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◆原告第70準備書面 第1
本書面の概要(甲514)

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次


第1 本書面の概要(甲514)

 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定し,独自に作成した地盤構造モデル(関電地盤モデル)によって基準地震動を策定している。すなわち,基準地震動を,地殻内地震のスケーリング則に準じたM7.8の地震の震源特性と関電地盤モデルによるサイト特性とにより計算しているのである。この際,スケーリング則が内包する1.4倍の偏差を考慮していないが,保守性については短周期の振動レベルを1.5倍にするなどしてこれを持たせているとしている。

 これに対して原告らは,既に第60準備書面において,大阪北部地震をFO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価し,基準地震動が過小評価であることを明らかにしているが,本書面では,赤松意見書(甲514[1 MB])に基づき,2016年に発生し,地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされる熊本地震の加速度記録を用いて同様の評価を行うこととする。FO-B~FO-A~熊川断層で,スケーリング則に従う熊本地震と同じ震源特性を有する地震が発生したとき,基準地震動を越えないのであろうか。

 熊本地震は前震がM6.5,本震がM7.3と,本震の方が規模が大きくなっている(エネルギー費で15.8倍)。第60準備書面では大阪北部地震のM6.1を基準地震動における想定=M7.8にスケールアップして評価したが(第60準備書面3~4頁),本書面では熊本地震のM7.3等をそのまま適用して評価する。具体的には,熊本地震の震源断層の直近にある防災科学技術研究所の基盤強震観測網(KiK-net)の益城観測点(KMMH16)の,S波速度(Vs)2.7km/sの岩盤に設置された地中地震計で記録された,前震で289ガル,本震で287ガル(3成分合成)の加速度波形を,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して原子炉基盤面の地震動を計算し,大飯原発の基準地震動と比較する。

 これにより,基準地震動が,スケーリング則の平均値による震源特性と,増幅率を小さくする関電地盤モデルであることとの相乗効果によって,過小に評価されていることを明らかにする(下記2項(1)ないし(6))。また,地震動は断層走向方向の成分および直交成分が大きいので,形式的に東西,南北方向成分で計算した基準地震動は過小評価であることも合わせて指摘する(下記2項(7))。これらは,第60準備書面同様,現に発生した地震の観測データを,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものであり,実際にあった断層破壊過程が用いられているのであるから,地震動評価の信頼性は格段に高い。

 さらに,新たな視点として,FO-B~FO-A~熊川断層が震源断層となった場合,最新の技術・知見によって解明されてきた「おつきあい地震断層」により,敷地内断層破砕帯とそれに伴うシームが原子炉建屋の立地する基盤面に「くい違い」を生じさせる危険性のあることを明らかにする。この点について,原子力規制委員会では一切議論されていない。

◆原告第70準備書面 目次
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

原告提出の第70準備書面[1 MB]

目 次

第1 本書面の概要(甲514)

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合
1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ

第3 「おつきあい地震断層」について
1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか
1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)

◆原告第69準備書面 第2
被告関西電力準備書面(23)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第2 被告関西電力準備書面(23)への反論

1 被告関西電力の主張の概要
2 2018年の大阪北部地震について
3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について


第2 被告関西電力準備書面(23)への反論


1 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,準備書面(23)[2 MB]において,①原告らが第60準備書面において大阪北部地震を踏まえた主張を行ったことについて,独自の手法に基づくものにすぎないなどと反論し,②地下構造モデルに関する原告らの主張については従前の主張を繰り返し,具体的な反論は行っていない。

 そこで,これらの点について必要な範囲で改めて述べる

2 2018年の大阪北部地震について

(1) 被告関西電力の主張

 この点に関する被告関西電力の主張は,

㋐ 基準地震動は,地震本部によるレシピを参照し,過去の地震ないしは地震動の単なる「平均像」ではなく,平均像を導いた過去のデータがばらつきを有していることを踏まえて不確かさを適切に考慮し,充分保守的な断層モデルで適切に策定されている,

㋑ 大阪府北部地震は,想定しているFO-B~FO-A~熊川断層の震源域で発生した地震ではないから,経験的グリーン関数法に基づいた検討を行っているわけではなく,原告らは単に独自の手法に基づいて算定した結果をもとにして基準地震動は過小評価であると主張しているに過ぎず理由がない,

ということに絞られる。

(2) ㋐について

 この点の被告関西電力の主張の誤りは既に述べてきた。

 同被告の主張のとおりであれば,スケーリング則に合うM7.8の地震では基準地震動以下の地震動しか生じないはずである。この点,大阪北部地震(M6.1)もスケーリング則に合った地震であるから,これをスケーリング則によってM7.8にスケールアップしたとしてもやはりスケーリング則に合う地震であり,このようにしてスケーリング則に合う大阪北部地震(M7.8にスケールアップしたもの)と同様の地震が発生したとしても,基準地震動以下の地震動しか発生しないことになる。しかし,実際にはそうではない。原告第60準備書面で述べたとおり,基準地震動を超える地震動が生起されるのである。その理由は,スケーリング則そのものの性質や被告関西電力が減衰量(h)を過大に設定していること,震源特性・サイト特性によるものである(原告第67準備書面同70準備書面で詳述)。

 基準地震動が保守的ではなく,被告関西電力の主張が誤りであることはやはり明らかである。

(3) ㋑について

 被告関西電力は,原告らが経験的グリーン関数法に基づいていないと主張しているが,原告らは経験的グリーン関数法を用い,大阪府北部地震M6.1をスケーリング則に基づいてM7.8大阪府北部地震にスケールアップしているのであるから,前提からして誤っている。何ら「独自の手法に基づいて算定した」ものではない。その上で原告らは,このM7.8大阪府北部地震と同じ震動特性の地震がFO-B~FO-A~熊川断層で発生したとして大飯サイトの地震動を計算したのである。

 こうして計算した地震動が,被告関西電力の策定したレシピに従う「平均像」に保守性を持たせた基準地震動を超えるというのが原告第60準備書面の結論である。M7.8大阪府北部地震は,スケーリング則の「平均像」から何某かの「ずれ」を当然含んでいる(もちろん,「ずれ」を含むことは実際に発生した・発生するすべての地震に当てはまる。)が,この「ずれ」はスケーリング則のばらつきの範囲に収まっている(=大阪北部地震はスケーリング則に合っている。)。現に他の場所で起こった,そのようにスケーリング則に合う実際の地震が,大飯サイト近傍で発生したらどうなるかということを論証したのである。

 スケーリング則は,それぞれ異なる震源特性とグリーン関数(ある点に瞬間的に力を加えた場合の別な点の応答を関数で示したもの。経路の伝播特性とサイト特性の重畳。)を持った過去の地震をもとにした平均像である。スケーリング則にばらつきがあるのは,それら震源特性とグリーン関数に平均値からのずれが存するためである。このような過去の地震のスケーリング則に保守性を持たせた基準地震動が,他の場所で実際に起こったM7.8の地震の震源特性とグリーン関数の平均値からの「ずれ」を吸収できないのである。

 この関係は次式のように示される。被告関西電力が持たせたと主張している「保守性」では,実際の地震において生ずる平均像からのずれを吸収できない。「保守性」が不十分だからに他ならない。

[基準地震動]=[平均像]+[保守性]<[平均像]+[ずれ]=[実地震]

3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,この点に関する原告第60準備書面における原告らの主張に対し,具体的に反論していない。ただ従前の主張を繰り返すのみである。

 従前の主張と重複するが,改めて,

㋐ 微動のアレイ観測による観測結果の逆解析から直接導かれるインバージョンモデルから,厚さ80mにおよぶS波速度0.5km/sの第1層をカットしてP波速度4.6km/s,S波速度2.2km/sの第2層を解放基盤としたことについて,「被告は,ボーリング調査やPS検層によって地盤の状態を直接把握して,本件発電所敷地の浅部にS波速度約2.2km/sの堅硬な岩盤が広がっていることを確認し」た,

㋑ 敷地地盤の地震波減衰係数を標高-180mまで3%,それ以深を0.5%としたことを,引用文献と敷地での実験結果から合理的である,

とする点について述べる。

(2) ㋐について

 被告関西電力は,これまでは,大飯原発敷地浅部の速度について,PS検層,試掘坑における弾性波探査,反射法地震探査の屈折法解析結果の3つを示して主張していた。これらはいずれも原位置で直接測定されたものである。

 ところが,今回論拠として挙げたのはこのうちPS検層のみであり,新たに別途,ボーリング調査を論拠に挙げている。しかし,当該「ボーリング調査」の内実について具体的な主張・立証がなく,ただ結論を述べるのみであるから,これを認める余地はない。

 仮に岩質やRQDの値(被告準備書面(22)[4 MB]にあるもの)を指しているのであるとすると,既にこの点については述べている。むしろ,被告関西電力が行った調査の元データを通覧することにより,岩質が均質ではないことやP波速度が小さいこと,地下深部に低速度層が存在すること,RQDの値が「普通」以下に分類されることなどが明らかとなっているのである(原告第67準備書面甲510[2 MB])。

 上記のとおり,被告関西電力が今回その主張の論拠として挙げなかったものとして試掘坑における弾性波探査があるが,その結果であるとして被告関西電力は,「P波速度4.3km/s,S波速度2.2km/sと評価した」としている。しかし,この点も既に指摘したところであるが,被告関西電力の元資料に記載されている速度の算術平均値は,全体でS波は(2.141±0.335)km/s,3号炉側では(2.017±0.369)km/sとなっている。2.2km/sとの記載はない。また,P波速度については被告関西電力自ら4.3km/sという結果を示しながら,これらを無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのである。

 試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果について,被告関西電力は,「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」と規制委員会には報告している(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁[11 MB])。4.6km/sではない。3.0km/s~5.2km/sという大きな速度変化について,敷地に存在する断層破砕帯とそれに付随するシームの分布に依存して場所的に変化していることについては既に甲422[484 KB]で詳述したが,被告関西電力はこの点に関して何らの分析も行っておらず,検討不十分である。

 被告関西電力は,同被告が柔らかい表層部分を割愛したことを批判してきた原告らの主張に対し,同準備書面では,「最終的な地下構造モデル策定の際に柔らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在しない表層部分(各観測地点には存在する)を含んだインバージョン解析を実施した」と論調を変えつつもなお正当化しようとしている。

 改めて指摘するまでもないであろうが,原告らは,原子炉建屋の基盤表面にS波速度0.5km/sの柔らかい表層が存在していると主張しているのではない。

 既に述べたとおり,インバージョン解析で,解放基盤相当の第2層が標高-36.5mの深部に求まるという齟齬は,第2層の速度を実測値ではなく,それより大きい速度,すなわちP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sとしたために生じたものである。インバージョン解析では,計算機は与えられた拘束条件(速度値)の下で,観測された位相速度を説明するための最適解(層厚)を出す。拘束条件のS波速度は,第1層0.5km/s,第2層2.2km/s,第3層2.3km/sと第2層以下は0.1km/s刻みで増加させている。第2層以下は0.1km/sの増分であるのに,第1層から第2層へは1.7km/sもジャンプさせている。観測された位相速度は周期約0.65秒以下で1.4~2.0km/と2.0km/s以下であり,この小さい速度を説明するためには大きい速度の2.2km/s第2層を深くせざるを得ないのである。このように,軟らかい表層部分(第1層)を取り除くことを前提として第2層を2.2km/sとしたのは,建設時の設置許可申請における解放基盤の速度値2.2km/sを踏襲したためである。これこそが上記齟齬の原因である。

 本来は,柔らかい表層から解放基盤とする岩盤までの速度の増分を1.7km/sとジャンプさせるのではなく,細かく設定して原子炉建屋の立地する標高0m付近の速度値を求めなければならない。このことについては,既に甲422[484 KB]甲481[1 MB]及び本準備書面第1・3・(4)で詳述した。

(3) ㋑について

 この点についての被告関西電力の主張は,被告準備書面(22)[4 MB]・第3・4と同じであり,既に反論済みである。すなわち,原告らは,甲422[484 KB]で,例えば新潟平野の土質地盤の知見を大飯岩盤に流用していること,散乱減衰の理論を展開しながら散乱減衰の基本である周波数依存性について考慮していないことなどを指摘しているのである。しかし,被告関西電力はこれらに全く反論できていない。

 また,本来,土質地盤では岩盤よりも減衰が大きいのであるが,被告関西電力のモデルではなぜか逆に,大飯岩盤の減衰が,実測された大阪平野の土質地盤の減衰より1.5倍も大きくなっており,逆転しているのである(甲481[1 MB])。被告関西電力はこのことについても反論できていない。

以 上

◆原告第69準備書面 第1
被告関西電力準備書面(22)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第1 被告関西電力準備書面(22)への反論

1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要
2 ①に関して
3 ②に関して
4 ③に関して


第1 被告関西電力準備書面(22)への反論


1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要

 準備書面(22)[4 MB]において被告関西電力は,以下の原告の主張(原告第56準備書面)について反論をしようとしている(22頁以下)。その反論はいずれも誤った理解・解釈によるものであり,特段新たに再反論することでもないが,念のためその主張の非合理性を指摘する。

① 地下構造モデル策定のために実施した反射法地震探査等の各調査に関し,その調査結果を恣意的に解釈し,速度の落ち込みや破砕帯の存在等を無視して解放基盤表面を設定した上で,本件発電所敷地内の地下構造が水平成層構造であると根拠なく評価しており,三次元地震探査は行っておらず,当該調査に関する被告の評価については原子力規制委員会において十分審査されていない。

② 観測位相速度が単調に増加していないにもかかわらず,理論位相速度が単調増加する速度構造モデルを根拠なく策定しており,また,インバージョンモデルから表層部分を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになる。

③ 地下構造モデル(地震動評価モデル)の第1層の減衰定数の設定方法等について,被告が具体的に説明していない。

2 ①に関して

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「地質調査により,本件発電所敷地の地下に,火成岩(深成岩)として硬岩に分類され,一般的な弾性波速度も軟岩と比して高く,岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認するとともに,物理探査により,かかる堅硬な岩盤の細部に若干の速度低下が認められる部分はあるものの,概ね深度に応じて速度が漸増しており,地震動を顕著に増幅させるような特異な構造も認められないことを確認したことから,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなしている。」(23~24頁)と主張しているところ,地質調査で「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したとして,原子炉建屋付近の「図表1地質断面図(地層区分)」と「図表4岩石の弾性波速度」を示している。

 該当部分は次のとおり。

《図省略》
「図表1地質断面図(地層区分)」

《図省略》
「図表4岩石の弾性波速度」の深成岩表示部分

(2) 岩盤を構成する岩石の種類と地層

 上記地質断面図において,下層の黄緑色表示のDsは輝緑岩,上層の桃色表示のQdは細粒石英閃緑岩とされ,被告関西電力は,図表4を示して「一般的な弾性波速度も,輝緑岩が約4.5km/s,細粒石英閃緑岩が約4.0km/s~約4.5km/s」であると説明し,下層ほど速度が大きくなっていると印象づけようとしている。

 しかし,被告関西電力のこの説明は正しくない。

 上記図表4は「物理探査ハンドブック増補改訂版」を引用したとしているが,その物理探査ハンドブックは,服部・杉本(1975)「岩石のP波伝播速度に関する統計的研究-Ⅰ」(甲513[1 MB])にさらに依拠している。そこで,原典の服部・杉本(1975)の元データを次に示す。

     平均値    最大  最小(km/s)
閃緑岩  4.35±0.16  5.85  2.64
輝緑岩  4.30±0.27  4.91  3.42
(甲513・6頁・表-2 P波速度の岩種別統計値より)

 被告関西電力は,原典の服部・杉本(1975)が閃緑岩について(4.35±0.16)km/sとしているのを4.0~4.5km/sと,輝緑岩について(4.30±0.27)km/sとしているのを4.5km/sと,いずれも正確に引用していない。むしろ恣意的「引用」というべきである。服部・杉本(1975)に基づき,被告関西電力のいうように「一般的な弾性波速度」で正しく説明するなら,同被告の主張とは逆に,下層の方が速度は小さいのである。

 また,図表1地質断面図(地層区分)において,細粒石英閃緑岩と輝緑岩の境界は,4号炉直下では標高-100~-120m,3号炉直下では標高-50~-70mと約50mの違いがある。断面図の縦横比は1:1であるので,地層は約20度以上傾斜していることになる。20度「以上」というのは,地質断面の測線C-C’が最大傾斜の方位とは限らないからである。

 被告関西電力の示す図表は,同被告の主張とは反対に,「地質調査の結果,地層に傾斜があり,下層ほど速度は小さい」ことを示している。

(3) 岩級分類による岩級

 被告関西電力は,「岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したと主張し(23頁),図表6を示している(18頁)。

《図省略》
【図表6地質断面図(岩級区分)】

 この図表6では,地表近くの一部と断層破砕帯に沿ったやや脆弱なCM級(黄色表示)の分布を除き,標高-200mの深部までCM級より堅硬なCH級(水色表示)が一様に広がっていると彩色表示されている。

 しかし,原告第67準備書面で詳述したとおり,被告関西電力が自ら行ったボーリング調査結果の元データは,標高約-300mの深さまでCM級とCH級とが交互に現われ,標高-270mの深部においても厚さ16mに及ぶCM層が存在すること,標高0~-150mの深さでは,CM層は全体の37%(約55m厚)に達すること,3・4号炉の北西側から,炉心直下,南東側へCM級以下の岩盤の割合が31.3%,33.1%,47.7%と系統的に増加し,岩盤が脆弱になっていること等を示している。「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっている」は事実ではない。そして,これらの点について規制委員会では議論がされていない。

(4) 物理探査結果の歪曲

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らの主張はいずれも,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず(自然の岩盤である以上,風化,変質,亀裂,節理及び破砕帯等が全く存在しない完全なる均質な岩盤など,存在し得ない。),被告の上記評価の合理性を何ら否定すべきものではない。なお,原告らは屈折法解析,単点微動観測,はぎとり法解析等の結果から,解放基盤表面のS波速度,P波速度の設定に問題があるとするが,既に被告準備書面(17)[6 MB]で述べたとおり,原告らはそれぞれの調査の目的を理解することなく,データを断片的に取り上げて,批判をしている。例えば,原告らは,はぎとり法解析について,独自の解釈をして,本件発電所の解放基盤表面のP波速度は4.6km/sにはならないと主張する(原告ら第56準備書面7~8頁)。しかし,上記のとおり,被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している。」(24頁)と主張する。

 これが物理探査結果を歪曲した虚偽の主張であること,原告は「データを断片的に取り上げて,批判している」のではなく,逆に被告関西電力が殆ど全てのデータを無視して地盤構造モデルを独自に恣意的に作り出していると批判していること,を明らかにする。

イ 反射法地震探査の屈折法解析

 被告関西電力は,「屈折法解析結果により,表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる」とし,追加のはぎとり法解析で「やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度であった」と報告している(丙196,57,60頁[10 MB])が,肝心の「やや深部」がどの程度の深さなのかは明示しようとしない。

 ところが,次図に示すように,3号炉,4号炉に近接する距離程800m付近の地表面の標高は30~40mであるから,「表層から50m程度」の深さ,すなわち,標高-20~-10mで速度は2.0~2.5km/sでしかなく,「4km/s以上」ではない。「表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上」「やや深部…約4.5km/2程度」との被告関西電力の主張は,いずれも事実に反している。

 また,被告関西電力が自ら報告しているように,解放基盤とする建屋基礎岩盤では,「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第3.5.114図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁[11 MB])。被告関西電力は,この点をも無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのであり,自己矛盾である。

《図省略》
反射法地震探査屈折法解析による速度断面
黄色破線:はぎとり法解析による最下層(Vp=4.5km/s層)の上面位置
(平成26年3月5日第89回審査会合資料3「大飯発電所の地盤モデルの評価について」57頁の一部を引用,加筆)

ウ PS検層結果

 被告関西電力は,「被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している」(24頁)と述べ,4本のボーリング孔におけるS波速度の分布図を提示して「ごく表層部において風化の影響等により,ややばらつきは見られるものの,ほぼ均質な地盤と考えられる。敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」(丙196・7頁[19 MB])として解放基盤のS波速度を2.2km/sとしている。

 しかし,4本のPS検層結果の内2本は建設前の技術レベルの低いダウンホール方式による結果であり,基準地震動の見直しのために実施したフローティング方式による結果は,次図に示すように,標高-60mまで2.0km/s未満であったり,標高-100~-120mに2.0km/sの低速度層があったりする。また,ボーリング孔の位置によって浅部の速度は大きく変化する。被告関西電力は建設前の信頼度の低いデータに固執して速度を大きく見せかけ,より信頼性の高い見直し調査の結果が示す小さい値を意図的に無視しているのである。

《図省略》
PS検層結果(甲442[484 KB]のa href=”https://nonukes-kyoto.net/wp/wp-content/uploads/2018/01/kou422_zu.pdf”>図1,2を引用。丙196・7頁[19 MB]より)

エ 単点微動観測の結果

 被告関西電力は,地下構造調査結果の可視化と称して反射法地震探査屈折法解析結果の速度断面に単点微動解析結果の速度構造境界の図を重ね,「屈折法によるP波速度断面と,単点微動データによる2層地盤推定結果は,概ね整合している」としている(丙196・58頁[10 MB])。該当頁を下に引用する。

《図省略》
屈折法によるP波速度断面と単点微動データによる2層地盤推定結果
丙196・58頁[10 MB]を引用,加筆)

 図には,標高0mの位置を水色直線で,原子炉建屋付近の位置を茶色楕円で示した。単点微動観測の第2層(紺色)上面は概ね標高0m付近にある。

 凡例に示されるように,この層のP波速度は3.7km/sである。P波速度断面図では,標高0m付近は黄色と黄緑色との境界付近,すなわちP波速度2.0~2.5km/sである。

 被告関西電力は,このように実際には1.5~1.9倍もの違いがあるのに,これを「概ね整合」と強弁し,しかも,基準地震動策定のための地盤モデルでは,そのいずれともかけ離れた値である4.6km/sを設定したのである。

オ 小括

 以上のとおり,原告は「データを断片的に取り上げて,批判をしている」のではなく,被告関西電力が調査結果の殆ど全てを無視し,解放基盤のP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sであると詐称し,基準地震動計算用の地盤モデルを堅硬であるように捏造していることを批判するのである。

 被告関西電力の準備書面(22)[4 MB]における反論は,まったく正鵠を射ていない。

(5) 反射法地震探査結果の恣意的表示

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らは,原子力発電所における地震動の増幅事例として,柏崎刈羽原子力発電所の事例を示している(原告ら第34準備書面11~21頁)。被告は,かかる原告らの主張を受け,被告準備書面(17)[6 MB]29~30頁において,本件発電所敷地には柏崎刈羽原子力発電所で見られるような特異な構造が認められない旨反論したところではあるが,この点の被告の評価について念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え,以下,この増幅事例と比較した本件発電所の地下構造に関する被告の評価を述べる」(24~25頁)として,柏崎刈羽原子力発電所と大飯原発の反射記録断面を示し,「反射法地震探査の結果を評価するにあたっては,以上のような特徴を考慮した上で,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝り(柏崎刈羽原子力発電所において見られるような大きな畝り)が存在するか否かに着目する必要がある。この点,本件発電所の反射法地震探査の結果に関して原告らが指摘する畝り等が,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝りでないことは明らかであり,また,特定の場所に地震波を集中させ得るような特異な形状はなく,原告らの主張は,被告の主張に対する有意な反論ではない」(26頁)と主張している。

イ 反射断面図

 以下に両地点の反射断面図を引用する。柏崎刈羽原発の記録には赤線で褶曲が書き込まれ,一見して大飯原発サイトには柏崎刈羽のような大きなうねりは無いかのような印象を与えている。

 しかし,実は,図の縦横比が両者で大きく異なっている。前者は1:1,後者は1:4なのである。大飯の断面図の縦方向は1/4に縮められ,うねりは1/4に縮小して表示される。これでは対比は不可能である。

 そこで,次頁に,大飯サイトの測線A-Aの断面図を柏崎刈羽と同じく1:1にして示す。大飯サイトの地下構造のうねりは,柏崎刈羽サイトのそれにも増して顕著であることが明瞭に示されている。

ウ 被告関西電力が反論を避けていること

 被告関西電力は,反射法地震探査の専門家である物理探査学会元理事の田村八洲夫氏と同学会元会長の芦田譲京都大学名誉教授が「断層に特徴的な回折波が存在する」と指摘したこと(甲423[154 KB])に何ら回答していない。もちろん,規制委員会でもかかる「特徴的な解析波」については検討されていない。当該指摘には沈黙したまま,「念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え」て,直接比較できない図を示し,間違った理解に誘導しようとしているのである。

《図省略》
大飯原発サイトの縦横比1:1にした反射断面(A-A’測線)
赤枠は田村八洲夫氏の指摘する回折波(甲423[154 KB]

3 ②に関して

(1) 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,地下構造モデルにつき,次の3点について反論をしようとしている。

ⓐ 地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非

ⓑ PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無

Ⓒ 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非

 ここに「位相速度の逆解析」とは,微動アレイ観測で求まった表面波の位相速度から一次元の速度構造モデルを推定することであり,実際の三次元構造に一次元の水平成層構造を強制的に押しつける計算手法であること,及び,計算に先立ち押しつける一次元モデルの許容範囲を初期条件として与えていること,すなわち,あらかじめ欲しい構造モデルを初期条件として与えていること,に注意する必要がある。前記の3点は,被告関西電力が,前もって欲しい構造となるように,観測事実を無視して初期条件を与えたことについての論争点である。

 次表は,被告関西電力が設定した逆解析における速度構造モデルの初期条件である。第1層~第16層のP波速度(Vp),S波速度(Vs),密度を与え,各層の厚さだけを探索して,モデルの理論位相速度と観測位相速度とがなるべく一致するように厚さを決める。第1層は土質地盤として解析結果から除外することを前提としており,第2層が解放基盤である。解放基盤の速度は,Vp=4.6km/s(表の4.8km/sは誤記),Vs=2.2km/sは基準地震動見直し前の地盤モデルの値を踏襲,第2層以下の速度値は0.1km/s刻みで単調に増加させている。

 このように単調に増加すると仮定することは正しいのであろうか。

《図省略》
位相速度の逆解析における初期条件(丙196[19 MB],106頁を引用)

(2) 一次元モデルとすること,および速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非(上記ⓐ

 被告関西電力は,「被告は,各調査結果を踏まえて,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し,かかる評価に基づき一次元の地下構造モデルを策定した。その上で,この地下構造モデルの理論位相速度を観測位相速度と比較したところ,両者が良く一致しており,策定した地下構造モデルが本件発電所の地盤の速度構造を精度良く評価していることが確認できた」と主張している(31頁)。

 しかし,原告第56準備書面で既に述べたように,全ての物理探査結果が共通して類似の傾向の速度値,物性値の場所による違いを示している。
すなわち,

(ア)PS検層結果における標高-60mまでのS波速度のボーリング位置による変化
(イ)試掘坑屈折法弾性波探査によるVp,Vsの3号炉近傍と4号炉近傍での違い
(ウ)試掘坑坑間弾性波探査(平均速度法)におけるVpの顕著な地域性
(エ)反射法地震探査反射断面にみられる地層のうねりと断層構造を示唆する回折波
(オ)反射法地震探査屈折法解析における低速度帯の顕著な落ち込み
(カ)単点微動観測(H/Vスペクトル)による基盤深さの地域性

など,全てが敷地に存在する断層破砕帯の分布に関連して類似の傾向を示しているのである。しかも,規制委員会の審査会合では,これらの調査結果の生データを示すだけで,詳細な分析結果に基づいた審査は行われていない。

 さらに,被告関西電力は,ボーリング孔における地質調査結果を引用して,断層破砕帯の存在には一切触れずに誤った解釈に導く作為的な図を提示し,地盤構造モデルの合理性を主張したのであるが,元データのボーリング柱状図は,

(キ)岩級区分,RQD,最大コア長の分布の地域性が上記物理探査の地域性と整合していること

を示しているにもかかわらず,これも隠蔽したままである。原発建設前にボーリング柱状図を作成しただけで,その分析を行わずに(あるいは,分析結果を隠蔽して)規制委員会の審査を終えている。

 被告関西電力は,「地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し」と主張しているが,全ての物理探査とボーリング孔地質調査が三次元不均質構造を示しているのであるから,それでもなお「地震動評価上,水平成層構造とみなせる」具体的で説得力のある根拠を示さなければならない。しかし,被告関西電力はその根拠を示していない。

 三次元構造の的確な把握の必要なことは論を待たないであろう。

 一次元モデルを策定する上で,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの非合理性について述べる。

 被告関西電力は,「原告らは・・・,理論位相速度について,観測位相速度は単調に増加していない事実を無視しているなどと述べて,理論位相速度と観測位相速度が完全に一致しなければならないかの如く主張する。しかしながら,位相速度の観測は,自然現象を数値化するものである以上,実際の自然現象を完全に再現して数値化することなど不可能であり,観測に伴う若干の誤差が生じることは当然である」と主張して,低速度層の存在を示唆する観測データの「うねり」を,単なる観測誤差にすり替えようとしている。

 被告関西電力の観測データと逆解析結果を次図に引用する。

《図省略》
観測位相速度(赤点)とモデルによる位相速度(黒線)(丙196[19 MB],110頁)

 観測データ(赤点)とモデルによる理論曲線(黒線)とを比較すると,観測データは,単にばらついているのではなく,一定の傾向を示している。すなわち,周期0.7~2秒の範囲で理論曲線の周りにうねっているのであり,ランダムに散らばっているのではないのである。観測誤差であれば,真の値の周りにランダムに分布するはずである。観測値が周期の増加と共に単調に増加するのではなく「うねる」のは,速度の深さ分布に「うねり」があることを意味する。

 観測データの解析では,観測精度を誤差限界で示し,解析結果の信頼性を評価する。解析の手続きを踏まずに観測誤差であると「うねり」を無視することはしてはならない。被告関西電力は,観測データの「うねり」が逆解析の結果に反映しないようにするために,初期条件として速度の単調増加を与えたのである。

 前記(ア),(キ)の調査結果は低速度層の存在を明瞭に示している。観測された位相速度の「うねり」がこれら調査結果の低速度層に関係しないと主張するのであれば,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定しなければならない。逆解析に用いた山中(2007)のハイブリッドヒューリスティック探索は,速度値の探索も可能な解析方法であり,各層の速度値の探索範囲をオーバーラップして与えることで低速度層の探索が可能である。よって,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定することは可能である。可能であるのに,あえて行っていない。

 被告関西電力は,調査結果を無視して低速度層が出ないように恣意的に地盤モデルを作成したということなのである。

 よって,各種物理探査の結果や「うねり」の存在,被告関西電力が具体的根拠を示していないことからして,地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さとともに単調に増加することを前提条件とすることは許されない。被告関西電力の置く前提は,誤りである。

(3) PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無(上記ⓑ)

 被告関西電力は,「原告らは,PS検層の結果を取り上げて,被告の策定した地下構造モデルを批判するが,PS検層の結果については,上記2で述べたとおり,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず,被告は当該調査結果を丁寧に示しながら新規制基準への適合性に係る審査会合で被告の評価について説明し,原子力規制委員会も,被告の評価を適切であると認めている。原子力規制委員会もPS検層の結果に含まれる細部における若干の速度低下の存在等を認識した上で,地下構造モデル策定にあたって考慮する必要がない(被告の評価の合理性を否定すべき事情ではない)と認めている」と主張している。

 しかし,既に述べたように,被告関西電力は生データを示すのみで分析して議論していない。分析結果は,既に述べたとおり,01-11孔では標高-100~-130mの厚さ30mがVs=2.02km/sの逆転層(上層より下層が低速度)であり,01-3孔では標高-60mまでVs=1.92km/s以下であり,標高-30~-60mはVs=1.83km/sの逆転層である。これは「細部における若干の速度低下」などではなく,厚さ30mに及ぶボリュームを持った低速度層である。

 また10本のボーリング柱状図によれば,RQDの平均値は標高-125~-150mおよび-250m以深で低下しており,P波速度の低下を示している。

 かかる低速度層の存在を無視することは許されず,地下構造モデルに組み込まなければならない。これを等閑視する被告関西電力の主張は誤りである。

(4) 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非(上記Ⓒ)

 被告関西電力は,「原告らは,インバージョンモデルから表層部分(層厚80m)を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになると主張する」(32頁)としているが,原告がこれを主張しているのではないから,前提からして誤っている。被告関西電力は,インバージョンモデルにおいて,層序とそれぞれの層厚,速度値,密度を提示するのみで,各層の標高を明示していないので,微動アレイ観測の観測点座標から計算される標高を第2層上面に付しただけである。

 被告関西電力の解析者は気づいているはずであるが,問題はなぜこのような齟齬を生ずるのかである。被告関西電力は32頁から35頁まで2頁半以上を費やして従来の論を繰り返し,最後に「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚が,本件発電所の原子炉建屋直下にも存在すると誤認した上で,観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行ったことによるものと推測される」と述べて,前記の齟齬を隠蔽してしまった。

 しかし,構造を正しく反映したモデルなら,「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚」は,地震計設置面と原子炉建屋設置面の標高差43.5mになり,表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面になるはずである。原告らに誤認はない。

 問題は,なぜ標高差43.5mにならなかったかである。この齟齬を来たした理由は明白で,初期条件として第1層Vp=2.0km/s,Vs=0.5km/sから第2層Vp=4.6km/s,Vs=2.2km/sへ速度値を大きくジャンプさせたからである。被告関西電力が調査した原子炉建屋付近の基盤の速度値を纏めると以下のとおりとなる。

試掘坑における屈折法地震探査:
   3号炉近傍Vp=(4.218±0.814)km/s,Vs=(2.017±0.369)km/s
   4号炉近傍Vp=(4.526±0.498)km/s,Vs=(2.239±0.273)km/s
試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)
        Vp=(4.253±0.340)km/s3号炉側で特に低速度
反射法地震探査屈折法解析
   表層から50m程度P波速度は4km/s以上
反射法地震探査はぎとり法解析
   やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度

 初期条件で与えたVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sは,実測された速度値の最大値~最大値以上である。そのため,逆解析において,観測位相速度に合わせるために計算機は第1層の層厚を大きくせざるを得なかったのである。

 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件とすることは許されない。そのような前提条件は,恣意的な設定である。そのような恣意的な操作を行うのではなく,解放基盤の速度値を実測値に合わせた小さい値から探索すべきである。

 このことを簡単な計算例によって示す。

 下図に被告関西電力の地盤モデルS波速度の第3層までを赤線で示す。第1層0.5km/s,第⒉層2.2km/s,第3層2.3km/sで,第2層以下は0.1km/s刻みで増加する。第1層の厚さは80m,第2層の厚さは180mである。図の左側に標高値が目盛ってある。第1層の上面は簡単のために40mとしてある。原子炉建屋は標高0mであるので,第1層の中間に位置する。

 点線は,第1層は標高0mまで(層厚40m)の土質地盤であるとしてVs=0.32km/s,標高0mより下は岩盤であるとし,S波速度は1.0km/sから40m毎に0.4km/sずつ増加して標高-120mで2.2km/sになる速度モデルである。これ以下は被告関西電力のモデルと同じとして,位相速度を計算する。このモデルを速度漸増モデルと仮称する。

《図省略》
理論位相速度の比較条件(丙196[19 MB],104頁を引用、加筆)

 上図に計算結果を示す。赤線は被告関西電力のインバージョンモデル,黒点線が速度漸増モデルである。40m厚の土質地盤があり,標高0mから岩盤のS波速度が40m毎に0.4km/sづつ増加するという単純な(あるいは乱暴な)モデルでも,観測された位相速度をほぼ説明できることが分る。このモデルでは,第1層は土質地盤であるとして割愛すると,第2層岩盤の上面は標高0mになり,岩盤が原子炉建屋を支えることになる。

 このことから,次のことが指摘できる:

  • (これまで主張してきたことであるが,)インバージョン解析では,岩盤のS波速度の初期値は2.2km/s以下を設定しなければならない。
  • 標高0m以深では岩盤であるという条件では,S波速度は1km/s程度から漸増する。ボーリング孔におけるPS検層では,OI-3孔で1.17km/s,OI-11孔で1.57km/sが得られているが,これらの値と比べても,アレイ観測網内の解放基盤の平均値は大変小さいことが示唆される。
  • 観測された位相速度の信頼限界を吟味すること,その上でインバージョン解析をやり直し,他の観測量との整合性を検討する必要がある。

 次に被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」としているが,この主張は,微動アレイ観測による表面波の伝播様式と位相速度の性質および逆解析における仮定を理解していないことを示している。

 表面波はその波長と地表面の起伏の水平方向の大きさ(起伏の波長)との関係で,起伏に忠実に沿って進行し,あるいは起伏を乗り越えて進行する。波長が起伏の波長に比べて大きければ,起伏は平均化され,波は平面を進行するように振る舞う。平面の高さは起伏の平均の高さである。表示されている観測位相速度によれば,最短の周期0.5秒の速度は約1.4km/sである。従って,扱っている波の波長は約700m以上である。これは大飯原発サイトの地形の起伏に比べて充分大きい。表面波は原発サイトを平面として通過することになる。その平面の標高は観測アレイの地震計の標高の平均値である。

 被告関西電力は「仮定的な数値」としているが,表面波はこの高さを地表面と捉えて進行しているのである。さらに「実際には存在しない層厚を差し引くという仮定」と述べているが,計算機は初期条件で与えられた速度に合う層厚を算出したのであり,実際に存在する層厚が探索できる初期条件を与えなければならないのに,それをしていないのが被告関西電力である。「数値操作を行っ」ているのではなく,被告関西電力の与えた初期条件による解析結果を手を加えずに眺めているだけである。この初期条件による基準地震動計算用モデルでは,原子炉は解放基盤から36.5m宙に浮くことになるので,地盤を36.5m引き上げて,あるいは原子炉を36.5m引き下げて解放基盤に立地させた。

 また,被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」とも主張しているが,「観測地点のE.L.の平均値」は微動アレイ観測における基準面であり,「仮定的な数値」ではなく,インバージョン解析における深さ方向の座標原点である。また「実際には存在しない層厚」とするが,それは,原子炉建屋には存在しないが微動アレイ観測網内の平均構造として現実に存在する。表層の層厚が80mであったから「実際には存在しない層厚」と主張しているようであるが,43.5mであっても原子炉建屋付近には「実際には存在しない」が,前記ウの計算例で示したように微動アレイ観測網内には実際に存在するのである。43.5mであれば表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面となって,インバージョン解析の結果は正しく構造を反映していることになるが,その場合も「仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」と批判するのであろうか。

 なお,被告関西電力は,「主に敷地深部の地下構造を把握する目的で微動アレイ観測を実施した」と述べて,「本件発電所の基準地震動は解放基盤表面における地震動を策定するものであるから,その地下構造モデルの策定にあたっては,軟らかい表層部分が存在しない地下構造モデルを策定する必要がある。そのため・・・・最終的な地下構造モデル策定の際に軟らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを当然の前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在していない表層部分(各観測地点には存在する。)を含んだインバージョン解析を実施した」(33頁)としている。

 しかし,これも逆解析結果の意味を理解していないことを示している。逆解析で探索したのは各層の厚さである。各層の深さは第1層からの層厚を加算したものであり,原点は地表面(地震計設置面)である。第1層80mを除くと第2層以下深部に至るまで各層の深さが変わり,基準地震動計算における地震基盤面が変化してしまう。これでは,深部の地下構造を把握したことにならない。


4 ③に関して

 被告関西電力は,地盤の減衰特性について,従前の主張と同じく(例えば,丙179号証,27頁[18 MB]丙314[5 MB]丙315[2 MB]を引用して,減衰定数3%の設定が妥当であると繰り返している(35~36頁)。

 これについては既に甲第422号証[484 KB](4,18~20頁,26頁)で問題点を指摘し,原告第56準備書面では批判の上で被告関西電力から具体的な反論のないことを述べた(11~12頁)。今回の書面においても,新たな具体的な反論は皆無である。

◆原告第69準備書面 目次
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

原告提出の第69準備書面[2 MB]

目 次

第1 被告関西電力準備書面(22)への反論
1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要
2 ①に関して
3 ②に関して
4 ③に関して

第2 被告関西電力準備書面(23)への反論 
1 被告関西電力の主張の概要
2 2018年の大阪北部地震について
3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について

◆第25回口頭弁論 原告提出の書証

甲第506~510号証(第67準備書面関係)
甲第511~512号証(第68準備書面関係)



証拠説明書 甲第506~510号証[134 KB](第67準備書面関係)
(2019年11月25日)

甲第506号証[873 KB]
岩の力学 基礎から応用まで(抜粋)(日本材料学会)

甲第507号証[158 KB]
ホームページ(「岩の判別」)(社団法人日本機械土工協会)

甲第508号証[234 KB]
RQDと弾性波速度(杉本卓司)

・甲第509号証 ファイルの上限を超えているので3つに分割しています。
甲第509号証(1/3)[4 MB]  甲第509号証(2/3)[3 MB]  甲第509号証(3/3)[3 MB]
美浜発電所 地下構造評価について(被告関西電力)

甲第510号証[2 MB]
大飯発電所の地盤構造について―岩盤の亀裂および断層破砕帯に伴う地震波速度の低下―(赤松純平)

証拠説明書 甲第511~512号証[107 KB](第68準備書面関係)
(2019年11月25日)

甲第511号証[203 KB]
口頭弁論要旨(原告 今井崇)

甲第512号証[863 KB]
Googleストリートビュー(原告代理人)

◆第25回口頭弁論 意見陳述

口頭弁論要旨

口頭弁論要旨[203 KB]

2019年11月28日
今井 崇

私は南丹市美山町芦生に住まいして66年になります今井崇と申します。芦生は由良川最上流の村で、美山町のなかでも一番北東の位置にあります。おおい町とも隣接しており、大飯原発から30km範囲のところで生活しています。

今日は大飯原発の差し止めを求める意見陳述をいたします。

私が住んでいる芦生は約5200ヘクタール程の面積がございます。そのうち4200ヘクタールは京都大学の研究林として使われており、650ヘクタールが村の山で、芦生の面積のほとんどは山です。山深く生活条件の大変厳しいところに、2歳の子供から92歳のお婆さんまで計38名が地域住民として生活しています。あと、研究林に勤める京都大学の職員さんが生活しています。

生活するのが困難な芦生でありますが、自然を守り自然を生かして生活してきたからこそ今日まで住み続けてこられました。私は「芦生山の家」の管理運営をやっています。訪れていただく皆さんには、芦生でとれた物を食べていただいております。お婆さんの作る野菜、私が栽培する椎茸、なめこなどのキノコ類です。また、山の家の下に流れる由良川には、鮎をはじめ様々な種類の魚が泳いでいます。これらも大切な食材です。皆、食事がおいしいと言われます。そしてブナの木1本ブリ千匹とも言います。自然の中に在り自然を生かして生活することがこれからの芦生につながっていくものだと確信をしています。台風や大雨にも大きなダメージを受けましたが、その都度地域のみんなで力を合わせ復旧してきました。自然災害は、人々が住む地域を奪われるということはありませんが原発の事故だったらどうでしょうか。30キロ圏内の我々は地域再生が出来なくなり、生活の場を奪われてしまいます。

現在、生活道路である市道芦生灰野線と府道38号線を通学バスと市営バスが1日に7本程度走っています。ところが、市道芦生灰野線は最終まで完成していません。車道がなくなる終点からトロッコ道を約1キロ歩いたところにお二人の方が生活しておられます。今までも台風により橋が流され孤立するということが起きています。私が生まれた4日後、昭和28年の13号台風により自宅には土砂が入り大変でした。その後昭和40年の台風24号、57年台風10号、平成2年台風19号、3年の台風19号、と大きな災害が発生しています。雪も一晩に95センチ積もる大雪の時もありました。

災害のたびに生活道路が通行止めになることが、たびたび発生しています。南丹市道は道幅3.5メートと狭いうえに、ガードレールが整備されていないところもあり、一つ間違えると命がなくなるような道を、生活道路として活用しています。冬季になると除雪作業が行われますが、夕方6時ごろから朝6時ごろまでは30センチ以上の積雪になると通行止めになります。府道38号線も道幅も狭く150ミリの雨が降ると通行止めになります。台風時の倒木、土砂の流出、冬季の積雪、自然災害のたびに通行止めとなります。

このような状況で、由良川の最上流に住んでいる者は避難をすることは困難です。無理です。陸の孤島になる状況です。

また、京都大学芦生研究林は、滋賀県福井県と県境を接した山深いところに位置しここに京都大学生をはじめ多くの学生が植物等の研究にやってきます。職員さんも林内の整備や調査等、頻繁に入山されています。この研究地一部は一般にも開放されており4月から11月ごろまで多くの一般の方がハイキングに訪れていますが、これらのことは原発事故の想定がなされていません。山の中にいる時に事故が起こればどこへ行けばいいのか、入山者に知らせる手立てはあるのか、知らせることが出来たとしても逃げるすべがありません。

私は、昨年度集落の区長をいたしました。台風時においても、連絡網はあるが、独居老人まで、連絡が難しく何よりも避難場所に集まるということ自体無理です。落石や倒木の危険の中、トロッコ道を約一キロ歩き村に出てくることや3.5キロにおよび点在している人家、安全に避難をすることは無理です。降雪時も同じです。

私が管理運営する「芦生山の家」では、原生林のハイキングの案内もしております。専任のガイドが研究林内を案内するものです。ガイドには衛星携帯を所持しながら案内をしておりますが、林内は、通話できるところが限られており、谷合では通話できません。原発事故を知らせるすべがございません。京都大学からも原発事故の対応についての指示は何もありません。由良川の最上流に位置する芦生の森を守ることはそこに住んでいる者だけの利益だけではありません。川を守りそして海を守る、ブナの木一本、ぶり千匹と言われているように豊かな海を守っていくためにも山を荒らしてはなりません。原発事故が起これば、山も川もそして海もあらしてしまいます。元には還りません。原発は自然との共生は出来ないのです。

芦生にはかつて高浜原発とセットで建設されようとしていた、揚水式のダム計画がありました。芦生の研究林内に建設が計画されたのです。地域は関西電力に振り回されました。お金をちらつかせたり、飲食を提供したり、金銭で人の心を奪い取るようなことを何度も仕掛けましたが、村に生きる人々は、お金は一時のもの、一度ダムで村を潰してしまえば二度と美しい山は戻らない。頭の上に水を張ったバケツを置いて安心して眠ることなど出来るはずがないと、反対を貫いてきました。今、この自然を求めて多くのハイカーが訪れてくれています。ここに住まいするものの使命は自然を大切に守り発展させることです。地域に仕事場を作りたくさんの人が住まいできる村にしなくてはなりません。

原発事故が起きたらどうするのか、どう逃げるのか、このような思いを抱えて生活するのは息苦しくて未来への展望も生まれてきません。住むものがこの地を生かして住み続けるために、原発停止、完全な廃止しかないと強く思います。

芦生の村人は貧乏な者ばかりでした。子育て中もどんなにか苦労をしてきたかと思います。けれども貧乏をしてもお金に惑わされなかった父達は、本当に正しかったと思います。ダム建設を許さず、芦生に生きてきた人々のおかげでこの村がある。私もその思いを受け止めこの地域で生きていくそのためにも原発の再稼働中止、そして原発廃止を強く願うものです。

以上

◆原告第68準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府南丹市美山町芦生における問題点について)-

原告第68準備書面
-避難困難性の敷衍(京都府南丹市美山町芦生における問題点について)-

2019年11月20日

原告提出の第68準備書面[628 KB]

目 次

1 原告今井崇について
2 原発事故は、かけがえのない自然を破壊する。
3 避難の困難さ


原告第6準備書面において、避難困難性について述べたが、本準備書面で京都府南丹市美山町芦生に在住する原告の今井崇の日々の暮らしをもとに、避難困難性に関する個別事情について述べる。

1 原告今井崇について

原告今井崇は、大飯原発から約30kmのところに位置する、南丹市美山町芦生に住んでいる。芦生は由良川最上流の村で、美山町のなかでも一番北東の位置にあり、おおい町とも隣接している。下記の写真は、原告今井が経営する山の家の付近の風景である。道幅は非常に狭く、がけ崩れや木が倒れるなどすると通行が非常に困難である。

甲512[863 KB]-1参照 【図省略】)

甲512[863 KB]-2 【図省略】)

甲512[863 KB]-3 【図省略】)

2 原発事故は、かけがえのない自然を破壊する。

芦生で生活する住民は、自然を守り自然を生かして生活してきたからこそ今日まで住み続けてこられたのである。原告今井は、「芦生山の家」の管理運営を行っており、訪れた人々に、芦生で生活する住民が作った野菜、原告今井が栽培する椎茸、なめこなどのキノコ類など芦生でとれた物を提供している。また、山の家の下に流れる由良川には、鮎をはじめ様々な種類の魚が泳いでいる。これらも大切な食材である。芦生を訪れたものは、皆、食事がおいしいと言っている。ブナの木1本ブリ千匹とも言われるように、自然の中に在り自然を生かして生活することがこれからの芦生の生活にとって重要なことである。台風や大雨によるダメージを受けることもあるが、その都度地域の住民が力を合わせ復旧してきた。

芦生では、かつて揚水式のダム計画があったが、村に生きる人々は、お金は一時のもの、一度ダムで村を潰してしまえば二度と美しい山は戻らないと考え、反対を貫き、自然を守ってきた。

自然災害は、人々が住む地域を奪うことはないが、仮に原発事故が起きた場合、かけがえのない自然が破壊され、大飯原発から30キロ圏内の芦生は、地域再生が出来なくなり、芦生の住民は、生活の場を奪われてしまう。

3 避難の困難さ

現在、生活道路である市道芦生灰野線と府道38号線を通学バスと市営バスが日に何便か走っているが、市道芦生灰野線は最終まで完成していない。車道がなくなる終点からトロッコ道を約1キロ歩いたところに二人の住民が生活している。これまでも、台風により橋が流され孤立するということが起きていた。原告今井が、生まれた4日後、昭和28年の13号台風により自宅には土砂が入り大変な状態となった。その後昭和40年の台風24号、57年台風10号、平成2年台風19号、3年の台風19号、と大きな災害が発生している。雪が、一晩に95センチ積もる大雪が発生したこともあった。災害のたびに生活道路が通行止めになることが、たびたび発生している。南丹市道は道幅3,5メートと狭いうえに、ガードレールが整備されていないところもあり、一つ間違えると命がなくなるような道を、生活道路として活用している。冬季になると除雪作業が行われるが、夕方6時ごろから朝6時ごろまでは30センチ以上の積雪になると通行止めになる。府道38号線も道幅も狭く150ミリの雨が降ると通行止めになる。台風時の倒木、土砂の流出、冬季の積雪、自然災害のたびに通行止めとなる。このような状況で、由良川の最上流に住んでいる者は避難をすることは困難である。

また、京都大学芦生研究林は、滋賀県福井県と県境を接した山深いところに位置しここに京都大学生をはじめ多くの学生が植物等の研究を行っている。この研究地の一部は一般にも開放されており4月から11月ごろまで多くの一般の方がハイキングに訪れるが、原発事故の想定は、一切なされていない。山の中にいる時に仮に原発事故が起きた場合、どこへ行けばいいのか、入山者に知らせる手立て等なく、避難するすべもない。

原告今井は、昨年度集落の区長をしていたが、台風時においても、連絡網はあるものの、一人住まいの高齢者には、連絡が難しく何よりも避難場所に集まるということ自体が無理である。

原告今井が管理運営する「芦生山の家」では、原生林のハイキングの案内もしているが、原発事故を知らせるすべ等ない。

このように、仮に原発事故が、起きた場合、避難が不可能である大飯原発は、今すぐに、廃炉にしなければならない。

以上

◆原告第67準備書面
第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること

原告第67準備書面
-被告関西電力関西電力準備書面(22)に対する反論等-

2019年11月22日

目次

第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること

1 断層破砕帯が存在することについては争いがないこと
2 断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと
3 断層破砕帯の存在は考慮されておらずその影響も検討されていないこと
4 岩質が堅硬であるとの被告関西電力の主張について


第3 被告関西電力が等閑視する断層破砕帯は地震動に大きく影響すること


 1 断層破砕帯が存在することについては争いがないこと

上記でも述べたとおり,大飯原発敷地には15本の破砕帯が存在する(次頁に丙45[17 MB]・40頁・図2を引用)《図省略》。

被告関西電力がこれらの破砕帯について調査・検討を行ったのは,これらが将来活動する可能性のある断層であるか否かという観点のみであり,これらが地震動に与える影響という観点からは何ら検討を行っていない(原告第56準備書面・16頁以下)。そして準備書面22[4 MB]では断層破砕帯に一切触れていない。

そこで,この点について敷衍する。

 2 断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと

  (1)新規制基準によっても断層破砕帯が地震動に与える影響を考慮しなければならないこと

基準地震動ガイドは,応答スペクトルに基づく地震動評価において,敷地周辺の地下構造に基づく地震波の伝播特性(サイト特性)の影響を考慮して応答スペクトルを適切に評価することを求め【基準地震動ガイドⅠ 3.3.1(1)②1)】,また,断層モデルを用いた手法による地震動評価においても,地下構造データが適切に取得されていること,地層の傾斜,断層,褶曲構造等の地質構造を評価するとともに,地下構造モデルの設定においては,地震発生層の上端深さ,地震基盤・解放基盤の位置や形状,地下構造の三次元的不整形性,地震波速度構造等の地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されていることを求めている【基準地震動ガイドⅠ 3.3.2(4)⑤】。

そうすると,「敷地周辺の地下構造」の一である断層破砕帯が地震動に与える影響(サイト特性)についても考慮しなければならず,地層の傾斜等の地質構造や地下構造の三次元的不整形性等も適切に考慮しなければならない。

  (2)材料力学的観点からも断層破砕帯の適切な考慮が必須であること

日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」(甲506[873 KB])にあるとおり,「岩盤は大小様々の不連続面(地質学的分離面)を含んだ複雑な構造体で」(445頁)あり,大飯原発敷地も例外ではない。むしろ,第2・5項P波速度コンター図及び被告関西電力の「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六 地盤構造に関する図面[11 MB],6-3-128頁)との主張から,大飯原発敷地の岩盤が均質でないことは明らかであること,「高角度傾斜の節理が発達している」こと(被告関西電力準備書面22[4 MB]・12頁),多数の破砕帯が存在することから,同敷地の岩盤は不連続性の大きい岩盤である。

そして,日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」(甲506[873 KB])は,「不連続性岩盤の力学挙動が信頼し得る制度で予測・評価できるためには,不連続面の分布性状及び力学特性が明らかにされているとともに,それら不連続面の影響を合理的に評価し得る力学モデルが確立されねばならない」(445頁)とする。地震動も岩盤に力が加わった結果であるから,ある地点における地震動を信頼し得る制度で予測・評価できるためには地盤の不連続面の力学挙動を予測・評価する必要があるのであることとなり,そのためには,上記のとおり,不連続面の分布性状等を明らかにすることが必須なのである。

断層破砕帯の分布性状等によって岩盤の力学挙動は変わる。新規制基準によっても断層破砕帯の存在が地震動に与える影響を考慮すべきであるという結論は,こうした材料力学的観点からも裏付けることができる。

 3 断層破砕帯の存在は考慮されておらずその影響も検討されていないこと

  (1)そもそも断層破砕帯が地震動に与える影響を全く検討していないこと

上記のとおり,被告関西電力は,断層破砕帯が活断層であるか否かの観点でのみ検討しており,サイト特性としての観点,すなわち断層破砕帯の存在による構造変化,シームの規模や分布様式などが地震時の震動性状に及ぼす影響は全く検討されていない。

よって,被告関西電力は,新規制基準が求める断層破砕帯についての考慮を行っていない。

  (2)地下構造を適切に把握・考慮していないこと

   ア CM級が広く分布しており堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているのではないという前提に立っていないこと
上記のとおり,被告関西電力は,大飯原発敷地の岩盤の大部分はCH級であると見せかけるように丙28・14頁,同196・11頁の図を引用しているが,実際には1/3以上が「多少軟質化しており,岩質も多少軟らかくなっている」(丙307[2 MB]・101頁)CM級であり,孔によっては半分以上を占めているのであって,堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているとは認められない。被告関西電力はこの事実を等閑視しており,むしろ恣意的に歪めているのである。

   イ 低速度層の存在する深さが場所によって異なっており平坦かつ成層な構造ではないこと
★第2・3項・(3)で明らかにしたとおり,RQDは深さ方向に数~数十mの幅で増減しており,かつボーリング孔の位置によってRQDの小さい層の深さが異なっている。深さ25mごとの平均値を内挿して得たコンター図を次頁に再掲する《図省略》。

上図の赤色の部分はRQDの値が小さく,P波速度は低くなる。図のとおり低速度層が存在しているが,ボーリング孔によって深さ分布は一様ではない。例えばRQDが25%以下の区間は,4号炉西側のNo.1159孔でEL-10~-70m、直下のNo.1157孔でEL-0~-13m、-70~-90m、-125~-145m、-265~-285m、3号炉西側のNo.1155孔でEL-20~-70m、直下のNo.1158孔では部分的に25%を僅かに越える場所があるがEL-30~-130m、-200~-230m、東側のNo.1162孔でEl0~-80mなどの深さにあり、RQDの小さい層の深さが異なっているのである。共通した深さでRQDが著しく低下するような地層は形成されていない。これは、断層破砕帯がシームを伴って髙角度で沈み込み、それぞれのボーリング孔とは異なる深さで斜交しているためと解するのが合理的であり,反対にいえば平坦な成層構造とは認められない。

被告関西電力はこのような地下構造を把握していないか,あるいは恣意的に等閑視しており,当然それが地震時の震動性状に及ぼす影響も全く検討していない。

  (3)断層破砕帯が地震動に与える影響

被告関西電力が「RQDが小さい深度及び孔径が大きい深度,つまり割れ目が多く,地質的に脆弱な深度においてVpと密度の低下が確認された」と述べ,断層破砕帯が存在しRQDが小さい層は低速度層であると認めているように,RQDの小さい岩盤は堅硬ではなく,低速度層であるために,地震動を増幅させることになる。

だからこそ新規制基準も,地質構造や地下構造等を適切に把握しなければならないとしているのである。

  (4)被告関西電力の策定した基準地震動は新規制基準にも悖ること

それにもかかわらず,以上のとおり被告関西電力は,大飯原発敷地は堅硬でないのに恣意的に評価を歪め,地震動に大きな影響を与える断層破砕帯が高角度で沈み込んでいるにもかかわらずこれを等閑視し,地盤は堅硬であるなどと主張しているのであって,新規制基準を前提にしたとしてもサイト特性や地質構造,地下構造を適切に評価しているとは認められない。

よって,被告関西電力の策定した基準地震動は新規制基準にも悖るものであって,信頼性がないこともまた明らかである。

 4 岩質が堅硬であるとの被告関西電力の主張について

被告関西電力はボーリングコア等によって岩質が堅硬であること等が確認されたと主張しているが,新規制基準は敷地周辺の地下構造に基づく地震波のサイト特性の影響を考慮するように,あるいは地下構造及び地盤の減衰特性が適切に評価されることを求めているのであるから,岩質が堅硬であることを確認したのみでは同基準を充たしたことにはならない。上記のとおり,「地盤の力学挙動は…岩石が示すそれとは本質的に異なる」(日本材料学会「岩の力学-基礎から応用まで」 甲506[873 KB])のであるから,サイト特性の影響等を考慮するためには断層破砕帯が地震動に及ぼす影響を考慮しなければならないのである。

よって,岩質が堅硬であることを確認したとしてもサイト特性その他新規制基準の要求する要素を考慮したことにはならず,被告関西電力の主張には理由がない。

以 上

◆原告第67準備書面
第2 地盤は堅硬ではないこと

原告第67準備書面
-被告関西電力関西電力準備書面(22)に対する反論等-

2019年11月22日

目次

第2 地盤は堅硬ではないこと

1 基本的な誤り
2 「軟質化し軟らかい」CM級が広く分布しており堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているとはいえないこと
3 RQDの値が低く「普通」水準にも遠く及ばないこと
4 最大コア長の平均値が小さく堅硬な岩盤とはいえないこと
5 P波速度が場所によって大きく異なっており堅硬でないことを示すこと
6 岩級区分・RQD・最大コア長・地震波伝播速度の各検討結果に整合性があること
7 平成28年2月の事業者ヒアリングにおける被告関西電力の説明
8 まとめ

 


第2 地盤は堅硬ではないこと


 1 基本的な誤り

  (1)被告関西電力の主張

被告関西電力は,大飯原発敷地の岩盤が堅硬であることの根拠として,まず,地質調査の結果RQDは高くないものの細粒石英閃緑岩及び輝緑岩そのものは堅硬で節理が密着していること(10頁以下),岩盤を構成する主要な岩石の種類が硬岩であること(13頁以下)を挙げている。

しかし,次のとおり,岩石が堅硬であることは岩盤が堅硬であることを意味しない。

  (2)岩石が堅硬であることは岩盤が堅硬であることを意味しないこと

「同一種類の硬岩の岩盤であっても,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する場合には,その堅硬度合いには若干の違いが生じ得る」(16頁)と自認せざるを得ないように,岩盤の強度は,不連続面[1]によって決まる。とりわけ硬岩の場合,軟岩に比べて不連続面の与える影響が大きい。

これらの点について,日本材料学会編「岩の力学」(甲506号証[873 KB])は次のとおり述べる。

「岩盤は大小様々の不連続面(地質学的分離面)を含んだ複雑な構造体である。岩盤の力学挙動は,構成母岩材の材料特性と不連続面の配置状態およびそれら不連続面の力学特性が混ざり合って発揮された結果として具現し,岩石が示すそれとは本質的に異なる。」(445頁)

「鋼構造物のように工場で生産される均質な鋼製品を構造材料とするようなものについては,試験片から構造材料の特性を特定すれば構造物全体の力学挙動は精度よく予測・評価することができる。しかしながら,自然界で形成された岩盤についてはその内部における不連続面の位置,方向,大きさ,連結性,およびそれらの力学特性といったような,岩盤の構造を特徴づけている事柄は完全に特定することはできない。それがために,岩盤については鋼構造物に対するように,構成材料(岩石)の特性を知って目的とする構造物全体の力学挙動を予測するといった力学の図式は単純にあてはまらない。」(445頁)

「一般的に言えることは,軟岩においては,岩質と不連続面の力学的性質の差が少なく,岩質を中心とした評価が可能なのに対し,硬岩では岩質よりも不連続面の影響が大きいため,現地における不連続面の評価が重要となる。」(529頁)

このように,「岩盤の力学挙動は…岩石が示すそれとは本質的に異なる」「岩盤については…(岩石)の特性を知って目的とする構造物全体の力学挙動を予測するといった力学の図式は単純にあてはまらない」(445頁)のである。

[1] 節理,断層,破砕帯〔断層に沿って岩石が破壊された帯状の部分〕,シーム〔破砕帯に付随する岩盤の割れ目〕等

  (3)小括

よって,岩石の種類を根拠に岩盤が堅硬であると述べる被告関西電力の主張が誤りであることは明らかである。

被告関西電力は「ボーリングコア及び試掘坑内から採取した資料について,その他物理試験,超音波速度測定及び力学試験も実施して,岩盤が堅硬であることを確認している」と主張するが(18頁),それらの試験は採取した試料即ち岩石についてのものでしかなく,岩盤そのものの堅硬さを試すものではないから,やはり岩盤が堅硬であることの論拠とはなり得ない。

 2 「軟質化し軟らかい」CM級が広く分布しており堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているとはいえないこと

  (1)被告関西電力の主張する地質調査結果

被告関西電力は,大飯原発敷地の岩盤が堅硬であることの根拠として,次に,その岩盤は大部分が電研式岩盤分類におけるCH級であるかのように見せかけた上で(丙28・14頁[13 MB]同196・11頁[19 MB]),岩質が堅硬であること,そうした堅硬な岩盤が著しい高低差なくほぼ水平に広がっていること,を挙げる(16頁以下)。《図省略》

そこで,この点について述べる。

  (2)ボーリング柱状図(被告関西電力の主張する地質調査結果の原データ)

被告関西電力が大飯発電所建設前に実施したボーリングの柱状図が丙178・6-3-588頁[11 MB]以下に掲載されている。例としてNo.1157孔の柱状図の一部を次頁に引用する(同608頁[11 MB])。《図省略》

  (3)実際にはCM級が約37%を占めていること

   ア No.1157孔
このうち「岩級区分」[2]を読み取り図化すると,例えば先に示した柱状図と同じNo.1157孔について以下のとおりとなる。《図省略》

オレンジ色で表されるCM級が深部まで分布しており,標高0m以深では厚さにして全体の27.9%がCM級となっている。また、断面図(前掲〔5頁〕。丙28・14頁[13 MB]同196・11頁[19 MB])に記載されていない標高-200m以深では約-266~-282mに厚さ16mに及ぶCM級の層が存在している。

[2] 電研式岩盤分類について丙307[2 MB]・101頁。
CH級:造岩鉱物および粒子は石英を除けば風化作用を受けてはいるが岩質は比較的堅硬である。一般に褐鉄鉱などに汚染せられ,節理あるいは亀裂の間の粘着力はわずかに減少しており,ハンマーの強打によって割れ目に沿って岩塊が剥脱し,剥脱面には粘土質物質の薄層が残留することがある。ハンマーによって打診すれば少し濁った音を出す。
CM級:造岩鉱物および粒子は石英を除けば風化作用を受けて多少軟質化しており,岩質も多少軟らかくなっている。節理あるいは亀裂の間の粘着力は多少減少しておりハンマーの普通程度の打撃によって,割れ目に沿って岩塊が剥脱し,剥脱面には粘土質物質の層が残留することがある。ハンマーによって打診すれば多少濁った音を出す。

   イ 敷地全体
同様にすべてのボーリング柱状図について「岩級区分」を読み取り図化すると,次のとおりとなる。《図省略》

オレンジ色で表されるCM級が深部まで,かつ相当程度の割合で存在していることが見て取れる。

そこで各岩級の層の厚さが占める割合を算出すると,次頁の表のとおりとなる《表省略》。標高0~-150mの範囲では全体の約37%(累計約55m)がCM級以下の岩級となっており,堅硬さの劣るCM級以下の岩盤が全体の1/3以上を占めているのである。
さらに,ボーリング孔の位置による岩級分布の違いが顕著となっている。すなわち、まず3、4号炉の北西側に位置するNo.1153~1156孔4本を平均するとCM級以下が31.3%となり,次に炉心直下のNo.1157、1158孔を平均すると33.1%に増加し,さらに南東側のNo.1159~1162孔では47.7%とさらに増加しているのであり、北西側から南東側にCM級以下が増加し、岩盤が弱くなっていることが読み取れる。特に南端のNo.1159孔は半分以上の53%がCM級以下である。

この標高-150mまでの岩級分布による北西側から南東側への岩盤の劣化傾向は、後述のシームの分布密度やP波速度の場所による変化の傾向と一致しており,深部でも南東側で地震波速度が低下していることを示している。

  (4)まとめ

前述のとおり被告関西電力は,大飯原発敷地の岩盤の大部分はCH級であると見せかけるように下図を引用している(丙28・14頁[13 MB]同196・11頁[19 MB])。《図省略》

しかし実際には全体の1/3以上が電研式岩盤分類において「多少軟質化しており,岩質も多少軟らかくなっている」(丙307[2 MB]・101頁)CM級であり,孔によっては半分以上を占めていることが明らかとなった。上図は事実に反する。そして上記のとおり,これは被告関西電力の作成したデータ(丙178・6-3-588頁[11 MB]以下)を分析した結果である。

よって,堅硬な岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているとの被告関西電力の主張は事実に反している。被告関西電力が引用している上図も岩級を正確に表現したものではなく,恣意的に作成されたものである。

被告関西電力が原子力規制委員会に提示した岩級区分に関する情報が事実に反する以上,同委員会が被告関西電力の言い分を是認しているとしても(準備書面22[4 MB]・22頁),そのことが何らの意味を持たないことは明らかである。

 3 RQDの値が低く「普通」水準にも遠く及ばないこと

(1)岩盤の堅硬さについて定量的評価を可能とするRQDの値

1項で述べた通り,岩石の種類は岩盤が堅硬であることの論拠とならないのであるが,では,どのような指標により判断されるか。それがRQD[3]の値であり,これによって岩石の砕けやすさと岩盤の不連続面の頻度に関する情報を得ることができる(甲507[158 KB])。CM級などの岩級は定性的な分類であるため試験者の技量・経験など主観による個人差が含まれる面も否定できないが,RQDによれば個人差を排し定量的評価が可能となり,岩盤の堅硬さを示す客観的指標となる。

この点,被告関西電力は「R.Q.D.は高くないが」(準備書面22[4 MB]・12頁)と,RQD(Rock Quality Designation)の値が低いことを自認しつつ,それを等閑視するが,岩盤の物性に関する定量的・客観的指標を無視するものであって不当である。

[3] Rock Quality Designation

  (2)RQDの意義

RQDは,準備書面22[4 MB]脚注9のとおり,ボ-リング1m区間毎の10cm以上のコア[4]長の総和を%で表す。式で表せば以下のとおり(甲507[158 KB])。

RQD=Σ(10cm以上のコア長)%

これにより不連続面の多寡を定量的に客観的指標として表すことができるため,岩盤の質を主観を排して判定することができ,50%~70%が「普通」,75%以上が「良好」,90%以上が「非常に良好」とされる(★甲506・541頁)。

上記のとおり被告関西電力は「R.Q.D.は高くないが」(準備書面22[4 MB]・12頁)と述べながら,ではその高くないとするRQDの値がどの程度なのかを一切示していない。RQDの値が小さいということは岩盤に亀裂が多くそれだけ脆弱であるということであり,地震伝播速度も小さくなる[5]

そこで,被告関西電力が意図的に明らかにしないRQDの分布について検討する。

[4] 地盤の状況を調査するためのボーリング調査によって得られる円柱状の土壌や岩石片
[5] 被告関西電力も「RQDが小さい深度及び孔径が大きい深度,つまり割れ目が多く,地質的に脆弱な深度においてVpと密度の低下が確認された」と述べ,断層破砕帯が存在しRQDが小さい層が低速度層であることを認めている。

  (3)大飯原発敷地のRQDの値は「普通」の水準にも遥かに及ばないこと

   ア 大飯原発敷地のボーリング柱状図のRQD
以下は4号炉直下のNo.1157孔のRQD等の値である。《図省略》

RQDの大部分は「普通」にも充たない50%以下であり,岩盤が脆弱であることが示される。

特にCM級の層のRQDは小さくなっており,両者の相関性は高い。

   イ ボーリング柱状図のRQDの深度毎の比較
提示されている10本すべてのボーリング柱状図のRQDは次図のとおりである。《図省略》

これを元に標高0m以下の層のRQDの平均値をまとめると次頁の表のとおりとなる。《表省略》

すべてのRQDの平均値は(28.7±25.1)%であり,全体としてみても不連続面の多い「普通」以下の岩盤ということになる。

また,RQDは深さ方向に数~数十mの幅で増減しており,かつボーリング孔の位置によってRQDの小さい層の深さが異なっている。これは、断層破砕帯がシームを伴って高角度で沈み込み、それぞれのボーリング孔とは異なる深さで斜交していることを反映したものと考えられる。

さらに,炉心の北西側(孔番No.1153~1156)、炉心位置(孔番No.1157~1158)、南東側(孔番No.1159~1162)の平均値(標高0~-150m)を見ると,RQDの平均値は、北西側の33.6%から、炉心直下の27.8%、南東側の22.6%へと系統的に著しく減少している。これは、北西側から南東側へ岩盤の不連続性が増していること、すなわち亀裂の頻度が増していることを表している。

  (4)RQDから示されるP波速度の場所による変化

上記のとおり,RQDの値が小さいということは不連続面が多いということであり,それだけ地震波速度が遅くなるということである。

次頁の図は,3,4号炉建屋を含む240m×130mの直下における,各ボーリング孔の深さ25mごとの平均値を内挿して得たコンター図である《図省略》。RQDの彩色表示のスケールは同じで、RQD大(速度大に相当)が緑、黄から赤にかけてRQD小(速度小に相当)となる。また、ボーリング孔の位置が茶色の点で示されている。

ボーリングが10地点でしか行われていないものの,それぞれの図の上部(北西側)でRQDが大きく=速度が大きく,下部(南東側)で小さい=速度が小さいという傾向は、概ね共通する。

 4 最大コア長の平均値が小さく堅硬な岩盤とはいえないこと

次に最大コア長[6]の分布について検討する。

最大コア長もRQDなどと同じくボーリングコア観察において検討される要素の一つであり,コアの形状(長さ)のイメージは次図のとおりである《図省略》。

各ボーリング孔における最大コア長の平均値は次頁の表のとおりである《表省略》。

標高0~-150m区間ではボーリング孔によって最大コア長の平均値が12.5~18.8cmに分布しており、全体の平均値は16.0cmである。最大コア長の平均値がこれであるから,採取されるコアはさらに短く,平均コア長はより短い。

電研式岩盤分類によれば,CM級の岩盤の「コアは10cm前後」とされており(次頁の表《表省略》),上記のとおり,被告関西電力が示している図(丙28・14頁[13 MB]同196・11頁[19 MB])とは異なって大飯原発敷地にCM級が広く分布しているとの分析結果と整合している。

さらに,炉心の北西側(孔番No.1153~1156)、炉心位置(孔番No.1157~1158)、南東側(孔番No.1159~1162)の平均値(標高0~-150m)を見ると,最大コア長は、北西側の18.0cmから、炉心直下の16.2cm、南東側の13.9cmへと系統的に大きく減少している。これは、北西側から南東側へ岩盤の不均質性が増していること、すなわち亀裂の頻度が増していることを表している。

岩級区分分布やRQDの値などと同じく、最大コア長の分布という観点から検討しても、深部まで南東側で岩盤が劣化して地震波速度が低下していることが示されている。

[6] 1m区間ごとに採取されたコアの最大の長さをセンチメートル単位で記したもの

 5 P波速度が場所によって大きく異なっており堅硬でないことを示すこと

  (1)地盤の堅硬さと地震波伝播速度との関係

地盤が堅固であれば地震波伝播速度は大きく,堅固でなければ同速度は小さい。

そうすると,被告関西電力の主張するように堅硬な岩盤が著しい高低差なくほぼ水平に広がっているのであれば,大飯原発の敷地において,地震波の伝播速度にほとんど違いは生じないはずである。

  (2)東に向かうほどP波速度が低下していること

しかし現実には,P波速度は西(図の左上)から東に顕著に低下しており,4号炉の炉心下では4.3~4.5km/sであるが,3号炉の炉心下では3.8~4.0km/sと,大きな違いがある(原告第56準備書面[924 KB]5頁,12~13頁,甲422・付図42の下の図)《図省略》。この結果は,岩盤が均質ではないこと,特に3号炉炉心下の岩盤が相当堅硬でないことを示してもいる。

3号炉・4号炉地下の破砕帯及びシームの分布図は,前頁の上の図(甲422・付図42の上の図)のとおりである《図省略》。

  (3)P波速度からも岩盤が堅硬でないことが明らかであること

両図を合わせ見れば,西方向から東方向へのP波速度の低下と破砕帯及びシームの分布との関係性は明らかであり,特に東側において破砕帯等が多く存在し堅硬な岩盤でないことを示している。

被告関西電力も「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第3.5.114図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六 地盤構造に関する図面[11 MB],6-3-128頁)とP波速度に大きなバラツキがあることを認めており,このことは,岩盤が均質でないことを裏付けているといえる。

 6 岩級区分・RQD・最大コア長・地震波伝播速度の各検討結果に整合性があること

上記の各検討結果のいずれも,大飯原発敷地の北西側から南東側にかけて岩盤の脆弱化(亀裂の増加)・地震波速度の低下があることを示しており,整合的である。

 7 平成28年2月の事業者ヒアリングにおける被告関西電力の説明

上記のとおり被告関西電力は,平成28年2月の事業者ヒアリングでは「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は、第5.110図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s、変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六 地盤構造に関する図面[11 MB],6-3-128頁)と説明していた。

然るに,①まずP波速度に3.0km/s~5.2km/sと倍近い開きがあるのにこれを無視し,②次に「平均値4.3km/s」と説明しているにもかかわらず基準地震動評価用の地盤モデルでは何の留保もなく表層のP波速度を4.6km/sとしている。岩盤が堅硬であるほどP波速度は大きくなるのであるから,被告関西電力は,自身の説明を超えて地盤がより堅硬であると根拠なく修正しているのである。

 8 まとめ

大飯原発敷地の岩盤が堅硬であるとの被告関西電力主張の論拠は,上記のとおり,地質調査の結果判明した岩石が堅硬であること(10頁以下),岩盤を構成する主要な岩石の種類が硬岩であること(13頁以下),CM級以上の岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっていること(16頁以下)の3点である。

しかし,前二者の「岩石」が堅硬であることは「岩盤」が堅硬であることの論拠となり得ないことから,実質的には後者のみが論拠ということになる。然るに,その点について被告関西電力が行ったボーリングコア等の原データを分析すれば,CM級以上の岩盤が大きな高低差なくほぼ水平に広がっているという事実は認められない。それどころか「普通」にも遥かに及ばない脆弱とすらいえる岩盤であることは明らかである。

よって,大飯原発敷地の岩盤が堅硬であるとの被告関西電力の主張は論拠がなく,失当である。