、人の生命を基礎とする。わが国の法制下でこれを超える価値を見いだすことはできない。

2 福島原発事故
 原子力委員会委員長は福島第1原発から250キロ圏内に居住する住民に避難を勧告する可能性を検討し、チェルノブイリ事故でも同様の規模に及んだ。
 ウクライナ、ベラルーシで今も避難が続く事実は、放射性物質のもたらす健康被害についての楽観的な見方、避難区域は最小限のもので足りるという見解の正当性に重大な疑問を投げかける。250キロは緊急時に想定された数字だが過大と判断できない。

3 本件原発に求められる安全性
(1)原子力発電所に求められる安全性
 原発の稼働は法的には電気を生み出す一手段である経済活動の自由に属し、憲法上は人格権の中核部分よりも劣位に置かれるべきだ。自然災害や戦争以外で、この根源的な権利が極めて広範に奪われる事態を招く可能性があるのは原発事故以外に想定しにくい。具体的危険性が万が一でもあれば、差し止めが認められるのは当然である。
 原子力技術の危険性の本質、そのもたらす被害の大きさは福島原発事故により、十分に明らかになった。このような事態を招く具体的な危険性が万が一でもあるのかが判断の対象である。福島原発事故の後において、この判断を避けることは裁判所に課された最も重要な責務を放棄するに等しい。

(2)原子炉等規制法に基づく審査との関係
 4の考えは、人格権と条理によって導かれる。原子炉等規制法などの行政法規のあり方、内容によって左右されない。
 新規制基準の対象となっている事項についても、基準への適合性や規制委員会による基準適合性審査の適否という観点からではなく、3(1)の理にもとづいて裁判所の判断が及ぼされるべきである。

4 原子力発電所の特性
 原子力発電技術で発生するエネルギーは極めて膨大で、運転停止後も電気と水で原子炉の冷却を継続しなければならない。その間、何時間か電源が失われるだけで事故につながり、事故は時の経過に従って拡大する。これは原子力発電に内在する本質的な危険である。
 施設の損傷に結びつく地震が起きた場合、止める、冷やす、閉じ込めるという三つの要請がそろって初めて原発の安全性が保たれる。福島原発事故では冷やすことができず放射性物質が外部に放出された。
 本件原発には地震の際の冷やす機能、閉じ込める構造に次の欠陥がある。

5 冷却機能の維持
(1)ストレステストのクリフエッジを超える可能性を認めた。
 1260ガルを超える地震では冷却システムが崩壊し、メルトダウンに結びつくことは被告も認めている。
 ストレステストの基準とされた1260ガルを超える地震も起こりうると判断した。
 わが国の地震学会は大規模な地震の発生を一度も予知できていない。
 地震は地下深くで起こる現象であるから、その発生の機序の分析は仮説や推測に依拠せざるを得ない、地震は太古の昔から存在するが、正確な記録は近時のものに限られ、頼るべき過去のデーターはきわめて限られていることを指摘した。

(2)700ガルを超えて1260ガルに至らない地震について、過酷事故につながる危険がある。
① 被告は、700ガルを超えるが1260ガルに至らない地震への対応策があり、大事故に至らないと主張する。
 被告はイベントツリーを策定してその対策をとれば安全としているが、イベントツリーによる対策が有効であることは論証されていない。
 事態が深刻であるほど、混乱と焦燥の中で従業員に適切、迅速な措置を取ることは求めることができない。地震は従業員が少なくなる夜も昼と同じ確率で起き、人員の数や指揮命令系統の中心の所長がいるかいないかが大きな意味を持つことは明白だ。
 また対応策を取るには、どんな事態が起きているか把握することが前提だが、その把握は困難だ。福島原発事故でも地震がどんな損傷をもたらしたかの確定には至っていない。現場に立ち入ることができず、原因は確定できない可能性が高い。
 仮にいかなる事態が起きているか把握できたとしても、全交流電源喪失から炉心損傷開始までは5時間余りで、そこからメルトダウン開始まで2時間もないなど残された時間は限られている。
 地震で複数の設備が同時にあるいは相前後して使えなくなったり、故障したりすることも当然考えられ、防御設備が複数あることは安全性を大きく高めるものではない。
 原発に通ずる道路は限られ、施設外部からの支援も期待できない。

②(基準地震動の信頼性)
 従来と同様の手法によって策定された基準地震動では、これを超える地震動が発生する危険があるとし、とりわけ、4つの原発に5回にわたり想定した基準地震動を超える地震が平成17年以後10年足らずの間に到来しているという事実を重視した。
 このような誤りが重ねられた理由は学術的に解明されるべきだが、裁判所が立ち入る必要はない。
 これらの事例は「地震という自然の前における人間の能力の見解を示すもの」というほかない。
 基準地震動を超える地震が大飯原発に到来しないというのは、根拠のない楽観的見通しである。

③(安全余裕について)
 被告は安全余裕があり基準地震動を超えても重要な設備の安全は確保できるとしたが、判決は、基準を超えれば設備の安全は確保できない、とした。過去に基準地震動を超えても耐えられた例があるとしても、今後基準を超えたときに施設が損傷しないことを根拠づけるものではない。

(3)700ガルを超えない地震について
 地震における外部電源の喪失や主給水の遮断が、700ガルを超えない基準地震動以下の地震動によって生じ得ることに争いがない。しかし、外部電源と主給水が同時に失われれば、限られた手段が効を奏さなければ大事故となる。
 補助給水には限界があり、①主蒸気逃し弁による熱放出、②充てん系によるホウ酸の添加、③余熱除去系による冷却のうち、一つでも失敗すれば、補助給水設備による蒸気発生器への給水ができないのと同様の事態に進展する。
 主給水系が安全上重要でないという被告の主張は理解に苦しむ。

6 閉じ込め機能(使用済み核燃料の危険性)
 使用済み核燃料は原子炉格納容器の外の建屋内にある使用済み核燃料プールと呼ばれる水槽内に置かれている。本数は千本を超えるが、プールから放射性物質が漏れた時、敷地外部に放出されることを防御する原子炉格納容器のような堅固な設備は存在しない。
 福島原発事故で、4号機のプールに納められた使用済み核燃料が危機的状態に陥り、この危険性ゆえ避難計画が検討された。原子力委員会委員長の被害想定で、最も重大な被害を及ぼすと想定されたのはプールからの放射能汚染だ。使用済み核燃料は外部からの不測の事態に対し、堅固に防御を固めて初めて万全の措置といえる。
 大飯原発では、全交流電源喪失から3日たたずしてプールの冠水状態を維持できなくなる危機的状況に陥る。そのようなものが、堅固な設備に閉じ込められないまま、むき出しに近い状態になっている。
 国民の安全が優先されるべきであるとの見識に立たず、深刻な事故はめったに起きないだろうという見通しで対応が成り立っている。

7 本件原発の現在の安全性
 人格権を放射性物質の危険から守るとの観点からみると、安全技術と設備は、確たる根拠のない楽観的な見通しの下に初めて成り立つ脆弱(ぜいじゃく)なものと認めざるを得ない。

8 原告らのその余の主張
 さまざまな違法理由や環境権に基づく主張、高レベル放射性廃棄物の問題などについては、判断の必要がない。
幾世代にもわたる後の人々に対する我々世代の責任という道義的にはこれ以上ない重い問題について裁判所に判断する資格が与えられているか、疑問である。

9 被告のその余の主張について
 被告は原発稼働が電力供給の安定性、コストの低減につながると主張するが、多数の人の生存そのものに関わる権利と電気代の高い低いという問題を並べて論じるような議論に加わり、議論の当否を判断すること自体、法的には許されない。原発停止で多額の貿易赤字が出るとしても、豊かな国土に国民が根を下ろして生活していることが国富であり、これを取り戻すことができなくなることが国富の損失だ。
 被告は、原発稼働がCO2(二酸化炭素)排出削減に資すると主張するが、福島原発事故はわが国始まって以来最大の環境汚染であり、原発の運転継続の根拠とすることは甚だしく筋違いだ。

第3 判示の波及効果
1 これらの理由のうち、主給水の遮断が基準地震動以下の地震動によって生じ得ることについては、加圧水型の原発すべてにあてはまるものである。
 それ以外の判示は、大飯原発3、4号機のみならず、全国の原発すべてにあてはまるものである。
したがって、この判決は、大飯原発3、4号機に限らず、原発が抱える本質的な危険性を認めた判決であると評価できる。

2 原子力規制委員会の適合性審査の下、川内原発や高浜原発の再稼働が強行されようとしているが、川内原発や高浜原発を含むすべての原発は、本判決が指摘する危険性を有しているため、再稼働することは認められない。
また、関西電力は、大飯原発や高浜原発の基準地震動を2割から3割程度引き上げて耐震工事を行うことを明らかにしているが、本判決は、現在行われている基準地震動の策定手法自体に根本的な疑問を提起しているのであり、このような場当たり的な対応によって、本判決が指摘する原発の危険性を否定することはできない。

第4 弁護団連絡会としての本判決の評価
 本判決は、福島原発事故という深刻な事故を真正面から見据えた司法判断である。
福島原発事故のような深刻な事故を二度と繰り返してはならないという原告、弁護団の一致した声が司法の場にも届いた。
我々は「司法は生きていた」と胸を張って言える。
勇気と確信をもってこの判決を言い渡した、福島地裁民事部の樋口英明裁判長以下の合議体に、心から敬意を表したい。
しかしながら、この判決を特殊な判決であると考えることは誤りである。むしろ、深刻な事故を二度と繰り返してはならないという原点から出発し、深刻な事故を引きおこす具体的な危険性が万が一でもあるのかについて、骨太の事実認識にもとづいて手堅い判断を示したものだと言える。
これまで原発を容認してきたも同然であった司法は、市民感覚に沿って、福島第一原発事故とその被害の深刻な現実を目の当たりにして、「地震という自然の前における人間の能力の限界」を率直に認める画期的な判断を下したものということができるだろう。

第5 脱原発弁護団全国連絡会からのアピール
1 脱原発弁護団全国連絡会は、この判決を支持し、関西電力に判決に従うことを求め、もし関西電力が控訴するならば、全力で控訴審を当該弁護団と共に闘い、この判決を守り抜くことを宣言する。

2 脱原発弁護団全国連絡会は、規制委員会に対して、福島第一原発事故という現実を見つめ直し、判決の具体的な指摘を正面から受け止め、再稼働のための基準適合性審査を中止し、耐震設計、基準地震動、耐震重要度分類、共通原因故障などの諸点について、根本的な再検討を行うよう求める。

3 脱原発弁護団全国連絡会は、政府・国に対して、判決の指摘を受け、地震国日本における事故リスクを避けるため、再稼働を断念し、原発政策を根本から見直し、脱原発のための政策に舵を切るように求める。

4 脱原発弁護団全国連絡会は、全国の電力会社、そして原発立地及び周辺の地方自治体に対して、この判決を機に原発推進・依存から早期に脱却し、再生可能エネルギーを中心とするエネルギー政策への転換と環境重視の地域経済を目指すことを求める。

◆大飯原発運転差止訴訟第3回口頭弁論に出廷して

富田道男
 (大飯原発差止訴訟 京都脱原発訴訟原告団 世話人)
 (日本科学者会議 京都支部 幹事)

日本科学者会議京都支部ニュース 2014年3月号

 標記の法廷が2月19日(水)午後2時から京都地裁大法廷で開かれ,出廷原告34人の一人として入廷しました.今回は,昨年12月3日に提訴した第二次訴訟で新たに原告に参加された856名のうちの7名の方が入廷されました.傍聴席は前回同様に満席でしたが,報道関係者の席が前回の10席から5席に減っていました.今回も口頭弁論は,原告の元志賀大学学長の宮本憲一大阪市立大名誉教授による「予防の原則から運転停止を」と題する陳述と原告第3準備書面による弁護団によるものの2件のみで,被告側の陳述は行われませんでした.

 最初の陳述「予防の原則から運転停止を」は,福島原発災害が,日本史上公害の原点とされ最も大きな悲劇と言われてきた足尾鉱毒事件を凌ぎ,2市7町3村の15万人以上の住民を強制疎開させる史上最大の公害であるとの指摘から始められた.そしてこのような原発の被害が続き,その全貌も把握できず原因究明も終わっていない状況下で,また汚染水問題や除染作業の目途が立たない状況下で,大飯原発の運転が再開されることは,環境政策の予防原則から許されることではないと主張された.さらに国連リオ会議で採択された予防原則が欧米でも公害対策やリスク防止の基本原則とされており,最近では水銀使用禁止の国際条約「水俣条約」もその例であることを指摘し,大飯原発の再開は,この予防原則を踏みにじる暴挙であり,その停止を要求された.また,ご自身の永年にわたる環境問題の研究を通じて得た歴史的教訓と予防原則に立ち,運転再開に反対する5つの理由を述べられました.第1に,「原子力ムラの安全神話」に依拠した原発政策のせいで,いまだに放射能公害を規制する法制や行政が確立していないこと.第2に原発コストが他のエネルギーに比べて決して安くないことが明らかにされ(大島堅一『原発ノコスト』),再稼働せねばならない理由が,国民経済の問題ではなく,電力企業の問題であること.第3に原発を再稼働させなくても経済は正常に動いていること.第4に原発は放射性廃棄物の処理やリサイクルが不可能あるいは著しく困難な産業であり,このことは科学技術的に致命的な欠陥をもつものであることを示しており,特に放射性廃棄物は10万年以上にわたり被害を出す可能性があり,将来世代に及ぼす影響が無視できない.したがって市場の論理で判断すべきことではなく将来世代に対する責任の倫理の問題であること.第5に原発立地地域の経済・財政の問題である.原発設置に伴い,電源三法により多額の交付金・寄付金と固定資産税が地域の財政を膨張させるが,固定資産税のうちの最大の償却資産税が16年でゼロになり,再び三度原発の誘致が行われ原発密集地域が形成された.このような持続不可能な地域開発ではなく持続可能な内発的な発展への模索が早期に必要であること.要旨上記のような陳述が,はっきりとした口調でしかも筋道立てて行われたので,被告席にも傍聴席の方がたにもとても解かりやすかったと思います.

 二番目の陳述は,原告第3準備書面に基づく二人の弁護士によるスライドを使用した弁論でした.この準備書面は,原発の根源的な危険性の指摘と,実際に起きたチェルノブイリ原発事故による放射能被害の実相を紹介するという構成で作成されています.前半の根源的危険性の部分は,塩見卓也弁護士により陳述されました.ウラン235の核分裂エネルギーを利用する原発のもつ根源的な危険性として,核分裂により大量の放射性物質が発生することを指摘し,それらが放射するアルファ線,ベータ線およびガンマ線が電離作用を通じて人体に与える被害について,外部被曝と内部被曝の場合それぞれに対して詳しく述べられました.それを踏まえて準備書面の後半部分について,秋山健司弁護士から,『チェルノブイリ被害実態レポート(岩波書店,2013)』を参照しながら,同事故の被害の実相が紹介されました.中でも,原発から100キロメートル離れた場所までセシウム137による高濃度の汚染が広がっていることから,大飯原発で過酷事故が起こると,同原発から半径100キロメートルの圏内に位置する琵琶湖はもちろん,滋賀,京都,大阪,神戸など京阪神の主要都市が全て高濃度に汚染する可能性が高いことの指摘が強く印象に残りました.さらに,チェルノブイリ原発の周囲の国ベラルーシ,ウクライナやロシアにおける放射能被害として,全体の罹率の増加が見られ,癌発生率が事故から14年後の2000年においても増加していることや心臓病・呼吸器系疾患など癌以外の疾病も増加していることが紹介されました.そして日本の法整備の杜撰さについて,福島事故以後国際的な一般公衆の年被曝線量限度1mSvを,県民全員の避難が必要となることを理由に20mSvに引き上げましたが,これは生命・身体の安全よりも避難費用などの政策的要素を重視したものであり,本来の法規制の在り方とは大きく乖離したものであることを指摘しました.最後に政府と電力会社の「安全神話」への依拠が依然として続いている状況の下で,裁判所が原発の危険性を正しく認識して,市民の生命・身体の安全と健康を守るために,また子どもたちの未来を守るために,大飯原発の運転を許さない判断を下すことを求めて陳述を終えられました.

◆福島原発災害は足尾鉱毒事件以来最悪の公害

大飯原発差止訴訟第3回口頭弁論で原告陳述

橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

救援新聞 京都版No.1204 2014年3月5日[229 KB](PDFファイル 228KB)
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 京都などの住民1963人(昨年12月3日856人が第二次提訴した事件を併合)が関西電力や国を相手に大飯原発の再稼働差止と損害賠償を求めた訴訟の第3回口頭弁論が、2月19日、京都地裁(第5民事部合議係・大島眞一裁判長)101号法廷で開かれました。満席傍聴者(108席)、原告など130人余りが埋めた法廷では、原告の宮本憲一元滋賀大学学長・大阪市立大学名誉教授(環境経済学)の意見陳述と原告代理人の塩見卓也弁護士、秋山健司弁護士が第3準備書面の要旨を陳述しました。論旨は以下のとおりです。

 予防の原則から運転停止を 宮本憲一さん

 福島原発災害は史上最悪の公害。足尾鉱毒事件(1890年代に社会問題に)では農漁業に多大な被害が発生しただけでなく、谷中村が廃村にされ流浪の民を出す最も大きな悲劇とされてきた。福島のこの原発災害は、2市7町3村の15万人を超える住民が放射能公害によってふるさとを追われた。足尾鉱毒事件以来最悪の公害。事故の全貌が把握できず、原因究明も終わらない、その対策の汚染水防止や除染作業もめどがたたない、経済的救済もはじまったばかり、大飯原発の運転再開は環境政策予防の原則から許されない。私は5点の理由から大飯原発運転再開に反対する。

第1、   原発事故は企業・政府が安全神話を信じ予防を怠った明らかな失敗。いまだ放射能公害を規制できる法制、行政が確立されていない。

第2、   原発は他のエネルギーよりコストが安く効率的でないこと。大島堅一氏の研究によれば、1970年から2010年度の平均の発電実際コストは原子力10.25円/KW時、火力9.91円、水力7.19円。安かったのは政府援助のため。事故の賠償、汚染対策、防止策、放射性廃棄物の処理費を加えるとさらにコストはアップ。

第3、   原発再稼働なしでも経済循環は正常。日本は再生可能エネルギーの開発はトップクラスだが、このエネルギー源は全体の1%。再生エネルギーを開発し発電、送電を分離、9電力の独占体制を改革したしくみづくりが可能。

第4、   原発は放射能廃棄物の処理、リサイクルが不可能。「トイレなきマンション」の比喩のごとく、これが最大の問題で致命的欠陥。ドイツの原発廃止は、放射性廃棄物の処理の困難と後の世代に半永久的に持続する危険が倫理的に許せないことにある。事故がなくとも廃棄物が10万年以上にわたって被害を出す可能性がある。これは将来世代への責任の倫理の問題。

第5、   原発立地の市町村の経済・財政の問題。過疎地域の振興に原発を誘致し危険施設を認める迷惑料として交付金制度がつくられたが、この原発依存の産業構造のため農漁業などの地元の産業が育たたない。この差別的な政策を改めた地域の発展を模索しなければならない。

原告代理人弁護士が第3準備書面の要旨を陳述

 つづいて塩見卓也弁護士が立ち原発の危険性について、放射線とはそもそも何か、放射線被ばくによって人体がどのような有害な影響を受けるのか、の点について次のように述べました。

 原発は原子炉内でウラン燃料を核分裂させることによって発生する熱で水を沸騰させ蒸気でタービンを回して発電をするが、核分裂で放射性物質が放出される。それらは不安定で放射線を出しながら他の物質へ変化する。この際の様々な放射線、アルファ線、ベータ線、ガンマ線などが分子レベルで人体を傷つける。人間に対しては外部被曝と内部被曝があるが、内部被曝が非常に危険で、体の一定の器官に蓄積したり、破損したDNAが細胞分裂で複製される際癌細胞の因子となって増殖したり、細胞が死滅して組織や器官が機能不全に陥ったりするようにもなる。癌の他にも、白血病、甲状腺障害、心筋梗塞、脳梗塞、循環器や肝機能障害などのリスクが高い。

 さらに、秋山健司弁護士は原発が事故を起こした場合どうような被害が生じるかについて、86年のチェルノブイリでの例を示しながら次のように陳述しました。

 チェルノブイリ原発の100キロ圏の円内が高濃度に汚染されているが、大飯原発からここ京都地裁は60キロしかない。放射線被曝は後になって、しかも子どもたちがより大きな影響を受ける。ウクライナ全体では事故後10年間で子どもの病気罹患率は10倍になっている。ベラルーシのゴメ州では全体の癌の発症率が68%増加した。甲状腺癌、染色体異常、血液、心臓、動脈など循環器、消化器、感覚器官などにわたって癌などの障害が発症する。

 この人体への影響からチェルノブイリでは、被災住民の95パーセントを年間被曝線量1ミリシーベルト未満の区域へ移動させている。その後国際基準もこの線量で規制している。しかし、日本政府は福島の事故後年間20ミリシ―ベルトを帰還の基準にした。住民の生命・身体の安全を考えないずさんな規制だ。チェルノブイリの事例からも原発の危険性が極めて顕著であったのに福島の事故は起こされた。この事態をみず、必要な法的規制もなく、大飯原発の再稼働をしたのは許されない。裁判所が生命・身体の安全と健康、子どもたちの未来を守るため、大飯原発の運転を許さない判断を下すよう求める。

 次回、第4回口頭弁論は、5月21日(水)午後2時から、京都地裁101号法廷で。なお、1時から裁判所北入口で傍聴券の抽選が行われる見込みです。

◆原発は自然を尊ぶ精神からも許されない存在

原告の宮城泰年氏が意見陳述
大飯原発差止訴訟第2回口頭弁論

橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

救援新聞 京都版No.1197 2013年12月15日[451 KB](PDFファイル 450KB)
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京都などの住民 1107 人が関電大飯原発の運転差し止めと損害賠償を求めて関電や国を相手に起こした訴訟の第2回口頭弁論が、12 月3日午後京都地方裁判所(第6民事部合議係大島眞一裁判長)101 号法廷(大法廷)で開かれました。

原告席も傍聴席も満席(総勢 130 人余り)となり、熱気のこもる法廷では、最初に原告の聖護院門跡・宮城泰年門主が意見陳述をしました。宮城氏は、「大飯原発運転を差し止めることは、地球とそこに生きる私たち人間を含めすべての生物の安全を守ることです」と述べ、宗教者として原子力と共存することはできないこと、とりわけ日本には自然への崇拝、山岳信仰があり、本山修験宗の総本山として、山岳自然を修行道場としてきたこと、そこは多様な生物の共生と命の循環によってみんなが生きているからこそ尊い世界であり、ここに大飯原発3号機を 24 時間フル稼働させると1日で広島型原爆3発分の死の灰がつくられる、この処置のしようのないものを地中に埋めても地殻変動で出てこないとは考えられない、こんなどうしようもないものを生みだす原子力発電所の稼働は絶対認められない、と訴えました。 

つづいて、弁護団(原告代理人)の森田基彦弁護士が第一準備書面の骨子を陳述。森田弁護士は、まず、福島第一原発の事故が、日本の地震と津波に耐えうる強度になかったことと、原子力安全対策が重大な欠陥をもっていたことを明らかにした、と指摘し、準備書面でこの安全対策の遅れと国際水準の対策すらとらずに大飯原発を再稼働させようとしていることについて述べていると説明。その上で、安全確保の「深層防護」(安全な設計、事故拡大の防止、放射能放出防止などいくつもの層にわたって防護対策をとる規準)の考え方で対応してきたが、チェルノブイリ事故で国際原子力機関(IAEA)がこれらの4層を5層に変更、大規模な放射性物質が放出した場合、屋内退避、避難などの緊急防護措置を整備すること、さらにアメリカでは6層(立地)も加えたことを明らかにし、福島第一原発では「放射性物質の異常な放出防止のための格納容器や緊急炉心冷却装置を備えるところまでしか規制の対象としてこなかった」と、「安全神話」にとらわれた規制の甘さを指摘しました。過酷事故対策が必要であったにもかかわらず、これを怠ってきた。が、大飯原発はこれらの対策が整っていないうちに再稼働しようとしている。として、原子力保安院長深野弘行氏に対する参考人質疑のDVDを上映。基準を示さない深野氏に苦笑がもれました。

つづいて立った谷文彰弁護士は、原告第2準備書面の骨子をパワーポイントの図表などを使って陳述しました。世界地図に地震の発生する頻度を示して「日本は世界の地震の 10~20 パーセントが発生する。それにもかかわらず、逆に世界の原子力発電所の 11 パーセントが集中している。近畿地方でも過去 1400 年間でマグニチュード7以上の地震が 21 回、66.47 年に1回の割合で起こっている」と若狭
湾周辺の断層を示し、大飯原発の立地の危険性を解説。関西電力の想定は甘く、地震が発生すれば極めて深刻な被害が発生する。ここでの原発の設置・稼働は許されず、運転は差し止められなければならない、と述べました。

傍聴券の抽選からはずれた人には京都弁護士会館で模擬法廷を設定し、同時進行で 101 号法廷の様子を再現しました。60 人がこれを傍聴、原告代理人弁護士の準備書面の骨子陳述などに耳を傾けました。

 次回、第3回口頭弁論は、2月 19 日(水)午後2時から、
 同じ 101 号法廷で。

「いのちを守ろう」と裁判所周辺デモ

口頭弁論開始前の午前、弁護団、原告団など総勢 70 人は京都弁護士会前に集合 。 横断幕やのぼり を掲げ、 裁判所の周囲をデモ行進しました。楽器も鳴 らして、「いのちを守ろう」「琵琶湖を守ろう」「子どもを守ろう」などと声をそろえて市民や裁判所職員にアピールしました。

856 人が第2次提訴

またこの日は、856 人の原告が同じ関電、国を相手に第二次提訴をしました。これで、大飯原発差止訴訟の原告団は総計 1963 人の大原告団になりました。

裁判後、弁護士会館で開催された報告集会では、裁判内容の解説とともに、福島の避難者が起こした訴訟の仲間とも助け合って裁判を進めることや、今後の運動として他の原発訴訟の原告団との交流も計画していく方針も示されました。

◆大飯原発運転差止訴訟について

富田道男
 (大飯原発差止訴訟 京都脱原発訴訟原告団 世話人)
 (日本科学者会議 京都支部 幹事)

日本科学者会議京都支部ニュース 2013年12月号

Ⅰ.第一次訴訟の第2回口頭弁論

標記口頭弁論は,さる 12 月 3 日(火)午後2時より京都地方裁判所で行われた.今回も第1回の時と同様に,原告側からのみの陳述が3人により行われたが,訴状に対する答弁書をすでに出している被告側は,いまのところそれ以上のことを述べる必要がないのであろうか?原告初体験の私には少し解かり難い進行との印象が残った.

最初に原告の宮城泰念(聖護院門跡門主)さんが意見陳述を行った.草木国土悉皆成仏の心で山岳自然を修行道場とする修験者の一人として,大飯原発が作り出す「死の灰」を地層処理と称して地下深くに埋めるという自然破壊は許しがたいこと,また深く埋めたから安心・安全というのは,「今さえよければ良い」いう草木国土悉皆成仏の心を踏みにじるもので許しがたいと訴えられた.それゆえ処理のしようのない「死の灰」を作り出す原子力発電所の稼働は絶対に認められないと結ばれた.

二番目の意見陳述は,弁護団から森田基彦さんが第一準備書面(これは“訴状の内容を具体的に実証する弁論のために準備した書面”と言う意味だそうである)に基づく弁論を行った.福島第一原発事故が明らかにした「安全神話」の虚構と日本の原子力安全対策の重大な欠陥の指摘の後,事故後にIAEAが行った「深層防護の改定」基準に大飯発電所(大飯原発の正式名称だそうです)の安全対策が不適合であることを示した.そのおり廷内のモニターに映し出された第9回国会事故調査委員会における参考人質疑の様子は,衝撃的なものであった (*) .参考人として出席した当時の原子力安全・保安院長の深野弘行氏は,なんと「世界の基準とはどういうものか」という質問に対してしどろもどろで答えられなかったのである.穿った見方をすれば,知っていたとしても院長の立場では答えられなかった,答えれば日本の安全対策が世界の基準を満たしていないことを認めることになるからであろうか.

三番目に同じく弁護団から谷  文彰さんが原告第二準備書面を基に,大飯原発における地震・津波の危険性について陳述した.世界の地震の 10~20%が発生している日本に世界の原発の 11%が集中している異常なこと,近畿地方でも大地震が過去にあり,若狭湾には多くの断層・活断層があり,今後も大地震が発生する可能性があることから,大飯発電所の運転は差し止められなければならないと主張した.また,津波についても,天正大地震による大津波の記録として,標高 100 メートルにある若狭の関峠の地蔵尊には「これより下に住んではいけない」旨が記されていること,従って津波が高くなる可能性をもつ半島先端部に位置する大飯発電所の対津波対策は不十分であり,運転は差し止めなければならないと主張した.

第3回口頭弁論は,2014 年 2 月 19 日(水)午後2時より.
(*)ビデオはUstream「国会事故調 第9回委員会 2012/04/18」で見ることができます.
是非ご覧ください.

Ⅱ.第二次訴訟の提訴

支部ニュース9月号と 10 月号に第二次訴訟の原告参加の呼び掛け文を掲載して頂きましたが,12 月7 日(土)に開かれた原告団世話人会での報告によると,11 月末に目標の 800 名を超え,12 月 3 日(火)に原告 856 名の訴状が京都地方裁判所に提出されました.これで京都の大飯原発差止訴訟の原告は,一次の 1107 名と合わせて,24 都道府県から合計 1963 名となりました.8次まで募集した九州電力玄海原発差止訴訟(佐賀地裁)の 7137 名と川内原発差止訴訟(鹿児島地裁)に次いで,京都は第三位の原告数となりました.世話人会では,第三次の原告募集活動を進めることが検討されています.

Ⅲ.その他

福島から京都に避難している 33 世帯 91 人の方が,去る 9 月 17 日,国と東京電力に対して損害賠償を求める訴訟を京都地法裁判所に提訴しました.この原告団を支援する「原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会」が結成され,入会の呼びかけが行われています.年会費一口 1000 円で「複数口の会員歓迎」とあります.心ある方がたの入会を訴えます.入会の手続きは,ブログ原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会を参照してください.

◆原発再稼働を断罪してください

大飯原発差止裁判第1回口頭弁論

橋本宏一(日本国民救援会京都府本部 事務局長)

救援新聞 京都版No.1184 2013年7月15日[631 KB](PDFファイル 630KB)
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近畿など17都府県の1107人が国と関西電力を相手に福井県の大飯原子力発電所(1~4号機)の稼働差止を求めた裁判の第1回口頭弁論が、7月2日、京都地裁(第6民事部大島眞一裁判長)101号法廷で開かれました。廷内には原告と弁護団52人、被告代理人19人。満席の傍聴者80人、報道関係者が見守るなか、午後2時から4時まで、原告や原告代理人弁護士が次々立って、「地震大国」に設置された原発の危険性を指摘、福島第一原子力発電所の事故原因も究明されず収束のめども立っていない、家族、コミュニティが破壊されたまま、大飯原発を再稼働させ、住民を危険に陥れている、国や関西電力の責任を追及、稼働の差止を強く訴えました。

地震国に原発は無理

最初に証言席で陳述した竹本修三原告団長(個体地球物理学、京都大学名誉教授)は、パワーポイントの日本地図にほぼ帯状につらなる地震発生地点を示しながら、太平洋プレートとフィリピンプレートがせめぎ合う上にあるのが日本列島、南海トラフ地震は若狭周辺への影響もある、この地震国日本に原発は無理、と指摘しました。

水素爆発にことば失う外国テレビ

渡辺輝人弁護士(弁護団事務局長)は、地震は予知できず、日本では、いつどこで巨大地震が発生してもおかしくない、というのが科学的知見、として、電力会社が宣伝してきた安全神話を批判。裁判所も安全神話にお墨付きを与えてくみしてきた、と述べ、こうしたなかで福島第一原発の事故が発生したと、パワーポイントで第一原発、第三原発の水素爆発の動画を示しました。第一原発は「水蒸気を抜いたもの」という東電や学者の音声、第三原発の爆発にことばを失う海外テレビ局のアナウンサーの姿も写しました。

過酷な事故直後の避難

三上侑貴弁護士は、事故直後の避難状況について陳述。海洋、陸上に放射能汚染がひろがる動画、ヨウ化カリウムを飲む写真、被曝検査を受ける写真もしめして、情報も届かず、避難の移動は適切にはなされず、3月末までに重病患者など60人が死亡したこと、自衛隊搬送中にも21人が搬送中かその直後に亡くなっていると指摘しました。

圏内は遺体も野ざらし

畠中孝司弁護士は、2011年8月29日時点で避難者は14万6520人にのぼり、これはチェルノブイリ原発の1年以内の避難者に匹敵すると述べ、無人となった双葉町の映像、防護服姿で捜索をする警察官の写真も示し、津波によって死亡した遺体が発見されても放射能に汚染されているため放置されたままになっている、火葬、埋葬すらしてもらえない、と悲惨な有様を訴えました。

京都に避難してきた原告として

つづいて福島県南相馬市から避難してきた原告の福島敦子さん、福島市から避難してきたAさんが被災と避難の実態をそれぞれ次のように陳述(要旨)しました。

再稼働を断罪してください

放射線量の高い福島市に避難したり、戻ろうとしたら警察署員がバリケードを設置していて行けず、避難所で遊べない子どもや周囲への気遣い、テレビで見た水素爆発に死を覚悟した人もいた。娘2人を連れ、ごみ袋3つに衣服と貴重品を詰めて三度目の避難先、京都へやってきた。貴重品以上に大事なものが『スクーリニング済証』で、これなしでは病院へも入れず、避難所移動もできない。外部被曝だけでなく内部被曝の危険もありこの状況はわからない。娘は名前が福島なので『フクシマゲンパツ』とあだ名をつけられたこともあったが、気遣ってくださる先生方、たくさんの気の合う友達に恵まれ、持ち前の明るさで乗り切った。バラバラになった南相馬の友達にはテレビのニュースで姿を見つけて元気をもらっているようだった。あれから800日、福島第一原発の事故は収束せず放射能は放出しつづけ、事故原因の解明もされず、誰ひとり責任もとらず被災者は生活に疲弊し、家族の崩壊と向かい合っていかなければならなくなった。避難指示が解除されても帰れない。孤独死、自殺も耳にする。そんな折の大飯原発の再稼働に優遇される根拠は見当たらない。日本国民の懸念の声を無視した人権侵害であり、日本最大級の公害だ。この民意に司法はどれほどの人が苦しめば真剣に向き合ってくれるのか。子どもたちを守ることに必死な、懸命な母親たちをどうか救ってください。子どもたちに少しでも明るい未来をどうか託してあげてください。大飯原発の再稼働は、現在の日本では必要ないと断罪してください。

さらに、福島市から避難してきた原告のAさんは、事故により人生が大きく変わってしまったと次のように述べました。

失われるのは形あるものだけではない

子どもたちは福島の自然豊かな春の息吹を感じながら爽快に自転車をこいで登下校することが叶わなくなった。放射能汚染で制限された生活よりも、自由に外で活動しのびのびと普通の生活を送る環境に移る方が幸せではないかと考え、家族で何度も相談して避難を決意した。子ども2人と京都へきた。だが、子どもたちは新しい環境に適応できないでいる。父親と離れ、気心の知れた幼いころからの友達と離れ、子どもの喪失感、疎外感は大きい。なにも楽しいことがなくなったという。ひんぱんに家族に怒りを爆発させる。残った夫は家事と親の介護、雑事に追われ、息子とのコミュニケーションは成り立たない。子どもたちは福島へ戻る気力もやり直す気力もなくしてしまった。もう戻れない。避難が裏目に出てしまった。どうするのが最善なのか毎日自問自答している。もし、こちらでも大飯原発で事故が起これば、子どもに二重被曝をさせてしまう。放射能汚染によって失われるのは形あるものだけではない。心を病み人間関係が崩れる。多くの人の人生がくるってしまう原発は必要ない。大飯原発の運転は一刻も早く止めてください。

変わらぬ安全神話で再稼働

さらに大島麻子弁護士が、相変わらずの安全神話で再稼働が決定された事実を陳述。「国会の事故調査委員会の報告は公表もされず、国がホームページで公表した暫定基準はA4判用紙でわずか12ページ、たった三つの安全基準が加わっただけ、これを徹底的な事故検証から得られた知見の集大成と自画自賛して国は大飯原発3号機、4号機の再起動を決定した。国も電力会社の安全神話のなかにどっぷりつかっていて事故を直視できないでいる」

裁判所は『力ある正義を』

また、玄海原発差止訴訟弁護団の共同代表でもある板井勝弁護士も応援の弁論を展開しました。「九州では、佐賀の玄海原発の差止を求めて6097人、鹿児島の川内原発差止は2000人の原告が裁判を起こしている。福島第一原発の事故の被害は半永久的、壊滅的。同じような事故を繰り返してはならない。もう一度起これば日本は壊滅する。この国にはジェット気流は西から東に流れていて、福島はその終点、九州は始発点、放射能汚染は全土に飛散する。原発は国の政策で推進されている。原発を廃炉にするため国も被告とした。国に『安全基準』はなく、あるのは『操業基準』。水俣病、カネミ・ライスオイル事件も国の『基準』はクリアしたが被害は発生した。福島もそうだ。原発事故をおこすのは、地震だけではない。人為ミス、隕石落下、航空機墜落、テロ(ミサイルによるテロも)も考えられる。原発がつくられたのは戦後、70年もたっていない。その間に、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島と人類は3回も大事故を体験した。裁判所は、二度と原発事故を起こさない歴史的判決を下し、『力ある正義』をつくりだしてほしい」

人類の存在をおびやかす事故直視を

最後に、元裁判官の出口治男弁護団長が裁判所の立脚点について次のように訴えました。「従来裁判所は、自動車、飛行機、などの交通、医薬品など科学技術を利用した機械、装置の事故について絶対安全というものではなく、常に危険をともなっていて、その危険性が社会通念上容認できる水準以下で、危険性が相当程度人間によって管理できる場合に、危険性と科学技術によって得られる利益とを比較する、という考え方で、原子炉の安全性もみてきた。しかし、福島の事故は、原発の危険性が人間によって管理できないことを白日にさらし、この見方が誤っていたことを明らかにした。福島の事故原因も解明せず、多くの人々の苦難を放置して、関電、国は次なる原発事故の可能性を生じさせようとしている。人を人とも思わない構造がここにあらわれている。福島第一原発の事故が示した事実は、自動車事故や航空機事故などとは全く違う異次元の、人類の存在を根底からおびやかすものであることを直視し、司法の役割を誠実に、そして勇気をもってはたしていただきたい。」

法廷内を圧倒した弁論。とりわけ、福島さんやAさんの陳述にはすすり泣きの声も。拍手も沸き起こりました。裁判官も顔を紅潮させて聞き入り、被告席(国、関電側)にも目を潤ませる姿がありました。

次回第2回口頭弁論は、12月3日(火)午後2時から。

パレードで市民アピールも

この裁判に先立ち、午前11時からは70人の参加で脱原発を訴えるパレ―ドが裁判所周辺で行われました。

12時15分からの京都御苑富小路グランドでの傍聴券の抽選には、110人が集まり、抽選に外れた人などを集めた京都弁護士会館の解説用の「模擬法廷」には、94人が参加して弁論の内容を見守りました。

また、裁判終了後の弁護士会館での報告集会でも裁判内容の報告や解説、陳述した福島さんやAさんの感想、質問なども出され活発な意見交換をしました。

なお、訴訟は第二次提訴を準備していて、弁護団は原告を募集(申し込み料5,000円)しています。救援会へ連絡いただければ申し込み書などをお送りします。

※原告団Webチームより:原告ご本人の意向により、原文に掲載されている原告のお名前を匿名とさせていただいている箇所があります。

◆大飯原発運転差止訴訟の第1回口頭弁論に出廷して

富田道男
 (大飯原発差止訴訟 京都脱原発訴訟原告団 世話人)
 (日本科学者会議 京都支部 幹事)

日本科学者会議京都支部ニュース 2013年7月号

昨年11月29日に提訴した標記裁判の第1回口頭弁論が、7月2日(火)午後2時より、京都地裁大法廷(101号)で開かれた。訴状提出より7ヶ月を経過していたが、その間、1107名という京都地裁始まって以来の大原告団の裁判ということもあり、法廷を何処に設けるかで裁判所と原告代理人の弁護団との間で折衝が行われた。

小さな(?)大法廷の故に、弁護団と原告団には52席しか割り当てが得られず、そのために午前11時過ぎから傍聴整理券の抽選が行われ、101通が発行されたが、閉廷後に弁護士会館地下大ホールで開かれた報告集会での報告によると、傍聴したのは80名で、弁護士会館地下で裁判と同時並行で行われた弁護団による模擬裁判のほうに94名が参加され、原告・弁護団総勢226名が参加したとのことであった。

意見陳述の最初は、原告団長の竹本修三さんによる「地震国日本で原発稼働は無理」と題する意見陳述であった。スライドで図を示しながら、鳥取西部地震のように、活断層の存在が知られていない地域でも地震が起こる事例をあげ、原発の稼働は危険すぎるとして大飯原発の運転停止を訴えた。そして最後に次のような極めて印象深い言葉で締めくくった、「かって関電が原発導入を決めたときの社長芦原義重さんは、技術畑出身らしく、使用済み核燃料の処理など技術的な問題はあるが、 今後30年の技術開発がこれらを解決してくれるであろうと言われ、私は美浜町の地層調査に協力した。あれから40年が経ちいまだに問題が解決できていない状況を芦原さんが見れば、もう原発はやめようというに違いない。私のこの思いを被告席の関電の方は帰って社長の八木誠さんにお伝え願いたい。」

次いで弁護団から、まず渡辺輝人弁護士が「安全神話の末の福島第一原発事故の発生」と題して、設置地元を納得させるために過酷事故は決して起こらないとしなければならなかったことから「安全神話」が形成され、ついに国の原子力委員会まで「安全神話」を公言するに至り、過酷事故対策を一切行わずに福島第一の事故が発生した経過について述べた。特に、説明の過程では原発の爆発の様子を動画で示し、また写真による生々しい現場の様子を法廷に再現する手法が印象的であった。続いて三上侑貴弁護士から「避難の状況と2年後の現在の状況」について、まず事故直後から数か月にわたり1000兆ベクレル単位の放射性物質が海洋と陸上に放出され、とくに海洋汚染の拡大は国際的な問題となったことや、汚染による避難指示が、3キロ圏、10キロ圏から20キロ圏と次々に拡大されて、住民は複数回の避難を強いられ長時間の移動を余儀なくされ中でも避難指示を受けた病院の146人の患者のうち21人が死亡したときの避難の様子を、それぞれの場面の写真を提示しながら臨場感のある意見陳述が行われた。次に畠中孝司弁護士から「現在の避難状況について」陳述が行われた。政府の指示や自主的避難も含めて2011年8月末現在、14万6520人が避難生活を強いられていること、避難している多くの人は被曝を避けるため故郷への帰還をあきらめていること、また無人となった双葉町商店街の写真や放射線防護服姿の警官たちが震災瓦礫の間で不明者の捜索をする写真や福島第1原発敷地内一杯の放射性廃液のタンク群の写真などが提示され、原発による被害の現状が生々しく伝えられた。

以上の弁護団陳述のあと、原告で福島県から京都府へ避難している女性二人の意見陳述が行われた。最初の福島敦子さんは、福島第1原発爆発直後の2度の避難の後、2011年4月に京都府災害支援対策本部や多くの友人の力を借りて、福島県南相馬市から娘さん2人を連れて3度目の避難をしてこられた方である。震災直後の避難所の様子を、ご自身の悲惨な体験を交えて切々と訴えられた。中でも衝撃を受けたのは、貴重品よりも大切な「スクリーニング証」の所持のことであった、これは「放射性物質で汚染していないひと」という証明書で、これがなければ、避難所を移ることも病院に入ることもできない状況にあったとのこと。以下に彼女の述べた言葉のいくつかを記しておきます;

「2人の子を持つ親として働かなくてはなりません。・・時給800円の事務の仕事にかろうじてつくことができました」「あれから800日、なぜ事故が起こったのかの理由も責任も、誰一人問われることもなく、被災した人々は日々の生活に疲弊し、家族の崩壊と向かい合っていかなければならなくなりました。」「司法は、子どもを守ることに必死な母親たちをどうか救ってください、子どもたちに少しでも明るい未来をどうか託してあげてください。大飯原発の再稼働は、現在の日本では必要ないと断罪してください。司法が健全であることを信じています。日本国民は、憲法により守られていることを信じています。」

と締めくくった。

次に陳述台にたったA子さんも放射線被曝を避けるために、2011年8月、福島市に仕事を持つ夫を残し、2人のお子さんを連れて京都府に避難してこられた方である。被曝を避けるためとはいえ、故郷を捨てて、環境の変化に適応しきれないお子さんとの苦しい日々の生活状況を訴えられ、大飯原発で放射性物質放出事故が起こればもう行くところがない、一刻も早く大飯原発止めてくださいとの言葉で結ばれた。

被災者の意見陳述の後、再び弁護団の大島麻子弁護士より、大飯原発3、4号機の再稼働を進めた国と電力会社が依然として「過酷事故は起こらない」との「安全神話」から脱却できていないとの指摘を基に、1100人を超える原告となった本訴訟の重さを受け止め、最後の砦としての司法の役割を果たすよう要望した。

そのあと応援弁論として、「原発をなくそう!九州玄海訴訟」弁護団共同代表の板井優弁護士による意見陳述が行われた。玄海訴訟の特徴をいくつか挙げられたが、その中で、「安全基準は存在しない、あるのは操業基準である」との考えは、納得のいくものである。「技術は安全に使用・利用するものであり、安全な技術というものは存在しない」というのが私の持論だからである。板井弁護士は、かって4大公害裁判で司法が示した理性的な判断を引き合いに出して、我が国で二度と原発事故を引き起こさないための歴史的判決を期待すると弁論を結んだ。

最後に弁護団長の出口治男弁護士が纏めの陳述を行った。一つは、選挙の洗礼を受けないたった3人の裁判官が、原発のように高度の専門的な問題について判断する能力があるのか、については議論の分かれるところであるにも拘らず、判断できるとする若い裁判官を排除する傾向が進んだこと、二つ目は福島第1原発事故が、原発の安全神話によりかかった最高裁の考え方を打ち壊したと言っていいこと、そして三つ目は、団長が訴訟に加わったのは、福島第1原発の事故と福島の人々の苦難を見てしまい、見てしまった者の責任を果たさねばならないとの思いいからであること。安全神話が打ち壊され従来の大半の裁判所の拠って立つ基礎が崩れたというところから、改めて司法の役割を考えることが、この裁判に問われていることであり、裁判所におかれては、司法の役割を誠実に、そして勇気をもって果たして頂くよう心から願っているとして弁論を結んだ。

※原告団Webチームより:原告ご本人の意向により、原文に掲載されている原告のお名前を匿名とさせていただいている箇所があります。