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◆第22回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

西郷南海子

わたしは京都市左京区で三人の子どもを育てている西郷南海子と申します。わたしが住んでいる地域は、大飯原発から56.8kmに位置します。今日は、仕事をしながら子育てをしている立場から、大飯原発の運転差し止めを求める意見陳述をします。

2011年の東日本大震災まで、わたしは原発とは日本のエネルギーの3割を供給している発電方法だとしか思っていませんでした。ところが東京電力福島第一原発の事故を目の当たりにして、自分の考えが取り返しのつかない過ちであることを思い知りました。放射能には色も匂いもなく、いったん空気中に放出されてしまえば拾い集めることもできません。核種にはいろいろあるとは言え、半減期まで何十年とかかるものも多いです。こうした目に見えない放射能をどう避けたらよいのか、2011年当時まだ乳幼児だった子どもたちを抱えて途方に暮れました。

あの事故から8年が経とうとしていますが、子どもたちを被ばくから守るためには、原発を止めるしかないという結論にわたしは至りました。昨年2018年は、地震や台風などたくさんの自然災害がありました。そして災害が起こるたびに、家族はいつも一緒にいられるわけではないということを実感しました。

わたしには三人の子どもがいますが、それぞれ保育園と小学校に通っており、活動範囲は異なっています。万が一の災害の時、どうやって子どもたち三人と再会できるのだろうかと不安です。たとえば大地震が起これば、停電するかもしれないし、停電してしまうと情報のやりとりがしづらくなります。そうした中で、もし大飯原発で事故が起こっていたとしたら、わたしたちはどうやってそのことを知ることができるでしょうか。被ばくを避けるための情報はどのようにして提供されるのでしょうか。福島第一原発の事故では、原発からおよそ47kmの地点までが避難の対象となりました。実際には、原発の東の海の側に全体の6割とも8割ともいわれる放射性物質が放出されているので、陸側の47kmの範囲と同水準の放射性物質の降下がより遠方の広範囲に広がったのではないでしょうか。我が家は大飯原発から56.8kmに位置しますが、私の住む地域には避難計画すらありません。56.8㎞は、風速20km/hの風(これは、自転車をこいだときに感じる程度の風です)の場合、3時間未満で到達する距離です。災害の混乱の中こんなに短い時間で、家族全員と再会し、さらに遠くの場所へと避難することができるとは考えられません。大災害の時は、道路や線路が寸断され、交通機関が麻痺してしまいます。災害の時に遠くに逃げるということが、もはや非現実的なのです。京都市の中心部までも60kmしかありません。そもそも、百万都市からすべての人が避難することなど、現実的に可能なのでしょうか。

被ばくを避けるためには安定ヨウ素剤が効果的だと言われています。京都市では、大飯原発50km圏内の住民にはヨウ素剤を配布するとしていますが、災害の大混乱の中で配布がうまくいくとは思えません。しかも我が家は56.8km地点にあるため配布の対象となっていません。そこでわたしはアメリカから個人的にヨウ素を取り寄せましたが、そもそもここまでして事故に備えなければならない発電方法というのが非合理的だと思います。なぜ原発で発電し続けなければならないのでしょうか。原発を擁護する理由はもはやどこにもありません。裁判所のみなさんには、原発事故の取り返しのつかなさを胸に刻んだ上での判断をお願いしたいです。

以上

◆原告第61準備書面
火山影響評価に関する新知見と原子力規制委員会及び関西電力の対応について

原告第61準備書面
火山影響評価に関する新知見と原子力規制委員会及び関西電力の対応について

2019年1月28日

原告提出の第61準備書面[424 KB]

【目 次】

第1 はじめに

第2 火山影響評価について
1 火山影響評価とは(甲483)
2 原子力規制委員会における「新知見」の認定と報告徴収命令の発出
3 「新知見」に基づくと大飯原子力発電所の安全裕度が小さいこと
4 小結

第3 火山影響評価を巡る原子力規制委員会と関西電力の背信性について

第4 結語



第1 はじめに

本書面は、原子力発電所の新基準適合性審査の一つである、「火山影響評価」に関して、①平成30年11月21日に原子力規制委員会において認定された「新知見」を根拠に大飯原子力発電所が火山に対して裕度が小さいことを主張するとともに、 この火山影響評価に関する②規制委員会及び関西電力の背信性について主張するものである。


第2 火山影響評価について

 1 火山影響評価とは(甲483[433 KB]

原子力規制委員会の定める「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則」第6条は、外部からの衝撃による損傷の防止として、安全施設は、想定される自然現象(地震及び津波を除く。)が発生した場合においても安全機能を損なわないものでなければならないとしており、敷地周辺の自然環境を基に想定される自然現象の一つとして、火山の影響がある。

原子力発電所の火山影響評価ガイドは、火山影響評価の妥当性を審査官が判断する際に参考とするものであり、原子力発電所の運用期間中に火山活動が想定され、それによる設計対応不可能な火山事象が原子力発電所に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価できない場合には、原子力発電所の立地は不適となる。
具体的には、火山影響評価ガイドは、原子力発電所に

  1.  降下火砕物堆積荷重に対して、安全機能を有する構築物、系統及び機器の健全性が維持されること。
  2.  降下火砕物により、取水設備、原子炉補機冷却海水系統、格納容器ベント設備等の安全上重要な設備が閉塞等によりその機能を喪失しないこと。
  3.  外気取入口からの火山灰の侵入により、換気空調系統のフィルタの目詰まり、非常用ディーゼル発電機の損傷等による系統・機器の機能喪失がなく、加えて中央制御室における居住環境を維持すること。
  4.  必要に応じて、原子力発電所内の構築物、系統及び機器における降下火砕物の除去等の対応が取れること。
    (直接的影響)
    原子力発電所外での影響(長期間の外部電源喪失及び交通の途絶)を考慮し、燃料油等の備蓄又は外部からの支援等により、原子炉及び使用済み燃料プールの安全性を損なわないように対応が取れること。
    (間接的影響)

を求め、降下火砕物については「周辺調査から求められる単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものと」して影響評価を行うものとされている。

6.原子力発電所への火山事象の影響評価
原子力発電所の運用期間中において設計対応不可能な火山事象によって原子力発電所の安全性に影響を及ぼす可能性が十分小さいと評価された火山について、それが噴火した場合、原子力発電所の安全性に影響を与える可能性のある火山事象を表1に従い抽出し、その影響評価を行う。
ただし、降下火砕物に関しては、火山抽出の結果にかかわらず、原子力発電所の敷地及びその周辺調査から求められる単位面積あたりの質量と同等の火砕物が降下するものとする。なお、敷地及び敷地周辺で確認された降下火砕物で、噴出源が同定でき、その噴出源が将来噴火する可能性が否定できる場合は考慮対象から除外する。
また、降下火砕物は浸食等で厚さが低く見積もられるケースがあるので、文献等も参考にして、第四紀火山の噴火による降下火砕物の堆積量を評価すること。(甲483[433 KB]-12)

 2 原子力規制委員会における「新知見」の認定と報告徴収命令の発出

上記の通り、原子力発電所の新規制基準適合性審査では、火山影響評価として火山灰の層厚の評価を行っており、原子力発電所の火山影響評価ガイド(甲483[433 KB])を参照し、地質調査や文献調査等から評価された火山灰の層厚を確認するとともに、敷地周辺において火山灰の堆積が確認されない場合は、数値シミュレーション等により火山灰の層厚を求めている。

従前関西電力は、既存の知見に従い、大飯原子力発電所の降灰の厚さを最大10センチメートルと想定していた。

他方、原子力規制庁は、実用発電用原子炉の火山事象に係る安全規制の高度化に向けて、平成27年度及び平成28年度に、大山火山起源の降下火砕堆積物の分布を再度評価したところ、後述の山元孝広論文(甲484[8 MB]-大山火山噴火履歴の再検討)を根拠に既往文献(新編火山灰アトラス)についてデータの不確実性が含まれるものと評価し平成29年6月14日、関西電力に対し、大山生竹(DNP)[1]の火山灰分布について情報収集を求めた。山元孝広論文は、大山生竹の火山灰分布について、京都市越畑付近にて約30センチメートルの降灰層厚を報告しているものであり、関西電力の評価(10センチメートル)を大きく上回るものである。

平成30年3月28日、第75回原子力規制委員会において、関西電力の「新知見」は採用できないとの調査結果に対し、原子力規制庁は「越畑地点におけるDNPの最大層厚は山元(2017)において引用している文献値(30cm)よりやや小さい26cmとみなすことが可能である。」(甲485[19 MB])とし、平成30年11月21日の原子力規制委員会においては、京都市越畑地点の大山生竹テフラ(DNP)の降灰層厚は25cm程度であること、またDNPの噴出規模は既往の研究で考えられてきた規模を上回る10km3以上と考えられることが新知見(以下「本新知見」という。)として認定された。

平成30年12月12日、第47回原子力規制委員会において、本新知見を受けて、原子力規制委員会は、「本新知見は、新規制基準に基づく既許可の原子力発電所(高浜発電所、大飯発電所及び美浜発電所。以下「本件発電所」という。)における敷地の降下火砕物の最大層厚に影響を与え、その結果、原子炉設置変更許可の評価に用いた前提条件に有意な変更が生じる可能性があると考えられる。」として、関西電力に対し、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律第67条第1項の規定に基づき、関西電力株式会社(以下「関西電力」という。)に報告徴収命令を発した。

甲486[712 KB]-8ページ】《図省略》

甲484[8 MB]-2】《図省略》

[1] 生竹降下堆積物:黒雲母含有斜方輝石普通角閃石デイサイトの約8万年前に噴出したプリニー式降下火砕物で,大山から約10km東南東で2m以上の層厚を持ち,京都府越畑盆地(大山から約190km東南東)でも層厚30cmの降下火砕物の分布が確認されている(甲484[8 MB]参照)。

 3 「新知見」に基づくと大飯原子力発電所の安全裕度が小さいこと

関西電力は、大飯原発3,4号機は、10cmの降灰に対し前提に十分な裕度がある、また30cmの降灰に対しても対処可能である(荷重に対して健全性を維持できる)と述べる(甲487[325 KB][2]甲488[635 KB][3])。
ここで、関西電力は、その根拠として

  1. 積雪荷重(100センチメートル)と同時に考慮
  2. 建設時に屋根に見込んでいた設計時長期荷重(PA)の1.5倍を評価基準として、積雪荷重(100センチメートル)と降下火砕物(10センチメートル)による荷重を加算した荷重(PB)が、建設時に屋根面に考慮していた設計時長期荷重に対する比(PC)が1.5倍以内であることで健全性を確認
    ・裕度=1+(1.5PA-PB)/1500
    ・1500:降下火砕物(10cm)による単位面積あたりの荷重
    ・1.5:鉄筋コンクリートスラブに用いる鉄筋の、長期と短期の許容値の比
    ・PAは「設備図書に示す自重、積載荷重及び設計時長期積雪荷重の和」

とモデルを提示している。すなわち、100センチメートルの積雪+30センチメートルを仮定しても、モデル上は裕度があるという主張である。

甲488[635 KB]-3】《表省略》

しかしながら、仮にこのモデルが正しいとしても、最も裕度の小さい「原子炉周辺建屋」においては、わずか31センチメートルの降灰で、裕度がなくなる(裕度=1となる)ことになる[4]甲487[325 KB])。

すなわち、大山生竹テフラ(DNP)の降灰層厚を前提とすると原子炉周辺建屋の裕度は非常に小さいのである。

ディーゼル発電機のフィルターの目詰まりについては,設計層厚を26センチメートルとした場合,これを10センチメートルとした場合と比較して,気中降下火砕物の濃度が大きくなり,現状の限界濃度を上回ることは確実である。したがってフィルターが目詰まりを起こしてディーゼル発電機による供給ができなくなるという危険がある。

また、山元孝広論文には、大山生竹テフラ(DNP)のみでなく、大山火山起源の複数の降下火砕堆積物の分布図が示されているところ、山元孝広氏は倉吉降下堆積物[5](DKP)を、大飯原子力発電所付近で50センチメートルと推定している。同堆積物は約6万年前の噴火によるものとされているが、火山影響評価ガイドは第四紀(258万年前から現在までの期間)に活動した火山を対象とするとしており、また、平成29年6月6日付原子力規制部安全規制管理官による「火山活動の可能性評価のための調査研究」(甲486[712 KB]別添)においても「大山倉吉噴火(以下、DKP噴火)は大山火山の約10~2.5万年前の活動の中でも特異的な火山活動ではないと考えることも可能である」として評価対象としている。したがって、倉吉降下堆積物(DKP)を評価した場合には、もはや、安全裕度は1を下回ることが予想されるのである。

[2] http://www.nsr.go.jp/data/000247984.pdf……【2023/3/22注釈】リンクエラーになる。原子力規制委員会のサイトから削除されている。※サイト内検索の結果一覧には出てきますが、ファイルは存在しないようです(最近削除された?)
[3] http://www.nsr.go.jp/data/000247985.pdf……同上
[4] ∵降下火砕物Xセンチメートルによる単位面積あたりの荷重=150X(N/m2
  PB=PA+150X
  PA=9550
  裕度1となるXは
  1=1+(1.5PA-PB)/1500
  →PA+150X=1.5PA
  X=31.833333…
[5] 約6万年前の国内で最大規模のプリニー式噴火(甲484[8 MB]

 4 小結

以上より、すでに判明した事情を元にしても、大飯原発3,4号機は、火山に対する十分な安全性を有していないのであり、具体的危険性が顕在化している。


第3 火山影響評価を巡る原子力規制委員会と関西電力の背信性について

  1 関西電力の背信性

原子力規制委員会は、上述の通り、平成30年3月28日に本新知見を認めたが、関西電力は、その直前の同年3月1日の段階でも「山元(2017)に示される等層厚線図については、元になった大屋地点、土師地点、越畑地点の層厚が評価できなかったこと、大山池地点は等層厚線図と整合しているものの瀞川山地点は等層厚線図と整合しなかったことから、現時点では新たな知見として採用できない。」と強弁し、本新知見を否定していた。

関西電力が、科学的な知見から目を背け、原発の安全性確保を軽視する姿勢を取っていることはこの一事からも明らかである。そして、これは、原告ら大飯原発の周辺住民に対する背信行為に他ならない。

  2 規制委員会の背信性

また、原子力規制委員会も、問題点が本新知見によりあらたな問題点が指摘されているにもかかわらず、「噴火が差し迫った状況にあるものではないことを踏まえ、原子炉の停止は求めない」という判断をした(甲489[196 KB]甲490[324 KB])。

しかし、火山の噴火がいつ発生するのかについて正確に予測することは本来的に不可能である。一方、原発の過酷事故は、一度発生すれば、回復不可能かつ重大な結果をもたらす。本新知見があり、関西電力の火山対策の弱点が露呈しながら、対策が未定の状態での大飯原発の運転を認める原子力規制委員会の姿勢は、安全性よりも関西電力の営利活動を優先するものであり、国民や、原告ら大飯原発の周辺住民に対して極めて背信的なものといわざるを得ない。これは、事前に巨大津波の襲来可能性を指摘されながら、原発を停止しなかったために過酷事故に至った福島第一原発の例からも明らかである。


第4 原子力規制委員会が依拠する科学的知見自体のぜい弱性

本新知見に典型的に現れているが、新たな科学的知見が発見される度に、原子力規制委員会が依拠すべき知見も更新されざるを得ない。そして、本新知見もそうであるように、原発の安全性に関わる科学的知見のほとんどは、原発の安全性を確保するために発見されるわけではなく、各分野の研究者の科学的関心に基づいて発見されるものである。

原発の安全性に関わる新知見は今後も次々に発見されることが予測され、これは、現時点では、原発の安全性に関わる未発見の知見が多数あることを意味する。そうすると、新規制基準やそれに基づく審査というものが原理的に原発の客観的な安全性を保証できないことにならざるを得ない。

新規制基準や原子力木瀬委員会の審査は、原発の安全性を保証できるものでないことを前提に、審理がなされなければならない。

以上

◆原告第60準備書面
―大阪府北部地震を適用すると1280ガルが予測される―

原告第60準備書面
―大阪府北部地震を適用すると1280ガルが予測される―

2019年1月31日

原告提出の第60準備書面[904 KB]

目 次

1 大阪北部地震観測結果のFO-B~FO-A~熊川断層への適用
2 大阪府北部地震の観測
3 大阪府北部地震の震源破壊過程
4 大阪府北部地震の震源破壊過程を大飯に適用
5 スケールアップ
6 関電地盤モデルと3号炉モデル
7 関電地盤モデルが示す基準地震動の「平均像」
8 3号炉地盤モデルは1280ガルを示す


本準備書面は、大阪府北部地震(2018.6.18)の観測記録を基にすると、大飯原発における地震動は1280ガルに上ることが予測され、基準地震動856ガルは過小評価であることを批判するものである(赤松意見書「FO-B~FO-A~熊川断層M7.8(2018年大阪府北部地震M6.1スケールアップ)による大飯原発サイトの強震動」、甲481[1 MB])。

1 大阪北部地震観測結果のFO-B~FO-A~熊川断層への適用

 ア 基準地震動の策定方法

原子力規制委員会は、基準地震動の策定方法について、「①敷地ごとに震源を特定して策定する地震動と②震源を特定せずに策定する地震動について、それぞれ応答スペクトル[1]を相補的に考慮することによって、敷地で発生する可能性のある地震動全体を考慮した地震動を策定すること、さらに、震源が敷地に近く破壊過程が地震動評価に大きく影響する地震については、①において断層モデルを用いた手法を重視すること、そのうえで基準地震動として①②それぞれについて設計用の応答スペクトルと地震波時刻歴とを、不確かさを考慮して策定すること」と定めている(丙27「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド」平成25年6月)。

また、地盤の震動特性に関わる地盤構造について、「敷地及び敷地周辺における地層の傾斜、断層及び褶曲構造等の地質構造を評価するとともに、地震基盤の位置及び形状、岩相・岩質の不均一性並びに地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性を評価すること。なお、評価の過程において、地下構造が成層かつ均質と認められる場合を除き、三次元的な地下構造により検討すること」と定めている(甲482[1 MB]「実用発電用原子炉及びその附属施設の位置、構造及び設備の基準に関する規則の解釈」、平成25年6月19日)。

[1] 応答スペクトル 地震動が建物等をどれだけ揺らすかを示すもの。建物等毎に固有周期が決っている(建物が一揺れするのに要する時間)。ある周期の地震波は、その周期を固有周期とする建物を大きく揺らす。周期毎にその周期を固有周期とする建物を揺らす程度を、変位(cm)、速度(cm/s)、加速度(cm2/s)で表わす。

 イ 断層モデル

「震源を特定して策定する地震動」評価は、応答スペクトルに基づいて地震動評価が行なわれ、地震の規模と震源から敷地までの距離との関係から経験的に地震動を求める手法(耐専式)が用いられている。ただし、震源距離が極めて近い場合には、耐専式を用いることが適当でないため、断層面を細分化して(小断層)、小断層から放出される地震波形を合成する手法(断層モデル)を用いて地震動評価を行なう(丙13、地震動予測手法「レシピ」)。被告関電は、大飯原発に近接するFO-B~FO-A~熊川断層の断層破壊モデルによって地震動評価を行っている。

「震源を特定せず策定する地震動」評価は、地震の規模(マグニチュード)や震源距離を定めて地震動を計算するのではなく、過去の内陸地殻内地震について得られた震源近傍の地震動観測記録に基づいて応答スペクトルを設定して策定するものである。(以上、被告関電準備書面(3)[17 MB]

 ウ 大阪北部地震観測結果適用の意義

上記のとおり、「震源を特定して策定する地震動」は、「レシピ」に依拠した平均的な地震像としての断層破壊モデルによって評価されている。これに対して、赤松意見書では、大阪府北部地震の観測データの逆解析(インバージョン解析)によって明らかにされた具体的な断層破壊過程を、FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものである。断層破壊過程に実地震記録を用いており、実際にあった断層破壊過程が用いられているから、地震動評価の信頼性は格段に高い。

2 大阪府北部地震の観測

大阪府北部地震は、防災科学研究所のKIK-netの大阪観測点(OSKH05)で観測されている。同観測点の地震計は、地中深くの(標高-981m)堅硬な(Vp=5660m/s、Vs=3050m/s)[2]岩盤内に設置されている。

[2] Vp、Vs VpはP波速度、VsはS波速度である。P波は地震波の進行方向と同じ方向の震動(縦波)、S波は地震波の進行方向と垂直の震動(横波)である。地震波速度は、地盤が固いと速く、軟らかいと遅くなる。

3 大阪府北部地震の震源破壊過程

大阪府北部地震は、周辺の強震観測網で観測された記録が逆解析(インバージョン解析)され、実際に起こった断層破壊過程が詳しく解析されて明らかにされている(断層の深さ、走向、傾斜、破壊開始点の位置、破壊進展方向、破壊伝播速度、断層のすべり量、断層面積等)。

4 大阪府北部地震の震源破壊過程を大飯に適用

大飯原発で基準地震動を策定したFO-B~FO-A~熊川断層の断層モデルに、大阪北部地震観測データの逆解析による震源破壊過程を適用して、FO-B~FO-A~熊川断層で生じる地震波、地震動を予測することができる。

5 スケールアップ

地震動の予測にあたり、大阪府北部地震のマグニチュード(M)は6.1であるのに対して、FO-B~FO-A~熊川断層で起きるマグニチュードは7.8を想定しているから、大阪府北部地震をM7.8にスケールアップしなければならない[3]
M7.8のFO-B~FO-A~熊川断層の断層面積は、M6.1の大阪北部地震の約17倍であるから、FO-B~FO-A~熊川断層を、大阪府北部地震の断層(54km2)が17個集まったものと考え、震源から破壊が広がって17個の小断層が破壊し、それぞれの小断層がM6.1の地震波を生じさせ、それらが合成されると考える。

下記グラフ《図省略》は、17個の小断層が、順に破壊して地震波を生じさせ、それらが全体として合成地震波を生じさせたものである。

地震動は883ガル[4]にのぼり、基準地震動856ガルを超えている。

[3] ω2則による(経験的グリーン関数法による波形合成の方法、横井・入倉、1991)。
[4] ガル 地震動は加速度で表わし、その単位がガル(cm/s2)である。

6 関電地盤モデルと3号炉モデル

 ア 関電地盤モデル

上記地震波グラフは、スケールアップした大阪府北部地震の断層破壊過程をFO-B~FO-A~熊川断層に適用した結果の予測される地震波であるが、地盤については、関電地盤モデルを用いている。

関電地盤モデルは、下記③のとおり《図省略》、原子炉建屋は堅硬な岩盤に設置されていて(Vp=4.6km/s,Vs=2.2km/s)増幅しにくい上[5]、当該岩盤の減衰係数[6]は大きく設定されていて(h=3%)、地震波が大きく減衰するとされている。

[5] 増幅特性 地震波は、固い地盤では増幅しにくく、軟らかい地盤では増幅する。
[6] 減衰係数 地震波は、固い地盤での減衰は小さく、軟らかい地盤での減衰は大きい。減衰係数は、hで表わし、hは地震波が1サイクルで何%減衰するかを表わしている。

以上から、地震波が、堅硬な岩盤から軟らかい地盤に差しかかると、一旦、増幅して振幅が大きくなる。しかしその後、減衰してゆく。軟らかい地盤が一定の厚みを持っている場合には、地表近くに到達する頃には大きく減衰していることとなる。

 イ 関電地盤モデルはごまかし

ところで、関電地盤モデルは微動アレイ観測の観測結果の逆解析によるインバージョンモデルを基に設定されている。

観測結果の逆解析から直接導かれるインバージョンモデルは①のとおりであり、原子炉建屋が軟弱な表層地盤に設置されていることを示している。

そこで原告らは、インバージョンモデルは軟弱な表層地盤が存在することを示しているのに、関電地盤モデルはこれを無視していると批判した。

これに対して被告関電は、確かに表層地盤はあるが、原子炉建屋は岩盤地盤に建っているから、層厚80mの表層はカットしたと反論した(②、③)《図省略》。

上記のとおり《図省略》、被告関電は自ら表層地盤が層厚80mあると言い、その80mの表層地盤をカットしたと言うが、そうだとすると、原子炉建屋は空中に浮かんでいることとなって明らかにおかしい。

地盤調査結果は3号炉の地盤に破砕帯が密に存在し、P波速度は3.86km/sであることを示しおり4.6km/sを下回っている。

原子炉建屋が直接、堅硬な地盤(Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/s)に設置されているとする関電地盤モデルは、自らの主張とも、地盤調査結果とも整合しない。

関電の地盤モデルは、曖昧な議論と不確かな実験によって、減衰係数(h)を3%と設定している。

減衰係数は、岩盤地盤(堅硬な地盤)では小さく、土質地盤(軟らかい地盤)では大きい。大阪観測点の地盤は土質地盤であるところ、観測結果に拠ると、減衰係数はh=3%を下回り、大きくてもその1/1.5の2%迄であることが判明している[7]

大飯の地盤では、堅硬な地盤は-40m以深である。他方、大阪観測点では-600mまで土質地盤が続き、25m厚の風化岩層をはさんで-625m以深でようやく硬い岩盤地盤が表れる。表層すぐ近くまで岩盤地盤となっている大飯の減衰係数は、大阪観測点をさらに相当に下回るはずである。

以上のとおり、h=3%と設定している関電の地盤モデルの減衰係数は、過大に過ぎる。

[7] 大阪観測点の地盤の減衰係数は不明であるため、赤松意見書では、大阪観測点の地盤増幅特性から減衰係数を検討している。右の図の太線は、地表(標高1m)と地中(標高-981m)の各地震計で観測された地震波の強さの比較である(フーリエ・スペクトル比)《図省略》。(1)~(5)は、大阪観測点の地盤の減衰係数をいろいろ変化させて与えた増幅特性である(左側のhは200m以浅、右側の右は200m以深である)。下記グラフから、大阪観測点の地盤の減衰係数が、(3)と(4)の間にあることが明らかとなり、上記では控えめに(4)として論じている。

7 関電地盤モデルが示す基準地震動の「平均像」

ところで、このように地震動を過小評価する関電地盤モデルによっても、前述のとおり、合成波形の加速度ピーク値は883ガルであり、基準地震動856ガルを超えている。これは、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されているからである。

断層モデルは、各小断層の破壊が均質と仮定しているが、実際には、各小断層の破壊が不均質に進展しており、そのため前後の地震波に強弱が生じて重なりが不均質になり、合成波が大きくなったと考えられる。

断層破壊モデルは、断層面が1枚の平面であることを前提としているが、2016年の熊本地震(M7.3)では複数の断層面が斜交し、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)では共役関係にある断層破壊が生じた《図省略》。

断層破壊モデルは、現実に起こる単純でない断層破壊の不均質な破壊過程が考慮されていない。

「平均像」から基準地震動を策定することによって、地震動を過小に評価していることとなる。

8 3号炉地盤モデルは1280ガルを示す

3号炉モデルに拠れば、波形の加速度ピーク値は1280ガルにも及び、クリフエッジの1260ガルを超えることとなる《図省略》。

FO-B~FO-A~熊川断層のM7.8の地震の地震動は、1280ガルとなって、基準地震動だけでなく、応答スペクトルも基準地震動を大幅に超え、原子炉建屋破壊が強く懸念される。

さらに、小断層No.9のみの断層破壊によるM6.1の地震によっても、応答スペクトルは基準地震動を超えており、3号炉側の地盤の脆弱性が危惧される《図省略》。

以上、大阪府北部地震の観測結果をFO-B~FO-A~熊川断層に適用した結果から、被告関電の基準地震動が過小に評価されており、基準地震動超えの地震動発生の危険が改めて明らかとなった。

◆原告第59準備書面
-避難困難性の敷衍(左京区における問題点について)-

原告第59準備書面
-避難困難性の敷衍(左京区における問題点について)-

2019年(平成31年)1月24日

原告提出の第59準備書面[91 KB]

原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で左京区に在住する原告の西郷南海子の日々の暮らしをもとに、左京区区民の避難困難性に関する個別事情について述べる。

1 原告西郷南海子について

原告西郷南海子(以下「原告西郷」という。)は、住んでいる地域は、大飯原発から56.8kmに位置している。原告西郷は、仕事をしながら、京都市左京区で三人の子どもを育てている。

2 2011年東日本大震災までの原告西郷の認識

2011年の東日本大震災まで、原告西郷は原発とは日本のエネルギーの3割を供給している発電方法だとしか思っていなかった。しかし、原告西郷は、東京電力福島第一原発の事故を目の当たりにして、自分の考えが取り返しのつかない過ちであることを思い知った。放射能には色も匂いもなく、いったん空気中に放出されてしまえば拾い集めることはできない。核種にはいろいろあるとは言え、半減期まで何十年とかかるものも多い。原告西郷は、こうした目に見えない放射能をどう避けたらよいのか、2011年当時まだ乳幼児だった子どもたちを抱えて途方に暮れた。

3 原告西郷の避難困難性

原告西郷は、子どもたちを被ばくから守るためには、原発を止めるしかないという結論に至った。昨年2018年は、地震や台風などたくさんの自然災害が発生したが、災害が起こるたびに、原告西郷は、家族はいつも一緒にいられるわけではないということを実感した。
原告西郷には、三人の子どもがいるが、それぞれ保育園と小学校に通っており、活動範囲が異なっている。仮に、万が一大飯原発において事故が発生した場合、原告西郷が、活動範囲が異なる三人と子どもと再会することは困難である。これは、原告西郷に限らず、家族がいる者については、同じ事が言える。例えば、大地震が起これば、停電するかもしれないし、停電してしまうと情報のやりとりが困難となる。大地震が起こったという情報を得ること自体困難になる。被ばくを避けるための情報を受けるとることも難しくなる。福島第一原発の事故では、原発からおよそ47kmの地点までが避難の対象となった。実際には、原発の東の海の側に全体の6割とも8割ともいわれる放射性物質が放出されているので、陸側の47kmの範囲と同水準の放射性物質の降下がより遠方の広範囲に広がっていた可能性がある。原告西郷の自宅は、大飯原発から56.8kmに位置するが、原告西郷の住む地域には避難計画すら無い。56.8㎞は、時速20km/h(風速5.5m/s)の風(自転車をこいだときに感じる程度の風)の場合、3時間未満で到達する距離である。災害の混乱の中、3時間という短い時間で、家族全員と再会し、さらに遠くの場所へと避難することは、不可能である。被ばくを避けるためには安定ヨウ素剤が効果的だと言われている。京都市では、大飯原発50km圏内の住民にはヨウ素剤を配布するとしているが、災害の大混乱の中で配布が、適切に行われないことも十分に想定される。原告西郷の自宅は、56.8km地点にあるため配布の対象となっていない。そこで、原告西郷は、アメリカから個人的にヨウ素を取り寄せた。このようなことをしなくとも、原発を止めれば、問題は解決するのである。

4 最後に

これまで原告等が主張してきたとおり、大災害の時は、道路や線路が寸断され、交通機関が麻痺してしまう。災害の時に遠くに避難するということが、もはや非現実的である。そもそも、百万都市からすべての人が避難することなど、現実的ではない。

以上

◆第21回口頭弁論 原告提出の書証

甲第464~466号証(第54準備書面関係)
甲第467~476号証(第56準備書面関係)
甲第477~478号証(第57準備書面関係)
甲第479号証 (第58準備書面)



証拠説明書 甲第464~466号証[56 KB](第54準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第464号証[14 MB]
判決書(抄本)(京都地方裁判所第7民事部)

甲第465号証[1 MB]
判決要旨(東京地裁民事第50部)

甲第466号証[124 KB]
安全目標と新規制基準について(議論用メモ)と題する書類(原子力規制庁)


証拠説明書 甲第467~476号証[564 KB](第56準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第467号証[1 MB]
大飯発電所の地盤構造について(赤松純平)

甲第468号証[270 KB]
大飯3,4号炉設置許可基準規則等への適合性について(地盤)【抄本】(被告関電)

甲第469号証[584 KB]
原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合第59回議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第470号証[941 KB]
第21回審査会合 資料1-1 大飯発電所の地下構造把握について【抄本】(被告関電)

甲第471号証[110 KB]
第21回審査会合 資料1-2 大飯発電所の地下構造把握について(データ集)【裏紙のみ・抄本】(被告関電)

甲第472号証[1 MB]
第78回審査会合 資料2-1 大飯発電所内敷地破砕帯の評価について【抄本】(被告関電)

甲第473号証[574 KB]
第92回審査会合議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第474号証[1 MB]
第89回審査会合 資料3 大飯発電所地盤モデルの評価について【抄本】(被告関電)

甲第475号証[953 KB]
大飯発電所3・4号機の現状に関する評価会合第4回議事録【抄本】(原子力規制委員会)

甲第476号証[674 KB]
第206回審査会合 資料3-4 大飯発電所地震動評価について(参考)大深度地震計設置の取組状況【抄本】(被告関電)


証拠説明書 甲第477~478号証[156 KB](第57準備書面関係)
(2018年8月31日)

甲第477号証[175 KB]
口頭弁論要旨(原告 西川政治)

甲第478号証[5 MB]
スライド(原告 西川政治)


証拠説明書 甲第479号証[63 KB](第58準備書面関係)
(2018年11月14日)

甲第479号証[4 MB]
2018年6月18日大阪府北部の地震(M6.1)について(竹本修三)

◆第21回口頭弁論 意見陳述

2018年9月4日

※ この意見陳述はスライド[5 MB]と合わせてお読みください。

口頭弁論要旨

西川政治

(スライド1) 私は、京丹後市網野町にある丹後ふるさと病院、たちばな診療所を運営する特定医療法人三青園の常務理事・事務局長と特養「ふるさと」の経営責任を持つ理事を務めています。

1、病院・特養の沿革と現在の状況

(スライド2) 丹後ふるさと病院は1983年8月に52床で開設され、2003年に160床に規模拡大しました。
急速な高齢化を迎え2012年に60名規模の特養を建設、2016年に同規模を増設しました。

(スライド3) 現在、病院の許可病床160床、特養は120名の収容規模で運営しています。職員は、2018年7月末現在で、正規雇用・非正規雇用含めて318名、常勤職員換算では258.7名になります。7月末現在の病院の入院患者数は158名、特養の入所者数は112名の合計270名になります。

(スライド4) 私たちの病院・特養は京都府の最北端、丹後半島の京丹後市網野町に位置し、2施設の南に国道178号線が通り、京都府で一番大きな湖である離湖、離湖古墳公園があり、裏側にあたる北方面に小高い林があり防風林の役目を果たしています。

病院の標高は5m弱、離湖は3m弱、海水逆流防止の可動式の防潮堤が設置されていますが、北風が吹くと海抜0mになります。離湖から日本海への水路の距離は約500mです。日本海側で地震が発生すれば離湖の水位は、一気に上昇するでしょう。北側も500m前後で日本海の沿岸になります。その間に40m~100mの丘があります。津波が発生すると、この丘以外に避難する場所はありません。病院・施設前の国道178号線は海抜約3~4mであるために自動車は通行不可能になります。これは網野町の50~60%が4~5mの海抜の範囲に入り町全体が機能不全に陥ります。

(スライド5) 我々の病院・特養は、大飯原子力発電所とは直線距離で58.1km、高浜原子力発電所とは46.3kmの位置にあります。京丹後市と高浜原発との最短距離は30.2km、大飯原発とは41.9kmとなっています。

(スライド6) 政府の原子力損害賠償紛争審議会(会長=能美義久学習院大学教授)は、2011年12月5日「東京電力福島第一原発から50km圏にある自治体の住民まで、損害賠償の対象を広げる方針を固めました。また、検討していた自主避難者への補償を加えました。

アメリカ政府は2011年10月8日に「妊婦、子供、高齢者は30km圏内には入らない事、80km圏内に一年以上は住んではいけないと勧告」しています。

福島第一原発事故後、50km圏内を計画的避難区域が設定されましたが、我々の2施設も、上記、原子力損害賠償紛争審議会の補償対象地域、アメリカ政府の勧告から見て、安全が保障されたとは言えません。

今回、私は、事故発生による避難移動の不可能といえる状態について述べたいと考えています。

2、入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法

(スライド7) 病院の患者、特養の入所者が、避難する場合には、国道178号線を利用することになります。しかし、地震や津波の影響で、国道178号線が、通行止めとなった場合、避難することは出来ません。入院患者、入所者の移動方法について2018年5月15日(病院入院患者)・16日(特養入所者)に調査したところ、ストレッチャー移動の入院患者・入所者は91名、車椅子移動は155名、自分で歩行不可能な方246名、自分で動ける人が16名の合計262名でした。

仮に、国道178号線が通行できるとして、ストレッチャーを乗せる救急車と、車椅子を乗せる事の出来るリフト車が必要な患者・入所者が246名になります。

現在も病院・特養から建物の外に出る場合は、ストレッチャーの方は救急車、車椅子の方は車椅子ごと乗れるリフト車での移動になっています。

(スライド8) 移動手段である自動車は、ストレッチャー1台乗りの救急車が1台、車椅子2台乗りのリフト車が2台、車椅子1台用のリフト車が2台の計5台、同時に7名の移送が限度です。網野町消防分室が救急車1台、町内にある特養にリフト車はありますが其々が使用します。ストレッチャー移動の方は、病院、特養の施設内はベッドで移動しています。移動にあたっては、ストレッチャー移動の方には職員2名、車椅子は1名が付添う必要があります。

(スライド9) 避難先は、兵庫県北部が考えられます。綾部・福知山が避難先として可能になれば敦賀・舞鶴方面からの避難先になるからです。豊岡病院は大飯原子力発電所から直線距離で76.6km、丹後ふるさと病院から約35km、通常の道路事情で移動に1時間は必要です。事故が発生すれば数時間必要になると想定されますし、そもそも輸送する自動車の調達は不可能です。自動車で避難するとなれば、点滴や排泄等に対応する人員の確保や、装備等の備蓄状況から考えると全く困難です。われわれの所有する車両台数だけでは、1回7名の避難で246名の避難を完了するためには36往復が必要です。大型バス等が確保できたとしても、バスに乗せ換える事も当然不可能です。又自分で歩行可能な方も一人で移動することは困難で、必ず付き添いが必要です。しかし、以下に述べるとおり、原発事故が、起きれば、職員自身も避難せざるを得ず、付添にあたる職員の人数を確保することは、不可能です。

3、職員の避難について

(スライド10) 丹後ふるさと病院、特養「ふるさと」は大飯原発から58.1km、高浜原発から46.3kmの距離にあり、京丹後市は、高浜原発の事故に際しては、京都府の指導はありませんが、独自に避難計画は作成しています。しかし、政府、京都府の予算が付かないために、実施には時間がかかる模様です。我々の施設では、火災時の避難訓練は年2回実施していますが、原発事故に対する対策は立ててません。

(スライド11) 職員は、2018年7月末日時点で、実数で病院227名、特養91名、合計318名、常勤職員換算で病院173.8名、特養84.9名、計258.7名、週日の日勤は、病院113名、特養52名、土曜日の午後と日曜日の日勤は病院46名、特養38名、夜勤は病院17名、特養7名になります。原発事故が起きた場合、その勤務状態での対応になりますが、とても人員は足りません。そもそも、事故が起きれば、職員自身も業務を行えるとは限りません。

(スライド12) たとえば、2011年の福島原発事故において、高野病院では、看護職員33名の内、職員自身が避難したりするなど様々な事情のため、半数以下しか、勤務を継続できませんでした。福島県の高野病院は、福島第一原発から22kmに位置し、原発のある双葉郡内で唯一、入院できる病院として被災地唯一の医療を担っていました。当時、高野病院には70代~100歳の寝たきりの患者が37名いました。院長の「私が残るから皆は逃げなさい」との言に、看護師が怒って「院長一人残していけるわけがないでしょう。点滴やオムツ交換はどうするのですか」と言って、何人かのスタッフが残っていったと現理事長である娘さんが述べています。

職員の家族構成、勤務時間制限、病院、特養の事故に対する認識等により、原発事故が起きた場合、職員が、業務を継続できるとは限りません。また、病院としては、決して強制することはできません。我々は、どんな事があっても、どんな方法であっても、患者を守り抜く決意を持っていますが、福島原発事故では、移送を選択した病院・施設は、移送中や到着後に、大量の死亡者を出した事例が生まれています。我々の選択肢は出るも地獄、残るも地獄だと考えています。

先にも述べたように、我々は、火災時に建物外への搬送訓練は行っていますがそれ以外は実施していません。政府、京都府、京丹後市の責任ある対応に沿いながら検討します。

4、入院患者・入所者の高齢化の状況

(スライド13) 入院患者・入所者は高齢者がほとんどです。2018年5月15日(病院入院患者)・16日(特養入所者)に調査したところ、100歳以上が12名、80歳以上では221名、70歳以上で見れば262名中248名にもなります。この年齢構成での避難行動は、施設内行動さえも介助が必要であり、施設外への避難行動は全く不可能です。

(スライド14) 京丹後市の高齢化率は1980年14.5%、2000年30.9%、2015年35.0%、2018年4月1日の住民基本台帳では、人口55,426名、高齢者19,566名、35.3%になっています。人口は1950年の83,001名から急速に進む人口減少と高齢化は、我々の病院・特養と同じ状況であり、お互いに助け合いながら避難する事など到底考えられません。

5、入院患者、施設入所者の家族構成

(スライド15) 病院2017年10月15日と特養2018年5月23日に調査したところ、入院患者・入所者の家族構成は、高齢者独居世帯が87名で33.5%、高齢者夫婦世帯が51名で19.6%、2~3世代世帯が121名の46.5%となっています。高齢者独居世帯・高齢者夫婦世帯を合わせれば138名、53.1%に達します。この様な状況では家族による避難の援助も不可能です。

京丹後市で見ると(2015/4/1国勢調査)20,469世帯の内・高齢者独居世帯2,795世帯13.6%、高齢者夫婦帯2,825世帯13.8%の計5.620世帯27.4%になります。65歳以上のいる世帯は12,377世帯60.5%となっており、病院・特養の避難時に家族の援助を望むべくもありません。

6、終わりに

(スライド16) 『福島』に続いた日本で二番目の原発事故が発生すれば、私たちの病院・特養の患者・入所者は、当然避難できません。建物は、放射線に対して、防護機能はありません。建物の中に残ることは非常に危険です。しかし私たちは、『福島』の高野病院が選択した、「患者・入所者を見捨てないで残る道」しかないと考えています。私たちは、避難しても残っても多数の死者を出すでしょう。
そこで犠牲になる人たちは、事故がなければ安らかな終焉を迎える事が出来たはずですが、それをも奪われて行くことになります。

[1] 我々大人が解決すべきツケを、全部次世代に残していく事で若者たちは、将来に希望が持てるのでしょうか。
[2] 科学が今日の経済成長戦略に屈するのか、社会や科学に対する不信感は大きくなるばかりです。
[3] 人間が社会や自然を変革していく歴史的経過の中で現実に自然破壊が進行し、それをこれまでの様に「想定外」で済ませてよいのでしょうか。

我々はこの様な事態にならない世の中を作る努力が必要と考えています。

以上

◆原告第58準備書面
―大阪北部地震と上林川断層―

原告第58準備書面
―大阪北部地震と上林川断層―

2018年11月14日

原告提出の第58準備書面[854 KB]

【目 次】

1 基準地震動算定で上林川断層の延長を拒む被告関電
2 上林川断層の北東延長線は地殻内地震発生機序から当然
3 大阪府北部地震 -「活断層ドグマ」の誤り
4 知られた活断層の延長線上で地震が発生する
5 予想される壊滅的被害



1 基準地震動算定で上林川断層の延長を拒む被告関電

大飯原発の基準地震動は、敷地毎に震源を特定して策定される地震動の震源として、FO-A~FO-B~熊川断層と上林川断層が選定され、算定されている。

その上林川断層は、京都府綾部市付近から北東に伸びる断層である。被告関電は、上林川断層の南西端を綾部市下八田町付近、北東端を京都府福井県県境付近としている。

北東端の延長線上に大飯原発がある。原告らは、活断層としての上林川断層の被告関電の上記評価は過小評価であること、少なくとも「活断層である上林川断層」と、その北東に続いている「地質断層である上林川断層」はもともと一つの断層で「両者が一体として活動する危険性は十分に認められる」から、被告関電が連動を考慮せず、上林川断層を北東方向に延長しないのは重大な誤りであると、被告関電を批判した。

これに対して被告関電は、「地質断層としての上林川断層」は活断層でないから、「活断層である上林川断層」との連動を考慮する理由がないなどと反論している(被告関電準備書面(17)[6 MB]の第6)。

しかし、被告関電の上記再反論は、地殻内地震の発生機序、活断層以外の場所で地震が繰り返されている事実に目を瞑ったものと言うほかない。

被告関電準備書面(3)[17 MB]p51に加筆【図省略】


2 上林川断層の北東延長線は地殻内地震発生機序から当然

 ア 近畿地方は東西方向に主圧力

若狭湾を含む近畿地方で東西方向に主圧力が働いている(国土地理院の観測データ等)。【図省略】

 イ 共役断層

東西方向に主圧力が働いている場合には基本的にその方向とプラス・マイナス45度ずれた方向に、ずれの向きが逆向きになる断層面が走ることとなる。これを共役断層という。【図省略】

 エ 共役断層の典型例

共役断層の典型的な例としては、飛騨高地の北部の富山県南部から岐阜県北部にかけて分布する跡津川断層(北東-南西方向で右横ずれ)と、岐阜県・長野県に跨がる阿寺山地と美濃高原との境界に位置する阿寺断層(北西-南東方向で左横ずれ)や、兵庫県淡路市にあり阪神大震災を引き起こした活断層の1つである野島断層(北東-南西方向で右横ずれ)と、岡山県東部から兵庫県南東部にかけて分布する山崎断層(北西-南東方向で左横ずれ)などが挙げられる。そして、本件大飯原発の西側にある山田断層と郷村断層も共役断層である。共役断層走行は主圧力方向から約90度ずれている。

山田断層と郷村断層は、主圧力の方向が、東から時計回りに25°、西から同じく25°であり、その共役断層は、その主圧力から互いに約45度ずれている。【図省略】

 オ 近畿地方の主圧力が東西方向である事

国土地理院の中部・近畿地方の地殻ひずみ(http://www.gsi.go.jp/cais/HIZUMI-hizumi4.html)によれば、以下のとおりである。「近畿地方:1883年~1994年の約100年間では、紀伊半島を除いた地域においてほぼ東西方向の縮みのひずみがみられます。各種の調査研究結果から1995年の兵庫県南部地震は東西方向の圧縮の力がかかって発生したとされており、ひずみの傾向と調和的です。紀伊半島をみると、南海トラフ沿いの巨大地震(1944,1946年)の影響により最近約100年間では北西-南東方向の伸びのひずみがみられますが、最近約10年間では同じ方向の縮みのひずみがみられるようになります。なお、最近約100年間では、丹後半島に1927年の北丹後地震にともなう影響がみられます。」

つまり、国土地理院の見解によれば、近畿地方の111年間のひずみ変化は、東から日本に押し寄せる太平洋プレートの力が支配的であり、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの圧縮力は無視できて、E-W方向の圧縮力を考えればよいというものである。これを被告関電も認めており、大飯原発に最も影響の大きい想定地震としては、FO-B~FO-A~熊川断層が連動して動いた場合のマグニチュード7.8の地震を想定している。これに対して、原告らはFO-B~FO-A~熊川断層と共役関係にある上林川断層の東北延長上でマグニチュード7以上の地震が発生する可能性が高いことを再三指摘してきた。この指摘に対して、被告関電は真摯に対応していない。

 カ 丹後半島から西方の主圧力は、東から時計回りに25°、西から25°

一方、丹後半島から西方に進み鳥取県・島根県までの最近の地震の発生様式を見ると、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの影響も無視できなくなる。鳥取県では1943年に鳥取地震(M7.2)、2000年に鳥取県西部地震(M7.3)、2016年に鳥取県中部地震(M6.6)が発生しているし、島根県では2018年に三瓶山の近くで島根県西部の地震(M6.1)が発生している。これらの地震は、東から押し寄せる太平洋プレートに加えて、東南から押し寄せるフィリピン海プレートの影響も考慮して、平均的な圧縮力場の向きをE25°S-W25°N(東から南側へ25°、西から北側へ25°、以下同じ)とすれば、矛盾なく説明できる。すなわち、1943年の鳥取地震(M7.2)の地震断層はN70°E、2000年の鳥取県西部地震(M7.3)の地震断層はN20°W、2016年の鳥取県中部地震(M6.6)は主断層がN20°W、副断層がN70°Eである。また2018年の島根県西部の地震(M6.1)の地震断層はN20°Wである。これらの地震は、圧縮力場の向きがE25°S-W25°Nとして共役関係にある地震断層として説明がつく。この圧縮力場は、前述の山田・郷村断層とも矛盾しない。

 キ まとめ

「FO-B、FO-A及び熊川断層」と「上林川断層」は東西主圧力のもとでの共役断層と考えられるから、大飯原発周辺では、「FO-B、FO-A、熊川断層」の動きを警戒しなければならないことは当然であるが、共役関係にある「上林川断層」にも警戒する必要がある。そして、「上林川断層」は「FO-B、FO-A及び熊川断層」の共役断層であるから、「上林川断層」の北東端を被告のように京都府福井県県境付近とすることは誤りで、「FO-B、FO-A及び熊川断層」まで続き、あるいは、少なくとも延長する。これは、地殻内地震の発生機序からの、論理当然の帰結である。


3 大阪府北部地震 -「活断層ドグマ」の誤り

被告は、「上林川断層」の東北延長部分は活断層ではないとの理由で、「上林川断層」とその東北延長部分は連動しないと言う。

ところで、2018年6月18日07時58分に大阪府北部の深さ約15キロメートルでマグニチュード(M)6.1の地震が発生した。当初は、近くにある活断層の有馬-高槻断層帯、上町断層帯、生駒断層帯のいずれかが動いたと考えられていた。

地震調査委員会、2018年6月18日大阪北部地震の評価添付資料より【図省略】

しかし、気象庁の震央分布図(6月18日~7月24日)によれば、この地震はいずれの活断層が動いたものでもなかった。

気象庁 大阪府北部の地震 地震活動状況(8月19日09時現在)より【図省略】

大阪府北部地震は、近傍に活断層がいくつもあったのに、既存の活断層以外が破壊され震源となった。

原告らは、阪神大震災や鳥取県西部地震の例を挙げて、地殻内地震は活断層の知られていない場所でも起きる、どこで起きてもおかしくないと繰り返し指摘してきた。【図省略】

大阪府北部地震は、地殻内地震は活断層の知られていない場所でも起きるという原告指摘を裏付けるさらなる事実を重ねることとなり、地震は活断層でしか起きない、震源を既存の活断層に限定する考えの誤り、すなわち「活断層ドグマ」の誤りを明らかにした。被告関電は、「活断層ドグマ」に捕らわれている。


4 知られた活断層の延長線上で地震が発生する

既に指摘したとおり、福岡県西方沖地震(M7.0)は、警固断層の延長上で起きた。「上林川断層」の延長上の、大飯原発近傍で同じことが起きないと誰が断言できるであろうか?【図省略】


5 予想される壊滅的被害

「上林川断層」の東北延長上で、M7クラスの地殻内断層地震が起きれば、地震動と津波の影響で大飯原発は壊滅的な被害を受けることになる。安全側にたって、上林川断層とその北東延長部分との連動を考慮しなければならない。

以上

◆原告第57準備書面
-避難困難性の敷衍(病院における問題点について)-

原告第57準備書面
-避難困難性の敷衍(病院における問題点について)-

2018年(平成30年)8月24日

原告提出の第57準備書面[107 KB]pdf)

【目次】

第1. 病院・特養の沿革と現在の状況
第2. 入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法
第3. 職員の避難について
第4. 院患者・入所者の高齢化の状況
第5. 入院患者、施設入所者の家族構成


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で病院において理事などを務める西川政治の体験をもとに病院における避難困難性に関する個別事情について述べる。


第1. 病院・特養の沿革と現在の状況

 1 丹後ふるさと病院の状況

丹後ふるさと病院は、1983年8月に52床で開設された。2003年には、160床に規模を拡大し、その後、2012年に60名規模の特養を建設、さらに、2016年に同規模の増設を行った。

丹後ふるさと病院は、現在、病院の許可病床160床、特養は120名の収容規模で運営している。職員は、7月末現在で、非正規雇用含めて318名、常勤換算では258.7名である。7月末現在の病院の入院患者数は158名、特養の入所者数は112名の合計270名である。

 2 丹後ふるさと病院・特養ふるさとの位置など

丹後ふるさと病院・特養ふるさとは、京都府の最北端、丹後半島の京丹後市網野町に位置し、2施設の南に国道178号線が通り、京都府で一番大きな湖である離湖、離湖古墳公園があり、裏側にあたる北方面に小高い林があり防風林の役目を果たしている。

病院の標高は5m弱、離湖は3m弱、海水逆流防止の可動式の防潮堤が設置されているが、北風が吹くと海抜0mになる。離湖から日本海への水路の距離は約500mである。日本海側で地震が発生すれば離湖の水位は、一気に上昇する危険性がある。北側も500m前後で日本海の沿岸になる。その間に40m~100mの丘がある。津波が発生すると、この丘以外に避難する場所は、無い。病院・施設前の国道178号線は、海抜約3~4mであるために自動車は通行不可能になる危険性がある。これは網野町の50~60%が4~5mの海抜の範囲に入り町全体が機能不全に陥る危険性がある。

丹後ふるさと病院・特養ふるさとは、大飯原子力発電所とは直線距離で58.1km、高浜原子力発電所とは46.3kmの位置にある。京丹後市と高浜原発との最短距離は30.2km,大飯原発とは41.9kmとなっている。


第2. 入院患者、特養入所者の施設内外での移動方法

 1 丹後ふるさと病院における避難困難性

丹後ふるさと病院の患者が、避難する場合には、国道178号線を利用することになる。しかし、地震や・津波の影響で、国道178号線が、通行止めとなった場合、避難することは出来ない。2018年5月15日、16日時点の調査によれば、入院患者の内、ストレッチャーを必要とする者は91名、車椅子を必要とする者は155名、自分で動ける者が16名の合計262名であった。仮に、国道178号線が通行できるとしても、ストレッチャーを乗せる救急車と、車椅子を乗せる事の出来るリフト車が必要な患者・入所者数の合計は246名である。

ストレッチャーや車椅子を運ぶ事が可能な車の数も僅かであり、移動にあたっては、ストレッチャー移動の方には、職員2名、車椅子は1名が付添う必要があり、緊急時に、そのような人員を確保することは極めて、困難である。

 2 避難先の問題

仮に、避難先が、兵庫県北部となった場合、兵庫県北部に位置する豊岡病院は、丹後ふるさと病院から約35km、離れており、通常の道路事情でも移動に1時間は必要である。事故発生時には、数時間必要になることも想定される。

自動車や人員の確保、装備等の備蓄状況を踏まえると、自動車で避難することは、難しい。丹後ふるさと病院が保有する車両台数だけでは、1回7名の避難で246名の避難を完了するためには36往復が必要となる。大型バス等が確保できたとしても、バスに乗せ換える事も当然、不可能である。又自分で歩行可能な方も一人で移動することは困難で、必ず付き添いが必要である。


第3. 職員の避難について

丹後ふるさと病院、特養「ふるさと」は大飯原発から58.1km、高浜原発から46.3kmの距離にあり、京丹後市は、高浜原発の事故に際しては、京都府の指導は無く、独自に避難計画を作成している。しかし、国、京都府の予算が付かないために、実施には時間がかかりそうである。丹後ふるさと病院、特養ふるさとでは、火災時の避難訓練は年2回実施しているが、原発事故に対する対策は立てていない。

職員は、2018年7月末日時点で、実数で病院227名、特養91名、合計318名、常勤職員換算で病院173.8名、特養84.9名、計258.7名、週日の日勤113名、特養52名、土曜日の午後と日曜日の日勤は病院46名、特養38名、夜勤は病院17名、特養7名である。避難の場合その勤務状態での対応となる。

職員の家族構成、勤務時間制限、病院、特養の事故に対する認識等により、職員の対応は様々であり、決して強制することはできない。


第4. 院患者・入所者の高齢化の状況

ふるさと病院における入院患者の状況は、100歳以上が12名、80歳以上では221名、70歳以上で見れば262名中248名となる。施設内行動さえも介助が必要であり、このような年齢構成での避難行動は、非常に困難である。

また、京丹後市は、高齢化が、進んでおり、お互いに助け合いながら避難する事など到底考えらない。


第5. 入院患者、施設入所者の家族構成

2017年10月15日と2018年5月23日の調査によれば、入院患者・入所者の家族構成は、高齢者独居世帯が87名で33.5%、高齢者夫婦世帯が51名で19.6%%、2~3世代世帯が121名の46.5%となっている。高齢者独居世帯・高齢者夫婦世帯を合わせれば138名、53.1%に達する。この様な状況では家族による避難の援助も不可能である。

京丹後市で見ると(2015/4/1国勢調査)20.469世帯の内・高齢者独居世帯2.795世帯13.6%、高齢者夫婦帯2,825世帯13.8%の計5.620世帯27.4%になる。65歳以上のいる世帯は12,377世帯60.5%となっており、避難時に家族からの援助は、不可能である。

以上

◆原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

原告第56準備書面
―被告関電第17準備書面の地域特性の反論への再反論―

2018年(平成30年)8月31日

原告提出の第56準備書面[924 KB]

【目次】

1 はじめに
2 地震動に影響する項目
3 PS検層
4 試掘抗内弾性波探査
5 反射法地震探査
6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)
7 はぎ取り法
8 単点微動観測
9 地震波干渉法と微動アレイ観測
10 地盤の地震波減衰特性
11 速度構造と破砕帯の関係
12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か
13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について
14 まとめ


被告関電準備書面(17)[6 MB]の第2(地域特性に関する原告らの主張に対する反論)に対して、意見書「大飯発電所の地盤構造について」(赤松純平、甲467[1 MB]、引用文献[1])に基づいて、以下のとおり反論する。

引用文献
[1]赤松純平、大飯発電所の地盤構造について、2018年8月28日.


1 はじめに

原告らは、これまで各地の原発で基準地震動を超える地震が繰り返し起きてきたことを指摘し、その原因は基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていること、従って、これからも基準地震動を超える地震の発生する危険があると主張している。

これに対して、被告関電は、基準地震動が「平均像」に基づいて策定されていることを認めながら、大飯原発の地域特性を十分に把握しており、その地域特性に照らせば基準地震動を超える地震発生の可能性を否定できると反論している。このように地域特性は、被告関電の地震動に関する主張を支える柱に位置付けられている。

この被告関電の地域特性の主張に対して、原告らは、第343537及び44準備書面で、被告関電の地域特性に関する主張の問題点を明らかにした。即ち、被告関電は、地域特性のうち①震源特性と②伝播特性について具体的な主張立証をしていない。被告関電は、③地盤の増幅特性(サイト特性)について、地下構造には特異な構造は認められないと主張をしているが、基準地震動が小さくなる方向で調査結果の無視、恣意的な解釈がおこなわれており、特異な構造は認められないとは到底言えないと批判した(赤松純平元京大助教授作成の意見書、甲357、422)。

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]を提出して、原告の上記主張は、①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されているなどと反論した(7頁、17~18頁)。

以下、各調査毎に、被告関電の主張、原告らの反論、被告関電の再反論などこれまでの議論の要点及び原告らの再々反論を述べる。被告関電は、多くの論点で原告らの反論に具体的な再反論を全くせず、また、いくつかの論点でなした再反論も真摯な再反論とは言えないものであり、いずれも失当である。


2 地震動に影響する項目

原発サイトの地震動は、①震源特性、②経路の伝播特性、③地盤の増幅特性(サイト特性)の重畳したものである。③の地盤は、地下深部に拡がる均質で硬い基盤岩層(S波速度が約3km/sの地殻上層部、地震基盤と称す)から地表までの地層(岩盤層と土質層)の集まりであり、増幅特性は、地震基盤から伝わってきた地震波が地盤によりどのような影響を受けるかを評価する。大飯サイトでは、後述するように原子炉建屋の立地する岩盤層に解放基盤面を設定して、解放基盤面におけるサイト特性を評価している

 (1)地震波伝播速度

サイト特性は、地盤が堅固で地震波伝播速度が大きければ増幅率は小さく、反対に、堅固でなく伝播速度が小さければ増幅率は大きくなる。このため、地盤の地震波伝播速度が地域特性の重要な調査項目とされている。

 (2)地下構造が成層かつ均質か

また、地盤構造が成層かつ均質か、それとも、地層に断層やずれ、傾き、歪み(褶曲構造)が認められるような不整形地盤であるかは、重要な調査項目である。何故なら、不整形地盤においては、立地地点の場所による違いや地震波の入射方向による違いなどによって、地震動には、増幅率の大幅な増加や震動卓越方向の偏倚などの異常震動が惹起されるからである。新規制基準は、三次元探査を行なって、より正確かつ詳細な地下構造の把握を求めている。

 (3)解放基盤面

基準地震動は、それぞれの原子力発電所において、解放基盤面で評価される。解放基盤面は、「固い岩盤(基盤)が、一定の広がりをもって、その上に地盤や建物がなく、むき出しになっている状態のものとして仮想的に設定される面」である。現実には、解放基盤面は地表面下に設定されており、地表面と解放基盤面との間は比較的やわらかい表層地盤である。解放基盤面とされる基盤岩の拡がり、形状、地震波伝播速度が重要な調査対象となる。

大飯原発の場合、被告関電による模式図(次頁に引用掲載【省略】)に示されるように、解放基盤面は、原子炉格納施設が建てられている基礎地盤に設定されている。従って、原子炉格納施設を直接載せている大飯原発の解放基盤面は、固い岩盤で一定の広がりをもっていなければ困るものである。被告関電は、大飯原発の解放基盤面は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤で一定の広がりをもっていると、頑なに主張している。

しかし、後述のとおり、各種地盤調査結果は、被告関電のこの主張とことごとく整合しない。

被告関電準備書面(3)[17 MB]19頁を引用.【図省略】


3 PS検層

PS検層とは、ボーリング孔の中に地震計(受震器)を設置して、地表または孔中で人為的に震動を発生し(起震器)、受震器で震動を観測して震動の伝わる時間から、深さ毎の地震波の伝播速度を測定する方法である。
原告らは、PS検層の調査結果から、①低速度層が地表付近と深度100m前後付近に認められること、②調査地点(O1-11孔とO1-3孔)で速度構造が異なり、深さ約20m(標高約-20m)までで、S波速度に2倍程度の違いがある(1.17km/sと2.34km/s)、③地表から標高-60mまでの平均のS波速度は、西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていることから、本件地盤には、低速度層が存在し、成層かつ均質とは到底言えないと指摘した(甲422、3~4頁)

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


4 試掘抗内弾性波探査

試掘坑内弾性波探査とは、原子炉敷地に横坑(試掘坑)を掘り、適当な間隔で地震計を置き、別の場所で発破によって人為的に震動を起こして、震動の伝わり方を測定して弾性波(地震波)の伝わる速さ(伝播速度)を調べるものである。一本の坑道内では地震計は直線上に配置する(測線)。①この測線上やその延長線上で震動を与える屈折法探査と、②測線から離れた別の坑道内で震動を与える坑間弾性波探査(ファン・シューティング)があり、これらを組み合わせて岩盤の地震波伝播速度を推定する。

被告関電は、屈折法探査の結果として「解放基盤のP波速度(Vp)を4.3km/s、S波速度(Vs)を2.2km/sと評価した(丙196)[19 MB]、12頁)」としているが、原告らは、この探査結果の資料から、3号炉付近ではVp=(4.218±0.814)km/s、Vs=(2.017±0.369)km/s、また4号炉付近ではVp=(4.526±0.498)km/s、Vs=(2.230±0.273)km/sであり、P波S波とも、3号炉側が顕著に低速度であることを指摘した(甲422、4~5頁)。

また、被告関電は、坑間弾性波探査については、「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。(中略)弾性波速度による異方性はほとんど認められない(丙178[11 MB]添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)」と記すのみで、3.0~5.2km/sも大きく変化していることの原因を明らかにしていない。

原告らは、ファン・シューティングのデータを分析し、敷地の場所毎のP波速度分布を図化して、P波速度が西から東に向けて系統的に顕著に小さくなっていること、この速度変化が敷地に拡がる断層破砕帯の走向と分布に極めて高い相関関係にあることを明らかにするとともに、被告関電が3号炉の地震波伝播速度を実際より過大に評価するというごまかしを行なって基準地震動を算定していることを批判した(甲422、6~7頁、20~21頁)。P波速度の分布コンター図と3、4号炉基礎岩盤の破砕帯分布の関係を下図に示す【図省略】。

しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】原子炉建屋基礎岩盤の断層破砕帯の分布と坑間弾性波探査によるP波速度分布の相関.

【図】破砕帯は4号炉側(左)に比べ3号炉側で高密度に分布している.

【図】P波速度は西(図の左上)から東に顕著に低下しており、4号炉の炉心下では4.3~4.5km/sであるが、3号炉の炉心下では3.8~4.0km/sである。
甲422、付図42再掲【すべて図省略】


5 反射法地震探査

反射法地震探査とは、地表で起震された地震波が地下の地層境界で反射し、地表に戻ってきた波(反射波)を多数の地震計で測定して、地下構造を探査する方法である。石油探査のために開発・実用化されてきたもので、医療用超音波エコーはその応用である。

原告らは、深度断面図から層の境界に、傾斜、畝り、破断があり、しかも断層の存在を示唆する回折波が認められ「特異な構造は認められない」と言えないことを指摘し、物理探査学会元会長の芦田譲京大名誉教授の意見書(甲423)を提出して、「特異な構造は認められない」という被告関電の評価は「科学的事実から逸脱した虚偽の判断」であることを明らかにした(甲422、7~8頁)。
しかし、被告関電は、これら原告の指摘に具体的な反論を一切していない。


6 速度断面図(反射法地震探査屈折法解析)

速度断面図は、反射法地震探査の観測データを屈折法解析によって解析して測線に沿う深さ方向の地震波伝播速度の分布を図化したものである。

原告らは、速度断面図によって、4号炉や3号炉付近で、2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを指摘した(甲422、9頁)。

これに対して、被告関電は、探査測線が道路で表層が柔らかい地盤であることや探査測線が屈曲しているため測定値には誤差が含まれており、速度断面図は信用出来ないかのように主張している(被告関電準備書面(17)[6 MB]、23~24頁)。

しかし、そもそもこの速度断面図は被告関電自身が作成したものである。被告関電も認めるとおり低速度帯は地盤を構成する岩石区分と対応している。すなわち、速度断面図の原子炉建屋付近では、P波速度が1.5km/s以下の部分は、ボーリング資料の岩級区分の未固結地盤およびD級岩が分布する深さに一致している(丙267[18 MB]、42頁)。この部分の図を下に拡大して引用する【省略】。

【図】速度断面図とボーリング資料による岩級区分.

【図】Vp≦1.5km/s(赤、黄)と岩級(未固結、D級岩)とがよく一致している.
丙267[18 MB]、42頁の図を引用、加筆.【すべて図省略】

標高0m付近のD級岩は、PS検層結果からVp=2.04km/s、Vs=0.54km/s(丙178添付書類六、6-1-198頁)と評価されており、標高0mに設定されている解放基盤がVp=4.6km/s、Vs=2.2km/sであるとする被告関電の主張は暴論としか言いようがない。

さらに、4号炉及び3号炉建屋付近の測線は直線状(被告関電準備書面(17)[6 MB]、13頁)であるから屈曲による影響を言う被告関電の主張には理由がない。以上、原子炉敷地付近で2.5km/sの低速度層が-30mの深さまで沈み込んでいることを示す測定値及び速度断面図を信用できないとするのは恣意的な解釈である。

反射法弾性波探査では、速度断面を作成する過程で速度解析を行い速度の分布が得られるが、被告関電は速度解析結果を公表していない。速度分布を明示して議論すべきである。


7 はぎ取り法

はぎ取り法は、屈折法地震探査の解析方法である。地表や各地層の境界に凹凸がある場合、探査記録には凹凸に起因するデータのばらつきがある。そのため、こうした凹凸によるばらつきを踏まえて、各層の速度や層厚を求めなければならないが、そのための解析方法がはぎ取り法(萩原の方法)である。

被告関電は、「はぎ取り法解析について、表層の軟らかい地盤の影響等を考慮して、やや深部を伝わる平均的な最下層速度の試算を行ない、A測線ではVp=4.5km/s、B測線ではVp=4.8km/sとの結果を得て、被告の設定した一次元の地盤の速度構造モデルと概ね差がない」と言う(準備書面(17)[6 MB]、25頁)。
被告関電は、「解放基盤は、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっている」と頑なに主張しているが、標高0mに設定されている解放基盤と表層をはぎ取ったやや深部の最下層とが符合していると言うようである。

はぎ取り法解析は、地表や地層境界に凹凸があっても、地層毎の速度や層厚を明らかにするものである。被告関電の示すはぎ取り法解析の図(走時曲線)は、表層の平均速度はVp=1.1km/s、4号炉及び3号炉敷地付近で表層の層厚が66mあることを示している(甲467[1 MB]、9頁)。次頁に模式図で示すが、地震探査の測線は標高30~40mに設置されているから、層厚が66mである表層は地表面から標高-26~-36mまで続いていることになる。すなわち、はぎ取り法解析の結果は、標高0mに設定された解放基盤表面がVp=1.1km/sの表層の中にあることを示している。解放基盤面の地震波伝播速度は、被告関電が主張するVp=4.6km/sには決してならない。

なお、反射法地震探査屈折法解析による速度断面図によれば、原子炉建屋付近の標高0mの速度値は2km程度であり、標高-30m付近まで2.5km/s以下の速度帯が落ち込んでいるなど、このはぎ取り法の解析結果と整合している。

かかる原告らの主張に対して、被告関電は「原告がはぎ取り法解析の目的やその前提を理解することなく、データを断片的に取り上げて批判している」と再反論しているが、解放基盤の速度値がVp=4.6km/sとならないとの原告の指摘に具体的な反論を一切していない。

【図】【はぎ取り法解析の結果が示すこと】
被告関電準備書面(3)[17 MB]19頁を引用加筆.【図省略】


8 単点微動観測

単点微動観測とは、車両交通などの人間活動や海洋波浪などの自然現象によって常に発生している人間には感じることができないような微小震動(微動)を観測し、地表面における微動の水平成分のスペクトルを上下成分のスペクトルで除して(H/V)、その形状から主に表層地盤のS波速度や層厚を把握しようとするものである。

被告関電は、「単点微動観測記録を解析した結果、本件発電所の敷地全体にわたってS波速度約2.2km/sの硬質な岩盤が広がり、その上面深度には著しい高低差がない(大きな傾きがない)ことを確認した(準備書面(17)[6 MB]、11頁)」と言い、被告関電の解放基盤に関する主張(Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sの固い岩盤が広がっているとの主張)が裏付けられたと主張するようである。

これに対して原告らは、下層速度をVs=2.2km/s以外の1.6km/s、1.8km/s、2.0km/sとしてもほぼ同じ結果となることを示して、被告関電の議論は下層(基盤岩層)をVs=2.2km/sと仮定した上での議論であって、基盤岩層がVs=2.2km/sであることは全く担保されないこと、さらに、屈折法解析による速度断面図と30mも齟齬があることを指摘して、単点微動観測の解析結果に疑義を呈した(甲422、10~12頁)。

これに対して被告関電は、上記齟齬を否定できないため、「表層の柔らかい地盤の影響や探査測線が屈曲している部分の影響を受けるため、その影響による誤差が生じることから、単点微動観測結果との比較において、一部の数値が異なるのは当然(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」であるとか、単点微動観測は「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求めるために行なったのではない(準備書面(17)[6 MB]、26頁)」と反論した。

しかし、単点微動観測H/Vの解析において、表層の速度として「軟らかい地盤」の値Vs=472m/s(丙196[19 MB]、31頁)が使われているから、「軟らかい地盤」の厚さ(基盤の深さ)が推定されるのであり、また、齟齬が生じている探査測線は4号炉~1号炉南東側に直線状に延びていて(被告関電準備書面(17)[6 MB]、13頁)測線屈曲の影響は考えられない。さらに、原告らは「下層(基盤岩層)の速度を精度良く求める」ことが出来ないことを批判しているのではなく、問題は、例えば深さ20mといっている基盤岩層は、Vs=2.2km/sでも1.6km/sでもよく、その速度は区別出来ないということ、従って、「S波速度約2.2km/sの硬質な岩盤の上面深度の分布を把握」したことにはならないと批判しているのである。

被告関電は、問題をスリ違えて反論しているだけで、原告らの指摘に対して具体的な反論を一切していない。


9 地震波干渉法と微動アレイ観測

深部および浅部地盤の速度構造に関する調査として、地震波干渉法と微動アレイ観測がなされている。地震波干渉法は、海の波浪などにより生起するやや長周期の微動(脈動と呼ばれている)を、広い範囲に配置した多数の地震計で長期間計測し、周期毎の速度(位相速度)を明らかにする。微動アレイ観測は、高感度地震計を7箇所に同心円状に設置して微動を観測し、周期毎の位相速度を明らかにする。位相速度は地下構造を反映して分散性(周期による速度の変化)を示す。すなわち、地震波速度が深さと共に増加するような地盤では、周期が長くなるほど位相速度は大きくなる。これら観測された位相速度から地盤の速度構造を推定する解析が逆解析(インバージョン解析)である。逆解析は1次元の水平成層構造を仮定して、層の厚さと地震波伝播速度を推定する。この調査解析では、①観測データから求めた位相速度に含まれる誤差の評価、②位相速度から逆解析により求めた構造モデルの妥当性の吟味が重要である。

 (1)水平成層構造と見なせるとの主張

被告関電は、地震波干渉法と微動アレイ観測による位相速度を逆解析した結果、本件原発敷地の地下構造は、水平成層構造とみなしてモデル化できると主張する(準備書面(17)[6 MB]、16~17頁)。

しかし、もともと位相速度の逆解析は、水平成層構造を仮定した解析法である。水平成層構造であるかどうかは判らないが、仮に水平成層構造であるとしたら、どのような構造になるかを検討するものである。逆解析の結果は、水平成層構造であることを示すものではない。被告関電は、逆解析による速度構造モデルが構造の不均質を評価出来ないことにあえて触れずに、ごまかそうとしている。

 (2)「深くなるについて地震波速度が単調増加する」との主張

原告らは、観測された位相速度には山谷があり、周期と共に単調に増加しているのではないので、地下に低速度層が挟在していることが示唆されるにも拘わらず、被告関電は速度が深さ方向に単調に増加することを前提に速度構造モデルを推定していると批判した(甲422、12頁)。これに対して、被告関電は「地表から地下深部に深くなっていくにしたがって周囲の岩石は圧密度が増し、より硬くなる(準備書面(17)[6 MB]、20頁)」と「丙198[17 MB]」を証拠として反論した。ところで、被告関電が証拠とした「丙198[17 MB]」は、国立研究開発法人防災科学技術研究所がホームページにあげたJ-SHIS(ハザード・ステーション)の用語集であり、S波速度が300m/s~700m/s程度以上の工学的基盤(土質~軟岩)の極めて一般的な事項を説明するものである。被告関電は、本件地盤では、位相速度が単調に増加していない事実、PS検層により低速度層が観測されている事実などを無視して、地震波速度の単調増加モデルを作成したことについて答えていない。被告関電自身の調査結果である地盤構造の特徴を無視して、用語集に記載されるような一般論を述べるだけでは、原告らの指摘への反論には到底なり得ない。

 (3)「0.5km/sの表層を取り除いた」との主張

原告らは、逆解析の結果による本件地盤の速度構造モデルには、Vs=0.5km/sの表層が厚さ80mも存在するのに、被告関電はこれが存在しないものとして基準地震動評価モデルを作成していると批判した(甲422、13頁)。これに対して、被告関電は、原子炉建屋は軟らかい表層地盤にではなく、硬い解放基盤表面に設置されていると反論した(準備書面(17)[6 MB]、20~22頁)。

しかし、表層地盤表面の平均標高(微動観測点7箇所の標高の平均値)は約43.5mであり、層厚80mの表層地盤を取り除けば、標高-36.5mまで取り除くことになる(甲467[1 MB]甲467、2~4頁)。被告関電は、表層を取り除いたVs=2.2km/sの第2層を解放基盤としているが、その上面の標高は-36.5m、すなわち標高0mの原子炉建屋は解放基盤から36.5mも浮いて、Vs=0.5km/sの表層内に設置されていることになる。このように、逆解析の結果は、原子炉建屋が立地する解放基盤は、被告関電が頑なに主張するような、Vs=2.2km/s、Vp=4.6km/sの硬い岩盤が広がっているものではないことを示している。

なお、このような齟齬をきたしたのは、PS検層、試掘坑弾性波探査、屈折法解析などによって低速度の岩盤層の存在が示された結果を無視して、逆解析におけるモデルで第1層をVs=0.5km/s、第2層をVs=2.2km/sとジャンプさせたためである。

インバージョンモデルから表層を取り除いた基準地震動評価モデルの標高【図省略】
▼:地震計位置、赤字は各観測点の標高、表層地盤表面の標高は平均43.5mVs=0.5km/sの表層(層厚80m)を取り除くと、Vs=2.2km/sの解放基盤面は標高-36.5mとなる.被告関電準備書面(17)[6 MB]の図表6(22頁)を引用して加筆.


10 地盤の地震波減衰特性

地盤の増幅特性(サイト特性)は、地盤の速度構造による振幅増幅(速度と密度の積が小さい地層では振幅は増大、地層内の共振現象など)と、地盤を通過する際の波動エネルギーの吸収・逸散などによる振幅減衰とが関係する。地震波が震源から原子炉施設の立地する基礎岩盤まで伝播する際の減衰機構は以下の3つである。①一つは幾何減衰である。伝播距離とともに波面が空間的に拡がるために波の振幅が減少する現象である(P波S波の振幅は伝播距離に反比例する)。②二つ目は内部減衰である。地震波が媒質(地殻内の場合は岩石)を伝わる間に、岩石内部の摩擦などにより波のエネルギーが吸収されて起きる。③三つ目は散乱減衰である。岩盤内の不均質構造のために地震波が散乱され起きる。不均質構造による散乱減衰の大きさは、不均質構造の大きさと波長との関係に依存するので、波の周波数に依存して変化する。内部減衰と散乱減衰の大きさはQ値(または減衰定数h、h=1/2Q)で表す。Q値が大きい(hの小さい)媒質ほど減衰しにくい関係にある。

被告関電が、地盤の不均質構造を考慮したうえで、減衰定数h(=1/2Q)を地下180mまで3%(丙179[4 MB]、18~27頁)、それ以深を0.5%(丙179[4 MB]、57頁)としたのに対して、原告らは、Q値は周波数に依存するのに周波数と無関係の一定値であるとの主張がなされていること、測定精度が極度に悪いことなどの問題点を指摘した(甲422、18~20頁)。

しかし、被告関電は、これら指摘に対して、以下に示すように具体的な反論を一切していない。

180m以浅のQ値を、不均質構造を考慮したと言いながら、周波数に依存しない定数としたことについては何の説明もない。

180m以深を0.5%とする点について、被告関電は、「地下180mより浅いところと比べて急激に減衰が小さくなるようなデータは特段得られていないところ、保守的に0.5%と設定している(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」と述べているが、データを開示しないため、0.5%が保守的であるのかないのか判断できない。被告関電は、これについてのデータを開示しなければならない。

中央防災会議・東海地震に関する専門調査会は、500m/s<Vs<3000m/s(大飯サイトの地盤に相当)のQ値は解析例が少ないので、Vs>3000m/s(リソスフェアー:地殻および上部マントル最上部に相当)のQ値を保守的に使うことを推奨しており(中央防災会議、・東海地震に関する専門調査会、強震動評価のための試算)、この設定方針を採用すべきである。

被告関電は、「このような被告の評価については、原子力規制委員会の新規制基準適合性審査において、その適合性が確認されている(準備書面(17)[6 MB]、27頁)」と述べて、具体的な説明を避けている。


11 速度構造と破砕帯の関係

破砕帯とは、岩盤が割り砕かれて、多くの隙間を持つようになった地層のことである。本件原発敷地には多数の破砕帯がある。福島原発事故後、これら破砕帯の活動性、すなわち活断層としての危険性の観点から調査議論がなされた。
しかし同時に、破砕帯は周囲の地盤に比べて軟弱であるから、地震動への影響を地震動特性として検討しなければならない。

原告らは、試掘坑坑間弾性波探査(ファン・シューティング)のデータの解析結果から、地震波伝播速度の分布図を作成し、本件原子炉敷地の地震波伝播速度が、被告関電が主張するより大幅に低いこと、西から東に向けて伝播速度が系統的に低下すること、そしてこれら速度の地域性は、破砕帯の走向と分布密度とに起因することを指摘した(甲422、20~21頁)。

被告関電は、原告らのこの指摘に、具体的な反論を一切していない。被告関電は、試掘坑弾性波探査の結果については、準備書面(17)において、坑道に沿う屈折法探査結果について述べるのみで、場所による速度変化がより明瞭に現われる坑間弾性波探査結果については何も述べず、また、原子炉建屋直下の基盤に断層破砕帯が密に分布していることについても全く黙秘している。


12 原告らの批判は、被告の調査・評価結果を個別に取り上げた恣意的批判か

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]において「被告による調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に批判するものである(7頁)」と批判した。しかし、前節までに述べたように、被告の調査・評価結果の全て、すなわち、PS検層、試掘抗弾性波探査、反射法地震探査、屈折法解析、はぎ取り法解析などの調査結果が、本件地盤が成層かつ均質ではなく場所による違いのあること、基準地震動を評価する解放基盤の地震波速度が、Vp=4.6km/s、Vs=2.2km/sではないことを示している。被告関電の提示した個別の独立した調査データが、共通して特徴的な不均質で低速度の地盤構造を示しているのである。しかもその特徴が全く独立して行われた地質調査によって明らかにされている断層破砕帯の分布に起因しているのである。原告らの恣意的批判という再批判は当たらない。

逆に、被告関電は「調査・評価結果を個別に取り上げて」判断しており、相互の関連性を総合的に判断した評価を行っていない。

 (1)反射法地震探査の深度断面図と基準地震動評価のための地盤モデル

被告関電は、反射法地震探査の深度断面図を示して「地下500m位までは反射面が確認され(丙196[10 MB]、51頁、56頁)」と解釈している。

一方、基準地震動評価のための地盤モデルは、微動アレイ観測と地震波干渉法によるレーリー波の位相速度の逆解析によって得た多層の速度構造である。

この地盤モデルは、500m位の深さまで、速度境界が深さ180m、370m、510mにあって、P波速度はその境界を越える毎に4.6km/sから0.1km/s、0.1km/s、0.2km/s増えるとされている(丙196[10 MB]、108頁)。しかし、高々2%程度(深さ510mの境界では4%)の速度の増加で、深度断面図に見られるような明瞭な反射が現われるとされているが疑問がある。反射法地震探査では、深度断面図を作成する過程で、速度解析が行われ、反射面に至るP波速度が求められている。この速度は公開されていないが、反射面を形成した層の速度は、地盤モデルの4.6km/s、4.7km/s、4.8km/s・・・などに整合しているのであろうか。反射法地震探査と微動アレイ観測という全く異なる調査方法による結果を統一して解釈すべきであるが、被告関電は個別に説明するのみである。

 (2)試掘坑内弾性波探査による地震波速度の異方性

被告関電は、試掘坑内弾性波探査結果によって地震波速度の異方性(伝播方向の違いによる速度の違い)の有無を次のように報告している。「試掘坑内の平均速度法(坑間弾性波探査のこと)による弾性波試験結果は、第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である。一方、互いに直交する坑道沿いの屈折波法弾性波速度の測定結果では、NW-SE方向のP波速度は3.5km/s~5.0km/s、平均4.7km/s、S波速度は1.8km/s~2.5km/s、平均2.3km/s、NE-SW方向のP波速度は3.0km/s~5.3km/s、平均4.5km/s、S波速度は1.3km/s~2.8km/s、平均2.1km/sであり、弾性波速度による異方性はほとんど認められない(大飯発電所3、4号機の地震等に係る新基準適合性審査に関する事業者ヒアリング(65)平成28年2月23日、関電提出資料:大飯3、4号炉設置許可基準規制等への適合性について(地盤)、甲468[270 KB]、159頁)」。被告関電は、坑間探査結果については異方性を検討せず、NW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査結果のみを比較して異方性はないと云っている。

原告らは、上記の坑間弾性波探査の結果から、波の伝播方向とP波速度(1,378データ)の関係を求めた(甲467、4~8頁)。次頁の図(左)はP波速度の方位10°毎の平均値である。破砕帯の分布図と並べて示した。原子炉建屋付近では、平均のP波速度は、南北方向が大きく、東西方向が小さい。違いは1割以上であり、異方性の方位は断層破砕帯の走向に関係している。P波速度は、断層破砕帯の走向方向で大きく、横切る方向で小さい。

被告関電は、この異方性が相殺されるNW-SE方向とNE-SW方向の屈折法探査のみのデータによって異方性はないと云っているのである。屈折法探査の結果だけでなく坑間弾性波探査の結果も比較検討すべきである。被告関電は、各種資料の統一的解釈を怠っているというより、調査資料を恣意的に解釈し、恣意的に無視している。

【図】P波速度の異方性と断層破砕帯の走向方位
円形グラフで地震波の伝播方位とP波速度(km/s)を示す
南北方向(破砕帯走向方向):約4.5km/s、東西方向(破砕帯を横切る方向):約3.9km/s【図省略】


13 原子力規制委員会の審査で確認されているなどとの反論について

被告関電は、準備書面(17)[6 MB]において「被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などと随所で反論した(例えば、19、24、25頁など)。この主張は、「高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会が,安全性に関する具体的審査基準を制定するとともに,当該基準への適合性について,科学的・専門技術的知見から十分な審査を行うこととしている(名古屋高裁金沢支部・控訴審判決、平成30年7月4日)」という判断と軌を一にしている。以下に、規制委員会の「科学的・専門技術的知見からの十分な審査」に疑念を生ずる事例を挙げる。

 (1)反射法弾性波探査における回折波が議論されていないこと、速度解析結果が開示されていないこと

被告関電は、大飯サイトにおける反射法地震探査の結果を、第59回審査会合(平成25年12月18日)で報告している。この会合ではA測線の反射のパターンが弱くなることの議論はある(原子力発電所の新規制基準適合性に係る審査会合第59回議事録、平成25年12月18日、原子力規制委員会、甲469[584 KB]、43頁)が、反射法地震探査の専門家である元物理探査学会理事田村八洲夫氏や同学会元会長の芦田譲京大名誉教授が、深度断面に指摘した断層構造を示唆する回折波については、この会合だけでなく以後の審査会合においても全く議論がない。また、被告関電は、速度断面を作成する過程で行われる速度解析の結果を開示していないが、このことは不問にされ、屈折法解析による速度構造のみが議論されている(同[584 KB]、44頁)。

 (2)試掘坑弾性波探査・坑間弾性波探査結果の等閑視

被告関電は、原子炉建屋の立地する基盤岩層は、試掘坑弾性波探査の屈折法探査結果からVp=4.3km/s、Vs=2.2km/s、坑間弾性波探査からVp=4.3km/sと評価し、また、これらのデータから速度の異方性はないとしている(丙178[11 MB] 添付書類六地盤構造に関する図面、6-3-128頁)。

屈折法探査の結果は、第21回審査会合(平成25年9月18日)で説明されているが、この資料は原子炉建設前の大飯3、4号機設置許可申請書の再掲である(資料1-1大飯発電所地下構造の把握について、甲470[941 KB]、2~6頁)。

坑間弾性波探査の結果は審査会合では審議されておらず、平成28年2月23日に開催された事業者ヒアリング(65)において「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である(大飯3,4号炉設置許可基準規則等への適合性について(地盤)、平成28年2月23日、関電、甲468[270 KB]、159頁)」と説明されたようである。同日の議事録には「関西電力から、平成25年7月8日に申請のあった大飯発電所3、4号機設置変更許可申請のうち、地盤(敷地の地質・地質構造並びに基礎地盤及び周辺斜面の安定性評価)、地震動評価、津波影響評価、火山影響評価について説明があった。これに対し、原子力規制庁は、引き続き確認することとした」との要旨が記載されているのみで、坑間弾性波探査の結果が審議されたのかどうかは不明である。

事業者ヒアリング(65)当日の添付書類六(丙178)には、「第5.110図試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)結果図」が105~108頁に示されており、この図から一目瞭然で、原子炉建屋付近のP波速度が、場所によってまた伝播方向によって変化していること、すなわち基盤構造が不均質であることが判る。
規制委員会はこの図を審議しなかったのであろうか。

坑間弾性波探査は、屈折法探査と同時期の原子炉建設前に実施されたものである。被告関電は、平成25年9月18日の第21回審査会合では、屈折法探査の結果についてのみ説明し、構造の不均質性が明瞭な坑間弾性波探査の結果は資料に挙げていない(資料1-2大飯発電所の地下構造把握について、資料1-2同(データ集)、甲471[110 KB])。そして、平成28年2月23日の事業者ヒアリング(65)において膨大な添付資料の中に4枚の図を付して「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%」と記載するのみである(甲468、159頁)。公開されている規制委員会審査会合の議事録には、坑間弾性波探査の結果が審議されたという記録は見つからない。

 (3)断層破砕帯による速度構造の不均質と震動特性への影響

被告関電は、第78回審査会合(平成26年2月5日)において、原子炉建屋直下の断層破砕帯の幅と長さの関係を踏まえた破砕帯の特性について説明している(資料2-1、大飯発電所内敷地破砕帯の評価について、関電、甲472[1 MB]、19~24頁)。原子炉建屋付近および直下に存在する断層破砕帯は、その活動性の評価および原子炉建屋など構造物の支持基盤としての力学的特性が調査の対象となったが、基準地震動を評価するうえで重要な速度構造を不均質にさせる作用、不均質地盤構造による地震時の震動特性への影響は全く考慮されていない。すでに述べたように、被告関電のデータから、破砕帯の存在によって速度の場所による変化、速度の異方性などが生じていると判断されるが、規制委員会はこのことを等閑視したのであろうか。

 (4)地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度

被告関電は、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析によって地盤モデルを構築した。観測波形から推定された位相速度には、測定誤差が含まれている。観測位相速度には誤差の範囲が明示されなければならず、これを元に逆解析結果の信頼性が評価される。ところが、被告関電が提示した観測位相速度には、誤差限界の表示がない。これから求まった地盤モデルも信頼限界が不明である。すなわち、信頼性の限界が不明な地盤モデルによって基準地震動が評価されている。このことを規制委員会は認めたのであろうか。

位相速度の逆解析から求めた地盤速度構造は、反射法地震探査で得られた反射深度断面と整合しなければばらないが、規制委員会は両者を比較して審議したのであろうか、審査会合の議事録にはその記事が見つからない。

微細なことであるが、逆解析においてVpを変数として扱っているか、VsはVpとは独立か、それともVpとVsとは何らかの関係があるのかが質疑され、被告関電は「一応Vp、Vsを独立で考えている」と返答している(平成26年3月12日第92回審査会合議事録、甲473、72~73頁)。しかし、これはウソである。各層のVpとVsとは変数ではなく固定された定数として前もって与えられており、層厚だけを逆解析により求めたことが、先の審査会合で示されている(第89回審査会合、資料3大飯発電所地盤モデルの評価について、平成26年3月5日、関電、甲474[1 MB]、106頁)。原告らは、このウソの説明では納得できない。

 (5)新規制基準への適合性

原子力規制委員会は、「基準地震動及び耐震設計方針に係る審査ガイド(平成25年6月)」を定め(甲475[953 KB])、地震動評価のガイドラインを示している。
ここでは次の3項目について規制委員会の審査に疑問を呈する:ア三次元地下構造モデルについて、イ地震観測記録による構造モデルの検証について、ウ地盤構造モデルの不確かさについて。

  ア 三次元地下構造モデルについて

審査ガイド(丙27)には「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)、微動アレイ探査、重力探査、深層ボーリング、二次元あるいは三次元の適切な物理探査(反射法・屈折法地震探査)等のデータに基づき、ジョイントインバージョン解析手法など客観的・合理的な手段によってモデルが評価されていることを確認する。なお、地下構造の評価の過程において、地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き、三次元的な地下構造により検討されていることを確認する(6頁)」と記載され、三次元地下構造モデルで基準地震動を評価すべきであると規定されている。「地下構造が水平成層構造と認められる場合を除き」という但し書きがあるため、電力事業者は3次元構造探査を逃れようとするようである。しかし、新規制基準が執行(平成25年7月8日)される直前の第4回評価会合(平成25年5月10日)において「成層かつ均質な場合だと思って三次元的に調査をしないということではなくて、三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築することを意図している」と、3次元構造を詳しく把握したうえでモデル化をすることを要求しているのであると委員会委員は被告関電に説明をしている(議事録、甲475[953 KB]、4~6頁)。被告関電が実施した調査は全て、大飯サイトの基礎地盤が不整形であることを示している。
規制委員会は当初、「三次元的な調査をした上で、地盤のモデルを構築すること」を要求したはずである。新規制基準に適合するためには、3次元の探査を実施する必要がある。

  イ 地震観測記録による構造モデルの検証について

審査ガイド(丙28[13 MB])は、「地震基盤までの三次元地下構造モデルの設定に当たっては、地震観測記録(鉛直アレイ地震動観測や水平アレイ地震動観測記録)・・・・によってモデルが評価されていることを確認する(6頁)」と、地震観測記録によってモデルの妥当性を検証することを求めている。

これを受けて、被告関電は、第21回審査会合(平成25年9月18日)において、地下構造把握のための追加調査計画として「地表面での地震観測を平成25年9月中旬から、鉛直アレイ地震観測を平成26年2月から、また、大深度地震観測を平成27年度から実施するとの計画(資料1-1 大飯発電所地下構造の把握について、甲470[941 KB]、27頁)」を提出した。しかし、これまで規制委員会の審査会合で、地震観測結果の公表や説明は皆無である。

被告関電は、第206回審査会合(平成27年3月13日)において、大深度地震計設置の取り組み状況を説明している。資料には「当初計画地点については、掘削中に坑内の崩落が発生するなど、大深度地震計の設置に不適当な地盤と判断した。地震計の設置位置を見直し、新たな候補地点(鯨谷付近)に設置する。見直し位置で工事着手済み。今後、地震観測を早期に開始するため、行程の前倒しに取り組む。(工期:約3年間)(資料3-4大飯発電所地震動評価について、平成27年3月13日、関電、甲476[674 KB]、185頁)」とある。当初計画地点は3号炉の南南東方向(マムシ谷)であり、新たな候補地点は4号炉の西側である。原子炉建屋が立地する基礎地盤では、これまで述べたように地震波速度が西から東に系統的に低下するが、より東に位置する地震計設置孔が崩落する事故が生じている。これについて審査会合での議論は皆無である。

平成27年3月時点で工期3年とあるから、平成30年3月頃からは大深度地震観測も行われているはずである。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの妥当性を地震観測記録によって検討した結果を審査すべきである。

  ウ 地盤構造モデルの不確かさについて

審査ガイド(丙28[13 MB])には、「地震動評価においては、震源特性(震源モデル)、伝播特性(地殻・上部マントル構造)、サイト特性(深部・浅部地下構造)における各種の不確かさが含まれるため、これらの不確実さ要因を偶然的不確実さと認識論的不確実さに分類して、分析が適切になされていることを確認する(6~7頁)」と定められている。

被告関電は、震源モデルについて不確かさを考慮した(準備書面(3)[17 MB]、98~104頁)と言うだけで、伝播特性とサイト特性に関しては、全く考慮していない。サイト特性に関しては、基準地震動評価のための地盤構造モデルは、地震波干渉法・微動アレイ観測による位相速度の逆解析に基づいて作成されている。本書面で詳しく説明したように、観測位相速度に含まれる誤差の評価は全くなされていない。位相速度の逆解析においては、恣意的な初期モデルによる計算、さらに計算結果の恣意的な改変が行われ、モデルに含まれる不確しかさの検討は一切行われていない。規制委員会は、自らの定めた審査ガイドに則り、地盤構造モデルの不確かさが適切になされているか審査すべきである。


14 まとめ

本準備書面では、被告関電が準備書面(17)[6 MB]で主張した「原告の反論は①事実誤認に基づくものである、②被告における調査・評価結果を個別に取り上げて恣意的に反論するものである、③被告関電の調査と評価は新規制基準に従っていることは原子力規制委員会の審査で確認されている」などの反論に再反論した。被告関電は、原告の多くの反論に口をつぐんで一切再反論せず、またいくつかした再反論も事実を曲げ、観測データを恣意的に評価し、新規制基準の要求に違背している。

以上、本件地域特性を検討しても、硬質な成層均質な地盤が広がっていて平均像を超える地震動が起きないなどとは到底言う事ができない。

以上

◆原告第55準備書面
―名古屋高裁金沢支部判決の問題点―

原告第55準備書面
―名古屋高裁金沢支部判決の問題点―

2018年(平成30年)8月31日

原告提出の第55準備書面[139 KB]

【目次】

第1 はじめに
第2 判断枠組みについて
第3 新規制基準及びその適合性審査についての判断の問題点
第4 まとめ

 



第1 はじめに

本年7月4日、名古屋高裁金沢支部は、大飯原発3・4号機の運転差止めを認容した2014(平成26)年5月21日福井地裁判決を取り消し、住民らの請求を棄却する判決を言い渡した(以下「本判決」という。)。

しかしながら、本判決は、伊方原発最高裁判決の判断枠組みを踏襲しながら、新規制基準の合理性判断について、具体的な審査基準の内容に踏み込んで判断することなく、新規制基準の適合審査に合格していることをもって、安易に安全性を容認したといわざるを得ない。また、個別の論点についても、関西電力の主張をそのまま採用し、裁判所自ら主体的に原子力発電所の安全性、危険性について判断したとは到底言い難い判断である。本判決は、司法の役割を放棄した極めて不当な判決であると言わざるを得ない。


第2 判断枠組みについて

 本判決は、「原子力発電所は、ひとたび設備の破損等による事故が発生すれば、人体に有害な放射性物質が所外に漏えいして、殊に原子力発電所に近接して居住する住民の生命や健康に重大な被害がもたらされる可能性があるほか、避難等に伴って住民の生活やコミュニティが破壊され、また、放射性物質は極めて長期にわたって漏えいした場所に残存するから、破壊された生活やコミュニティの再構築が著しく困難となる」と述べつつ、我が国において原子力基本法、原子炉等規制法が制定されていることをもって、「我が国の法制度は、原子力発電を国民生活等にとって一律に有害危険なものとして禁止することをしておらず、原子力発電所で重大な事故が生じた場合に放射性物質が異常に放出される危険性や、放射性廃棄物の生成・保管・再処理等に関する危険性に配慮しつつも、これらの危険に適切に対処すべく管理・統制がなされていれば、原子力発電を行うことを認めている」とし、「原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険があるからといって、それ自体で人格権を侵害するということはできない」(58頁以下)と判示した。

本判決は、原子力発電所の運転に伴う本質的・内在的な危険を認めつつも、「国政の上で、最大の尊重を必要とする」、「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」(憲法第13条)であるところの人格権の侵害について、政策的判断を優先するばかりか、「その当否をめぐる判断は、もはや司法の役割を超えるものであり、国民世論として幅広く議論され、それを背景とした立法府や行政府による政治的な判断に委ねられるべき事柄である」などと述べ、もはや、立法・行政の判断に対して、司法の役割を放棄した判決といわざるを得ない

 本判決は、原子力発電所の運転差止めについての判断枠組みとして、「原子力発電に内在する危険性に対して適切な対処がされ、その危険性が社会通念上無視しうる程度にまで管理・統制がされているか否かを検討すべき」と判示する。

その上で、「安全性に関する具体的審査基準の制定及び申請にかかる原子力発電所の当該基準への適合性について、高度の専門的知識と高い独立性を持った原子力規制委員会の合理的な判断に委ねたものと解するのが相当」とし、「具体的審査基準に適合しているとの判断が原子力規制委員会によってされた場合は、当該審査に用いられた具体的審査基準について現在の科学技術の水準に照らし不合理な点があるか、あるいは当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点があると認められるのでない限り、当該原子力発電所が有する危険性は社会通念上無視しうる程度にまで管理され、放射性物質の異常な放出を招くなどして周辺住民等の人格権を侵害する具体的危険性はないものと評価できる」とする。まさに、上述したような行政の判断を追随するだけの、司法の役割を放棄した判断が現れているといわざるを得ない。

そして、新規制基準については、「新規制基準について、明らかに不合理な点がない限り、その内容を尊重するのが裁判所としてふさわしい態度といえる。」、「自然科学の分野で諸説が対立する事柄があったとしても、裁判は学術論争をする場でないことはもちろんであり、いたずらに自然科学の分野における論争や対立に介入すべきでない。」(62頁以下)などと述べる。かかる判示は、具体的な争訟について、法を適用し、宣言することによって、これを裁定する国家の作用であるところの司法権を司る裁判所としては、法適用の前提となる事実認定やその評価を行うことこそがその基本的役割であるにもかかわらず、その役割を自ら放棄することを判決文の中で宣言するに等しく、明らかに裁判所としてあるまじき態度を示しているといわざるを得ない。

加えて、「新規制基準の内容面に関し、1審原告らが縷々不合理な点として挙げる事柄については、(中略)所詮、独自の見解に立って規制の在り方を論ずるものにすぎず、合法・違法の問題が生ずるとは解せられない」と述べ、住民ら(1審原告ら)の主張については、元原子力規制委員長代理をつとめた島崎邦彦氏など、専門家が示した知見を背景にした主張であっても一蹴するという極めて偏った態度をとっているといわざるを得ない。さらには、いまだ収束せず、事故原因の究明も進んでいない東京電力福島第一原発事故について、「福島原発事故と同じような過ちを繰り返さないための教訓はおおむね得られた」などと述べ、福島第一原発事故の被害の実相や、事故後すでに7年以上を経過しているにもかかわらず、事故がいまだ収束せず、原因究明も遅々として進んでいないという事実を軽視した判断である。

 以上のとおり、本判決は、その判断にあたって、本来司法権が果たすべき、事実認定やその評価について、「自然科学の分野における論争や対立に介入すべきでない」などと述べて、その役割を放棄し、立法・行政の判断に追随するだけの判断であって、極めて不当であるといわざるを得ない。


第3 新規制基準及びその適合性審査についての判断の問題点

本判決は、基準地震動や津波、火山対策など、新規制基準における各審査基準及びその適合性審査について、本判決65頁以下で判示する。しかしながら、その判示は、まさに関西電力の主張をそのまま採用した上で、「新規制基準に違法や不合理の廉があるとは認められ」ない、「本件発電所が新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるともいえない」(197頁)と述べているにすぎない。

とりわけ、基準地震動に関する判断においては「基準地震動Ss-1~19のうちの最大加速度856(Ss-4)は、耐震バックチェック時に策定され、平成22年11月に原子力安全・保安院により妥当性が確認された最大加速度700ガル(応答スペクトルに基づく評価結果としての従来のSs-1)を上回る」(96頁)と認定しながら、結論として「上記の基準地震動Ssが新規制基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に不合理な点があるとは認められない」(97頁)と判示した。審査基準として示された数値を超え、審査基準に適合しない内容であったとしても適合すると判断した原子力規制委員会の判断は、明らかに「当該原子力発電所が具体的審査基準に適合するとした原子力規制委員会の判断に見過ごし難い過誤、欠落があるなど不合理な点がある」にもかかわらず、これを追認した本判決は、上述した判断枠組みからしてもおよそ論理的な判断とは言い難く、まさに司法の役割を放棄した判断だといわざるを得ない。


第4 まとめ

以上のとおり、本判決は、原子力規制委員会の安全審査の結果さえ出れば、裁判所は、自ら主体的に原発の安全性を審査することとなく、その結果に追随するだけという、まさに、司法の役割を放棄した、立法・行政追随の判決であるといわざるを得ない。

当裁判所においては、本判決のような電力会社の主張を引き写し、立法・行政に追随するような判断に逃げ込むことなく、直近で発生した原発事故である東京電力福島第一原発事故の被害の実相、そして、原子力発電所がもつ危険性を直視し、「国政の上で、最大の尊重を必要とする」ところの「生命、自由および幸福追求に対する国民の権利」を擁護する砦としての裁判所の役割を全うされることを強く希望するものである。

以上