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◆原告第70準備書面 第2
熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合

1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ


第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合


1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域

 熊本地震についてAsanoandIwata(2016)が設定した断層モデルによる,断層面の地表面投影図と断層面上のすべり量分布図は次頁(5頁)の図のとおりである。

《図省略》

 上図の地表面投影図では,前震の断層面の傾斜はほぼ鉛直であるので,震源断層は青色の直線で示されている。本震の断層面は両セグメントとも傾斜しているので断層面は幅を持って示されている。KMMH16観測点は前震の断層線から約2.5km離れている。本震では,観測点は布田川断層面(北東側セグメント)の上に位置している。

 中図と下図はそれぞれ前震と本震の断層面上のすべり量の分布を示している。両図とも右側が南西方向であるので,上図の平面図とは逆の位置関係にあることに留意する必要がある。中図に示した前震は深さ8.5km付近で断層破壊が始まりその周辺付近ですべり量が大きい。下図の本震では,右側(南西側)の日奈久断層面上の☆印で破壊が始まり,破壊が伝播して左側(北東側)の布田川断層中央部付近のすべり量が最も大きい。


2 地震波の入射位置の設定

 KMMH16地中観測点はVs=2.7km/s(標高-197m)の岩盤に設置されているところ,関電地盤モデルにおいて同じVs=2.7km/sの層は深さ0.79kmの第6層である。

 そこで第1~5層を地盤,第6層以下を地震基盤と考え,第6層から第5層に熊本地震で観測された加速度記録の地震波が入射した場合の地表面の地震動を計算する。


3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録

(1) 前 震

 前震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(7頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は237ガル,EW成分は178ガルである。
 地震波の震幅は断層の走向と振動方向の関係によって変化しており,次々頁(8頁)の図のとおり,震動方向によって加速度ピーク値の最大値と最小値には1.56倍の開きがある。

《図省略》

(2) 本 震

 本震のKMMH16地中水平動成分加速度記録は次頁(9頁)の図のとおりである。加速度ピーク値は,NS成分は159ガル,EW成分は243ガルである。

《図省略》


4 地盤構造モデルと地盤による増幅率

 KMMH16地中観測点で記録された地震波動が大飯原発原子炉直下の地盤に入射したとして,原子炉が設置されている岩盤(解放基盤)の地震動を評価する。検討に用いる地盤構造モデルは,被告関西電力が基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)と,3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)である。

(1) 関電地盤モデル

 基準地震動策定用に用いているモデル(関電地盤モデル)の定数と地盤増幅率は次頁(10頁)の図「関電地盤モデル」のとおりである。

《図省略》

 被告関西電力が基準地震動を評価した地盤モデルでは,第6層のS波速度が2.7km/sであるので,この層から上部の地盤にKMMH16の波形が入射するとする。増幅率は表面効果により全ての周波数で2倍である。第1層のS波速度が2.2km/sと大きく層厚も大きいので,表層による増幅効果は小さい。また,減衰量(h)が大きく設定されているので,増幅率は高周波数域に向けて大きく減衰している(この点については第60準備書面[904 KB]6頁以下で詳述)。

(2) 3号炉地盤モデル

 3号炉近辺の速度と地震波減衰量とを考慮したモデル(3号炉地盤モデル)の定数と地盤増幅率は上図「3号炉地盤モデル」のとおりである。

 既述のとおり,関電地盤モデルの減衰定数(h)は,大阪平野の土質地盤の値よりも約1.5倍大きい。岩盤の減衰が土質地盤よりも大きいことはあり得ないので,減衰定数は関電モデルの値の1/1.5(=2/3)とした。3号炉地盤モデルの増幅率は,関電地盤モデルに比べ,8Hz以上の周波数域で1.2~1.5倍大きい。


5 地盤モデルへの入力地震波

(1) 距離減衰量の補正

 熊本地震のKMMH16地中加速度記録をFO-B~FO-A~熊川断層に適用するにあたっては,前震および本震のすべり量の大きい領域(強震動生成域)が原発サイトの直下付近であるとして,KMMH16の記録波形に距離減衰量を補正(補正量kを算出)して地盤モデルへの入力波とする必要がある[脚注1]

 そこで前震及び本震における補正量を求めると次のようになる。

[脚注1] 補正量kの算出方法は次のとおり。
《数式省略》

(2) 前 震(M6.5)

 前震の断層面はほぼ鉛直(傾斜角89°)であり,強震動生成域の深さを10km(図1)とすると,KMMH16地中観測点までの距離は12.4kmとなる。

 大飯原発サイトはFO-A断層線から南西方向に約2km離れており,また地盤下部のVs=2.7km/s層の上面は深さ0.79kmであるので,強震動生成域からの距離は9.4kmである。

 波面の拡がりによる幾何減衰補正量は1.32,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.068~1.040であるので,簡単のために1.05とした。従って補正量kは1.39となる。

(3) 本 震(M7.3)

 本震の布田川断層中央部の強震動生成域の深さを,断層面に沿って8km(図1)とすると,断層面の傾斜は65°であるので,深さは7.25kmとなり,KMMH16までの距離は11.7kmとなる。

 FO-A断層面も同じく65°南西側に傾斜しているとすると,強震動生成域は大飯原発サイトの南西側約1kmとなり,サイト直下のVs=2.7km/s層上面までの距離は6.54kmとなる。

 幾何減衰補正量は1.79,Qによる減衰補正量は0.1~20Hzで1.120~1.069であるので,簡単のために1.08とした。これによると補正量kは1.93となる。


6 大飯原発サイト解放基盤における強震動

 前震と本震について,それぞれ関電地盤モデルおよび3号炉地盤モデルに入射した場合の地表面(解放基盤)における加速度波形と加速度応答スペクトル(h=0.05)を計算すると,次のとおりとなる。

(1) 前 震

ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=659ガル,Peak_EW=487ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=780ガル,Peak_⊥=655ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=735ガル,Peak_EW=528ガルである。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.7倍越える周期帯がある。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=841ガル,Peak_⊥=741ガルであり,Peak_∥の値は,基準地震動856ガルの98.2%である。
・応答スペクトルは,0.2秒以上の周期帯でSs-1を約1.8倍越える周期帯がある。

(2) 本 震

 ア 関電地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=656ガル,Peak_EW=988ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.15倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で最大約3.8倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=760ガル,Peak_⊥=1013ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.18倍となっている(ただし,断層平行・直交はそれに近いという意味で使っており,断層平行はN15°E,直交はN105°Eの方位である)。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.4倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

イ 3号炉地盤モデルの場合

  (ア) NS・EW方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_NS=697ガル,Peak_EW=1067ガルであり,後者の値は基準地震動856ガルの1.25倍となっている。
・ 応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で最大約4倍となっている。

  (イ) 断層平行(∥)・直交(⊥)方向
・加速度ピーク値Peakは,Peak_∥=812ガル,Peak_⊥=1095ガルであり,Peak_⊥の値は,基準地震動856ガルの1.28倍となっている。
・応答スペクトルは,Ss-1の0.12秒で約1.7倍,0.35秒以上で約3.3倍となっている。

(3) 被告関西電力の策定した基準地震動との比較

 以上のとおり,熊本地震の本震による速度応答スペクトルは,0.5秒以上の周期で基準地震動Ss-2~Ss-18より2~8倍,平均して4倍程度大きい。M6.5の前震でも0.3秒以上の周期で基準地震動と同程度の振幅である。

 基準地震動は「レシピ」に従って計算されたM7.8地殻内地震の平均的な地震動である。熊本地震は地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされている。解放基盤の地震動を応答スペクトルで評価すると,M7.8の地震を想定した基準地震動は,0.3秒以上の周期帯でM6.5の実地震と同程度,0.5秒以上の周期帯ではM7.3の実地震の1/4程度の大きさでしかない。

 基準地震動の想定するM7.8と,熊本地震のM7.3とでは,地震の規模が何倍も違っており,後者の程度の地震が発生する可能性は十分にある。被告関西電力の基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,そのような地震に耐えられないということである。


7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係

 8頁の図のとおり,熊本地震の前震の地震動の振幅は,断層の走向と同じ方向及び直交する方向の2方向で大きくなっている。これには,断層面のすべりの方向で決まる地震波の放射特性(ラディエーション・パターンradiation pattern[脚注2])と断層破壊の伝播方向(ディレクティビティdirectivity[脚注3])とが関係する。

 震源断層に近い強震動は,1995年兵庫県南部地震(M7.3)で強く認識されたように,震源断層に直行する方向に強く揺れる。ディレクティビティ効果によって断層直交方向の震動が卓越することが,モデル計算によっても明らかにされた。かかる効果の影響を受け,南西-北東方向である震源断層の走向と概ね平行して伸びていた鉄道や道路網などが,横倒しになり,あるいは横方向にずれたのである。近似の研究により,このディレクティビティ効果は震源断層近傍の普遍的な現象であることが明らかとなってきた(甲515[4 MB]516[4 MB])。

 断層破壊を仮定した強震動予測は,次頁(16頁)の図のように,断層面上の要素断層が次々に破壊して生じる地震波の重ね合わせとして表現される。

[脚注2] 断層運動(すべり)によって生じる地震波の振幅は,波の伝播方向に依存して変化する。この方向特性をラディエーション・パターンと称する。
[脚注3] 断層面上で破壊の伝わる速さはS波速度よりやや小さい。そのため,破壊の伝搬方向にある観測点では,次々と伝わってくる断層破壊の震動が建設的に干渉して大きく増幅される。この現象を「ディレクティビティ効果」と呼ぶ。救急車が近づいてくる際のドップラー効果に似ている。

《図省略》

 微小な要素断層のS波のラディエーション・パターンは4象限型をしており,最大振幅の方向は,断層すべりの方向とその直角方向とであり,その重ね合わせも概ねこの方向性を保持している。このような指向性を有する水平動成分の振幅は,地震計の設置方向に依存して変化するため,地震動の振幅は,記録する地震計の設置方位によって見かけ上異なることとなる。

 被告関西電力は,大飯発電所の基準地震動(総括)として,最終的にSs-1~Ss-19を策定し,最大加速度は,水平がSs-4の856ガル,鉛直がSs-14の613ガルと評価して,それぞれの加速度波形と応答スペクトルを提示している。水平加速度ピーク値が最大のSs-4は,NS方向が546ガル,EW方向が856ガルである。しかし,表示されている加速度波形が同位相(同時刻の波)であるとすると,最大のピーク値は,EW成分の856ガルではなく,概ね北東-南西方向の1,015ガルである。この方向はFO-B~FO-A~熊川断層モデルの走向に直交する。

 水平動成分の基準地震動は,断層走向に応じてディレクティビティ効果を考慮し,最大震動方向によって評価しなければならないのである。被告関西電力はこれを怠っており,過小評価となっている。規制委員会でも,ディレクティビティ効果を踏まえた検討はなされていない。


8 まとめ

 基準地震動を計算した大飯原発直下のアスペリティに熊本地震本震(M7.3)の強震動生成域が生じたとすると,解放基盤における加速度ピーク値は,関電地盤モデルでは水平動成分の向きにより最大1,013ガル,また3号炉地盤モデルでは最大1,095ガルに達する(上記(6))。これはM7.8 の地殻内地震を想定しているはずの基準地震動856ガルの1.18~1.28倍である。また,解放基盤における応答スペクトルを基準地震動Ss-1の応答スペクトルと比較すると,速度スペクトルの値はM6.5の前震でさえ0.3秒以上の周期帯でSs-1と同程度~2倍近く,M7.3の本震では0.5秒以上の周期帯ではSs-1の4倍に達する(同)。このように,被告関西電力が独自に策定した基準地震動を耐震基準とした大飯原発は,2016年熊本地震に耐えられない。

 熊本地震の観測記録の水平動成分は,断層モデルから射出される地震波のラディエーション・パターンとディレクティビティ効果とに起因して,断層走向に平行な方向および直交方向の成分が大きい。基準地震動はFO-B~FO-A~熊川断層を北西-南東走向の横ずれ断層としてモデル化しているため,水平動成分をNS・EWの座標系で表すと,最大で3割程度過小に評価することになる。

 以上のとおり,熊本地震にて現に観測された加速度記録を適用してみると,大飯原発の基準地震動が過小評価であることが判明する。大阪北部地震で現に観測された記録を元にした第60準備書面[904 KB]と併せ,想定地震と現に発生した地震との違いを顕著に表すものであり,第64準備書面[2 MB]その他でこれまで原告が繰り返し指摘してきた過小評価の危険性をさらに裏付けている。

◆原告第70準備書面 第1
本書面の概要(甲514)

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

目 次


第1 本書面の概要(甲514)

 被告関西電力は,FO-B~FO-A~熊川断層モデルによるM7.8の地震を想定し,独自に作成した地盤構造モデル(関電地盤モデル)によって基準地震動を策定している。すなわち,基準地震動を,地殻内地震のスケーリング則に準じたM7.8の地震の震源特性と関電地盤モデルによるサイト特性とにより計算しているのである。この際,スケーリング則が内包する1.4倍の偏差を考慮していないが,保守性については短周期の振動レベルを1.5倍にするなどしてこれを持たせているとしている。

 これに対して原告らは,既に第60準備書面において,大阪北部地震をFO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価し,基準地震動が過小評価であることを明らかにしているが,本書面では,赤松意見書(甲514[1 MB])に基づき,2016年に発生し,地殻内地震のスケーリング則に従う標準的な地震であったとされる熊本地震の加速度記録を用いて同様の評価を行うこととする。FO-B~FO-A~熊川断層で,スケーリング則に従う熊本地震と同じ震源特性を有する地震が発生したとき,基準地震動を越えないのであろうか。

 熊本地震は前震がM6.5,本震がM7.3と,本震の方が規模が大きくなっている(エネルギー費で15.8倍)。第60準備書面では大阪北部地震のM6.1を基準地震動における想定=M7.8にスケールアップして評価したが(第60準備書面3~4頁),本書面では熊本地震のM7.3等をそのまま適用して評価する。具体的には,熊本地震の震源断層の直近にある防災科学技術研究所の基盤強震観測網(KiK-net)の益城観測点(KMMH16)の,S波速度(Vs)2.7km/sの岩盤に設置された地中地震計で記録された,前震で289ガル,本震で287ガル(3成分合成)の加速度波形を,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して原子炉基盤面の地震動を計算し,大飯原発の基準地震動と比較する。

 これにより,基準地震動が,スケーリング則の平均値による震源特性と,増幅率を小さくする関電地盤モデルであることとの相乗効果によって,過小に評価されていることを明らかにする(下記2項(1)ないし(6))。また,地震動は断層走向方向の成分および直交成分が大きいので,形式的に東西,南北方向成分で計算した基準地震動は過小評価であることも合わせて指摘する(下記2項(7))。これらは,第60準備書面同様,現に発生した地震の観測データを,FO-B~FO-A~熊川断層に適用して地震動を評価したものであり,実際にあった断層破壊過程が用いられているのであるから,地震動評価の信頼性は格段に高い。

 さらに,新たな視点として,FO-B~FO-A~熊川断層が震源断層となった場合,最新の技術・知見によって解明されてきた「おつきあい地震断層」により,敷地内断層破砕帯とそれに伴うシームが原子炉建屋の立地する基盤面に「くい違い」を生じさせる危険性のあることを明らかにする。この点について,原子力規制委員会では一切議論されていない。

◆原告第70準備書面 目次
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

原告第70準備書面
-2016年熊本地震を踏まえた主張-

2020年2月26日

原告提出の第70準備書面[1 MB]

目 次

第1 本書面の概要(甲514)

第2 熊本地震で記録された地震波動が原子炉直下の地盤に入射した場合
1 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の強震動生成域
2 地震波の入射位置の設定
3 熊本地震の前震(M6.5)と本震(M7.3)の加速度記録
4 地盤構造モデルと地盤による増幅率
5 地盤モデルへの入力地震波
6 大飯原発サイト解放基盤における強震動
7 断層面上のすべり方向と強震動の振動方向との関係
8 まとめ

第3 「おつきあい地震断層」について
1 技術の進歩によって認知されるようになった「おつきあい地震断層」
2 FO-B~FO-A~熊川断層に伴う「おつきあい地震断層」の危険性
3 まとめ

第4 なぜMが小さいのに基準地震動を超過するのか
1 序
2 震源特性の違い
3 サイト特性の違い(関電地盤モデルと3号炉地盤モデルの違い)

◆原告第69準備書面 第2
被告関西電力準備書面(23)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第2 被告関西電力準備書面(23)への反論

1 被告関西電力の主張の概要
2 2018年の大阪北部地震について
3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について


第2 被告関西電力準備書面(23)への反論


1 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,準備書面(23)[2 MB]において,①原告らが第60準備書面において大阪北部地震を踏まえた主張を行ったことについて,独自の手法に基づくものにすぎないなどと反論し,②地下構造モデルに関する原告らの主張については従前の主張を繰り返し,具体的な反論は行っていない。

 そこで,これらの点について必要な範囲で改めて述べる

2 2018年の大阪北部地震について

(1) 被告関西電力の主張

 この点に関する被告関西電力の主張は,

㋐ 基準地震動は,地震本部によるレシピを参照し,過去の地震ないしは地震動の単なる「平均像」ではなく,平均像を導いた過去のデータがばらつきを有していることを踏まえて不確かさを適切に考慮し,充分保守的な断層モデルで適切に策定されている,

㋑ 大阪府北部地震は,想定しているFO-B~FO-A~熊川断層の震源域で発生した地震ではないから,経験的グリーン関数法に基づいた検討を行っているわけではなく,原告らは単に独自の手法に基づいて算定した結果をもとにして基準地震動は過小評価であると主張しているに過ぎず理由がない,

ということに絞られる。

(2) ㋐について

 この点の被告関西電力の主張の誤りは既に述べてきた。

 同被告の主張のとおりであれば,スケーリング則に合うM7.8の地震では基準地震動以下の地震動しか生じないはずである。この点,大阪北部地震(M6.1)もスケーリング則に合った地震であるから,これをスケーリング則によってM7.8にスケールアップしたとしてもやはりスケーリング則に合う地震であり,このようにしてスケーリング則に合う大阪北部地震(M7.8にスケールアップしたもの)と同様の地震が発生したとしても,基準地震動以下の地震動しか発生しないことになる。しかし,実際にはそうではない。原告第60準備書面で述べたとおり,基準地震動を超える地震動が生起されるのである。その理由は,スケーリング則そのものの性質や被告関西電力が減衰量(h)を過大に設定していること,震源特性・サイト特性によるものである(原告第67準備書面同70準備書面で詳述)。

 基準地震動が保守的ではなく,被告関西電力の主張が誤りであることはやはり明らかである。

(3) ㋑について

 被告関西電力は,原告らが経験的グリーン関数法に基づいていないと主張しているが,原告らは経験的グリーン関数法を用い,大阪府北部地震M6.1をスケーリング則に基づいてM7.8大阪府北部地震にスケールアップしているのであるから,前提からして誤っている。何ら「独自の手法に基づいて算定した」ものではない。その上で原告らは,このM7.8大阪府北部地震と同じ震動特性の地震がFO-B~FO-A~熊川断層で発生したとして大飯サイトの地震動を計算したのである。

 こうして計算した地震動が,被告関西電力の策定したレシピに従う「平均像」に保守性を持たせた基準地震動を超えるというのが原告第60準備書面の結論である。M7.8大阪府北部地震は,スケーリング則の「平均像」から何某かの「ずれ」を当然含んでいる(もちろん,「ずれ」を含むことは実際に発生した・発生するすべての地震に当てはまる。)が,この「ずれ」はスケーリング則のばらつきの範囲に収まっている(=大阪北部地震はスケーリング則に合っている。)。現に他の場所で起こった,そのようにスケーリング則に合う実際の地震が,大飯サイト近傍で発生したらどうなるかということを論証したのである。

 スケーリング則は,それぞれ異なる震源特性とグリーン関数(ある点に瞬間的に力を加えた場合の別な点の応答を関数で示したもの。経路の伝播特性とサイト特性の重畳。)を持った過去の地震をもとにした平均像である。スケーリング則にばらつきがあるのは,それら震源特性とグリーン関数に平均値からのずれが存するためである。このような過去の地震のスケーリング則に保守性を持たせた基準地震動が,他の場所で実際に起こったM7.8の地震の震源特性とグリーン関数の平均値からの「ずれ」を吸収できないのである。

 この関係は次式のように示される。被告関西電力が持たせたと主張している「保守性」では,実際の地震において生ずる平均像からのずれを吸収できない。「保守性」が不十分だからに他ならない。

[基準地震動]=[平均像]+[保守性]<[平均像]+[ずれ]=[実地震]

3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,この点に関する原告第60準備書面における原告らの主張に対し,具体的に反論していない。ただ従前の主張を繰り返すのみである。

 従前の主張と重複するが,改めて,

㋐ 微動のアレイ観測による観測結果の逆解析から直接導かれるインバージョンモデルから,厚さ80mにおよぶS波速度0.5km/sの第1層をカットしてP波速度4.6km/s,S波速度2.2km/sの第2層を解放基盤としたことについて,「被告は,ボーリング調査やPS検層によって地盤の状態を直接把握して,本件発電所敷地の浅部にS波速度約2.2km/sの堅硬な岩盤が広がっていることを確認し」た,

㋑ 敷地地盤の地震波減衰係数を標高-180mまで3%,それ以深を0.5%としたことを,引用文献と敷地での実験結果から合理的である,

とする点について述べる。

(2) ㋐について

 被告関西電力は,これまでは,大飯原発敷地浅部の速度について,PS検層,試掘坑における弾性波探査,反射法地震探査の屈折法解析結果の3つを示して主張していた。これらはいずれも原位置で直接測定されたものである。

 ところが,今回論拠として挙げたのはこのうちPS検層のみであり,新たに別途,ボーリング調査を論拠に挙げている。しかし,当該「ボーリング調査」の内実について具体的な主張・立証がなく,ただ結論を述べるのみであるから,これを認める余地はない。

 仮に岩質やRQDの値(被告準備書面(22)[4 MB]にあるもの)を指しているのであるとすると,既にこの点については述べている。むしろ,被告関西電力が行った調査の元データを通覧することにより,岩質が均質ではないことやP波速度が小さいこと,地下深部に低速度層が存在すること,RQDの値が「普通」以下に分類されることなどが明らかとなっているのである(原告第67準備書面甲510[2 MB])。

 上記のとおり,被告関西電力が今回その主張の論拠として挙げなかったものとして試掘坑における弾性波探査があるが,その結果であるとして被告関西電力は,「P波速度4.3km/s,S波速度2.2km/sと評価した」としている。しかし,この点も既に指摘したところであるが,被告関西電力の元資料に記載されている速度の算術平均値は,全体でS波は(2.141±0.335)km/s,3号炉側では(2.017±0.369)km/sとなっている。2.2km/sとの記載はない。また,P波速度については被告関西電力自ら4.3km/sという結果を示しながら,これらを無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのである。

 試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果について,被告関西電力は,「P波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」と規制委員会には報告している(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁[11 MB])。4.6km/sではない。3.0km/s~5.2km/sという大きな速度変化について,敷地に存在する断層破砕帯とそれに付随するシームの分布に依存して場所的に変化していることについては既に甲422[484 KB]で詳述したが,被告関西電力はこの点に関して何らの分析も行っておらず,検討不十分である。

 被告関西電力は,同被告が柔らかい表層部分を割愛したことを批判してきた原告らの主張に対し,同準備書面では,「最終的な地下構造モデル策定の際に柔らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在しない表層部分(各観測地点には存在する)を含んだインバージョン解析を実施した」と論調を変えつつもなお正当化しようとしている。

 改めて指摘するまでもないであろうが,原告らは,原子炉建屋の基盤表面にS波速度0.5km/sの柔らかい表層が存在していると主張しているのではない。

 既に述べたとおり,インバージョン解析で,解放基盤相当の第2層が標高-36.5mの深部に求まるという齟齬は,第2層の速度を実測値ではなく,それより大きい速度,すなわちP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sとしたために生じたものである。インバージョン解析では,計算機は与えられた拘束条件(速度値)の下で,観測された位相速度を説明するための最適解(層厚)を出す。拘束条件のS波速度は,第1層0.5km/s,第2層2.2km/s,第3層2.3km/sと第2層以下は0.1km/s刻みで増加させている。第2層以下は0.1km/sの増分であるのに,第1層から第2層へは1.7km/sもジャンプさせている。観測された位相速度は周期約0.65秒以下で1.4~2.0km/と2.0km/s以下であり,この小さい速度を説明するためには大きい速度の2.2km/s第2層を深くせざるを得ないのである。このように,軟らかい表層部分(第1層)を取り除くことを前提として第2層を2.2km/sとしたのは,建設時の設置許可申請における解放基盤の速度値2.2km/sを踏襲したためである。これこそが上記齟齬の原因である。

 本来は,柔らかい表層から解放基盤とする岩盤までの速度の増分を1.7km/sとジャンプさせるのではなく,細かく設定して原子炉建屋の立地する標高0m付近の速度値を求めなければならない。このことについては,既に甲422[484 KB]甲481[1 MB]及び本準備書面第1・3・(4)で詳述した。

(3) ㋑について

 この点についての被告関西電力の主張は,被告準備書面(22)[4 MB]・第3・4と同じであり,既に反論済みである。すなわち,原告らは,甲422[484 KB]で,例えば新潟平野の土質地盤の知見を大飯岩盤に流用していること,散乱減衰の理論を展開しながら散乱減衰の基本である周波数依存性について考慮していないことなどを指摘しているのである。しかし,被告関西電力はこれらに全く反論できていない。

 また,本来,土質地盤では岩盤よりも減衰が大きいのであるが,被告関西電力のモデルではなぜか逆に,大飯岩盤の減衰が,実測された大阪平野の土質地盤の減衰より1.5倍も大きくなっており,逆転しているのである(甲481[1 MB])。被告関西電力はこのことについても反論できていない。

以 上

◆原告第69準備書面 第1
被告関西電力準備書面(22)への反論

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

目 次

第1 被告関西電力準備書面(22)への反論

1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要
2 ①に関して
3 ②に関して
4 ③に関して


第1 被告関西電力準備書面(22)への反論


1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要

 準備書面(22)[4 MB]において被告関西電力は,以下の原告の主張(原告第56準備書面)について反論をしようとしている(22頁以下)。その反論はいずれも誤った理解・解釈によるものであり,特段新たに再反論することでもないが,念のためその主張の非合理性を指摘する。

① 地下構造モデル策定のために実施した反射法地震探査等の各調査に関し,その調査結果を恣意的に解釈し,速度の落ち込みや破砕帯の存在等を無視して解放基盤表面を設定した上で,本件発電所敷地内の地下構造が水平成層構造であると根拠なく評価しており,三次元地震探査は行っておらず,当該調査に関する被告の評価については原子力規制委員会において十分審査されていない。

② 観測位相速度が単調に増加していないにもかかわらず,理論位相速度が単調増加する速度構造モデルを根拠なく策定しており,また,インバージョンモデルから表層部分を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになる。

③ 地下構造モデル(地震動評価モデル)の第1層の減衰定数の設定方法等について,被告が具体的に説明していない。

2 ①に関して

(1) 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「地質調査により,本件発電所敷地の地下に,火成岩(深成岩)として硬岩に分類され,一般的な弾性波速度も軟岩と比して高く,岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認するとともに,物理探査により,かかる堅硬な岩盤の細部に若干の速度低下が認められる部分はあるものの,概ね深度に応じて速度が漸増しており,地震動を顕著に増幅させるような特異な構造も認められないことを確認したことから,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなしている。」(23~24頁)と主張しているところ,地質調査で「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したとして,原子炉建屋付近の「図表1地質断面図(地層区分)」と「図表4岩石の弾性波速度」を示している。

 該当部分は次のとおり。

《図省略》
「図表1地質断面図(地層区分)」

《図省略》
「図表4岩石の弾性波速度」の深成岩表示部分

(2) 岩盤を構成する岩石の種類と地層

 上記地質断面図において,下層の黄緑色表示のDsは輝緑岩,上層の桃色表示のQdは細粒石英閃緑岩とされ,被告関西電力は,図表4を示して「一般的な弾性波速度も,輝緑岩が約4.5km/s,細粒石英閃緑岩が約4.0km/s~約4.5km/s」であると説明し,下層ほど速度が大きくなっていると印象づけようとしている。

 しかし,被告関西電力のこの説明は正しくない。

 上記図表4は「物理探査ハンドブック増補改訂版」を引用したとしているが,その物理探査ハンドブックは,服部・杉本(1975)「岩石のP波伝播速度に関する統計的研究-Ⅰ」(甲513[1 MB])にさらに依拠している。そこで,原典の服部・杉本(1975)の元データを次に示す。

     平均値    最大  最小(km/s)
閃緑岩  4.35±0.16  5.85  2.64
輝緑岩  4.30±0.27  4.91  3.42
(甲513・6頁・表-2 P波速度の岩種別統計値より)

 被告関西電力は,原典の服部・杉本(1975)が閃緑岩について(4.35±0.16)km/sとしているのを4.0~4.5km/sと,輝緑岩について(4.30±0.27)km/sとしているのを4.5km/sと,いずれも正確に引用していない。むしろ恣意的「引用」というべきである。服部・杉本(1975)に基づき,被告関西電力のいうように「一般的な弾性波速度」で正しく説明するなら,同被告の主張とは逆に,下層の方が速度は小さいのである。

 また,図表1地質断面図(地層区分)において,細粒石英閃緑岩と輝緑岩の境界は,4号炉直下では標高-100~-120m,3号炉直下では標高-50~-70mと約50mの違いがある。断面図の縦横比は1:1であるので,地層は約20度以上傾斜していることになる。20度「以上」というのは,地質断面の測線C-C’が最大傾斜の方位とは限らないからである。

 被告関西電力の示す図表は,同被告の主張とは反対に,「地質調査の結果,地層に傾斜があり,下層ほど速度は小さい」ことを示している。

(3) 岩級分類による岩級

 被告関西電力は,「岩級区分もCM級以上に分類される堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっていることを確認」したと主張し(23頁),図表6を示している(18頁)。

《図省略》
【図表6地質断面図(岩級区分)】

 この図表6では,地表近くの一部と断層破砕帯に沿ったやや脆弱なCM級(黄色表示)の分布を除き,標高-200mの深部までCM級より堅硬なCH級(水色表示)が一様に広がっていると彩色表示されている。

 しかし,原告第67準備書面で詳述したとおり,被告関西電力が自ら行ったボーリング調査結果の元データは,標高約-300mの深さまでCM級とCH級とが交互に現われ,標高-270mの深部においても厚さ16mに及ぶCM層が存在すること,標高0~-150mの深さでは,CM層は全体の37%(約55m厚)に達すること,3・4号炉の北西側から,炉心直下,南東側へCM級以下の岩盤の割合が31.3%,33.1%,47.7%と系統的に増加し,岩盤が脆弱になっていること等を示している。「堅硬な岩盤が,著しい高低差がなく,ほぼ水平に広がっている」は事実ではない。そして,これらの点について規制委員会では議論がされていない。

(4) 物理探査結果の歪曲

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らの主張はいずれも,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず(自然の岩盤である以上,風化,変質,亀裂,節理及び破砕帯等が全く存在しない完全なる均質な岩盤など,存在し得ない。),被告の上記評価の合理性を何ら否定すべきものではない。なお,原告らは屈折法解析,単点微動観測,はぎとり法解析等の結果から,解放基盤表面のS波速度,P波速度の設定に問題があるとするが,既に被告準備書面(17)[6 MB]で述べたとおり,原告らはそれぞれの調査の目的を理解することなく,データを断片的に取り上げて,批判をしている。例えば,原告らは,はぎとり法解析について,独自の解釈をして,本件発電所の解放基盤表面のP波速度は4.6km/sにはならないと主張する(原告ら第56準備書面7~8頁)。しかし,上記のとおり,被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している。」(24頁)と主張する。

 これが物理探査結果を歪曲した虚偽の主張であること,原告は「データを断片的に取り上げて,批判している」のではなく,逆に被告関西電力が殆ど全てのデータを無視して地盤構造モデルを独自に恣意的に作り出していると批判していること,を明らかにする。

イ 反射法地震探査の屈折法解析

 被告関西電力は,「屈折法解析結果により,表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上となる」とし,追加のはぎとり法解析で「やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度であった」と報告している(丙196,57,60頁[10 MB])が,肝心の「やや深部」がどの程度の深さなのかは明示しようとしない。

 ところが,次図に示すように,3号炉,4号炉に近接する距離程800m付近の地表面の標高は30~40mであるから,「表層から50m程度」の深さ,すなわち,標高-20~-10mで速度は2.0~2.5km/sでしかなく,「4km/s以上」ではない。「表層から50m程度で弾性波速度4km/s以上」「やや深部…約4.5km/2程度」との被告関西電力の主張は,いずれも事実に反している。

 また,被告関西電力が自ら報告しているように,解放基盤とする建屋基礎岩盤では,「試掘坑内の平均速度法による弾性波試験結果は,第3.5.114図に示すようにP波速度は3.0km/s~5.2km/sで平均値4.3km/s,変動係数7.0%である」(丙178・添付書類六地盤構造に関する図面,6-3-128頁[11 MB])。被告関西電力は,この点をも無視して解放基盤(標高0m)の速度を4.6km/sとしているのであり,自己矛盾である。

《図省略》
反射法地震探査屈折法解析による速度断面
黄色破線:はぎとり法解析による最下層(Vp=4.5km/s層)の上面位置
(平成26年3月5日第89回審査会合資料3「大飯発電所の地盤モデルの評価について」57頁の一部を引用,加筆)

ウ PS検層結果

 被告関西電力は,「被告はPS検層等の結果により,敷地浅部の速度構造や原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に軟らかい表層部分が存在しないことを直接確認している」(24頁)と述べ,4本のボーリング孔におけるS波速度の分布図を提示して「ごく表層部において風化の影響等により,ややばらつきは見られるものの,ほぼ均質な地盤と考えられる。敷地内の浅部構造に特異な構造は見られない」(丙196・7頁[19 MB])として解放基盤のS波速度を2.2km/sとしている。

 しかし,4本のPS検層結果の内2本は建設前の技術レベルの低いダウンホール方式による結果であり,基準地震動の見直しのために実施したフローティング方式による結果は,次図に示すように,標高-60mまで2.0km/s未満であったり,標高-100~-120mに2.0km/sの低速度層があったりする。また,ボーリング孔の位置によって浅部の速度は大きく変化する。被告関西電力は建設前の信頼度の低いデータに固執して速度を大きく見せかけ,より信頼性の高い見直し調査の結果が示す小さい値を意図的に無視しているのである。

《図省略》
PS検層結果(甲442[484 KB]のa href=”https://nonukes-kyoto.net/wp/wp-content/uploads/2018/01/kou422_zu.pdf”>図1,2を引用。丙196・7頁[19 MB]より)

エ 単点微動観測の結果

 被告関西電力は,地下構造調査結果の可視化と称して反射法地震探査屈折法解析結果の速度断面に単点微動解析結果の速度構造境界の図を重ね,「屈折法によるP波速度断面と,単点微動データによる2層地盤推定結果は,概ね整合している」としている(丙196・58頁[10 MB])。該当頁を下に引用する。

《図省略》
屈折法によるP波速度断面と単点微動データによる2層地盤推定結果
丙196・58頁[10 MB]を引用,加筆)

 図には,標高0mの位置を水色直線で,原子炉建屋付近の位置を茶色楕円で示した。単点微動観測の第2層(紺色)上面は概ね標高0m付近にある。

 凡例に示されるように,この層のP波速度は3.7km/sである。P波速度断面図では,標高0m付近は黄色と黄緑色との境界付近,すなわちP波速度2.0~2.5km/sである。

 被告関西電力は,このように実際には1.5~1.9倍もの違いがあるのに,これを「概ね整合」と強弁し,しかも,基準地震動策定のための地盤モデルでは,そのいずれともかけ離れた値である4.6km/sを設定したのである。

オ 小括

 以上のとおり,原告は「データを断片的に取り上げて,批判をしている」のではなく,被告関西電力が調査結果の殆ど全てを無視し,解放基盤のP波速度を4.6km/s,S波速度を2.2km/sであると詐称し,基準地震動計算用の地盤モデルを堅硬であるように捏造していることを批判するのである。

 被告関西電力の準備書面(22)[4 MB]における反論は,まったく正鵠を射ていない。

(5) 反射法地震探査結果の恣意的表示

ア 被告関西電力の主張

 被告関西電力は,「原告らは,原子力発電所における地震動の増幅事例として,柏崎刈羽原子力発電所の事例を示している(原告ら第34準備書面11~21頁)。被告は,かかる原告らの主張を受け,被告準備書面(17)[6 MB]29~30頁において,本件発電所敷地には柏崎刈羽原子力発電所で見られるような特異な構造が認められない旨反論したところではあるが,この点の被告の評価について念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え,以下,この増幅事例と比較した本件発電所の地下構造に関する被告の評価を述べる」(24~25頁)として,柏崎刈羽原子力発電所と大飯原発の反射記録断面を示し,「反射法地震探査の結果を評価するにあたっては,以上のような特徴を考慮した上で,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝り(柏崎刈羽原子力発電所において見られるような大きな畝り)が存在するか否かに着目する必要がある。この点,本件発電所の反射法地震探査の結果に関して原告らが指摘する畝り等が,地震動を顕著に増幅させ得るような大きな畝りでないことは明らかであり,また,特定の場所に地震波を集中させ得るような特異な形状はなく,原告らの主張は,被告の主張に対する有意な反論ではない」(26頁)と主張している。

イ 反射断面図

 以下に両地点の反射断面図を引用する。柏崎刈羽原発の記録には赤線で褶曲が書き込まれ,一見して大飯原発サイトには柏崎刈羽のような大きなうねりは無いかのような印象を与えている。

 しかし,実は,図の縦横比が両者で大きく異なっている。前者は1:1,後者は1:4なのである。大飯の断面図の縦方向は1/4に縮められ,うねりは1/4に縮小して表示される。これでは対比は不可能である。

 そこで,次頁に,大飯サイトの測線A-Aの断面図を柏崎刈羽と同じく1:1にして示す。大飯サイトの地下構造のうねりは,柏崎刈羽サイトのそれにも増して顕著であることが明瞭に示されている。

ウ 被告関西電力が反論を避けていること

 被告関西電力は,反射法地震探査の専門家である物理探査学会元理事の田村八洲夫氏と同学会元会長の芦田譲京都大学名誉教授が「断層に特徴的な回折波が存在する」と指摘したこと(甲423[154 KB])に何ら回答していない。もちろん,規制委員会でもかかる「特徴的な解析波」については検討されていない。当該指摘には沈黙したまま,「念のため詳しく説明することが裁判所の理解に資すると考え」て,直接比較できない図を示し,間違った理解に誘導しようとしているのである。

《図省略》
大飯原発サイトの縦横比1:1にした反射断面(A-A’測線)
赤枠は田村八洲夫氏の指摘する回折波(甲423[154 KB]

3 ②に関して

(1) 被告関西電力の主張の概要

 被告関西電力は,地下構造モデルにつき,次の3点について反論をしようとしている。

ⓐ 地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非

ⓑ PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無

Ⓒ 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非

 ここに「位相速度の逆解析」とは,微動アレイ観測で求まった表面波の位相速度から一次元の速度構造モデルを推定することであり,実際の三次元構造に一次元の水平成層構造を強制的に押しつける計算手法であること,及び,計算に先立ち押しつける一次元モデルの許容範囲を初期条件として与えていること,すなわち,あらかじめ欲しい構造モデルを初期条件として与えていること,に注意する必要がある。前記の3点は,被告関西電力が,前もって欲しい構造となるように,観測事実を無視して初期条件を与えたことについての論争点である。

 次表は,被告関西電力が設定した逆解析における速度構造モデルの初期条件である。第1層~第16層のP波速度(Vp),S波速度(Vs),密度を与え,各層の厚さだけを探索して,モデルの理論位相速度と観測位相速度とがなるべく一致するように厚さを決める。第1層は土質地盤として解析結果から除外することを前提としており,第2層が解放基盤である。解放基盤の速度は,Vp=4.6km/s(表の4.8km/sは誤記),Vs=2.2km/sは基準地震動見直し前の地盤モデルの値を踏襲,第2層以下の速度値は0.1km/s刻みで単調に増加させている。

 このように単調に増加すると仮定することは正しいのであろうか。

《図省略》
位相速度の逆解析における初期条件(丙196[19 MB],106頁を引用)

(2) 一次元モデルとすること,および速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの是非(上記ⓐ

 被告関西電力は,「被告は,各調査結果を踏まえて,本件発電所敷地の地下構造を,地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し,かかる評価に基づき一次元の地下構造モデルを策定した。その上で,この地下構造モデルの理論位相速度を観測位相速度と比較したところ,両者が良く一致しており,策定した地下構造モデルが本件発電所の地盤の速度構造を精度良く評価していることが確認できた」と主張している(31頁)。

 しかし,原告第56準備書面で既に述べたように,全ての物理探査結果が共通して類似の傾向の速度値,物性値の場所による違いを示している。
すなわち,

(ア)PS検層結果における標高-60mまでのS波速度のボーリング位置による変化
(イ)試掘坑屈折法弾性波探査によるVp,Vsの3号炉近傍と4号炉近傍での違い
(ウ)試掘坑坑間弾性波探査(平均速度法)におけるVpの顕著な地域性
(エ)反射法地震探査反射断面にみられる地層のうねりと断層構造を示唆する回折波
(オ)反射法地震探査屈折法解析における低速度帯の顕著な落ち込み
(カ)単点微動観測(H/Vスペクトル)による基盤深さの地域性

など,全てが敷地に存在する断層破砕帯の分布に関連して類似の傾向を示しているのである。しかも,規制委員会の審査会合では,これらの調査結果の生データを示すだけで,詳細な分析結果に基づいた審査は行われていない。

 さらに,被告関西電力は,ボーリング孔における地質調査結果を引用して,断層破砕帯の存在には一切触れずに誤った解釈に導く作為的な図を提示し,地盤構造モデルの合理性を主張したのであるが,元データのボーリング柱状図は,

(キ)岩級区分,RQD,最大コア長の分布の地域性が上記物理探査の地域性と整合していること

を示しているにもかかわらず,これも隠蔽したままである。原発建設前にボーリング柱状図を作成しただけで,その分析を行わずに(あるいは,分析結果を隠蔽して)規制委員会の審査を終えている。

 被告関西電力は,「地震動評価上,水平成層構造とみなせると評価し」と主張しているが,全ての物理探査とボーリング孔地質調査が三次元不均質構造を示しているのであるから,それでもなお「地震動評価上,水平成層構造とみなせる」具体的で説得力のある根拠を示さなければならない。しかし,被告関西電力はその根拠を示していない。

 三次元構造の的確な把握の必要なことは論を待たないであろう。

 一次元モデルを策定する上で,速度が深さと共に単調に増加することを前提条件とすることの非合理性について述べる。

 被告関西電力は,「原告らは・・・,理論位相速度について,観測位相速度は単調に増加していない事実を無視しているなどと述べて,理論位相速度と観測位相速度が完全に一致しなければならないかの如く主張する。しかしながら,位相速度の観測は,自然現象を数値化するものである以上,実際の自然現象を完全に再現して数値化することなど不可能であり,観測に伴う若干の誤差が生じることは当然である」と主張して,低速度層の存在を示唆する観測データの「うねり」を,単なる観測誤差にすり替えようとしている。

 被告関西電力の観測データと逆解析結果を次図に引用する。

《図省略》
観測位相速度(赤点)とモデルによる位相速度(黒線)(丙196[19 MB],110頁)

 観測データ(赤点)とモデルによる理論曲線(黒線)とを比較すると,観測データは,単にばらついているのではなく,一定の傾向を示している。すなわち,周期0.7~2秒の範囲で理論曲線の周りにうねっているのであり,ランダムに散らばっているのではないのである。観測誤差であれば,真の値の周りにランダムに分布するはずである。観測値が周期の増加と共に単調に増加するのではなく「うねる」のは,速度の深さ分布に「うねり」があることを意味する。

 観測データの解析では,観測精度を誤差限界で示し,解析結果の信頼性を評価する。解析の手続きを踏まずに観測誤差であると「うねり」を無視することはしてはならない。被告関西電力は,観測データの「うねり」が逆解析の結果に反映しないようにするために,初期条件として速度の単調増加を与えたのである。

 前記(ア),(キ)の調査結果は低速度層の存在を明瞭に示している。観測された位相速度の「うねり」がこれら調査結果の低速度層に関係しないと主張するのであれば,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定しなければならない。逆解析に用いた山中(2007)のハイブリッドヒューリスティック探索は,速度値の探索も可能な解析方法であり,各層の速度値の探索範囲をオーバーラップして与えることで低速度層の探索が可能である。よって,逆解析で低速度層が検証できる初期条件を設定することは可能である。可能であるのに,あえて行っていない。

 被告関西電力は,調査結果を無視して低速度層が出ないように恣意的に地盤モデルを作成したということなのである。

 よって,各種物理探査の結果や「うねり」の存在,被告関西電力が具体的根拠を示していないことからして,地盤を一次元モデルで近似し,位相速度の逆解析において,速度が深さとともに単調に増加することを前提条件とすることは許されない。被告関西電力の置く前提は,誤りである。

(3) PS検層で検出された低速度層を地下構造モデルに組み入れる必要性の有無(上記ⓑ)

 被告関西電力は,「原告らは,PS検層の結果を取り上げて,被告の策定した地下構造モデルを批判するが,PS検層の結果については,上記2で述べたとおり,風化や変質を受け,あるいは亀裂,節理及び破砕帯等が存在する岩盤であれば存在し得る程度の細部における若干の速度低下を殊更に強調して指摘しているに過ぎず,被告は当該調査結果を丁寧に示しながら新規制基準への適合性に係る審査会合で被告の評価について説明し,原子力規制委員会も,被告の評価を適切であると認めている。原子力規制委員会もPS検層の結果に含まれる細部における若干の速度低下の存在等を認識した上で,地下構造モデル策定にあたって考慮する必要がない(被告の評価の合理性を否定すべき事情ではない)と認めている」と主張している。

 しかし,既に述べたように,被告関西電力は生データを示すのみで分析して議論していない。分析結果は,既に述べたとおり,01-11孔では標高-100~-130mの厚さ30mがVs=2.02km/sの逆転層(上層より下層が低速度)であり,01-3孔では標高-60mまでVs=1.92km/s以下であり,標高-30~-60mはVs=1.83km/sの逆転層である。これは「細部における若干の速度低下」などではなく,厚さ30mに及ぶボリュームを持った低速度層である。

 また10本のボーリング柱状図によれば,RQDの平均値は標高-125~-150mおよび-250m以深で低下しており,P波速度の低下を示している。

 かかる低速度層の存在を無視することは許されず,地下構造モデルに組み込まなければならない。これを等閑視する被告関西電力の主張は誤りである。

(4) 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件として解析することの是非(上記Ⓒ)

 被告関西電力は,「原告らは,インバージョンモデルから表層部分(層厚80m)を取り除いたS波速度2.2km/sの層はE.L.-36.5mであり,E.L.0mに設置される本件発電所の原子炉建屋はS波速度2.2km/sの層から36.5mも浮いて,S波速度0.5km/sの表層内に設置されていることになると主張する」(32頁)としているが,原告がこれを主張しているのではないから,前提からして誤っている。被告関西電力は,インバージョンモデルにおいて,層序とそれぞれの層厚,速度値,密度を提示するのみで,各層の標高を明示していないので,微動アレイ観測の観測点座標から計算される標高を第2層上面に付しただけである。

 被告関西電力の解析者は気づいているはずであるが,問題はなぜこのような齟齬を生ずるのかである。被告関西電力は32頁から35頁まで2頁半以上を費やして従来の論を繰り返し,最後に「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚が,本件発電所の原子炉建屋直下にも存在すると誤認した上で,観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行ったことによるものと推測される」と述べて,前記の齟齬を隠蔽してしまった。

 しかし,構造を正しく反映したモデルなら,「もともと取り除くことを前提に設けられた表層部分の層厚」は,地震計設置面と原子炉建屋設置面の標高差43.5mになり,表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面になるはずである。原告らに誤認はない。

 問題は,なぜ標高差43.5mにならなかったかである。この齟齬を来たした理由は明白で,初期条件として第1層Vp=2.0km/s,Vs=0.5km/sから第2層Vp=4.6km/s,Vs=2.2km/sへ速度値を大きくジャンプさせたからである。被告関西電力が調査した原子炉建屋付近の基盤の速度値を纏めると以下のとおりとなる。

試掘坑における屈折法地震探査:
   3号炉近傍Vp=(4.218±0.814)km/s,Vs=(2.017±0.369)km/s
   4号炉近傍Vp=(4.526±0.498)km/s,Vs=(2.239±0.273)km/s
試掘坑内坑間弾性波探査(平均速度法)
        Vp=(4.253±0.340)km/s3号炉側で特に低速度
反射法地震探査屈折法解析
   表層から50m程度P波速度は4km/s以上
反射法地震探査はぎとり法解析
   やや深部を伝わる平均的な最下層速度は,約4.5km/s程度

 初期条件で与えたVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sは,実測された速度値の最大値~最大値以上である。そのため,逆解析において,観測位相速度に合わせるために計算機は第1層の層厚を大きくせざるを得なかったのである。

 位相速度の逆解析において,解放基盤の速度をVp=4.6km/s,Vs=2.2km/sとすることを前提条件とすることは許されない。そのような前提条件は,恣意的な設定である。そのような恣意的な操作を行うのではなく,解放基盤の速度値を実測値に合わせた小さい値から探索すべきである。

 このことを簡単な計算例によって示す。

 下図に被告関西電力の地盤モデルS波速度の第3層までを赤線で示す。第1層0.5km/s,第⒉層2.2km/s,第3層2.3km/sで,第2層以下は0.1km/s刻みで増加する。第1層の厚さは80m,第2層の厚さは180mである。図の左側に標高値が目盛ってある。第1層の上面は簡単のために40mとしてある。原子炉建屋は標高0mであるので,第1層の中間に位置する。

 点線は,第1層は標高0mまで(層厚40m)の土質地盤であるとしてVs=0.32km/s,標高0mより下は岩盤であるとし,S波速度は1.0km/sから40m毎に0.4km/sずつ増加して標高-120mで2.2km/sになる速度モデルである。これ以下は被告関西電力のモデルと同じとして,位相速度を計算する。このモデルを速度漸増モデルと仮称する。

《図省略》
理論位相速度の比較条件(丙196[19 MB],104頁を引用、加筆)

 上図に計算結果を示す。赤線は被告関西電力のインバージョンモデル,黒点線が速度漸増モデルである。40m厚の土質地盤があり,標高0mから岩盤のS波速度が40m毎に0.4km/sづつ増加するという単純な(あるいは乱暴な)モデルでも,観測された位相速度をほぼ説明できることが分る。このモデルでは,第1層は土質地盤であるとして割愛すると,第2層岩盤の上面は標高0mになり,岩盤が原子炉建屋を支えることになる。

 このことから,次のことが指摘できる:

  • (これまで主張してきたことであるが,)インバージョン解析では,岩盤のS波速度の初期値は2.2km/s以下を設定しなければならない。
  • 標高0m以深では岩盤であるという条件では,S波速度は1km/s程度から漸増する。ボーリング孔におけるPS検層では,OI-3孔で1.17km/s,OI-11孔で1.57km/sが得られているが,これらの値と比べても,アレイ観測網内の解放基盤の平均値は大変小さいことが示唆される。
  • 観測された位相速度の信頼限界を吟味すること,その上でインバージョン解析をやり直し,他の観測量との整合性を検討する必要がある。

 次に被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」としているが,この主張は,微動アレイ観測による表面波の伝播様式と位相速度の性質および逆解析における仮定を理解していないことを示している。

 表面波はその波長と地表面の起伏の水平方向の大きさ(起伏の波長)との関係で,起伏に忠実に沿って進行し,あるいは起伏を乗り越えて進行する。波長が起伏の波長に比べて大きければ,起伏は平均化され,波は平面を進行するように振る舞う。平面の高さは起伏の平均の高さである。表示されている観測位相速度によれば,最短の周期0.5秒の速度は約1.4km/sである。従って,扱っている波の波長は約700m以上である。これは大飯原発サイトの地形の起伏に比べて充分大きい。表面波は原発サイトを平面として通過することになる。その平面の標高は観測アレイの地震計の標高の平均値である。

 被告関西電力は「仮定的な数値」としているが,表面波はこの高さを地表面と捉えて進行しているのである。さらに「実際には存在しない層厚を差し引くという仮定」と述べているが,計算機は初期条件で与えられた速度に合う層厚を算出したのであり,実際に存在する層厚が探索できる初期条件を与えなければならないのに,それをしていないのが被告関西電力である。「数値操作を行っ」ているのではなく,被告関西電力の与えた初期条件による解析結果を手を加えずに眺めているだけである。この初期条件による基準地震動計算用モデルでは,原子炉は解放基盤から36.5m宙に浮くことになるので,地盤を36.5m引き上げて,あるいは原子炉を36.5m引き下げて解放基盤に立地させた。

 また,被告関西電力は,「観測地点のE.L.の平均値という仮定的な数値から,実際には存在しない層厚を差し引くという仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」とも主張しているが,「観測地点のE.L.の平均値」は微動アレイ観測における基準面であり,「仮定的な数値」ではなく,インバージョン解析における深さ方向の座標原点である。また「実際には存在しない層厚」とするが,それは,原子炉建屋には存在しないが微動アレイ観測網内の平均構造として現実に存在する。表層の層厚が80mであったから「実際には存在しない層厚」と主張しているようであるが,43.5mであっても原子炉建屋付近には「実際には存在しない」が,前記ウの計算例で示したように微動アレイ観測網内には実際に存在するのである。43.5mであれば表層を取り除いた第2層が原子炉建屋設置面となって,インバージョン解析の結果は正しく構造を反映していることになるが,その場合も「仮定に仮定を重ねた数値操作を行った」と批判するのであろうか。

 なお,被告関西電力は,「主に敷地深部の地下構造を把握する目的で微動アレイ観測を実施した」と述べて,「本件発電所の基準地震動は解放基盤表面における地震動を策定するものであるから,その地下構造モデルの策定にあたっては,軟らかい表層部分が存在しない地下構造モデルを策定する必要がある。そのため・・・・最終的な地下構造モデル策定の際に軟らかい表層部分(層厚80m)を取り除くことを当然の前提として,原子炉建屋直下では解放基盤表面の上に存在していない表層部分(各観測地点には存在する。)を含んだインバージョン解析を実施した」(33頁)としている。

 しかし,これも逆解析結果の意味を理解していないことを示している。逆解析で探索したのは各層の厚さである。各層の深さは第1層からの層厚を加算したものであり,原点は地表面(地震計設置面)である。第1層80mを除くと第2層以下深部に至るまで各層の深さが変わり,基準地震動計算における地震基盤面が変化してしまう。これでは,深部の地下構造を把握したことにならない。


4 ③に関して

 被告関西電力は,地盤の減衰特性について,従前の主張と同じく(例えば,丙179号証,27頁[18 MB]丙314[5 MB]丙315[2 MB]を引用して,減衰定数3%の設定が妥当であると繰り返している(35~36頁)。

 これについては既に甲第422号証[484 KB](4,18~20頁,26頁)で問題点を指摘し,原告第56準備書面では批判の上で被告関西電力から具体的な反論のないことを述べた(11~12頁)。今回の書面においても,新たな具体的な反論は皆無である。

◆原告第69準備書面 目次
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

原告第69準備書面
-被告関西電力準備書面(22)(23)に対する反論-

2020年2月26日

原告提出の第69準備書面[2 MB]

目 次

第1 被告関西電力準備書面(22)への反論
1 被告関西電力が反論しようとしている原告らの主張の概要
2 ①に関して
3 ②に関して
4 ③に関して

第2 被告関西電力準備書面(23)への反論 
1 被告関西電力の主張の概要
2 2018年の大阪北部地震について
3 被告関西電力の地下構造モデルに関する原告らの主張について

◆関電と原発 memo No.12–大飯原発に近い活断層

大飯原発に近い活断層
Fo-B断層、Fo-A断層、熊川断層、上林川断層

◆大飯原発から30km以内の海域には、Fo-B(エフオービー)、Fo-A(エフオーエイ)、Fo-C(エフオーシー)断層が、陸域には熊川(くまがわ)断層、上林川(かんばやしがわ)断層などがある。若狭湾 一体は、活断層だらけ。

◆これらの断層のうち、関西電力が当初、連動の可能性があるとしていたのはFo-B断層とFo-A断層だけ(約35㎞)。その結果、基準地震動は700ガルとされた。

◆これに、熊川断層を加えて3つの活断層の連動を考慮すれば(約60㎞)→基準地震動は1、260ガルを超える(石橋克彦氏)という計算もある。しかし関電は規制委の指示で3連動=856ガルの基準地震動を設定し了承された。

◆地震はまったく予測ができない。基準地震動をこえる地震がないとは言えない。兵庫県南部地震のように離れた断層が連動して動いたり、福岡県西方沖地震のように既存の活断層の延長上に地震が起こることもある。

◆また、「Fo-B断層、Fo-A断層、熊川断層」とほぼ直角の角度をなしている上林川断層は、前者の3つの断層に対して共役(きょうやく)断層となっている可能性がある。さらに、上林川断層は、原発から遠ざかる綾部の方には伸ばされたりしているが、なぜか福井県に入ると断層が消えてしまう。

◆共役断層…地殻に水平方向の同じ圧縮(または引っ張り)力が働いたとき、互いに断層面が直交し、ずれの向きが逆向きになる断層のセット。共役断層がある場合、どちらの断層が動くか、すなわち、どちらで地震が起こるか、まったく分からない。

◆活断層カッター…例えば20kmの長さの活断層が見つかった場合に、それを3つにカットして審査に通る長さにしてしまう御用学者のこと。こうすれば、地震の規模が小さくなるので、原発を建設したい国の審査を通ってしまう。“活断層カッター”が関与して活断層を過小評価されたあげくに建てられた原発は、日本国中にあるという。大飯原発もその1つとされる。
→「世の中の不思議をHardThinkします


▲この図ではFo-AとFo-Bの2連動だが、その後、熊川を含む3連動に。


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関西電力大飯原発3、4号機
2017年5月、規制委は新規制基準に適合の
審査書を確定

◆原子力規制委員会は2017年5月、関西電力大飯原発3、4号機(福井県おおい町)が新規制基準に適合しているとする審査書を確定し、設置変更を許可。大飯原発をめぐっては、規制委の前委員長代理の島崎邦彦東京大学名誉教授が裁判や学会などで、想定される地震の揺れ(基準地震動)が過小評価されていると指摘しているが、規制委は見直しを拒否。

◆関電は大飯原発の基準地震動を856ガルとし、規制委も了承。

◆島崎氏が2016年4月の熊本地震を検証したなかで、規制委が認めた算出方法では基準地震動が過小評価になると指摘した点については、規制委は現在の方法でも過小評価の問題はないと反論し、島崎氏の主張を採用せず。

◆その結果、原子力規制委員会による大飯原発3、4号機の設置変更許可が認められ、関西電力の原発は、すべての再稼働が許可された。
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島崎邦彦氏は 大飯原発の 基準地震動の 見直しを 主張
内陸地殻内地震に関する島崎邦彦氏の指摘

(「原子力市民委員会特別レポート5」より)

◆設計基準地震動の設定が、耐震安全設計の出発点である。新規制基準に従って各電力会社が設定し、規制委が承認した設計基準地震動の大きさについて、地震学の専門家から過小評価になっている可能性の指摘がなされている。

◆社会的に大きな注目を受けている指摘として、地震学者の島崎邦彦・東京大学名誉教授(前・原子力規制委員会委員長代理)が 2015 年に複数の学会(日本地球惑星科学連合大会、日本地震学会、日本活断層学会)において、断層モデルをもとに震源の大きさを推定する際に各電力会社が使用している入倉・三宅式は過小評価をもたらす可能性があるので不適切であることを発表した。2016 年 6 月には、そのことが同年4月に発生した熊本地震のデータで裏付けられたことを論文発表した。また名古屋高裁金沢支部での大飯原発3、4号機運転差止め訴訟控訴審に、そのことを論じる意見陳述書を提出した。

◆規制委は以前に委員長代理を務めたことのある島崎氏の指摘を無視できなくなり、2016年6月に田中俊一委員長らは島崎氏からの意見聴取を公開の場で行った。

◆しかし、規制委は7月27日の定例会合で「現時点で大飯原発の基準地震動を見直す必要はない」と結論づけた。島崎氏が提案した政府の地震調査研究推進本部・地震調査委員会の資料に記載されている別の計算式を使った評価については、原発に対して「今まで使ったことがない」(櫻田道夫・原子力規制庁原子力規制部長)ことを理由に、基準地震動の検証を実施しない考えを示した。この規制委の決定に関して、島崎氏は異議を唱えている。

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同時多発事故、避難計画やその実効性は審査されず

◆若狭湾周辺は、廃炉中も含め15基もの原発がひしめく“原発銀座”。しかし、規制委の審査は、それぞれの原発での重大事故対策のみ。集中立地で、地震などの災害で同時に複数の原発で事故が起きた場合の検討はされていない。

◆また、大飯原発の30km圏は3府県にまたがり、住民の避難計画の実行は困難と指摘されている。さらに、複数の原発で同時に事故が起きれば、避難は一層困難になる。しかし避難計画やその実効性については、規制委の審査の対象外。
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◆関電と原発 memo No.11–大飯原発のF-6断層

2012年の大飯原発再稼働のとき
「活断層か地滑りか」問題となった「F-6断層」とは

◆関西電力の大飯原発(福井県おおい町)の3号機と2号機の間を、斜めに横切る断層がある。(以下、「週刊朝日 2012年7月27日号)

・「F-6」と呼ばれるこの断層が、いまや大きくクローズアップされている。「活断層である可能性を否定できない」として、複数の専門家が再調査を求めている。ところが、国や関西電力がこれに応じていない。F-6断層の具体的な危険性を訴えるのは、東洋大学の渡辺満久教授(変動地形学)。「もし地震で地盤がズレて、非常用取水路が破損すれば、緊急時に原子炉を冷却できなくなるおそれがあります」。

・白か黒か。決着をつけるには、写真や図面をもとに考えるのは時間の無駄で、「掘って確認すればいい」と渡辺教授は言う。「保安院は関電に写真を出せなどと言っていますが、色の具合とか、余計な情報に引きずられることがあるので、写真で活断層かどうかを確認してはいけないのは我々の常識です。専門家がこの目で見ればはっきりする。その結果、活断層でないとわかったら、それはそれで安心できるじゃないですか」(渡辺教授)

◆そして、実際に調査が行われた。その結果、委員の誰一人として明確に「F-6破砕帯は活断層ではない」と断定していない。地滑り説に固執した岡田教授ですら「現時点で活断層とみなすことはできない。幅広い識者で再検討すべきだ」と言っている。しかし、規制委は、大飯原発の再稼働を認めてしまった。

◆こうした状況で重要なのは、グレーやクロが完全に否定されるまで、安全側に立って、原発を停止させておくのが、原子力規制委員会の仕事ではないか。

◆安全側に立てば、大飯原発の再稼働は認められなかったはず。

◆大飯原発では、重要施設の一つである非常用取水路の下を横切っているF-6断層が活断層と認定されれば、大規模な改造を余儀なくされ、当面は運転が認められなかったはず。関電が電力不足を声高に言い立て、計画停電をほのめかすなど、政府、電力会社は、大飯原発の再稼働に躍起になっていた状況もみておく必要がある。大飯原発では、下図のように、他にも「破砕帯」とされる断層は多い。


◆以下、大飯原発差止訴訟[京都地裁]での原告側の主張。竹本修三原告団長は、活断層が見いだされていない所でも大きな地震は起こるとして、活断層かどうか議論しても意味がないと陳述している。

大飯原発差止訴訟[京都地裁]第4回口頭弁論

(2014年5月21日)

裁判官の交代に伴う弁論の更新で
「F-6破砕帯」に関する
竹本修三 原告団長 による意見陳述

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既存の活断層だけを問題視していては危険

 8.……原子力規制委員会は大飯原発敷地内の重要施設の直下を通る「F-6破砕帯」が活断層であるかどうかに焦点を絞って検討をすすめ、「活断層ではない」との結論を出しました。

 9.しかしこれも空しい議論です。つまり、

  • 活断層の認定は、専門家(と言われる人々)の間でも議論が分かれていて、そう簡単ではない。
  • 鳥取県西部地震(M7.3)や福岡県西方沖地震(M7.0)のように、事前に活断層が見出されていないところでもM7クラスの地震が起きている。
  • 同じ活断層で地震が起きたとしても、前回の地震と全く同じ断層面で割れるとは限らない。断層面の傾きが数度違えば、地表に現れる断層は別のところに顔を出す。

ということです。

 10.同じ震源から破壊が進行しても、その時々の地殻の三次元的な応力状態により、圧縮軸の方向がわずかに違えば、地震断層は地表の別の場所に顔を出します。従って原発敷地内にある破砕帯が活断層かどうかと議論してもあまり意味はないと思います。
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◆関電と原発 memo No.10–老朽原発どうして危険?

老朽原発うごかすな!
老朽原発どうして危険?

◆原子炉が割れてしまう!中性子照射脆化

  • 中性子が当たることによって金属=鋼鉄がもろくなること(脆化、ぜいか)。
  • 原子炉容器がパリンと割れてしまう可能性。
  • おおむね1970年代に運転開始の原発は、鋼材中に銅やリンの成分が多いので、照射脆化の進行が速い。
  • 中性子照射脆化の進行…脆性(ぜいせい)遷移(せんい)温度ではかる。
  • 脆性遷移温度…金属が温度低下によって延性(粘り強さ)を失い、脆性(もろさ)が現れる温度。
  • 一般にマイナス20℃くらいまでは大丈夫な鋼が、お風呂につけたくらいの温度40℃で割れてしまっては危険。
  • なお、原発で沸かすお湯の温度は300℃くらい。基準地震動をこえる地震などで緊急炉心冷却装置が働いた場合、冷たい水が投入されて原子炉の鋼の温度が下がったとき、どうなるか。
  • 名古屋地裁の「老朽原発40年廃炉訴訟」で、原告側は、中性子照射脆化をはかった元データを出すように求めているが、国や関電はこれを拒否。

中性子照射脆化の著しい(=とくに危険な)
原発ワーストテンは
廃炉原発6基を除けば
関電の原発ばかり4基!
その4基のうち3基が40年超えの老朽原発


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関電どうかしてる、金だけ!今だけ!自分だけ!
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【ワーストテン】
(1) 高浜1…脆性遷移温度99℃(試験時期:2009)。99℃より低温になると、割れる可能性。
(2)~(5)廃炉(玄海1、美浜2、美浜1、大飯2)
(6) 高浜4…脆性遷移温度59℃(試験時期:2010)。現在、稼働中 !!!(>_<)!!!
(7) 美浜3…脆性遷移温度57℃(試験時期:2011)
(8)~(9)廃炉(敦賀1、福島1)
(10) 高浜2…脆性遷移温度40℃(試験時期:2010)

(『原発はどのように壊れるか 金属の基本から考える』 小岩昌宏・井野博満 著)

◆検査の限界

・原発は巨大かつ複雑…経年劣化した、金属、機器、配管、ケーブルの検査は容易でない。
・100万kW級原発(大飯原発や高浜原発)の物量
・ケーブルの長さ…1、700km。ケーブルの劣化は制御不能につながる。
・溶接個所…65、000個所。溶接不良の可能性。応力腐食割れの発生。
・配管…170km、10、000トン。金属疲労、腐食、減肉(肉厚減)の発生。
・モーター…1、300台
・弁…30、000台
・ポンプ…360台

・規制委も接近できる範囲のみに容認…加圧水型(関電の原発)の格納容器は「接近できる全検査可能範囲」を検査すれば良い。
・圧力容器などのひび割れ対策…超音波検査がおこなわれる。
しかし、検査しても、その判定は技術者の技量や主観に左右される。

◆致命的弱点の蒸気発生器でトラブル続き

・高浜原発では、稼働中の3号機と4号機で蒸気発生器細管の損傷事故が続いている。2018年9月に3号機で1本、2019年10月には4号機で計5本、2月18日には、3号機の3台の蒸気発生器のうち2台からそれぞれ1本の細管で外側部分が削れたとみられることが確認された。しかし、原因は不明のまま。老朽原発で大丈夫か!

・福島第一原発のような沸騰水型原発(BWR)では、原子炉が冷却できなくなってから3~4時間後にメルトダウンが始まるのに対して、高浜原発や大飯原発のような加圧水型原発(PWR)では、原子炉が冷却できなくなってから22分後にメルトダウンが始まる。

・それは加圧水型原発が、高温高圧の蒸気を利用しているため。高温高圧の蒸気が通っているのが、蒸気発生器の細管。沸騰水型では280~290℃、70気圧で運転するが、加圧水型では340℃以上と高く、圧力が2倍以上の150気圧で運転されているので、蒸気発生器の細管が破断すると一次冷却水が一気に漏れ、メルトダウンにつながる。

*蒸気発生器の細管は、1本の直径がおよそ2cm、全長約20m、肉厚はわずか1.3mm。高浜原発には蒸気発生器が3器あって、その細管は合計で1万本をこえる。

◆関電と原発 memo No.9–1973年にはじまった伊方原発訴訟とは

1973年にはじまった伊方原発訴訟とは

『関西電力と原発』より
(うずみ火編集部、西日本出版社2014年、巻末資料を一部編集)

提訴から最高裁での敗訴確定まで

◆伊方原発訴訟は、四国電力が建設を計画していた伊方原発(愛媛県)の安全性をめぐって争われた行政訴訟で、原発の科学技術的問題が議論された日本初の「科学訴訟」と言われ、原発について初めて触れた訴訟、そして実は、「原発の安全性」が全面的に問題とされた訴訟としては世界で初めてのものだった。日本の電力会社が商業用原子炉の建設に本格的に着手して間もない73年8月、伊方原発1号機の原子炉設置許可処分の取り消しを求めた周辺住民35人が松山地方裁判所に提訴した。住民側は、設置許可の際に原子炉等規制法に基づいて行われた国の安全審査が不十分だと訴え、行政処分の取消しを求めたのである。

◆78年4月、一審の松山地方裁判所は請求棄却判決を出し、同時に原発建設の決定権は国に属するとの判断が下された。原告は高松高等裁判所に控訴したが、84年12月に控訴は棄却された。さらに、原告は最高裁判所に上告をしたが、92年10月、上告は棄却され原告敗訴が確定した。

伊方原発訴訟の判決

◆伊方原発訴訟について、海老澤徹(「熊取六人組」の一人)は「福島第一原発をはじめとした軽水炉が抱える科学技術的問題点は、裁判を通じて当時既にほとんどすべてが明らかにされていた。しかも、原告側の指摘に対して被告側はまともな反論ができず、法廷ではほぼ論破されていたと思う」と振り返る。
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裁判の判決自体も非常にいい加減な形で下されていた。証人尋問終了後、判決前の不可解な裁判長交代があり、交代した裁判官は1度も法廷に姿を見せず体調不良ということで更に別の裁判官に交代し、3人目の裁判官が判決を下している。
 ーー
専門的な科学論争が行われた訴訟の判決を、事実審理を担当しなかった裁判官が国側の主張を引き写して判決文を書いたのだった。
└─────────────────────────────────
◆また、裁判における住民側の主張には
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「潜在的危険性があまりにも大きく、重大事故は人々の健康と環境に取り返しのつかない被害をもたらす」
「被曝労働という命を削るような労働:労働そのものの中に差別的な構造を内包」
「平常時でも一定の放射能を環境中に放出し、環境汚染と健康被害の可能性」
「放射性廃棄物の処分の見通しが立っていない」
「核燃料サイクルの要、プルトニウムは毒性があまりにも強く、核兵器拡散をもたらす」
「原子力推進のため、情報の統制が進み、社会そのものの表現の自由が失われる」
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など、今日まで未解決となっている原発をめぐる本質的な問題も網羅されていた。

安全審査の資料は秘密で裁判所にも提出せず

◆伊方原発の安全審査がなされた当時、原子炉設置の許可手続きにおける様々な検討は、主に原子力委員会に設置された原子炉安全専門審査会(以下、審査会)が行っていた。審査会は申請者(電力会社)によって提出されている施設の位置や構造、設備の基本設計や技術仕様などの資料をもとにして、原子炉の安全に関する調査審議をすることとなっている。そして、それらの資料は原則的に公開されない。伊方原発訴訟に限らず、原発訴訟において原告は、許可の違法性や原子炉の危険性を立証しなければならないが、審査に関する資料のほとんどを被告(国や電力会社)が持っているわけだ。
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伊方原発訴訟では、原告側が情報開示を求めた資料のうち、裁判所が文書提出命命を出した一部の資料ですら、被告は最後まで「企業秘密」を理田に提出をしなかった。
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原告は国の主張をことごとく論破したが

◆にもかかわらず、「熊取六人組」をはじめとした原告側の科学者たちは、国の主張をことごとく論破した。川野眞治(「熊取六人組」の一人)はその一例として
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「炉心溶融をしないという国の主張に対し、審査委員の一人である東大教授は裁判で、自身の教科書で炉心溶融について生々しい記述をしていることを指摘されると、しどろもどろになって『自分の教科書は間違っている』と述べた」
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という事実を挙げる。裁判でそのようなやり取りが続いたにもかかわらず、
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判決を下した裁判長は、炉心溶融について国が想定していなかったにもかかわらず、「安全審査において炉心溶融に至るまでの想定はしている」という前提を示すなどして、原告敗訴の判決を下したのであった。
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炉心溶融による事故も指摘していた

◆裁判ではのちに福島第一原発で現実に起こった一次冷却材喪失事故についても議論されたが、国側は「炉心は溶融しないが、全炉心が溶融したのに相当する放射能が格納容器中に放出される。しかし、格納容器は健全に保たれ外部にはほとんど放射能は出ない」などとしていた。溶融しない理由は「緊急炉心冷却装置(ECCS)が設計通りに働くから問題はない」と主張したが、当時、ECCSは実証が一度もされていなかった。

◆不十分な研究、未解明な部分が多かった当時の楽観論で、住民側の訴えは退けられてしまった。
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原告は、冷却に失敗すれば炉心溶融が起こり、絡納容器の気密が破壊され莫大な量の放射能が環境に放出するのを避けられないと主張していた。つまり、福島第一原発事故で起こったシナリオはすでに伊方原発訴訟で原告がはっきりと指摘していたのであった。
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