関西電力株式会社
取締役会長 榊原定征 様
取締役社長 森本 孝 様
原子力事業本部長 松村孝夫 様
大飯発電所長 決得恭弘 様
申し入れ書
福島原発事故から10年経ちましたが、避難者の多くが故郷を奪われたままです。事故炉の内部は未だに掌握できず、事故終息は見えず、トリチウムなどの放射性物質を含む大量の汚染水が太平洋にたれ流されようとしています。原発は、事故確率の高さ、事故被害の深刻さ、事故処理の困難さなど、現在科学で制御できる装置でないことを、福島原発事故が大きな犠牲の上に教えています。
それでも、貴関西電力(関電と略)は、昨年7月20日より定期点検入りし、加圧器スプレイライン配菅の損傷のために運転停止が長期化していた大飯原発3号機を再稼働させようとしています。
しかし、以下【1】~【6】のような状況にある現在、原発の稼働は理不尽この上なく、許されるものではありません。
【1】関電の原発に関連して、蒸気発生器配管の減肉、亀裂を始めとする各種のトラブルが頻発しています。例えば、昨年だけでも、高浜3号機の蒸気発生器伝熱管で減肉・損傷、大飯3号機加圧器スプレイライン配管で亀裂、高浜4号機の蒸気発生器伝熱管で減肉・損傷が発見され、高浜4号機でケーブル火災が発生しています。この事実は、原発はトラブルを多発させる装置であることを物語っています。中でも、高温・高圧の1次冷却水が流れる配管の損傷は、原子炉空焚きの引き金となりかねず、深刻ですが、損傷を避ける抜本的な対策はありません。
【2】関電は、使用済み核燃料の中間貯蔵候補地を、2018年内に福井県外で探すと明言していましたが、この約束を反古にし、中間貯蔵候補地提示期限を2020年内と再約束して、大飯原発3、4号機再稼働への西川前福井県知事の同意をとり付けました。しかし、関電は、この約束もまた反故にして、使用済み核燃料を増やし続ける原発の運転を継続したのみならず、本年2月、期限を2023年末へとさらに先送りして、老朽原発・美浜3号機、高浜1、2号機再稼働への杉本福井県知事の同意を取り付け、6月23日、美浜3号機を再稼働させました。なお、期限の先送りは、むつ市の中間貯蔵施設の共同利用の可能性を拠り所にしたものと考えられますが、宮下むつ市長はこれを否定し、猛反発しています。この間の約束不履行は、関電は、何の成算も無く「空約束」をし、平気でそれを反古にする、企業倫理のかけらも持ち合わせない企業であることを裏付けています。
【3】去る12月4日、大阪地裁・森鍵一(もりかぎはじめ)裁判長は、大飯原発3、4号機の設置許可の取り消しを命じました。原子力規制委員会は、原発敷地で起こり得る地震規模の推定について、経験式で得られる規模は平均値であり、バラツキを考慮すればさらに大きな地震が発生する可能性があるから「バラツキを考慮せよ」と規定しています。しかし、この規定にも拘らず、規制委員会は、原発運転の認可にあたっては平均値を採用し、平均値に見合った耐震性で可としています。大阪地裁は、これが過小評価であるとしたのです。このバラツキに関する議論は、いやしくも科学・技術に携わる者なら、誰しも納得できるものです。関電は、基準地震動の再評価を行い、それに見合った耐震対策を施すべきです。
【4】大飯原発から100 km 圏内には、約76万人が住む福井県のみならず、257万人が住む京都府、141万人が住む滋賀県の全域、大阪府、兵庫県、奈良県、岐阜県の多くの部分が含まれます。大飯原発で重大事故が起これば、原発周辺の住民のみならず、何100万人もの人々が避難対象になりかねません。避難は不可能です。重大事故では、琵琶湖が汚染され、関西1400万人以上の飲用水が奪われます。若狭湾が汚染され、観光や漁業が壊滅します。
【5】1昨年来の原発マネーに係わる不祥事の調査は,未だに納得できるものではなく、関電が企業体質を抜本的に改善したとするにはほど遠い状態にあります。例えば、去る2月、関電は「競争入札を経ない発注(特命発注)などにより地元企業の活用に努める」として、美浜町長の美浜3号機再稼働への同意を取り付けました。公共性が高く、税金に準じる性質を持つ電気料金で運営される電力会社が、特命発注の乱発など許されるはずがありません。これは、関電の経営体質は、原発マネー不祥事後に行った「人事刷新」によっても全く変わっていないことを物語るものです。
【6】関電は、昨年来、美浜3号機および高浜1、2号機を再稼働させるとして、立地自治体の議会や首長に同意を要請し、苦悩の選択を迫りました。にも拘らず、福井県知事が4月28日に同意を表明した直後の30日に、高浜2号機の安全対策工事が遅れ、当面の再稼動が不可能になったと発表し、5月12日に、特重施設が設置期限までに完成しない高浜1号機の当面の再稼働も断念したと発表しています。一方、特重施設の完成が設置期限・10月25日に間に合わず、僅か3ヶ月しか営業運転できない美浜3号機を無理矢理再稼働させる暴挙を行いました。このように、関電は、自社の都合のみで、立地自治体や多くの人々を混乱に陥れる、傲慢極まりない企業と言わざるを得ません。こんな企業が、人々の安全・安心を最優先して原発を運転するとは考えられません。
以上の視点に立って、「老朽原発うごかすな!実行委員会」および「7.3申し入れ・抗議行動参加者一同」は、貴関西電力に、以下を申し入れます。
- 原発は、事故確率が多い装置であることは、福島原発事故および福島原発事故以降に多発したトラブルが教えています。危険で、一端重大事故を起こせば、人の命と尊厳(人格権)を奪い去る大飯原発の稼働を即時断念してください。
- 原発を動かせば、行き場がなく、子々孫々にまで負の遺産となる使用済み核燃料が増加します。全ての原発を即時停止し、安全な廃炉を進めてください。
- 使用済み核燃料の安全な処理・保管法を早急に提示してください。また、使用済み核燃料の安全な保管地を早急に示してください。
- 関電の原発が重大事故を起こせば、その被害は若狭をはるかに超えて関西や中部にもおよぶ可能性があります。原発を稼働させようとするのなら、広範な周辺自治体の意見にも十分耳を傾け、同意を得てください。
- 関電の原発で最近起こったトラブル、事故、原発マネー不祥事の原因は解明され尽くされているとは言えません。原因が十分解明され、対策が施された後に、原発稼働の是非を1から再議論してください。
なお、貴社が、私たちの再三の危険性指摘を無視して原発を稼働して、重大事故が起こった場合、それは貴職らの故意による犯罪であり、許されるものではないことを申し添えます。
2021年7月3日
老朽原発うごかすな!実行委員会
7.3申し入れ・抗議行動参加者一同
(連絡先;木原:090-1965-7102)