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◆若狭の原発が持つ特殊な問題

【2017年5月26日,京都キンカンで配付。】

高浜原発の再稼働を許さず、
原発を全廃して、
重大事故の不安のない社会を目指しましょう。

◆原発が極めて事故率の高い装置であることは、過去40年間に稼働した世界の原発570余機の中の9機が大事故を起こしていること(中でも5機は最も深刻な炉心溶融事故)からも明らかです。

◆その上、若狭の原発には次のような特殊事情があり、福島原発事故以上の被害をもたらす重大事故の可能性が高いと考えられます。

若狭の原発が持つ
特殊な問題

【1】原発13 基「もんじゅ」、「ふげん」が集中

・重大事故の場合、1基に留まらない

◆高浜原発、大飯原発は同じ敷地内に各々4基、美浜原発、敦賀原発、「もんじゅ」、廃炉中の「ふげん」は近接していて、合計7基の原子炉がある。このように原子炉が近接しているとき、一基が重大事故を起こせば、隣の原発にも近寄れなくなり、多数の原子炉の重大事故に発展しかねないことは、3基がメルトダウンし、3基が水素爆発した福島原発事故が教えるところである。

・原発依存度が高く、広域の自治体が原発を推進

◆例えば、川内原発では、原発推進の立場をとるのは原発立地の薩摩川内市のみであり、隣接するいちき串木野市、阿久根市、出水市、日置市、さつま町などは、再稼働への地元同意の対象外とされたことへの不満と再稼働への異議は多い。いちき串木野市での緊急署名では、再稼働反対が市民の過半数であった。

◆しかし、若狭ではこの地域の1市、3町が原発立地で、原発推進の立場に立っている。これらの自治体の原発依存度は、薩摩川内市に比べても圧倒的に高い。したがって、脱原発、反原発の声を上げ難い。ただし、表だって声には出さないけれども、脱原発、反原発を望む住民は極めて多く、とくに、老朽原発運転反対は大多数である。

【2】100 km 圏内に数千万人が住む;避難は全く不可能:1,450 万人の水源がある

◆高浜原発から50 km圏内には、京都市、福知山市、高島市の多くの部分が含まれ、100 km圏内には、京都府(人口約250万人)、滋賀県(人口約140万人)のほぼ全域、大阪駅、神戸駅を含む大阪府、兵庫県のかなりの部分が含まれる。このことと福島原発から約50 km離れた飯舘村が全村避難であったことを考え合わせれば、高浜原発で重大事故が起こったとき、500万人以上が避難対象となる可能性があり、避難は不可能である。しかし、政府や自治体が行う避難訓練では、そのことが全く考えられていない。この圏内には琵琶湖があり、1,450万人の飲用水の汚染も深刻な問題である。

◆さらに、避難訓練には、原発事故での避難は極めて長期に及ぶ(あるいは永遠に帰還できない)という視点がない。福島およびチェルノブイリの事故では、今でも避難された10数万人の大半が故郷を失ったままである。

◆昨年8月27日に高浜原発から30 km圏の住民179,400人を対象にして行われた避難訓練は、最大規模と言われながら、参加者数は屋内退避を含めて7,100人余りで、車両などでの避難に参加したのはわずか約1,250人であった。それも県外への避難は約240人に留まった。この規模は、重大事故時の避難の規模とはかけ離れた小ささである。車道などが使用不能になったことを想定して、自衛隊の大型ヘリによる輸送訓練も予定されていたが、強風のために中止された。また、悪天候のため、船による訓練は全て中止された。老人ホームなどへの事故に関する電話連絡は行われたが、実際行動の必要はないとされた。

【3】高浜、大飯、美浜原発は加圧水型(PWR):沸騰水型(BWR)より安全とは言えない

◆原子力規制委員会や政府は、加圧水型原子炉(PWR)は、沸騰水型原子炉(BWR)より安全であるとして、PWRである川内、高浜、大飯、伊方、泊などの原発の再稼働を先行させようとしているが、これは、「事故を起こした福島原発とは型が異なるから安全」とする国民だましである。以下に述べるように、過酷事故はBWRよりPWRの方が起こりやすく、起こると急激である。

◆福島原発事故の32年前(1979年)に炉心溶融事故を起こしたスリーマイル島原発(TMI)はPWRであった。

◆高浜原発(PWR)の炉内圧力は約150気圧で、福島原発(BWR)の約70気圧の倍であり、配管が破断したとき、噴出する冷却水の量と勢いは格段に大きい。事故発生から炉心溶融まで、PWRでは1時間程度(TMIの例)、BWRでは5~12時間(福島事故の例)と推定される。出力密度がBWRの約2倍であり、それだけPWRの方が炉心溶融しやすい。

◆PWRの方が、中性子照射量が多いため、材料の照射劣化が進行しやすい。加圧熱衝撃を受けると、高圧と相まって、原子炉容器の破裂事故(最悪の事故)を招きやすい。この危険性は、中性子などの放射線照射量に応じて大きくなるため、原発老朽化は大問題である。なお、高浜1号機は42年、2号機は41年、3号機は32年、4号機は31年(6月5日で32年)を経過した、何れも老朽原発である。

TMI(スリーマイル島原発)事故が教えるPWRの危険性

◆過酷事故時の挙動が福島原発より複雑である。例えば、PWRでは燃焼によって生成したプルトニウムの偏りが起こり易く、炉内での核分裂挙動が複雑となり、運転判断を誤らせる。

◆PWRでは、格納容器内でも水素爆発が起こる。BWRは窒素を充填しているため、格納容器内では水素爆発は起こらない(福島事故は全て格納容器外)。

◆TMIでは、電源は正常であったが、炉心溶融が起こった。

【4】ウラン―プルトニウム混合酸化物(MOX)燃料プルサーマル炉・ 高浜3、4号機

◆既存原発のプルサーマル化は、元々ウラン燃料を前提とした軽水炉のウラン燃料の一部をMOX燃料で置き換えて運転するので、技術的な課題が多い(全MOX炉も制御困難)。なお、原子力規制委員会審査における重大事故対策の有効性評価の解析対象は、ウラン炉心のみであり、MOX炉心については何ら評価されていない。過酷事故を起こしたときには、猛毒のプルトニウムや超プルトニウム元素が飛散して、深刻な内部被ばくを起こす危険性も格段に高い。

重大事故の確率が大きい

◆燃料被覆管が破損しやすい。例えば、酸素と結合し難い白金族元素が生成しやすく、余剰酸素が被覆管を腐食する。また、核分裂生成物ガスとヘリウムの放出が多く、燃料棒内の圧力が高くなり、被覆管を破損させる。

◆MOXにすれば融点は上るが、熱伝導率は下がり、電気抵抗率が上がり、燃料温度が高くなり、溶けやすくなる。

◆核燃料の不均質化(プルトニウムスポット)が起こりやすい。

◆ウラン燃料と比べて燃焼中に核燃料の高次化(ウランより重い元素が生成する)が進みやすく、特に中性子吸収断面積の大きいアメリシウム等が生成されやすくなる。核燃料の高次化が進むと、原子炉の運転や停止を行う制御棒やホウ酸の効きが低下する。さらに進むと、核分裂反応が阻害され、臨界に達しなくなり、核燃料として使用できなくなる。事故が発生した場合には従来の軽水炉よりプルトニウム・アメリシウム・キュリウムなどの超ウラン元素の放出量が多くなる。

◆中性子束(密度)が大きく、高出力。したがって、MOX燃料装荷によって 運転の過渡時(出力の増減時)に炉の制御性が悪くなる。(1/3程度しかMOXを装荷できない。)

◆一部の燃料棒のみにMOX燃料を入れると、発熱量にムラが生じる。温度の不均衡が進行すると、高温部の燃料棒が破損しやすくなる。

使用済みMOX燃料の発熱量は、ウラン燃料に比べて下がり難い

◆発熱量が下がり難いため、長期にわたってプール内で水冷保管しなければ(使用済みウラン燃料の4倍以上)、空冷保管が可能な状態にならない。使用済み燃料保管プールが、脆弱であり、冷却水を喪失しやすいことは、福島原発4号機のプールが倒壊寸前であった事実からも明らかである。

◆取り出し後50年~300年の使用済みMOX燃料の発熱量は、使用済みウラン燃料の発熱量の3~5倍である。

◆使用済みMOX燃料の発熱量を、50年後の使用済みウラン燃料の発熱量レベルに下げるには300年以上を要する。

MOX燃料にするためには、使用済み燃料再処理が必須

◆再処理を行うと、使用済み燃料をそのまま保管する場合に比べて、事故、廃棄物、など全ての点で危険度と経費が膨大に増える。(冷戦終結後、ウラン資源の需給は安定しており、再処理費までMOX燃料の製造コストの一部と看做すと経済的に引き合わない。)

【5】関電や政府は、40年越え老朽原発・高浜1,2号機、美浜3号機の再稼働を企む
(高浜3、4号機も32年、31年の老朽原発)

原発は事故の確率が高い装置であるが、老朽化すると、重大事故の確率が急増する。次のような理由による。

◆高温、高圧、高放射線に長年さらされた圧力容器、配管等の脆化(ぜいか:もろくなること)、腐食は深刻。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化(下記注を参照)は深刻。電気配線の老朽化も問題。

◆建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分は多数あるが、全てが見直され、改善されているとは言えない。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)。最近は、安全系と一般系のケーブルの分離敷設の不徹底なども指摘されている。

◆建設当時の記録(図面など)が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となる。

◆建設当時を知っている技術者は殆どいないので、非常時、事故時の対応に困難を生じる。

◆とくに、ウラン燃料対応の老朽原発でMOX燃料を使用することは炉の構造上問題山積である。

【老朽原発圧力容器の脆性破壊】

◆原子炉本体である圧力容器は鋼鉄で出来ていて、運転中は、約320℃、約150気圧の環境で中性子などの放射線に曝(さら)されている。この鋼鉄は、高温ではある程度の軟らかさを持っているが、温度が下がると、ガラスのように硬く、脆くなる。圧力容器は原子炉運転期間が長くなると、硬化温度[脆性遷移温度]が上昇する。例えば、初期には‐16℃で硬くなった鋼鉄も、1、18、34年炉内に置くとそれぞれ35、56、98℃で、40年を超えると100℃以上で硬化するようになり、脆くなる。原子炉が、緊急事態に陥ったとき、冷却水で急冷すると、圧力容器が脆化していれば、破裂する危険がある。

◆初期(未照射)の鋼鉄は、水冷では破壊されない。とくに、不純物である銅やリンの含有量が多い鋼鉄で出来た老朽圧力容器の脆化は著しい。なお、脆化の機構は解明しつくされたとはいえず、脆性遷移温度の評価法にも問題が多い。

 最近の経験は、原発はなくても電気は足りることを明らかにしました。重大事故を起こしかねない原発を動かす必要はありません。原発の稼働は、電力会社の金儲けのためです。

 原発事故は自然災害とは異なります。自然災害を止めることはできませんが、原発事故は止められます。原発は人が動かしているのですから、人が原発全廃を決意すれば良いのです。

 原子力防災とは、避難計画ではありません。不可能な避難を考えるより、事故の原因である原発を廃止することが原子力防災です。原発全廃こそ原子力防災です。

 重大事故が起こってからでは遅すぎます。原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

【ニュース】

① スイスが脱原発を含む新エネルギー法を可決

スイスでは、5月21日、原発の新設禁止、風力、太陽光、水力などの再生可能エネルギーを推進する新法の是非を問う国民投票が行われ、賛成58.2%の賛成多数で可決された。原発は人類の手に負える装置でないことを教えた福島事故を真剣に受け止めた結果である。スイスには5基の原発があり、1基は2019年に閉鎖予定。残りの閉鎖時期は未設定。現在のスイスの電力は、60%が水力、35%が原発である。

◆なお、スイスのみでなく、ドイツ、イタリア、リトアニア、ベトナム、台湾がすでに原発を断念し、アメリカまで脱原発に向かっている。

② 原子力規制委、大飯原発3、4号機を「新規制基準」適合とする「審査書」を決定

◆規制委は5月24日、事実上、大飯原発3、4号機の再稼働を認める「審査書」を正式決定した。規制委員長が何度も公言するように「新規制基準」は安全を保証するものではない。したがって、規制委審査は、再稼働のための手順の1つでしかない。関電は秋以降の再稼働を企んでいる。断固たる大衆行動、裁判闘争によって、再稼働を阻止しよう!

2017年5月26日

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

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◆重大事故の不安のない社会を!

【2017年5月19日,京都キンカンで配布。高浜原発4号機再稼動前に若狭でのアメーバデモでも配布】

現在科学技術で原発の安全確保、
使用済み燃料の処理は不可能です。
原発は、経済的にも成り立たない装置です。

福島原発事故以降の経験は、原発はなくても
電気は足りることを実証しました。

高浜原発の再稼働を許さず、原発を全廃して、
重大事故の不安のない社会を目指しましょう。

◆3月28日、大阪高裁は、高浜原発3.4号機の運転停止仮処分の抗告審で、関電の主張のみを追認し、高浜原発運転差止め決定をくつがえしました。圧倒的多数の脱原発、反原発の民意を踏み躙る決定です。関電の主張では、原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と言う“新規制基準”を「安全基準」とし、原発に「絶対的安全性を求めるべきではない」とし、「原発は安全であるから、“新規制基準”に避難計画は不要」としています。「新しい安全神話」を作ろうとするものです。関電や原発産業の利益のために、人の命と尊厳をないがしろにするものです。

◆今、ほとんどの世論調査で、脱原発、反原発の声は原発推進の声の2倍を超えています。国際的にも、イタリア、ドイツに続いて、リトアニア、ベトナム、台湾が脱原発を決意し、アメリカも原発縮小に向かっています。それは、スリーマイル島、チェルノブイリ、福島の大惨事を経験して、原発は、科学技術的に人類の手に負えるものでなく、経済的にも成り立たないことを悟ったからです。

関電は、大阪高裁の決定を受けて、高浜原発4号機を5月17日、3号機を6月上旬に再稼働させようとしています。これらの原発は、約31年を経過した老朽原発で、しかも、事故の可能性が高いウラン・プルトニウム混合酸化物(MOX)を燃料としています。再稼働を許してはなりません。

原発は、現代科学技術で制御できない(そう考える根拠)

高浜原発再稼働の風雲が急を告げる今、原発は現代科学技術で制御できず、人類の手に負える装置でないと考える理由を以下のように整理してみました。ご参考にされて、原発について考えていただければ幸いです。

1. 核反応エネルギーは化学反応エネルギーの100万倍

◆人類の生存している環境は化学反応で維持されています。この化学反応はeV(エレクトロンボルト)という単位のエネルギーのやりとりによって生じます。例えば、石油を燃すと最高で数1000℃を得ることが出来ますが、これがeVの世界です。生物の体内で生じる化学反応はさらに低いエネルギーで進み、生体内反応の多くは0.1 eV 以下の世界です。すなわち、100℃までの世界です。したがって、100℃を越えて生きる生物はまれです。

◆一方、核反応ではMeV[M(ミリオン)=100万)]という単位のエネルギーがやりとりされます。例えば、プルトニウムは約4 MeVのエネルギーを持つアルファ線を出しますが、原理的には、これによって数100万℃以上の温度が得られます。これがMeVの世界です。

◆このことは、核反応1反応によって100万に近い化学反応が生じることを意味します。核反応は爆発的に起こり、化学反応によって簡単に制御できない理由です。したがって、原子炉は大量な水で冷やし続けなければならず、水がなくなると、あっという間に核燃料や原子炉構成材料が溶融します。体内に取り込まれた放射性物質から出る放射線による内部被曝では、1000万に近い体内の化学結合が切断されることになります(実際には、核反応エネルギーの一部しか結合切断に使われないので、もっと少ない)。

◆以上のような理由で、核反応エネルギーを閉じ込めて置くことは極めて困難です。一つ間違えば、大惨事になります。原発の重大事故時には、膨大なエネルギーに起因する熱(核反応熱;核分裂で出る熱、崩壊熱;放射線を出して別の物質に変わるときに出る熱)によって核燃料や被覆材などの原子炉材料が溶融し、水素ガスの発生・爆発あるいは水蒸気爆発(高温での水の爆発的蒸発)を引き起こし、大惨事(メルトダウン、メルトスルー)に達しかねません。

◆化学反応エネルギーでは、このような事態にはなりません。

2. 原発事故の特徴;瞬時に進行し、時間的にも、空間的にも通常事故とは桁違いに深刻な被害

◆前項で述べましたように、核反応は膨大なエネルギーを出しますので、原発で冷却水が途絶えると、瞬時に(火災などとは比較にならない速度で)重大事故に至ります。そのように瞬時に進行する事故への対応は至難で、進み始めた事故を止めることは極めて困難です。例えば、海水の原子炉への大量注入は何千億円もする原子炉を使用不能しますが、重大事故に際して、海水の大量注入行ってメルトダウンを防ぐ判断を会社の上層部や政府に仰いでいる暇はありません。事態を把握し、議論している間に、原子炉が深刻で取り返しのつかない状況になるからです。なお、今までの全ての重大事故では、事故を深刻でないとする判断(願望も含めて)を行い(例えば、計器の指示ミスと判断)、事態をより深刻にしています。

◆放射性物質による被害は長期におよびます。火事は長くても数十日で消火できますが、放射性物質は、半減期に従って消滅する[放射線を出して他の物質(核種)に変わる]まで放射線とそれによる熱を発生し続けます。代表的な放射性物質の半減期は、プルトニウム239で2万4千年、ネプツニウム237で214万年、セシウム137で30.7年、ストロンチウム90で28.8年、ヨウ素131で 8.02 日です。放射性物質は、1半減期で1/2に、半減期の10倍で約1/1000、13.3倍で約1/10000、20倍で約1/100万に減少します。例えば、プルトニウム239を1/10000に減少させるには約32万年かかります。それでも、安全なレベルになるとは限りません。なお、半減期の短い物質は早く崩壊しますから、物質の量が同じであれば、時間当たりにすれば、多くの放射線を出します。

◆放射性物質による被害は長期におよびますから、原発事故では長期の避難を強いられ、住民は故郷を奪われ、家族のきずなを断たれ、発癌の不安にさいなまれます。通常の災害では、5年も経てば、復興の目途はある程度立ちますが、原発事故は、生活再建の希望も奪い去ります。福島事故では、4年経った1昨年から、絶望のために自ら命を絶たれる避難者が急増していると報道されています。

◆放射性物質は長期にわたって放射線を出し続けますから、高放射線のために事故炉の廃炉は困難を極めます。また、放射線による熱発生のため、冷却水が途絶えると、核燃料が再溶融し、再び核分裂を始める可能性もあり、長期間冷却水を供給し続けなければなりません。福島原発では、事故から6年経っても、溶け落ちた燃料の位置も一部しか分かっていません。完全廃炉には、50年以上を要するとの見解もあります。

◆重大事故によって放出された放射性物質は、事故炉近辺を汚染させるだけでなく、風によって運ばれた後、雨によって降下するのですから、汚染地域は極めて広範囲に広がります。福島事故でも、約50 km 離れた飯舘村も全村避難になり、約200 km 離れた東京や千葉にも高濃度の放射性物質が降下しました。チェルノブイリ事故では、日本でも放射性物質が検出されています。海に流出した放射性物質は海流に乗って広範囲の海域を汚染します。福島の放射性物質はアメリカ西海岸にも到達しようとしています。
若狭の原発の重大事故では、関西はもとより、中部、関東も高濃度放射線で汚染される可能性があります。汚染水は日本海にたれ流されますが、日本海は太平洋に比べて比較にならないほど狭い閉鎖海域ですから、極めて高濃度に汚染されます。若狭湾の汚染はさらに深刻です。

3. 原発は、長期保管を要する使用済核燃料、放射性廃棄物を残す

◆原発を運転すると、核燃料の中に運転に不都合な各種の核分裂生成物が生成します。したがって、核燃料を永久に使用することは出来ず、一定期間燃焼させると新燃料と交換せざるを得なくなり、そのため、使用済み核燃料がたまります。現在、日本には使用済み核燃料が17,000 トン以上たまり、原発の燃料プールや六ケ所村の再処理工場の保管場所を合計した貯蔵容量の73%が埋まっています。原発が順次再稼働した場合、数年後には満杯になります。使用済み核燃料を消滅させる方法はありません。

◆ところで、国の計画では、全国の使用済み核燃料は再処理して、ウラン、プルトニウムを取り出し、再利用することになっていました。しかし、再処理工場の建設はトラブル続きで、すでに2兆2千億円をつぎ込んだにもかかわらず、完成の目途(めど)は立っていません。危険極まりないこの工場の運転は不可能と言われています。

◆福井県にある原発13基が持つ使用済み核燃料貯蔵施設の容量は5,290トンですが、その7割近くがすでに埋まっています。高浜、大飯、美浜の原発が再稼働されれば、7年程度で貯蔵限度を超え、原発の稼働は出来なくなります。なお、使用済み核燃料貯蔵プールは脆弱(ぜいじゃく)で、冷却水を喪失し、メルトダウンする危険性が高いことは、福島第1原発4号機の燃料プールから冷却水が漏れ、核燃料溶融の危機にあった事実からでも明らかです。

◆一方、日本には、低レベルおよび高レベル放射性廃棄物が200リットルドラム缶にしてそれぞれ約120万本および約1万本蓄積されていますが、その処分は極めて困難で、永久貯蔵はおろか中間貯蔵を引き受ける所もありません。

◆数万年を超える保管を要する使用済み核燃料、放射性廃棄物の蓄積の面からも、原発は全廃しなければなりません。

4. 高浜原発の重大事故では、若狭のみならず、京都、滋賀の全域も故郷を失う可能性が大

◆高浜原発から50 km圏内には、京都市、福知山市、高島市の多くの部分が含まれ、100 km圏内には、京都府(人口約250万人)、滋賀県(人口約140万人)のほぼ全域、大阪駅、神戸駅を含む大阪府、兵庫県のかなりの部分が含まれます。このことと福島原発から約50 km離れた飯舘村が全村避難であったことを考え合わせれば、高浜原発で重大事故が起こったとき、500万人以上が避難対象となる可能性があり、避難は不可能ですが、政府や自治体が行う避難訓練では、そのことが全く考えられていません。この圏内には琵琶湖があり、1,450万人の飲用水の汚染も深刻な問題です。さらに、避難訓練には、原発事故での避難は極めて長期に及ぶ(あるいは永遠に帰還できない)という視点がありません。福島およびチェルノブイリの事故では、今でも避難された10数万人の大半が故郷を失ったままです。

◆昨年8月27日に高浜原発から30 km圏の住民179,400人を対象にして行われた避難訓練は、最大規模と言われながら、参加者数は屋内退避を含めて7,100人余りで、車両などでの避難に参加したのはわずか約1,250人でした。それも県外への避難は約240人に留まりました。この規模は、重大事故時の避難の規模とはかけ離れた小ささです。車道などが使用不能になったことを想定して、陸上自衛隊の大型ヘリによる輸送訓練も予定されていましたが、強風のために中止されました。また、悪天候のため、船による訓練は全て中止されました。老人ホームなどへの事故に関する電話連絡は行われましたが、実際行動の必要はないとされました。

5. 高浜原発3,4号機は、危険極まりない老朽原発(31~32年を経た原発)

◆原発は事故の確率が高い装置ですが、老朽化すると、重大事故の確率が急増します。次のような理由によります。

◆原発の圧力容器、配管等は長期に亘って高温、高圧、高放射線にさらされているため、脆化(ぜいか:金属が軟らかさを失い、硬く、もろくなること)、腐食(とくに、溶接部)が進んでいます。中でも、交換することが出来ない圧力容器の脆化は深刻です。事故時に原子炉を急冷すると、圧力容器が破裂します。電気配線の老朽化も問題です。

◆老朽原発には、建設時には適当とされたが、現在の基準では不適当と考えられる部分が多数あります。しかし、全てが見直され、改善されているとは言えません。例えば、地震の大きさを過小評価していた時代に作られた構造物、配管の中で交換不可能なもの(圧力容器など)です。

◆老朽原発では、建設当時の記録が散逸している可能性があり、メンテナンスに支障となります。また、建設当時を知っている技術者はほとんど退職しているので、非常時、事故時の対応に困難を生じます。

今、原発は動いていないけれども、電気は足りています。
重大事故の危険性をおかして
運転するのは愚の骨頂です。電力会社の金儲けのためです。

原発事故は自然災害とは異なります。
自然災害を止めることはできませんが、
原発事故は止められます。
原発は人が動かしているのですから、
人が原発全廃を決意すれば良いのです。

原子力防災とは、避難計画ではありません。
不可能な避難を考えるより、
事故の原因である原発を廃止することです。
原発全廃こそ原子力防災です。

重大事故が起こってからでは遅すぎます。
原発全廃の行動に今すぐ起ちましょう!

若狭の原発を考える会(連絡先・木原壯林 090-1965-7102)

◆原発の電気を買うことで関電の原発を「応援」するのはもうやめよう!~人民新聞、槌田劭

【人民新聞 2017年4月25日】

原発時代の終末は近い。原発ムラの金庫が心細くなってきたからである。「金だけ,今だけ,自分だけ」の原理で動く世を,私は《金主主義社会》と呼んでいる。主権は在民せず,お金の力に奪われているからである。原発ムラが原発をあきらめざるを得なくなるのは,金銭経済的に立ち往生するときであり,消費者主権が回復するときである。

●原発産業の破綻

東芝の苦境が象徴的である。その流れを世論の力によって決定づけるのが,消費者電力の自由化であろう。昨年4月以来,1年間で60万件以上の小口電力契約が関電から新電力会社に移っている。契約が5%も減少することは,関電にとってきびしいことだろうし,それでなくても,節電と景気動向を反映して,福島事故前と比べて,5年間で15%も販売電力量を減らしているのである。

関電の狼狽ぶりは,ガス自由化に伴う事業参入の過剰宣伝,大阪ガスへの脅しとも見える過剰反応からもうかがえる。原発事業が重圧となって価格競争に後退する現実はきびしいが,目先の金勘定では原発再稼働の幻想にすがるほかないのだろう。

関電も企業生き残りをかけて真剣なのであろうが,その経営体質は「親方日の丸」であり,原発依存は硬直化してしまっている。多年にわたる政府認定の総括原価方式に毒され,経営の苦労もなく儲かるシステムで,経営能力も衰弱しきってしまっている。

経費の3%を自動的に利益と認められるシステムで,原発ムラの育成裏金となる経費水ぶくれ利益を許していた。官界だけでなく,マスコミや学界への工作資金は,原発の「安金神話」をでっちあげ,福島事故を呼んだのである。

電力自由化によって電力事情には激震が起こっているが,関電は原発再稼働以外の知恵はないようだ。原発安価神話の幻想はすでに破綻しているのに,当面の金勘定から限界費用の小さい原発の再稼働に執念を燃やすのは,新電力との価格競争に対抗できないからである。

原発再稼働への準備を急ぐ中で,過労自殺や高浜原発でのクレーン倒壊などの事故が発生している。無理に無理を重ねた上での再稼働が重大事故を呼ぶのが分かったが,その危険にも目をつぶる関電の経営姿勢には,末期症状の危険が露出する。

●世論の圧力で流れは変わる

危険な現実は強まっているが,原発のコスト高が顕在化してきたからである。それも脱原発世論の圧力故である。京都でも,脱原発の市民的運動は持続的に継続している。私が参加する「使い捨て時代を考える会」の毎月11日の定例行動では,地震発生の午後2時46分から1時間,関電京都支店前(京都駅前)に10~20名が集まって,チラシ配りや署名活動を行っている。福島事故を忘れないためでもある。2011年4月からだから,6年を過ぎた。

また,毎週金曜日午後5時から7時まで,京都支店前に100人前後の人びとが集い,脱原発の声をあげつづけている。それも2012年5月からだから,5年になる。私は職員出入口で,退社する職員を観察することにしている。社員の中に脱原発の声へのいらだちの目立つのは変わりがないが,共感も生じはじめている。今年に入って,か細い声で「ごくろうさん」「お疲れさま」と出ていく職員が3月に1人,4月に2人あらわれた。社内にも原発グループの横暴に批判的な声が出はじめているとも閃聞(そくぶん)している。

関電は福島事故後,毎年2000億円を前後する赤字へと転落した。しかし,昨年と今年の決算は黒字に回復している。石油燃料代が大きく低迷したおかげである。原子力部門が足引っ張りをしているにもかかわらず,火力が頑張っているのである。冷遇される水力や火力事業部の職員の中に,原子力事業部への不満が高まっても不思議でない。

原発の電気は割高なのである。その上,危険であって,事故発生時の対応は想像を絶する出費となる。長期的視点では良い点がない。原発を固守する無能経営で,自由化価格競争は蟻地獄となっている。

「原発の電気はいらない。買いたくない」との市民世論は,関電の原発断念へ作用するだろう。

昨年夏より,ささやかな暑名活動を京都ではじめていたが,この5月から全関西に拡大したいと思っている。福島事故を忘れたかのような再稼働の策謀をやめさせるために。原発の電気を買うことで,関電の原発を「応援」するのをやめたい。

それが福島を忘れず,今も苦悩する方々に心を寄せることでもある。

◆6/25 第5回原告団総会のお知らせ,報告

 ◆第5回原告団総会のお知らせ

  • 日時…6/25(日)13:30~。
  • 場所…しんらん交流館 大谷ホール。
  • 記念講演…「耐震安全性における科学の問題」東京大学地震研究所教授 纐纈 一起(こうけつ・かずき)さん→こちら。研究について→こちら。毎日新聞インタビュー(2011年8月)→こちら

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  • 時 間……13:30~16:50(開場は,13:00)
  • 場 所……しんらん交流館 大谷ホール
    京都市下京区諏訪町通六条下る上柳町199(東本願寺の北側,京都駅から徒歩12分)
  • 開会挨拶…竹本修三 原告団 団長
  • 記念講演…纐纈一起さん『耐震安全性における科学の問題』
  • 報 告
    最近の原発裁判(出口治男・弁護団 団長)
    京都地裁の脱原発訴訟(渡辺輝人・弁護団 事務局長)
    世話人会からの経過報告,会計報告,アピール(吉田明生・原告団 事務局長)
  • 入 場…無料。会場にてカンパを訴えます。ご協力ください。
  • 多くの原告の皆さまがご参加いただきますよう,お願いします。事前の出欠のご連絡は不要です。
  • 原告の皆さまのほか,原告になっていない方も参加できます。
  • 総会終了後,17時30分くらいから京都駅近くの店で纐纈一起さんを囲む懇親会(会費5000円)を企画しております。会場確保の都合上,懇親会は事前予約制とさせていただきます。懇親会に参加ご希望の方は早めに,事務局にご連絡ください。

◆総会の報告[概略]

  • 原告団総会にご参加の皆さま,たいへんご苦労様でした。
    参加者は125人で,良い総会になったと思います。
    カンパ,物販などにもご協力いただき,ありがとうございました。
    また,記念講演の講師を囲む懇親会も24名に参加で,和やかにすすみました。

総会で確認されたスローガン

  • 原告団(世話人会)の活動方針として,総会で確認されたスローガンは,以下の通りです。
  • ~原発事故で故郷を失うような事態,
    子どもたちを放射能にさらすような事態を二度と招かないために~
  1. すべての原発の新設と再稼働に反対しよう。
  2. 40年超えの高経年原発を筆頭に,すべての原発の廃炉を求めよう。
  3. 原子力を基盤とするエネルギー基本計画を改めさせ,再生可能な自然エネルギーの振興を求めよう。
  4. 核武装の潜在能力を維持するための核燃サイクル,MOX燃料の使用は,即刻止めさせよう。
  5. 原発事故に備える避難計画にとどまらず,全原発廃炉による原子力防災を前進させよう。
  6. トルコやインドなどへの原発の輸出を止めさせよう。
    ——–
  7. 福島第一原発事故の原因究明を求めよう。
  8. 福島第一原発事故について,国と東京電力,原子力ムラの事故責任を明確にさせよう。
  9. 福島第一原発事故で被災,避難したすべての人に対する補償を実現させよう。
  10. 福島第一原発事故について,賠償を求めている全国の裁判を支援しよう。
  11. 福島第一原発事故の被曝により,福島などで多発している甲状腺がんの実態解明と対策を求めよう。
    ——–
  12. 脱原発に道を開き,立憲主義,民主主義,平和主義を守る政権を実現しよう。
  13. あらゆる選挙において,原発推進勢力を落選させ,脱原発勢力を当選させよう。
  14. 原子力「推進」委員会と化している「規制」委員会の改廃を求めよう。
  15. 福島第一原発事故に責任を負うべき裁判所が,今また原発推進に加担している責任を追及しよう。
  16. 関西電力には,市民の声を聞くこと,原発から脱却した経営政策を強く要求しよう。
    ——–
  17. 京都脱原発原告団は,市民で闘う脱原発訴訟として1万人原告をめざそう。
  18. 京都地裁における大飯原発差止訴訟に勝利しよう。
  19. 原発の運転差し止めを求めるすべての裁判と連帯しよう。
  20. すべての原発運転差し止め裁判に勝利しよう。

原告団世話人会からの報告とアピール

  • →こちら

参加者からの声(ご意見用紙の内容)

◆これまでの口頭弁論(第12回~第15回)の内容のまとめ(~2017/5/9)

■ 第15回(2017年5月9日)

  • 裁判官の交代(藤田昌宏 裁判長,上田瞳,築山健一)に伴う弁論の更新で,竹本修三・原告団長,福島敦子さん(福島県南相馬市からの避難者)が再々陳述。
  • 世話人の赤松純平さんが,大飯原発の地盤特性や地域特性について意見を陳述。

■ 第14回(2017年2月13日)

  • 原告の意見陳述は,福島県から避難してきた宇野朗子(うの・さえこ)さん(現在は京都府木津川市)。
  • 弁護団からは,第29準備書面で,①コスト的に成り立たない原発事業,②世界各国における原発産業の状況,③原発御三家の東芝,三菱重工,日立,④原発は産業発展の妨げ,⑤裁判官にのぞむこと,などを主張。(→「私たち原告の主張:ハイライト」)

■ 第13回(2016年11月28日)

  • 原告の意見陳述は,池田豊さん(京都自治体問題研究所),吉田真理子さん(京都府宮津市)。
  • 弁護団からは,高浜原発広域避難訓練から明らかになった問題点(第27準備書面),宮津市避難計画の問題点について(第28準備書面),などを主張。

■ 第12回(2016年9月14日)

  • 原告の意見陳述は,避難計画の問題点について栢下壽(かやした・ひさし)さん(京都府南丹市)より。
  • 弁護団からは,被告関西電力が反論していない原告の主張について(第24準備書面)指摘。

◆【京都民報】5/9 第15回口頭弁論。原発直下地震は起こりうる

【京都民報 2017年5月21日号】

原発直下地震起こりうる、再稼働中止を 大飯差し止め訴訟口頭弁論 原告団長、被災者が主張

すべての原発をなくすことをめざす京都脱原発訴訟原告団・弁護団が取り組む大飯原発差し止め訴訟で9日、第15回口頭弁論が京都地裁で行われ、福島第一原発事故の被災者や研究者、弁護士らが再稼働中止を主張しました。

原告団長の竹本修三・京都大学名誉教授は口頭弁論で、巨大地震が日本全国どこでも起こりうる危険性を指摘し、原発直下地震が起これば過酷事故は避けられないと主張。「裁判官が自らの判断で原発の危険性、新規制基準の考え方について評価してほしい」と強調しました。

原告の福島敦子さんは、原発事故後に娘2人と福島県から京都に避難。車で必死に避難場所を探して逃げ続けたことや、京都へ移住後も不安な生活を続けていることを詳しく語り、京都に近い大飯原発の差し止めを強く求めました。

専門家や弁護士らが、巨大地震が原発周辺で起こる危険性や、新規制基準の問題点、避難計画に実効性がないことなどを主張しました。

裁判後に、報告集会が行われ、今後も法廷内外で原発運転差し止めの世論・運動を広げていくことを確認しました。

◆5/17 高浜原発3,4号機再稼働に反対する申し入れ書

関西電力株式会社
取締役会長  八木  誠 殿
取締役社長  岩根 茂樹 殿
高浜発電所長 宮田 賢司 殿

高浜原発3,4号機再稼働に反対する申し入れ書

福島原発事故から6年経ちましたが,事故炉内部の詳細は未だに分からず,汚染水は垂れ流され続けています。避難者は家族のきずなを断たれ,生活再建の目途が立たず,癌の苦痛,発癌の不安にさいなまれています。多くの方が事故に関連して亡くなられました。絶望の末,自ら命を絶たれる方が,事故から4年経った一昨年から急増していると報道されています。

このような状況を反映して,今,脱原発は民意となっています。最近のほとんどの世論調査でも,脱原発の声は原発推進の声の2倍以上です。高浜原発の地元中の地元・高浜町音海地区でも原発運転反対の決議が上っています。

一方,東芝破綻の例を挙げるまでもなく,原発は,事故対策費や使用済み核燃料の処理・処分費を考えれば,経済的にも成り立たないことは明らかです。

したがって,国際的にも,イタリア,ドイツに続いて,リトアニア,ベトナム,台湾が脱原発を決意し,アメリカも原発縮小に向かっています。

それでも,あなた方・関西電力は,原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と言う“新規制墓準”を“安全基準”と主張し,これに適合したから高浜原発は安全として,その再稼動の手続きを進めています。

あなた方・関西電力は,昨年2月の高浜原発4号機再稼働時に1次冷却系で水漏れを起こし,発電機と送電設備を接続した途端に原子炉が緊急停止するトラブルを起こし,今年1月にはクレーンを燃料プール建屋上に倒壊させ,また,関連会社はヘリコプターから資材を落下させる事故を2度も起こしています。この事実は,安全性を軽規することに慣れ切り,緊張感に欠けた関西電力が原発を運転する能力・資格を有していないことを実証しています。あなた方は,このような電力会社の体質が福島の事故を生じさせたことを真摯に反省し,再稼働を即時断念すべきです。

ところで,若狭の原発で福島級の重大事故が起これば,若狭や京都,滋賀の北都はもとより,京都府,滋賀県の全域,関西のかなりの部分が放射性物質にまみれる可能性があります。この地域の500万人を超える住民が避難対象になりかねません。避難は不可能です。

原発が無くても電気は足りることは,福島事故以降の経験が教えています。不要な原発を稼働させて,事故のリスクにおびえる必要はないのです。あなた方が原発を動かすのは,人の尊厳,生存の権利を犠牲にしても,経済的利益を優先させよう考えているからです。金儲けのために原発を動かすのは,倫理に反します。私たちほ,事故の不安なく,安心して生活できる社会を求めます。

あなた方は,4号機を今日17日,3号機を6月上旬に再稼働させると報道されています。

原発は,事故の確率の高い,人類の手に負えない装置です。二度と福島のような事故を起こさないために,再稼働の断念と,全ての原発の即時廃炉を求めます。あなた方が,あくまで再稼働を進めるならば,私たちは,あらゆる手段で,粘り強く全原発の廃炉まで闘うことを宣言します。

2017年5月17日
「5・17高浜原発うごかすな!現地集会」参加者一同
(連絡先;090-1965-7102若狭の原発を考える会・木原)

◆5/9の第15回口頭弁論の案内と報告

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◆第15回口頭弁論の案内
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■ 京都地裁の大飯原発差止訴訟は,5/9(火)14:00~16:00に第15回口頭弁論が開かれます。
多くの皆さまにご参加いただきますよう,ご案内します。

■ 次回は,裁判長の交代にともない,これまでのおさらいをする「弁論の更新」が行われます。2時間かかりますが,

一気にキャッチアップ!
2時間で原発訴訟の論点がわかる!

■ 具体的には,これまでの到達点,問題点のダイジェスト的まとめ,
(1) 新規制基準,地震動,避難計画などの問題点
(2) 弁護団で行った野島断層見学会の成果
(3) 原告の陳述(竹本修三・原告団長,福島より避難してきた福島敦子さん)
のほかに
(4) 地震について新しい主張(被告関西電力のいう地盤特性,地域特性に対する反論)
もふくめて展開します。

■ 5/9の裁判に参加する三つの方法

[1] 原告席…すでに原告の方は,法廷の柵の内側に原告として入ることができます。

  • 原告団が氏名を裁判所に通知します。希望される場合は★4/30(日)★までに電話,FAX,葉書などで事務局宛ご連絡ください。
  • 約35の席がありますので,定数に達するまで募集します。
  • E-Mail を登録されている原告は,4/24(月)配信のMLに返信してください。
  • 原告席で裁判に参加された原告の感想 →「裁判に参加するといっても,傍聴席にいるのと,原告席にいるのでは,こんなに違うのかと思った。自分の向かい側の正面に被告の関電や国がいて,左に裁判官がいるという配置なので,自分 がどんな立場かよく分かる。“自分は訴えているんや”という気持ちになった。まだ,1回しか原告席に入ったことはないが,ぜひ,また原告席で裁判に参加したいと思っている。

[2] 傍聴席…法廷の中で柵の外側。88席あり,裁判所が抽選を行います。

  • 13:20~13:35の間に京都地裁正面玄関前で,抽選リストバンドが配布されます。
  • 13:35からの傍聴券の配布は,地裁の正面玄関前となります。
  • 傍聴席は,原告でない方も,誰でも抽選によって参加することができます。
  • 傍聴席に入ることができなかった場合は,下記の模擬法廷にご参加ください。

[3] 模擬法廷…弁護団が用意します(法廷と同じ14:00開始)。

  • 模擬法廷に参加するには,京都地裁の構内の南東角にある京都弁護士会館・3階大会議室へ,
    直接おこしください。
  • 法廷よりもわかりやすく,弁護団が解説します。
  • 事前に提出されている被告(国や関電)側書面があれば,その解説も行います。

■ 報告集会の開催

  • 法廷の終了後(16:00頃から),京都弁護士会館・地階大ホールにて報告会を開催します。
  • 裁判に関するご質問なども,弁護団から説明いたします。

■ 開廷前のデモ

  • 従来通り,12:10 までに京都弁護士会館前(京都地裁構内の南東角)に集合で,市民に訴えるために裁判所周辺のデモを行います。多くの皆さまが参加されるよう,訴えます。
  • 出発は12:15 です。30分程度で終わる予定です。
  • デモ後に,裁判所の傍聴席の抽選に応募することができます。

■ 原発賠償京都訴訟も 同じ週の12日(金)

◆[京都地裁]福島などから京都に避難してきた人による原発賠償京都訴訟

  • 国と東電に対して,福島原発事故による被害の賠償を請求(2013/9/17に提訴)。9/29結審,2018年3/29に判決予定。大きな傍聴支援で原告の皆さんを励ましましょう。
  • 5/12(金)第27回口頭弁論…5/9(月)の大飯原発差止訴訟と同じ週です。
    • 原告本人尋問。101号法廷。10:15~16:30。傍聴席の抽選は9:35~9:50。

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◆第15回口頭弁論の報告
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昨日5/9の第15回口頭弁論にご参加の皆さま,ご苦労様でした。

  • 開廷前には,いつものように裁判所周辺のデモを行い,市民に脱原発裁判をアピールしました。
  • 傍聴席は応募が多数で抽選になりました(関電関係者と思われる傍聴もありました)。法廷では弁護団の各段の奮闘が光ったと思います。福島敦子さん(原発賠償京都訴訟の共同代表),竹本修三団長,赤松純平先生らの陳述も,裁判官にせまる迫力がありました。
  • 初めて原告席に参加した原告からは「知性と情熱が法廷を圧倒!」「分かってほしいとひたすら希求する人々は美しい」という感想が寄せられています。
  • 模擬法廷にも原告19名が参加,弁護団が10名以上で,充実していました。
  • 報告集会では,多額のカンパの他,缶バッジ,竹本団長の著書などでご協力をいただき,深く感謝しています。

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◆第15回口頭弁論の法廷資料
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  • 原告の意見陳述(福島敦子,竹本修三,赤松純平) →こちら
  • 原告提出の第35準備書面(もくじ)→ こちら
  • 原告提出の第34準備書面(もくじ)→ こちら

◆5/17 高浜原発再稼動阻止、緊急行動について

原発再稼働阻止、原発全廃のためにご奮闘の皆様(5/13 メール配信)

4月27日の「高浜原発うごかすな!関電包囲全国集会」(700名参加)と御堂筋デモ(大阪)、5月7日の高浜原発ゲート前行動(350名参加)、「高浜原発うごかすな!現地集会」(400名参加)、高浜町内デモ(高浜町)、5月8日~12日の高浜~福井を結ぶリレーデモ(延べ400名参加)、5月12日の「高浜原発うごかすな!福井集会」(福井市:120名参加)では、多大なご支援を頂き、また、多くの方がご参加いただき、ありがとうございました。

これらの行動を通して、「高浜原発うごかすな!」の声は、圧倒的多数であることを実感し、再確認もできました。この声が顕在化していないのは残念ですが、今後、原発全廃運動が拡がれば、必ずや顕在化するであろうと予感させられました。

それでも、関西電力は、脱原発・反原発の民意を踏み躙って、31年越えの老朽原発で、かつ、危険極まりないプルサーマル原発・高浜4号機を、5月17日にも再稼働させようとしています。

関電は、原子力規制委員長までもが「安全を保証するものではない」と言う“新規制基準”を「安全基準」とし、原発に「絶対的安全性を求めるべきではない」とし、また、「原発は安全であるから、“新規制基準”に避難計画は不要」としています。「新安全神話」を作ろうとするものです。このような、自社の利益のために、人の命と尊厳をないがしろにしても原発を動かそうとする関電の姿勢を許してはなりません。

私達「若狭の原発を考える会」は、高浜原発再稼働阻止を勝ち取るために、次の行動を呼び掛けています。

5月17日(水)、正午に高浜原発北ゲートの奥の展望所に集合し、13時からデモ行進で北ゲートに向かい、同ゲート前で、17時30分まで、高浜原発再稼働の企みへの断固とした抗議行動を展開します。この時間内に、関電への申入れも計画しています。

この行動によって、高浜原発3、4号機再稼働反対の大きな声をあげ、関電。規制委、安倍政権の原発推進の野望を打ち砕きたいと考えています。17日には、是非多数の方がご参加下さるようお願いたします。(当日は、京都、滋賀からも配車します、ご参加ご希望の方はご連絡ください。)

一方、中島哲演さんは、15日10時より関電本店前で3日間の断食抗議を行われます。電発電力を使い続けた私たち関西の住民は、反省の意も込めて連帯したいと思います。1食だけでも断食して、「高浜原発うごかすな!」の声をあげましょう。

なお、4月27日~5月12日の行動は、「原子力発電に反対する福井県民会議」の呼びかけで多くの団体が参加した「高浜原発うごかすな!実行委員会」が主催しましたが、17日は、緊急行動ですので、「若狭の原発を考える会」が呼びかけることにしました。

「若狭の原発を考える会」・木原壯林(090-1965-7102)

◆第15回口頭弁論 更新弁論(結語)

弁護団長 出口 治男

第1 大阪高等裁判所は、本年3月28日、大津地方裁判所が平成27年3月9日関西電力高浜原発3、4号機の運転を差し止めた仮処分決定を取り消し、同原発の再稼働を認める決定(以下「本決定」という。)を下した。本決定は、福島第一原発事故によって変容を求められる原発訴訟に対する司法審査の枠組みを従来の行政追随型に後退せしめるものであり、到底許容できるものではない。

第2 原告らは、平成28年3月14日の口頭弁論期日において、平成27年12月24日の、大飯原発3,4号機及び高浜原発3、4号機運転差止仮処分命令事件について、福井地裁の異議審が、同地裁が平成27年4月14日に下したこれらの原発の運転差止仮処分決定を取り消し、住民側の仮処分の申立てをいずれも却下したことに対し、総論的批判を行ったが、これらの批判は、いずれも大阪高裁の上記決定に対しても当てはまるものである。弁論更新に当たり、以下にこれらの批判の要旨を述べる。

  1.  福井地裁異議審決定は、福島第一原発事故に正面から向き合わず、いまもなお続き、終わることのない破滅的な状況を忘却したか、あるいは無視している。

    (1) 福井地裁異議審決定は、福島第一原発事故について触れてはいるが、同事故によって、広大な土地が人の住めない無人の荒野と化し、また住み慣れた故郷の地からの避難を余儀なくされている膨大な人々の苦難の事実を、わがことの如くに見ていない。避難を余儀なくされた人々の苦難の実情は、本法廷において意見陳述をした福島敦子原告ら福島県から避難をした人達の、切実な訴えによって明らかである。膨大な人々が苦難を強いられていることを、原告の一人でもある宮本憲一名誉教授は、本法廷において、足尾銅山鉱毒事件によって消滅させられた谷中村の悲劇以来の悲劇と指摘している。いうまでもなく、福島第一原発事故は、世界の原子力発電所の歴史において、チェルノブイリに並ぶ最大級の事故である。未曾有の公害事件であり、途方もない人権侵害事件であることを片時も忘れるべきではない。この裁判に関わる全ての関係者は、この福島の地の現実、いま進行している膨大な人々に加えられている人権侵害の現実を直視し、二度と再び原発事故を起こさせてはならないという戒めを胸にして出発しなければならない。

    しかし、福井地裁異議審決定は、福島第一原発事故によってもたらされている現実に、正面から向きあっていない。女川原発裁判を担当した塚原朋一元裁判官は、「福島第一原発の事故を目の当たりにして初めて、裁判官の多くは変わったと思います。」と述べている。同氏は、福井地裁異議審決定は「福島原発事故にも言及してはいるのですが … 原発事故再来への懸念が実感として伝わってこない。」とも指摘している。福島第一原発事故による途方もない人権侵害の現実から目を背け、原発事故再来への懸念を実感していないのではないか。福井地裁異議審決定は、再び原発の「安全神話」にすがりつき、司法の役割を放棄しようとしているのではないか。これが、この決定を前にしての第一印象なのである。

    (2) 生涯をかけて原発問題に取り組んだ市民科学者、故高木仁三郎は、かつて、「科学技術とは、本来実証的なデータに裏付けられたものであるはずだが、原発の技術に実証性を期待することは難しい。実証的に裏付けられない点は、大型コンピュータを用いたモデル計算によってカバーすることになるが、計算はあくまで計算に過ぎず、現実との対応関係は実験ができない以上、確かめようがない。」と述べ、技術文明の危うさ、原子力技術が本質的に持つ危険性に警鐘を鳴らし続け、原子力時代の末期症状による大事故の危険と、放射性廃棄物がたれ流しになっていくことを危惧しつつ、2000年にガンで倒れた。高木の指摘は、福島第一原発事故で、誰の目にも明らかとなった。

    (3) 水素爆発は起きないと断言した直後に、それが起きた時、原子力安全委員長は、「アチャー」と言ったとマスコミは報道している。そのレベルの人物が、原子力安全の最高責任者であった。福島原発で水素爆発が起きている最中に、ある専門家は、テレビでそれを否定した。最近の報道では、東京電力は、炉心溶融が生じているにも拘わらず、そうではなく炉心損傷に過ぎないと2ヶ月も言い張り、しかも炉心溶融か炉心損傷かの判定基準の存在に5年間も気付いていなかったと言う。これらが、原子力に関する専門家の実情である。高木が述べるように、原子力技術の危うさと、それに従事する関係者の実情に照らすと、原発の危険性の判断において専門家の行っていることを鵜呑みにしてはならない。これが福島第一原発事故から導き出される苦い教訓なのである。

    (4) それだけではない。九州電力は、川内原発の再稼動許可を得るに際し、免震重要棟を建設するとしたが、再稼動を開始した後でその建設を撤回し、重大事故時の拠点施設を耐震構造する方針を打ち出した。原子力規制委員会は、九州電力の方針転換を批判するが、九州電力はその批判を歯牙にもかけない。また、福井地裁異議審決定によって関西電力は高浜原発4号機の再稼動を開始したが、その直前に原子炉補助建屋で放射性物質を含む水漏れがあり、さらに発送電を始めた初日に変圧機から送電線の間で、一時的に規定値を超す電流が流れた為に原子炉が緊急停止する事故が発生した。この緊急停止をうけて、原子力規制委員会委員長は、社会の信頼回復を裏切るような結果で遺憾だと述べたとのことである。しかし、原発事故によって被害を受ける者にとっては、遺憾では済まない。原子力規制委員会での約束事を公然と覆し、再稼動を始めた直後から原子炉の緊急停止を生じさせる電力会社の実情を見せられるにつけても、多くの市民の、電力会社と原子力規制委員会に対する不信と不安は益々増大せざるを得ない。原子力規制委員会の安全規制は本当に機能しているのであろうか。原子力規制委員会の審査結果を鵜呑みにすることは危険なのではないか。司法は、原子力規制委員会の審査に対して、専門家任せでなく、司法自身の判断を行っていくべきである。再稼動を認められた原発で生じた上記の事象は、原子力規制委員会の審査の在り方に反省を迫るものであり、また司法審査の在り方を考える上で重要な示唆を与えるものといわねばならない。

  2.  福井地裁異議審決定は、科学と裁判における謙虚さを欠いているのではないか。

    (1) 原子力規制委員会の規制基準の策定の在り方については、石橋克彦名誉教授は、次のように述べている「きわめて重要なのは、ある特定の原発サイトで想定すべき最強の地震動はどのようなものかといった問題は、現在の地震科学では客観的に解答できないということである。この種の問題は、A.Weinbergが提唱した『トランス・サイエンス』(科学によって問うことはできるが、科学によって答えることのできない問題群からなる領域:例えば、小林、2007)の典型例である。専門家は、幅のある予測と可能性の程度などを提示して(よく確率的にしか答えられないといわれるが、意味のある確率を付与すること自体が困難な場合が多い)、最終的には利害関係者や関心のある人々や社会全体が科学以外の基準(例えば、予防原則)によってきめるべきであろう。日本の現状では、専門家が“科学的に”一意的に決定できるという感覚が根強いが、それに荷担せずに、その感覚を正していく努力が必要であろう。」本件の原告団の団長である竹本修三名誉教授は、固体地球物理学、測地学の専門家であり、地震予知の研究にも長年携わってきた地震科学に造詣の深い研究者であるが、本法廷の意見陳述において、科学としての地震学の有する限界を強調している。(2) このような科学の限界性の自覚、認識は、真理を語る前では謙虚であれ、ということを含意すると思われるが、裁判官にとっても謙虚さが求められることを、さきに指摘した塚原元裁判官も述べている。同元裁判官は、自らが関与した女川原発事件判決にふれながら、「福島第一原発事故が日本全体に与えた甚大な影響を考えると、裁判官は従来の想定に縛られない謙虚な姿勢で、個々の事件に臨まねばならないと思わずにいられません。」としている。

    女川原発が辛うじて津波の直撃を免れたという実感を基に、同元裁判官はこのように述べているのである。同元裁判官は、福井地裁異議審の担当裁判官には、その実感がないのではないか、もっと真実を見、真実の前では謙虚にならねばならないと切言している。それは、本件に関係する全ての者の課題ではなかろうか。

  3.  福島原発の行方

    2015年ノーベル文学賞は、ウクライナ生まれのスベトラーナ・アレクシエービッチに与えられた。同女史の「チェルノブイリの祈り」というドキュメンタリー作品において、1996年4月刊行の、次のような雑誌の記事を載せている(「チェルノブイリの祈り」岩波現代文庫 292頁、2011年発行)。「『石棺』と呼ばれる4号炉の鉛と鉄筋コンクリートの内部には、20トンほどの核燃料が残ったままになっている。今日そこでなにが起きているのか、だれも知らない。」(中略)「石棺の組み立ては「遠隔操作」で行われ、パネルの接合にはロボットとヘリコプターが用いられたので、隙間ができてしまった。今日、いくつかのデータによれば隙間と亀裂の総面積は200平方メートル以上になり、そこから放射性アエロゾルが噴出し続けている。」「石棺は崩壊するのだろうか?この問いにだれも答えることができない。いまだにほとんどの接合部分や建物に近づくことができず、あとどれくらいもつのか知ることができない。しかし、石棺が崩壊すれば1986年以上に恐ろしい結果になることは誰の目にも明らかである。」

    これは、福島第一原発の未来像であるかもしれない。福島第一原発の中で何が起きているのか、それが今後どのように収束されていくのか、誰もわからない。福島第一原発事故の原因の特定すらできていない。にもかかわらず、新規制基準を策定し、それによって原発再稼動が始まっている。新しい規制基準は、原発事故の原因に真に有効に対応することができているのだろうか。原因のわからない問題に真に有効に対応することができるのだろうか。原因のわからない問題に、どのようにして有効で適切な回答を与えることができるのであろうか。我々は再び原発事故を起こしてはならない、という出発点に立ち戻って本件に向き合いたい。福井地裁異議審決定は、我々にそのことを促している。

以上

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